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巫女とお前とサンドウォーム

●夢見る乙女じゃいられない
「短期留学生を護衛してください」
 その日、ブリーフィングルームをくぐると『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は開口一番そう言った。
「護衛対象はこちらの世界に対し、非常に友好的な異世界から派遣されたアザーバイドです。彼等はこちらの文化へと強い関心を示し、今回特に関心の強い日本へと体験留学を希望してきました」
 成程、話が見えてくる。敵対意識の強いアザーバイドも無数に存在する中、友好的な世界との交流を深めておくことは悪くない。留学と言っても、ようは観光であろう。おそらくは護衛も兼ねたガイドをやれと言うのだ。
「アークはこの申し出を受けましたが、滞在者をひとりにさせるわけにもいきません。そこでリベリスタへの依頼となります。氏の警護をしつつ、トラブルのない一日を過ごしてください」
 トラブルのない。その言葉に身を引き締める。
「そして肝心の護衛対象ですが、彼女です。どうぞ入ってください」

●夢見る砂蟲じゃいられない
 密度が増した。精神的圧迫とかそういう意味じゃなくて。
 大の男が五人、腕を広げても囲い切れないであろう胴回り。黄色とも肌色ともつかぬ皮膜。ところどころ外敵から接触を拒む棘。大小様々な複眼の群れ。真円を描いた口は人をも丸呑みにできそうで、なかには鋸刃状の牙が見えている。手足はおろか、胴以外のパーツが存在しない。外骨格と筋肉だけで動く物理構造。ブリーフィングルームが狭いのか、とぐろを巻いて身を縮めている。巨大な芋虫。否。
「サ、サンドウォーム……!?」
 そう、そうれは紛れもなくサンドウォームであった。敵意すら読み取れぬ昆虫の容貌。悪意よりも害意よりも生理的嫌悪感が意識を塗りつぶす。それは牙を擦り合わせながらリベリスタ達に宣告した。
「あの……皆様が、リベリスタ様方です、か?」
 脳内心電図が直線を描く。一瞬、何も考えられなくなった。
 可憐な声。保護欲を掻き立てられる音。それだけを聴けば間違い無く脳内で大人しい少女を思い描くであろう調べ。それがこの砂蟲から流れ出ている。
 なんだこれは。現実かここは。考えろ、考えろ。そうか分かったぞ。つまりあれだ。これは、食べられているんだ。これを倒せば中から可憐の美少女が出てくるんだ。そうだ、そうに違いない。そうとわかれば開戦だ。取り出せアクセスファンタズム。開け無限の剣。武器の貯蔵は十分か。
「現実を見てください。彼女、サンドウォームのアザーバイド氏が本件の護衛対象です」
 和泉の無情にリベリスタ達は泣いた。畜生、夢を見させてくれよ。俺はヒーローになれないのかよ。
 彼等の嘆きに気づかず、でっけえ虫が名乗る。
「わ……私、シルヴィアって言います」
 畜生、畜生、名前までなんか可憐だぞこいつ。違うだろ、お前もっとこうドスゲリオンとかそんな名前であるべきだろ。
 言葉にならない胸中は黙殺され、シルヴィアは意を決したように声を張った。
「私……巫女さんになってみたいんです! 手伝ってください!」
 巫女とお前とサンドウォーム。
 祀るより祀られる方がお似合いな怪物は、ここぞとばかりに夢見るロマン砲をぶっぱなしやがった。
「なお、既に手配は完了しています。恵観区内に存在する神社の一角にてアルバイトを取り付けました。彼女は幻視を使用しますが、見た目以外がカバーできません。くれぐれも、彼女の正体がバレぬようお願いします」
「お願いします!」
 サンドウォームが勢い良く頭を下げた。
 床が下の階と繋がった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月12日(水)22:39
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

巫女に憧れる友好的アザーバイド、シルヴィアの護衛をしてください。
彼女は幻視により見た目のサイズ、背格好、容姿はごまかせますが、実質のサイズそのものを隠すことは不可能です。
周囲の一般人に彼女がサンドウォームであることがばれないようにお願いします。

