●一節 さぞかしジャンケンが強いだろうねェ。 ――――『相模の蝮』蝮原 咬兵 ●暴虐の腕 モニターの中に映る光景はまさに常軌を逸していた。 常識の中に生きる人間ならば映像を映画か何かと疑っただろう。 常識の中に生きる人間ならばCGの進歩とSFXの発達に驚きの声でも上げただろうか。 しかし、『残念ながら』他ならぬアークのブリーフィングでリベリスタ達に伝えられる情報はそれがどれ程荒唐無稽な内容であろうとも事実で。それがどれ程望まない内容であろうとも誰かの運命に色濃く関わる事件の始まりを告げる真実なのだった。 「……見ての通り。敵は、大きな腕」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の感情の見え難い大きな瞳がモニターからリベリスタ達の方へゆっくりと移動した。仕事の始まりを告げる彼女の調子は何時もと同じく淡々としていてモニターの中の或る意味で酷い光景にも余り頓着していないように見える。 「まぁ、腕だな。岩の腕。何メートルあるんだこれ」 「凡そ五メートル以上、らしい。パワーは見ての通り。電柱も家も車も全部一撃。 こんなものが都会に現れなかったのはかなり運が良かったと思う」 モニターの中で暴れるのは地面からぬっと生えた岩の腕である。 その高さはイヴの言った通りゆうに五メートル以上はありそうだ。 太さの方も抱え切れない程に見えるから三メートルではきかないだろう。 この位で動じないからフォーチュナ足り得るのか。 イヴはリベリスタに頷くと「現れたのはとある田舎の村。アークによる避難手配と情報封鎖は済んでいる」と言葉を繋げた。 「まさかこの腕……土中に本体が居るなんて事は無いだろうな?」 「安心していい。現段階――フェーズ2ではあくまで腕のみが本体。 唯、先については保証は出来ないけど」 「……」 分かり易い程分かり易く暴力と暴虐に特化したエリューションである。 元は岩だという事だから分類はゴーレムか。全身が岩である点。サイズ、その膂力。何れを見ても至極分かり易く『硬くて強い』のが明白である。 「岩の腕――圧殺腕は比較的鈍重。但し防御力と攻撃力はかなり高い。体力も化け物級。 暴れるだけ暴れまくるだろうし、リベリスタには工夫も覚悟も必要かも。強敵だよ」 イヴの言葉にリベリスタは唸った。 単純な暴威というものは時に小細工を上回る。 加えて腹をくくってかからねば簡単には飲み干せそうもない相手ではないか。 「皆の為に今回は助っ人を用意した」 「おお」 心強いイヴの言葉に表情を緩めるリベリスタ。 「桃子です。宜しくお願いします」 ――『清廉漆黒』桃子・エインズワース(nBNE000014)。ブリーフィングに現れた新手の笑顔を見るまでは。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月17日(月)23:23 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
●ジャンケン 三千世界に移ろうは無慈悲にて気まぐれなる森羅万象。 嗚呼、運命は時を選ばず。場所に人さえ選ばない。 常識とは常ある人間の認識のみによって作り出される。 他の動物に比べ高度な知性を持ち、認識を共有する事を可能とした人間は『常あるべき形』を想定し、それを平均と位置付けるのである。 人間は知を知り、理解を求めるからこそ時に及ばぬ事もある。 果たして常識とは強固に社会に浸透する一般的感覚であり、概ねの局面において理想的に通用する事実に間違いは無いのだが―― 「……腕ね。間違いなく」 「ああ、腕や。……実際見るとデカイなぁ……」 ――些か不運な事に今日『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が、『武術系白虎的厨師』関 喜琳(BNE000619)が『出くわしてしまった』その相手は常人が常持つ認識で語れる筈も無く。常人にあらぬ彼女等が常持つ認識とも異なる相手だった。 遠目にも分かる圧倒的な存在感。空気をビリビリと震わせる派手な騒音の発生は彼女等が単に『腕』と称した非常の存在を所以にする。