●見るからに 棘棘の球である。 抱え切れない程のサイズまで膨らんだ『それ』は全身に鋭い棘を備えていた。 まるでそれは突き刺さった武具のようだ。 練達の職人が鋭く、鋭く鍛え上げた剣か槍のようである。 無数とも言える鋭い突起は茶色がかった硬質の煌きを十月の日に跳ね返している。 一目をもって分かるその禍々しいフォルムは一度それが転がり始めればどれだけの殺戮と危険を撒き散らすかを何よりも分かり易く主張しているかのようだ。 おおおおおお……! 穏やかな昼下がりの山林を異形なるものの『音』が揺らす。 まるで動物めいた姿をしていないのに『音』は獣の吠え声のようだった。 魂を、底から寒からしめる凶獣の。 常識を、人間を踏み潰す――圧倒的な上位としての、存在感。 恐るべき棘の固まりは無明の悲劇を望んでいる。 焔の中で朽ちた無数の同胞の無念を晴らすべく。 王としての矜持に慟哭し、王なる身が動き出す事に歓喜した―― ――それは、栗。でかい、栗。 ●討伐依頼 「……真っ赤に燃え盛ったあの夏も過ぎ去り、季節はすっかり秋。 熱いビーチに遊んだ君の幻影(かげ)も今は過去、何時だって十月は俺の胸を締め付ける……」 「仕事しろよ」 両目を閉じて身振り手振りで大仰に。全力でポエる『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)にリベリスタは冷淡なツッコミを加えざるを得なかった。 何時もと同じブリーフィングルームでの出来事である。この場所にリベリスタが呼び出される時、それは即ち何らかの仕事が入った時が大半だ。 「今日の仕事は色付くオータムにソリッドなペインを添える困ったキングの始末だぜ」 「何故お前はデカイ栗のエリューションが暴れてるから何とかしろと言えんのだ」 「フフ。これも季節(シーズン)の悪戯(ミューズ)かな。 サマーソウルも悪くは無いが、このオータムにディスティニーを紡ぐのもNOBUの流儀」 「……」 リベリスタはトランスする伸暁に何かを言う事を早々に諦めた。 唯、疲れた顔で情報を引き出そうと努力する。 「どんな相手だ」 「デカイ栗。誇り高い栗。見ての通り棘だらけだからそういう相手。 近接攻撃を仕掛ければ反撃の痛みが待ってるよ。見ての通りのエリューションだからね。体当たりを食らえば無事には済まないし、棘を飛ばしてくる事もある。 攻撃が致命傷になりやすいのが特徴だ。見た目程ジョークじゃないから気をつけな」 「真面目に言えるじゃないか」 「俺は何時だってクールなのさ」 嘯いた伸暁にリベリスタは苦笑した。 何処まで本気か分からないフォーチュナはそんな彼に一言最後に言葉を添える。 「或る意味、見た目通りだから。 倒せば食べれるらしいよ、それ。エリューションを食う事に抵抗がないならそれはそれは極上の甘い甘い栗らしい。気が向いたら――試してみたら?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月23日(日)22:32 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●くり。 人も物事も必ずしも見た目には拠らないとは言うものの、世の中には『見た目に拠る』出来事も存在も数多い。 まず人間の状況把握、認識の大半を占めるという『視覚』による情報取得は僅かな例外を除けば大抵一定の信頼が寄せられるものだ。 見えているモノが全てでは無い。さりとて、見えているものが必ず虚像であるとも限らない。 見えている以上、それは多くの場合『そういう』もので、僅かな反例を殊更に有り難がるのもまた少し違うと言うか、何と言うか。 ――閑話休題。 「ちょっと前まで暖かかった気がしていたのに……もう、すっかり秋です……ね」 『手足が一緒に前に出る』ミミ・レリエン(BNE002800)の視界に広がる世界はすっかり時期相応のものに変わっている。 世界でも指折りに『四季』で移り変わる日本の風景は古くより多く風流人が詠んだ通りに格別の変化を見せるものだ。 秋めいた彩に色付く十月の山。