●白と黒の二つの勢力に分かれ永遠の戦争をしているチャンネルで 父親の肩車。 普段の何倍もの高さで、父の宝物を一緒に見る。 この時間が、私は大好きだ。 「ねぇ父ちゃん」 「うん?」 「私も……いつか、行けるかなぁ? 『異世界』に」 私と父の視線の先には、父が『異世界』で入手した地図が飾られている。それと、その傍には異世界の煙草の吸殻。 「そうだなぁ」 私はこの時間が好きだ。 異世界の物を見ながら、異世界の話を聴く。 そして父はいつもこう言ってくれるのだ。 「立派な軍人になったらいつか行けるさ」 いつか。 その日を楽しみに。 していたら、本当に行けてしまった。 訓練中の良く晴れた日だった。 気が付いたら、私は見知らぬ土地に居たのだ。 ここが異世界! 凄い、の一言だった。 私の世界のものと似ているけれど、でも全然見た事もないモノばっかり。 白いモノ!? 白軍……あ、そっか、ここって確か『戦争』が無いんだっけ。父が言っていた。 だから白いモノは敵じゃない。……けれど、生理的に神経を尖らせてしまう。 不思議な世界。平和な世界。不思議。楽しい。 なんて、はしゃいでいられたのも最初の内。 そういえばどうやって帰れば良いのだろう。 日が暮れた。暗い。ここはどこ。どうしよう。 早く帰らないと父と母に怒られる。お腹も空いてきた。 どうしよう。どうしよう。じわり、滲む目を急いで拭う。 軍人たる者、涙を見せてはならぬ。 軍人たる者、寂しいなど思ってはならぬ。 軍人たる者、怖いなど思ってはならぬ。 軍人たる者――…… 「ねぇどうしたの? 迷子?」 声を掛けられた。顔を上げると男が二人いる。 その肩越しに燃え盛る炎が見える。 「可哀想に……可哀想に……」 「可哀想に。それじゃ君も、燃やしてあげようねぇええ」 「ふざけるな曲者共めが! かかって来るがいいッ――我が前の敵は破壊あるのみ!!!」 異世界だろうが敵は敵だ。殲滅あるのみ。 ●ボトムチャンネルへようこそ 「サーーテえらいこっちゃのちゃんちゃこりんですぞ皆々様」 事務椅子をくるんと回して、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は集まったリベリスタ達を見渡すなりニタァと歯を剥いた。 「さっき御覧になった私の視た『運命』の通り、えらく可愛らしいアザーバイドが来てしまったのですよ。参ったもんですな。 『アザーバイドはフォールダウンはしませんが、崩界へ加担する為、排除するか元の世界に戻す事が必要になります』ってのはもうご存じでしょうが――」 言いながらメルクリィがモニターへ目を遣った。黒い軍服を身に纏った、黒いセミロングヘアの女の子。まだあどけない顔立ちだ。しかしその表情はきりりと凛々しく、本物の軍人である事を窺わせる。見た目は自分達と全く変わらない。 「アザーバイド『伍長』……『白軍』『黒軍』と呼ばれる二大勢力が延々と戦争をし続けている世界からいらっしゃいました。御覧の通り『伍長』は黒軍です。立派な軍服ですな。カッコイー。 『伍長』の世界は我々の想像がつかないほど科学が発達してるそうで。尤も、そのほとんどが軍事利用されてるそうなんですが。アザーバイドってのは本当に『何でもアリ』デスヨネー。 ですが逆に神秘的な事には疎いらしいですぞ。異世界だとかエリューションだとか、そんな事を全く御存知でないんです……『本来ならば』。」 メルクリィが意味深に言葉を切った。訝しむ一同を頬杖を突いてニヤニヤ見渡し、ややあって説明を続ける。 「彼女。一度このチャンネルに来た事のあるアザーバイドの娘さんなんです。詳しくは……そこに任務の報告書のコピー置いといたんで、興味が湧かれた方は御眼通しを。 サテ彼女が知っている事は…… 1、このチャンネルは自分の世界とは違うって事 2、なんでも自分はこのチャンネルにとってあんまり良くないらしい事 3、自分達の技術では到底出来ない様な事――つまり神秘的事象が起こる事 4、バグホールの存在、それによって帰れる事 5、アーク、リベリスタ、カレイドシステムの事 6、アークの敵――敵性エリューションの存在 7、父親がアークのリベリスタに恩義を受けた事」 つまり、とメルクリィが続ける。 