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<Blood Blood>Komm, süsser Tod


 暗闇に四角く切り取られた映像がある。
 その前に座する長髪の女が、視界の先で移りゆく光景に一人、おお、とひしゃげた声を上げた。
 伸ばされた骨ばった腕が人工の光に照らされ真っ白に浮き上がるようだ。
 おお、とまた上げられる声の主は目を剥いて涙をはらはらと零す。
 その瞳に映るのは彼女にとっては天の御使いに等しく、耳をつんざく悲鳴の中語られる言葉は福音の言葉だ。
 おお、と三度目の嗚咽を漏らした彼女の指先、伸びた爪がモニター上で滑って『彼』の輪郭を撫でた。


 数日後午後9時、同室内。
 
 涙に咽んでいたのと同じ人物が、今度は光の中で大きな姿見の前に座っていた。
 一転して穏やかな微笑を浮かべる美しき彼女の椅子、左右後方には三人の乙女たちがいる。
 女は深く座し、ウェーブの掛かった長い銀髪を背もたれの向こう側に――それを手に取り丁寧に梳くのは最年少と見られる少女。
 癖の強い灰の髪は短く切られ、中性的な美を印象づける。
「姉さまがお元気になられて私達は嬉しい」
 楽しげに語りながら、美女のサイドの髪を手際よく結い後頭部でまとめ、天鵞絨のリボンでしっかり結ぶ。
「姉さまがいてこその私達」
「姉さまのいない殺しはいつにもまして味気なかった」
 左右で美女の爪の手入れをするのは白と黒の髪をした、同じ顔の女性二人。
 アシンメトリーに結わえられたセミロングが揺れ、『お姉さま』の髪と同色のマニキュアがしっかり乾いたことを確認して笑った。
「参りましょうお姉さま」
「ええ参りましょうきっと楽しい」
「ゆきましょうこれが夜明け」
 左右の乙女が差し出した手をそっと握り、美女がすらりと立ち上がる。

「我らに漸く朝がくるのですね」

 開いた口から出てきたのはこちらも打って変わって歌うような声。
 立ち振る舞いもまるで別人のようである――それとも少女が言うとおり、これが元気になった姿――素、なのか。
「ええお姉さま、もう泣くことはありません」
「私たちは本当に殺したいものを殺せるのです」
「その上殺されども決して無駄にはなりません、『伝説』がそう語ってくださいました」
 返事を耳に、嬉しそうに互いに目配せしあって乙女三人が美女に寄り添った。
 そしてぱちん、ぱちんと何かを止める音。

「ああ、愛しき妹たち、我らにもやっと幸せになる時がきたのです」

 広げた両手にはめられたのは、美女が纏った優美なフリルドレスには似合わない頑丈な指ぬきグローブだ。
 それを当然と見向きもせず、彼女は崇めるような視線を虚空へ投げる。
「そうです、神はいかなるものにも平等に幸福になる権利をくださるのです」
「漸く私達の番になったのです喜ばしいこと」
「ですからお姉さま、導いてくださいませ。迷える私達を、新たなる地へ」
 口々に語り、手を組み膝をつく。その一枚絵はまるで信仰者たちと聖職者のようだった。

「ええゆきましょう、真に満ち足りる時間はすぐそこです」
 ――ころりと笑み、頷く彼女の神はいずれか。


 翌日、午後12時半を少し過ぎたころ。
 某県某所のショッピングモールは、異質な来訪者の姿に瞬く間にどよめきに包まれた。
 それぞれが華やかな衣服に身を包み大きな荷物を抱えた4人の女性は、家族連れで賑わう週末のモールではかなりはっきりと場違いであった。
 彼女らが進む道からは必然的に人が退き、騒ぐ子供は母親が背後に隠すようにして庇った。

 ――しかしそんななけなしの警戒心は、四人が立ち入り禁止の札をまたいで中央ステージへと上がるだけであっけなく霧散してしまう。
 それどころか臨時のイベントかと勝手に結論づけ、人々は危機感なく彼女らの元へ集ってしまってきていた。
 ああ、と四人は連ねる。あんな番組があった後だというのに他人ごとだというのだろうか。
 多発する残虐な事件もあくまでテレビの向こうの出来事なのか。昼間ならばまだ危険は少ないと信じているのか。
 いずれにせよ身近な悪意を信じない人間たちに、美女は潤んだ瞳を細めて向けた。
 けれど宿るのは憎悪でも、憐憫でも、蔑視でもない――まるで本当に愛しい物を見つめる表情――彼女の妹たちも、同じような表情だった。
 そこまでの表情をしたのも、みたのも、美女自身初めてである。
 だからたまらなく嬉しくて、荷物をくるんでいた真っ白な絹を手品のようになめらかな動きで絡めとってみせる。

