● 人の噂も七十五日。 いいや、あれから四十と九日。 そろそろ、娑婆が恋しかろう。 「さあ、おっかけっこをはじめましょう。おうちまで逃げられたら許してあげる。逃げられなかったら、つまらないから命をちょうだい」 ● 「フィクサード・人混みアタランテ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の無表情が硬い。 「七月下旬に討伐され、遺体はアークで回収した。死亡確認、検死完了。一時的に冷凍保存していたんだけど」 イヴは言葉を切った。 「保管場所で、異変。皮だけ残して、中身がペッたんこになってる」 何を言われたのかよくわからなかった。 「映像あるけど、見る? 食後すぐの人にはお勧めしない。心臓が弱い方もご遠慮下さい。一応嘔吐袋用意してある」 変に気配りが効いたイヴの様子になお嫌な予感を募らせつつも、映像を凝視するリベリスタ。 金属の引き出し。 「フィクサード・識別名『人混みアタランテ』年齢不詳・女性……」など書き込みのあるラベルのアップ。 ジッパーつきの遺体収容袋。 ジッパーに指がかかり、引き下ろされる。 ふさふさしたものが付いた肌色のウェットスーツみたいなものに、うつろな穴が開いていて、所々敗れているように見えるのは討伐時についた傷跡でやけに腹の辺りがズタズタ……。 それをつかみ出すアーク研究班。 まごうことなき人の皮。 「大体わかった?」 ぶつっと切れる画面。 画面は見ないように指で目隠ししながら、停止ボタンを押すイヴ。 嘔吐袋が心の支えになることがあるとは思わなかった。 「で。それと前後して、再び人混みアタランテが出没し始めている。今度はフィクサードじゃない。E・フォースになっている」 数瞬の空白。 「この現象、過去に例がない訳ではない。『屍解仙』と呼ばれる神秘現象。人混みアタランテは、『人間』をやめたということになる」 なんだろう、このおぞましさは。 「今回の依頼は難しい。『人混みアタランテ』を消滅させなくちゃいけない」 モニターに映し出される模式図。 「人混みアタランテは、目をつけた男をその自宅まで追いかける。その最中、アタランテがするみたいに十数えた後、追いつき、追い越して」 一番後ろの人間アイコンを、グーッと前に動かすイヴ。 口で言うだけなら簡単だが。 「最初のおとりも手を抜いて走ってるとすぐにアタランテに追いつかれてやられる。ちなみに、全開速度100のリベリスタは、チートアイテム使って、5ターンをギリギリ乗り切った。少なくとも後ろから追い越し役がアタランテを追い抜くまではもってもらわなきゃならない。後ろはもっと必死にならないと、追いつけない」 切り替わる画面。日本地図。ズームアップ。とある地方都市。 「今度アタランテが現れるのはこの都市。おびきよせるのはこの道路。主要国道だから、三高平方向はどこまでもまっすぐ」 イヴはドンと机を叩いた。 「スピード勝負の後、今度こそ完膚なきまでに倒す。前回はずっと集中しながら待ち伏せして、ようやくクリーンヒット。それ以外のタイミングでは、ほとんどまともに当たらなかった。最終的には毒が回って、失血死するまでの粘り勝ち。でも、今度は相手に肉体はないよ。毒は効かないし、出血もしない。ダメージ与えてくしかないよ」 イヴは、リベリスタを見回した。 「でも、あれから二ヶ月。こっちも成長している。だから、専門チーム。出来る人を集めた。あなた達にしか頼めない。やり方は任せる」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月11日(火)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 国道に、大型バンが横付けされている。 中から、青年が一人、少女が二人降りてくる。 これから、車は青年の横に張り付いて伴走するのだ。 「速けりゃぁいいってもんじゃないんだよぉ。速けりゃさぁ。あーあぁ愛車の『龍虎丸』で追っかけっこしたかったなぁ。