●無機質たれ 無機質たれ、それが我々にとっての絶対。 感情は邪魔だ。そんな物は我々には必要無い。 プラスである事を望むな。マイナスで無い事を望め。 故にこそ、無機質たれ。全ての物よ、無機質たれ―― ………… …… 「あ、あわわ……て、てぇへんだこりゃあ!」 山中。一人の猟師が“ソレ”を目撃したのは昼時の事だ。 彼の目線の先にあるのはダム。この付近一帯の水を塞き止めている筈のソレが、今彼の目の前に置いて“崩壊”している。 比喩でも何でもない。言葉の通りに崩壊しているのだ。中心付近の壁がひび割れ、そこから凄まじい勢いで水が下流へと下って行く。普段の放流量を明らかに超えている水は既に凶器。道中の土も巻き込めば、土石流と成り果てるだろう。 「あんだけの水が流れたら下流の村が……は、早く知らせねぇと!」 『――無駄ダ。アレハモウ止メラレン』 「ひぃっ!?」 危機を感じた彼が村に連絡を取ろうとした――その時。背後より無機質な声が掛けられた。 振り向き、視えた存在を一言で表すならばまさしく“異様”だ。何故ならばその存在は、自然の多い山の中に置いて“機械の体”をしていたのだから。 「な、なんだおめぇ! 何もんだぁ!?」 『答エル必要無シ。シカシ、足リヌ。アレデハ足リヌ。モットダ、モット必要ダ……ソウダ――』 崩壊するダムを見据えていた機械の目線が僅かにズレ、新たにその眼は猟師を見据える。 瞬間、彼は直感した。――目の前の存在が今、自分を獲物として視ている事に。 『貴様ノ命モ我々ノ為ニ消エルガイイ』 「ひ、ひいいぃい!?」 恐れを抱いた猟師が目の前の存在に猟銃を発砲したのは必然だろう。 ライフルの形式を持っていた猟銃の一撃。恐怖に駆られて狙いも付けずに放たれた銃弾は、何の偶然か相手の頭部へと直進する。 これが人であったのなら、間違い無く相手を仕留める事に成功していただろう。だが、 『フンッ』 目の前のソレは人の形を成してはいるが人では無いのだ。己に向かう銃弾を左手に携えていた脇差でいとも容易く切り払い、続けて―― 「ぎ、ぎゃあぁああああ――!!」 肩に背負い続けていた“3m級の大太刀”で、瞬時に猟師は両断される事となった。 ●ダムの崩壊を止めよ 「と、言う訳です。皆さんには今すぐ件のダム付近へと向かっていただきます」 ブリーフィングルームで映像と共に説明を続けるのは『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)だ。彼女はリベリスタ達に視線を向け、必要事項を言葉にしていく。 「ダム施設職員、並びに下流の住民たちへは適当な理由を付けて退避してもらっています。なので、一般人に関する心配はしないで良い物と思ってください」 「そうか。で、肝心の相手の戦闘能力は?」 「視た所、完全な近接戦闘型ですね。腰の脇差で細かい攻撃を行い、肩に背負う大太刀で相手を薙ぎ払う……しかしその代わりか、遠距離攻撃は出来ないみたいですが」 「ならこっちの遠距離攻撃が大事になるって事か」 と、言った手前。和泉の顔が怪訝な表情となる。 ――何かあるのか? そう感じ取ったリベリスタ達に、和泉はゆっくりと二の句を告げる。 「いえ、実はですね。先程の映像にもありましたが、彼は銃弾を叩き斬っています。気になって調べてみたのですが……どうも今回の相手は遠距離攻撃スキルをその刀で叩き斬る事が出来るみたいなんです」 「つ、つまりそれって」 遠距離攻撃自体が―― 「遠距離攻撃自体が無駄になる……と言う訳では無いでしょう。恐らくですが、攻撃を集中させれば遠距離攻撃も通じます。それでも何発かは叩き落とされると思いますが」 「そう、か……」 なんとも面倒な相手だ。 