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<Blood Blood>Adam and Eve of the Necros

●Corpse Lovers
「――ああ、初めて人を殺したのは、6歳の頃だった。
 きっかけ? 両親がギャングに殺された。典型的な強盗殺人事件さ。
 スラム暮らしの自分の目の前に。真っ赤な、とっても綺麗な赤絨毯が目の前に広がったんだ。
 その時、俺は若くってねぇ……。怒りのあまり犯人を殺してやったんだ。
 やり口? 簡単さ。包丁で首を掻っ切って、腸カッ割いて、内蔵抉り出して。
 命乞いする連中の目玉抉り出して踏みつぶしてやったのさ。
 舌引き裂いて物言え無くしてやって、無様にのたうち回る豚の喉に包丁突き立てて。
 ――そして、この復讐を終えた時。気がついたんだ。

『人間を殺すのって、なんて楽しいんだろう』

 ってなァ……。虚しさは無かったかって? 聞くなよ。野暮ってもんさ。
 どこにもなかった。僕はあの時。これ以上のない充足感で満ちあふれていたのさ。
 ふと、父さんと母さんに目をやった。その時。死んだ後、とても綺麗になったように見えた。
 血の気の引いた青白い肌。苦悶が浮かぶ表情さえなければ、息を呑むほど美しかった。
 ……今思い浮かべても鳥肌が立つようさ。
 恍惚に似た美しい人間の死に顔。これ以上老いることのない永遠の美の形……。
 それから、だったかなぁ? 俺が好き好んで人を殺し始めたのは。」

●Laughing Graves
 ――話は1888年まで遡る。
 劇場型の殺人鬼の元祖である切り裂きジャックが一世を風靡した時代。
 それは、いくつも生み出された殺人劇の吹き荒れる狂気の時代でもある。
 売春婦だけをつけ狙う、喉を掻き切り臓器の一部を抉り出して演出する劇場型殺人。
 当時の新聞。そして大衆はこの劇場型殺人に恐怖しつつも酔いしれた。
 マスコミからすれば、彼を取り上げれば必ず売上は伸びる。
 それは、彼らにとっての福音だった。

 狂気が大々的に報じられるイカレた時代のその影で。
 もうひとつの恐怖の種が育まれ、育っていたことを知るものは少ない。
 この子こそ、ある種の狂気の申し子。何故、このような性格になったのかはつゆ知らぬ。
 しかし、一つわかること。それは、この男がある種の性的倒錯を抱いているということだけである。

 ――此度の異端にお付き合い願えるならば。
 それがある種の狂騒でないことを目のあたりにすることになるだろう。
 恐怖を抱かぬならば、お付き合い願おう。狂気と正気の狭間で踊る死と生の舞踏会に。

 ★★★

 曇天の元、いささか暗めの窓の光の中。しかし、今の時刻は時刻は夜というにはいささか早すぎる。
 ふと時計に視点を投げれば朝の10時前後になっただろうか。
 男と『女』は今、まさにそこに存在していた。

 しかし、この女の方に視点を投げれば、女の首から上は存在しない。
 既に赤黒く変色し、流れでるはずの血も枯れ果てた『断面』がそこにあるだけである。
 血の気は既に失せている。女の生死などもはや問うまでもないだろう。
 床から男は起き上がり、そっと離れて服を着る。
 そして、テーブルの上に置いてある首の上にあるべきそれに、そっと舌を絡めてくちづけた。
 口づけを終えれば、男はそっと語りかける。いつまでも変わらぬ永遠の形に。

「……行って来るよ、ベティ。君はいつもきれいだね。」

 男の表情は法悦を極めた喜色を称える笑顔である。
 言葉を掛けたその『モノ』を恭しい手付きでテーブルに置けば、男は玄関への道をたどる。
 そして、その道中には彼の夥しいほどの『コレクション』が並べられていたのだ。

 ――それは、まさに永遠の美を保っていた。
 首から下が存在しないものも数多く見受けられる中で。
 一刀のもとにメスで切られたかの如き美しい断面。防腐の魔力でも存在するのだろうか。
 内蔵の処理などは一切行われていないが、今でも新鮮だ。
 そして――。そこにあるのは、おびただしい程の死体だった。

