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お布団かぶって、寝ーまーしょ!


 怖い映画を見た後は、頭から布団をかぶって手足を縮めてお眠りなさい。
 布団の外にわだかまる不穏な気配は、けして気のせいではないのだから。
 気をつけないと、ちょんぎられてしまうよ。


 夜中に起きていて、アークに近所に住んでいるという理由だけで、緊急招集。
 パジャマで良いからそのまま来いとはあんまりだ。
「いろいろ傾向は違うだろうけど、みんなには怖い映画を見てもらう」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、ブリーフィングルームの机の上に古今東西のホラー映画リストを載せた。
 モニターには、定番から意欲作までずらっと並んでいる。
 サムネイルの中で動く小さな映像は、どれもこれも人の恐怖心を煽り立てる。
 というか、イヴさん、依頼の内容をまだうかがっていません。
「怖い映画を見た夜。一人で寝るなら、布団をすっぽりかぶって寝ないと、布団からはみ出したところを斧でちょん切られる」
 指先でシパっと切る真似を見せるイヴ。
 そういう都市伝説、聞いたことありません。
「ないと思う。これ、撮影中止になった低予算恐怖映画のネタ」
 あ~。確かにロケとかいらなそうだね。
「あとはクランクインするだけってところで計画中止になってたもんだから、異様に盛り上がっていたスタッフ・キャストのもやもやが実体化した」
 だから、E・フォース。と、イヴは補足した。
「正確に言うと、今まさに発生した。撮影中止になった残念会でもやもやのエリューション化確認。もはや、別働班が残念会に乱入して残念会をポジティブにして、うやむやにするのも無理」
 そういう地道な活動してる人もいるんだ~。
 アークはリベリスタも一般職員も頑張ってます。
「発生は間抜けでも、事件は凄惨、世間に与えるインパクトも甚大。密室連続殺人事件。この殺人鬼横行するご時勢で、これ以上人心を荒廃させるわけには行かない。そういう訳で今から至急に対策をとる。今から、このE・フォースを呼び出す。苦手なタイプの怖い映画を見て、すごく怖い思いをしながら布団からいろいろはみ出させながら寝て」
 なんか、身も蓋もない。
 というか、なんで苦手なタイプ限定なんですか。
「みんながスプラッタ見ても怖くないだろうし、好きなタイプの映画じゃ楽しんじゃうでしょ。見たことなくて怖い奴を見て。ちなみに、リストの横についてるのはアーク職員による怖見シュラン」
 参考にして良い。と、イヴ。
「E・フォースの性質上、1対1で寝ているところを不意打ちされた上で戦ってもらうことになるけど、発生したてでベースが実体験というわけでもないから、そんなに強くない。がんばって倒して。ホラー映画の常で何回か復活するけど、これだけ人数がいれば全員負けるってことはないと思う。後で宿直室の修理代とか請求しないから安心して」
 信じてるから。と、イヴ。
「じゃ、宿直室に機材一式とお布団ひいたから。40秒で支度して」
 ポテトチップスとコーラとピザは楽しくなるから禁止。と、イヴは最後に付け加えた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月17日(月)23:18
 田奈です。
 布団かぶってがたがた震えながら眠る心の準備はOK?
 お布団結界、無敵。
 夜中こっそり来るお化けのスペックはこちら。

 E・フォース「夜中に忍び寄るもの」
 *デュランダルみたいなもの。
 *お布団からはみ出したところを力任せに切り落とすよ。斧で。
 *一人きりじゃないと出ないよ。でも、油断していい相手でもないよ。
 *ちゃんと寝ないと出ないよ。寝たふりじゃ出ないよ。
 *一人で勝てない相手じゃないよ。
 *寝てるところを襲ってくるから、無効にするスキルがない限り、不意打ちされるよ。

<注意>
 *本気で怖がりながら寝ないと出てきません。
  ホラー映画怖くないというプレイングかけると、E・フォースは絶対現れません。
  星取表は、不戦敗扱いです。
  空気です。大幅に描写量が減ります。

