● 「嗚呼、久々に頑張ったら、少し派手にしすぎたかしら?」 深夜。雲一つ無い星空に頭を向け、くすくすと微笑むのは一人の女性。 年齢は二十代前後。長いブロンドの髪と、月光に照らされる細面の容貌は、見る者を魅了するものに違いないと言えるほど整っている。 「けれど、仕方がないわ。あんな綺麗な殺し方を魅せられては。 人が一瞬で千々に分かれる瞬間なんて、今まで見たこともなかったんだもの。思わず張り合いたく成っちゃうのは、仕方がない事よね?」 「……嘘つき」 陶然とした女性の言葉に、若干尖った言葉を返すのは、その傍らに立つ一人の少年。 此方は小学校の中学年程度だろう。無地のTシャツと短パンを着た彼が女性に向ける膨れ面は、その幼さをまだ十全に映し出している。 「張り合うとか何とか言って、お姉ちゃん。沢山コロしてあの男の人に自分のことを知って欲しいだけでしょ。 偶に僕たち以外の人のコロし方を見たくらいで、何さ。お姉ちゃんあんな人にデレデレしちゃって」 「あら? 私があの人に取られたみたいで悔しいのかしら?」 「ち、違うよ!!」 悪戯っぽく微笑む女性に、慌てて言葉を返す少年。 その姿は、何処にでもいるような微笑ましい姉弟の姿そのものである。姿だけを見るならば。 「冗談よ。例えあの素敵なお方に魅せられても、私は貴方と共に居るわ。私たちは、二人で一つなんですもの」 くすりと笑い、抱きしめる。顔を赤らめた意地っ張りな少年が、しかしそれでも女性の背中に手を回すのを見れば、二人の絆がどのようなものかは、聞くまでもないはず。 「さあ。仲直りしたところで、そろそろパーティーを始めましょう。 他のみんなも、そろそろ待ちくたびれているもの」 「……うん」 微笑みかける女性と、笑顔で頷く少年。 彼等が周囲を見れば、其処には多くの人が居る。 百すらも二百すらも軽く超える人の群れ。その全てが宴の始まりを今か今かと待ちわびて、或いはその首にナイフを当て、或いは何かの錠剤を両手いっぱいに握りしめ、期待に顔を輝かせている。 「皆さん、待たせてしまってごめんなさい。 そろそろ始めましょう。パーティーを。存分に自分たちを殺して、その素晴らしさを味わってくださいな」 聖女のような清廉とした笑顔を以て、大きな声で語りかける女性。 それを歓喜する彼等は、皆が皆狂喜の笑顔で自殺した。血を噴き出したり、口から泡を吹いたり、自らを焼く者も居れば丈夫な糸で自身を絞め殺したりする者もいる。 それでも、人々は笑顔だった。笑顔を浮かべて、死んでいった。 「幸せそうだね。お姉ちゃん」 それを見て、陰惨な光景を見て、しかし少年は笑う。 「ええ、そうね。喜んで貰えたみたいで、良かった」 対し、女性もにこりと笑みを浮かべて、彼等の死を最後まで見届けていた。 ● 「……最悪の状況」 開口一番、ブリーフィングルームで言葉を発した『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉は憎々しさに満ちている。 「フィクサードが二人、ある街に現れた。彼等は街に居る多くの人間を集め、その全てを洗脳して集団自殺を行わせようとしている」 「……規模は?」 「少なく見積もっても、五百は超える」 「ごひゃ……!?」 リベリスタの反応は正しく『想定外』を表してのこと。 仮にそれが完全に成ってしまった場合、ジャックの『演説』によって動揺している世の中は更なる騒ぎになってしまうかも解らない。 アークの政治力をしても、人の口に完全な戸を立てる事が出来るかどうかは微妙なところである。 「彼等を自殺へと導くフィクサード二人……『自殺仲介人』の女性と、『自殺勧誘者』の少年という義姉弟。みんなにはこの二人の討伐、ないし拘束を御願いしたい」 言って、イヴは二枚の写真を出す。それぞれ、女性と少年を写したものだ。これがそのフィクサードだと思って間違いはない。 「二人にはそれぞれ、役割がある。