● 「シミュレーション結果でました。だめです。今のところ想定できる介入では、対象は100%死亡、アンデッド化します! 個体の強力さもさることながら、拡散率がしゃれになりません。数日でT市は屍の町になっちまいます!」 「なんか手立てはないのか。アークの残存戦力すべて突っ込め!」 「今、ジャックの馬鹿にあおられた連中の対処でリベリスタみんな過労死一歩手前状態ですよ!」 「……あ」 「なんだ」 「いえ、あの、すいません。間違えて回収済みアーティファクトのリストも対象に入れちゃったんですけど、そしたら……」 成功率、78%。 「どれだ。成功確率を作ったアーティファクトは!? 今なら間に合う。数千、数万人を救えるぞ!」 オペレーターが、該当アーティファクトをモニターに出した。 「……これか」 「……うわ~……」 「なんというか……。劇薬ですな。いろんな意味で……」 ● 「はっきり言ってこの作戦しか提案できない自分たちに不甲斐なさを感じている」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の無表情に悔しさがにじんでいる。 「だけど、背に腹は返られない。みんなはいくらののしってくれても構わない」 更に無表情に開き直りが混じった。 「作戦目標はこの少年。彼は作戦当日限定で疫病神と死神に好かれてしまった」 護衛依頼かな。と、リベリスタは背筋を伸ばす。 「今回は、この少年をとある電車に乗せないのが作戦目的。彼はその電車に乗ると死んでアンデッドになり、常軌を逸した拡散性革醒現象によりこの電車に乗り合わせていた人全員がアンデッド化する。あとはねずみ算」 トレイン・オブ・ザ・デッド。 白線までお下がり下さい。生ける屍が降車いたします。 「乗ったら最後、いかなる介入をしても死ぬ。最初は殺人。それこそ乗り合わせた人間全員に介入したら、今度は列車事故。その次は不慮の偶発的事故。ひどいのではつり革で頚動脈が切れたりもした。列車内のあらゆる要素に介入したら、窓から看板が突っ込んできた。対策室総出でシミュレーションしたんだけど、100%死亡後、アンデッド化。この電車に乗ったら彼が死亡するのは、世界の成り立ちにおいて確定事項と化すという結論。この電車は彼にとっては地獄行き特急列車」 だから、この電車に乗せないのは、絶対条件。 「ただ、この電車に乗せないというのも至難。とあるアーティファクトを使わないと確定事項。ちなみにそのアーティファクトを使うと成功率は78%」 イヴは、視線をはずした。 「今回はテストケース。アークが回収したアーティファクトをリベリスタに貸与しての作戦は初めて。今回のケースに問題があれば、今後そういうことはないと思う」 ぼそぼそと早口。 「アーティファクトは……これ」 名前を言うのもためらわれるとモニターに出したのは、ガラスの小瓶だった。 モニターに映し出されたのは、青いガラス細工の壜だった。 ギリシア彫刻っぽい感じで、題材は少年。 それぞれ手に花を持っている。 ポーズがくねくねしてて、なんかえろい。 「これ、香水ビン。中の香水の名前が『ヒュアキントス』」 画面をよく見ると、花の部分がふたになっている。 中には確かに液体が詰まっている。 「この香水と壜が両方ともアーティファクト。『ヒュアキントス』を男性がつけると、男をめろめろにして理性をなくさせ、ひどく悲観的にさせる。そして、香水壜を持っている人間はつけた人間をコントロールすることができる」 これを回収する際、マジでリベリスタ同士でスキルまで駆使するおっかけっこがあったとかなかったとか……あくまで噂ではあるが。 いや、あれは誰が先に別働班に回収したアーティファクトを届けるかで競争になっただけですよげふんげふん。 「これを使って、彼を足止めする。それ以外の介入方法は試算では全て失敗した。彼の人生および、香水をつけることになるリベリスタの人生が若干横にずれるかもしれないけれど、少なくとも少年一人の人命は確実に救える。この日さえ乗り切ってしまえば彼が神秘に巻き込まれる可能性は今後限りなくゼロ」 イヴは、念のためと前置きした。 「アーティファクトは作戦終了後、速やかに別働班に渡すこと。私用で使ったのが確認されたり、持ち逃げを試みた場合、速やかに追っ手を差し向ける。みんなはそういうことをしない清廉なリベリスタだと信じている」 悪堕ち、厳禁。 