 *PCが苦手なタイプのホラー映画のジャンルをあげてください。
  実名だめ、絶対。著作権、大事。伏字もいけません。
  スプラッタとか、不条理系、セミドキュメンタリー系とか書いて下さい。
  ガクブル描写、大事。

 場所:アーク宿直室×8
 *みんなには、個室で、一人きりで映画を見て、一人きりで寝て、一人きりで『夜中に忍び寄るもの』と戦ってもらいます。
 *八人の内、誰のところに来るかは眠った順です。
  ランダムで決定としますが、ガクブルしてる人のとこほど出易いです。
 *物音でどこの部屋に現れたかわかると思いますが、ホラーの定石でドアの鍵は開きません。乱入不可。
 *部屋は四畳半の和室です。部屋にあるのは布団とテレビにリモコン。
  武器の取り扱いの不利はありません。
  戦闘で荒れるのは、アーク本部も承知の上です。
  気にすることはありません。
 *8対8で星とり合戦です。先に5敗した方の負け。
  リベリスタが負けたら、犠牲者が出ることになるでしょう。失敗です。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
神楽坂・斬乃(BNE000072)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
プロアデプト
御布団 翁(BNE002526)
デュランダル
真雁 光(BNE002532)
スターサジタリー
那須野・与市(BNE002759)
クリミナルスタア
竜造寺・成銀(BNE003040)


 日付が変わる頃、パジャマ姿のリベリスタ達は、アークの宿直室にそれぞれ入ろうとしていた。
『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)は、無言でドアノブを握っていた。
(怖い映画を見るらしいのじゃ。……か、考えただけでも嫌じゃ。でも見ないと敵と戦闘することすら不可能じゃし……う、うーん。困ったのじゃ)
「触ったりも出来ないような幽霊なんて本当に居るわけないじゃない……お、おばけとかえりゅーしょんげんしょーですしきのせいですし」
『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072)の語尾が微妙に震えている。
「ホラー映画なんて怖くないわ。ホ、ホントよ? だ、大丈夫大丈夫、怖くない怖くない。オバケなんて絶対いないんだから!」
『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は、パジャマの胸元のブローチを握り締め、絶妙に震えている。
「ホラー映画はあまり普段観ないので何とも言えませんが……。確かに怖いなと思う事はありますけど、怖すぎる程じゃありませんわ。うーん……わたくしの番で幽霊さんが来ない、なんて事になったら困りますわね。ふふっ。」
 さすが『高嶺の鋼鉄令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)さん、余裕だ。
「べべ別に、怖くないから……あ、あひるは平気ですけどね」
 露骨に震えている声に、みなの視線が痛い。
「本当は大の苦手よ……!! 怖いから、皆で一緒に寝ようよぉ……」
 そうできたらどんなにかいいか。
「ぼぼボクはゆうしゃなので、幽霊なんてこわくないのれしゅ……ないのですよ!! ホラー映画なんて、こ、子供だましですよね?」
『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532) は糾華のパジャマの袖ぎゅっと握り締めている。
「まぁ、おばけなど存在しませんしな……ん? おばけなど存在しないですよね? ……ございましょう?」
『紅椿の護り熊銀』竜造寺・成銀(BNE003040)は、皆を振り返ったが、年端も行かぬ少女らにご老体。
 あなたがいないと断言しなければいけないお年回りかと存じますが。
 ふらっと、『布団妖怪』御布団 翁(BNE002526)が、無言でドアを開け、ばたんと閉めた。
 なんとなく、みんなでその背中を見送ってしまう。
 はっと気がつくと、それぞれドアを開け、ばたんと閉めた。
 この扉はエリューションと決着がつくまで開くことはない。