その中で主体的に動くのは、自身のアーティファクトによって対象を拡大した<魔眼>を用い、一般人を洗脳する弟」 「……じゃあ、姉の役割は?」 「邪魔者の排除」 至極あっさりとした解答に、リベリスタも僅かに気勢を削がれ、肩をすくめる。 「……具体的に言うと、彼女は一般人が負ったダメージを『自分以外の』エリューション属性を持つ生物に肩代わりさせるアーティファクトを所有している。仮に邪魔者が近づいてきた場合、彼女は躊躇いなくアーティファクトを使用してみんなにダメージを与えようとしてくるはず」 「……おい。一般人が受けるダメージって……」 「さっきも言った。数は数百人。その誰もが自殺を意図するダメージを負うから、肩代わりするそれらも並ではない。エリューション属性とフェイトの加護で、かなりの部分は軽減されるみたいだけど」 それとて、何処までが軽減されるか解ったものではない。 ともすれば、最初の数秒で誰かが倒れる可能性すらある危険な戦闘だ。作戦が軌道に乗らなければ全滅の可能性も低くはなく、そして失敗すれば件の街は多くの人間の死を許すこととなる。 「……でも、だから、失敗は許されない」 ぽつり、呟くイヴの言葉に、リベリスタ達は強ばった顔を崩せない。 「難しいことを言っていると思う。けれど、そうしないとこの世界が守れない。 絶対に死なないで。死なせないで。勝って、帰ってきて」 苦しそうな声で言うイヴ。 彼女も解っているのだろう。この依頼の成功率の低さを。 けれど、それでも送り出さねばならない危機がある以上、フォーチュナに一切の容赦は許されない。 それを斟酌すべきなのは、彼等リベリスタだ。 表情は未だ優れぬ彼等ではあるけれども。せめて頷き、手を振ってブリーフィングルームを退出する。それが、今の彼等に出来ること。 そして、彼の少女の必死の頼みを叶えることこそが――これからの彼等がすべきことだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月04日(火)23:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 深夜の月は煌々と人々を映し出している。 映るのは――中央に立つ少年と女性を除き――そのどれもが明らかに生気を失い、ふらついた身体に壊れた笑みだけが張り付いた、哀れな犠牲者達の姿ばかり。 フィクサード、『自殺勧誘者』『自殺仲介人』。両者がそれぞれ所有するアーティファクトの力を以て為された人工の地獄に対し、それを見るリベリスタ達の表情はそのどれもが苦い。 「『傍らの瞳』は本来エリューション事件に巻き込まれた一般人を護る為のものに御座ろう。 それを悪用しよう等と…まったく許せぬで御座るよ。何とか奪取し、世に役立つ使い方をしてやりたい所で御座るね」 「けったクソわりぃな、破界器を悪用とかゆるせねえ。もっと違う使い方があるんだ」 『ニューエイジニンジャ』黒部 幸成(BNE002032)、『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)がそれぞれ呟く先、二人のフィクサードは、今尚義姉弟の会話を楽しんでいる。 最も、それが何時まで続くかも解ったものではない以上、彼等は今すぐにでも動く必要があったが――それをギリギリまで待つ理由がある。 「なんていうか自殺を強要とかやり口が汚いんだよね。そういうのちょっと嫌いなんだ」 『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)の言葉は、アーティファクトの悪用ではなく、彼等を自殺に至らせるプロセスそのものに向いている。 日頃と変わらぬ平淡な口調でありながらも、握る銃把が鳴らすきしきしと言う音を聞けば、彼女が彼女なりの不快感を如実に表していることは誰でも解ったであろう。 「……命も所詮モノだ。