近距離タイプであると言うなら、遠距離攻撃をどう使って行くかが重要となる……筈なのだが、今回の敵は毛並みが違う。遠距離攻撃そのものが通じにくくなるのなら近接戦闘が重視される訳だが、それは相手の土俵だ。 「近接の方々はどうやって近接有利なこの相手と戦うのか、遠距離の方々はどうやってこの相手に攻撃を通すのか、各々工夫が必要であるとは思いますが……それはそれ、皆さんの腕の見せ所だと思いましょう。期待してますよ」 なんとも無責任ではあるが、リベリスタ達を信頼して故の言葉だ。 期待には、応えて見せるのが華であろう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月22日(土)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ソレは歩いていた。 山中。幾重にも連なる木々を抜け、ソレは目的地へと歩を進めている。 何も思わず、何も考えず、目的を果たす為だけに。 そうして歩いて歩いてようやく視界が開いた―― その瞬間、ソレの視界は“色”に染まる。 『コレハッ!』 自身の意志よりも早く動いた高速の腕を見据えながらソレは何が起こったかを把握する。 ……敵ノ攻撃ヲ受ケテイル!? 切り落としたのはカラーボールを括りつけてある矢の様だ。だがそんな物がこんな所で偶然自分に向かってくる等と言う事態、あり得る筈が無い。 ……ツマリ敵ハ近クニ―― 居る、という考えに到達する前に答えが来た。 ――第二射撃だ。 ● 「それじゃあ楽しい楽しい共同作業と行くかねぇ。合わせて――くらいなっ!」 続く射撃の主は『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)の物だ。 遠距離攻撃に対する迎撃能力があるのは承知済み。で、あるが故にこそ出した策が“複数同時攻撃”。 先の『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の攻撃に間髪入れずに続く形として打ちだすのは魔力の矢。付喪の前面に小さく展開した魔方陣より放たれたそれは真っすぐにクリンゲへと向かうが、 『……ソレガドウシタ!』 右斜め上へと跳ねる勢いで振るわれた脇差で、矢は完全に打ち消された。 遠距離無効化スキルとでも言うべきか。その技はリベリスタ達の遠距離攻撃をほぼ完全に無効化する。全く、厄介な事この上ない能力だ。 「オーケーオーケー。でもまぁ、サムライ野郎?」 されど、 「――この数は防げないだろう?」 言葉と共に第三射撃目は『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)によって行われていた。 銃器より放たれる早撃ちの弾丸。付喪の矢に次いで進む形となったその射撃は、脇差を振るって矢を打ち消した――まさにその一瞬を縫ってクリンゲの迎撃システム範囲の内側に到達する。 そして、炸裂した。 『ヌ、ッ――ゥ!』 「ほらほら、まだ終わりじゃあ無いのよ?」 続く第四射撃。『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の気糸が、負傷したクリンゲに間髪入れずに襲いかかる。 伸びる気糸が準備に準備を重ねたが故に必中の一撃として進む。高速の勢いで進むそれは、本来であれば間違いなく命中してしかるべきといえる完璧な一撃だった。 『――マダ、ダ』 しかし、駄目。轟音と共に何かが破裂したような音が戦場に響き渡る。 それは大太刀。クリンゲの持つ異界の刀が、彩歌の気糸をさらなる高速の一撃によって撃ち払ったのだ。 