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<Blood Blood>マリオネット・ダンスナイト


 かちょかちょ、かちょかちょ。
「さぁぁて、お立会い。皆様、人形劇の始まりデス!!」
 夜半の繁華街、路行く人々は飢えていた。
 何に?
 笑いに。
 ジャック・ザ・リッパーなる異常な殺人者の行った所業により、人々の間にはえも言われぬ不快感と、纏わり付くような焦燥感にも似た不安感を抱えていた。今まで自分達が生きてきた世界に対する猜疑心とも言えるかも知れない。ずるずると引きずっても切れない糸のような、それは間違いなく人々の心に根を下ろした混沌の種だ。
 彼らは日常を取り戻したいのだ。少なくとも、それが人間の心の常である。唐突に現れた大道芸人の誘いに、抗えるはずも無かった。
「お集まりの皆々様、ではではご覧くださいマセ。これより始まるのはやさしくて悲しくて、愉快な人形達の舞踏会。さぁさぁ、もっと前へ!」
 幌を被せた軽トラックの前に立ち、人垣に囲まれたその人形師は、針金のような細い身体をタキシードに包んでいた。細くもありながらそれを感じさせない力強い矍鑠とした動きで指を繰るその男の顔を覆う仮面は、見る者が見ればイタリアの即興喜劇に使われるハーレクインの仮面であると気付いただろう。針金の身体は弾けるように動いたり、しなやかに曲がったり、その度に指に繋がれた糸が僅かに煌めき、人形達はおどけた踊りを始めた。どのような仕掛けなのか、人間大の人形を一度に4体、その動きはまるで生きた人間のように滑らかだった。滑稽な仕草の無言劇を彩るその男の歌に、人々は見入り、喝采し、拍手を送る。ほどなくして人形達がくたりと力を失うと、地面に置かれた籠に沢山のおひねりが投げ入れられる。何度も何度もお辞儀をすると、ぱっと手を広げる針金。声がふっと止んだ。
「お喜びいただけたようで何より、何よりでございます。次なる演目は、皆様にもご参加頂きますコメディ……」
 ふっと手を上げると、すっと手を下ろす。その動きに呼応するように、人形がぱっと立ち上がった。
 次は何があるんだろう。
 笑いがほしい、心に平穏がほしい。人々は目を輝かせて、次の動きを待った。
 人形師の唇が釣り上がる。かたかた、と人形がゆれる。
 次の瞬間、人形達が弾け跳んだ。
 がちゃがちゃがちゃ! と音を立てて飛び上がった人形達は、最前列で人形劇を見ていた4人に抱きついた。
「え?!」
「ちょ、ちょ……」
 4人は、知り合いではない。ただこの人形劇を見ていただけの、赤の他人。
 しかしそれでも、人間だった。戸惑うその顔を見て、人形師の笑みが深くなる。
「それでは、是非とも楽しくお踊りくださいませ」
 人形の頭が、がばっと横に開く。顔の中に在ったのは、大きな大きな一本の針。
 人の1人は、簡単に殺せる。
「ちょ、ま」
 1人が声を上げようとした。
 その声は、もう永遠に上げられることはない。
 ぞぶん、と針が男の口腔を貫く。
 少年の喉を突き、少女の右目を抉り、青年の頭蓋を破る。
 ずぢゅう、と何かを啜り上げるような音が辺りに響き渡る、その段階になってようやく、周囲から絶叫が巻き起こった。人々は我先にと逃げ出す。となりのひとを足蹴に、まえのひとを引き倒し、叫んで走って、踊る。踊る。
「……醜い。醜悪ですな」
 人形師が嘆きの声を漏らし、首を振った。かたかた、と4体の人形が立ち上がると、満足したように頷く人形師は、軽く手を振った。糸から開放された人形達は、繰り手の手を離れて尚動くと、逃げ惑う人々に襲い掛かり始めた。まるでダンスにでも誘うように手を取ると、力任せに引きちぎる、首を折る、人形達と、踊る。
「やはりナマモノよりは、人形の方が優れている。素晴らしい。美しい。もっともっと、人形を増やさなければ」
 ぱっと手を広げる。トラックの幌がぱっと空を舞うと、そこには先ほどより精巧な人形が収められていた。
「まずは、手駒を増やして、増やして。こんなに無造作に壊れてしまうし、年月経れば容易に劣化するし、何よりこんなに醜い感情を備えている。汚いナァ……」
 溜息をついて首を振る。常軌を逸したその物言いを否定する者はいない。人は全て狂ったように逃げ惑っている。周りにいるのは人形だけ。
「ほらほら、もっと踊りなサイ。踊って踊って、もっともっと。あぁ、醜いが故に美しイ。この光景は美しイ!!」
 繰り手の糸が離れても、彼らは変わらず人形だ。
 ポーン。ナイト。ルーク。ビショップ。
 がたがたとゆれては踊る人形の夜。
「これだけ騒げば、この国のリベリスタさんも出てきますかなぁ。ふぅぅ……楽しみスギていますかねえ」
 指揮者のように指が宙を舞う。楽器は人々の悲鳴。踊れ踊れと嗤う。嗤う。
「まずは力を手に入れて……ふぅム、ジャック・ザ・リッパー。彼の巻き起こした混沌は、調和をもって旨とする私にはいささかならず不愉快ですが、しかしとても動きやすい。そしてその混沌の性質はさておき、彼は美しい。力も容姿も……あぁ、次は彼ですかねェ。彼の人形は既に用意してあるんデス。あァ、楽しみですねェ。永遠に、美しいママ、強くて美しい混沌の君を……」
 熱い息を漏らすと、ぶるりと身震い。
 びしゃりと飛んだ血飛沫が、ハーレクインを真っ赤に染めた。