使い道は人それぞれ。が、その価値に不釣合な使い方は捨て置けん」 『瞬竜』司馬 鷲祐(BNE000288)も同様だ。 銀の双眸はそれだけで彼女らを射抜いてしまうほど鋭い殺気を放っており、『機』が来れば彼が担う双短剣は躊躇いなく彼等に牙をむけるであろう事は誰にでも想像がつく。 だが。 「一般人を盾に……か。厄介な相手だな。……どうにかして奴らの作戦の間隙を突き彼らを救出せねばならん」 ふむ、と顎に手をやりつつ、思案げに唸るのは『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)である。 人が見れば平静そのものに見えるだろうが、とんでもない。他者を守るために極められた力を振るうべき対象がこうして死を迎えようとしている様は、彼にとって多大なる苦痛をもたらすものである。 焦燥が心を突き動かすも、それに逸って敗北を喫するほど愚かではない。 (……必ず、遣り遂げて見せる) 意志は熱く、思考は冷静に。 未だ鞘を払わぬ剣が刀身を除かせたとき、彼の秘めたる想いはどれほどの苛烈さを表すのであろうか。 「……そろそろですね」 ぽつり、呟く『下策士』門真 螢衣(BNE001036)。 彼等の仲間が今現在行動することで為る策。その合図となる幻想纏いの通信を待ちながらも、彼女は式神に手をやり――他の面々と同様、自己の死を至上と説くフィクサード達に向け、胸中で呟く。 (――あなたたちは快楽殺人者なんですね) 冷笑すらも浮かべぬ、最たる侮蔑の証明。 (死は素晴らしいですか。 ならばあなたたちが賛美する死を自ら味わってください) 静かな怒りに応えるかのように、彼女の幻想纏いが仲間からの通信を知らせる。 準備を整えたと言う合図であった。 「よー……っし!」 戦闘を目前にした『きまぐれキャット』譲葉 桜(BNE002312)が、改めて気合いを入れ直す。 「どんな理由があっても、人様に迷惑掛けるのダメ! ゼッタイ! 自殺何て、桜ちゃんの目が黒い内は絶対させませんよー!」 ● ――ガコン! 「……あら」 「わ、わ!」 戦闘開始の合図は、規模に応じてかなり派手なものとなった。 観客席全体を照らす照明が全て切られたのである。 当然、其処にいた者達の大半は突然のトラブルに驚き、慌てている。 自殺という行為によって訪れる多幸感を教えられた以外は通常の良識を残す彼等である。どうすれば良いのかと騒ぐ彼等に反して、あくまでフィクサード達は冷静であった。 「皆さん、落ち着いてくださいな。多少見えにくくはなったかも知れませんが、月明かりがある以上、少し目を凝らせば互いの姿は見えるはずですから」 穏やかな女声の響きに魅せられたか、一同はその言葉によって徐々に落ち着きを取り戻しつつある。 が、彼等は――リベリスタ達は、それを易々と行わせはしなかった。 「……一身微塵大磐石・日光月光・愛宕・摩利支天・守護せしめたまえ……」 小さく紡がれた詠唱を聞き取った者は恐らく幾ばくも居なかっただろう。 螢衣の術手袋が燐光を纏うと同時に、それが瞬時に光の帯へと替わって少年に絡みつく。 「っ、何……!?」 「……リベリスタ、ね」 「ああ」 光源の消失と共に突出した鷲祐が構えるナイフは、的確に女性の腕を切り裂く。 「あら、あら」 鮮血を零しながらも、女性の表情は何処までも柔和である。 自らを傷つけた相手を、一切の怒りを抱かぬ瞳で唯、『見る』。 「……暗視持ちか」 別動する『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)が全体的な光源を消すことで一般人の視界を封じる――即ち、庇うことを一時的に無効化するという策はひとまずの成功を見せたものの、彼等とて夜間での戦いに備えをしていないと言うことは当然、あり得ない。 「ええ。けどそうは言っても、突然光源を消されたのには動揺したわ。