 『下から出てきたものを目の当たりにして尚、誰もが瞠目すらせず彼女を見つめているのをみて美女は湧き上がる興奮に目眩すら覚えた』。

 やおら伸ばされる腕の先で光が閃き、一瞬遅れて白昼のショッピングモールに爆発音が響く。
 娘の誕生日のプレゼントを買いに来ていた男性が、妻の目の前で、床に零したミートソースを綺麗にしたあとの雑巾のようになったトルソーを床に叩きつけて絶命した。

 空気が色を変える無音の瞬間こそが、平和な日常の崩壊する音にほかならぬ。
 続く楽章、奏でられるのは漸く現実を飲み込んだ人々が発する絶叫の大合唱。
 色濃い狂気に今や恍惚の表情を浮かべながら、姉妹たちは明らかにそうとわかる恐怖を携えて囀った。 

「さあ、皆に」
 ――身体に不釣合いな程に大きく無骨な斧を構えれば、灯ったオーラが床にかすってちりちりと音を立てる。
「さあ、誰もに」
 ――大振りのコンバットナイフを左手に握り、常人には理解しえない言葉を呟く頭上、焼き焦がす程に眩い光が圧縮されて矢の様に研ぎ澄まされていく。
「さあ、彼らに」
 ――飾り気のないブッシュナイフを右手に握り、パニックに陥る客に向ければその身が荒れ狂う電流に包まれる。
「さあ、我らに」
 ――握っていたショットガンを横倒しにし、実に優雅な手つきで『トリガー部分をまるごと引いて』廃莢する。

そして装填。

「「「「甘き死よ、来たれ」」」」

今度の爆発音と共に『来る』のは、およそ20。


 惨劇より遡ること半日。
「……大体、事情は解ってると思うから基本の説明は省く。みんな、お願いね」
 今日だけでもう、どれだけの力を行使してきたのだろうか。普段滅多に表情を動かさない『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の顔には疲労が色濃く見えていた。
 それでも泣き言一つ口にすることなく、まだ幼き少女は説明を始める。

「みんなが担当するのは『白詰草の四姉妹』と名乗るフィクサード。『今までは』何故か殺害の対象にフィクサードばかりを選んでいた特殊な人たち。
 その所為で『多少過激でもリベリスタなのではないのか』っていう意見もあったけど、彼女らがいたと思われる現場ではきまって一人も生存者が居なかった。
 だから危険かも、程度のマークはされてたんだけど……結局アークにとって問題になるような行為はしなかったのか、何も知ることがないままで――懸念は最悪の形で証明される事になってしまったみたい」
 モニターでずっと光を放っていた四姉妹と思しき写真が音をたてて切り替わる。
「みんなが到着する頃にはもう、彼女らもいて、移動を始めてる。場所はここ。ショッピングモール」
 円柱型をした5階建てショッピングモールの内部は、中央の吹き抜けを取り囲むような形で店舗が並ぶような作りになっているらしい。
 1階、吹き抜けの底は普段は広場、イベントがあればステージと化すのだそうだ。
 その円状ステージに四姉妹は現れるとイヴは言う。
 指先が何度か押し間違えながらも端末を叩き、
「東西南北に存在する入り口の、南側から彼女たちが歩いてくるころ……かな、みんなの到着は。どこから侵入するかとか、いつしかけるかとか、全部任せる。
 逆に彼女たちはっていうと、『中央に到達する前なら』――『リベリスタの存在に気づかなければ何もしない』、みたいだからそこも一応考慮に入れといて」
 でも。でも、と繰り返してイヴがその小さな体を固めた。
「真ん中でも、それ以外でも。どこかで留め金が外れれば最後。彼女たちには躊躇いも、迷いも、見境も、ない」
 その仕草の意味も、言葉の裏側も、リベリスタ達にとっては重いものである。 