「人形師ハーレクイン。それがこの敵の名前」
 映像を止めた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、不愉快げに眉を潜めた。この道化のような男は、人間の心を認めていない。人格を認めていない。人間そのものを、認めていない。そんな男が巻き起こすであろう大虐殺を、快く思うわけがない。
「危険は……わかるわよね。ハーレクイン自体が強力なフィクサードで、その上彼独自の技で生きた人形を使役するの。血を吸った相手の性質を人形に取り込む。一般人相手なら命を吸われるだけ……だけど、覚醒した者が吸われれば、とても厄介。それに、見たら判ると思うけど。彼が現れるのは何の変哲もない繁華街。交戦を始めれば間違いなく、パニックは起こる。戦うなら、気をつけて」
 高笑いするハーレクイン。それをさめた目で見つめる少女。
「変わるから、いいんじゃない。人間は」
 その存在を、世界は許容しない。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕陽 紅  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月05日(水)23:25
●敵情報
・ハーレクイン
フィクサード。異名は『人形師』。
クラスはプロアデプト。スキルはプロアデプトの初級及び中級を一通り。
手下の人形は、彼が気絶もしくは死ねば一斉に動くことを止める。

・アーティファクト
『ミッドナイト・マリオネット』
最大4体まで操れる人間大の人形。頭部内の針を突き刺し血液を吸うことで、操作のいらない自動人形となる。命の性質を写し取る為の吸血であり、人形の力をその命が上回っていた場合は本人の容姿能力その他、人格以外の全てを完全にコピーし、ハーレクインの為に戦う。
初期状態ではハーレクインの強化装備のように扱い、コピーに成功した場合ハーレクイン自体が弱体化する代わりにリベリスタのコピーが生まれることになる。


・マリオネット
生きた人形達。それぞれ4体で1セットのユニット扱いであり、1セットでリベリスタに抗し得る程度の戦闘力。
共通して、近くに一般人がいる場合そちらを優先的に攻撃する。
しかし、主の危機の際は集結してその護衛を行う。

・ポーン
最も弱いが、最も一般人を狙う。近くにいる場合だけではなく、放っておけば自ら殺すべき人間を求めて街中を彷徨いだす。

・ナイト
剣と盾を持つ人形。クロスイージスの初級スキルを持つ。物防が高め。

・ルーク
無骨な人形。マグメイガスの初級スキルを持つ。神攻が高め。

・ビショップ
僧侶の人形。ホーリーメイガスの初級スキルを持つ。神防が高め。


●STより
おはようございます、夕陽 紅でございます。
今回の敵、見ての通りの変態というか虚無主義。ある意味最高の平和主義なのかも知れませんね。
リベリスタ達の力を人形に吸わせれば、戦力は増える反面フィクサードの護り自体は手薄になります。
サポートは避難誘導やら神秘の隠匿などの助力にどうぞ。