 彼はその亡骸の数々に一つ一つ声をかけていく。
 彼からすればそれは、愛していた物の不滅の形であり、至高の愛の形に他ならないからだ。
 愛ゆえに、男は殺す。

「行って来るね、レティ。
 ――ああ、ベアトリクス、そんな悲しい顔をしないでくれないか。
 ――シンディ。君の姿はとっても綺麗だね。いつ見てもバラのように美しいよ……。」

 街は今、真の狂騒を示している。そのイカれた音色と快楽に身をまかせるように。
 男はハチェットを預かり、その元の持ち主だった女にも声を掛けるのだ。

「――レイネイラ。君のハチェットと道具を、借りていくよ。
 ジャックに、どうやら会えるらしいんだ。君の夢、そして僕の夢を代わりに叶えに行くよ。
 だから、一緒に居ててくれるよね?」

 レイネイラ。それは殺人史上において語られずに亡くなった女殺人鬼の名である。
 彼と彼女はまた、相互に殺し合う仲であり、またそれ相応に共に愛していた。
 殺し愛の仲。その矛盾した言葉がしっくり来る二人のカップル。
 今は、女はすでに物言わぬ骸と化していた。――享年25。病死だった。
 共に死者を愛し、死体を愛した者同士。運命の糸はかくも残酷に惹かれ合う。

「愛しているよ。僕の最高の恋人。」

 亡骸の傍らのハチェットを男は握り締め。腕を抱きしめるように亡骸に回せば。
 亡骸の瞳に彼は甘く口づけた。それは、甘く切ない胡蝶の夢である現実に、別れを告げるように。
 彼女の生前の夢に、安息と完結を。望みは単純だった。
 美男子・女子の首のコレクションの充実。そして、二人の夢である切り裂きジャックの死体。
 残酷なまでに狂える朝に。男はそっと屋敷の門を開け、光の中へ消えた――。

 ★★★

 家の外では、まさにジャックの演説の事で街は持ちきりである。
 そして、それに呼応するようにいくつもの犯罪が巻き起こり、秩序の全てを喰らい尽くして居た。
 狂える街の断末魔はいくつも響き渡り、まるでコーラスを奏でるがごとしである。
 死者の亡霊を携えて、自慢気に歩く男が奇異の目を引いている。
 狂える断末魔の中に。彼もまた、存在したのだ。

 パァン パァン パァン パァン パァン パァン

 一瞬で跳ね飛ばされる男女6つの首。吹き上がる鮮血が噴水のように美しい。
 跳ね飛ばされた女の首は既に宙へ舞い、男の首は首をはねられた後に肉体は唐竹割りである。
 ある者は内蔵を切り裂き、引き出された。またある者は心臓のみが綺麗にえぐられている。
 舞い散る鮮血と、生み出される肉片。そのコントラストにまみれながら。
 男はただ、柔らかな笑顔を崩そうとすることはしなかった。
 くらくらする死臭。鮮血の香り。これほどの麝香(ムスク)は感じたことがない。
 ――法悦。疑いようがない。やはり殺人は芸術だ。

 その中で、ジャックの事がふと、脳裏に浮かぶ。
 彼は自分にとっては太陽で。そして、自分は同時に月だった。
 派手を望むということは特に無かった。劇場型殺人に憧れるということでもまた、無い。
 しかし――。殺人鬼ならばそれは互いに惹かれあう。
 それは、相互に能力者であったがゆえの憧憬なのだろう。そう、思わざるには居られなかった。

(ジャック。君は、何時にもましてイキイキして見える。
 僕は、君の亡骸が欲しい。殺人における最高傑作、芸術の中の芸術である、君の姿が欲しい。
 だから――。せめて、死んだ先に。君が死んだ後に、僕は君が、欲しい。)

 いかなる芸術ですらも、人体の内部ほどに超えたる芸術は存在し得ないだろう。
 それを、男は殺した女の眼球を飴玉のように舐めながら、確信と共に抱いていた。

●Why are You Here?
「おえぇぇぇ……」

 モニタースタッフの一人が袋に向けて盛大に吐き下す。
 未だこれ以上に無残なる殺人事件は存在しなかったが故の事象である。
 様々な事象を目の当たりにしたものでも、これほどの衝撃を以って出される事象はかつて無かった。
 故に。此度の異端を抑えるべく、巫女は平静を装って、リベリスタに向きあうのだ。
 幸い、吐き下すことはしなかった。しかし、顔色は何時にも増して、青い。
 手元の氷水を持つ手が震えている。そのふるえる手で飲みながら、告げる。