其処の子を放して貰えたら嬉しいのだけど」 冗談にしては度が過ぎる言葉に、鷲祐は嘆息を以て返答とした。 「放せよ! くそっ、馬鹿にして……!」 「それはこっちの台詞です」 言葉を返すは同じ魔眼使いの桜である。 「同じ魔眼使いとして、こんな滅茶苦茶な使い方許しておくなんて出来ないです! 桜ちゃんがお仕置きですよ!」 言って、幾重の集中を重ねた射刀が少年の肩口を突き刺す。 命中こそしたものの、この暗闇の中を暗視も光源もなく、特定もされていないアーティファクトを狙って撃つのは些か無理がある。 だが、『傍らの瞳』を狙うのは彼女ばかりではない。 夏栖斗が、拓真が接近し、集中を重ねて少年に飛びかかった。 元々飾り気のない服装をした少年である。見つける事はそう難しくなく、何より今彼は螢衣の拘束によって十分な抵抗を行うことが出来ずにいる。 それでも必死に身をよじる少年からアーティファクトを奪うには若干の時間を要する。 そして、少年の義姉は、その機を逃すほど愚かではない。 「皆さん、少々騒がしくなってはきたけれど、気にする必要はありません。 若干待たせてしまって御免なさい。そろそろ、パーティーを始めましょう」 「……!」 一般人の死が、リベリスタ達に襲いかかる合図がかけられた。 女性は苦笑混じりにリベリスタ達を見やりながら、その首元のネックレスをちゃら、と見せる。 取れるものなら取ってみろ、という挑発であろうか。 「……望むところでござる」 同様に、女性の足止め役を務めるべく疾駆した幸成が呟き、自身の得物をかちんと鳴らす。 「やめろ、返せよ……! 僕のだ、それは僕のなんだ!」 正しく餓鬼の如く叫び回る少年の声に応じ、観客席の照明が再び灯る。 それは即ち、少年の手からアーティファクトが奪われたという証明でもある。 「……ようやくちゃんと見れるようになったよ」 ため息を吐きながら、眩しそうな目でフィクサード達を睨む嵐子。 「殺し方張り合いたいならアタシもエントリーしていい? キミの眉間を綺麗に撃ち抜いてあげるよ」 「あら、人殺しなんて良くないわ」 何処まで本気か解ったものではない女性の言葉である。 「私は誰も殺さない。彼等には自分から死んで貰うだけ。 その素晴らしさを、貴方達は解ってはくれないみたいだから――」 「みんなで味わってみたら、いかがかしら?」 ● 「が――――――!」 突如として走った衝撃に、拓真が思わず膝を着いた。 舌を噛み千切る、心臓に刃物が突き立つ。眼球ごと脳を抉る、重い物体で繰り返し頭を殴打する―― どれもどれもが死を願った意志の結路。そのすべてがリベリスタ達を傷つけ、傷ませる。 五百人を優に超える数が一斉に行う自傷のダメージ。それらがリベリスタ達を苛んだ。 既に『傍らの瞳』は少年から奪取し終え、一般人はこれ以上拡大された魔眼による効果を受けることはない。 が、それは逆を言えば、今受けている魔眼の効果が消失したワケではないことを意味している。 一定時間の経過によって解除されるとは言えど、その具体的な時間が解らないという事実は、リベリスタの心に焦りの拍車をかけてくる。 「全く……ガキが玩具を持って調子に乗ると、手に負えん」 苦々しげに呟く鷲祐の言外には、これ以上の被害拡大は敗北に繋がるという不安を如実に表したものでもある。 当然、相対するリベリスタらも唯喰らってばかりではない。回復力が乏しい以上、速攻で解決しなければ為らないのは彼等も同じである。 「わーお! 綺麗なお姉さん、アークでーっす! きゃっわいいねー、勧誘にきましたー」 「ホントはお茶の方がいいんだけどな。無理なら一曲付き合ってもらおうか。 ……ああ、残念だが拒否権はナシだ」 振りまかれた胡椒や小麦粉と言った、即席の煙幕が舞う中、盛大に騒ぎ立てながら鉤棍を振り回す夏栖斗、照明装置の在る地点から戻り、今正に魔を断つ刀を振りかざす涼に対し、女性は苦笑気味に魔導の証から光の障壁を展開し、それをいなす。 「褒められるのには慣れていないの。