※NPCデータ
シルヴィア・オンリーストーン
・ボトム・チャンネルに対し非常に友好的な異世界の留学生。日本のサブカルチャーにハマり、短期留学を希望した。
・心優しく、気弱。なんでもない所で転ぶなど、ドジなところもある。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
プロアデプト
リスキー・ブラウン(BNE000746)
プロアデプト
阿野 弐升(BNE001158)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
ホーリーメイガス
桃瀬 瑞穂(BNE002772)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
インヤンマスター
九曜 計都(BNE003026)
クリミナルスタア
鍋島 充(BNE003043)

●銀髪灰眼
 僕らはきっとわかりあえる。

 サンドウォーム。砂蟲。ファンタジーゲームであれば中盤の難敵であったりする、アレ。しかし、それには無論敵対という大前提が必要になる。人間と争っている。人を食う。世界を滅ぼそうとしている。だが、それらがないものだとしたら。そもそもにおいて人の文化に詳しく、造形に深く、極めて友好的であったとしたら。モンスターが悪いやつなんて固定観念に過ぎない。
 そう、友好的なサンドウォームである。友好的。いいことじゃないか。争いなどよりよほどいい。話を聴いて、『素兎』天月・光(BNE000490)はいたく喜んだ。
「異文化コミュニケーションがんばるぞっ♪」
 ぐっと手を握る。
「異文化交流! 素晴らしいじゃないか!!」
 それに同意した男がいた。『正義のジャーナリスト(自称)』リスキー・ブラウン(BNE000746)である。外見なんて些細な問題だ。美しい女性の為に尽くすなんてのは、男性として当然のこと。紳士の嗜みだろう。全力で楽しんで、学んで帰ってもらう。そうして、ここをもっと好きになってくれれば言うことはない。
「和の文化に惚れたとは、うれしいこと言ってくれるッス!」
『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)が、最高の思い出作りをと張り切っている。憧れだった巫女のバイト。しかし、ひとりでというのもつまらなかろう。バイト仲間は必要不可欠と、計都もバイト募集に手を挙げた。
 その姿に感慨を浮かべる者もいれば。
『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は思う。何故だか彼女、シルヴィアとは非常に友好な関係を結べそうな気がすると。安心しろ、何故とか思ってるのお前だけだから。
「はっはっは、素敵なお嬢さん。良い思い出が残せると良いですのう」
「そんな、素敵だなんて……」
 照れた砂蟲が身を捩り、なんかあちこち壊れていった。
 その姿に落胆と肩を落とす者もいる。
 留学生の接待。字面だけであれは非常に平凡な話である。字面だけであれば。『消失者』阿野 弐升(BNE001158)は夢を諦め切れない。これ、やっぱ中に人居るんだろ。わかってるよ、いないんだよ今回のヒロインはサンドウォームなんだよ知ってるよでもさあもうちょっと逃避したっていいじゃないかよ。嗚呼、どんな顔をしたらいいのかわけがわからないよ。
「こういう時って笑えばいいのかな。HAHAHA……はぁ」
 その肩をぽんと叩く同士がいた。『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が自分に言い聞かせている。なんということだ、取り乱してしまった。外見は、外観はどうであれ女の子じゃないか。それに見知らぬ土地、分からぬ世界となれば不安でもあるはず。常に優しく笑顔、紳士であれ。歪みかけた自分の表情に、頬裏を噛んで仕置きした。
「……頑張れ俺、見慣れりゃきっと大丈夫」
 最初はとてもびっくりしたけど。そう思いはしたものの、『化けるかもしれない猫』鍋島 充(BNE003043)は既に気持ちを切り替えていた。最低階層。世界の底の底。そんな場所に遙か上の世界に住まう彼女が興味を持ち、そして留学まで。それだけでも嬉しいことじゃないか。その憧れ、成就させてあげるべきだろう。
「楽しんでもらえるようがんばるよー!」
「ま、せっかくなんだし、シルヴィアちゃんには楽しんで貰いたいよね~」
『本業はAV女優♪』桃瀬 瑞穂(BNE002772)の言葉を最後に、一同は本部を後にする。後ろには巨大生物、シルヴィア・オンリーストーンがついてきていることは見るまでもない。っていうか這いずる音が案外耳に残んぞこれ。