(どうも、御布団御爺ちゃんなのじゃ。今回、儂はお化けが現れるという宿直室の一室に来ておる)
 宿直室のお布団の上。
 頭からお布団かぶって、翁はリモコンを握る。
(え? こんな所で何をしておるのかって? ……そりゃあ、あれじゃよ、あれ。お化け退治なのじゃ)
 ともるテレビ。配給会社ロゴ。
(べべべべ、別に怖いなんて事ありませんじょ? お、お化けなんかよりかみさんに叱られる事の方が恐ろしいんじゃよ?! そ、そもそもお化けなんて非科学的な存在儂信じてないのじゃ。プラズマとかいう奴なのじゃー!! 儂、帰る! 布団の中に帰るのじゃー!)
 ドア開きませんけど、なにか。
 お化け効果であって、アークが電子ロックかけた訳じゃないよ。
(みとぅない……! みとぅないのじゃ……)
 脳から変な汁出てるときに作ったでしょ的不条理な映像が老人の心に暗い影を落とす。
(布団で儂だけの牙城を作り上げておくのじゃ)
 黙々とアークの備品の上に、更に持ち込みのお布団セットを積み重ねるおじいちゃん。
(見るが良いのじゃ…儂のこれまでの長い布団人生の集大成…! 『御布団帝国』(るび:おふとんきんぐだむ)をー!)
 何の変哲もないお布団セット5組です。
(もう、何も怖くない……のじゃ)
 心の隙間に忍び込む不条理。
「おおーん……!」 
 どこかから老人の遠吠えが聞こえる。
 与市の怖見シュランは、お子様バージョンである。
(血がどばーって出たり、痛そうじゃったり、潰れたり、麻酔なしで手術したり……)
 後衛なので、目の前でスプラッタって少ないのだ。
 電気のスイッチの下、壁を背にして、懐中電灯も用意OK。
 布団の端からちょろっと、義手を出して。
 後は寝るだけ。
(こ、怖くて逆に眠れんのじゃが……羊を数えるかの……え、映画の影響でグロテスクな羊しか飛んで来んのじゃ……布団の中怖いしの……今回の敵も斧持ってるみたいじゃし……す、スプラッタなのじゃな……)
 どこかから羊を数える声が聞こえる。
(ロープに鈴を付けたものを部屋に入って数歩のところに仕掛けておくわ。足が引っかかって目が覚める……といいんだけど)
 あひるは、黙々とブービートラップ設置すると、涙目でテレビの電源を入れた。
(ショッカー映画が特に苦手よ。どのホラー映画も怖いけど、何より大きい音で驚かしてくるのが、ダメ)
 あひるの手は自然に耳をふさいでいる。
 真打登場のテーマ。
 だんだん音量が上がってくる。
(来る! 来る! っていうのが、本当に怖くて……小さな音でも、鳴るたびにビクビクだわ)
「くわぁ!! こないでぇ……!!」
 画面いっぱいに被害者の顔。
 おんなじ表情と台詞のあひる。
 どこかから甲高い鳴き声が聞こえる。
 彩花の見ているのは、閉鎖空間パニック系セミドキュメンタリー風味。
 下水道の中に迷い込んだ男女がワニとも蛇ともつかない何かに追っかけまわされる映画だ。
 本体は水に隠れてチラッとしか見えない。
 どちらかというとパニックを起こす人々の心理描写、リアクションなどに釣られて更に恐怖心を煽るタイプの演出で。
 ドクドクドクと早い鼓動がスピーカーから重低音で響いてくると、それと自分の心臓がシンクロする。
(みつ、みつ、みつかったら、かじ、かじかじかじ)
 唇が無意識に登場人物の台詞をトレース。
 完全に感覚まで移入している勢い。
 テレビと違って息抜きCMなどないノンストップジェットコースターロードショーなのだ。
 どこかから、がちがちがちと歯を噛み合わせる音が聞こえる。
 糾華は、昨今世界的評価も高い国産ホラー。
 精神値ゴリゴリ削る系を選択していた。
(SAN値直葬? い、いいわ。どんとこいよ、こここわくなんてないんだから)
 画面を睨みつける。
 頭から布団をかぶってガタガタ震えながら。
(は!? 武者震いよ! 悪い!?)
 脳内口調は逆切れ気味だ。
 半分開いた押入れの奥、白い物がひるがえった。
「ひぅ……や、ちょっ……いや」
 本人のあずかり知らぬところで声が漏れる。
(え? 怖がってる? そ、そうよ、怖がってるわよ!だって怖いんだから、仕方ないでしょ! 違う!?)
 脳内口調は完全に逆切れ。
 が、口から漏れるのは、短い啜り泣きだけだった。
 どこかから啜り泣きが聞こえる。
(ど、どうしてあたしがこんな目に遭わなくちゃいけないのよぅ…)
 頭から布団を被って体育座り、がくがく震えながら、いつでも音を小さくしたりテレビ消したり出来るようにリモコンはがっちり握っている。
 ちなみに、途中で力尽きたりしないように、チャンネル変更と音量ダウンと消音と一時停止と停止と早送りと電源オフの機能は停止してあります。
 音量アップと再生と巻き戻しは動くから、何度も見てね。
 斬乃の選択も、国産ホラー。
 糾華の見ているものの更に上いく次回作の方だった。
 だって、糾華は中学生だから、怖見シュランもお子様バージョンだし。
 斬乃、18歳だから。
 結果、脳内は糾華より饒舌になった。
(やめて姿見せないで窓から覗かないでこっちじっと見ないで鏡に映らないで後ろに立たないでやめて肩に触らないで水道から髪の毛流さないで血文字浮かび上がらせないで先回りしないで這って来ないで)
「いーーーやーーーーー……」
 どこかから細くたなびく力尽きたような声がする。
 成銀は、電気はつけたまま。
 念のためと、明りの予備までは分かるんだけど、掛け布団の予備はなんで? 
(怖見シュランとは便利でございますな。ではこの星がMAXの物を見ればいいのでございましょう?)
 眼鏡オールバックのインテリやくざ・執事服、布団の上に正座。
(ふむ、昨今のアニメとは綺麗でございますな。しかしこの絵では怖くなりそうもないし、第一小学生では……あ、これ高校生なの?)
 設定上、登場人物はみんな18歳以上です。
(……さっきから画面に井戸が映っているような……マスコットなんで口動いてないの? ねえ!ちょ! 首! ……え? 小学……え?)
 脳内口調に乱れが生じております。
(待って! 中には誰もいないから! やめて! とめて! リモコン! ……隠したなー!? 職員隠したなー!?)
 何をおっしゃる、組の熊さん。
 リモコンはお布団の下に転がってます。
 再生止められないけど。
(近づいてる! やっぱ近づいてるって! ……あ、キャラづけが……いけないいけないでございます)
 日常の仮面を取り去り、真実の自分と向き合うのがホラーの醍醐味だ。
(いどおおお! やっぱりいどおおお! ほらねー!? そこじゃねーだろ! 早く後ろ見ろ! ……あ、やっぱり止めて! 見ないで! ござあああああああ!?)
 それが、ござあだったとしても。