 戦闘が始まってしまえば『一般人はほぼ確実に巻き込まれる』――

「でもね、周囲の人達を救おうとしてみんなが不利になるようなことは、できれば避けて。
 『今までリベリスタの存在を散々回避できた』事からして、何かをやらかせばみんなが出てくるっていう察しはついてるはず。
 なら、その反応こそ姉妹たちの思う壺なのよ。
 殺したい一般人を殺す事で、自分たちのステージを邪魔するリベリスタたちも倒せるかもしれないなんて、彼女たちにとっては得しかないの」
 真っ白になるまで両手を握り、
「残酷な事を、言ってるって――お願いしてるっていうのは、解ってる。
 でもね、こいつらは本当に、頭がおかしいから……倒せずに逃したらもっとひどい事になる。
 狂人の戯言に、誘導に、今だけは耳をふさいで。一人でも多く助けたいなら、一発でも多く攻撃して。」

 理不尽のその後を知る少女が、疲れ目をそれでも精一杯あげてリベリスタ達を見つめて言った。

「そして全力で、否定して来て。私達の世界の幸せは、こんな形じゃないはずだよ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:忠臣  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月03日(月)22:45
長文読破お疲れ様です。
すみません滾りすぎました。忠臣です。
何をどうするかは全て皆さんにお任せ。
以降に姉妹のスペックと特徴、補足を記しておきます。

===

【長女】ジーニアス×スターサジタリ―/ショットガン
最も効率が良い戦い方をします。範囲と単体使い分けます。
必要あらば集中もします。

【次女】ジーニアス×ホーリーメイガス/ナイフ
回復メインですが必要なければ勿論攻撃してきます。

【三女】ジーニアス×マグメイガス/ナイフ
全体攻撃をメインにしかけてきます。あまり行動にバリエーションはありません。

【四女】ジーニアス×デュランダル/アックス
単体攻撃中心ですが相手をしっかり見極めますし、可能なら後衛も叩こうとします。

【頭の回転の速さ】長>四>次>三
【タフさ】四>長>次>三

☆全員、各自一度ずつ、自らのフェイトにより確実に戦闘不能から立ち上がってきます。
・『自らの死でも舞台は完成する』ため、逃走の危険性はありません。逃走する暇があるなら一人でも多く殺そうとします。
・こんなやつらですが、もし皆さんが全滅しても『皆さんに関しては』
『リベリスタを倒せた』事実に大満足して通りすぎるので重傷以上はありません。ご安心を。
ただしその時点で逃げ切れなかった一般人についてはお察しください。
・同じ理由で逃げるリベリスタを追うこともありません。ただその時点で以下略。

===

・出入口から広場中央まではそんなに距離はありません。ゆったりあるいても30秒くらいで付きます。
・ステージに背面はなし。完璧に円型。その円の中央にたって遠距離スキルを放つと、
1階は周囲の店の店舗内、2階は店の玄関口くらいまでは届きます。大体ですが。
・広場にはステージは勿論段差や大きめの花壇、机等はありますが
概ね大人の腰あたりの高さのものばかりなので射撃の障害にはなりません。良くも悪くも。
・上階にあがるにはエレベーターが広場の東西に二機・螺旋階段が北に一つありますが余程の理由がない限り
姉妹たちは中央広場から動きません。

===

以上です。プレイングお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
プロアデプト
ウルザ・イース(BNE002218)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
デュランダル
神守 零六(BNE002500)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)


「あー……すみません、少しお話良いですか? そのお荷物……」
「あら……お勤めご苦労様です。今日は随分と警備員の方が目立つようですけれど何かあったのでしょうか?」
「え? ああ、ええと、まだ何も起こっていませんよ。ただ、少々妙な電話が立て続けに入りまして」
「妙な電話ですって?」
「ええ、根拠も不確定な情報ですし詳細は申し上げられませんが、警戒しておくにこしたことはないだろうと…」
「『警戒が必要な状況なのですか』」
「姉さま、どうしましょう?」
「だ、大丈夫です! この通り警備のものが見まわっておりますし、何かがあればすぐに対応できます!」
「まあ、頼もしいですわ。もし本当に何かが起こったら、警備員さん、私たちを護ってくださる?」
「勿論ですとも、ですから安心してお買い物の方を続けられて結構です。お騒がせして申し訳ございません」
「嬉しい。……あら? でもなぜ警備員さんは私たちに声をかけたのかしら。私たち、そんなに『怪しく』見えて?」
「あ! も、申し訳ございません! ご不快にさせてしまったでしょうか……そのですね」
「いいえ、お気になさらず。むしろお仕事熱心な事に感動しておりますのよ」
「いやその、だから――」

 それはリベリスタ達が場に踏み入る、ほんの数秒前の会話。
 そうして訪れた僅かな時間の間に起こった、めまぐるしい状況の変化を全て目で追い切れた一般人はいなかっただろう。
 多くの事が同時に起こりすぎたのだ。
 気がつけば今、平穏だったはずのショッピングモールの南口では諸手に武器を携えた者たちが、今にもお互いに飛びかからんとしているところだった。