「彼女はアークの味方です。皆々様から攻撃を仕掛けない限り、『伍長』が襲いかかって来る事ァ無いでしょうな。っていうか彼女、ああ見えて全身兵器で半端なく強いんで……まぁ、ケッチョンケッチョンのコッテンパンにされるのがオチですぞ、喧嘩売ったら。可憐な薔薇には猛毒がある、ですな。ん? 棘でしたっけ? まぁいっか」 相変わらずの真面目なんだか不真面目なんだかな調子でメルクリィは機械の腕を伸ばしてモニターを操作する。しながら言う。 「『伍長』は曲がった事は大嫌いな正義を愛する熱血家で愛国者……ですがなんだかんだで年齢相応、悪い子じゃあないんで優しく接してあげて下さいね。 それと、黒い服の者には好意的かもしれませんな。白い服でも攻撃される事はないでしょうが……生理的にピリピリしてしまうかと思いますぞ。軍服には興味津々ってなるかもしれませんな。 あと言葉は普通に通じますんでそこんとこはご安心を。バグホールの場所は資料に示しておきましたんで、『伍長』はそっから元の世界に帰してあげて下さいネーん、っとォ――御覧下さい」 リベリスタ達に向き直ったメルクリィがモニターを掌で示した。火炎放射機と人間が合体したかの様な不気味なエリューションが二体映っている。 「ノーフェイスフェーズ2『ホウカマ』。これが『伍長』に襲いかかろうとしています。 別に彼女の実力なら負ける事はないのですが……ま、分かりますよね皆々様? こんな所で人外同士にハデにドンパチされちゃったら。 『ホウカマ』二体の討伐、且つ『伍長』の送還……って事になりますな、今回の皆々様の任務は」 サーテ……事務椅子をゆらゆら回してメルクリィが膝上で機械の指を組む。どうやら説明はまだあるようだ。 「実はもう一個問題がありますぞ。メンドイ? ファイト一発ですぞ。まぁ耳かっぽじってお聴き下さい。 この『ホウカマ』。火を用いるんですよ。それによって攻撃してきますぞ。業火が伴う場合がありますんでご注意を。それとコイツらは火炎・業火の状態異常にならず、炎系の攻撃に耐性がありますぞ。使用スキルは計画的に。 そして厄介な事にコイツらが放火してるんですよね~ここの……この植え込みに。 一般人が来る可能性はほぼゼロなんですがね、この火が燃え広がったら野次馬やら消防車やらが来る可能性大ですぞ。先ずはこの火を何とかする事ですな。皆々様の到着時にはまだ小火程度ですから、消火器とかそんなんで対処出来る筈です。 ――以上! 私からの説明はお終いですぞ」 ニッコリ、メルクリィが機械の目玉でリベリスタ達をゆっくり見渡した。 一間の後に、言い放つ。 「ではでは、頑張って下さいね皆々様! 皆々様なら絶対に出来ると信じておりますぞ。 ……お気を付けて!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月30日(金)22:44 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●炎の夜に きっと子供たちで賑わうのだろう昼の賑やかさとは一転、シンと静かな夜の公園。 すっかり冷たさを帯びてきた秋の夜風に一つ結びの赤髪を靡かせ、到着したばかりの『アブない刑事』鳶屋 晶(BNE002990)は現場を鋭く見澄ました。 「今回の敵は放火魔……確実に現行犯逮捕するべき相手ね!」 滾る警察の血に任せて拳を握る。彼女を始めリベリスタ達の服装は黒尽くめであった。普段は白いシャツにどうも不思議な心地がするらしい晶はシャツを摘まんでみたりするが、『深闇を歩む者』鷹司・魁斗(BNE001460)の様に普段から黒服を好んで着る者にとってはそんな事とも無縁らしい。 