●雪のような肌
 彼女は優しく微笑んだ。かのように見えた。

 参拝客が皆、一様にこちらを振り向いていく。こちら。もっと端的に言えば、シルヴィアの方を。
 無論、彼女は幻視により人間に擬態している。その巨体、異形が視覚によって露見することはない。では何故注目を浴びているというのか。ひとえに、彼女を隠す容姿にあった。異国人の巫女という物珍しさもあるのだろうが、それは些細な問題だ。つまるところ、可愛らしいのである。
 銀髪灰眼の東欧系。なめらかな肌が陽の光に眩しい。手足は細く、まだ成長を残した発育過程の肢体はが巫女衣装と噛み合っていた。手にした箒を振るう度に、輝く長い髪が揺れて見る者の視線を誘導する。誰ともなくため息をついた。それは、羨望でも欲望でもなく、途方も無い芸術の下に生まれた宝を目の当たりにしたそれに近い。
 シルヴィア・オンリーストーン。視線に気づいた彼女が参拝客らに照れながらも微笑を返すと、性差なく皆が皆、顔を赤くしたものだった。
 でもお前らにはサンドウォームに見えてるけどな! まさに外道!

●巫女衣装
 関西弁の宇宙人よりは近しい気がする。

「現実知らないって幸せだよねドチクショウ」
 しかし、中には欲望のままに彼女へと近づく者もいるわけで。そんな節操なし共を寄せ付けぬよう、弐升は彼女の護衛を買って出ていた。そういった扱いが周囲の眼を益々好機のそれに変えてしまう原因にもなっているが。なに、近づかぬのであればそれでいいだろう。
 ただ単に護衛するだけというのも退屈だ。せっかくの異界人。来訪者。この機会を無駄にすることもあるまい。話し相手にでもなんでもなるとしよう。
「サブカルについてかなり詳しいそうですが、なんでまた巫女なんです?」
 サブカルチャー。オタク文化。その中でも巫女といえばメジャーではあるが、なにもそれだけがジャンルではない。
 その問いへと、シルヴィアは気恥ずかしげに応えていく。
「小さい頃、偶然こちらに迷い込んだことがありまして。その頃は私も小さく、擬態も出来なかったんです。右も左も分からない。本当に怖かった。でも、その時助けてくれた人が居たんです。あの人も、はじめは私と戦いに来ました。でも話を聞いてくれて、それで……名前も思い出せないあの人。でも、格好だけは覚えています。だから……」
 いい話である。種族、世界の垣根を越えた良心が、こちらと向こうの円滑さを支えているのだろう。もしその某が彼女を討っていれば、今頃どうなっていたか。遠く、懐かしむ眼をした彼女に、弐升は人の歴史を感じていた。
 複眼だから目付きなんざわかんねえけどな。

 エルヴィンもまた護衛役である。
 雰囲気を壊さぬためと、場に合わせて神職らしい格好をしてはいるのだが。顎髭の神職者。どっかで見たぞこれ。どこだっけな。何かいいことでもあったのかい。
 男が何人も周囲を守っていれば、そうそう軟派者が近づいてなど来ないものだが。それでも不届き者は居る。どこから彼女の噂を聞きつけたのか、はたまた偶然の観光客か。カメラを構えた幾人かに、睨みを利かせて追い払った。
 興味の視線も深まれば恐怖のそれだ。シルヴィアが震えているのがわかる。っていうかパッと見でわかるくらい震えている。やばい、あちこち壊れる。
「大丈夫だシルヴィア、俺達が側に居る……よし、いい子だな」
 微笑みながら軽くその巨体を叩いて落ちつかせてやった。大丈夫、安心しろ。必ず守ってやる。
「エルヴィンさん……」
 怯え、目尻に涙を浮かべた銀髪巫女が神主っぽい男に抱きついた。ぎゅっと。ぎゅうっと。可愛らしくも心臓の奥を掻き毟りたくなる光景だ。遠巻きに眺める参拝客らに嫉妬の炎が浮かぶ。嗚呼、爆発すればいいのに。
 しかし、それは無論一般人視点である。太い胴に締め付けられ、全身の骨を軋ませては泡を吹く
男。これが事実だ。今もしも幻視が解けたとしたら、彼らは言うだろう。ざまあ!