醜いことはいいことだ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)
プロアデプト
天城・櫻霞(BNE000469)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
クロスイージス
レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)
ホーリーメイガス
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
インヤンマスター
一任 想重(BNE002516)
インヤンマスター
駒井・淳(BNE002912)
■サポート参加者 4人■
クロスイージス
ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
ナイトクリーク
クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)


「……おや、おや、コレは」
 老人が顎を撫でてほう、と息を漏らす。目の前には、喚声が響き渡っていた。思い返せば、トラックを転がしてこの街の一角に落ち着いたその瞬間だ。通行人が軒並みどこかに移動し始めたのだ。突然の出来事に少し面食らった老人にも、何事かはすぐに判った。
「さあ皆様、アリスお嬢様と九十九様の心躍るショーが始まりますわ♪ こぞって御観覧下さいませ~♪」
『ヴォーパル・バニーメイド』ミルフィ・リア・ラヴィット(ID:BNE000132)や『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(ID:BNE002570)が道行く人々を呼び寄せている。エリス・トワイニング(ID:BNE002382)、そして此方からは見えない反対側では『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(ID:BNE000313)が道を封鎖していた。覚醒者に幻視は通用しない。その目には、彼女らが何者であるかは予測が付いた。そこまで来れば、自然と思考の道筋はつく。
「ほぉ、情報は抜けていましたカ。なかなかどうして節穴ではないデスねぇ……」
 たんたん、とトラックのハンドルを叩く。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。楽しいショーの始まりですぞー」
「はあい♪ 皆様、これから始まるは、可愛らしい動物さん達の心温まるショー、さあみんな、お客様にご挨拶……♪」
 『怪人Q』百舌鳥 九十九(ID:BNE001407)は口上と共に客の目を惹き、『童話のヴァンパイアプリンセス』アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(ID:BNE000128)が空色のエプロンドレス姿でうさぎのステッキを振る。直接確認こそ出来ないものの、そのざわめきはここからでも聞こえる。
 娯楽に飢える市民を寄せる蜜の誘惑、それを掃うが為に先んじて甘い蜜を撒く。彼らの策は、その誘惑を断つと言う点では確かに有効だった。
 ただし……
「しまった!!」
 始めに気づいたのは、『深闇に舞う白翼』天城・櫻霞(ID:BNE000469)だった。AFを通し全員に連絡を通す。
 いくら人寄せをすると言えど、出現を確認してから開始するならばそれなりに近場でイベントを起こさなければ意味がない。そしてそうしたならば、多少の知恵さえ回れば意図には気付くだろう。人払いの結界が張られるのを待つほど、怪人は人が良くはなかった。アクセルをべったりと踏んで急発進する。『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(ID:BNE001406)がタイヤを破壊しようとするが、急な動きに対応が遅れ、パンクさせるに留まる。がたがたと、不自然な揺れを起こしながら暴走するトラックが道を封鎖する看板を跳ね飛ばす。そのまま角を曲がり、路面を削る。人の集まりかけた異音に振り向いた一般人を跳ね飛ばして急停止する。止まったのは、リベリスタ達の予定した襲撃地点とイベント場の中頃程度。いち早くスクーターで駆け付けた『背任者』駒井・淳(ID:BNE002912)が追いついた頃には、既に針金のような老人は仮面に手を当ててくつくつと笑っていた。荷台ががらがらと音を立て、人形達が屹立する。老人の周りには、鉄の轍に身を横たえ動くことの出来ない一般人が数人。
「今ひとつ……ツメが甘かったようですネ」
 ぱっと手が舞う。簡素な人形が4体。じるじる、と赤い河が流れた。追いついたリベリスタ達が歯噛みする。力を持たない人々の絶叫が、街角に木霊した。


