●伝説伝染 「ねぇえ~ん。助手ちゃーん? この間の放送見たぁ?」 「斬り裂きジャックの放送の事ですか? そりゃあ勿論見ましたけど……それが何か?」 薄暗い地下。 血の臭いが蔓延る嫌な空間の中で、男女の気さくな声が紡がれた。部屋の様相と全くマッチしないその声は依然として続く。 「凄いわよねぇ。あれが伝説の狂気って奴かしらぁ……それにこんな凄いのもくれるだなんて、お姉さん気が昂ぶるわぁ……!」 ジャック・ザ・リッパー。 彼の放送ジャックは実に影響があったと言わざるを得ない。各地に潜む殺人者、あるいはその兆候があった程度の者ですら彼の放送を見た者は行動を移したのだから。 狂気の伝染――とでも言うべきだろうか? この凄まじい影響力は。 そして、戸田・恵理子。白衣を身に纏う彼女もまた、その一人であった。 ――アレと同じ道を歩んでみたい。 そんな思いを抱く程に、押さえきれぬ高揚感が伝説を目の当たりにした彼女の内を駆け巡っていたのだ。事実、メジャーリーガーから送られてきた芋虫の様なエリューションを前に、彼女は狂喜乱舞状態だ。 「……で、そんな“凄いの”に一体何をしてるんですか?」 「見て分からないの? 改造手術施してんのよ――テキトーにだけど」 「折角貰った物に何しとんだアンタはぁ――!?」 助手のツッコミが飛ぶ。 エリューションの前、恵理子が何か作業をしていると思ったらそう言う事だったのか。何余計な事してんだこの人は。 ……しかし、よくまぁこんな強力なエリューションを…… 助手は感慨深く、そう思う。彼らから送られてきたソレは、想像以上に強力なエリューションだった。これほどの物を操るなど普通は無理だ。果たして、向こうはどんなデタラメな方法を使っていると言うのか。 「まぁ細かい事は置いといて、助手! そろそろコイツ連れて外行くわよ外!」 「はぁ。でもどうやってですか? ソイツもう入口よりでかいですよ?」 「……あっ」 言われて気付くその事実。 強化の為に様々な薬を投与した結果、やたら大きくなってしまった。これでは外に出す事が出来ない。何と言う凡ミス。 「押すのよ助手! これ以上モタモタしてるなんてシンヤちゃんに申し訳が立たないわ!」 「無理ですって。絶対無理ですってコレ。ほら、こいつもなんか嫌がってるじゃないですか」 「知ったこっちゃないわ――! ほら早く、行ーきーなーさーいーよー! 伝説に、乗り遅れる訳にはいかないんだからね……!」 陽気な会話。傍から見れば、実にアホらしい内容だ。 しかし忘れるなかれ。彼女達からは常に人の血の臭いがしている事を。 彼女らもまた――ジャックの伝説に魅せられた異常者にすぎない事を。 ●機会は今 「貴方達は今からここに向かってもらう」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の告げた先は、ある建物だった。イヴの話によると、そこはどうも廃ビルらしく。 「正確に言うとここの地下。あるフィクサードによって実験場として改造された所」 「……実験場?」 リベリスタの一人が不穏な単語に反応を見せる。 ――実験場。それは一体どういう意味での実験場なのか。 「調べてみたんだけど、どうもそこでは…………人体実験が行われているみたい。この付近での行方不明者になった人達も結構いる」 「やっぱりそう言う意味――か……で、俺達は何をすればいいんだ?」 うん、と続けるイヴ。 「目標は主犯の戸田・恵理子、及びそこに居るエリューションの撃破だよ。 ……でも、気を付けてほしい。今回の人達はジャックの放送に呼応しての行動を起こそうとしてるみたいだから、エリューションも含めてかなり強力。特に今回のエリューションは曲者でね……途中でその姿形を“変化”させるみたい」 「変化だと?」 訝しむリベリスタの表情を真っすぐ見据え、イヴは淡々と言葉を紡ぎ、説明を続ける。 「むしろ“進化”と言って良いぐらいだけど……詳しい資料は後で配るからそれを見て欲しい。とにかく、彼女達を止めて。もし彼女達が強力なエリューションと共に街に繰り出す様な事になったら――どんな被害が出るか予想もつかない」 確かに、こんな危険な者達が外に繰り出したら危険な事になるのは間違いない。少なくとも死人が出るのが当たり前のレベルをしでかすのは間違いないだろう。 だが、それは逆に言えば今ならば被害を押さえて連中を倒せる好機でもあると言う事だ。 