●種子 一面の焼け野原。復興を続ける人々の姿はあれど、その世界は疲弊と混沌の坩堝にあった。 歩けば死、転べば死、踏みしだくものですら死。一面に死の匂いが蔓延する。世界の果てまで死が蔓延しているように錯覚する、世界の果て。 そんな世界に、男は涙した。何かできないか、とさえ思った。 荒廃明らかな畑の前にたどり着いた彼は、そこに答えを見出したように小さく跪き……種を、撒いた。 それが凡そ六十年と少し前。日本が戦後復興に乗り出した最中に現れた珍客の、数奇な運命の始まりだった。 ●それはとても緑色な テーブルの上はライトグリーン。 サラダは無論、揚げ物の添え物だったり果ては汁物にまでされている、レタス。兎角レタス。むしろレタス。 「丁度良かった。説明する手間が省けました」 そんなことを宣いながら、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)はリベリスタ達を迎え入れた。っていうか、包帯姿でスーツでエプロンとか、何処の層を狙っているのか皆目見当がつかない。 呆気にとられるリベリスタに、月ヶ瀬はさあ、とテーブルの上に並べられた料理を指す。ご丁寧に割り箸まで置いてある。しかし本当に、メインがレタスだ。っていうか旬過ぎてるんじゃないのか。 行動原理がいまいち分からないフォーチュナに促されるままに口に運んだりベリスタは、しかしその動きをぴたりと止める。 「……甘」 「なんだこのレタス、果物みてえ……!?」 「うーまーいーぞー!!」 反応は様々だった。が、一様に「甘い」と言う感想があったことは確かである。ゴッドタンを持っている者の背後を見れば、花畑すら見えたかも分からない。 「まあ、そうでしょうね。そのレタスは軒並み糖度14は下らないですから。今回皆さんをお呼びしたのも、そのレタスの為です」 糖度14。最高級の果物が15だと考えてもらえば、凡そレタスと呼びがたい食材であることだけは理解頂けるだろうか。すげぇ甘いと思う。レタスがどうしたんだよ、という問いに、やっと夜倉はモニターをつけ、映像を映しだした。 一面のレタス畑。それを味わったリベリスタ達には、或いはメロン畑にすら見える。 「このレタスの銘柄は、正式には存在しません。というのも、このレタスの種子を持ち込んだのがアザーバイドであり、種共々フェイトを獲得して今に至る――と、まあそんなところなんです。 世界と『彼』、どちらが酔狂だったかはわかりませんが。そのアザーバイド『種撒く人』もどうやら寿命が近い……ということで、アークに接触してきたようです」 私は会っていませんけど、と言いつつ、夜倉は映像を切り替える。何故か流れるレタスの収穫要領についてのムービー。 「このレタスの特性として、『愛しあう男女が息を合わせて収穫する』か、『幸せな個人が心を込めて収穫する』と、そちらにあるような甘さになるということです。そうでなければ、ちょーっと苦目になっちゃうみたいですけど」 リア充以外お断りということか。爆発してしまえそんな農園。 「皆さんには、『種撒く人』から譲渡されたこのレタス畑の収穫作業と、このレタスにあった調理法、或いはその銘柄名を考えることでもいいです。……兎も角、せっかくの機会です。少し気軽な労働に勤しむのもいいんじゃないでしょうか?」 すっきりとした笑顔で、夜倉はリベリスタたちへと提案する。 「あ、それと。上手くいけばそのレタス、三高平学園に納品できるかもしれませんよ?」 リア充の侵略だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月22日(土)23:46 |
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■メイン参加者 0人■ |
