●THE・修羅場 「この、このっ……浮気者ーー!!!!!」 ガラスが、コーヒーメーカーが、オブジェが粉々に砕けていく。 彼女から発生した鎖の1本1本が窓ガラスに突き刺さり、オブジェにも絡まって元あった原型を破壊しつくす。 これが、彼女の能力だろう。だとしたら、彼女はフィクサードなのだろうか? 「はぁ、ハァ……」 「ま、待ってくれよ連子。これには深い訳があってだな」 「深い訳? ま、まさかジュンジュン。こんなバケモノ女と付き合ってたって言うの?」 金髪にネイルメイクをつけた女子高生が問うと、それとは対照的に天パがかったウェーブヘアーの少女……連子は涙ぐむ。 「ば、バケモノとは何よこのヤマンバ! 純也を奪った泥棒女!」 「バ……ムカツク! ちょっとジュンジュン何か言ってやんなさいよ!!」 「えっ、あーあー……美紅も悪い奴じゃないよ?」 イラッ イラッ 「…………ハハ」 地雷を踏んだニット帽にちょいワルメな格好をした純也は、非常にバツの悪そうな顔。 無理もない。この男、連子の一途さに嫌気が差した所に言い寄ってきたこの美紅に浮気。 挙句の果てに連絡すらよこさず、ファミレスでいちゃついてる姿を目撃したのだからさぁ大変。 おまけに連子と会っていない間に、彼女自身が知らぬ間にフェイトを得ていたことが事態を 最悪の方向へと進めていた。 「て、店員さんに助け」 バキャッ! 鎖を飛ばし、押そうとしていた呼び鈴を破砕する連子。 それ以前に店員だって気づいてはいるが、周辺を取り巻く鎖の前にはうかつに近寄れない。 「……そーだ、この泥棒猫はどうしようかな。せっかくある力なんだもんね」 「ひ、ひぃ……」 「アハッ、泣いたって純也はヘタレだもん。助けてくれないよ」 次第に欲望に飲まれるように、金髪女の首に鎖を向けていく連子。 このまま純也の目の前で、連子が美紅を惨殺するのは時間の問題であった…… ●愛ゆえの悲劇 「このままだと、ズタズタにされて殺されてしまう」 『カレイド・システム』でこの修羅場を見てしまった『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は事の様相をありありと告げる。 フェイトを得た者による器物破損と殺人。 これだけ聞けば確かにフィクサードの仕業と思われがちだが、今回は様子が違う。 「見た感じ、みんな悪い気がする」 飽きたとばかりに二股を賭けた純也、その純也に言い寄ってきた美紅。 そして、激昂して、私欲のままにその力を行使しようとする連子。 それぞれに非があるものの、連子に限ってはまだ更生の余地がありそうにも見えた。 両者の関係修復はさておき。 「男の人ともう一人の女の人は一般人だったから、気をつけて。 ファミレスにいる人にも気をつけて」 こうなりえる以上、神秘を秘匿するのは非常に難しいのであまり考えなくてもいいだろう。 問題は彼女が激情した際の対処。フェイトを得て制御できたとはいえ、彼女はアークの存在すらもよく解らない。 最悪、連子が止まらない場合は殺害する必要性も当然ながら出てくるだろう。 フェイトを使いこなす1人よりも、それによって齎される一般市民の危害を止めるのが先決。それが『アーク』のやり方だ。 「がんば」 イヴはあまり関心がないのか、一言つぶやいて送り出すのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カッツェ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月16日(日)23:54 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●闖入者 「えっ!?」 「ちょ、君達誰!?」 間に飛び込んだ『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)を皮切りに、周辺に集まりだすリベリスタ達に面を食らう純也・美紅・そして連子の3人。 ただの痴話喧嘩か、はたまた修羅場か。 その様子に周囲はにわかにざわめき始め、漂い始める剣呑な違和感に巻き込まれたくない人はすごすごと一角から離れていく。 「私らがなんとかしてやっから、今はその場動くんじゃねえ。 今の連子に本格的に目を付けられると厄介だぞ?」 「あ、あぁ。うん、こういう子もいいな……」 目を一点に向けつつ、美峰に生返事をする純也。 その視線の先、彼女の胸に視線を移すその姿に、彼に対する美紅の視線も冷たい。 (このチャラ男、一遍死んだ方がいいんじゃねえか?) 美峰の本音は汲み取りたい所ではあるが、そこはお仕事として割り切ることとする。 「何だろう、野次馬か誰かはしらないけど……OK、落ち着け落ち着かないと」 連子は突然現れた一同に不信を抱きつつも、その行為にふと我に返った顔を見せた後、自分に強く言い聞かせる。 確かに見た瞬間、勢いに任せて解き放ちそうになったが今は忘れよう。 「大丈夫ですか?」 「うん、大丈夫」 その様子を見て、落ち着くよう諭す雪白 桐(BNE000185)をチラチラと見る連子。 その眼は不信よりも同類を見るような安堵の表情が垣間見えるが――。 「さっくり別れてしまって、他を探したほうがいいんじゃないんですか? 怒るだけ勿体無いですよ」 その一言に連子の顔が曇り始め、次に放たれた『釣り合ってない』という言葉に更に曇る。「そ、そうかなぁ……」 内心では不信が増大する一方、善意で衝動を押し止めてくれる相手を無碍には出来ないのか、表情は笑顔のまま話を続ける。 「あなたは周りの変化に気付いていますか。気付いていないなら周りを見てください」 「周りって……あ、あれ?」 そこには誰もいないガランとした店内。 店員もおそらくキッチンに避難し、残った客は店外に出ていったのだろう。 この場に居るのはリベリスタと、当事者である3人のみ。 「もう分かりますね?」 『下策士』門真 螢衣(BNE001036)は、連子が周囲を見終えた所で更に告げる。 「あなたの前で無様に震えている二人にはそれが分かりませんし、既にこの二人のたどり着けないところに来たのです」 もはや連子は純也にとって手の届かぬ存在、ならば全てを捨てて共にこないか。 螢衣は慣れない力を抱える連子に対し、自身の抱える力の強大さを説いて導こうとしたが、螢衣の言葉は届くどころか余計に彼女の心に暗雲をもたらしていく。 「……分からないよ、どうでもよくないよ! それにいきなり出てきて茶々入れて、一体何のつもり!?」 それが一時的な臨界に達したか。激昂と共にジャラッという金属音が彼女の手の中から響く。 一同に戦慄が走り、幾人かは身構え、美峰に庇われている2人は更に怯える。 「まぁまぁ、怒りたい気持ちもすっごく分かるけどちょっとだけ落ち着いて……ね?」 「――何か気に触ったようなら代わりに謝ります。 まずは落ち着いて、少し座って事情をお聞きしましょう」 それを見かねてか、『超絶悪戯っ娘』白雪 陽菜(BNE002652)が慌てて止め、同じく居たフォーマルウェア姿の青年の言葉にしばらく沈黙し、彼女は数度呼吸を整える。 「……ごめんなさい」 諭されるまま、落ち着きを取り戻した連子はおずおずと席に座って話を始める。 衝動に任せて力を行使する彼女には何かしらの禁句があると見るべきか。 説得は尚も続く。 ●だめんずと飼い主思考 「……なるほど」 フォーマルウェア姿の青年こと浅倉 貴志(BNE002656)は、連子の一通り話を聞き終えると納得したかのようにうなずいた。 「純也さんのような男性に、何か思い入れがあるのですか?」 「……なんだろう、純也を見てるとこう『浮気癖を直したい!』って思っちゃうのよね」 「だからと言って、美紅さんを殺した所で純也さんの浮気癖が治るとは思えませんね」 「しー! しー! なんでそれを……? でもほら、あんな奴の方が良いってなると凄く腹立たしいし……」 「…………」 連子の話を一通り聴き終え、見えてきたものがあった。 彼女にはまず、『欠点のある男を是正したい』という強い願望があること。 これは傍目にはいいことかもしれないが、当の純也がそれを気にも止めていない所を見ると却って仇になると言える。 次に、彼女は思ったより『嫉妬深く、独占欲が強い』こと。 美紅に取られたことで殺害衝動にまで駆られ、純也を取り戻そうとするその意思はフェイトの有無にかかわらず非常に危険な事だ。 桐と螢衣の説得で不信を想起し、激昂まで至らせたのは連子の独占欲―― 是正の余地があると思い込んでいる純也をポイと捨ててしまえという、その軽さが連子の深層にあるタブーに触れたからだろう。 試しに貴志が新しい出会いを諭した時も彼女の表情は密かに歪み、それを取り繕っていた。よりよい未来を築くためには捨てることも大事。そう問いても彼女の耳にはなかなか届かない。 何より忘れてはならないのは『彼女はフェイトを所持し、かつ不確定な要素であること』 今の心情を鑑みるにフィクサードに近いと言えるが、同時にリベリスタとしての光明もまだ無くはない。 