「遠距離攻撃を叩き斬るか……ホント厄介よね。まぁ射手、サジタリーとしては負ける気は無いけれど……そろそろ起きたら? マイスター」 「フッ、ただ寝ていた訳ではありませんよ。いざ装着。夢女神の贈り物!」 新たなカラーボールを装着した矢を杏樹は装填しながら、『右手に聖書、左手に剣』マイスター・バーゼル・ツヴィングリ(BNE001979)へと視線を向ける。 どうも布団を敷きながら何か準備をしていたようだ。如何な効果があるのかは実際に使ってみて試すとして、 『何ヲゴチャゴチャト……煩ワシイゾ』 大太刀を構えなおしたクリンゲがその身を走らせた。身を低くし、地表ギリギリを滑らせるように進んでいる。 その動きは近距離特化であるが為だ。蛇の様な進み方、しかしその速さは例えるなら突風。クリンゲは、その動きによって僅か数歩で一気に距離を詰めた。 「だけどな――通す訳にはいかないんだよ」 それに真っ向からぶつかるは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。 止めるためだ。勢いを持って接近してくる相手を止めるには、勢いを持って止めるより他無い。だから、 「おっ、らぁ!」 ぶつかり、即座に快は足を跳ね上げた。 唯の蹴り上げでは無く、全身の膂力を利用した一撃だ。それは身を低くしていたクリンゲの顎先を見事に捉え、その身を強引に押し上げる。 「――今、ですな!」 声は、横に回っていた『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)だ。クリンゲの体が頭部を始めとして押し上げられ、奴の視界は今、上を向かされている。故に、正面が無防備。 ――見逃さない。正道の右拳が唸りを挙げて、クリンゲの鳩尾部分に叩き込まれた。 「足元がガラ空きじゃぞ太刀使い! さぁ、無機質な剣と感情のまま振るう刃……愉しもうではないか!」 まだ終わらない。今度は下、『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)が己の刀、羅生丸の刃を寝かせてクリンゲの左足首を削げ落そうとしていた。 羅生丸が円弧の形を描く。電撃を纏った一撃が、横薙ぎの雷撃と化して敵へと振るわれる。 『グ、ォォ……ォオ!』 クリンゲは強引に身を捻って回避しようとするが、陣兵衛の方が速い。そも、リベリスタ達には準備をする時間があった。己が力の底上げや集中を行える時間が、だ。 それが無駄となろう筈も無い。実際に、無効化された攻撃以外は全て命中している。そして陣兵衛の攻撃も例外でなく、 金属の激突音が響き渡った。 ● 激しい音と同時、クリンゲの体が横に崩れる。 その様を、距離を取りつつ攻撃のタイミングを図っていた付喪は見た。 「倒れるか。チャンスだね……!」 後衛の仲間に声を掛けて攻撃の機会を合わせようとする。 それは間違いでないし、確かに絶好の機会であろう。なにせ、倒れると言う事は相手が隙だらけに成ると言う事だ だが、彼女は同時に思い出した。 倒れる前、音が響く前、クリンゲの右脚が僅かに浮いていた事に。 それは些細な事で、しかし重要な意味を持っていて―― 「まさか! 陣兵衛ッ今すぐ“かわしなさい!”」 「なんじゃと――ッ!?」 声を張り上げたのは杏樹が先。声に反応して陣兵衛も気付くが遅かった。 先程の攻撃、クリンゲはかわせぬと悟り抵抗を止めた。利用できると――そう思ったから。 右脚を上げ、地面との接地面を減らし、左脚に来る衝撃に無理に抵抗しない事によって相手に自分の足を払いのけさせる。無論ダメージはあるが構わない。 代わりに生まれた状況は数秒だけだが、自身の体が宙に浮くと言う事。