●それはとっても恋人色で 果て無く、と言うには些か小規模ながら、それでもリベリスタ達を迎え入れるには十分過ぎる面積を有し、レタス畑は鎮座していた。既にそこかしこに広がる恋人オーラや、比例して膨れ上がる黒い何かを孕む状況は、なんというか果樹園でやれと言いたくなる悲喜こもごも。 「わあ、、見て下さいミルフィ、畑一面にレタスがいっぱいです……♪」 「本当、畑一面青々として、綺麗な光景ですわね……♪」 心底嬉しそうにはしゃぎ、従者であるミルフィの手を引くアリス。目の前に広がる風景を純粋に楽しんでいるのもあるだろうが、やはり付き合いの長い相手が一緒であればこそその気分も高揚するというものか。 「最近のレタスは高値で庶民の食べ物じゃねえよなあ」 「レタスって、高いんだ……知らなかったー……」 食堂を住まいとするからであろうか、俊介にとって野菜を見る目がある種世知辛い視点になってしまうのは致し方ないことである。反して、余り詳しくないことを自覚する恋人・羽音は、そんな彼の一面に触れ、思うところもあるだろう。きゅ、と力を込めたお互いの手は、俗に言う『恋人繋ぎ』で強く握られていたのだった。 「あ、ああ、あいしあっていたら、あまくなるれたす、だと……ああああいがためされるというのか……」 わたわたと、最早呂律が回っていない壱也ではあったものの、対するモノマは自信満々の様子である。というか、ノリノリだ。 「オーケー、極上に甘いレタス、市場に届けてやろう」 自分達のリア充っぷりをアピールするいい機会だと言わんばかりに、彼は傍らの壱也を軽く抱き寄せた。輪をかけて呂律が回らない壱也。 「よ、お熱いねえ御両人。ま、末永く仲良くやれよー」 と、そんな二人をからかうように声をかけたのはアッシュ。心底愉快そうなのが、尻尾からも見て取れた。 「お前らこそ面白い組み合わせだな、どうしたんだ一体?」 「ばッ、罰ゲームだ罰ゲーム! 悪かったな場違いで!」 逆に問いかけたモノマに反論する声は、アッシュの数歩後ろをついてきていた莉那のものだ。先般の模擬戦に於いての勝敗についての賭けの結果、というのが表向きの理由だが、互いにどの程度まで考えているかは定かではないのは確か。まあ、その辺りは……レタスのみぞ知る、ということなのだろうか。 と、まあ右向いても左向いてもカップルなわけだが、全員が相手同伴というわけではない。 (今回は彼女とじゃなくて一人で来たから、レタスはやや苦くなるのかね……) フツは、彼女持ちでありつつもシングルでの参加であるが、だからといって何ら気負いか何かがあるわけでもない。メインとしては料理を優先しているようであり、……ああ、つまり彼女さんに料理振る舞う為の前フリか。成程。 「香夏子には幸せが何たるか語るに足らずなのでおいておきます。単独ですが空気なんて読みません」 淡々と、堂々と宣言する働きたくない十代代表。だが意外と勤勉だよこの子。 「どんな味になるのかわくわくどきどき♪ な気持ちで収穫なのですよ♪」 「苦いレタスを楽しみに来たぜ!」 一方、純粋に楽しみに来た奏音やディートリッヒの様な面々もちゃんと存在するわけで、良い感じにバランスが取れているようにも感じられた。ディートリッヒさんは一度郷里に連絡を取ってはどうか。寧ろ甘くなりそうなのだが。 「そういや子供の頃レタスってあだ名だったっけ、ボク。ボクはレタス色じゃないよ! エメラルドグリーンって言ってよね!?」 とか、そんな微トラウマスイッチをプッシュしているのはヴァージニア。まあその綺麗な髪は……レタスか、レタスなぁ。 確かにレタス的な感じはしないでもない けどそうそうエメラルドグリーンね。きれいだと想いますよ実際。 ここまで一般的なターン。 ここから残念なターン。 「苦いレタスが駄目なんて誰が決めた? 苦味は大人の味ッ! 今の私なら最高に苦いレタスが取れるッ」 「あたしが収穫できるのは、地獄のように黒く、死のように濃く、敗れた恋のように絶望に近い苦さを持つものだけです……ッ」 「北に乳繰り合ってるカッポーが居たらツマランから爆発しろと言う。