ゼロヨンなら負けないのにぃ」 『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)は嘆く。 妖怪とガチで相手を追い抜き、心を折るまでロングラン・デスマッチ。 大型デコトラで国道を爆走したら、あっという間に免許取り消しだ。 「最高だなこいつ! 死んで尚迷惑かけるとかマジ、フィクサードの性質の悪さを思い知らされるぜ!」 人間をやめてしまったアタランテに、『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)は、鼻で笑う。 「幸い今回はアークが誇る速度隊が、ズラッと揃ってるっつーし? 存在価値も、存在其のモノも、何もかも粉々に粉砕してお呼びじゃねぇって事を教えてやりゃあ良いんだろ!」 「また現れましたか……前回の私とは違うという事を証明して見せます……」 『朧蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)は、夏の日に自らを混乱の淵に叩き込んだアタランテの笑顔が忘れられない。 『また逢うかもね!』 あのまま死んでいてくれればよかったのに、人ではないものになって戻ってきた。 おばけは怖いが、打ち砕かなくてはならない「お化け」だった。 「……生きた幻想、とでもいうべきなのでしょうか。死んで、都市伝説として存在を続けるなんて」 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は嘆息する。 「都市伝説な……舞台の題目としては悪くはないが、ちと血生臭すぎる。早々に舞台を降りてもらうとしよう」 『硝子色の幻想』アイリ・クレンス(BNE003000)は、むき出しの肩を自分で抱くようにして、早々に車に乗りなおした。 「……いやなに、この格好ではさすがに寒い、と思っただけよ」 ● 「……さて、教えてやるとするか。速さ。その本当の意味をな」 国道の入り口は繁華街。 『スピードフリーク』司馬 鷲祐(BNE000288)は、あれよあれよと酔っ払いを余裕で歩き抜き、再開発地区に向かって歩いていく。 その背中を見送る少女。 愛らしくすぼめられた唇が、十。と呟く。 夜目にも鮮やかな赤い服は、何十台もの車に轢かれて流された血の色だという。 人混みアタランテが、最初の一歩を踏み出した。 ここここここここ……。 アタランテの靴音は途切れない。 けして走らないアタランテ。 口元に笑みを浮かべ、鷲祐を追いかける。 妖怪を倒すには、手順が重要。 『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)と雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)は、自分の中の速度制御装置を解き放つ。 「パチパチと身体のギアが弾けて軽くなっていくわ」 走り出す。 既に見えなくなっている目標に追いつき、追い抜くために。 ● 車はトップの鷲祐に横付けされている。 スピードメーターはとっくに120キロを越えている。 が、それを見ているリベリスタはいない。 中には異様な空気で満たされている。 待機しているリベリスタそれぞれが、アタランテを一撃でしとめようと、集中しているからだ。 『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)から噴出される闘気。 (走るのって、何が面白いのかしら。汗かくし、足は疲れるし、どうも小さい頃からその行為自体、嫌いなのよね) インドア派というよりは引きこもりと自己分析する彼女の手には、「流鏑馬」 という名のアームキャノン。 アンリエッタは、鉄槌を構え、目の前のシートの一点を見つめたまま。 初夏のアタランテの動き、肉体を捨ててそれ以上の反応をするアタランテが脳内で踊っている。 それを叩き伏せる叩き伏せる鉄槌で叩き伏せる。 「でたらめな速さであるな。アタランテもそうだが、鷲祐、ルア、リュミエールだ。速度に特化した怪異に対抗できるあの姿は頼もしい」 アイリは、かすかに笑みさえ浮かべて走る鷲祐の横顔を見ながらそんなことを言う。 (何より、本人たちがどこか楽しんでいるように見える。鷲祐は完全に楽しんでいるようであるし) 火車は、右手を握りこんでいる。 その目は外を八割の力で流している鷲祐をじっくりと見ている。 鷲祐も絶好調。 全開で走ったときと同じくらいの距離を稼いでいる。 まだ、足音は聞こえない。 (――私には遠く手が届かない速さの世界だな) リセリアの目は鷲祐に。 風景が流れて消えていく。 「楽しめるだけの余裕を見せてもらえれば、周りの士気も上がるというものよ」 ● 速さとはいかなるものか。 世界に対する作用と反作用。 一呼吸の中でどれだけ距離という成果をもぎ取れるか。 今回囮の鷲祐は、現在アークの最高峰。 アタランテを追い込んでいるルア、リュミエールはそれに続く人材。 アークは、今回まさにアタランテを走り負かすための面子を揃えた。 アタランテは、その速さもさることながら「早さ」が群を抜いていた。 一呼吸が人より速いタイミングで行えたら? 人が一挙動する中、二挙動できたら? リベリスタなら、誰でもまれに感じる瞬間だ。 アタランテにとって、それは三度に一度は引き当てるごく当たり前のことだったら? 歩いている。アタランテは歩いている。 思いのほかの長丁場。 闘気の噴出を維持し続けられなくなったこじりは、改めて闘気を爆発させた。 リュミエールがビルの壁を蹴り、電信柱を蹴り、縁石をけり。 アタランテのはるか前に出た。 その脇を、深夜だというのにパラソルを差したアタランテがこここと高い靴のかかとを鳴らしてすり抜けていく。 ずっと止まることなく走っている。 それなのに、アタランテを振り払えない。 アタランテの動きには極端に無駄がない。 生きることをやめている分、全てが早く動くことに特化されているのだ。 アタランテが生前から望み、死を経て行き着いた境地。 これからエリューションとして、更なる進化を、更なる加速を始めるのだ。 ルアが息を吸い込み、アタランテに追いすがる。 トップスピードはルアが上だった。 アタランテははるか後方。 このまま行けば……。 「うふふ」 ルアの頬にキスして、アタランテはその横を通り過ぎる。 抜くことは出来る。 が、それを三十秒キープし続けることが難しい。 アタランテは歩いている。 そして、鷲祐の背中が見えた。 すぐそこに、ルアが目標にしていた鷲祐の背中がある。 たったの50メートル先。 四人にとっては誤差でしかない。 その脇を、今会心の走りをしたルアの脇を。 アタランテが歩いて抜いていく。 ルアを見る。 笑顔。 指が、パラソルの柄にかかって。 抜き放たれる、レイピア。 三日月みたいにつり上がる口。 待ってと叫んでも、アタランテが応じるわけがない。 アタランテの気を引くには、追い抜かなくては。 届かない。 後数十メートルがとどかない。 「楽しかったけど、追いついちゃった。つまらないから、命を頂戴」 なぎ払われる鷲祐の背中。 防御用マントがちぎれ、鮮血が噴き出した。 ● 鷲祐は、切り裂かれた背中をきにすることなく全力で走り出す。 背骨に届かんとする傷を負っても鷲祐は止まらない。 (今、俺は留まる訳にはいかないんだ――貴様など、俺の晩餐には似合わんッ!!) 上がる血しぶきが背後に長く尾を引いて、彗星のようだ。 「まあすごい。加速したわ!」 きゃあ! とアタランテが声を上げる。 その背を再びルアが抜いた。 アタランテの前を鷲祐とルアの二人が走る。 「ほんとに速いわ。あたし、負けちゃうのかしら?」 ここんとヒールのかかとを鳴らす。 アタランテの背後についたリュミエールはその声を聞いた。 「アタランテは走らない」 先を走っていたルアを抜きさり、再びレイピアが鷲祐に振るわれる。 「さあ、頑張って走って。あたしとっても楽しいから、あなたの足が止まるまで遊びたいの」 飛んでくる。鷲祐の血が飛んでくる。 ルアの髪に、顔に。 チームは完全にオフェンスモード。 回復術を持っている者はいない。 そんなことは想定すらしていなかった。 走っているのに、追い抜くのが役目なのに。 追いつけない。 アタランテは、はるか先で鷲祐を切り刻んでいる。 