上半身を右に捻り回し、大太刀もろもと宙で回転させれば、縦回転の回し切りが出来上がった。ダムのコンクリートを撫で切りしつつ、無慈悲な刃は真っすぐと。 「こ、のぉ! そうはさせるかぁ――!」 敵の狙いに気付いた快の判断は一瞬。地を蹴り、前に出て盾をさらに前面に押し出す。 直後に起こる衝撃は下から来た。盾ごと弾き飛ばさんとする一撃の余波が、庇いに出た快の体力を削り取っていく。 「ク、ハハッ無機物が無駄に足掻くかッ! 有機質とは無限の+と無限の-、アイアム無限! 迷いこのゴミ捨て世界に落ちたようだな。だがゼロにすら満足に至れぬ貴様如きに何が変えられる!?」 『無論』 マイスターが行うは挑発。相手の存在が如何様な物なのか見極めんとする為の言動だ。 それに対してクリンゲは己が飛行能力を行使しながら問いに即断する。 『必要ナラバ、全テヲ』 その一言で判断出来た。間違いない、連中は侵略型のアザーバイドだ。決して迷い込んだ放浪型では無い。 必要ナラバ全テヲ。それはつまり目的があり、だから必要があるなら全て変えて見せると言う事。目的があるなら侵略型だ。 その目的がなんであるかはさて置き、 「ならば食らえマイナス攻撃! この後スタッフが美味しく頂きましたぁ――!」 声と同時に投合するは接着剤にお弁当。迎撃行動の囮としてそれを投げつけ、さらには後衛陣の一斉射撃が展開される。 放たれる気糸に銃弾に魔力の矢。囮も混ざり合ってまさしく弾幕と言うに等しい密度となった攻撃はクリンゲへと一斉に襲いかかった。 だが、 「なっ――」 「――にぃ!?」 彩歌が、瀬恋が、起こった事実に驚愕を隠せない。 タイミングは完璧だった。まさしく複数同時攻撃、その名の通りの事象が起こっていたと言うのに、それを――クリンゲは大太刀と脇差を用いて“全て”一度に斬り伏せたのだった。 「タイミングが合いすぎだ……! 一度に全部到達したからこそ、纏めて対処されたのか!」 快が叫ぶ。 複数同時攻撃による唯一の弊害。一度に密集した攻撃が訪れれば、それは全て含めて“一つの攻撃”と認識されてもおかしくは無い。勿論、認識されたと言っても本当に一度で捌けるかは運次第と言えるが、そこは敵の運が勝ったと言う事か。 「『無機質たれ』――面白い事を言われますね」 その時、飛び出したのは正道だ。では、と前置きして彼は言葉を続ける。 「貴方方を造ったのもまた機械なのでしょうかね?」 素朴な疑問と共に、絡め取る動きを伴った気糸を零距離で投じた。 ――直撃。本来遠距離スキルである攻撃だが、これだけ距離が近ければ関係無い。無効化される可能性など無きに等しかった上、事実そうだった。 故、それは良いのだが敵の様子が妙だ。 『……ハァ? 我ラガ機械ニ造ラレタ? フ、フフ……オ前』 一息。 『――面白い事を言うなぁ?』 何がおかしいのか。僅かながら感情を含んだ声色がクリンゲより紡がれた。 しかしそれも一瞬のみ。次の瞬間に来たのは言葉では無く、刃。 脇差の居合による乱れ切りが前衛として立つ者達に容赦なく降りかかる。だから、 「人生守りに入ったオッサンみたいな事言いながら調子のんなよアンタ。マイナスもなけりゃあ張り合いも無いだ、ろッ!」 瀬恋が駆け抜けた。 乱れる刃の間隙を潜り抜け、抉りこませるかの様な左の鉤突きを相手へと叩き込めば、機械と拳が激突する。 「気になる事はあるけれど、今はとにかく貴方を倒す事を優先させてもらうわ」 さらに続くは彩歌だ。彼女もまた斬撃の波を乗り越え、地を蹴って至近距離へと到達する。 狙いは出来うる限り装甲の柔い点、関節部分だ。肩にその狙いを絞れば、突く様に手を伸ばし、気糸を正道と同じように零距離で射出。