●空の機獣 ヨルムンガンドとの戦いから数日。新たな機械のアザーバイドが日本上空に出現していた。馬の形をしたそれは空を翔け、飛行するものを落とすという事件を発生させていた。機械のようにふるまうアザーバイドにとっては、それもただ作業に従事しているだけなのだろう。 さて、このアザーバイド――スレイプニルとアークによって名付けられた機械の獣が起こしている事件の詳細はこうだ。 センサーを使って人の乗った航空機や旅客機に張り付き、足で叩いて砕く。それだけで、大惨事となる。 とはいえ、他に武装を持っていないわけではない。 対象に攻撃の意思が見られれば、それに対抗して蜘蛛糸のようなマイクロミサイルを撃ち放ち、続いて生体をホーミングするレーザーを撃って攻撃する。この過剰なまでの火力に、戦闘機は破られたという。 さて、この空の支配を始めたアザーバイドに対して、どう戦うか。それが問題である。 まず、どういう理屈かは分からないが、このスレイプニルは八つのジェットエンジンを使って半永続的に飛んでいる。これのおかげで神秘は守られやすく、これのおかげで手が出しにくい。単純に空高く飛んでいる相手と戦うのは骨だ。だからといって、深刻な被害を生み出すこのアザーバイドを放って置く訳にはいかない。 なので、アークは決断した。 ●飛行機上の戦い 集まったリベリスタたちを前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は複雑な表情を見せていた。その理由は、手に持っている作戦書にあるのだろう。 「非常に危険な任務。だけど、あなたたちにしか頼めない」 顔を振り上げて、真白イヴは作戦書の説明をし始めた。すなわち、スレイプニルと名付けられた飛行型アザーバイドが出現したことと、飛行し続けていて地上に降りてこない厄介な相手なこと、そしてそれに対してアークは一つの作戦を提案し、作戦をリベリスタに実行させたいこと。 その作戦の内容は、アークが航空機を出し、その上にリベリスタを乗せるという豪快なものだった。飛行する相手に対してこちらも飛行する物の上に戦力を置く、という単純な話だが、何とも肝が冷える作戦である。真白イヴが複雑な表情をしていたのも、そのせいだろう。 「作戦参加者は、気をつけて。上空は風が強いし、落ちてしまったら……戦いに復帰することはほとんど不可能」 念のため、パラシュートを背負ってもらうよ。と、真白イヴは補足した。落下死してしまうことはほとんどないだろうけど、そこから戦闘に復帰するのはできないだろう。 「それと、航空機への攻撃も注意して。財団が持っているプライベートジェットだけど、あなた達より頑丈じゃないから」 リベリスタたちは言葉もなく頷くしかない。自分達の土台として使うことになる航空機を破壊されてしまったら、それこそ一巻の終わりだ。 「今回の敵は、何よりも環境。だけど、やっぱり敵の攻撃にも注意してね」 うさぎのポーチをぎゅっと抱きしめる真白イヴを前に、リベリスタたちはそれぞれ返答を考えた。 考えて、出た結論は――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月16日(日)23:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●空へ向けて 今回の依頼のためにアークが用意した航空機の前にリベリスタたちは居た。財団専用の空港ということで、小さく纏まってはいるものの、そのスケールの大きさにリベリスタ達は驚いていた。 さて、依頼の話だ。航空機の上で戦うという依頼の性質上、落下の危険性がある。だからリベリスタ達はまず、パラシュートを装着していた。普段は地上で戦っているリベリスタ達にとっては、珍しい光景で、珍しい経験だ。 「よろしくお願いしますね」 念のために酔い止めも飲みながら、七布施・三千(BNE000346)は今回パイロットを務めることになった沢谷沙緒里というアークの女性に挨拶をしていた。 「……ふぅ」 気弱な三千は、航空機の上方を見て息を飲む。これからあそこに乗って戦うという、無茶なことをしでかすのだ、緊張しないはずもない。 「誰にだって役割はあるはず……ですよね」 危険な任務だというのに、付いてきた沙緒里や、他のリベリスタたちをちらりと見てから、三千は心の中でスイッチを入れる。自分の役割をロールプレイするのだ、と。これは自己暗示のようなものだが、三千にはある程度効果があったようで、航空機の上に飛び乗ることができた。 「守ってやっから、安心しろな! 巨乳の姉ちゃん!」 