「……皆、お願いね」 念を押したイヴの言葉に、リベリスタ達は深い頷きを返した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●虫は虫 蝶とは元来、生と死に関連深い生き物とされている。 復活の象徴、不死の象徴、あるいは仏の乗る物であるとか……地域によって解釈に違いはある物の、概ね“生と死”の概念と共にある。 とは言えそれはあくまでも人の考えの中で生み出されたイメージだ。故に、蝶達が本当に生死の概念に携わり存在しているのかは不明の極み。結局の所“分からぬ”の一言で片付けられる。 されど、ああされど。人のイメージがそうであると言うのなら――人の意思によって手を加えられた蝶には、ソレが“真として存在する存在”と成りえるだろう。 ……まぁそれは宙を優雅に舞う蝶の話であって、狭い入口に未だ悪戦苦闘する芋虫の話では無いのだが。 「邪魔くさいなぁ……とりあえず、早くどいてよ」 そしてそんな絶大の隙を見逃すリベリスタでは無い。『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)の所有する長大の鎌が、芋虫の体に円弧の軌道を描いて叩きつけられる。 ――激突音。響いた音の直後に、芋虫の姿が僅かに後退する。 いや正確に言えば後退させられた、と言う事べきか。僅かに後退しただけなのはその後ろに壁、もとい人が居たからであり、 「ち、ちょ、ちょっと何事――!?」 突然の衝撃に驚く女性の声が耳へと届く。だがそれに対する返答は二つ目の衝撃で。 「いきなりの訪問悪いね。押しかけリベリスタ、だよッ!」 最後の言葉と同時に、『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)の一撃が芋虫へと。先程の都斗の攻撃と同じ性質を持つその攻撃は、芋虫の体を今度こそ奥へと追いやった。 巨体が揺れ、実験場の隅近くへと跳ねるように飛ばされる。それはつまり入口を塞いでいた邪魔が消えたと言う事でもあり、 「ま、この機を逃す手は無いよね」 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が滑り込むように内部へと突入した。 そのまま勢いを保持し、彼が向かう先は助手。肩に構える大型ショットガンの銃口を素早く狙いへと合わせれば。 「さぁ実験だ。今回のテーマは『狂科学者に散弾を叩き込むと如何なるか』――中々面白そうなテーマだと思わないか?」 言葉は誰に向けた物か。分かるよりも先に、彼は引き金を絞り上げた。 一発、二発、三発。一切の迷い無く振るわれる連撃は助手へと集中し、その身をその場に縫いつけるかのようだ。 「アンタ達ねぇ、いきなり他人の家に土足で踏み上がってきて……」 声の主は恵理子。今回の依頼の目標にして、狂気に感化されたもう一つの狂気。 膨らむ殺気は何の意か。怒りか、それとも自分の実験体の効果を試せる為の―― 「調子乗ってんじゃ、ないわよォ!」 ――喜びか? 三日月状となる口元を押さえようともせずに恵理子は入口に展開している静に向けて放つは気糸。 包み込む形で彼の動きを束縛しようとするものの、リベリスタ全体の動きは止まらない。待機していた者らが一斉に実験場内へと踏み込む。 「往診でーっす。ネジぶっとんだおばさんと助手は死ななきゃ治らないと聞いて……うわ虫でけぇ! すげぇ! 何アレ!」 「だーれがおばさんよ、失礼しちゃうわね! 私はまだ2(ピー)歳よ!」 「そんな口調で言っても説得力無いでしょ! ていうかツッコミ入れてる場合ですか恵理子さん――!」 『七色蝙蝠』霧野 楓理(BNE001827)が皮肉めいた言葉を告げるが、即座に彼の興味は巨大な芋虫へと。医に通じる者としてか、あの異常な大きさに少々気になる点がある模様だ。まぁ彼自身は虫嫌いの様なので嫌悪感も半分入っているみたいだが。 「やれやれ。見事なツッコミじゃが、夫婦漫才でも始めるのかぇ?」 「仲が良いのは結構だけど、人の迷惑を顧みない輩は排除しないとね」 そして『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が皆に守護の力を持った結界を展開しつつ、 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が助手へ気糸を真っすぐに狙い撃った。 