そんな一人である『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は黒尽くめの普段着と咥え煙草の煙を夜風に揺らしていた。 (子供の前でカッコつけられるのがイイ男の条件だって話だし。そんじゃ一つ異世界の軍人さんに、ご挨拶と行こうかね) なんて思い、吐き出す紫煙と共に呟く。 「……尤も。僕は性別『僕』だけどな」 流れ霞む煙。その行く先を目で追った後『犬娘咆哮中』尾上・芽衣(BNE000171)はもっふりとした尻尾の先を少し揺らした。 「アザーバイトって今までの依頼の報告書から大半が闘わないといけないと考えてたけど、以外に友好的なのもいるんだねー」 仲良くなれたらいいなぁと思うも、その前にやらねばならぬ事がある。ノーフェイスの討伐――被害が広がる前に何とかせねばなるまい。話を聞いた時に慌ててしまったのは内緒の話だ。 「異世界からの訪問者の護衛、か」 『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)は肩を回す。件のアザーバイドは自分達より随分と強いそうだが、アークのリベリスタに対しては好印象らしい点はありがたい。 「迷子はしっかり保護して親元さんに届けませんとー」 黒いブレザーを身に着けた『飛刀三幻色』桜場・モレノ(BNE001915)がその糸目を緩く笑ませた。その傍ら『ディアブロさん』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)は口元を邪悪な魔王の如く微笑ませる。 「ロボ子っぷ! しかもロリ付随! ……ご馳走様です」 上官プレイとか駄目だろうか?駄目ですよねきっと。仲間達のジト目が痛い。「御免、僕が悪かった」と肩を竦めるノアノアの格好は学ラン。軍服なんてねーよ!あるのコレと黒の水着だけだよ!との事らしい。 「そうか……タイサにも娘が居たのか……」 黒の軍服に良く映える銀髪を掻き上げ『NOBODY』後鳥羽 咲逢子(BNE002453)が呟く。まさか偶然出会ったアザーバイドの娘とも会う日が来ようとは。身に着けるその服はあのアザーバイドと会った時にも着ていた物だ。 「彼には先輩として色々な事を教わった。今度は私が後輩を教えてやる番だ――そうだろ? 皆!」 振り向いた咲逢子の言葉に一同が頷いた。 ●伍長、応答セヨ! 「私に戦いを挑んだ事、死を以て後悔するが良い!」 アザーバイドは挟撃の形で放たれた火炎放射をバリアで防ぎ、解除するや左手のガトリングをぶっ放す。その背中をもう一体のホウカマが焼こうとして――横から投げつけられた道化のカードに阻まれた。 「――おいおい、こんなところで騒いだら近所迷惑だろ? それに、火遊びは禁止だぜ」 駆け付けた魁斗が影の従者を召還しつつ不敵に笑う。突然の乱入者に驚いたのはホウカマだけではない、伍長もまた目を真ん丸くして現れた八人を凝視していた。 「こんばんはーっ! 私はアークに所属するリベリスタ、後鳥羽咲逢子少尉だ! ゴチョウ、『万華鏡』は知っているな? 援護しに来た!」 口に手を遣り咲逢子は精一杯の声を張り上げる。彼女の言葉に伍長は一瞬ポカンとさせるも――直後。 「ゴトバサアコ……あッ、あの後鳥羽咲逢子少尉殿でありますか!? はわぁ! 本物だ本物の咲逢子少尉殿だぁ! はわーー!!」 まるで憧れのヒーローに出会った子供の様な。全身で喜びを表しているその元気な様子には安心するも、その隙にホウカマ達が銃口を向けている! しかし炎が発射される事は無かった。モレノのスローイングダガーが、ディートリッヒの剣が二体を攻撃して押し遣る。 「大丈夫ー?」 「俺たちはアークのリベリスタ、カレイドシステムでお嬢ちゃんやこいつらの事を知ったワケだ」 言い切りと同時に爆砕戦気を纏ったディートリッヒが伍長へ目を遣りニッと笑う。 「それと帰る為のバグホールの位置も知ってる。 