巨乳と聞いて我慢できず駆けつけた『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)も、沙緒里に挨拶をしていた。無論、挨拶をしながらも視線はすいかでたわわな胸に行っている。 「うーん、すごい!」 無邪気に笑う俊介はあほ毛ごと頭を右左と振り子のように振りながら、何度も見つつ、一つのお願いをした。 「敵を見つけたら、海の方へ行ってくれねぇかな。敵打ち落としても地上に被害がねえように、な」 それに沙緒里が承諾すると、サンキュ、と子供のように笑ってから俊介は航空機に向かった。 「ふふ、まさかジェット機の上で戦うことになるなんて思わなかったわ。飛べないわたしだけれど、猛禽のように戦わなくちゃ」 既に航空機の上に登っていた『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)は、可愛い顔を若干野生的に歪ませたような笑顔を浮かべながら、姿勢を低く保っていた。まだ飛んでいないが、戦闘中はこの態勢が重要になるだろうと冷静に考えたからである。 「空を支配しようだなんて、思い上がった機械にはお仕置きしてあげなくちゃいけないわよね?」 表情を笑みから冷めた表情に変えながら、空を飛ぶという機械のアザーバイドを沙由理は思う。物理学者の卵として、ばらして調べたいという思いもあるが、まずは叩き潰すほうが先、と考えている。 「厳しい局地戦だが、いつまでも空を支配されたままというのも面白くない。頭の上を気にしないで生活できるように、片付けさせてもらうとしよう」 沙由理の言葉に呼応するように、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が呟く。そんな鉅はよれよれのコートのポケットを漁っているが、ふと気付いて航空機の上から一旦降りた。喫煙する為である。 「普通の空旅であれば、機内で珈琲を頂いているのだがな」 ふと、航空機の中にあるはずのコーヒーメイカーに思いを馳せながら、鉅はポケットからタバコを取り出して火を付けた。 「天馬との戦い。ふふ、ここで燃えずいつ燃えるのか。この翼と矜持に賭けて、どちらが大空を制するのかを教えてやりますよ」 航空機の上で翼を広げ、マイペースに飛び回っているのは『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)だ。亘は翼を持つ者として、空の自由を愛する者として、スレイプニルとの決着を早く付けたいのである。 「スレイプニル……。確か、北欧神話のオーディンが乗っていたとされる神獣だったか」 スレイプニルとの戦いに向けて昂ぶっているのは亘だけではない。トリストラム・D・ライリー(BNE003053)もまた、はやる気持ちを押さえながら、自身の獲物であるヘビ-ボウを空に向けて構えていた。 「神獣に称される相手にどれだけ俺の弓が通ずるか……。──面白い、試させて貰うとしよう」 弓の腕には自信がある。ならば、自分の力を引き出し、どこまで行けるか……それがトリストラムの楽しみだ。 「機械のアザーバイド、ね。空中戦っての一度やってみたかったんで相手に取って異存はねえが、何でこいつらこう度々こっちへ渡ってくるんだろうな。少しでも手掛かりが掴めりゃ良いんだが……」 そんな中、空中に向けて鋭い眼光を向けつつ、『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)は機械のアザーバイド相手に思いを巡らせていた。何度かこの世界を襲う、別世界からの侵略者。それは分かる。だが、度々この世界にちょっかいを出すのは何故なのか。……考えても分からない問題を振り払うように、凍夜は航空機の上で剣を振るった。素早い剣閃は飛行機雲のような軌跡を残す。 「……」 同じく、考えを巡らせているような風体のリベリスタが一人。『インフィ二ティ・ビート』桔梗・エルム・十文字(BNE001542)だ。十文字は空の向こうにいるであろうスレイプニルを見据えて、腕を組んで航空機の先端に立っている。そうすることで強調されてるスタイルの良い体を包むスカートの下はスパッツと鉄板に守られており、色んな意味で対策は完璧だ。 「短期決戦推奨。桔梗、発進!!」 キリッとした顔のまま、そんなことを言う十文字に合わせるように、リベリスタたちを乗せた航空機は発進し始める。 (……わたしには緊張感が欠落しているのかもしれない) 十文字はそんなことを考える。なぜなら、何度も思い出そうとしているが、さっきからスレイプニルという名前が出てこないからだ。 ●雲の上で 流れる雲を突っ切るように、航空機は空を駆けていく。その背に乗っているリベリスタたちは珍しい経験にそれぞれの顔を見せていた。 「いやっほおおおおおう! お空の上ロマン!! 楽しいいいいいけど、怖ェェエエエ!」 叫ぶほどにテンションを高くしているのは俊介である。姿勢を低くしてへばりつくようにしながら声を挙げているその姿は、どこか木に張り付いたセミのようであったという。 「風が気持ちいいね。空の上の戦いって浪漫あってカッコイイ」 風を感じながら、『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)は揺れる横ポニーを撫でる。その可愛らしい無邪気な顔は空に似合い、絵になる光景だ。 「……ふう」 対して沙由理はハイバランサーの力でうまく立ちながら集音装置を使って辺りを警戒していた。空の向こうから何かが音を立てて近寄ってきていると、感じる。 「巨乳の姉ちゃん! 海だ!」 「余計な恨みを買うのは御免蒙るし、後々面倒だろう?」 それを聞いた俊介とトリストラムがAFを使って海の方へ向かうことを陳情。航空機はその音から離れるようにして海へと向かい始めた。 そして、音を立てている何かは追いかけてきた。間違いない、その反応は明らかにこちらを狙っている敵だ。 それからしばし後、それは肉眼でも小さく見えてきた。 (すれいぷにー……。えっと、すれ……、ええいジェット馬でいいや) 風によって髪とスカートを靡かせ、キリッとした顔をしながら、十文字は飛んで来ている機械の馬を見てそう思う。馬はバーと読む。 「やれやれ。ここからが厄介事の本番だ」 鉅はできるだけスレイプニルの方角に近付きながら、ハイバランサーの力を借りた。これから相手の攻撃から航空機を守るためだ。それに、浄化の鎧をプレゼントして俊介は指を立てる。 さて、スレイプニルと航空機の距離は近付き……スレイプニルはまず、近寄って攻撃する腹積もりのようだった。八つもあるジェットエンジンを吹かし、猛スピードで近寄ってくる。 「……くっ! こうして見ると、予想以上にでかいな……!」 そのまま突っ込んできたスレイプニル最初の攻撃は航空機を狙った体当たりであった。それを鉅が両手と痛覚遮断、それにフェイトの力を借りて受け止めながら、味方に向かって眼で合図を送る。近寄ってきた今がチャンスだ、と。 「助走~~~~、メガクラッシュ!!」 十文字は出し惜しみはなし。掛け声も武器に込める力も全力で、主翼を横断するように走ってからのメガクラッシュを放った。機械の体はそれを受け止めるも、無論ダメージがないわけではない。確かな手ごたえを十文字は武器越しに感じる。 「沙緒里さん、突っ込んで来てる。俺たちの反撃後、距離を」 亘はAFに向かって声をかけつつ、ナイフを素早く抜いて、近くに迫ってきているスレイプニルの装甲にソニックエッジを放って傷を付ける。 「確かに凄え火力に機動力だ。人間じゃこうはいかねえわな」 ダメージを受けながらも、スレイプニルは航空機に張り付こうと足を使って伸ばしてくる。それを凍夜が剣を使ってブロックしていく。……とはいえ、機械の足は剣ごと凍夜の体を蹴っ飛ばしてダメージも与えている。 「だがよ……あんまり凡人の、創意工夫を舐めるなよ!」 しかし、ただでやられる凍夜ではない。隙を見て攻撃を織り交ぜ、スレイプニルの足と切り結んでいく。剣が装甲にぶち当たる度に火花が飛び散り、凍夜の顔を照らす。 そうして戦っていると、ガクン、と強く揺れて、航空機は距離を取ろうと加速する。それに合わせて、スレイプニルも離れ始めた。 「離れていきますね……」 天使の歌を負傷した鉅と凍夜に使いつつ、航空機にしがみ付いている三千は切り結びと体当たりを諦めて離れていくスレイプニルの姿を見た。おそらく、接近戦は不利だと考えたのかもしれない。と、三千はゲーム的に考えてみる。 「大丈夫か? 頑張ろうぜ、回復!」 そんな三千に俊介が浄化の鎧使いつつ、負傷者の二人の傷を見ていく。結構なダメージを受けていた。 回復に回る俊介。しかし、回復を受けている二人は安心できそうになかった。爆発したような音が響いたかと思えば、大量の小型ミサイルがスレイプニルから放たれて始めたからである。 「まるで、機械のように正確な戦い方ね」 それを見て、沙由理が感想を漏らす。確かに機械の体を持つだけあって、状況判断と切り返しは素早かった。 「行けるかな?」 十文字は離れたスレイプニルとミサイルに向けて疾風居合斬りを使って攻撃していく。ミサイルを撃ち落とせたらよし、という判断だ。 