「……様々な事象を見てきたけれど。流石に今回は悪趣味にも程があるわね。
 作戦目標、『死劇者』アズライル・ネメクロス。
 ジャックより少し後出の殺人鬼で、ついこの間偽名で密航したことが分かってるわ。

 人の性癖をとやかくいう趣味はないのだけれど……。
 相手は死体性愛者(ネクロフィリア)の快楽殺人者(ラストマーダー)。
 この性質を鑑みても、交渉等はほぼ不可能と見ていいわ。
 ――もっとも、交渉は君が死んだ後で、となるでしょうけれど。

 能力は間違いなく一般殺人鬼よりは数枚以上の上位。
 何故彼がここに来たかは定かではない。けど来てしまったものは仕方が無いもの。
 相手は殺人歴においてはジャックと肩を並べる。それは確約できるわ。

 あと、彼は2点のアーティファクトを所持してる。
 一番警戒しなくてはならないのは手に持つハチェット。
 これは『ヒト』を切ることに特化している。故に。野放しにしては危険過ぎるの。
 十分、警戒して。舐めてかかれば、殺されかねないから。」

 思わず息を呑む者も数名いる。
 ジャックより少し後出とは言えど、歳が離れる程度。その実力は計り知れない。
 戦士たちは十全の用意を求められるだろう。その覚悟を負った上で。
 戦士たちは、戦場へと乗り出した。この悪夢を止めんがために。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Draconian  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月03日(月)22:34
■STコメント
死地大好き、熱戦大好き、死にたがりさんいらっしゃい。
ドラコニアンです。イカれたキ印良品なイベントシナリオをプレゼンツ。

■作戦目標
『死劇者』アズライル・ネメクロスの撃破
上記フィクサードの所有する全アーティファクトの回収。

■戦地
昼の市街。殺人鬼達によって混乱している街中での戦闘になります。
結界などの隠蔽スキルが一つあれば大丈夫でしょう。

■『死劇者』アズライル・ネメクロス
西洋系のジーニアス・ソードミラージュ。
アーティファクトを2つ持っています。凶悪なのが揃ってる。

◆所有アーティファクト
・殺人鬼レイネイラのハチェット
ヒトを切ることに特化し、魔力を帯びたハチェット。
これで殺された死体は腐らない。ヒト型の対象に追加の大ダメージを与える。

・栄光の手(ハンド・オブ・グローリー)
屍蝋化した手を蝋燭化したもの。チャージ30を所有者に常時与える。

★所有能力
・ソードミラージュRank2スキルまでを全て習得済み。その内のいくつかを活性化しています。
・ブラッドドランカー:P:出血・流血のキャラクターの数に応じて攻撃力が上がる
・ネクロダンシング:A:遠複:出血・流血
・EX:虐殺器官:A:近複:弱点・流血・?

非戦系
・感情探査
・ペルソナ

それでは、殺人の宴へ参加する英雄を、お待ちしております。
楽しみましょう。お互いに。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
プロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
プロアデプト
ウルザ・イース(BNE002218)
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
マグメイガス
来栖 奏音(BNE002598)

●Screaming Cry
 コンクリートジャングルの中の仮初の安寧は、蜃気楼の町に似て儚くもたやすく崩れ去る。
 幻想のような平穏な日常は軽々と打ち崩され、街は鮮血の絨毯が敷き詰められた。
 街の中で響き渡る断末魔、理性さえ失った恐怖に歪む声が耳を裂く。
 ――歪夜十三使徒第七位。『ザ・リビング・ミステリー』ジャック・ザ・リッパー。
 想像すら叶わぬ狂気の申し子の演説が、街にもたらした恐怖は如何ばかりだろう。
 その声はヒトの心の歪みを揺さぶり、恐怖と破壊を引きずり出すパンドラの匣の鍵。
 開き、放たれたパンドラの匣の中身は、街の中に感染し、何処までも世界を歪ませる。
 秩序は今や喪われ。力が正義となり、弱きが殺される万人の万人に対する闘争の中。
 箱舟の勇士たちは混乱を鎮め、そのリヴァイアサンを打ち倒さんと、街の中へと戦列を組むのだ。
 アスファルトを叩く靴の音が唯一の秩序を示す中。