ルアの中で何かがはじけた。 (一つ、二つ、一歩ずつ大地踏みしめて、風に舞う花うさぎはアタランテを越えるわ) 風が背中を押す。 (だって、誰よりも速い彼をずっと目標にしていたから。だから) 何もかもがその間だけ、ルアに味方した。 ルアの気迫が、起こした風が、アタランテのリズムを狂わせ、その歩みを滞らせる。 「貴女に、負けたりしないわ!」 乙女は、妖怪を振り切り、目標も追い抜き、一呼吸では追いつけない高みに上りきり。 (俺を追い越せない場合も、ヤツにとっては存在意義の否定になるはずだ。フッ……『囮がアタランテと競える追い抜きより速い』 なんてのは、なかなかないからな) 鷲祐も更に加速する。 アークの速度部隊がよってたかって、速さの権化の自尊心と存在理由をすりつぶし、アタランテを立ち止まらせた。 ● 一般道を時速170キロノンストップで5分弱。 車は急ブレーキをかける。 「戦いとはこうでなくてはな。くっくっく……」 御龍は上機嫌で車から降りてくる。 「なるほどなるほど こうなったか……」 獰猛な笑みを浮かべ、車のドアを蹴り開けて、火車が飛び出してくる。 「そんじゃま……、速くぶっ潰させろや!」 三度噴出させた闘気をまとって、こじりは言う。 「さあ、殴り合いをはじめましょう。私が死ぬまで避け続けられたら許してあげる。避けられなかったら、つまらないから消えなさい」 「アタランテ……今まで何人の人間を手にかけた」 アイリが、ショートボウに矢を番えた。 普段は使わない弓を合えて手にしていた。 「あら、人数で、何か違いはあるの? たくさん殺した方が悪いって言う気? 人殺しは人殺しよ。それ以上でも以下でもないわ」 アタランテは唇を三日月に吊り上げて笑う。 次々と飛び出してくる臨戦態勢のリベリスタたち。 再開発地区の空き地に追い込むようにアタランテを包囲する。 今、攻撃すればアタランテも直撃は免れない。 「あたし、今、追い越されちゃった余韻にひたってんだから、邪魔しないでくれない?」 ざわりとアンリエッタの背があわ立った。 過去対戦したときの記憶が、アンリエッタの背中を凍らせる。 誰よりも速くアタランテが動いた。 「じゃ、みんなまとめて遊んであげる」 靴のかかとが鳴る。 アタランテの間合いにいた五人に、五人のアタランテが襲い掛かった。 どこをどんな具合に攻撃されたのかわからない。 気がついたら、いつの間にか体を突き通ったレイピアを持った女がけらけら笑いながら、人の頬にキスをしているのだ。 鷲祐は、御龍の前に体を滑り込ませて、代わりにアタランテの口づけを受けた。 「クリーンヒットしなければいいだけだ」 「ほんと、ソードミラージュは大好きよ。あたしに可能性を見せてくれる」 アタランテが振り返る。 「仲間はずれになんかしないわ。心配しないでね」 後衛に向かって踊りこんでくる、けっして走らない「早さ」の象徴。 戦うために砥いできた牙を振るう前に、リベリスタは瞬劇の洗礼を受けることになった。 走ってきたスピードを乗せたまま、アタランテに踊りかかるルアとリュミエール。 「3次元高速戦闘。コレモオイツケルカ?」 ルアの攻撃を避けたところ、わずかな隙間に体をねじ込ませ、建造物の壁を足場にして。 リュミエールのナイフが、アタランテをえぐる。 肩口が裂け、フリルをたっぷり寄せた布が飛び散り、地面に落ちる前に消えた。 「うふふ。あなた、どこに隠れてたの? 足が速いだけじゃないのね。面白いわ」 傷をいとわず、頭に掛かったもやを振り払った『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)。 寡黙に集中していた男が、握り締めた拳から打ち出された弾丸。 銃声は、二回響き、アタランテのどてっぱらに風穴を二つ開ける。 更に、恐怖も混乱も振り切って、やけにさばさばした表情のアンリエッタが鉄槌をアタランテに速度を乗せて振り切った。 どれもこれも、ここまで集中に集中を重ねた必殺の一撃。 実際、アタランテはかなりのダメージを受けているように見える。 