「それから、中身だけ別の壜に移し変えても意味ないから、念のため。中身と壜一体で『ヒュアキントス』」 後ろを振り返る。 ドアに手をかける。 開かない。 なにこれ、電子ロック!? 「いくらののしってくれてもかまわない。この少年を30分誘惑して電車に乗せないで」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月01日(土)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 穏やかな晴天。 三條文隆は、このままでは二度とくぐれない家の門扉を開けた。 彼は知らない。 いつもの通学路、電車。車両。 自動ドアが閉まった瞬間、彼の運命は死に損ないの王として確定するということを。 とにかく、今回男性陣が主役なんだが、皆、悲壮感に満ち溢れている。 約一名を除いて。 『いい男♂』阿部・高和(BNE002103)は、リラックスした様子でベンチに腰掛けていた。 「聡、神夜、依頼は初めてかい? 肩の力抜けよ。隣、座れよ」 自分の両サイドを示す。 「え、私、駅に電車の確認に行くから」 『紅乃月夜』夏月 神夜(BNE003029)、女子高生みたいだけど、27歳の男の娘。 (アークには、『対変態依頼』があると聞いてはいたけどな……) はっはっは。変態だなんて。三條君はノーマルですよ。 とにかく、別働班との打ち合わせ済み。 公園の状況も教えてもらえる手はずになってる。 アークの男性陣の明日は俺が守る。 (……事態は、深刻だ。絶対に止めねばなるまい。しかし……酷く気が進まない……!) 長い沈思黙考。 『沈黙の壁』巌流 聡(BNE002982) 、今日は白マスク着用だ。 (……怪しい者じゃない、怪しい者じゃないぞ……!) いや、客観的に十分怪しい。 (妻はまた出て行ってしまったシ、こうなったラ心置きなく男と絡……じゃなく三條君を足止めせねばナ) 『夢にみる鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)、超幻視。ハンサム仕様。 結界張りながら、聡と一緒に潜伏中。 そして、リアルな恐怖を胸に抱く男、『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)。 (これより俺は……全力でヒュアキントスに抗おうと思う……!) それは男である以上、至難なんじゃないかな……。 (阿部さんが介入しようとしたら、全力で止める) 椿散らしちゃった心の傷はいかがなもんでしょうか。 (乙化したら寧ろ触らない) 腰が引けてるよ!? ちなみに、女性陣は変な緊張感がみなぎっていた。 『オオカミおばあちゃん』砦ヶ崎 玖子(BNE000957)の懐に、今回の切り札「ヒュアキントス」がある。 さすがにおばあちゃんのそこに手を突っ込む不届き者はいない。 悪だくみをしているお腐れ様はいるが。 『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)は、じっと香水壜が入っている辺りを凝視している。 (ついに、この手に戻ってくるのね、ヒュアキントス。そう、あなたも私の所が一番その力を発揮できるものね。参加できなかったエイミちゃんの為にも、チーちゃんと私で必ず取り戻してみせるわ!) 今アークで最もフィクサード堕ちが近いんじゃないかと懸念されている三人組の一翼。 チーちゃんこと『中身はアレな』羽柴 壱也(BNE002639)と目を見交わし、頷きあう。 「……面白そうだから来てみたけど、扉をロックされるとは思わなかった」 「なんで、逃げようとするんだろーねー。自分に素直になればいいのにねー」 ガールズトークに花が咲く。 「やっぱり、見てるだけなら、同性同士もいいよねぇ」 玖子さん? 「私は、意地っ張りな上官と受け身な少年兵とかが好みだった」 おめめをキラキラさせ、玖子の手をとり無言で何度も頷く十代二人。 それ、日本なのか海外なのか、時代設定によって趣が全然違うよね。 というか、それ以前に。 おまえもか、ブルータス! 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)にとって、ことはシンプルだ。 (性別や状況はともかく、要は一般人1人オとせば良いってだけの話だろ) 本人は意識してないだろうが、恋愛方面勝ち組の匂いがする。 (だからこそ、極力彼を歪ませる事無くスマートに終わらせたい) さすがテンプテーション持ちは経験値が違う。 男性陣、全員退避。 「いきますよー……」 しゅこ……。 花の香りをまとったエルヴィンの言動は、玖子の手の内に握られた。 事前に大まかな流れは打ち合わせはしてある。 あとは、「それっぽい言動を照れずに行う」 ここだ。 「頑張ってサポートする」 公園全体を見渡せる位置に植え込みの幻影。そこに女子が潜む。 もしものときにサポートするため、男性陣も匂いを吸い込まない距離をキープしつつ潜んでいる。 基本行動は任せたぞ、エルヴィン。 細かい演出は任せとけ、おばあちゃんとお腐れ様に! ● 彼の名前は、三條文隆。 バレンタインに靴箱がチョコで埋まるなんてことはないけど、机の中にこっそり一つの本命チョコが入っているタイプ。 曲がり角を曲がったところで、冷たい何かが顔にかかった。 押されて、しりもちをつく。 飛んでくスポーツバック。もつれるように倒れ込んでくる年上の男性(ひと)。 「あ、すまねえ。大丈夫か?」 ふわっと良い香り。 人好きする声色に、どくりと耳の中の血管が跳ね上がる。 「水だからべたべたしないとは思うんだけど、盛大に濡れちまったな」 謝りながら、肌触りの良いハンカチで手早く拭いてくれる。 なんか、笑顔がまぶしい……。 「きてます、効いてます!」 幻の植え込みの中のルア、声にしない絶叫。 (見ているだけでも、ドキドキしちゃう) 「なんか、あんた顔赤いな。熱中症じゃねえか? ちょっと休んでけ」 額、頬に触れる優しい指先。 ますます熱を帯びる三條君の頬。 「いえ、あの、学校に行かなくちゃ……」 ちらりと腕時計に目を走らせる三條君。 その手首をつかむエルヴィン。 「上目遣いでちょっと頬を赤らめて誘うの」 現在演出担当玖子さんの解説。 「年上の人が弱気になる瞬間。それにぐらっと来る少年と心の葛藤がすごくいいと思うの。理性と衝動の狭間で揺れる様が可愛くてもう食……」 「ですよね、ですよね、熱い眼差し。恥ずかしそうな表情+頬の紅。少し目線を逸らしているのもグッドよ! そうよね、突然出てきた運命の相手かもしれない人を直視なんて出来ないわよねそのいじらしい仕草がおいしいです!」 ルアさん、台詞かぶせ気味の補足ありがとうございましたっ! 確かに効果抜群。切なげに目を細める三條君。 「大人しくしてろ、フラフラじゃねぇかよ!」 最終的には強引にお姫様だっこで近くの公園まで連れ込んだ! 幻の植え込みの中から、声にならない勝どきがあげられたのは言うまでもない。 ● (嗅がないように風向きに気をつけ……。あレ? ナゼか急に風向きが変わったのダ? 駄目ダ! 吸い込んじゃ駄目……なの……ダ) それが正気のカイさんを見た最後の瞬間だったと、後に男性陣はポツリポツリと述べた。 運命は、あくまで少年を死に損ないの王にしようとしていた。 しかし、そんな未来をよしとは出来ない。 そんな彼らはリベリスタ。 エルヴィンから漂う柔らかな花の香りが、つむじ風に乗って辺りに振りまかれる。 悲しむべきかな、神秘の力はマスクじゃ防げない。 「良かったのかい?ホイホイ俺をメロメロにしちまって、俺は狙った相手はホンキで喰っちまう男なんだぜ」 ただいま三條君足止め中のエルヴィン、自分のあずかり知らぬところで超ピンチ! そう、まさに、阿部さんは、ノンケでも喰っちまう男に大変身。 ……え……? 今までそうじゃなかったとでも……? そんな阿部さんの前に悲壮感を持って立つ男、冥真。 運命の皮肉に目を潤ませる。 「了解した、私は正しく彼に惚れているのだらふ」 なぜに、口調が戦前文学一人称調。 公園の木立の影に見えかすれする彼は、今こちらに背を向けて自分ではない少年を手をとっている。 少年の命を救うための仮初の振る舞い、今のこの想いも仮初と知ってはいても、今胸をかきむしられるこの苦悩をやり過ごすことはとても難しい。 「然し、其れを口にするは適わぬ。三條の坊やを止めねばならぬ。こんな所で阿部さんになど身を任せてはたまらぬ」 しかし、あえて冥真は阿部さんの前に立った。 これも,この瞬間愛する男が使命を全うするため。 口に出来ない想いなら、彼の役に立ちたい。 「数千人の一大事はリベリスタが止めねば。だから貴方も貴方もここで止まれと申したい。