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<Blood Blood>インビシブル・ダンス

●ミスター・ヴァンパイア
 淡い光に包まれた、雰囲気のあるバーの中に、その男はいた。
 男は黒髪ではあるが欧米人らしく、すらっとした高い背をスーツで包んでおり、それだけ見ればどこかのモデルのようにも思える。だが、顔は目立たない上に、ひどい猫背なので、実際はそれほどかっこよくは見えない。どちらかと言えば地味な印象だ。
 そんな地味な印象の彼は、面倒臭そうに自分のコップに酒を入れていく。彼の前にはひとりの金持ちそうな日本人がいるが、その日本人は彼に注いでくれないからだ。
「いやぁ、まさかあなたにお会いできるなんて嬉しいです。ミスター・ヴァンパイア――ジ・オルド」
「こちらこそ。フィクサードながらに会社を経営する……誰だっけ?」
 説明的なセリフをお互いに言い合いながら、彼らは密談をしていた。もちろん、異能の力を持つ彼らがこの時期密談することと言えば、現代に蘇った殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーのことである。
「これから覚えてもらえば結構です。噂では、あなたはジャック・ザ・リッパーと繋がりがあると聞いています。その為に、あなたをここに呼び出したのですよ」
「ふぅん。僕がシンヤくんの部下になったってこと、結構知られているみたいだね」
 つまみのスナックを遠慮せずにつまみながら、と呼ばれた男は部屋の外をちらりと見る。多くの屈強な男たちが武器を持ちながら構えており、ジ・オルドを逃しはしない。というような状況だった。
「すいませんね。口利きして欲しいのですよ、彼に」
「彼に? ああ、彼は色々と気難しいから、そういうの難しいと思うよ」
 スナック菓子を食べ終えてしまい、ジ・オルドは不機嫌そうな顔をする。
「拒否権はありませんよ。私は、彼の仲間に入れてくださいと言っているんです」
「じゃあ、何か試験をしてあげようか。ああ、試験官にちょうどいいのを連れていたな」
「――試験官?」
 ジ・オルドが指を鳴らすと、外で待機していた屈強な男たち――おそらくはフィクサードであっただろう者たちが悲鳴を上げて次々に倒れ、血溜まりや肉片になっていく。しかし、何者がやったのかはまったくわからなかった。見えないのだ、何も。
「それにしてもメジャーリーガー級は非常識だねぇ、こんな化物を使役するなんてさ。……ああ、不思議そうな顔をしているね。こっちの話だから気にしないで」
 獣の咆哮が、バーの中を揺らす。
「なっ……なっ!? まさか、エリューション!?」
「正解。さ、早く見つけて倒さないと死ぬよ?」
 だが、見えない。襲ってくる相手の正体もつかめず、金持ちそうな日本人のフィクサードは、無闇矢鱈に武器を振り回した。
「結構怖いと思うよ。見えない獣に追っかけられるって」
「……よし、とった!」
 武器が刺さる感触。何もない空間から流れる血。これなら――と、フィクサードは思ったが、次の瞬間、血は止まった。
「なにっ……?」
「ああ、ここの会計はキミのお金で払わせてもらうよ。ちょうどお金が足りなかったんだ。この国に来てまだ日が浅くてね、この国のお金をまだぜんぜん……ああ、もう胃袋の中か。喋っている間ぐらい、耐えてくれればよかったのに」
 フィクサードは、唖然としたところを突かれて、一瞬で肉片となってしまっていた。ジ・オルドはそんなフィクサードの財布を自分のポケットの中に仕舞い込んだ。
「ふぁぁぁ……。さて、暇つぶしもこんなところにして、ジャックのためにもそろそろ動きますか」
 背伸びをしてから、まるで埃を払うかのように、スーツを手で払う。
「新しい暇つぶしはどれぐらい持つか、楽しみだな」
 ミスター・ヴァンパイアと呼ばれた男、ジ・オルドはダルそうにバーを後にした。そこに残るのは、血溜まりの世界と肉片の山。