そういう人に私はなりたい」 (薄々分かっていたが……単にホロ苦いレタスを収穫しようと思ったらなんだこの周りとの温度差は……!) 訓練されたプロアルバイター・ランディは戸惑っていた。 自分は苦いレタスを収穫に来ただけである。「甘い=おいしい」ではない感性に従って、そりゃまあ甘い部分はあれど敢えて苦いレタスを収穫に臨んだ彼だ。絶妙な苦味を三高平にとか、その程度の感傷だった筈なのだ。だったら何だ、近くにいる薄黒いオーラ持ちの面々。 兄に恋人ができて寂しくなり、半ばヤン化した竜一の妹・虎美。 雨にも負けず風だろうが寧ろエリューションにも負けずリア十二対し憎悪を振りまくリア貧、アキツヅ。 そして、微妙にフラグへし折ってる感が無いでもない残念女子代表・夢乃。 ……「ホロ苦い」どころの話ではない。存在が既にテロだ。 「今の私は簡単なお仕事を完璧にこなす訓練されたリベリスタ……」 (あ、やっぱり簡単なお仕事なんですね、よかった) そして、さりげなく虎美の言葉から『簡単なお仕事』と判断した七海……ある意味、彼はいろいろな意味で被害者な気がしないでもない。認識の差というやつだろう、多分。 「いや、そんな重い物じゃないし、一人で十分だろ?」 そんな感じで、平生を装う快をちょっと見習ってほしい。「しあわせ(キリッ」って言ってるんだから。 「図書館のみんなに持って帰ったら喜ぶかなぁ?」 望のように純然たるシングルに対して謝れ。あ、いやマジで謝んなくてもいいです。多分。 「わざわざ……苦味を……楽しむために……来た人たち……物好き」 それ言っちゃダメだよエリス嬢。 ●砂糖のように毒のように、願いのように呪いのように 恋愛とは砂糖に喩えられるものであり、同時に毒に喩えられるものである。それは世界を彩るには綺麗過ぎ、それは人の心を蝕むには十分過ぎるゆえの喩えである。まあ、そんな講釈はさて置き。 「糖度14のレタスか、ヨーグルトとか掛けて食べるとおいしいかもだね」 「野菜とは言えないと思うのだけれどね」 人懐こい笑顔を向ける夏栖斗に、こじりは努めて冷静に言葉を返す。その性格上、慣れぬ人間には皮肉的な響きを感じさせるかもしれないその口調は、しかし恋人に対しての想いに溢れている。でなければ、その手が拙いなりにレタスの収穫へと向く訳がないだろう。 「こうしたほうがもっと甘くなるかもだよ」 「……アリガト」 無論、夏栖斗とてそんなことは百も承知だが、彼は言葉より行動で示すタイプであることは確か。彼女を抱きしめるような形で、そのレタスに手を添えた。思わず顔を背けるこじりの意思が何処にあるかなど語るまでもない。 とても甘いレタスが採れたことだろう。ただ甘いのではなく、すこしばかり酸味がありそうではあるが。 「……要するに、元は異世界のレタスなんだよな? ……よくこっちで育ったもんだなあ、というかよく同じ野菜があったもんだなあ……」 正宗の疑念も尤もではあった。アザーバイドの類が此方側の常識に則って現れた例というのがごくごく少ない上に、外っ面一緒でも恐ろしく話が通じないアレげな奴らばかりである以上、文化や植生が一緒とかもうどうなっているのかと。でも、恋人の聖にとってそんなことは至極どうでもよく、二人でデートという状況にテンションが上がりきって下がらない様子。レタスの前でのテンションが危険で危ない。 「3っていったら捥ぐんだよー……3!」 「……いや、それは掛け声がおかしい。というか、多分そういう意味じゃないぞ、息を合わせるのって。多分こう……ほら、これ支えてるから、切り取ってくれ」 上がりきって落ちてこない聖のテンションを下支えするのが、正宗の冷静な指摘と彼女を識っているが故の判断力だと考えればまあ、確かにこの二人の息は絶妙と言わざるを得ない。 「いただきます! あまーそしてうまー!」 