相手の肩を穿たんとした。 『オ、ノレェ!』 されど接近戦はクリンゲの得意領域。そう何度も同じ様な技をタダで喰らう訳にはいかない。 故、動いた。背後に跳躍し、気糸との激突による衝撃を減らすつもりだ。無論それだけでは終わらない。跳躍先で足場を強く踏みつけ、後ろに傾く体を強引に突進させる。そして大太刀を突きの体勢で構えれば、 「――っぅううぁ!」 大太刀が一閃。光の如き刺突が彩歌の額を捉え、刺殺さんとすれば彼女の声が響き渡った。 しかし彼女は寸での所で回避に成功する。刃が額を掠め、全てを抉り取らんとする殺意を避けれたのは幸運としか言えない。が、このタイミングでそれが出来たのは称賛に値する。なぜなら、命中すれば戦線離脱は間違いなかったであろう攻撃だったから。 『アア、8人程度ニ手コズルトハ、何タル失態ダ……。ソロソロ決メサセテ貰ウゾ』 戦況は伯仲。だがダムへのダメージも少なからず溜まっており、事態は進行しつつあった。 間もなく、天王山とも言える場面が訪れるだろう。その時勝利を掴むのはどちらなのか―― 「人の居場所を奪うなんて許さない。負けるのはお前だ。ここで、必ず喰い止めてみせる」 「だから、決めさせていただくのはこちらです!」 杏樹が身の丈ほどあるヘビーボウガン――アストレアより複数の光弾を放ち、マイスターが罠状に気糸を発生させた。対してクリンゲも大太刀で応戦を開始する。 ――最後の攻防が始まった。 ● 「全く。私は脆い方だと言うのに……でも、仕方ないかねぇ!」 付喪も前に出た。近距離に置いて魔力の矢を込めながら、彼女は思う。 心を乱されない生き方はどんなに楽だろうかと。 それはきっと穏やかで、何物にも絶対に左右される事が無いだろう。怒りも喜びも楽しさも悲しみも無いとは実に―― 「私の望む生き方とは随分違うなッ……!」 『ヌゥッ!』 矢を捌き、なんとか防御するクリンゲ。 直後に行う一刀。付喪ごとダムにもダメージを与えようとしたその一撃は、 「事情は知らないけどさ」 両者に直撃する前に、快によって阻まれる事となった。 「どれだけ有機物が嫌いでも、お前はここを壊せないよ。俺達が護ってるからな!」 「そう、だから……!」 彩歌が、 「ここで――」 正道が、 「堕ちろぉ――!」 瀬恋が、渾身の力を振り絞ってクリンゲへの複数同時攻撃を再び行った。 一度薙ぎ払われたが故に替えた戦法を、今再びこの距離で行う。その行為には実に意味があった。ほぼ全員が前衛と化しているこの状況ならばクリンゲは無効化スキルを発動できない。出来たとしても確率は大幅に下がっているだろう。 『グ、ァ、ォォオッ――!』 クリンゲは吠える。 気糸に拳が一斉に迫ってくる。受ける側にとってみれば冗談では無い状況だ。 ――ダガコノ程度ナラバ、 『往ケルッ……!』 大太刀を腰から肩へと振り抜いて、リベリスタの前衛を一気に払う。 そして続けざまに脇差を狙いも付けずに居合として抜けば、 「か、はっ!」 「くッ……! すまない、やはり私は脆いようだ……!」 マイスターと付喪の身を、無数の刃が走り抜けて行った。 本来遠距離型であることも災いしたのだろう。耐久力が比較的低い二人には重大な負担として響いたようだ。しかしながら事ここに至ってまだなお二人だけの負傷とは見方を変えれば良い傾向と言えるだろう。 なぜなら、 「まだ、儂らは立っておるのだからのう」 刃が光る。だが、それはクリンゲの物では無い。 ――陣兵衛だ。 『ヤカマシイゾ有機物ッ、サッサト砕ケロ――!』 陣兵衛の言にクリンゲが返したのは全力の居合だ。 脇差を走らせ、繰り出す刃の紡いだ道筋を例えるなら――もはや網目。 逃れようの無いその一撃を前にして、受ける側の彼女は、 「焦りがあるか。