●デッドリィバランス
 ブリーフィングルームに集められたリベリスタたちは、いつもとは違う雰囲気を感じていた。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の顔はいつにも増して真剣であり、モニターにも異様な雰囲気が写っていた。街が血溜まりだらけになるという光景だ。
「ジ・オルド。ここに映っている彼は、エリューション・ビーストを連れて行動している。……もちろん、非常識なこと」
 おそらくは、シンヤやジャック・ザ・リッパーの関係者だと考えられる。と、補足される。
「このエリューションはとても強力だよ。それを従えている彼自身も、きっと強力なフィクサードだと考えられているね」
 特に、このエリューション・ビーストは自身の存在を遮断し、見えない、臭わない、という能力を持っているらしい。更には再生能力も持っているとかで、生半可な攻撃では通じないという。
「ジ・オルドとエリューションはジャック・ザ・リッパーの為にと言って街中で人をひとりひとり殺す……という未来を見せた。これを止めないと、多くの犠牲者が出る」
 祈るように、真白イヴはリベリスタたちに向かって声をかけた。
「強敵。命の危険があるかもしれない。……それでも、止めて欲しい。悲劇は止めないといけないから」
 緑と赤のオッドアイが、リベリスタたちの顔を真摯に見つめる。それに応えるのは、無謀者か、それとも勇者か。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:nozoki  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月03日(月)22:32
 ということで、Hard依頼です。
 真白イヴも言っている通り、命の危険がある依頼なので、エントリーする場合は気をつけてください。

●勝利条件
 ジ・オルドを止める
 エリューション・ビーストの撃破

●舞台
 街から少し離れた、郊外にも近い場所です。ジ・オルドはそこで人間たちをどうやって殺せばインパクトがあるのかと考えているところのようです。
 結界を使ってそこで戦えば、人目が付くことはありません。

●エリューション・ビースト
 ジ・オルドが付き従えているエリューション・ビーストです。インビシブル・ビーストと呼ばれています。
 フェーズは3に近い2です。『完全存在遮断』という能力を持ちます。その能力により眼やカメラに映らず、臭いもしません。異能の力をその位置を把握するには、工夫が必要でしょう。もし把握できずにエリューションの攻撃を受けた場合、すべての攻撃がクリティカルになり、エリューションに対しての攻撃の命中率は半分以下に下がるでしょう。
 俊敏であり、鋭い爪を使った範囲攻撃を得意としています。攻撃力も高いです。
 また、再生能力も持っています。1ターンで全HPの1割ほど回復します。
 獣らしく、最もHPが低い者を攻撃し、戦闘不能状態であろうとも死亡するまで攻撃し続けます。

●ジ・オルド
 ジャックを追いかけ、欧州からやって来たフィクサードです。日本に来てからはシンヤの部下となり、その手足として動いています。
 レベルの高いヴァンパイアであり、高攻撃力からの吸血だけをしてきます。他の能力も平均的に、リベリスタたちを上回っています。
 彼はジャックやシンヤには忠実ですが、あまりやる気がありません。なので、今回はエリューション・ビーストが倒されれば即座に撤退するつもりのようです。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
倶利伽羅 おろち(BNE000382)
プロアデプト
鬼ヶ島 正道(BNE000681)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
ナイトクリーク
クリス・ハーシェル(BNE001882)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
プロアデプト
七星 卯月(BNE002313)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
覇界闘士
★MVP
焔 優希(BNE002561)
■サポート参加者 2人■
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)