「新鮮な野菜は甘いとは言うが……こりゃ野菜の甘さじゃないな」 そりゃまあ、二人のイチャつきぶりからすれば何処までも甘いレタスが採れて致し方なしというか、ご馳走様ですっていうか。 「……そうだな、青春レタスとか?」 「苦いも甘いもその人次第、つまりこれは『人生レタス』!」 正反対とか云々とか言ってすいません、この二人似たもの同士です。 「……幸せになりたいですね」 「うん、幸せになろう」 英美がナイフを持つ手に己のそれを添え、アウラールは短く応じた。 彼ら二人も、おそらくは似た者同士なのだろう。自らの幸せを願うに当たり、自らの積み上げた罪と傍らの恋人の想いとを引き合いに出し、「相手が(過去が)どうであるか」を自分に問いかける点に於いて、在り方は似ており。 「自らの意思で幸せになる」と帰結するその想いまで同一だ。互いを護ると誓い合う相互の自己犠牲は、アウラールの抱擁に帰結する。 ……本体のぴよこが勢い良くレタスにがっついてるというオチはもうド定番だった。 「そこの美しいお嬢さん。拙者と一緒に蜂蜜よりも甘いレタスの収穫をしないかでござる?」 「わーんたーんさん? 一体何してるんかなー?」 男とは女という花の間を飛び回る蝶だとは誰が言ったか。例に漏れず、喜琳という彼女が居ながら他の女性に声をかけに行く腕鍛は最早堂に入りすぎである。自重。 「……ごめん、冗談。冗談でござるよ喜琳殿。拙者浮気しないでござるから。だからね? 一緒に収穫するでござるよ。ね?」 頬を膨らませる喜琳に必死に取り繕う彼ではあるが、その想いは概ね一途で事実ではある。彼にとってのナンパ行為が呼吸のようなものなのだ、きっと。 「……あーん」 「にははは、照れた喜琳殿も可愛いでござるよ」 とまあ、こんな感じで。喜琳の器が広いのか、はたまた腕鍛が手馴れているのか。兎角、二人は幸せなのであろう。 さて、そんな腕鍛に声をかけられた美しいお嬢さんことエナーシア。 一人での参加ながら、それに関する気の迷いや想いのブレは全くない。むしろ、自らの幸福について疑いなど一片もありはしない。 客観的に見た彼女の人生は、確かに激動であり平坦ではなく、不幸なものとして捉える人間が居ても仕方のないことだろう。 だが、彼女は世界を、そして創造主をも信じ、愛している。その想いが相思相愛のそれであり、日常が共同作業である……という意思のもと人生を送っているからだということになるだろう。 「……それなりに甘いわね」 それなり、がどの程度かは兎も角として、彼女は今幸せなのだろう。 「レタスにも俺らの愛見せつけてやろーぜ!」 「うんっ。とびっきり、甘いレタスになるといいね……♪」 俊介と羽音の二人の収穫風景は、一言で喩えるなら「二人羽織」。俊介が後ろから羽音に抱きつくような姿勢での収穫とあって、採り易さとかではなく単純にどれだけイチャつくかを重視しているような気がしないでもない。 「ちょっと俊介…くすぐった」 「羽音と一緒にいれて幸せ。愛してる」 収穫しようと四苦八苦する羽音を他所に、勢い良く愛情表現を繰り返す俊介。制止しようとした羽音への唐突な言葉といい、何というかこの少年は慣れているようにも感じられるが、実際のところは、年下の彼氏としての精一杯の背伸びなのかもしれず。 「……うん。あたしも、幸せだよ……。愛してる」 その愛を受け止める羽音の頬の赤みは、二人を繋ぐ赤い糸の色そのものなのかもしれなかった。 「綺麗な緑色で、すごく甘いって? なんだか誰かさんみたいだね」 小ぶりなレタスを愛おしげに撫でるルアを見て、スケキヨはそんな彼女の頭へ手を伸ばす。彼女がそうするように、努めて優しく数度撫でると、二人は収穫作業へと入る。静かに、力を合わせる……その一瞬の隙を以って、ルアは恋人の頬へと口付けを放つ。対するスケキヨはといえば、照れを隠さず、嬉しさを滲ませて相手の額へ唇を添えた。 「この子の名前は『ゆきぽぷら』がいいと思うの」 「うん、良い名前。