それ故の話し合いだったが、難航を極めていた。 だが、その切り口は思いも寄らない所から発せられた。 「愛する事は覚悟する事だと、僕なんかは思っちゃうんだけど。そこら辺覚悟してた?」 残った一般人の避難に奔走していた『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)の発言が、膠着していた場に響く。 「……あんまり、なかった」 「じゃぁダメだわ」 それがどんな禁句だとしても、彼女はそれを言わざるをえない。 「…………」 どう贔屓目で見ても連子は甘い。そんな甘ちゃんな存在に対し、己の業を以て接する。 たっぷりの皮肉と、自嘲を以て――。 「僕はどっちでも構わない、君を敵だとみなしたらさっさと片すまでさ」 その締めに、「餓鬼にンなこと言っても時間の無駄」と吐き捨てて。 しばらくの沈黙の後、何かがりりすの頬を掠め、ほぼ同時に後方のガラス窓が割れる。 飛来したのは1本の赤い鎖。りりすの頬を伝う血と同じ紅い色。 「あんた達なんかに、あたしの気持ちがわかる訳が無い! みんな殺してやる、みんなみんな殺してやる!!」 溜まっていた衝動、捨てられぬ今。 少し痛い目を見せても此処で判らせる事が、彼女にとって良い事だと今は思う他なかった。 ●赤き鎖 「あっちゃー、こりゃしゃーねえ」 「おっかねぇ……大丈夫だよな?」 美峰がジリジリと2人を出口に誘導する。 この2人にはもっとお仕置きが必要だと感じたが、それで殺しては本末転倒だ。 「ささ、あとは任せてお二人さんはデートに行ってらっしゃい!」 出口まできた所で、陽菜が純也の背をドンと押して外へ送り出す。 「あいたーっ!? もう行こうぜ美紅」 「あぁもう、なんて女掴んだのよジュンジュン……」 ブツクサ文句を言いながら2人は外へ出ていく。一先ず2人が殺害されるという未来は回避されたわけだが―― 「まぁアレが出回れば少しは頭が冷えるだろ」 「そうそう! 連子の味わった心の痛みを思い知れー!」 見送る彼の背には『二股・浮気最高ー! オレは特定の彼女なんか作らないぜ!』とマジックで大きく描かれた1枚の紙。 それを貼った張本人――満足気な顔の陽菜の手には瞬間接着剤が握られていた。 「なら、何処かの漫画みたいに喧嘩してからお友達になりましょう」 『フィーリングベル』鈴宮・慧架(BNE000666)はしっかりとした態度でガントレットを装着し、構えを取る。 力の片鱗を見せることで彼女が納得するのであれば、それもまたやむを得ない。 「邪魔するなー!!」 連子の攻撃は単調でかつ見境ない、まるで素人の戦い方だがその破壊力は常人には十分な致命傷を負わせることが出来る。 避け損ね、多少の傷を負おうとも、それでも怯むこと無く慧架は耐え――そして、足を振り抜く。 「うわあぁぁっ!?」 同じくして、加減された真空の刃に無様に転げる連子だが、それを狙ったかのように呪印が彼女の身体を拘束する。 「まだやりますか?」 「ぐ、ぐぬぬぅ」 螢衣が言葉をかけるも唸るばかり。 確実に削げている戦意をさらに削るように、桐はまんぼうを模した巨剣で追い打ちをかける。 「その力があっても無くても、貴方ならまたやり直せますよ」 殺さないよう手加減を加える彼女であったが、それが隙を産み、鈍痛が心臓に絡みつく。 「ホントは、純也に繋げるつもりだったけど仕方ないよね」 「――でも、それは私達に使うものじゃないですよ」 桐の胸に食い込む赤い鎖。 それを断ち切るかのように振り抜いた一撃はあっけなく鎖をちぎり、連子を強引に連椅子へと叩き戻した。 「う、そ……」 嘘ではない。連子と同じ力を持った者らの力に、彼女はただ圧倒されるしかなかった。 ●真実と虚構 「――で、連子を引き取りに来た的な、そんな感じ?」 話半分に、美紅が『不屈』神谷 要(BNE002861)に尋ねる。 「それで大丈夫です。――話は変わりますが、私の目を見てもらえないでしょうか?」 「……カラコン入れてるっぽいけど、その眼がどうかしたの?」 「いえ、何でもありません」 ――他の面々が連子と話をしている間も2人をかばいつつ、要は美紅と話を進めていた。 意を決し、隠していた片目を見せるも、美紅も純也も似たような反応を見せる。 至って普通の目。その当たり前な回答の中にも、大きな虚構が埋もれている事に気づかずに―― 「……これ、なに?」 