年下の可愛い女の子がけなげに戦っているのに、年上のおっさんの俺が指くわえてみているなんてできねーしな……微力ながら加勢するぜ」 戦力は彼女一人でも十分すぎる程だが、そこはリベリスタとしての矜持が許さない。りりすと共にホウカマ達へ躍り掛かって行く。 伍長は現実感の無い出来事に喜びつつも感心して辺りを見渡していた。そんな彼女へ芽衣が声を掛ける。 「大佐さんの娘さん! あれの放火を抑えたいから一緒に中央へひきつけ御願いできますかー?」 「これ以上延焼すると一般人が被害を被る可能性があるわ! お願い、敵を中央部に引き付けて!」 公衆便所前の水道にホースをセットしている晶も声を張る。 「ここじゃ、殺り合い難いだろ?」 ホウカマをギャロッププレイで縛り上げた魁斗も視線を送ると、伍長は威勢よく敬礼して胸を張った。 「父が皆様に受けた御恩、今こそ返す時――お任せ下さい! この伍長、命に代えても作戦を遂行するであります!!」 「そりゃ頼もしいね。……頼りにしてるよ?」 ハイスピードによって身体能力のギアを上げつつりりすが彼女を横目に口角を持ち上げる。 そうと決まれば時間を稼ぐのみ。あるいは、小火を消すのみ。 「これはガクラン。ガルガンチュア・クラウン・ランサーと言う部隊の軍服だ。 第一ボタンを外すと戦闘準備完了、第二ボタンを外すと夜の戦闘準備完了だ!」 恋人募集的な意味で。学ランの第一ボタンをはずしつつ(ちなみに学ランの中は水着という完璧っぷり)言い放つノアノアの言葉に伍長は興味深そうに頷く。 「ホホゥ……夜戦用の軍服もあるとは実に興味深いであります!」 アラこの子ったら完全に意味を取り間違えてる。まぁいっかと薄く笑い――ノアノアはホウカマを悠然と指差し高らかに。 「おい、ホモカマ野郎。僕の魔眼から逃げられると思うにゃょ?」 やっべ、噛んだ……ので、エネミースキャン!敵の能力・状況解析を行い仲間達を颯爽と指揮する。 「行け、敵はそこだ。取り敢えず当たって後は流れで宜しく! って皆聞いてないね。もういい、我は火消しするもん……」 無駄に第二ボタンも外しながら燃えている植え込みへ向かう。晶が持ってきたホースを受け取り火へ向け、ここぞとばかりにがんばってる感アピール。 「ボヤは消化だー、ですっ!」 モレノは準備した消火器で火を消して行く。芽衣は砂場の砂を乾燥砂代わりに消火活動を行い、晶も慣れた手付きで次々と消火器で火を消して行く。仲間達がホウカマを抑えてくれた事で、そして公園中央部へ引き付けてくれた事で安心して消火活動が行えた。 「大丈夫、消火器の取り扱いは警官時代に何度も訓練しているもの!」 手際良く栓を引き抜くや消火剤を火に振りかける。――やっと小火は収まった様だ。良し、皆で目を合わせ頷き合う。 自己強化を済ませるや一斉に地を蹴った! 「邪魔はさせないぞー!」 芽衣が鋭く斬風脚を放ち、同時に晶もサイレンサー付きのオートマチックを犯罪者へ真っ直ぐ構える。 「止まりなさい! 止まらないと撃ちます! 止まっても撃ちますが!」 言うや放つスターライトシュート。放たれる炎を一直に貫いてホウカマを怯ませた。 「ちょっと大人しくしてろよ」 そこへ魁斗が気糸でそれを縛り上げ、愛憎殺戮エゴイズムを振りかぶったりりすが正面から超速で一気に間合いを詰める。 ふー。どこか魚を思わせる光のない赤瞳が異形を見遣った――かと思った瞬間に叩き込むのは澱みなき連続斬撃。押し遣り、追い詰める。 一方ではメガクラッシュでもう一体のホウカマを吹き飛ばしたディートリッヒが深く息を吐いた。体銃に火傷があり、更に火が纏わりついている。舌打ち。 「大丈夫ですか? 今、治すので――あちちちちちちちちちっ!?」 そこへ傷癒術を施すべくモレノが寄った瞬間。りりすや魁斗を炎で薙ぎ払ったもう一体が放った火炎放射にディートリッヒ諸共巻き込まれてしまった。 「いいか、マキーナ、これからこの世界の神秘を見せてやる」 ちゃっかり伍長の傍に陣取ったノアノアが不敵に笑むや――学ラン前全開け!お胸様こんちゃっす! 「神秘=おっぱい×サイズ×形状――ブレイク・フィアアアアア!!」 ※ブレイクフィアー=邪気を退ける神々しい光を放ち味方全体を苛む危険を打ち払う技 (全ッ然神々しくねー……) なんてディートリッヒは眉根を寄せるも、彼を始め仲間達を苦しめる業火は消えた。バスタードソードを握り直す。 「楽しませてくれよ?」 体勢を立て直した魁斗はブラックコードをしならせ跳躍する。晶はスターライトシュート、芽衣は斬風脚で援護を行い、りりすは敵の注意を引き付けつつ超直感を用いて仲間達へ指示を、モレノは回復支援を行ってゆく。因みにノアノアはおっぱいミサイルとかのラーニングを期待してガトリングをぶっ放す伍長をガン見している。 戦闘は不得意、という訳で斬風脚による支援をしていた咲逢子は傍の伍長へ目を遣った。丁度バリアによって彼女とノアノアごと護ってくれた伍長へ話しかける。 「ゴチョウ、君の特殊火炎放射で彼奴等の炎を抑えられないだろうか?」 「ハッ! お任せ下さいであります、咲逢子少尉殿!」 言うが早いか伍長が目にも止まらぬスピードで超加速した――ヒュン、とリベリスタ達を通り過ぎるや息を吸い込み、ホウカマが撒き散らす炎へ青い炎を吐き掛けた。青い炎は赤い炎を一気に消しやりホウカマの火炎放射機ごと氷結させてしまう。 そのまま伍長は口を閉ざして火を止めつつ、加速に乗って手榴弾の栓を二つ引き抜いた。 「皆様どうか動かないで下さい!」 投げ付ける。爆発――あれが回復道具だとは知っているが、如何せん手榴弾を投げられるのは心臓に悪い。とは言え回復手榴弾の爆炎と爆風はリベリスタ達の傷や炎を奇麗に消し去ってくれた。 「うむ! ナイスだゴチョウっ」 「ハッ! 光栄であります咲逢子少尉殿!」 咲逢子の言葉に心底嬉しそうに伍長は急ストップして敬礼してみせた。 「……うわぁ。やっぱり伍長さん強いなー」 芽衣はどこか遠い瞳で伍長を見遣ったが、今は感心している場合でもない。ホウカマをキッと見据えるなり間合いを詰めて魔氷を纏った拳を振りかぶる。 「凍れッ!」 強烈な氷撃はホウカマを殴り伏せると共に更に凍りつかせた。そこへ晶がスターライトシュートを撃ち込み、あちらこちらを足場にしたモレノのソードエアリアルが電光石火の剣戟を見せる。 「そろそろ、終わりにしようぜ」 ふらつくホウカマを狙い定めるのは狼の眼光、魁斗の黒いオーラ。 破滅の一撃。頭部を叩き潰されたホウカマは半歩よろめいた後にどしゃりと頽れた。 残るはあと一体。自棄になったホウカマが無茶苦茶に放つ炎を突破しディートリッヒが剣を振り上げる。 「テメェの火より熱い俺の心の炎を燃やすぜ」 全身のエネルギーを剣に込めて――刹那に伍長が彼の横に飛び込んできた。目が合う。彼女の左手指には光の剣。頷き合った。 一閃! 切り裂いてぶっ飛ばす、強烈無比な二つの豪撃。 「……!」 吹き飛ばされつつもホウカマが銃口を向けた。咄嗟に魁斗が庇いに入り――更に異形の目前にりりすが、愛憎殺戮エゴイズムの刃が現れる。 「そして。子供を守ってやれるのがイイ大人の条件だって話なのさ」 自分は年長者としての義務を果たすだけ。 超速連撃の利己主義は敵を切り裂き引き裂き切り刻み――殺戮完了、光速の技は返り血の付着すら許さなかった。 「ひゃー……危なかった危なかった」 モレノはホッと息を吐き、 「ありがとうございますッ!」 伍長は自分を庇ってくれた魁斗へ敬礼と共に礼を述べ、 「ぽやっとした子はほっとけない性質なんでね」 彼は悪戯な笑みと共に軽口一つ。 ●さよなら伍長 バグホールへ伍長を案内しつつ、芽衣はモレノと共に彼女と楽しく会話していた。 「チュウカリョウリ、でありますか?」 「そうっ! とっても美味しいんだよー」 「俺的には縁側でお茶もオススメかな~」 芽衣は尾を振りつつ、モレノは糸目を柔和に笑ませ、伍長も年齢相応な笑顔を見せて。 「……可愛いねぇお嬢さん」 ぱはーと煙草の煙を吐きだしつつりりすがニヤッと笑う。 「! ……」 伍長は素早くりりすへ振り返ったが、そのまま反論に困ってムゥと唸って顔を戻してしまう。 (僕は、この手の子を甘やかすのが大好きなんでね!) ニヤ~リ、どこか鮫を思わせる牙を覗かせて、彼女の頭へ遠慮なく手を乗せる。お土産であるキャスケットごと。 「お土産。あげるよ……また遊びに来たまえ。今度は、僕が甘い物を食べさせてあげよう」 なんて言いつつ手を離せば伍長が頭上に乗った帽子を手に取った。その中にはりりすが大佐に宛てた煙草の箱が一つ。 「……、」 このまま素直に礼を述べればまた子供扱いされた様な気が。でも良い物を貰ったからには礼を述べねば。ああでも。子供臭い葛藤。 「~~、ありがとうございますっ」 煙草はポケットに、キャスケットを軍帽の上からギュッと被り目を隠しつつそれでも結局は感謝を。りりすが愉快気にくつくつ咽を鳴らしたのは言うまでも無い。 「そうだ、私も」 りりすがお土産を渡したのを見て晶も香水を取り出した。彼女が普段付けているのと同じ物だ。 「好みに合うといいんだけれどね」 笑みと共に差し出されたそれを伍長は興味深げに受け取った。しげしげと眺めつつ、 「これは何という兵器でありますか?」 「ふふっ。それは――そうね、女の子の兵器かも」 どうやら彼女は香水という物を知らない様だ。果たして伍長のチャンネルに香水というもの自体があるのか分からないが、晶は一応使用方法を説明しておいた。 楽しい時間はあっと言う間。かくしてバグホールの前に辿り着く。 「親父さんも心配しているかもしれないから、気をつけて帰れよ」 ディートリッヒの言葉に伍長は元気良くハイと答えた。そんな彼女の頭を魁斗が柔らかく撫でる。 「気を付けて、帰れよ」 伍長は一瞬間を開けたのち、少し気恥ずかしげに頷いた。嬉しさ反面、年齢相応のシャイなのである。 「次来た時は、この世界を満喫させてやるぜ。家族で来な、OK?」 ノアノアは敬礼と共に微笑んだ。敬礼を返しバグホールへ一歩進める伍長、それを待てと呼び止めるのは咲逢子。 「私がこの世界の事を色々取った写真集だ。風景だったり、一緒に戦った仲間達だったり、そんなものが写っている。 ゴチョウの父上もこちらの世界の地図を持って宝物にした。だったらゴチョウも、これを持っていって父上に自慢してやれ。 大事にしてとは言わないが、私達の事を忘れないで欲しい」 そう言って渡すのは写真集。伍長はそれと咲逢子を交互に見つつ受け取るなり敬礼一つ。 「ありがとうございます咲逢子少尉! 上官殿の事はいつも父から聴いておりました! 父はいつも上官殿やその御友軍達に礼を述べておりました! 皆様がおられなかったら私はもう二度と父に会えませんでした……私とて野垂れ死んでいた事でしょう! こうして実際にお会いできた事、父と共に助けて頂いた事、贈り物まで頂いた事っ……ありがたき幸せであります! 勿論、頂いた物はそれはもう大切に! 一生……否、末代にまで! 大切にするであります!! ありがとうございますッ!!」 言葉に連れて伍長の目にはどんどん涙が。それを袖で拭うや、また敬礼を。 「写真集、と言えば……撮ります? 写真」 そう切り出したモレノの手にはポラロイドカメラが。 ――はい、チーズ! パチリ。 フラッシュ、そして……静寂。ブレイクゲートによって閉じた時空の歪。 「また来る機会があるか知らなねーが、ともかく無事帰って欲しいもんだぜ」 中空を見詰めてディートリッヒが微笑んだ。そうだな、とノアノアは答えるが、その直後にハッとする。 「ラーニングしてたけど……そういえば僕、ロボじゃねーからおっぱいミサイル出ねーや」 問題はそこか?という皆の突っ込みはさておき。 ●遠いチャンネルで 「――ただいま!」 少女は家に掛け込むなり父の胸に飛び込んだ。 おかえり、の言葉の後に遅かったな、と窘められ、その後にその荷物はどうしたんだ、と訊かれたので――笑顔と共に話し出す。 「あのねぇ………、」 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|