少し肌寒い位の外気の中、澄み渡る晴天の下を歩けばそれは心地良い時間になる。 しかして年齢も年恰好も様々な――恐ろしく統一感の無い集団。十四人からなるリベリスタ達が今日この場所を訪れたのは秋のお楽しみ、そんな行楽の為では無かった。 「戦うのはまだ慣れないけど……今回ばかりは退けないね」 静謐に決意を込めて『灰の境界』氷夜 天(BNE002472)が呟いた。 『それ』の存在は穏やかなこの世界に明らかにそぐわない。 「思った以上にでっかいのです!」 「うわぁ……話には聞いてたでござるが……すごい威圧感でござるなあ……!」 果たして『それ』を目の当たりにした『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)と『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)の声に混じる感嘆の色が示すその通りに。格別の存在感を以って王はそこに鎮座していた。 良く見慣れた――しかし見慣れないそのフォルムはそあらを、虎鐵を感心させ、呆れさせた露骨なまでの異物であった。 「何故ならっ、栗は秋のマロン……っ! もとい、秋の浪漫だからだ……っ!」 明らかに審議中の札が上がりそうな発言と共に見栄を切った天は仲間達と同じように長い山登りの果てに合間見えた今日の敵を見据えていた。 「やはり、色々と美味しい物は有りますが……栗は欠かせません、ね。 今回の敵は、美味しくて、大きいけど……人に襲い掛かる。 綺麗な薔薇には棘が有る、という事でしょうか……?」 そう彼等がこの場所を訪れたのはミミが誰に言うともなしに呟いたその通り。三千世界の平穏を侵す異界の神秘――此の世の虫食いたるエリューションを打倒する為であった。リベリスタとしての基本とも言うべき務めが向いた先は今日、唯只管でっかい暴れる栗だったというだけの話。 「秋の味覚の……一つ……栗が…巨大化。食べ甲斐が……ある?」 小首を傾げ、茫洋と呟くのはエリス・トワイニング(BNE002382)。 「……甘味が食いたきゃ血ィ流せってか。容赦ないねぇ」 溜息混じりにごちたのは外見には似合わない年嵩の『白夜を劈く』雷鳥・タヴリチェスキー(BNE000552)である。 慣れないと言えば慣れない登山の時間にトレッキングシューズを履いた両足を軽くぶらぶらと揺らしている。 一方で文字通り『食べ切れない程のサイズ凶器』にテンションを上げるのは『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)である。 「オータムなディスティニーはデリシャスキング、ということですね! 倒したらご褒美があるのは、嬉しいですっ!」 事件の訪れを彼女等に告げたフォーチュナのノリを引きずったかのような少女の言葉は要領を得ない割に変に的を射ていた。 「実りの秋とは言うけれど、ここまで行くと悪い夢ね」 「あんな大きいのとても入らないよ!」 「早速、栗を食べ……じゃなくて、とげとげエリューションを倒しましょう!」 目の当たりにした栗の大きさに些かげんなりした『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)、雷鳥の言葉に構わず、ななせは元気良く拳を握った。 フォーチュナは言った。それはエリューションながらにして栗であると。栗にしてエリューションであると。 その味わいは大味な見た目に異なり繊細かつ濃厚で兎に角何処の最高級品と比べてもひけをとらない素晴らしいであると。 見た目にその美味を表さないそれだから雷鳥の言い分も分かるが、ななせの期待も当然の事である。 「わわ、おっきな栗だなぁ……焼いて食べるのにも一苦労しそう!」 怯まない――むしろ挑みたくもなるのは『angel's knight』ヴァージニア・ガウェイン(BNE002682)も同じ事で。 「……できたらボクも栗食べたいなあ、なんて」 この反応の差は生来持って生まれた快活さに加え、或いは若さと体力の為せる業なのかも知れないが。 