まさにそう称する他は無い岩のオブジェはその巨体を存分に振るい、人気の無い村を打ち壊しているのであった。 「うむ。たくましき腕。フェーズが進めば或いは全体が露わになるのか。他のパーツが何処かにあるのか」 「腕だけの存在というのも、中々シュールな物だけど…… ここで討ち漏らしたら、間違いなく強敵となって立ちはだかるでしょうからね」 何処か淡々と吐き出された『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)の声に続けたミュゼーヌが頷いた。 「こんなのが全身現れたら大変だよね。頑張ってここで倒すよ!」 「なんとも壊しがいのある岩の塊です。世界の為にも粉々になってもらいますよ」 「せめても……幸いと言っていいのでしょうか」 『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)、『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の声に応えるように、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が呟く。 「村人の避難が済んでいて良かった。強敵である以上、戦闘のみに集中できるのは助かります」 へし折れた電柱。 潰れた蛙のようにひっくり返った自動車。無残に倒壊した家々。 めくれ上がった地面は周辺の地面を文字通りに引き裂いている。 余りと言えば余りの惨状を見回した悠月の美貌の上には困ったような呆れたような苦笑いが乗っていた。 彼女達十四人のリベリスタが今日この場所を訪れた理由は今更言うまでもないだろう。単純にして明快極まる暴力装置は時に複雑に絡み合う事情の輪よりも濃密に危険の色を醸す事もあるという事だ。平和な田舎の村に現れた巨大な岩の腕(エリューション)――識別名『圧殺腕』はまさにリベリスタ達が見てきた通り、純粋な破壊に暴れている。 それを放置し続ける事がどんな運命をもたらすかを全員が例外なく知っていた。 「うーん、面倒臭そうな相手ですねぇ」 「チョコレートでもどうッスか!」 勢力圏に立ち入らずともハッキリと分かる敵の暴威に嫌そうな顔をした『清廉漆黒』桃子・エインズワース(nBNE000014)にすかさず『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)が一口大のチョコレートを差し出した。 「わぁ、ありがとうございます!」 「いえいえ、どうぞどうぞ」 へらりと笑うウルザ。 (やる気出して貰わないと困るもんなぁ……) (桃子さん信用なさすぎふいた) ウルザの内心にせよ、『深層に眠るアストラルの猫』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)の的確な理解にせよである。 何とも不安な今日のこの先なのは間違いない。 とは言え、常識が常識足り得ず、時に蓼食う虫も人それぞれなのが此の世の面白い所である。 「大丈夫です。桃子嬢は俺が守ります。傷一つ付けさせません。運命に弓引いても、運命を燃やし尽くしても!」 「わー、ぱちぱち。かっこいい!」 チョコレートを頬張る桃子に嬉々として見栄を切るのは胸を叩いた『うめももの為なら死ねる』セリオ・ヴァイスハイト(BNE002266)だった。 崇拝の域を軽く突破し通り過ぎ、最早信仰の領域にまで及ぶ彼の両目には少女がさぞかし清廉純白なる天使に見えている事であろう。腫れ物のような扱いを受ける少女の笑顔を極上と受け止め、白い翼に疑いを持たない。彼はきっと幸せであった。 ――閑話休題。村がこれ以上無茶苦茶にされるのを見過ごすのは余りにも痛ましい。 エリューションが在り、リベリスタと出遭ったならば――逢瀬はロマンチックなものにはならぬ。ましてや、相手が粗暴なる圧殺腕ならば、元より長い付き合いとなる筈も無い関係も一層進展を急くというものである。 「ジャンケンで馬鹿兄ィに勝った記憶が一切無いってどういうことだよー」 あどけない少女の頬は心なしか拗ねた調子で膨らんでいた。 「でも、蝮の人がこのおっき腕がじゃんけん強いって云うなら道は見えたんだよー。 