 4種のマリオネットがハーレクインの周りに立ちはだかる。それを指揮するように指を動かすと、まっさらな人形が4体、ハーレクインを護るように取り囲んだ。
「せめて、これ以上犠牲は出させない……!」
 櫻霞が唇を噛んで突進する。その道を、ナイトが阻んだ。4体で1つの動きをする自動人形がその盾を一列に構える。盾に阻まれながらもそれを掻き分け、喰らい付く。どす黒いエネルギーが人形から奪い取られる。淳が後方から印を結び呪文を唱えると、呪札がハーレクインを取り囲もうとする、それを簡素な、剣と盾のみを握った人形が阻む。未だ犠牲者の血に塗れたその体が呪印封縛を受けて凍りついた。
「庇うということは、呪縛されれば血の入っていない人形を動かす事は出来まい」
「出来レバの話で御座いますがネ。人形ならぬ醜い貴方がたに出来るかどうか」
 睨み付けるその目を、おどけた仕草で受け流す。その様子を見て、『バーンドアウト行者』一任 想重(ID:BNE002516)が三白眼を吊り上げた。
「人の醜さなど貴様に語られとうないわ、道化者。美質を感受するもまた人の心なるぞ。心持たざる、永遠なるモノを美しいと感じるお主こそが、もっともそこから……」
「迂遠であるのもナマモノの醜悪さですな。要点だけ話して下さいますか」
「ぶっちゃけゆーと、お主キモイ」
 仮面の主を指差すと、その指が早九字を切る。守護結界が仲間の身を包んだ。『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(ID:BNE001523)がそれに続く。
「人間が醜いならあんたも立派に醜い人間でしょうよ」
 想重の背中に手を当て、癒しの力を注ぎ込む。不愉快そうに顔を顰めると、言い捨てた。
「でしょうネ。しかし、いずれはこの身も相違なく永遠のモノに……」
「……そんなに好きなら引き籠って遊んでなさいってハナシよ」
「では、遠慮ナク。ビショップ!!」
 仮面の老人が大仰に腕を広げて呼びかける。僧侶の人形が人ならざる声で唱えるのは、味方に飛行能力を与える翼の加護。無骨な人形がふっと飛び上がると、掌から一斉に火球を撃ち放つ。その炎は地に落ちると共に爆発的に膨らみ、想重とレナーテを巻き込んだ。老人はにたにたと嫌な笑みを仮面の下に隠すのみ。
「そうやって後ろに隠れているつもりか。人形は言ってくれないだろうがな、お前は気色悪いんだよっ!」
 前衛に飛び出し叫ぶアウラールがライフルを構える。放たれた十字の光がビショップの1体を撃ち貫き焼いた。脅威を感じたのか、残りのビショップがかたかたとアウラールに無機質な瞳を向ける。
「アリスさん、カバーお願いなの!」
 『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(ID:BNE001611)がイベント会場から追い付いたアリスに声をかけ、即座にダメージを食らった想重を天使の息で癒す。その間にアリスが魔曲・四重奏を老人へと撃つが、人形に阻まれ打ち消された。
「ひぁ、な、何が起きて……!」
「大丈夫。落ち着いて逃げるのですぞ」
 九十九が逃げ遅れた一般人を密かに避難させ、感覚を研ぎ澄ませた。待ち伏せ班と陽動班で、丁度ハーレクインを挟む形だ。攻防を巡り、戦いは加速する。櫻霞がたん、と一歩下がり気糸を鋭く腕から飛ばした。人形の守りも抜け、老人の腕の一点を強烈に貫く。びくりと腕が跳ねて、だらりと下がった。その糸遣いに、僅か嬉しそうにハーレクインが口角を吊り上げる。再び呪縛を敢行しようとする淳の一撃も、札を振りほどき割って入ったポーンに阻まれた。
「成る程、成る程。確かに少しは……」
 呟きながら、燕尾服が舞った。
 指の動きに従うように4体の従者が両腕を繰り動かす。それぞれの指から生まれた気糸が上下左右、風切り音すら生まずにリベリスタ達を襲う。ぱっと下がったナイトの間を縫って、櫻霞と想重、それにレナーテの手足を穿ち貫いた。ぱっと大量の血が空を舞う。それをも響かせるような清らかな詠唱、ルーメリアが天使の歌を歌う。血煙を縫って、姿勢も低く駆け寄り銃杷を腕に叩き付けるように膝立ちに構える怪人・九十九が弾丸を撃ち出す。貫通力を増したその弾丸は空中で弾け無数の散弾となり、僧侶の人形に鉛の雨が轟然と叩きつけられた。ぎちり、と軋む。雨は人形を貫き羽を消し飛ばし、地に落下させる。ぎちぎち、と軋みながらも人形は詠唱し、破損を修復し、立ち上がった。