「ここにキングと呼ばれる栗があった。 薔薇が自分の美しさを守るために棘を持つように、美味しい自分を守るために強くなったのね、きっと。 強ければ強いほど――おいしいに決まってる。ううん、知らないけど絶対そう」 少なくともその瞳をきらきらと輝かせる少女――『深層に眠るアストラルの猫』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)にとっては栗のそのサイズも余りにも暴力的なシルエットも障害足り得ないのは確かだった。 「甘味、甘味もいいけどよォ」 一方でやや獰猛に歯をむき出すように笑ったのは『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)その人である。 「ペインキング、痛みの王だろ? そりゃ名乗りにしちゃちょっと御立派過ぎねェか?」 雷帝としちゃ黙ってらんねェぜ。競おうじゃねェか、どっちが本物のトップか。 手前ェの棘が勝つか、俺様の刃が勝つかをよォ!」 確かに仕事の後のお楽しみはさて置いて。目の前の栗はその愉快なフォルム程は温い相手では無い。 「ああ。球状の形質に刺付き、これが戦闘を行う意思を持つならこれ以上に無い究極の形なのだろう。 だが、刀は通りダメージは通る。単純な暴力は単純な暴力によって捻じ伏せられる。つまり勝てない相手では無い」 自身を討つ為に現れたリベリスタ達――アッシュに応えるように呟いた『鬼雉子』雉子川 夜見(BNE002957)の姿を認めてか、鈍重にして危険なる刃の球形が下生えを削り取るように動き出した。 その刃は波の剣より切れるのだろう。その棘は半端な槍の比ではないのだろうが――それでも。 「援護は潤沢……安心して戦えるな。じゃ、大人しく俺達に喰われると良い」 山間に響く音を頼りにパーティを的確にこの場に導いた『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)は気を吐いた。 「『種子島』の威力、教えてやるぜ!」 ●くりくり。 「お願いします――」 「まぁ、少しでもね。頼んだよ!」 七布施・三千(BNE000346)によってもたらされた翼の加護が仲間達に小さな羽を与える。 力ある印を組み、自陣に斥力の防御陣を形成した雷鳥が唇の端を持ち上げた。 かくして静かな山間の林を舞台に栗とリベリスタ達の死闘は始まった。 字面に直せば何とも言えない間抜けな光景にも思えるが、栗の持つ棘槍は十分致命に足る凶器である。 「……やっぱりかなり攻撃力が高そうなのです!」 敵の能力を(珍しく)賢そうに測るそあらの言葉に頷く面々。 リベリスタを単純威力で大きく引き離す巨大なエリューションに対抗する為、パーティは予め作戦を用意していた。とは言え、相手が単純と言えば単純なペインキングである。これに対応するのは基本的な人員の陣形配置と役割分担で十分という判断である。 「前衛が割を食うのは仕方ない所でござるなぁ!」 鬼影兼久を抜刀した虎鐵が鋭く声を上げる。 「久々のギアアップでござる! 駆けずり回るでござるよ!」 カウンターによる棘の威力は知れていたが、中に飛び込まれれば酷い事にもなりかねない棘の球を止める役割を受け持つのは当然ながら彼等『割を食う』前衛達である。ハイスピードを身に纏い地面を蹴り上げた虎鐵に続くのは―― 「おっと、一番先は俺様の方だぜ!」 ――否、俊敏なる虎鐵さえ追い抜くのは『雷』を自負するアッシュであった。 滑るように地面を疾(はし)る彼の影を追う事は常人にはなかなかどうして難しい。 巨大な棘球に喰らいつこうというのは、 「雉子川夜見、参戦させてもらう」 「じゃあ、行きますよー!」 夜見、ななせも同じである。 つまる所パーティが素早く整えたのは、彼等前衛がフロントを守り、中衛、後衛よりウーニャ、雷鳥、龍治、恵梨香等が攻撃を狙い、残るそあら、天、三千、エリス、ヴァージニアが支援を固めるという態勢である。 龍治の言った通りかなり回復の支援の手厚い陣容は今回の相手に相応しいものであると言えた。 