口説かれるのはもっと、ね。残念だけど、押しの強い人には私はついて行けないわ。……最も」 剣と棍を或いは避け、或いは打ち据えられながらも、女性は未だ柔和な表情を崩さない。 両手の指を複雑に絡ませ、にこりと笑って編み出すは雷撃の鎖。 「……押しの弱すぎる人も、好きじゃないけれど」 広範囲にわたって振りまかれる夥しい轟音と閃光。 アーティファクトに頼らずしても強敵と判じられたその能力は伊達ではない。『献身の強圧』によって幾ばくかの傷を負ったリベリスタらに降り注ぐ雷の衝撃は並大抵のものではなく、運命の消耗こそ避けれども、何人かのリベリスタ達はこれに膝を着いてしまう。 「皆さん、しっかり……!」 螢衣が激励と共に傷癒の式を型取りはするも、中々精度の高い範囲攻撃に対し、個人のみを回復する彼女の方法は些か分が悪い。 また、更に厄介なのは―― 「お姉ちゃんを、いじめるなっ!」 呪印封縛から脱した、少年のサポートである。 実力が低いと言う情報故か、『傍らの瞳』を奪った後は攻撃対象をスイッチしたことにより、最早攻撃対象から外された少年のサポートは惜しみなく自身とその義姉に向けられていた。 彼の『自己を守る』と言う行動は、あくまでも『傍らの瞳』を守るが故に為された戦法である。その根幹が抜き出されれば、戦法が変わることもまた、道理。 とは、言え。 (魔眼の拘束が既に切れた、今ならば――!) 幸成の死の爆弾が次々と黒い熱風を生み出せば、桜と嵐子、二人の射術使いが女性の急所を穿つべく射刀と銃弾を放つ。 流れる血と、幾重もの傷を付けられた身体にすら構わず、女性は尚も勢いを緩めることはない。 『献身』の加護は失せたにしても、フィクサードの力は脅威的であった。 その威力を倍にして返すが如く襲いかかるリベリスタ達の攻勢に、フィクサードの女性も倒れる寸前にまで至っている。 折れるか、撓むか。 フェイトの加護は、既にほぼ全員が満遍なく消費していた。次に攻撃を受ければ復活はほぼあり得ない。 「我が剣戟、受けられるか──!」 拓真が叫ぶ。 「お前らの持ってる破界器は……個々で僕たちが奪い取る!」 夏栖斗が血塗れの身体を奮う。 自身の運命すら失わせてでもソレを為すと言う強い意志。運命よ歪め、理すら捻れろと叫ぶ彼等に――相対する女性は、微笑む。 「殺したく……ない、のに」 歪んだ理念に基づく狂気の言葉でありながら、共に零された一筋の涙は、彼女を瞬きの間、聖女に仕立て上げた。 そうして――轟音が、全ての集結を告げる。 ● 「……有難う、有難う、有難う、有難う」 どこからか、誰かの声が聞こえた。 涼やかな女性の声だ。か細いながらも伸びやかな、落ち着きを与えられそうなそれは、しかし何故だか、運動の後のような、しわがれた声に変化してしまっている。 「殺されないでくれて、有難う。有難う、御座います」 感極まった声が、僅かな間、止まる。 幾らかして、ちゃら、と言う音が、誰かの耳に届いた。 「お礼と、お詫びは、此処に置いていくわ。私たちは、他の『やり方』を探しに行く」 応える声はない。皆、誰もが膝を屈するか、地に身体を横たえている。 「パーティーに集まってくれた人たちには悪いけれど。それは貴方達に後を御願いするわ」 「お姉ちゃん、もう行こうよ。早くお医者さんに診て貰わないと」 「……ええ、そうね」 言葉尻、ごほごほと咳き込むような声が聞こえる。 それをどうにか堪えた女声は、それじゃあ、と言って、 「また、会いましょう。素敵な自殺を、今度こそ教えてあげる」 声は、そうして夜に消え去っていった。 残ったのは、倒れ伏したリベリスタと、気を失った一般人と――一陣の冷たい凩のみ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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