「ふむ、良い射撃……それに見た目も私好みデスネ」
 呟くハーレクインも無視し、レナーテが自らの役割を全うしようと未だ燃え盛る体に鞭を打ち、走る。櫻霞は前衛、しばし思い悩むが、駆け寄りオートキュアを施した。
「先ずは、厄介な回復役を……」
 アウラールが尚も前衛でジャスティスキャノンを放つ。癒えた傷を更に打ち貫かれ、ぎしぎと軋む。仕手無き敵陣に、一陣の風が舞い込んだ。攻撃の為に空いたナイトの隙間を縫い、燃え盛る体をレナーテのリジェネレーションで癒しながら、想重は錫杖からすらりと大太刀を抜き放ち、ハーレクインへと肉薄する。
「御覧じ所ぉ! 此れにあるは葛城護法一任坊、沙門想重の戦振舞い! 命冥加を知らぬ馬鹿は見料無用、今生此の世の見納めと、目ン玉剥いてとっくと見ろ!」
 二閃、一太刀を人形で受ける人形師、返す刀が袈裟懸けに切り裂いた。浅いが、確実な一太刀。
「ほっ、届いた。宜しい宜しい合格デス!」
 傷口を押さえて愉快げに距離を取るハーレクイン。刀を振り切った想重の背後に、4体の騎士人形が踊りかかる。背に負ったハンマーを振りかぶると、同時に振り下ろした。魔落の鉄槌、背中と頭を強打され地面に顔を打ち付ける想重。
「先ずは、その醜い生の頚木から解き放って差し上げマショウ」
「ふざけないで!」
 叫ぶのはアリスだ。
「確かに私も可愛いお人形さんは好きです……けれど、それで『今』を生き、進歩する『人』や生き物を否定して、殺して良いなんて事にはならないです……!」
 突き出したステッキに火球を点す。高熱を秘めたそれを思い切り振りかぶり、思い切り飛ばす。爆裂した炎はルークを巻き込みハーレクインを灼いた。辛うじて飛び下がっていたハーレクインはまだしも、呪縛されたままのポーンは回避の術も無く炎に呑まれた。
「成る程威勢の良いお嬢さん。しかし進歩もあれば劣化もする。特に見苦しさと言うのは私の厭うものデシテネ!」
 意に介さない。すっと指を上げると、未だ上空にあるルークが各々一つずつの魔法陣を展開し、一斉に撃つ。 魔曲・四重奏。先ほどから執拗に呪縛を敢行する淳を4色の魔光が貫き、貫かれた淳がその体の異常に崩れ落ちる。毒に蝕まれ、血を流しのたうち、体を動かすことも困難だ。同時に、貫かれた弾痕から魔力が流れ出切ったビショップががらりと崩れ落ちる。駒の一つが陥ちて尚、仮面の男は余裕を崩さない。
「デハまずは……宵闇を」
 ハーレクインの気配が、変わる。ぎゅうと目に見えぬ糸が鳴ると、3体の人形が櫻霞と想重、そして九十九の目の前に顔を突き出した。喉の奥から嘔吐でもするように生まれた針が、三人の腕に、胴に、突き刺さる。血を吸い上げる音。一瞬、くたりと人形の動きが止まる。変質が始まった。その眼が、鼻が、服や武器から髪の一本に至るまで。瞬間、三人の前に己自身が現れたのだ。
「そして、良い旅を」
 ぎる、と糸が鳴り、ひん、と刀が奔り、だん、と散弾が放たれた。鏡写しの一撃に、櫻霞がたたらを踏み、心臓こそ外しつつも胸を貫かれた想重が崩れ落ち、九十九は顔の前に腕を組み、急所こそ外したものの弾丸を全身に受ける。知識こそあっても面妖すぎる光景だ。
「しかし、コレには感情がない。ですな」
「だからこそ、美なのデス」
 薄く笑う。仮面の老人と同じく素顔を隠す九十九に、しかしその気持ちは理解できない。
「人間好きな物は、過度に神格化してしまうものですよな……」
 ぷっ、と仮面の中で口にたまった血を吐き出し、ため息を吐く。人形には人形の、そして人間にはその良い部分。見るつもりのある者なら、そもそもこのような所業には出ないだろう。ショットガンをポーンに向けると、通すまいと轟音を響かせる。衝撃のまま後ろに吹き飛ぶ人形、再びハーレクインの横に押し戻される。その間に、ナイトが再び後退さるとハーレクインを囲むようにポーンと布陣を組んだ。即ち、少なからずリベリスタ達に脅威を感じた、この表情に乏しい悪鬼達の感情の表れである。まだまだ、とばかりに体を持ち上げ吶喊する想重。大太刀がナイトを切り裂くが、ハーレクインには届かない。