この子にぴったりだ」 幸せそうな表情で告げるルアと、笑顔で応じるスケキヨ。二人の唇は何方ともなく近づき、触れる。互いの口に残った甘さは、さしもの『ゆきぽぷら』でも凌駕はできまい。 「きゃっ!? ……ご、ごめんなさい……レタスに青虫さんがいて……びっくりしてしまって」 「大丈夫ですわ、それだけこのレタスが美味しいという事ですわ♪ お嬢様、ではわたくしと一緒に収穫致しましょう、それなら宜しいでしょう?」 箱入り娘を文字通りの路線で行くアリスにとって、野菜に集る虫というのは驚きの対象であることは想像に難くない。彼女の保護者たるミルフィは、そんなアリスの不安を取り除き、作業を円滑化させる義務があり……同時にその距離を縮める為の言葉を紡ぐ権利があるのだ。 「はい、ミルフィと一緒なら、大丈夫です……」 そんな調子で、おずおずと不慣れな手つきでレタスを収穫するアリスの様子がミルフィの保護欲を掻き立てないといったら嘘になるだろう。加えて、それを自分のために調理するなどと言われれば尚の事。そこには互いを想い合う二人の交流があったわけで。 (アッシュの事は嫌いじゃないし、気になるかならないかって言われれば、そりゃ気になるけどさ……でも、アタシにそんな資格は無いから……) アッシュの模擬戦に絡んだ賭けに負け、彼に示されるままに付いてきた莉那にとって、右も左もカップルばかりという環境は些か刺激が強かった、らしい。 まあ、多少なり意識している相手とのこのような場面であれば当然といえば当然か。自然と、その手つきは器用とは言いがたい有様になるのは致し方ないことだろう。ある意味されるがままである。 「ったく見てらんねえな。ほら、こっち貸してみな」 そんな彼女に手を差し伸べるアッシュはアッシュで本当に策士である。恥ずかしがらせなきゃ罰ゲームじゃない、というのは確かだろうが、過度に刺激して反撃を受けないようにしている彼は彼で、なかなか手綱の取り方が上手いようにも思える。 そうして収穫されたレタスの味が、焦がしキャラメルの如きに苦く、甘みを残した味なのはまた、興味深い結果なのかもしれない。 「さあ、頑張りましょう! レタスっ」 「俺がリードする。壱也はそのまま身を委ねていいんだぜ」 先ほどまで戸惑いがエンドレスだった壱也だったが、モノマが丁寧に背後から指導してくれるとなれば、やる気が増すのも当然と言えるだろう……あれ、多いな二人羽織率。気のせいかなカップル、これ、うん。 でもこの二人も相当なアツアツぶりである。指とか絡まってる。何だかこう、ソフトタッチだぞこれ。 「正面から抱き寄せなくてよかったぜ。壱也しか見えなくなって収穫できねぇ。愛してるぜ壱也」 加えて、順当に収穫を進めつつも不意打ち気味に壱也へ愛を囁く点は、モノマの恋愛巧者っぷりを感じずにはいられない。寧ろ、彼にとっては当たり前なのではと思わずには居られない。 「せ、先輩……今言うなんて、ず、ずるいです……顔が見えないです。わ、わたしも、先輩が、好きです。……愛してます」 応じる壱也も、恥ずかしさを感じながらも律儀に応じ、愛を紡ぐ。二人だけの世界の拘束力は本当にヤバい。誰も近づけない。 「今日は付き合ってくれて、本当にありがとう」 「こちらこそ、誘って下さって有難うございます」 そんな感じで、初々しいやり取りを交わすのはカイと凛麗の二人だった。お互いを大事に想ってこそのレタスの味わいであるわけで、それが甘いということはつまり、互いが幸せであり想い合っているということになるだろうか。 「頃合いを見て一息つきましょうか……あっ、ほっぺに土が付いてます」 細やかな気遣いを忘れないカイは、流石に客商売をこなしているだけのことはある。そんな彼に惹かれる凛麗は酷く健全で清く正しい恋愛関係を保っているように感じられた。いいぞもっと清くだ。 「それでは、そろそろ天月様達と合流致しましょうか。調理なさっているそうですから」 そんな感じで調理組。