●戦わずにはいられない
 街の郊外へと向かう道中を往くリベリスタたち。その胸中には、強い緊張感と使命感があった。
「ウフ、ゾクゾクするわぁ。アタシの目でもみえるかどうかわかんねーとか。楽しみぃーん」
 待ち受けるは特殊な力を持つ強敵。緊張感と共に、ゾクゾクとした闘争心を腕で抑えつつ、豊満な胸を強調するようなポーズでウネウネしているのは『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)だ。舌なめずりもするその姿は、どこか蛇のようでもある。
「例え命の危険が有ろうとも……やらなければいけない時が有るのだよ。未来の被害を防いだ上で、絶対に皆で生きて帰るのだよ」
 ギュッと手袋を締め直しながら、『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)は歯を噛み締める。子供っぽい部分もある卯月だが、強敵との戦いを前に考えることが多いようだ。そんな部分が歯を噛み締めるという行動に出ている。
 ヘルメット越しには見えないが、その表情はきっと、苦虫を噛み潰したような顔だろう。
「未来に殺人を犯すというのなら、倒すのにためらいは無い。人々を救うため、エリューション・ビーストはここで排除する」
 そう言った『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)は、マントを翻しながら、空に向けた手を握った。こちらも生真面目なようで、手は力強く握られている。それに合わせるように、クリスのアホ毛は上下に動いて、ちょっとシュールな光景を生み出していた。
 しかしそれでもクールである。手を戻しながらマントを改めて翻し、強く目的地を見つめた。
 目的地には、大量殺人の為に準備をしている敵が居る。
 ならば……。
「姿なき殺戮者、そんなものを街に解き放つわけにはいきません。血肉を削ってでも止めます」
 同じ思いを抱き、『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)は柔和な表情でありながら、強い決意を顔に秘めている。普段はぼーっとしているその表情も、今日はどこか真剣味を帯びており、フラフラとした様子はない。
 だけど、一旦深呼吸。
「ゆっくり歩いていきましょう」
 胸に手を置いて、気持ちを抑えていく。たぶん、それが大切な事だと思うから。
(殺人鬼め今すぐこの場で潰してやりたい。……だが、自らの役割を果たす事に心血注ぐ)
 その言葉を聞きつつ、心の中で繰り返し自分の役割を反復させているのは、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)だ。やはり真面目な彼は、自身の力が敵に及ばないと考えており、この身を呈してでも……と、口元で小さく呟いている。
 ともかく、今はただ足止めに専念することが最善だと思い、それを実行するために準備もしてきた。
「アウラールも無理はするなよ」
 そんな優希が声をかけたのは、『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)だ。優希とは違い、アクセサリをじゃらじゃらとしているアウラールはリラックスしている様子で、
「頼ってくれていいぜ?」
 と、優希に言って見せていた。冗談っぽい言い方であるが、無論冗談ではなく本気である。丸っこいデザインのぴよこも、小さな手を胸に添えて反り返っていて、微笑ましかった。
「そうか」
 それには優希も笑って応えてみせる。
「ミスター・ヴァンパイア、ジ・オルド――。態々欧州から追い掛けて来るなんて熱心ね。厄介な獣まで連れて、貴方はとても迷惑だわ」
 空を見上げながら、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は日傘を指で回している。欧州のことを思い出しているのか、その目はどこか遠くを見ているようで、クラシカルなゴスロリと合わせて品のある可愛らしさを演出していた。
「厄介な獣まで連れて、貴方はとても迷惑だわ」
 ふう、とため息をひとつ。
 冷静沈着な氷璃は、そうやって半分呆れながらも、その厄介な獣と迷惑な存在について考えを巡らせていた。
「わざわざ欧州からやってきてやる気を見せないというのはちょっと分かりませんな。まあ、殺人鬼の信奉者にやる気なんて出して欲しくはありませんがね」
 そこに口を挟んだのは、『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)だ。正道は左腕でスーツのネクタイをきっちりと締めつつ、仕事モードへと入っている。
「分からないわね」
「まあ、世の中なんとかなるもんでございます」
 静かに笑いながら、その辺りは戦ってみればわかるでしょう、と正道は結論づけた。こういう大雑把なところが、正道らしいところである。
「そうね、私達の運命に幸多からん事を――」
 氷璃は皮肉気に笑う。
 これから先の運命は分からない。例えどんなに過酷な運命が待ち受けていたとしても、精一杯抗うだけだ。