そう、『レベルを上げて物理で殴ればいい』。次は馬鹿兄ィ相手でも必勝だねー」 『相模の蝮』が冗句めいて揶揄した『ジャンケンの強さ』をある意味において真に受けた『黄道大火の幼き伴星』小崎・岬(BNE002119)は暗き焔の揺らめきの如き赤い蛇眼の槍斧(アンタレス)を大きく構えた。 「大きいからといってジャンケンが強いとは限らないと思うです。――『ぴゅあわんこ』そあら」 何故か格好つけ勝ち誇る『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)、 「アレはジャンケンが強いと言うかグーに勝つチョキもあるとか言って強引に勝つタイプだ」 全く正鵠を射た『通りの翁』アッサムード・アールグ(BNE000580)の言葉も漲る岬には届いていない。 「……まぁ、良いか。結局勝たなくてはならず、勝てば一緒だろう」 岬の小さな身体には到底それを取り扱うに十分な膂力が備わっているようには見えなかったがそれは大きな間違いだった。 少女は例え誰にそう見えなかったとしても――長尺の得物を、槍を、斧をまさに使いこなす為の術を知り力を備えている。 戦いの時が来る。 目標は村役場を破壊する、その大腕。立ち向かうのは神秘世界に生きる者(リベリスタ)。 冗談のような喧騒と、冗談のようなやり取りを何気に聞いていたらしい。 「――ジャンケンって腕力勝負だったかしら?」 薄氷色(アイスブルー)の瞳を細め、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)がふと嘯く。 「私、腕力には自信がないの。重い物も持ちたくないし、鍛えるなんてとんでもないわ」 薄い唇に抜けるような白い肌。星の煌きを天井に散らす黒い宙(そら)を携えた少女は笑った。 脳裏に過ぎった知った男の囁きは、成る程。彼女の意見と同じだったからである。 玲瓏にして怜悧、涼やかなる彼女(ビスク・ドール)に重機の取り回し等期待していない。 それは何となく考えた想像――直感の産物に過ぎなかったが、外れてはいない確信もある。 「分かってるわよ、大丈夫」 誰にと言わず呟いて氷璃は薄い唇の端を持ち上げた。 「それでも、貴方を壊す自信が無い訳ではないのだけどね――」 続いた言葉は誰かに向いた戯曲か、それとも目前の敵に向いた魔曲だったのか―― ●暴れ腕(かいな) (任務の開始です。後は作戦通りに――) 『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)のハイテレパスに、 「ポイント確保、これよりミッションスタート」 「では、作戦を開始する」 エーデルワイスが、ウラミジールが、仲間達が頷いた。 単純威力においてリベリスタの個を大きく上回る暴力に立ち向かうパーティは当然と言うべきか勝利の為の論理を携えて此の場にある。 恵梨香の言ったパーティの作戦の主軸は二つ。遮蔽と距離を十分に利用する事、そして戦力を二つに分割する事。暴れ狂う大腕の暴威に固まって挑めば纏めて薙ぎ払われる可能性が高まるのは必然である。そこで彼等はパーティを左右に散らし包囲と連携で敵の隙を縫うというプランを立てたのである。 かくして圧殺腕とパーティとの戦いは始まった。 「じゃあ、行くとしようかな――」 気持ち良く暴れる腕を静かに囲い、まず第一に動き出したのはウルザだった。 (幾ら強力でも万全を欠く程にその脅威は小さくなる――よね。多分……) やはり常識の問題である。流石のプロアデプトと言えど非常識なるモノの理屈に断言は難しいが、彼が積み上げるべき戦闘論理はこの場合もやはり明確であった。意志の込められた強烈な閃光が号砲とばかりに戦場を灼く。果たして視覚を得ているかも知れないエリューションだが強固な集中より繰り出されたウルザの神気に打たれればその動きとて幾らか鈍る。 「いい調子――」 ウルザの言葉はまさに更なる戦いの呼び水である。 見るからに鈍重な怪腕を先制攻撃で叩かんとリベリスタ達は次々動く。 セリオ、ウラミジールが前に出る。喜琳、アッサムードは回り込んで隙を伺い、中衛、後衛が位置取りを済ませていく。 