やっぱりそういう環境下でもカップルは多い訳で。カップルというわけではないけど仲良しもまた多いわけで。 「料理人としてはやっぱりより美味しくしたいのですよ?」 と、光と収穫したレタスとは別に苦味のきいたレタスを用意した桐は、どうすれば苦いレタスを美味しく食べられるか、を追求した調理を考えだした。 結果、出来上がったのはレタスとトマト、卵を炒めたもの。調理法も味付けもシンプルながら、熱を加えたことで深みの増したレタスの風味とトマトの甘みが相乗し、その味わいを心地よいものとして昇華している感があった。 「半熟で胡椒がきいてるのがいい!」とは光の言だが、成程、胡椒のアクセントもいい形で付加されているのだろう。 斯く言う光はと言えば、カイと凛麗を迎え入れても有り余る料理の数々を広げ、生き生きとしていた。 例えば、ナンとカレーにレタスを挟んでみたり。 あるいは、挽肉とジャガイモを使ったレタス巻きを作ってみたり。 桐同様、火を通すことを考えてチャーハンを作ってみたり。どれだけ楽しんでいるのかがありありと見て取れる勢いだった。炒飯の隠し味にレモンを加えるなど、その工夫も良いものだ。 「やっぱりご飯はみんな一緒がいいな!」 彼女らしいコメントである。 「こんにちはっ、僕もご一緒していいですかっ?」 そんな雰囲気に誘われて現れたのは、クーラーボックスを抱えた三千。カップルには声をかけぬように心がけていた彼ではあるが、カップルとかの枠組みが無いこの場に於いては、話しかけやすかったのは確かだろう。彼が収穫したレタスはといえば、住んでいる寮の面々へのお土産になるようだが……彼がここまで幸せそうであるならば、レタスだって美味しいに違いないだろう。そうに決まっている。 一方、つい先日晴れて恋人が出来、リア(※検閲削除)になった竜一は何を血迷ったか、パインサラダの作成に取り掛かっていた。センスフラグ持ちがとんでもないフラグをおっ立て始めたけど大丈夫なんだろうか。 「フラグ? 知らんな。変なフラグならへし折るさ。竜一が食べたがっているからな」 ユーヌさんまじかっけー。竜一君マジリア(※削除)。 「レタス以外にも、トマトや生ハム、パインは当然としてタマネギと……うむ、美味しい」 「玉葱と人参をすりおろして、酢と塩胡椒にサラダ油……ん、散っていたか」 竜一がメインの調理と盛り付けを、ユーヌが手作りドレッシングを担当する役割分担で作業を進めていたが、ユーヌの頬に飛び散ったドレッシングは竜一が舐め取ったりしたりして、ああこいつら、こいつら 「くくっ、なんか新婚っぽくて楽しいな?」 そうそう、葉書の八割強をベタで埋めるアレですね。知らないならいいんだ。 「張り切って作ってしまったが、無理なら言えよ? ほら、あーん」 「もちろん、サラダは全部食べきるさ! 二人の共同作業だものー!」 気合を入れて作ったことで食べ切れない、なんてことに懸念を持ったユーヌではあったが、竜一に対しては要らぬ心配だったようである。互いに頬への口付けを交わしたり、互いに食べさせたり。レタス顔負けの甘々展開、ごちそうさまでした。 「お前さん、料理上手そうだな。ちょっと見学させてもらってもいいかい。参考にしたいんだ」 「勿論! 一緒に料理しよ~♪」 ほろ苦いレタスを持って、フツが調理の参考にと選んだのは終だった。彼のプランは、メニュー数が光に劣らず多かったりする。フツが参考にするには丁度いい相手であったのは確かだろう。 てきぱきと料理を、ときにドレッシングをも作っていく終の手際は舌を巻く勢いだったが、対するフツは相手の動きに合わせる技術について一日の長がある。手を動かしながら、きちんと考えされしていれば身につくのもそう難しくはないだろう。 というわけで、二人が作ったメニューは三品。 一つ目、冷製ポタージュ。普通のレタスで作るより甘みが増すのは当然ながら、全体的な味わいも変化し、終にとっても新しい感動と言わしめる出来であったようだ。 