「精々踊れ、無様にな……それがお前たちに相応しい末路だ」 さらに追撃する形で『深闇に舞う白翼』天城・櫻霞(BNE000469)もまた助手を狙い、 「厄介そうだから最初に狙う。――理由は分かっているでしょう?」 「ぐっ……!」 『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)が言葉を告げながら三連撃目となる攻勢を助手に加えていた。 怒涛の如き集中連打。彼らが助手を集中的に狙う理由など実に簡単――面倒だからだ。 支援効果が多く、回復系の術すらある者。そんな奴を戦場で何時までものさばらせていたままではやがて不利となる。 「だから直ぐにでも潰したい、と。成程合理的ねぇ。でも……調子に乗るな、って言ったわよねぇ! 虫ッ!」 恵理子の号令。それに素早く反応した実験体は、彩歌に対し糸を吐く。 「っ、これ、は――」 粘着性の高い特殊な糸だ。山なりの形を描いてソレは彩歌に纏わりついた。面倒な付与効果が彼女の体を蝕む――が、 「そうはいかんなっ!」 光が満ちる。『地球・ビューティフル』キャプテン・ガガーリン(BNE002315)の放った邪気を払う特別な光だ。光は彩歌に取り付いた付与効果の全てを打ち消し、彼女の状態を正常へと戻す。素早いその対応により、被害はほとんど無いという結果に終わった。 「私が居る限り貴様らの好きにはさせんよ!」 キャプテンが敵を見据え、一喝する。 余計な付与効果は全て一掃してみせると、そう言わんばかりの勢いで彼に戦場に立っていた。全ては、そう。仲間と地球(テラ)の為に。 戦いはまだ始まったばかりだ。 ●蝶は蝶 「ああもう面倒くさいわねえ! 何で来たのよアンタらは!」 奇襲。それは分かっているものの、言わざるを得ない。 ――なんという面倒なタイミングで来たのか、と。 「何で、て……伝説に乗っかって行動なんて言う低い志見つけちゃったからね――潰しに来たんだよ」 都斗の鎌が助手の身を、裂く。 徹底した狙いだ。回復手とサポーターを除く、ほぼ全員の第一目標が彼。 即座に一人を潰し、即座に次を狙う為の策。実にそれは効果的であり、助手の体力は急速に削られていた。頼みの実験体も、 「これは儂が押さえる。だから、なるべく早くそちらを片付けて欲しいのう」 『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)の攻撃に、実験場の隅に追いやられていたままだった。防御力の高い身であるが故に、一人だけの攻撃自体はさほど問題ではない。しかしそこに足止めされているのは問題であり。 「脱皮前の今の内に、貴方を倒しておく必要もあるしね」 「ぐ、うぉ、お前っ!」 彩歌の放つ気糸が、助手の怒りを誘う。 「さて、では出来うる限り奪わせてもらおうか」 そしてその怒りによって逸れた注意を櫻霞は見逃さない。 助手の至近距離まで踏み込み、右腕に噛みつけば即座に行う吸血行動。 「何してんのよ助手ちゃーん! 落ち着きなさい!」 さりとて相手も座して見ている訳ではない。助手の後方より、恵理子の叱咤と圧力が飛んだ。 J・エクスプロージョン。思考と言う非物理的存在を物理的存在に変えて相手に叩きつける技。流れゆくその力は助手付近にいるリベリスタ達を巻き込み、炸裂する。 ――爆発が生じた。 「いやーでもおばさんに負ける訳にはいかないよね」 逆。爆発と共にリベリスタ達の後方付近から聞こえるは楓理の唱える詠唱。 癒しの力を含んだその詠唱は、攻撃を受けたリベリスタの体を癒す為に微風となりて訪れる。次いで、 「クソッタレのマッドサイエンティスト共め! そんなに改造したけりゃあ、自分の脳でも改造してやがれッ! 他人に迷惑かけて飄々と生きてんじゃねぇよ!」 爆発の合間を縫って突撃する静。低い姿勢から鉄槌を、両手を使って一回転させ遠心力を得る。そのまま力を利用し、右手だけで鉄槌を跳ね上げるように助手の胴へと叩き込めば。 「ご、ふぅ!」 助手の口から血が漏れる。 行ける。後、数撃も叩きこめば間違いなく助手は倒れる。そうすれば次は恵理子だ。 虫の押さえも出来ていて、回復も間に合っている。流石に全快している訳ではないが、それでも全体の流れはリベリスタ有利。 