「おにーさんがすべて受け止めてあげるからねぇ!」
 リスキーがその猛りで自分に喝を入れ、シルヴィアの巨体を必死に支えている。彼女がすっころんだのだ。しかし被害を出さぬが戦士の務め。持ち前の超感覚で先に行動を起こしたリスキーは、着弾点に先回り。そうして出来上がったのがこの結果である。
 歯を食いしばり、筋肉をぷるぷる言わせながらシルヴィアを押し戻す。一般人には蹴躓いた彼女を優しく抱きとめる紳士に見えているこの裏側。愛だ。これは愛なんだと自分に言い聞かせて火事場の馬鹿力を爆発させた。全身が悲鳴をあげている。骨は砕け折れ、とうに臓腑へ突き刺さった後だ。強大な質量に、脚の腱が切れた。嘔吐ブラッド。口から流れる赤い一筋が、内蔵への深刻なダメージを物語っている。
 しかし認めない。そんな現実を認めない。未来を代償に、今を書き換える特権をリベリスタは、彼は今日この場に持ち合わせている!
「異世界のお嬢さんからの愛!」
 生命は正常に歯車を回し、刹那の奇跡に人知を越えた活力が彼に宿った。躓く寸前と同じ姿勢に戻るシルヴィア。嗚呼なんということ。周囲への被害はゼロである。すごいぞ紳士。かっこいいぞジャーナリスト。

 まあなんだ。それでも流石に不自然さは出てくるわけで。
「ただのドジっ子な巫女さんッス。よくあることッスから気にない。むしろ萌えるとイイッスよ!」
 不審に思い始めた参拝客に、計都が暗示をかけている。奇異の眼を向けていた彼の眼が明らかに光を失い、薄笑いを浮かべて彼女の言葉に従った。
 現実とサブカルのそれは別物だ。本物の巫女はアルバイトで、神通力はなくて、妖怪を退治したりしない。だがそれをも魅せてこそ、より意味のあるものになるだろう。サブカルチャーが現実に。画面の向こうがこちら側。だってほら、君もあの子もリベリスタだ。
 計都はその演出面を役していた。取り出した符は鴉に変化し、大仰に唱えられる呪言がそれらしさを醸し出している。複雑な印の結びを繰り返し、幻想のそれを現実の視点と化してみせた。動物との対話は、残念ながら受けなかったようだが。だってほら、もっとすげえのと今会話してるし。
 憧れの世界を目の当たりにし、複眼をぎょろつかせる彼女に計都はドヤ顔で言い放つ。
「ふっ、あたしのことは『神社生まれのKさん』と呼ぶといいッス」
「神社生まれってスゴイ……」

 後に、参拝した男は語る。その日だけ、銀髪の美少女巫女が居たと。あと、なんかすげえエロい巫女が居たと。
 瑞穂もせっかくだからと、巫女衣装を着用してことにあたっていた。しかし、その役目はシルヴィアの観光案内よりも護衛のそれだ。
 麗しのシルヴィア。彼女に向けられる視線は、時間を経るごとに増えていく。気弱な彼女としてはそれにいい気分がするはずもなく、寧ろ何か恐ろしいものでしかないだろう。そんな好奇の輩共に、蠱惑の香を放ってはこちらへと注意を惹きつけていく。もしかしたら、この中の一部は自分の世話になっているかもしれないなどと思いながら。
(コレで、視線をこちらに向けられなければ……プロとして……やばくない? わたし)
 眼を背けぬ何人かに焦りを感じながらも、遠巻きに異界の留学生を見守ることにした。
 それにしても、
「……はたから見ると、怪獣映画だよね。シルヴィアちゃんてば」
 言ってやるな。それに泣いている男もいるんだから。

 お昼ごはん。サンドウォームだっておなかが空くのだ。たぶん、人間の何倍も。
「肉がいいのか?」
 申し訳なさそうにおにぎりや林檎が口に合わないと言うシルヴィアに、それならと光はニワトリを差し出した。生きたまま、コケーコケー鳴く、そのまんま。
 例を言うと彼女はそれに頭からかぶりついた。幻惑にはフライドチキンをゆっくりと食べているようにしか見えないが。真実は鋸状の歯を擦り合わせ、吹き出る血もそのままに飲み込んでいく。ぎちぎちぎち。咀嚼するごとに鳥の鳴き声が小さくなっていき、それも今では聞こえない。緩やかで惨酷に、しかしどこか巨大生物としての優雅さ、自然の雄大さを見せつけながら。彼女はまさしく彼女らしく食事を終えた。ふはははははは、誰がこのシーンにモザイクなんてかけるものか。
「ははっ、骨まで残さず食べるなんて食事のマナーもできてるんだな!!」
 仲間の呆然などどこ吹く風。光はマイペースにキャロットサンドを口に運んでいる。何人かは、しばらく何も喉を通らなかった。