二品目、レタスと生ハムのグリーンサラダ。林檎酢ベースのドレッシングを添えたそれは、甘みと塩気、それと酸味を凝縮させた味わいが後を引く。 三品目、レタスと木の実の甘辛炒め。これはほろ苦いレタスを用いたもので、甜麺醤と豆板醤を用いて、甘辛風味を付けたもの。成程、多少の苦味はアクセントとして許容できる風味といえるだろう。 「甘いレタスとは不可思議、在るならば有用に」 調理準備にとりかかった源一郎、古風な装いを好む彼らしいというかなんと言うか、割 烹 着 だ 。 しかも何故か凄く似合っている。似合っている。凄まじい。そしてその発想はといえば 「ミキサーにレタスと緑黄色野菜等を入れて攪拌……そう、野菜ジュースだ」 名案極まりなかった。野菜嫌いの子供などに野菜を摂取させる手段としてよく使われるこのテの調理法だが、甘いレタスという前提があれば、尚の事美味しく仕上がるに違いない。多少ほろ苦いレタスであっても、だ。 そして、傍らには塩ドレッシングがかけられたレタスサラダが。 意図せず、彼個人でハネムーンサラダ(レタスだけのサラダ)を作ってしまうという事態を引き起こしつつ、発想は丁寧かつ堅実だったりするわけで……惜しい。誰か嫁げ。 「美味しい料理を作って汚名を挽回するわよ!」 何があってそんな発想に至ったかは敢えて置いておくとして、翠華の決意は凄まじかった。汚名を挽回するくらいだから相当である。そんな彼女が考えたのは、サラダ。さつまいも、栗、南瓜、ヨーグルト……と、レタスなしでも甘味が強そうな素材のオンパレードだ。千切ったレタスに蒸して潰した具材、そしてその上にヨーグルトとレタスをミックスしたドレッシングを……うん、まあ言うほど酷い出来ではないよね。及第点だよね。 「私の自信作だからね……しっかり食べなさいよ?」 と、矛先を向けられたアキツヅ、暗黒儀式から離脱。まさかの一抜けであった。因みに、サラダは美味しかったそうです。 「レタスを……生ハムで……包んで……食べてみたら……どうかな」 そう呟きつつ、エリスは持ってきた生ハムでレタスを包んで食べ始めた。メロン並の甘さを持つレタスなら、生ハムメロンと同様の食べ方がいいのでは――そんな考えからである。 結果から言ってしまえば、その発想は成功だったと言える。 本来の生ハムメロンとは違って、そこにはレタスの食感が加わり、普段とは違う満足感が上乗せされる。生ハムが柔らかいことも幸いして、食感でも味でも正反対のものを組み合わせると言う、稀有な試みが可能となったのだろう。じっくりと味わっている彼女の表情は、心なしか明るくも見えた。 「件のレタスをふんだんに使ったパイを製作しますよー」 元気よく鳥頭森が取り出したレタスは、何故か苦味を伴ったレタス。どこから調達したのかは秘密だ。彼女は、そのレタスをパイ生地へと練り込み、整形していく。同時に、甘いレタスを蜂蜜などで煮詰め、生地の上へと盛りつけていく。盛り付けが終わった所でオーブンへ。その間に、レタスをジャムに加工し、焼きあがったパイへと飾って完成――書いている限りでは甘々しくなるようにも感じるものの、そこは生地に練り込んだ苦いレタスとの相乗効果。甘すぎず、のバランスを整えるには賢い選択であったかもしれない。 ●訓練されすぎたリベリスタの基本的反応 「ふと思いましたが、カップルの親密度の違いで甘さが違うとか有るのですかね」 本当にさりげなく沸いて出た孝平の疑念は、実際の観測によって解決されようとしていた。 手元には数組のカップルから貰い受けたレタスの一部。そして傍らには糖度計。カップルのリア充度を判定するために用意したらしい。用意周到にも程がある。 「ふむ……この二つは糖度は同じですが味が微妙に違うのですねえ……これは興味深い……」 とか、そんな感じで食べ進めていた孝平であったが、甘いものを相手にしていつまでも食べ続けるのはある種の耐久レースに近いものがある。