「どれだけ命を奪えば気が済む……。」

 戦列の中の秩序有る黒が吐く毒は、この戦列の勇士たち誰もが思う怒りの具現でもあるのだろう。
 吐き出す口は機甲の者の一人、源 カイ(BNE000446)の物だ。
 思わず口を突いて出た、望むでもない独白の毒は、空間を震わせては消えゆく定め。
 消え行くそれは、戦列に並ぶ者ならば抱かずには居られぬ感情の一片だ。その思いを横に受け。
 今回の敵と職を同じくする音速の鬼神は、声を掛けるのだった。

「――気持ちはわかるよ。けど、思うならなおさら、止めなくちゃ。
 死体作りの名人だけに油断は禁物だ。油断せず、行こう。」

 返される頷き一つに答えるように手袋をはめ直し。マントを用意して戦列に臨む者。
 ――『素兎』天月・光(BNE000490)。彼女もまた、戦列の数を踏み抜いた音速の鬼神の一人。
 心の片隅にある「寂しい奴」というある種の憐憫。それがにじみ出る寂寞の感を隠さない表情に。
 また一人、呼応する者も横に出る。

「……分かり合えないのも悲劇だね。そのために、どちらかが消えないといけないなんて尚更。」

 嘆きの右手を思わず額に当て、ある種の苦悩を隠さぬ天使の一柱。
 そこには、成熟し論理戦闘者(プロアデプト)となった一人の智天使(ケラビム)の姿があった。
 智天使の名。かの者こそ『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)。
 慈悲の左手は常に背にある身の丈あまりの大弓に掛けられている。
 それは、戦場の理(ことわり)を知るが故の警戒であり、護法のための義務だった。
 仲間は、絶対に守られなければならないのだ。かけがえがないのならば、尚更。

 人の心の虚、嘆息と共に生まれる嘆きは時として伝搬し、人の心に恐怖の種を植え付ける。
 リベリスタとして恐怖と戦う者もまた、単独ではない。

 戦列に並ぶ純白の騎士鎧に身を包む一人の乙女もまた、その一人だ。
 妖精光の乙女。『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)。
 手に握られるその魔導書は術者の真相に眠るアストラルの猫を抹殺すべく血に飢え。
 スレンダーな肉体に合わせた鎧の下には恐れと勇気がニ虎合い食んでいる。
 ――怖い。狂気と、斧の煌きが瞼に映る。しかし、恐れを抱いてこれを止めねばさらなる惨劇の幕は開く。
 恐怖を押し殺し、戦列に立つことはこの場の全てのリベリスタにとっても負担であろう。
 その重責と狂行を止めんとする強い意志とのせめぎあい。制するように感情を押し殺し、歩む。
 その先に光はあることと、乙女は信じて。

 ★カラカラカラ……★

 少し歩みを進めれば戦列はより深く入り。
 コンクリートの林の中は開けては居るが恐怖と絶叫、そして狂騒にまみれ。
 恐れに駆られた子羊は救いを求め、救済の柵を求めて逃げ惑う。
 有象無象の殺人鬼達。彼らが恐怖をもたらす中に、此度の狩るべき巨悪は居るのだ。
 歩みを進めればすすめるほどに、その巨悪の所在は近づく。

 智天使の隊を二分せよとの号令が、混迷の街の空気を震わせた。
 そして、智天使の守護者として傍に並び立つもう一つの智者の黒もまた、相従う。
 智者の黒、またの名を『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)。
 邪なる蛇もまた論理戦闘者の一人。そして、この地における秩序を回帰させんとする者の一人だ。
 身を包む鉤十字(ハーケンクロイツ)の刻まれたその服は、守護の力を強く付与したそれである。
 男は智天使を守る者としてまた共に歩む。その光景は、智天使の白と堕天の黒の交差だった。