そう、有利なのだ。リベリスタ側が―― ――この時までは。 「これはっ……!」 喜平が気付く。血の臭いで満ちた実験場に“粉が舞っている”。 禍々しく、悪意で染まったその粉。いや、鱗粉だ。 ソレはこの部屋を埋め尽くす勢いで広がっており、もはや止めれるような物では無い。 気配が変わる。 存在が変わる。 虫は熟せば成長する。己は変わり、己を変えて、その身を昇華させる。 「ク、ハハ、クハハ……ようやく成長段階になったのねぇ!」 恵理子が歓喜、いや、狂喜する。己の実験の成功に。進化に。 旧き体を捨ててそれは新しき世界へと飛び出る。 そして生まれ変わった虫は蝶となり、 ついにその真の姿を現した。 ●死を想え 「くっ、この粉は……」 口元を押さえながら彩歌が現状の危険性を察する。 周囲に舞う鱗粉。事前情報で知ってはいたがやはり厄介すぎる。今現在自身を蝕んでいる物は――毒か。 見れば他の者達も一様に何かしらの異常に襲われていた。体が麻痺により震える者。混乱し、敵味方の区別が付けられてない者も居る。 そして何より目の前に居るその元凶、白き姿を持つ蝶。これの存在自体が既にまずい。見ただけで分かる。これは、リベリスタ優勢と自信を持っては言えなくなる程だ。 「ふざけてる……なんて、不細工な蝶をッ……!」 憤慨する糾華。真っ白な蝶は、それ単体の“姿”で言えば綺麗とも言えるが、彼女の言う事はそう言う事では無い。 なんだあれは。生命を弄んだ挙句に何と言うモノを作り出しているのだ―― 「蝶の使い方がなっていない。許さないわ、殺人鬼未満の使い捨て連中程度で……!」 彼女は駆ける。もはや一刻の猶予も無い。直ぐにでもあれを対処しなければいけない。 故に、 「ぐ、ぁぁあ!?」 助手は邪魔だ。オーラで作った死の色を持つ爆弾を植え付け、即座に炸裂させる。 限界に近かった彼の体は勢い良く倒れ、もはや立つことは無い。敵の数は、後二つ。 「研究者の知恵とは明るい未来を子供達へ、未来の地球へ伝えることだ。だからこそ我々宇宙飛行士は研究者を尊敬する。だが……」 助手の脱落を確認しつつ、キャプテンは再び光を放つ。邪気を撃ち払うその光は、運良く全員の異常を消し飛ばす事に成功した。 「この地球を腐らす生き物がお前達の示す未来だというのならば、見過ごすわけにはいかない。このキャプテン・ガガーリン! 今、地球に変わって修羅となろう!」 彼の心理はいつも地球にある。だからこそ、こんな蝶の存在を許す事は絶対に出来なかった。確固とした意思で敵を見据え、貴様らを打ち倒すと宣言する。 「うるさいおじさんね……虫!」 短い言葉。それは先程と同じ意味の号令。 ――すり潰せ。そう彼女は言っているのだ。 「o、guoAhaaa!」 声とも言えぬ声。実験体より発せられた鳴き声と共に繰り出されるは暴風。 場に居るリベリスタ全てを巻き込む風に容赦など、無い。 「う、ぉおお!」 横から来る風に払われながらも喜平は進む。 「1人じゃデータが足りないな、次は御前で『実験』だ!」 「ハハッ、やってみなさいよリベリスタ如きがぁ!」 喜平の放つ連続の銃声と共に、恵理子もまた迎撃を開始する。罠の様に展開した気糸で、彼を絡め取らんとする動きだ。 「僕は回復側に回るよ。皆、回復に関しては任せて」 「だけどこいつはぁ、ちょっと急がないとやばいかもな。おい、やるならあっちのおばさんやれよ! お前でっかくしたのはアイツだぞ!」 成虫になったのを確認し、都斗も援護側に回る。一方で楓理が実験体へと声を飛ばすが、やはり意味は無い。アレは変わらずこちらを敵視したままだ。 「早く――!」 「ああ、早く――」 恵理子に向けて静と櫻霞がほぼ同時に攻めた。 静は鉄槌を振りあげ、全身の力と共に振り下ろし、櫻霞は金と蒼の二対のチャクラムを放って、 「倒れなさい。貴方に何時までも、構っている暇は無いのよッ」 少しだけ語尾を強めて、彩歌もまた気糸を放つ。 その狙いは急所を外れてはいたが、恵理子には確実に当たる軌道で。 「ハ、ハハ! なら倒してみなさいよぉ! 私はねぇ、今、猛烈に楽しいんだから!」 三つの攻の意思。それを必死に防御しつつ、彼女は止まらない。 楽しい。楽しい。己の狂気の成果がソコにある。ソレが動き、生きている。私と共にある。糾華は不細工と評したが、恵理子はその真逆。美しく、気高いと切に感じている。 アレはまだ生まれたばかりだ。