 ここの神主は話がわかる。せっかく異国より来たのだからと、彼は舞事の体験を心良く引き受けてくれた。シルヴィアに話す時だけ見上げていたあたり、分かっていないふりをしてくれたのかもしれないが。
 ともあれ、これもいい思い出になるだろう。手本を元におぼつかないながらも頑張る彼女へと充が合いの手を送る。邪魔にならない程度に、気持よく踊ってくれればそれでいい。
 野次馬もこれまで以上に集まってきていた。可愛らしい顔に精一杯の必死さを見せて、たどたどしいながらも振る舞う異国の巫女。それがなんとも微笑ましく、心癒されるのだ。
 しかし何故こんなに遠巻きでと首傾げる彼らを牽制しつつ、充は頑張るシルヴィアに笑みを投げかけた。当然ながら、彼の眼には砂蟲がうねうねのたうつ魔界がはっきりと写っている。これなんてEXスキルとも言いたくなる光景だが。慣れとは怖いものだ。

「と、まあこれが簡単な巫女さんの歴史という奴ですな」
 小冊子を見ながら、九十九がシルヴィアに巫女のそれを解説している。真剣に耳を傾ける彼女と共に、九十九は見学と勉学を兼ねて神社境内をひと通り見て回っていた。体型の問題で入れない場所は抜きにして。
「まあ、簡単に言うと紙の籤を引いて、運勢を占うという物ですな」
 物販を手伝いつつ、おみくじなるものについて説明を施している。なに、プロではないのだ。こちらとて事の詳細まで微に入り細を穿ち知り尽くしているわけではない。しかし、彼女のそれは自分以上のものだろう。それでいいのだ。あらまし、なりたち。そういうものを知る。それだけでも十二分に楽しいのだから。
 九十九もそのままに平世へ顔を出せるような背格好をしているわけではない。彼女と同じく、能力によって擬態していた。つまり、リベリスタ達には見えるこの怪人と怪獣の談笑が、俗世には美男美女の高嶺に記憶されているのである。知らぬが仏。信仰違いも甚だしいか。
「ちょっと舞ってはみませんかな?」
 踊る彼女に手を差し伸べた、見よう見まねでくるくると。それはなんとも溜息の出る光景ではあるが、見える見えないで意味は百八十度違っていた。地獄が実在するのなら、それはきっとこんなだろう。

●美少女
 愛は種族を超える。

「笑ってと言われましてのう、仮面では表情分からないと思うのですが」
 記念撮影をして。巫女服とアルバムを受け取って。これ以上ないくらいの感動と、別れの寂しさを胸にシルヴィアは涙をこらえていた。涙腺無いけど。
「これでお別れか。またな」
「あたしたちの友情は、永遠ッスよ! また会おう!!」
 湿っぽい別れではない。笑顔で別れよう。楽しかった思い出は、きっといつか続きを読める。
「映画とかならここで別れのキスだよなー……」
「は、恥ずかしいですけど……でも……」
 ぼんやりと思考していたはずのそれが、どうやら声に出ていたらしい。その言葉の意味に気づいた頃には、もう彼女の顔が目前まで迫っていた。
「…………え?」
 えんだああああああああああああああああああああああああ。

 後日談。
「巫女の次は、メイドでもやります?」
 去り際の彼女にそんな言葉をかけたのは誰だったか。あれから数日後。いつものように依頼をと作戦室まで足を運んだリベリスタ達は、そこで異様なものを見た。
 鈍重そうに見えて、素早い身のこなし。首が長く、筋肉質。手足は短いものの、重量感のある四足獣。顔にはゴーグルタイプのサングラスをかけているが、間違いなくその下は単眼だろう。異形の水牛、否。
「カ、カドブレパス……!?」
 それはリベリスタ達に気づくと、可憐で張りのある声を出した。
「アンタ達がおねえちゃんと一緒に遊んだ人達ね! あたしはアナスタシア。メイドになってみたいの、協力してもらうわよ!」
 メイドとお前とカトブレパス。
 どうやら、次のページまで行間も浅いようだ。
 口は禍の門? いいや。だってほら、楽しいんだからいいじゃないか。
 了。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
あ、yakigoteさんは一般人だからすげえ眼福でした。