「──纏めて撃ち落とす。遠慮は要らない、墜ちてくれて一向に構わんぞ」 同じくトリストラムも前に立って、ハニーコムガトリングを使って迎撃と攻撃を行う。ヘビーボウから連射される矢は空を染め上げる。 「試してみますか」 ライフルを構え、航空機の先頭に立った『デモンスリンガー』劉・星龍も同じ考えだ。スターライトシュートによる攻撃で、ミサイルを少しでも減らせたら、と思っている。 実際、これらの撃ち落としは効果があった。矢面に立って航空機を庇った亘や、全員に降りかかったダメージは少なく済んだのである。 だから、俊介の手が空いた。 「くくくく!! 俺の魔矢はいてえぞ!!」 俊介のマジックアローが装甲に直撃し、その機械の体にダメージを蓄積させる。先の三人の攻撃と合わせて、かなりのダメージ量だ。 だから、距離を調整しようとスレイプニルがジェットエンジンを噴かせ始める。 「状態異常が効かなくても、そうそう狙いを外さないわたしのアドバンテージが消えた訳じゃない」 そのスレイプニルに、ピンポイントを使って沙由理が攻撃を仕掛ける。猛スピードで空中を進む相手だが、始動直後ならばそれを見切るのは容易い。少なくとも、コンセントレーションを使った論理戦闘者……沙由理にとっては、計算すれば簡単だ。 「機械のように正確、ではなく機械よりはるかに的確な攻撃を見せてあげる。ロジックだけでなく、それに直感が上乗せされた人間の強みってものをね!」 ピンポイントは狙いやすかった左のジェットエンジンを集中的に攻撃し、そのバランスを崩させる。 更に、プロトストライカーによって強化された嵐子が二挺の拳銃を鋭く構えて、左側のジェットエンジンを狙う。 「いけるかな」 連続発射された1$シュートはスレイプニルの体に直撃。ジェットエンジンを破壊し、ガクンと体を崩させた。 「捉えた── もう、逃がさんよ」 更にトリストラムの矢がジェットエンジンに刺さっていき、加速し始めた体を失速させていく。 しかし、体を崩し加速に失敗したとはいえ、スレイプニルは機械だ。調整を始めつつ、分裂するレーザーを発射することでリベリスタたちに反撃を仕掛けてくる。 「体力に自信があるわけではないけれど、わたしたちの足場を失うわけにはいかないもの」 その攻撃から航空機を守ったのは沙由理だ。その身を前に出して、航空機に降りかかるレーザーの雨から体を呈して護っていく。 「君のエンジンと同じでこの翼は飛ぶためのもの。でもね、君と俺では飛ぶ意味が違う。身体を翔ける風、熱い鼓動、空を飛ぶ感動。それを知らず感じない君に……負ける訳にはかないよ!」 幾つも枝分かれになったレーザーの隙間を縫うように飛んでいく亘は、そのまま上昇。そして、急降下するように落ちていきながら、ナイフを使ってスレイプニルの装甲を切り裂く。 「ちょこまか動いて捕らえ難くはあったがな、漸く見切ったぜ……!」 そこに、追撃として凍夜のソードエリアルが連続発射。 「これで、終わりだっ!」 一発目こそ外れたが、二発目は見事に命中し、ダメージによって噴煙を上げさせることに成功した。 「失墜せよ天上の機馬。これがわたしの……真・全力フルスイング……!!」 そして、全力でスレイプニルにまで飛び込んだ十文字が、落ちることも構わずにギガクラッシュを放つ! 全体重と落下する勢いを載せた一撃はスレイプニルの体をバラバラに砕いていく。これが、戦いの決着となった。バラバラにされたスレイプニルはもう動くことはなかった。 「ああ、これが空を飛ぶ感覚なんだ……」 そのまま、十文字とスレイプニルの部品は風に身を任せて海に向かって落ちていく。 「俺には翼があり、自分の意思で空を飛べる。それだけで充分さ」 部品や装甲を回収しながら、亘もゆっくりと落ちていった。 「無茶しやがって……。南無」 そんな十文字を見ながら俊介は手を合わせる。 「これも……役割、なんでしょうか」 三千もそれを覗き込み、一緒に手を合わせる。 「これで終わりだな。まったく、厄介事だった」 ふう、と一息をついて鉅はジェット機の上に倒れこむ。流れる雲が、鉅の上を流れていく。 「……ジェット機の上に出る機会なんて、もうないでしょうしね」 そう言いながら、沙由理は遠くに見える地上を眺める。街の光に照らされた地上が、沙由理に自身が護っているものを強く認識させた。あの光の中に、普段自分たちが住む世界があるのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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