 より確実な避難のため、ドアを開け放ちながら視線を向けた先で、雪白 桐(BNE000185)はブリーフィングルームで見たシルエットを見つけた。
 彼らがいれた電話にも関わらずさほど変わりなく混雑する昼時、桐たちリベリスタが突入を開始した南口のすぐ近くだ。
 『歩いて行っている』はずの彼女らが、こちらに背を向けたまま何故か歩みを止めている――事の大小はともかくとして、それは予見された運命から確かに『今』が逸れている証だった。
(「いけるな」)
 距離にして僅かに一拍。時間は十分と、『リ(※不具合)』結城 竜一(BNE000210)が己の特殊な気配を消しながら真っ先に近寄り、声をかけようと口を開いた。
 それはなるべく周囲の被害を減らそうとしての、彼なりの策。

 ――しかしその瞬間が表面上の平穏の最後の瞬間であり、一般人が認識しうる範囲の末端だった。

「何、貴方、勝手に姉さまに近寄らないで」
 『彼女』の妹たちが、竜一がリベリスタとは気づかないまま、それでも事前の緊張感故か彼の行く手を阻んだ。姉がその様子に気づいて振り返る。
 『そうすることで、彼女達は一般人の多くに背を向ける形になった』。
 『けれどリベリスタたちが突入し、己の立つべき場所へと足を運ぼうとするのも同時に目に入った』。
 流れ一つ。

「やはり来ましたね……思ったよりも随分早かったですが」
 負け惜しみでなくその通りだったから、姉妹達の反応は早い。
 臨戦態勢に入れば布の擦れる音が鋭く響き、その下から鈍い光を放つ殺傷兵器が現れた。
 とはいえリベリスタたちも黙ってそれを見ているわけではない。各自が既に己が潰さんとする相手へと詰め寄り始めていた。『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)や『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)の狙った包囲は、攻撃を担当する者たちの『有効範囲』の狭さ故に実現はしなかったが――何か事を起こされる前に、すぐにでも攻撃可能な位置につけたのは先手として大きい。
「貴方達が被害を受けるわけではないのに、随分と力をお入れになるのね」
「『殺人鬼だ!』」
 銀髪の美女の皮肉げな声に、返事がわりに放たれるのは桐の叫び声。彼が自らの身体能力の限界を引き上げた反動で開いた傷が、目撃者全員の目に入る。
 流れ二つ。

 そうして更に一つ間をはさんで、ようやっと間近で状況を見聞きした一般人たちが反対側へと駈け出すころ、最初の交錯が起こる。
「死を積み重ねて、いったい何が目的だというのですか!」
 『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)のナイフが放電の魔方陣を広げる少女の頬を裂き、
「教えたら手伝ってくれる!?」
「まさか!」
 桐の叫びを、おそらくはこの現場で唯一本当の意味で理解した警備員が、黒髪の少女の放電の一束に貫かれて痙攣しながらその場に倒れた。
 他に荒れ狂う電流に巻き込まれた人影は、りベリスタたちを覗いて数名。それだけの生命がここで閉じた――けれど少なくとも、変えられる前の運命で失われた数よりも格段に少ない。
 逆に騒乱に近づいてくるような、決定的に危機感に欠けた野次馬等が現れる事も無かった。場に張られた強力な結界の効果もあっただろう。
 おそらく、リベリスタ達は最善手に近い手段を形にしたに違いなかった。
 ――『効率を求めるが故に、美女の銃弾は逃げる一般人を追いはしない』。追ったのは、妹の放った雷撃の方だ。
「少しくらいいいではないですか」
 ため息混じりに放たれた無数の光が、進む先全てを食いつくさんと空気を裂いてリベリスタたちに襲いかかった。直撃を受けた者たちから短く声が上がる。
 けれど更にその後を追ったのは姉妹の攻撃ではなく、自身も上げそうだった苦痛の声に変わって奏でられる、エリス・トワイニング(BNE002382)の癒しの調べだ。
「望むものは……与えるつもりは……無い」
 語る言葉は少なくとも、宿る強さは仲間に劣ることはない。
「姉さまから離れて!」
 続いて鳴ったのは、灰色の少女が振るう斧だった。唸りを上げて放たれる先にいるのは、場の混乱の最中己の役割を果たそうと長女と肉薄した竜一だ。
 目に見えるほどに貯められた闘気で光を放つ巨大な刃物の一撃が竜一の脇腹に吸い込まれる。
「……、ッ!」
 切り裂かれたと言うよりも叩き割られたに近い衝撃を受け、視界が軽くゆがんだ。
 すんでで急所を叩かれることだけは避けたか耐久力を大幅に削るまでには至らなかったものの、高い威力であることに変わりはない。
 とどまろうとするも踏ん張りは効かず、反動でもんどり打って引き剥がされる竜一を、灰色の少女が追おうと踏み込む。
「――よう、フィクサード」
 その前に立ったのは、事が始まるまでは一人外で待機していた『人間魚雷』神守 零六(BNE002500) だった。
「俺が今からアンタを殺す主人公の神守零六だ」
 勢い止まらず振り下ろされた斧を、己の『盾』で受け止め、払う。
「教えてやるよ、格の違いって奴を」