「最初はグー、じゃんけ……そぉぉい!!」 随分景気の良い岬の気合と共にアンタレスの一撃が虚空を一閃、切り裂いた。 衝撃を纏った切れ味鋭い真空刃はそれでも硬い岩肌の表面を僅かに傷付けたばかり。弾き飛ばされる。 「……硬いねー……」 「流石に外見を裏切らず、といった所かしら?」 銃口から煙を噴かせたミュゼーヌが小さく苦笑いを浮かべた。 彼女の言う通りまさに見るからに、の第一印象は結果を違える事は無かったらしい。 岬の一撃、ミュゼーヌの銃撃、共に駆け出して間合いを詰めた悠里の拳も堅牢な手応えに阻まれた所である。 効いていない訳では無い。しかし、有効であるとも言い難い。 「参ったな」 悠里が呟く。 張り付いた氷の拘束さえ目の前の巨体には心許ない。一撃を浴びてもその動作が揺らがないのは――しかし想定されていた事実であった。 単純な物理による攻撃が容易く有効打にならないならば、有効打になるように攻めれば良いだけである。 「取り敢えず――」 「ターゲットロック……フルファイア!」 ウーニャの投げつけた不吉なカードが鎧の如き岩の腕に突き刺さる。傷口を黒く染め、猛る腕を間髪置かずエーデルワイスの一撃が撃ち抜いた。 「どれだけ頑丈でも、効く攻撃は効くようですね」 薄く笑うエーデルワイスの言葉は単純で当然な事実そのものではあったが、同時に重要な確認の意味を持っていた。 彼女の放った的確な殺しの技――殺意の弾は弱点を的確に選び、敵を幾らか傷ませていた。単純な威力で言うならば岬の繰り出した一撃には及ばないのだからこの事実は明確にこの敵をどう攻めるのが最も的確であるかを示している。 「十字砲火を――っ!」 鋭い呼気を吐き出し、挟撃の形に飛び出した恵梨香がグリモアールを携え周囲に焔を呼び出した。 (これなら、効く筈) 冷徹に敵を見据え少女は見事に炎を繰る。 味方を避けるように絡みついた炎の網に岩の巨体は赤く染まった。 「……歪みの侵食が進んだら、貴方はより行動的かつ強力な姿や能力を得るのでしょうね。 無軌道に振るわれる、純粋かつ強大で破壊そのもの。 貴方の成り立ちにそれ以上の意味が無い以上、貴方には罪が無いのかも知れない。でも――」 遮蔽から動き、斜線を通した悠月の両目が敵を射抜く。 黒い瞳に微かに映り込む『歪な生』に彼女は猛る訳でも、憐憫を向ける訳でも無く。 「――更なる災厄となる前に、この場で討ち滅ぼします」 唯、『結論』だけを言い放つ。 朔望の書が無明の虚無に語るのは厳然たる滅びの宿命。 少女の頭上にゆらり揺らめく魔力の気配は禍々しい黒の大鎌と結実した。 繰り出されるのは破壊的な斬撃である。『繰り出され誇る』のは悪夢めいた収穫の鎌の切れ味の鋭さばかりだった。 おおおおおおお……! まるで獣めいた咆哮はどういう理屈か発声器官すら持たない目前の大腕から放たれた。 効いている。攻撃を束ねればさしもの巨体とて何時か必ず崩し得る。 攻防はリベリスタにそんな自信を与えるに十分だったが―― 「簡単な話では済みそうもないわよ」 ――ほぼ断定的に氷璃が言う。 敵の能力を計る彼女の目には『何時か必ずの不誠実さ』が良く見える。 どれ程の集中攻撃を重ねれば良いのか、それを成立させるにどれだけの暴威を受け止めなければならないのか。 集中を増す氷璃の瞳が細められた。 「来るわよ」 短い警告はしかし今更ウラミジールにとっては言われるまでもない事だった。 「腕力でねじ伏せられるものか!」 大腕が旋回する。怒鳴るように気を吐いたウラジミールは隆々とした巨体――ただし、圧殺腕に比べれば余りに小さい――に両盾を構え、馬鹿げた程の暴力の激突を受け止めた。 硬質の音が響きウラミジールの体が跳ね飛ばされる。しかし彼は辛うじて態勢を取り戻し敵を強く睨み付けた。 「シベリアの吹雪に比べれば――まだまだ!」 ●砕き、砕け 「正攻法が弱くっていいじゃないか。暗殺者だもの」 アッサムードの繰り出した気糸が圧殺腕に絡み付く。 非力なる一撃がそれを留め得ぬ事は知りながらも、どちらかと言うならば神秘の攻め手がそれに有効なのは知れていた。 「力こそパワーって言いますよ、アッサムードさん!」 「傷付くなぁ……」 彼と桃子のやり取りはさて置いて。 