欲望なぞに身を任せて後生他人から正視されぬ人生、そんなものは――」 阿部さん、いつの間にやら冥真の前からフェイドアウト。 「……なあ……」 冥真の背中に張り付き、超柔軟な肉体を駆使して、すくみ上がる冥真の耳元に決定的な一言を流し込もうとした阿部さんの耳元で、 「そ、そんな直接的ナ! もっとお耽美に、阿部さんギアチェンジなのダ」 うぉう、脳髄にしみこむインコヴォイス。 さすがの阿部さんもストライクとは言わないだろ、多分! 「華奢な体……艶やかな髪……思い切り抱きしめたら、傷付けてしまうだろうか?」 カイさん、阿部さんハグしたまま、その肩越しにいきなり冥真さんに超幻視アプローチ!? エルヴィンがふきださなかったのは、『ヒュアキントス』の支配下にあったからだ。 聡の眼力を込めた熱い視線が、そそがれている。 恐慌に陥るエルヴィンだが、表面上何のよどみも泣く三條君といちゃいちゃ中。 視線をエルヴィンに向けたまま、円を描きながらにじり寄るマスクの男、聡。 おもむろに上半身裸に! エルヴィンが悲鳴を上げなかったのは、『ヒュアキントス』の以下略。 更に、静かに、そして力強くポージング。 (対象の反応が悪ければ下も脱ぐ) せめて、あなたの一瞥がほしい。 だからエルヴィンからのリアクションがないのは、以下略! カイの腕から脱出した阿部さんも来るぜ。 「……この手、離したくねえな……」 作戦失敗以前の本能的危険を察したエルヴィン、三條君の手を引いてダッシュ。 まさしく、愛の逃避行! おまわりさ~ん、変な人がいま~す。 と、叫べない事情をどうかお汲み取りください! ● 神夜は、駅で問題の列車が問題の駅を出るのを待っていた。 運命はよほど三條君を死に損ないの王にしたいらしい。 いつも乗るバスはとっくに発車しているはずが、停留所にとまったまま。 道路は1レーンのみ、早朝ラッシュなんてどこ吹く風にガラガラ。 バスプールから自動改札、ホームまで、全速力で通ってくださいとモーゼの紅海割のごとく人の波が割れたまま、三條君の到来を今か今かと待っているのだ。 「まだ、がんばれ」 と、公園の仲間に連絡を入れる。 三條君の足止め終了まで、あと5分。 玖子は、握り締めていた香水壜をルアに握らせ、その上から自分の手を重ねた。 そして、ルアをひざの上に乗せて、抱きかかえてしまった。 「一応ね。アークの人にお願いされたから。逃がさないようにって」 ルアとしては飲まざるをえない。 というか、エルヴィンさんをコントロールしなくちゃ! (エルヴィンさんに少し強引にアプローチしてもらう事にするわ) ルア、やる気満々。 (頭を撫でたり頬を触ったりあまつさえ抱きしめ……はぅっ! どきどきしちゃう!) お腐れ様エンジン、ぜんか~い!! 駅で時計と首っ引き。 神夜は、カウントダウンを始めていた。 満員電車なのに、いつもの搭乗口のところだけ、ガラガラ。 それに何の疑問も持たずに行動している人々。 神秘の深淵を覗き込んだ神夜は、問題の電車が駅から滑り出していったのを確認すると、翼を翻して公園に向かった。 いろんな意味で仲間を救うため、出来うる限りすぐ帰るぞ。 信じて待ってろ、セリヌンティウス達! 一方その頃。 ルアの目はぐるぐる渦巻きだった。 (30分なんて短い! 短すぎるわ!!! もっと見ていたい……MOTTO!! MOTTO!! 熱い萌えだわ!) 腐女子の煩悩、ここに極まれり。 あごにひげ生えてるけど、エルヴィンさんは未成年です。 三條君は、十八歳以下です。 というか、ルアさん自身が16歳以下です。 それ以上いけません。 そこに駆け込んでくる女子高生的外見神夜。 ありがとう、君は救いの天使! 「あんたね、さっさと学校に行かないと遅れるじゃないの! それじゃ、ちゃんと伝えたからねっ!!」 きびすを返して、即刻離脱。 今息したら、とんでもないツンデレ女子高生もどきになってしまう。 「学校……だけど、あなたと離れるなんて、今の僕にはとても出来ない」 三條君の眼鏡越しの潤んだ瞳。 玖子が、ルアの手を香水壜から離させた。 「もう、熱中症は大丈夫みたいだな……」 男性陣は正気を取り戻し、動き出す。 三高平の男子の心身の自由を守るため! ● ルアはとっくにトップギア。 「さて……依頼が終わった事だし、返してもらうぜ?」 神夜の声が後ろに流れる。 (おばーちゃんの手から解放された時、それは解き放たれるDestiny!) 