「やはり、浅イ。折角のその力も、挟雑物なき人形達の連携には遠く……」
「違う。貴方は独りなの」
 己に酔いしれていた仮面の老人。そのしわがれた夢を、断ち切る一言。
 天使の歌の響きの余韻もそのままのルーメリアの一言に、がちり、と音がする。それは、何かが崩れた音なのか。仮面を押さえて老人が目を剥く。
「違ウ」
「違わない。人形操って、結束しているように見えても、貴方は孤独」
「違ウ!」
 余裕が崩れた。その一言にどのような重みがあったのか、ハーレクインにしか知れない。積み重ねて否定され続けた、その余裕。その一言は、或いはその為の柱だったのかも知れない。
「どれほど否定した所で、貴様のビショップは崩れたぞ人形師。他者を笑わせぬ劇作家に、人形の気持ちすら分かるものか」
 櫻霞が再び鋭く気糸を放つ。動揺するハーレクインは咄嗟に避けるが、その糸は仮面を叩き落しながら肩を貫いた。
 からり、とハーレクインの仮面が落ちる。
「その、顔――」
 麻痺する淳に危機を感じ、盾となるべく前進しながらブレイクフィアーを唱えた、直後レナーテが息を呑む。削げた鼻、空ろな目に瞼はない。顔は歪み、不気味に引き攣れている。
「醜いと思いますカナ?」
 かたかた、と楽しげに笑う。異相の老人は動揺を押し隠し、むしろ仮面を外した己を誇るように両手を広げた。地面の仮面を拾い、哄笑する。
「それで良イ。やはり人間は詰まらナイ。さて……」
 またしも、雰囲気が変わる。仮面を被り直した男は、かたりと後ろを振り向いた。
「このまま戦りあっても、少し分が悪イ……まず、本日の目的はあらかた達成致しましたシ」
 す、と腕を上げる。想重と櫻霞、そして九十九を模した人形が、すっとハーレクインの横に飛び下がった。
「本日の目的は、『力を手に入れる』コト。さあて皆様、今宵の劇はこれにて終幕。またの御来演を、お待ち致しておりマス」
「マズい!」
「敵を囲むの!」
 逃走。
 それを警戒していたアウラールとルーメリアが咄嗟に反応するが、2人では手が足りなかった。
 ハーレクインを狙うアウラールのジャスティスキャノンはナイトに阻まれ、ルーメリアは天使の歌を唱えたばかりで詠唱が間に合わない。
「それと、これは置き土産デス。さ、私に構っている暇はアリマセンよ」
 ぱちり、と指を鳴らす。ルークがその手のひらを四方に向けると、民家へと容赦の無い爆炎を撃ち込んだ。奔るハーレクインは、九十九とアリスの追撃を、2体の人形を器用に繰っていなし、その眼前にルークが立ち塞がる。
「お嬢サン……出来れば貴女も頂きたかったのですガネ」
 僅か一瞥、仮面の下の目がちらりとルーメリアを捕らえ、そのまま闇夜へと消える。追いすがろうとするリベリスタ達だったが、自身へのダメージも構わず魔法を撃とうとするルークと、道に立ち塞がるナイトとポーンを放ったままにしておくわけには行かなかった。狂乱の人形師を取り逃がし、歯噛みする。
 眼前の悲劇を未遂に終わらせる。今のリベリスタ達にはそれしか出来なかった。

 消火と避難を終わらせ、残りの人形を片付けた頃には、仮面の男の姿は町から消えていた。一般人を食い散らかすほどの暇を得る余裕がなくなる程には、さすがの人形師も手傷を負っていたようだ。何より、今回の殺戮がこの男にとって目的である以上に手段だった、ということなのだろう。火災による死傷者は出なかったものの、人形に命を奪われた4人の死は、覆ることがない。
 しかし、リベリスタ達は予見する。垣間見えた人形師の目。みどろに濁った狂気と絶望の目。あの目は確かに告げていたのだ。いずれ、再び合間見えることがあるだろう、と。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 遅くなり大変申し訳ありません。
 穴を突いたようなリプレイになりましたが、難易度上、そして練熟のフィクサードであれば、僅かな隙でも逃さない。である以上は、このような結果を出させて頂きました。

 彼の執着と狂気は、つまるところ、動揺した瞬間のその一言に。