まだ見たい。まだ見たい! 故に、こんな所で―― 「倒れてる暇なんかありゃしないのよぉ――!」 恵理子の全身より発せられた気糸。それが複数のリベリスタを巻き込んで的確に弱点を突いて行く。 「やかましいんだよ。そんなに楽しければ一人で狂ってな!」 影を展開した喜平が地では無く壁を蹴る。 そして、銃口と恵理子が交差した所で――撃つ。 「ご、っ、がぁ!? ま、まだよ! 虫ィ――!」 「aahakam……MM!」 恵理子の言葉に反応し、虫が何やら動きを見せる。 嫌な予感が、リベリスタ達を駆け巡った。 「全員構えろぉ――! 来るぞッ!」 楓理の叫び。何が、とは言わなかったが皆がその意味を理解した。 蝶が――否、化け物が、叫ぶ。 「――――Memento Mori――――」 廃ビルの地下に化け物の雄叫びが響く。 メメントモリ。死を想え、いつか死ぬのだから。そう言った意味を持つ言葉だ。だがこれは違う。この化け物の持つ想いは、 ――死を想え。お前らは“今”ここで死ぬのだから―― 歪な想いだ。いや、こんな想いがあるのは制作した恵理子が化け物に叩き込んだ結果か? 人が作った故にコレには真に共にあるかも分からぬ蝶の生死の概念が“真として存在する存在”なのだろう。 事実はともあれ、雄叫びは薙ぐ。薙ぐ。薙ぐ。目の前のリベリスタ達に“死を想え”と伝えて、全てを薙ぎ払う。あまりに歪で強力な叫びに倒れかける者が続出する。 「ふ、ざけてんじゃ、ねぇ――!」 静が飛び出す。ギリギリでメメントモリを耐えた彼は、恵理子へと突進し、 「命弄んでおいて何が死を想えだ! 命の重さを、舐めてんじゃねぇぞ――!」 そも彼はこの場所自体が気に入らない。こんな血の臭いで満ちた場所など跡形も無く壊してやりたいぐらいだ。静は怒りを武器に乗せ、恵理子に全力で叩きつければ、彼女の体がくの字に歪んだ。地に崩れ落ちる。 「ぐ、ぁあ! だ、だけどもう無駄! 私の勝ちよッ!」 「何を言って……」 運命を消費し、立ちあがった都斗が訝しげな表情をすれば部屋に再び“粉”が満ちた。 これだ。これが面倒だ。何度耐えても、蝶が行動を移すたびに部屋に満ち続ける鱗粉。マスクなどをして防いでいる者も居るが、ほとんど効果は見込めていない。0より幾分マシではあるが。 「何度来ようと、私が払い続けてみせ――むっ!?」 キャプテンが再び光を放とうとする直前、彼を中心に風が襲う。 暴風。それは彼らを弾き飛ばした。キャプテンも例外でなく、耐久力の高い彼も先程のメメントモリの一撃はあまりに重かった。――耐えられない。 「キャプテン!? くっ、なら俺が……」 瑠琵に庇われ、なんとか耐えきった楓理が粉に対する回復手を引き継ごうとするが、体が動かない。麻痺だ。 運が悪い、とも言えない。虫の状態異常の半分は行動を阻害する物だからだ。 「……ちょっと旗色が悪いわね」 「蝶の体力が残り過ぎている。陣兵衛さんが多少削ったとはいえ、これでは……」 糾華と彩歌もまた、運命を消費して立ち上がるが、体は鱗粉によって猛毒の状態となっていた。ここも、厳しい状況である。 「駄目かっ、畜生」 苦々しい口調で蝶に銃撃を加える喜平。薙ぎ払いの直後から攻撃を加え続けているが、彼も傷が深く、いつまで戦えるかは疑問が残る。 「まだだ。まだやれる、あまり舐めるなよ」 チャクラムを放ち、吸血も行い体力の回復を目論む櫻霞。それは彼にとっての最善手だが、それを笑うかのように蝶は付近のリベリスタから体力を吸収する。口を伸ばし、空気ごと吸う様に蝶は吸い取りを行う。その回復効率は吸血の比では無かった。 恵理子達が居ないのなら、決して倒せぬ敵では無い。だがもう、リベリスタ達には余力がなさすぎる。残念だが、勝機は逃した。 「……皆、退こう。今回は、駄目だ」 静は苦渋の決断を口にした。 武器を強く握りしめつつも悟るその事実。敵は強かった。しかし彼らも弱くは無かった。 無念が残る。後もう少し、後もう少しだけでも―― 「oaahyahknah――!」 意味不明な言語で吠える蝶。 これが、後もう少しだけでも傷付いていれば、まだ勝機はあったかもしれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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