着々と準備を整えるパーティに対してやはりと言うべきか棘の塊の動きは全く単純明快なものだった。 「来るです……!」 そあらに言われるまでも無く――前衛は構えを取り間近に迫った凶器の塊を迎え撃つ。 回転力を増して下生えと土を巻き上げたそれは前に出た彼等目掛けて巨体での体当たりを敢行したのだ。 「……チッ!」 思いの外素早く正確な攻撃に身を翻しかけたアッシュが舌を打つ。 巨体の攻撃範囲は単純な体当たりでも範囲に及ぶ。彼や虎鐵といったソードミラージュ、回避に格別の特化を果たしている夜見は辛うじて一撃を掠るまでで食い止めたが、 「痛っ……いたたたた……!」 どちらかと言えば威力に拘る――鉄槌持ちのななせやミミは小さくないダメージを負っていた。 「やりましたね!」 流れる血がぽたぽたと地面に滴る。 喰らえばそれ以上にお返しするのがデュランダルの流儀である。 却って闘志を燃やしたななせは目前の敵を強く見据えた。致命と流血を強いるペインキングに対抗するには単純に回復役を連ねればよいという話ではない。状況を予め見越し対応する為に待機していたヴァージニアがブレイクフィアーで少女に食い込む痛みそのものを引き抜いた。 「しっかりして下さいです!」 すかさず傷付いた仲間をそあらの歌声がフォローする。 状況はフラット。しかし敵の猛威を食い止めるのが簡単な仕事に成り得ないのは唯の一攻防で嫌と言う程知れていた。 「私に目をつけられたのが運の尽きよ、不幸なクリーチャーさん。栗だけに」 ウーニャは一人嘯いた。 「先端恐怖症になりそうだわ――」 全くリベリスタとは因果な絵を多く見る商売なのである。 「――巨大イガグリが転がる姿って思ったよりも凶悪ね!」 ●くりくりくり。 「俺はここに居るだけ、だが例え王でもこの存在、素通りできるものでは無い」 夜見がその身を翻した。 脆い彼に出来る事。非力な彼の叶えられる事、それは。 華麗な身のこなしで猛牛をいなす闘牛士(マタドール)のような、そんな壁。 パーティの仕掛けで王が啼く。 「あ゛ぁぁぁぁ;口;」 跳ねて襲ってきた大栗にそあらの悲鳴が響いている。 「火にくべられて、多くの仲間を喪った……さぞ無念だったんだろうな……でも!」 天の戦意は燃えていた。傷む自陣を力強く賦活し、暴力に癒しで対抗した。 棘が弾幕のように降り注ぐ。 「当たり判定が小さいとか言うな!」 雷鳥が声を上げた。 「そんでもって、Спосибо!(ありがとよ!)」 必死の支援を続けるそあらに、エリスに、天に景気良く彼女は声を飛ばす。 戦いはやはりと言うべきか大方の予想通りの消耗戦となっていた。 「温い温い温いぜ痛みの王。こんな痛みじゃ俺様は止まらねェ!」 怒鳴るように噛み付くように声を上げるのはアッシュである。 容赦なく向かうカウンターと棘の暴威に傷付きながら、血を流しながらも。 痛みを受ける程にテンションを上げているかのような彼はおよそ退く事を知らなかった。 「雷殺したけりゃなァ! 千倍の避雷針、今すぐ持って来やがれよっ!」 速度を生かした連撃は目前の棘と同じだけ――それより鋭利で速い。 都度傷付く自身の身体を厭わない彼の攻め手はペインキングの棘の数本をへし折った。 同様に負けないのは虎鐵の方も同じである。 「うぐぐ……カウンターがやっぱ中々きっついでござるな……!」 此方も言葉こそそんな調子であるものの――全く手を休める様子は無い。 繰り返されるダメージは軽傷に留まる事は無かったが彼には果たさねばならぬ任務があった。 彼には決して譲る事の出来ない矜持が存在していたのだ。 「娘のために……美味しい栗を持って帰らねばならぬのでござるよ……!」 愛してる。 愛してる。 何が何でも愛してる。 結婚したい位愛してる。娘、愛してる。 数限り無く唱えた「愛してる」等では語り切れない、それ位に。 流血する彼を奮い立たせるのは唯、脳裏を過ぎる愛しい娘の笑顔だけだった。だから―― 「それが! 拙者の使命でござる!」 一撃はペインキングに突き刺さる。深く、激しく。 戦いの趨勢は五分の付近を行き、戻る。 