 ★★カッタンコトリ、カッタンコトリ★★

 二分された隊の中、感情探査によって強い感情を探し求める者がいる。
 混沌の街の中では、圧倒的に恐怖の感情が支配的である。その中のイレギュラーを探すその者。
 繰手の名は七布施・三千(BNE000346)。彼女はまた、癒しの術の使い手でもある。
 少しでも気を抜けば、自らもまた恐怖に飲み込まれてしまいそうな闇、闇、闇。
 底知れぬ人の心の深淵を覗く所業の中で、ふと、口から突いて出る、恐れ。

「街が、恐怖で一杯……。 僕、こんな街は見たことがないよ。
 こ、怖い。気を抜いたら飲み込まれる……そんな、そんな気がして……。」

 自身を抱く腕、震える声、思わず口を衝いて出る恐怖の感情。さすがに無理もない話だろう。
 会う者はみな恐怖と狂気に飲み込まれ、万人の、万人に対する闘争を開始している。
 それこそはまさにパンドラの匣の中身に他ならない。

 しかし、その中で。彼女を気遣う声もまた、傍から飛んだ。

「今、日本中で事件が多発してるでござるからなぁ……。
 でも、七布施殿なら大丈夫でござるよ。我々も付いているでござろう?」
「ですよ~♪ 絶対に何とかなっちゃうのです。だから、大丈夫。」

 笑顔を投げるのは半虎半人の殲手――『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)。
 そして、半機甲の肉体を持つ魔術の徒、来栖 奏音(BNE002598)。
 声の主も野太刀を構えた戦闘者の構えを解くということはしていない。
 それは、魔術の徒の方も同じ事。手に持つタロットカードは大小が揃い、ひとつの宇宙を書き示す。
 戦地への混迷を切り開く刃は、時として護法の刃となり、そして悪を裁く断罪の刃となる。
 そして、時として戦場を清め、時として殲滅するその光は守るべき物のための盾となる。
 それを知る者こそが、本当の意味での『殲手』、そして『魔術師』たりえるのだろうと。
 心を和ませる数瞬のやり取り。その間に漏れる笑顔に誘われるように。
 繰手の感情捜査の網に、此度の対象とおぼしき感情の反応があったのは、数瞬の後の事であった。

●Blood Cannibal War
「――あちらに、強い『嗜虐』の感情を感じます」

 ――掛かった感情。それは『嗜虐心』。
 心の上の仮面――ペルソナとて、完全に覆い隠すことは叶わないものもまた、ある。
 その隙間を抜け一瞬漏れでた男の本性。それを繰手は見抜き、捉えた。
 瞬時に幻想纏いを通じ、二分したもう一つの隊へ連絡が飛ぶ。
 ――二条の光が闇に同時に差し込む時。戦端は開かれ、舞踏会は幕を開くのだ。

 ★★★カリカリカリカリ……★★★


 ふと視界を広げれば戦場は鮮血に濡れ、旧来ヒトであったはずのそれはもはや原型をなさず。
 それはまるで、レッドカーペットの如く広がり、どす黒いまでの黒に転じ続けている。
 多さや形もバラバラの屍肉、恐怖に張り付いたままの打ち棄てられた人の首・躯体。
 夥しい程の死体と血の匂い、そして、鼻につく死臭が口鼻からと香っては離れることがない。

 ――惨劇の宴、思わず吐き気をもよおすような戦場の香。
 しかし、その香すらも男ににとってはまた、麝香でしか無いのだ。
 殺戮の宴の副産物である紅に染まる衣服を纏い、狂気の香りを味わいながら。
 箱舟にて『死劇者』と呼ばれた男はただ、恍惚の表情を浮かべ、笑っていた。

「こちらの道は安全です、急いで、この殺人鬼は僕らが食い止めます!」

 未だ残る生存者を誘導する声が秩序有る黒から飛んだと思えば。
 その声をトリガーとするかの如き幾重もの結界が張られ、外界と戦地を隔絶する。
 戦地の隔絶が行われた次の瞬間だ。開戦を告げる、白の風一つ。