一度は手放した香水壜を再び玖子の手から取り戻し、いつの間にか少し離れたところにスタンバっていた壱也にパス。 「ルア! わたしたちの希望! お願いね!」 壱也は、殺到する神夜と聡を引きつけたところで、あらぬ方向に香水壜を大投擲。 ジーニアス最速ルアが走り込みながらキャッチ。 追っ手を引き離しにかかる。 目を見交わし、ルアを追いかける神夜と聡。 その様子を冷静に見ていた玖子は、にっこり笑った。 ルアの誤算は、ここがニュータウンだったことだ。 主要幹線に出るにはごく限られたルートを通らざるをえない。 そんなところはとっくに神夜やエルヴィンから連絡を受けていた別働班がさりげなくふさいでしまっていた。 「だめよっ!これは・・・私達の希望なのっ!」 手負いのうさぎを扱う繊細さで説得が始まる。 「もし、素直に返さないというのであれば……こちらも、最終手段に出るのみだ」 重々しく聡が言う。 「この胸でしっかりと抱き止める。胸に顔を埋めさせ窒息させる方向で」 先程見せていただいたポージングがフラッシュバック。 「彼氏に申し訳は立つのか?」 「ス、スケキヨさん……だ、だめよっ! そんなのっ」 お腐れ様とリア充は両立するんだよね。 それはそれ、これはこれ。 「しかたない」 「彼氏には悪いが、フィクサードにしてしまうよりは絶対に良いな」 神夜と聡は頷きあい。 聡が上着に手をかけた辺りが、ルアの限界だった。 ● (ルアちゃんは囮よ) 玖子は確信を持っていた。 大量のデジタル機器を抱えた壱也を追うのは難しい話ではない。 早々に取り押さえられた壱也に、玖子はにっこりと微笑みかけた。 「観念なさい。壱也ちゃん、持ってるわね、こういうの?」 玖子は、『ヒュアキントス』の壜を出して見せた。 「それ……っ!」 「色々用意してみたわ」 玖子が手の中で揺らして見せた色は、モニターに写っていた青色。 隠しポケットの中に入っているのは……赤紫色。 「騙された……っ」 偽物をつかませられたのだ。 その目線を追って、玖子の小さな手が壱也の懐から香水壜をつかみ出した。 「これもらっていくわね」 「いつ、いつ、本物と摩り替えたの」 「今よ」 赤紫の壜の底。 玖子は爪で引っかいた。 ぺろりとはがれる赤いシール。 硝子壜は元の青い色を取り戻した。 「あっ」 「はい。これおかえしします」 おばあちゃんはニコニコしながら、別働班に『ヒュアキントス』を渡した。 ルアが持ち逃げするドサクサに壜の底にシールを張り、超幻影で色は青いままにとどめ、二人に受け渡しをさせた。 幻影をといたとき、ルアの持っていた壜は青かった。つまり偽物だと判別できたというカラクリだ。 後は、シールのことを知らない壱也を、更に用意していた偽物を使ったはったりで観念させたのだ。 亀の甲より年の功。 「う……一度ならず二度までも……!」 騙されたっ。 そんな、壱也の肩をぽんと叩いた者がいた。 もしものときは、ルアを追う役を担っていたかもしれない『素兎』天月・光(BNE000490)が高らかに声をあげる。 「何が足りない!? 妄想が? エロスが? 断じて否! 足りないのは会場である! 全てを飲み込む祭典が足りない!」 確かに同じ趣味を共有できる仲間と楽しむ場所って大事だよね。 「ならば、ここにアークフェスタ2011冬の陣の開催を宣言する!」 それどういう催しなの? お祭りやるのは悪くないのかな? 祭典とか言ってるし。 誰かがぱちぱちと拍手を始め。 アークフェスタ2011開催は既成事実となった。 「さあ、これからアーックに報告に行くぜ」 緊張感。 エルヴィンの友達の車ということで、三條君を学校に送った。 阿部さんの記憶操作で朝の公園の思い出をうやむやにされた三條君は、熱中症の看病をしてくれた親切なお兄さんへの感謝の気持ちは忘れないだろう。 車内には、車の持ち主の阿部さんと、ナビとして阿部さんに引きずりこまれた冥真と、いないとおかしいエルヴィンと、なぜかカイ。 「同名の宿泊施設があったらすまない」 「まっすぐ三高平に向かってくれ」 ちなみに四人が三高平に戻ってきた時間は、昼前。 休憩は挟んでないんじゃないかなーという所要時間だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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