落ち着きを取り戻し、まじまじと要の片目を覗き込む連子。 眼は機械化によって変質しており、隠してない方の目とはその形状が大きく異なる。 傍目で見て、これに気づかないものはいないだろう。幻視によって、隠蔽しない限り―― 「ご覧の通り、私の目は普通ではありません。ですが、異能を持ってない方に対し、それを隠す術も持っています」 同時に、純也と美紅にも見せたものの連子のような反応は帰って来なかった。と告げる。 「それを聞くことは、貴方にとってマイナスにはならないと思います。ですから――」 要が最後まで言い終わる前に、連子がドン! と両手で机を叩き、身を乗り出す。 「教えて! こんな状態じゃ、またどこかでトンデモない事しでかしそうで……」 「ままま、それ含めて話をしようって事だよ」 息を荒げ、言葉をつまらせ、涙を浮かべ始める連子をどうどうと落ち着かせる陽菜。 疲れもあり、不安が大半を占めていた連子の気持ちが少しずつこちらに向いていく。 「――ええと、その異能な人達が集まってる組織が『アーク』だよね?」 「そうそう、今も一応能力は使ってるんだよ」 自分に対する事も含め、説明を聞いていく連子。 陽菜が発するマイナスイオンが連子の警戒心を解き、仄かに話の潤滑剤となっているのは確かなようだ。 「まぁ変態も多いけどな」 「変態も!?」 「今なら桐のおにぃぱんが熱烈なさーびすをして……」 「りりすさん、たんぱんじゃないのですよ? あ、気にしなくていいですよ」 やや慌てて両方の頬を引っ張る桐。 「うにぃ……」 力のこもった引張りに軽口を止められるりりすであったが、その姿は先程まで刃を交えていた相手とは到底思えなかった。 「分かった。だったら私もアークに入るよ」 「あ、でも1つだけ約束と言うかお願いがあるんだけど……」 言葉を濁しつつ、陽菜は改めて話を切りだし始めた。 純也と別れること。そして、アークに来る為にはまず、今ある全てを捨てなければならないことを―― ●花は散り、また咲く 「……やっぱり、だよね」 連子も覚悟していたようで、今にも泣きそうな表情で一同を見つめる。 「とりあえず少し落ち着きませんか? 可愛い顔が台無しですよ」 手鏡を渡し、見ながらぐしぐしと涙を拭く。判っていても受け入れられない、信じ切れない恐怖が彼女を取り込んでいた。 「アレはたまたま躓いた石ころ、次からは気をつけて歩いていけばいいだけですよ」 「あそこまでダメじゃない、それなりにイイ男はアークにも居るんじゃないかな」 「……でも、それって逃げにならないかな」 代わる代わる言葉を交わすリベリスタ対し、連子はポツポツと口を開く。 「なりませんね。 よりよい未来を築くためには捨てることも大事ですから」 それを、貴志がしっかりとした口調で締めた。 夕暮れ差し込む店内の一角で、大きな泣き声が響き渡る。 一つの恋と不幸な未来が、運命のいたずらによって滅びた瞬間だった。 「よーし、早速帰ろうか!」 しばらくし、もう立てる? とばかりに手を差し伸べる陽菜。 「うん、なんとか立てそう」 体の傷は美峰の傷癒術で癒えたが、心まではそうもいかない。 泣き腫らした目を拭いながら、連子は立ち上がる。 「同じ能力の方もいらっしゃいますよ、きっと出会いもあるかもしれません。 私も貴方と友達になりたいです」 「私も! 不束者だけどよろしくお願いしますっ」 慧架はにこやかな笑顔で微笑みかけ、連子はぺこりと勢いよくお辞儀する。 彼女がリベリスタとして、その力を十全に発揮できる日はそう遠くないだろう。 「ぁ、でも途中に美味しいソフトクリームのお店あるんだけど寄ってかない? アタシがおごるよ!」 「じゃぁ行こう!」 「行こうー!」 手をつなぎ、先に店内を出る2人を追うリベリスタ達。 同年代の友人ができた陽菜も、過ちを犯しながら救われた連子も笑顔のまま街へ繰り出す。 絆という鎖でしっかりと結ばれた彼らは、これからもまた戦い続ける。 明るく、そして血に塗れた新たな旅路を迎える彼女と、それを共にする心強きリベリスタ達に、正しき運命の祝福が有らんことを―― ● そして、陽菜の行く道はきっと笑顔に溢れることだろう……彼女のうっかりによって。 「あっ、切り忘れてた!」 「?」 ソフトクリームを食べつつ慌て始める陽菜と不思議そうに見る連子。 切り忘れに気づいたのは、ソフトクリームを買ってしばらく後のことだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|