「目の前に、美味しそうな物が有るのに……倒れている暇なんて、ありません、から……」 果敢に敵を受け止めたミミが崩れかかり、踏みとどまる。 攻撃を束ねれば敵は傷む。だが消耗するパーティから継戦能力が奪われているのは確かだった。 「逃がさないぜ」 押し切る他は無い。そして、押し切る他の結末を受け入れる心算も無い。 短い言葉と共に素晴らしい狙いで放たれたのは長尺の銃が放った龍治の魔弾だった。 まさに敵に準備を許さないタイミングで素早く虚空を貫いた一撃は痛みの王に痛みの楔を打ちつける。 見事なハードヒットは続く連続攻撃の呼び水となる。 畳み掛けるならば好機。押し切るには更なる打撃達が、必要だった。 「これも、焼き栗って言うのかしら?」 恵梨香の紡ぎ出した赤い炎が影を覆う。 「痛みは、止められるものでは無いだろう。しかし――」 覚悟を決めた夜見の小太刀が凛と閃く。 「これで、ラストっ!」 その力、全て使い切れとばかりに裂帛の気を吐いたのは鉄槌を大きく振りかぶったななせだった。 先の言葉は伊達や酔狂ばかりでは無い。まさにやり返す一撃は重く闘気を纏い、破壊力のままに王を揺らした。 おおおおおお……! 確かなダメージ。効いている。 それが怒りに震えれば、更なる痛みがパーティを襲うだろう。 「ここで、決めて下さいです――!」 それをそあらは、ウーニャは知っていた。 「人間様の食欲、なめんじゃないわよ!」 何処まで本気かそれを理由と口にした――少女の華奢な体が危険な化け物の直線上に踊り込んだ。 「あなたの悲しみは理解するわ。 踏みつけられて火あぶりにされて、まるでジャンヌ・ダルクね。 でも、彼女は魔女として処刑されたけど後に聖女になったのよ。 あなたもきっと、倒された後みんなから愛される存在になれる――だからええと、大人しく食われなさい!」 道化のカードが宙を踊る。突き刺さるのは動きを失った棘の中―― ●くりくりくりくり。 戦いを終えればそこに待つのは待ち望んだ時間である。 「こいつ加工したらこうー、錐みてえの造れねぇかね?」 アッシュは折れた棘の破片を拾い上げまじまじと眺めている。 「このサイズを焼くのは危険だから、茹でた方が良いんじゃないかNA!」 天の言う通りちょっと危なかったそういう経緯があったのはまぁ、余談として。 「大きすぎて……びっくりした……」 「最初はどうなる事かと思いましたが……」 調理に悪戦苦闘したエリスとミミが安心したように微笑む。 「むむむ!? 話に聞いてた以上の甘さでござるな! これは娘も喜ぶに違いないでござる!」 「うまうま。これ、持って帰ろっと」 栗とは単純な調理で食しても十分味わいを満喫出来るものである。 戦いの凛とした雰囲気も何処へやら、至高の一品を満喫するのは虎鐵にウーニャばかりでは無い。 「持って帰って秋の味覚をさおりんと一緒に楽しむのです」 そのあどけない美貌ににへらと笑みを貼り付けるそあらの頭の中では彼女の頭を撫でる愛しい室長が笑っているのだろうか。 「確かにお土産にはいいかも知れないわ」 「蒸し焼き甘露煮、栗ごはん~♪ 時々ケーキで栗づくし~♪」 「エリューションだが……まあ、大丈夫だろう」 恵梨香、歌うななせに龍治は早速残りを確保にかかり、 「本気かい? 年寄りにあんまり謎の臓物食わせるんじゃないよ」 何て首を振り最初は恐る恐るといった風だった雷鳥も念願叶ったヴァージニアも、 「……хорошо(ハラショー)……!」 「……! 美味しい!」 ご満悦。 「茶番は嫌いだが、茶は好きだ、それに合う和菓子も好きだ。ならばこの栗を食さぬ道理は無い」 気の効いたお茶を用意した夜見さえも、すっかり甘い時間に満足気な風である。 何にせよ、秋に現れた栗の無念は果てて消えたのだ。 平和に終わって良かったね。 「ああ、お茶が美味い……」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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