「殺人鬼さん、兎狩りには興味はない? ないですか? そうですかっ!」

 瞬加速からの不意打ちを狙った音速の一撃が鬼神から飛んだのを知覚する数瞬後。
 人参を圧延したかの如き鋭い刃が死を劇とする者の肉体を掠め、梳る。
 的確に捉えられたはずの手応えはそこには存在しないが、紅の薄い筋が空にはまた描かれていて。
 賽は今、投げられた。実力を以って運命と対峙する時が訪れる。
 たとえその結果が、如何様なる物であったとしても。ヒトは運命に抗うことを忘れない。

「最初から本気で行かせてもらうでござるよ!」

 爆砕戦気の真紅のオーラが肉体を包み、破壊の衝動へと殲手を付き動かせば。
 デュランダルならばおしなべて持ち合わせる衝動に忠実に肉体は動く。

 ――体が刻む8ビート。全身を持って体現する、高速戦闘機動。

 殲手の刃もまた音速の一撃と呼応、死を劇とする者の肉体へと押し迫る。
 そしてそれは、白と茶、そして鮮血に濡れた紅の太極図。
 3極の茶が放つ煌刃の一撃は、時として男を捕らえては二の太刀を放つ。
 しかし、その空振りの一撃に呼応するかの如きハチェットの刃も、また深々と殲手を捉え。
 肩口から深々と刺さるその刃が、神経に火を入れていく。

 ――痛い、よりも熱い。そう形容すべき感覚が全身に走っては消えを繰り返す。
 痛みの中で映るのは、戦列に立つ仲間たち。ここで希望の階を、崩す訳にはいかないのだ。
 影人を呼び出す術式の後。共に集中から放たれる気糸による拘束術。
 その糸が完全に男を緊縛し、動きを一瞬止める。この隙を逃す者は、この場には居ない。
 放たれたのは、智天使の大弓より放たれた神罰の一撃。
 神罰の光は悪を断罪し、生者を軛へと導く。死劇者たるその男とて効力の対象外ではない。
 男の肉体を強烈なるまでのショックが襲う。鈍る肉体は、刃を一瞬であるが鈍らせ。
 その護衛として動き、機を伺っていた邪なる蛇に躍動の時を呼び起こすのだ。

 ――狙撃術式第三門――遺産管理局研究報告書より抜粋。遺産『イテルナの狙撃槍』――

 魔術書より引き出された魔導の槍は精密なる気糸を撚り合わせて生み出され。
 過たず男の肉体を撃ち貫いて消滅する。それは、まごう事無き嘲りの一撃だった。
 蛇もまた、嗤う。勝利を確信したその表情で。

「どんな強力なジョーカーがあれ、選ばせなければそれだけの事です」

 蛇の言葉は真理を含む。いかなる敵であろうとも勝利を可能にする必勝の定理だ。
 その言葉を確信に変えるかのように。魔術師による乱撃の雨が今、放たれようとしていた。

 ――我、護符を以って繰るは真実の書。剣は悪を薙ぎ払い、混沌の中の正邪を分かつ。
    杖の名を以て来たれ、魔攻の弾よ。聖杯の加護と共に悪しき彼の者を打ち払え――

 56枚、4スートに別れる『真実の書』が魔導の力を引き出され、暴威となって相手を襲う。
 それは相手の肉体を打ち払う乱撃の雨であり、また漆黒の悪夢を打ち払う光の刃だ。
 戦局は優位に傾きつつ有る。希望の階を繋ぎ、優位なる勝利を齎すための布石は、揃う。
 中には傷ついたものも見られ、出血のそれは肉体を染めぬいていた事は間違いはない。
 しかし、その真紅を止め、苦痛を希望に変える術式もまた、吹き込まれるのだ。

 ――エセリアル界より魔術承認。治癒術式起動。虚ろは常世に、絶望は希望に。
      我、代価として見えざるピンクの猫をここに生贄に捧げ、治癒の力を引き出さん――

 吹き込まれるのは瘉しの歌唱。天使たちの聖唱歌が、肉体の損耗を癒し、止める。
 ここで狂行を止めんとする勇士たちの熱意有る希望は、運命の天秤を少しづつ、少しづつ傾けていった。
 希望の階は遠く、近い。勇士たちの目には、希望が映っていた。

 ★★★コロコロコロコロ……★★★

 繰手の翼の加護が、仲間の肉体を軽くするのは数瞬後のこと。それを合図にするかのように。
 集中と共に振るわれる幻影剣が相手を正確に捉えていく。間髪を入れぬ猛攻。
 そして、その上で行われるのは体をすり合わせるような超接近戦だ。
 時に空に逃れ、また時には地を蹴り高速で相手の刃から逃れを繰り返す。