不要と言いながら感情を持つとは。やはり、そこが無機質の限界か……潔く、散るが良い!」 その網目の居合を“あえて”受け、倒れそうになる体を運命によって支える。 刹那、踏み込んだ。 『なっ――!?』 驚嘆。 感情など要らぬと結論付け、持っていた感情を捨て去りたいと願う彼らの中でも特に顕著な部類であるクリンゲの思考は、その二文字に一瞬だけ支配された。 そしてそれは戦闘の最中に置いて致命的な隙となり、 『ガッ、ァ――』 右肩から左腰にかけての前面部分に衝撃が走った。 ――負ケル……! 「ッ、これは……来ます!」 正道の焦りを含んだ声が周囲に飛んだ。 彼がその直感によって得たその感覚は間違いない。あの時と同じ物だ。 過去の敵が行った――自爆の前準備。 「陣兵衛! 敵を!」 ダムを庇う行動に移っている瀬恋の言葉には一つの意味が含まれていた。 それはとても単純な事だ。対する陣兵衛も分かっていると言わんばかりに武器を構え、 「これで、終わりじゃ……!」 あらん限りの力を出し切り、爆発寸前のクリンゲに羅生丸の一撃を加える。 目的は破壊にあらず。望むは唯一つ、ここから離れろと言う事。 『オ……オ……オォ……!』 全身のエネルギーを集中させたソレはクリンゲの体をダムの向こう側、宙へと押しやる。 直後――戦闘の終わりを告げる爆発音が山の中に響き渡った。 ● 「くっ――ダ、ダムは!?」 負傷したマイスターが懸念するはダムの損傷だ。 クリンゲは倒した。が、それでも建物の損壊が一定以上となり崩壊が始まってしまえば話は別だ。彼らは、護り切れなかった事になる。 自爆の余韻たる煙が晴れた先にダムは―― 「……ちゃんとあるみたいだね。クソ痛ってぇ……二度とやんねぇぞ畜生……」 ――無事だった。ダムはいくつかに損傷を残しつつも、未だ水を塞き止める役割を保ち続けている。自爆攻撃からカバーした瀬恋の努力も勿論あったと言えるだろう。 「先程のは見事な一撃じゃった……流石に……少々堪えたな……」 「相手は強かったけど、こっちはそれ以上に必死だったからね」 最後の一撃を見事に決めた陣兵衛は流石に疲労が激しいのか膝を付き、付喪もまた同様だ。さりとて彼女らの奮闘が無ければ被害はもっと増えていただろう。見事、と言わざるを得ない。 「ふぅ……しかし、こいつら一体どこのバグホールから来てるんだ……」 「さて。その点も含めて手掛かりが見つかれば良いのですがね」 快の思考に対し、正道は自爆したクリンゲの破片を調べていた。 「ん? これ、は……?」 その時だった。振り散った残骸を回収していた杏樹が何かを発見した。 これは、 「クリンゲの……頭部かしら。ちょっと貸してみて」 彩歌が手に取ったソレは、見た所クリンゲの頭部、と思われる物だ。 損傷酷く、焼け焦げている為に判断は難しい所だが、形がその様に視える。何か情報を得れないかと彩歌は己の能力、電子の妖精を活用すれば。 「■■b■■■■u■ Pl■n……? 駄目ね、掠れて良く分からないわ」 残滓と言う程、微かな物だが情報を得る事が出来た。 いかなる意味があるのかはともあれ、これ以上情報を得るのは難しいだろう。 事後処理関係はアークへ任せ――リベリスタ達は今、帰路に付いた。 ---- アーク報告書 ダム放流地点付近の川底にてアザーバイドが使用していたと思われる大太刀を発見。 報酬として撃墜者へ譲渡を決定。 以上。報告終わり。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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