決して食べきれるわけではない。 結果として、糖度だけでは測れない様々な要素が入り交じっている、という結論に至った頃、孝平はちょっとぐったりしていたりいなかったり。 「こないだもさ、勲章貰ったんだよ。ほら。カッコいいだろ?」 アーク青銅勲章。アークのリベリスタとして功績を重ねた者が手に入れることのできる勲章であり、今の快にとって最も誇れるものの一つである。それをして幸せではないとは言うまい。幸せなのだろう、きっと。 「……畜生、苦いレタスだなあ。ていうか何かしょっぱいです」 でも、誇りからくる幸せじゃ実リア充の侵食は防げなかった模様。いいんだよ、何時かいい子が現れるよ! 「運ぶのは任せて、力仕事なら問題ないよ!」 「おっさんも運ぶの手伝うぜー、農家の手伝いなら経験あるからな」 ヴァージニアとディートリッヒは、カップル(提供を申し出た組のみ)の収穫したレタスを運搬する作業に従事していた。ヴァージニアといえば、時折カップルの姿に熱い視線を向けている様子もあったが、それは飽くまで憧れの域を出ない視線であることは明らかだった。イメージアップって大事ですね。 で、ここで一緒に作業中だった狄龍さんですが、その最中に喜琳さんに「同姓のよしみ」とばかりに個人的に一玉貰っておりました。まあカップルの収穫したレタスなんで甘いのは当然ですが。 「アマアアアアアアアアアアアィ!!」 刺激が些か強かった、ような……。 「『レタスっぽい何か』、美味しく収穫できたのですよ~♪」 「自分も美味しいものが採れました……」 奏音と七海の収穫は、互いが互いに純粋な気持ちでの収穫であったこともあってか、比較的よい味のレタスが収穫できたようだった。何しろ、苦ければすぐに分かるだろうから、それをして美味しいと言わしめるレタスは、きっと甘かったのだろう。 「おいし~~~~!!」 こちらでは、望が収穫したレタスに舌鼓を打っていた。リベリスタとして、図書館職員としてのその人生の一部が、レタスの甘さに反映されているとするならば、それはきっと、とても幸せなことなのだろうと思われた。 「カップルが収穫したレタスに、このドス苦レタスを混ぜたら、どういうことになりましょうかね……っ、え、待ってまだ何も!?」 「お兄ちゃん達のレタスに私のレタスを混ぜるだけの簡単な……え、待って持って行かないで!?」 ノリノリで凄まじいレタスを収穫した夢乃は、アークのスタッフに連行されました。あらやだ人間耕運機。 兄カップルの籠に投入しようとしていた虎美のキャベツは、夢乃のそれと合わせて回収されました。別ルート? ともあれ、多少のドタバタやハプニングを孕みつつ、各々のカップル、ないし個人はちゃんと楽しめたようなので、今回の催しは成功ということに成るのだろう、か。 「きっと『種撒く人』はこうやって、この世界の人達も愛しあうことができるようにって、このレタスを作ったのかもだね。人々が幸せであるように、争いなんておきないようにってね」 「そうかしら、私は、違うと思う。すれ違ったり、喧嘩しても、これを二人で採って、甘かったら仲直り出来るじゃない?ああ、愛してる、愛されてるんだなって。謂わば痴話喧嘩仲菜物?」 夏栖斗がしみじみと述べた感想に対し、こじりは異論を挟み込む。採れたてのレタスをそのまま彼に頬張らせたままの口付けがどれほど甘いか、などは――まあ、文に起こすのも無粋だろうか。 余談であるが。 レタスの名前は「蜜色ラプンツェル(命名・終)」に、苦いものについては「ビターライフ(命名・エリス)」として三高平学園他、三高平市への納品が決まったとのことである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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