(……ドウッテコトナイデスヨホントニデスヨ)
 途中で神経の糸が切れて気を失って寝た斬乃。
 まどろみの中、保険として布団の端にセットしていた義足が砕かれる音がした。
 跳ね起きて布団を取っ払う。
 畳の上に散らばる義足の破片。
 宙に浮いた斧。
 白いもやもや。
 明確な形を持たない生まれたてのエリューション・フォース「夜中に忍び寄るもの」だ。
 震える手でチェーンソーを握り、勇気を奮い立たせて立ち向かう。
「あ、ああ……あんたのせいでこんな目にー!」
 湧き上がる闘気は、恐かったからの反動じゃない。ないんだぞ!
 誰かの叫びが聞こえた気がした。
 しくしくしながら、義手を布団からちょろっとだし、その根元をつかんで寝たのもつかの間。
 義手を殴られた感覚で目を覚ました糾華の機嫌は最悪だった。
 無言で華麗に装飾された剣を取り出すと、白いもやに対峙した。
(寝てるところを起こされた苛立ちと、この依頼で経験した理不尽な感情をすべて乗せて……!!)
 体から噴出する苛立ちという名の無数の気糸を抑えることができなかった。
 八つ当たり色満載の気合が聞こえたような気がした。
 彩花は、生身の腕に激しい衝撃を受けて目を覚ました。
 噴出した鮮血が、布団の中綿まで赤く染める。
 金属の骨格のため、切断されるまでには及ばなかった。
 深い独特の呼吸法で、腕の傷は癒えていく。
「なるべく速攻全力で片付けます! 少しでも怖くないうちに! 少しでも怖くないうちに倒せば怖くないって事ですわ!」
 もういろいろ精神的に追い詰められているのが分かる言動だった。
 誰かのよく分からない宣言が聞こえたような気がした。
 あひるも義手や義足は用意する暇がなかった。
 お布団の先からちょろっと片足を出し、目を閉じた。
(枕元にはランプも置いて……お化けが来たら、それを持って、すぐに戦闘態勢よ)
 足首に激しい痛み。
 張っておいた鈴は鳴らなかった。
 目を開け、ランプをかざす。
 斧を持って宙に浮かぶ白いもやもや。
 ロープには引っかかりそうにない。
 もう、幽霊とかじゃなくて、平たくお化けだ。
「かかかかかかってきなさいよぉぉ……! シュッシュ! くわぁ!! こないでぇ……!!」
 それでも口は癒しの呪文を詠唱する。
 誰かの泣き言が聞こえたような気がした。
 翁はESPの持ち主だった。
 敵の気配を肌で感じ、不意打ちを食らう前に、自ら布団を跳ね飛ばす。
「むしろ、儂の牙城に包まれた儂を攻撃出来たら褒めてやろう……なのじゃ……」
 都合五枚の敷布団から飛び降り、都合五枚の掛け布団をおじいちゃんの周囲、まさしく牙城の名にふさわしくないこともないんじゃないかなって審議中みたいな。
(それは兎も角、お仕事なのじゃ)
 おじいちゃんは、ニヒルに笑って、「夜中に忍び寄るもの」に集中し始めた。
 もちろんお布団を再構築することも忘れなかった。
 誰かのかっこいい台詞が聞こえたような気がした。
 光は、義手・義足の罠は引っかかってくれたらラッキー程度に思っていたので、引っかかってくれたときはうれしかった。
 まずは自ら発光する。
(電気が付かないホラーのお約束があるかもしれないですし)
 お化け空間で、信じられるのは自分だけだ。
「はぁ……ふぅ……こ、こわくなんてないですよっ!! ボクの剣の錆びになるです!! 早く消えるです!!」
(剣を握ればちょっとは落ち着けるはず)
 魔力を活性化させて、「夜中に忍び寄るもの」に向き直った。
 誰かの戦う声が聞こえた気がした。
 与市は義手が破壊される音がしたとたん、すぐに立ち上がって懐中電灯を付け、電灯をつけ、壁にべったり張り付いて、粉々に砕かれた義手の上に浮いている白いもやもやを見つけた。。
(シューティングスターをして……あとはアーリースナイプ連打じゃの。これしか出来んしの)
 流れ星の加護が射手に宿る。
 手首から飛び出す弓に矢をつがえながら、与市は呼吸を整えた。 
 誰かの深呼吸の音が聞こえた気がした。
 成銀は、フィンガーバレットで振り下ろされた斧の軌道をかろうじてそらすことに成功していた。
(……気絶してても対応できるとは超反射神経便利ですな)
 対峙しながら間合いを計り、どう殴るか考えながら集中する。
 元より殴ることしか考えていない。
 布団を投げかけ、その上から熊の腕で全力で殴り飛ばす。
「触れて殴れる敵万歳! 泣くまで殴らせろでございます!」
 だって、ほんとに映画怖かったんだもん。