「綱いで続げて繋がる!」
「今がチャンスでござるな!」

 それは、希望の階を繋ぐという意味でも、同じ事。
 リベリスタならば、おしなべて持つ心の希望を全力で引き出す、協調の魔法。
 それに呼応するのは殲手の野太刀に乗った、まさしく殲撃と呼ぶべき必殺の一撃。
 身に纏うオーラは雷撃の刃へと転じ、野太刀の刃を金色へと染める。
 その一撃が死劇者を捉え、さらなる乱撃の一撃へと刃を変える。
 肉体は裂かれ、鋼は血を吸い、咆哮を上げる。それは、殲手の怒りの具現と呼ぶべきそれだった。
 そこに、影を縫うが如き一撃があった。彼らはそれを運命の賽と呼び、成否に己の勝負を賭ける。

(……怒りはその身に委ねても、鎮めてもいけない。じっとその身に忍ばせ、渾身の一撃を繰り出すその時に、解き放つ!)

 ――ハイアンドロウ。己の身を削り、敵を打ち払うべく放つ爆撃の一撃だ。
 オーラが雷撃の一撃と成り代わり、敵の弱点を突いた一撃として爆轟をもたらす。
 さらに、そこに呼応するかのごとく撃ち込まれるのは、智天使の狙撃の一撃だった。
 目を狙う精密なる一撃。しかし、それを見ぬいた男はハチェットの柄で着弾点をずらし、回避する。
 一瞬一瞬の判断の積み重ねの先にしか、勝利は存在し得ないのだ。
 それは、智天使である彼も、また死劇者と呼ばれたこの男もまた、知っている。
 邪なる蛇のデコイの戦術。たしかにそれは、敵の攻撃を局限し、手札を奪うことに成功していた。
 しかし、運命は時として、軽々と裏切る。積み重ねすら無にするそれは、まるで――。

 ★★★カラコロカラコロカラコロ……ギッ、プチリ★★★

 運命の女神とはかくも残酷なものだろうか。
 男の持っていた『切り札』。男はそれを己が保身のためにすら利用する。
 そのことを、想定していたのが一名だけであったことが、ある種の不幸であったのかも知れない。
 男の挙動がおかしいことを見破る余裕なき戦場で。男は最後の虐殺の宴を開いたのだ。

 ハチェットの刃に生命が宿るかの如き幻覚を見たのならば、それは錯覚ではない。
 持つべき主が持つ武器は、往々にして魂を得るのだ。足が刻むは円環。目にも付かぬ高速の動き。
 男の掌に握られたそれは、まるで意思を持つかのごとく伸び、首を一撃で打ち落としていく。
 初めは蛇が。次いで智天使が。躯体もまた瞬時の出来事で打ち刻まれ。虐殺器官に飲み込まれていく。
 運命に愛された者たちでなければ死を甘受せざるを得ない。それほどまでの惨状の中で。
 男は瞬時に2名を刻み、戦場を離脱する道をまた選ぶ。
 目的はリベリスタでは元々、無いのだ。それに気が付き、追う音速の鬼神。

「逃がすかよ!」

 空を切って響く言葉。伸びる緋色の音速の刃。


 ――捉えたとその時まで、思った。


 伸びる刃の上に荷重が掛かる。ふと視界を広げれば、男は上に載っていた。
 その状態で男は嗤い、言うのだ。

「逃げさせてもらうさ。 君達と目的は、違うのだからね。」

 まるでそれは劇場の上に立つ役者のように。次の瞬間にはもう、居ない。
 まだ、死の惨劇の幕が降りるということはなさそうだ。そして、それは何時になるのかも定かでは、ない。

 Fin

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
■STコメント
このような形となりました。復讐の時は必ず来ます。刃を研いでお待ちください。
また、運命の重なる時まで。ご参加ありがとうございました。

Result:
※敬称略、重傷、戦闘不能含む。
重傷者:鬼蔭、源、天月、イスカリオテ、ウルザ、来栖
戦闘不能者:レイチェル、七布施