長く続いた戦いは苛烈を極めていた。 「……まずいわね……」 戦況を冷静に測る恵梨香は無意識の内に口の中だけで呟いていた。 相手は何分、強大な巨体である。連携で対抗し、包囲戦術で撹乱を図ったリベリスタ達ではあったが、戦場が混乱を増す程にその動きの精度は悪くならざるを得ない。又、若干連携面の確認が甘かった部分も無い訳ではない。 「何にそんな怒っているのかしら……鎮まりなさい!」 ミュゼーヌのピアッシングシュートは痛打に成り得ずとも敵の『怒り』をよくいなし、 「さァ、こっちでオレと踊ろうか!」 素晴らしい技量を生かして低空を滑るように飛ぶウルザは巨大な腕を翻弄する。 しかし強靭な体力を削り取る為に強いられる犠牲は小さくは無い。 確定した消耗戦の中で繰り出される岩の弾丸、大地を揺らし土砂を巻き上げる強烈なる衝撃波。 取り分け危険なのはその岩の『手』が繰り出す握力による攻撃だった。 主戦の盾として奮闘するフロントのウラミジールも堪え切れず運命にすがる事を強いられ、セリオも一度は倒されかかった。 尤も彼は桃子の「頑張って下さい!」を真に受けて根性で立ち上がったというおまけはあるが。遮蔽を利用し攻撃をある程度やり過ごす事に成功した後衛達も傷んでいる。長く続く戦いに体力もフェイトも燃えていく。 「っ! シグナルレッド!」 エーデルワイスの声が土砂と衝撃に飲み込まれた。 更に恵梨香、アッサムードがこの一撃に倒されている。 「っく、無茶苦茶やん!」 辛うじてこの一撃に残った喜琳が声を張る。 「きっちりお返ししてやんないとなぁ!」 「しっかりして下さいです!」 自身も負傷しながらも気を張るそあらが天使の歌を紡ぎ出す。 「私達には貴女が必要なの。だから、どうか私達を守って」 「ミュゼーヌさんのお願いなら、桃子がやらねば誰がやります!」 綺麗なお姉さんが大好きなのか俄然やる気を出した桃子も真面目に回復に奮闘していたが――戦況は決して安穏とは言えない。 エリューションとリベリスタ。同一でありながら何処までも遠いもの。 並び立たぬ存在、相容れぬ同属。やがての滅びを宿命付けられた者達の戦いはまさに存在そのものの削り合いとなっていた。 「まだ、食い止められる」 ウラミジールが嘯く。 「……ボクはっ、スロースターターなんだよー!」 全身に気を立ち上らせ、苛烈な一撃にも立ち上がった岬が言った。 強引に間合いを詰めて瀑布のような一撃を重く、重く打ち下ろす。 岩の破片が大きく散った。繰り返された攻撃に堅牢な要塞が綻びを見せていた。 しかして、パーティも厳しい。既に長い戦いに耐えられる状態に無いのは誰の目にも明らかだった。だからこそ、決着の時間は近かった。勝利するにせよ、敗れ去るにせよだ。 「自信があるって言ったでしょう」 短い声が戦場に響いた。 スカートを大きく膨らめて、日傘を差した少女が踊る。 一撃を喰らえば折れてしまいそうな華奢な影を暴威の前へ躍らせて。 白い翼を羽ばたかせ、檻のようなその傘で魔曲の調べを迸らせた。 四色の魔光が絡み、うねり、波を打ち――ひび割れた岩の巨体を撃ち抜いた。 おおおおおおお……! 圧倒的な集中を重ねた一撃は虎の子そのもの。完膚無き有効打となり結末の天秤を傾ける。 「ここが、勝負――!」 「ええ。ここが……」 「……勝機(チャンス)」 「だね!」 ミュゼーヌのリボルバーマスケットが高く啼く。 悠月の魔力弾が指を砕き、渾身の力を振り絞った岬の一撃が巨体を仰け反らせ、ウルザの気糸が手首を割った。 しかし、倒れない。巨体は小さなリベリスタ達を今度こそ完全に捻り潰そうと真の暴威を繰り出しかけ、 「残り一回が限界、かな。でも却って――御誂え向きってモンやろ?」 目前に飛び込んだ最後の一人。喜琳の存在に動きを止める。 肉体は限度を迎え、それでも静か。 精神は最大限の緊張に打たれ、されど凪。 武道家の極意、明鏡止水なる領域に到達し、彼女は! 「白虎が如き――この一撃を!」 ――土砕の掌底は元来岩を砕く為に編み出された技であると云う。 彼女が今日、為した一事もまさに過去の武神をなぞっていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|