●ヴァンパイアの影
 郊外の空き地……人気のない公園のような場所で、くたびれたスーツ姿の男――ジ・オルドはだるそうにベンチに座っていた。その姿は覇気がなく、うっかりすればただのサラリーマンとして認識してしまいそうなほどである。
「おや、案外早いね。もうちょっと日に当たっていたかったんだけど」
 しかし、それでも気配は感じていたらしい。リベリスタたちの姿を確認すると、ジ・オルドは何かに向けて合図を送るように、指を鳴らした。恐らく、見えないエリューション・ビーストであるインビシブル・ビーストを動かしたのだろう。
 インビシブル・ビーストは真っ先に前に出ていた氷璃を狙い、爪を振り下ろす。その速度は素早く、指を鳴らしてから数秒の出来事であった。
「案外、速いな。だけど、見えているんだぜ!」
 熱感知でそれを知覚しながら、アウラールは氷璃の前に出て爪の一撃を受け止める。
 マジックディフェンサーで多少の衝撃は受け流したものの、鋭い爪はアウラールの肌から血を流させた。
「……いたくなんか、ないんだぜ!」
 それでも、アウラールは素直じゃない。やせ我慢するようにその痛みを耐えながら、歯を食いしばる。
「いたぁい。でも……まだまだよぉ?」
 辺り一帯を一気に攻撃するインビシブル・ビーストの一撃に巻き込まれながらも、幻想殺しの力でそれを把握したおろちはカウンター気味に小麦粉を撒いて、完全に姿が見えない獣の姿を薄らと世界に映し出すことに成功した。
 そして氷璃が、インビシブル・ビーストが足跡を残しているのを発見した。瞬間記憶を使い、その足跡と地面の変化を記憶して、仲間たちに声をかける。
「あの獣の周りには、この世界が満ち溢れているわ」
「世界が共に戦っている、ということですな」
 アウラールと共に氷璃を庇いながら、集音装置による反響定位を試みている正道が言った。完全に姿は見えずとも、戦う手段なら、この世界に幾らでもあるのだ。
「あらま、手品がばれちゃったか。じゃ、僕も少しは戦わないといけないか」
 余裕そうにベンチに座っていたジ・オルドは立ち上がって、やる気なさげにスーツのネクタイを緩めた。恐らく、それが戦闘態勢に移行したという意味なのだろう。その姿は、ちょうど正道と対比のようになっていた。
「暇なのだろう? ダンスのお相手をさせて頂くとしよう」
「おや?」
 そのジ・オルドの前に優希は立って、盾を構えた。ここから先は行かせない、という意思表示だ。
「仕方ない。それじゃあ、踊ろうか」
 ふらっと揺れたかと思った次の瞬間、優希は首筋をジ・オルドによって噛まれていた。
 とても速い吸血による攻撃だ。だが、優希は致命傷となる前にジ・オルドの体を盾で弾く。防御に全力を注いだから、そのスピードにも対応できた。
「本当なら美女か美少女の生き血がいいんだけどね」
「うぐっ……。まだだ!」
 女性のリベリスタたちに向けて色目を使うように、視線を向けるジ・オルド。しかし、その前に優希は体勢を取り戻して再び立ち塞がった。
「キミもしつこいね」
「聞きたいことがあるからな……。ここで功績を挙げジャックに近づこうという算段か。老獪が頭を垂れ、シンヤの下についてまで欲する益とは何なのだ。ジャックに何を求む?」
「ははぁ。僕は彼のファンだからね。ファンだから、彼のやることを近くで見たいと思うのは当然でしょ?」
「……そんなことの為に大量殺人を?」
「うん。ああ、この獣はその為の借り物だよ。聞きたそうにしてたから答えてあげる」
 その応答の間にも、優希の体は吸血によって傷ついていく。しかし、優希も負けてはいない。森羅行を繰り返して、体力を回復させていた。
 相手の攻撃は予想以上に激しいが、今の所足止めは成功している。となれば後は、仲間の動き次第だ。

●絶影
 リベリスタ達はそれぞれ工夫を凝らし、インビシブル・ビーストの姿を捉えることはできていた。しかし、それでも素早く動く獣の一撃は避けきれず、範囲攻撃もあってダメージが蓄積していっている。
「私たちは、まだ戦える!」
 その中で、クリスは黒い翼を展開しながら、天使の歌を使って味方を癒し続けていた。特徴的なあほ毛が、不安そうに揺れ動く。フェイトはまだ使ってはいないものの、このまま押し切られれば……よくない結果が待っているだろう。相手は再生能力もあるのだ。
 とはいえ、カラーボールを使ってその印を付けるという作戦は見事に成功を納めていた。卯月がトラップネストを使い、少しの間動きを止めることができたのが、成功の鍵であった。
「目印があっても、相手のリーチが分からなければ油断は禁物です」
 カラーボールをぶつけた大和の言葉に、リベリスタたちは頷く。
「舞台の幕は開かれた。さぁ、獣狩りを始めましょう」
 まるで舞台上の女優であるかのように、氷璃は芝居の入った台詞を掲げる。
 そこから、反撃は始った。
「目には映らなくても……そこよ!」
 熱感知とカラーボールの印を合わせて、標準を定めた『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)のピアッシングシュートがインビシブル・ビーストの体を打ち抜いて出血させる。
「流れ出た血は隠せない。そうよね?」
 目を凝らして、ミュゼーヌは流れる赤い血を見る。すると、すぐに出血が止まり始めていることに気付き、驚いた。つまりは傷が塞がり始めているということだ。
「世界の檻の中に、存在しないモノなど存在しない」
 しかし、まだまだ出血している。その流れる血へと目標を定め、獣の形をイメージしながら氷璃は魔曲・四重奏を放った。四色の攻撃は獣を吹き飛ばすも、獣はすぐに体勢を取り戻して再びリベリスタたちに攻撃を仕掛けてくる。
「そうだ、お前は俺の方だけ見てればいいんだよ!」
 それを受けたのは、アウラールたち前衛だ。わざと体力を低くしたアウラールを狙ったインビシブル・ビーストを見て、アウラールは薄く笑った。作戦通りだと。
 しかし、体は限界を迎えてしまった。膝から落ちて、自身が戦闘不能なことを否応なく感じてしまう。
「……だぁっ! この程度で、膝をついてたまるかってんだ!」
 膝が完全に付く前に、フェイトの力を使って立ち上がる。体の奥まで食い込んだ爪は、深い傷跡を残したが、まだやられたわけではない。
「あふん、もうチョットダケよん」
 同じ一撃で、おろちもまた深い傷を負って倒れてしまう。しかし、その体を揺らすようにしながら再び立ち上がって、戦う意思を見せた。フェイトでの復活だが、まるで蛇のようなしつこさである。
「ウフ、んじゃ一緒にオドりましょ」
 そして、お返しとばかりにブラックジャックを獣の頭にぶつけていく。先ほど一撃をもらった距離ならば、外しはしない。
「騒がしいのは苦手なの。だから、ね」
 ソードエアリアルを展開し、『薄明』東雲 未明(BNE000340)はインビシブル・ビーストの正面を取った。現れた剣閃は、未明の気迫と共に飛んでいき、見えない体を刻んでいく。それは確実なダメージとなり、インビシブル・ビーストは一時停止した。
「……また動きます! 油断せずに行きましょう!」
「ならば、こちらに僅かにでも注意を逸らす」
 しかし、超反射神経で見えない獣のタメを感じ取った大和の言葉に続いて、卯月のピンポイントが獣に突き刺さる。
 叫ぶ獣。狙い通りその注意が卯月へと向けられた時、大和のライアークラウンが炸裂した。
「これで、終わりです!」
 ライアークラウンによって、インビシブル・ビーストの頭が砕けていく。
 しかし、最後に残った力なのか、見えない獣は最後のひと暴れをした。
「ここは、私が行きましょう」
 その最後の一撃を消耗した仲間を庇うようにして立ち塞がった正道が受け止める。インビシブル・ビーストの爪が、牙が、正道の体に食い込んでいく。見えない攻撃であるが、その殺意は嫌というほどに感じた。
「……この、程度!」
 それでも、フェイトの力を使って立て直してから、アデプトアクションを使って食らいついてきたインビシブル・ビーストを吹き飛ばす。
「ついでだ、俺のもあの世に持っていけ!」
 追撃にアウラールのヘビースマッシュが決まり、インビシブル・ビーストは完全に打ち砕かれた。
 死体も見えなかったが、熱感知すればバラバラになったことは確認できたので、恐らくは安心だろう。