 斬乃は、笑いが止まらなくなった。
「さ、触れる! 殴れる! 倒せる!」
 チェーンソーからほとばしる電光。
 白いもやがちぎれて消えた。
 それでも「夜中に忍び寄るもの」は斧を振り回し、斬乃の肩口に斧を叩き込む。
 バックリ開いた傷口を気にも留めずに、斬乃は雷をまとわせた斬撃を繰り返した。 
「怖くない、怖くないんだ……あははははははは!」
(怒りと八つ当たりを載せて……っ)
 白いもやの中に糾華の仕掛けた不可視の爆弾。
 電光を帯びた斬撃を受けてもそのまま突進する。
(殴るわ。殴るわ。殴るわ!)
 白いもやが炎上する。
 彩花の拳が、白いもやに大穴を開け、その穴に沿うように赤い炎が「夜に忍び寄るもの」を燃え上がらせる。
 体がしびれ、血にまみれていても、呼吸を忘れない限り突き出す拳に乱れはなかった。
 畳の上をべたべたべた。
 バックリ割られた背中から血があふれて、畳の上は赤い手形でいっぱいだ。
 お化けから逃げつつ、あひるはゼロ距離からマジックアローを撃った。
「ごめんなさい!! 成仏してください……! やだぁ! こっちきたー……!!」
 余談だが、あひるの彼氏はお坊様だ。
「あひるのマジックアロー、ナメて掛かったらダメなんだから……!」
 泣いた子の逆襲はこれからだ!
 お布団の隙間から気糸の精密射撃をしていた翁をお布団ごと一刀両断。
 飛び散る羽根と血しぶき。
「夜中に忍び寄るもの」は、怒りで更に執拗になった。
 翁は、三途の川の向こうにいる懐かしい誰かを垣間見た。
 そんな翁の耳元で運命がささやく。
『布団帝国を作るまで、死ぬことは許されません』
「攻撃が通じるならこっちのもんじゃー?! 近寄るでない!」
 ばね人形のように立ち上がると、おじいちゃんは再び戦場に復帰した!
『夜中に忍び寄るもの』が壁に吹き飛ばされたのを見て、光はほっと息をついた。
「なんだ。倒せるんですね?」
 低く呟く魔弾の詠唱。
「倒せる敵ですね? それなら怖くないです!!」
(単独戦闘くらいできるです。ボクは勇者ですから)
 勇者たるもの、最終戦は魔王との一騎打ちと相場が決まっている!
 壁に飛び散る血しぶき。
「スプラッタ……、こわいのじゃ……」 
 与市は、背中を壁に預けて呟いた。
「どうせこの矢は当たらない」
 その件に関して、世界は大抵与市を裏切る。
 矢の限界をはるかに超える強さで白いもやを吹き飛ばした。
 布団の下からもやがゆるゆると伸びる。
「夜中に忍び寄るもの」の斧が。
 成銀の体を易々と割り開いた。
 鍛え上げられた肉体も、神秘存在の前ではただの肉に過ぎない。
 痛みが洗礼。
 まだ神秘を受け入れる下地しか出来ていないのだ。
 体がしびれ、目の前で空気が放電している。
 成銀は、運命の恩寵とはいかなるものかをその身で知ることとなった。 
 雄たけびを上げ、再び立ち上がった。