傷口がやけにあいまいで、ぼやけた映像のようになっていることが既に人ではないのだとリベリスタ達に想起させる。 「狙うは足だ! 速度に、移動に、行動回数に特化しているならば、それを突き崩す!」 混乱したアイリの放った矢が、混乱した火車に撃ち込まれる。 「敵ですか!?」 今のリセリアには、味方を攻撃するものは敵だ。 ギリギリのところで踏みとどまっていたアイリは、その場に倒れた。 火車の拳が御龍を炎上させる。 こじりの矢は、火車に刺さった。 「今まで、どうして一人っきりのあたしがリベリスタ相手に生き残れてたのか、わかった?」 アタランテの戦闘の恐ろしさは、威力もさることながら、敵を混乱させての同士討ちを誘発することだ。 先の、アタランテを討ち取った戦いでも、チームの半分は混乱したのだ。 ● アタランテは、血まみれの鷲祐に投げつけられたりんごを平然と受け取り、しゃくりと白い歯を立てる。 「逃げてもいいのよ? あたし追っかけはしないわよ」 回復手はいない。 誰が敵で味方なのかの区別もつかない脳のうずきは、意志で振り払うしかない。 既に一人倒れた。 正気を保っているリベリスタは、改めて、お互いの位置を確認し、できるだけ巻き込まれないようにアタランテを包囲・散開した。 その上で必殺の技をねじ込むために集中を図る。 「仲間に殴られるのも織り込み済みってこと? 根性座ってんのね」 未だ混乱から抜け出せない仲間の苦鳴が聞こえた。 鷲祐がナノセコンドの攻防の末にもぎ取った先手によってもたらされたエアポケット。 投げつける3個のりんごで作ったアタランテの戦闘空白が、リベリスタにとって最後の切り札になった。 「これでもうおなかいっぱいだけど、まだ戦うの? さっきより傷だらけなのに」 傷の痛みも、仲間を傷つけてしまった心の痛みも、今は遠い彼方に。 集中で耳の奥がしんとする。 混乱から解放され、同士討ちさせられたこの怒りはいかばかりか。 それを高みの見物されるこの屈辱はいかばかりか。 存在の消失をもって、報いとしなければならない。 「アタランテ、俺は常に貴様の前だ。速さとは、己の限界に向き合う一つの形……意志なき速さで、俺は超えられん……ッ!」 「あたしは、速さだけを追い求めた意志の具現。じきにあんたにもわかるわよ。この境地が!」 鷲祐の刃は、吸い込まれるようにアタランテの体をうがち、切り裂く。 (そこまで何かを追い求めて、そして至った事実は……すごいと思う。けれど、その在り方は――認める事は、できない) リセリアの青味がかった細身の剣がアタランテの存在を否定する。 「くっくっく……まだ刀が振れるのはありがたいな。たとえ首だけになっても食らいつくつもりでいたぞ!」 御龍の一撃が、火車めがけてアタランテを吹き飛ばす。 「……完全にエンジンかかったぜ? 積んだニトロが焼き付くまで業炎撃でブッ飛ばす!」 まさしく爆炎。 それ以上の業は要らないと納得させる火力。 赤いドレスが炎のドレスと変わる。 「あたし、また死ぬのね! 今度は追い抜かれて死ぬのね!? 未練だわ! 未練があるわ!」 けたけたと、燃える女。 「覚えててね! あたしは、人混みアタランテは」 炎で既に体の輪郭は崩れている。 三日月につり上がった唇が炎の隙間から見え隠れする。 「一歩たりとも、走ったりしなかった!」 まさしくこれが最初で最後の攻撃。 「手数なんて関係ない、女はね、一撃に賭けるのよ。戦いも、恋愛も」 こじりの矢が、狂笑するアタランテの体を四散させた。 「そこのお嬢ちゃん。頑張ってリベリスタでいるのよ」 炎の残りがルアに向かって呪いという名の賛辞を放つ。 「堕ちたら、きっと。あたしのようになるわ」 その言葉を最後に、何も残らない。 全てをリベリスタに否定されたから。 「記念にレイピアトカ靴トカ、拾ウ気デイタノニ」 リュミエールは、ケチ。と呟いた。 |
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■あとがき■ | |||
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