●敵の夢
 優希はフェイトの力で立ち上がりながら、仲間たちの勝利を見た。何度も吸血を受けた体はボロボロだが、仲間たちの顔を見て、笑みをこぼせる。
「どうだ……!」
「あらら、やられちゃったか。僕の負けかな、これは」
 クリスの天使の歌が傷ついた優希を回復し、優希と入れ替わるように正道が前に出てきたのを見て、ジ・オルドは後ろに下がった。
 ジ・オルドが遠くを見れば、おろちによってぐしゃぐしゃに解体されている見えない肉がある。インビシブル・ビーストの肉片だ。
「お前とジャックは何かしらの関係があるんじゃないか? ジャックについて知っている事があれば、喋ってもらおう」
 クリスの言葉に、ジ・オルドは笑う。
「彼にも言ったけど、僕は彼のファンなんだ。それだけだよ」
「これは貴方主催の催しなのでしょう? ならば、姿を晦ます前に参加者へ賞品ぐらい出してはどうですか」
 続いて、挑発のような大和の言葉。ジ・オルドは一歩二歩と引きながら、リベリスタたちに余力がないことを感じ取っていた。インビシブル・ビーストとの戦いで消耗してしまったのだろう。これ以上戦う気はなさそうだった。
「ああ、じゃあ一つだけ教えてあげるよ。僕のこと」
 気になっているだろうね、と首のネクタイを締めながらジ・オルドは答えた。
「僕の目的はただ一つ。世界征服。うん、男のロマンってやつ」
 冗談っぽく笑ってから、ジ・オルドは後方に飛び去り、姿を消した。
 リベリスタたちはそれを見送ることにした。ジ・オルドの読み通り、消耗してしまっているからだ。
「じゃぁまたね、地獄であったらまた一緒にオドりましょ」
 血だまりにキスをしながら、おろちは妖しく笑う。
 いつかまた奴とリベリスタは会う時が来るだろう。
 今は、その時を楽しみにするだけだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 ということで、犠牲者を出さず、見事インビシブル・ビーストを討ち取ることに成功しました。
 今回は、見えない敵に対する皆様の工夫が凝っていて、面白く思い、同時に感心しました。そういうのもあったか! と。
 そんなわけで、楽しくリプレイを執筆することができました。

 お送りしたのはnozokiでした。
 お疲れさまでした。