「もうホラーはいやーーーーっ!!」
「貴方の! 貴方の! 貴方のせいでッ! どれだけ私が怖い想いしたと思ってるのよ!!」
「少しでも少しでも少しでも早く!」
「ホリメの底力、みせたげる……っ」
「トドメはS・フィニッシャー(EX)!!」
「いやじゃー、こわいのじゃー」


 ドアを開けて出てこられたのは、六人だった。
 皆、無言で互いの姿を見た。
 パジャマはぼろぼろで血にまみれている。
 雷撃の跡が黒く焦げて痛々しい。
 別働班の女性隊員たちが走ってきて、リベリスタ達を毛布で包んだ。
「お疲れ様、お疲れ様……っ」
 リベリスタ達の傷に障らないように、そっと抱きしめる。
 翁と成銀のドアが男性退院によって蹴破られ、二人が担架で運ばれていく。
 あひるが顔を上げて、皆をつついた。
「怪我してる子は癒すわ。それで、皆で一緒に寝よ……?」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 もちょっと僅差になるかと思ったのですが、六勝二敗。
 成功です。
 いやぁ、皆さん、そりゃもう怖がっていただきまして。
 田奈得。
 楽しく書かせていただきました。
 慟哭の削り作業です。
 ご馳走様でした。 

 これでみんな心置きなくホラー映画を満喫できます。
 ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。