 常人に立ち入る隙などどこにもない。全てが入り乱れ、めまぐるしく、高速で動いていく。

 弾丸と雷撃と刃の嵐吹き荒れる中、最初に大きく戦力を落としたのは姉妹側だった。
 いくら癒しの術をほぼ一心に受けていようと――火力を広範囲に及ぼせる分耐久力に劣る魔術師が、繰り出され続ける刃に耐え切れるような奇跡は起こらなかったのだ。
「まったく、オレに関わる美人にはどうして変態しかいないんだ」
 口端から嘆きを零しつつ、ウルザが刃の合間に気糸を放つ。
 それに絡めとられ、次女の体は一分もしないうちに手の施しようがない程に『崩れて』いた。
「ほんと、に、貴方達なんか大ッ嫌いだわ!」
「そんなのお互い様だ」
 膝をつきかけながらも強引に身を起こし、血反吐を撒き散らかしながらズタボロになった両腕で雷を放つ黒き妹。
 彼女に最後に降ったのは『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)の言葉と、渾身の一撃だった。
 自身が得意としていたはずの雷撃と刃で『中身』を焼かれて、彼女の全てが動きを止めた。


「お姉ちゃん!」  
 上がった悲鳴は末の妹のものだ。
「おおっと! だからアンタの相手は俺だっての!」
「しつこいですったらぁ!」
 しかし傍を抜け、駆け寄ろうとする彼女の前を零六が塞ぎ、身を翻す勢いで鉄の塊が如き得物を振った。
 おおよそ人体が発するとは思えない轟音を立てて少女の小さな体が更に遠くに吹き飛ばされる。
「お前ぇ……!」
 滑り転がる中何とか態勢を立てなおし、口中に湧き上がった苦いつばをを吐き出して呻く様は、事が始まるまでの優雅な振る舞いを虚像に思わせた。

 だがその時点で本当に余裕が無いのは零六の方だった。
 仲間の仕事を信じ刃を交える内、半分はその機動力で避けたものの、避けられずにその身に負った傷は深く重く――既に一度倒れかけていた。
 エリスの癒しの努力はあったが十分とは言い難かった。混戦となった戦場の状況が、そうさせていた。『吹き飛ばせば攻撃の範囲もずれるが、回復の範囲もまた同様である』。状況を把握しながらもバラバラに別れてしまった戦場全てをカバーするのは、彼女だけではどうしても無理があった。力量などの問題ではない。戦場がそうなってしまった以上は誰にとってもどうしようもないことだった。
 逆に少女の方はといえば、その高い耐久力をいかんなく発揮し、並大抵の攻撃では傷をろくに負わずただ嫌そうな顔をするだけだ。

 その彼女が、今や憤怒の色を瞳に宿し、身に雷撃を纏わせて零六を睨みつけている。
 床を踏み抜かん勢いで距離を詰められ、振り抜かれる斧はやはり、一人で耐えようとするには重い。
「ッと……あぶねぇなおい……ッ」
 赤い飛沫を散らしながらもなんとか倒れずにすむ事に成功して零六が短く息をつき、
「!」
 しかして次の瞬間身を反転させた。
 気配が、したのだ。

「これでおあいこ」

 『回復対象を亡くした』白き少女が、彼女を追うリベリスタたちの影を背負いながらも魔方陣を広げていた。
 光を帯びたナイフの切っ先が零六のほうを向き、無慈悲に閃く。
 抉り抜くように重なった傷には抗えず、零六の視界に暗闇が降りる。
「こんな所で、……」
 暗闇の中、それでも伸ばされる指先、掴もうと求めたのは身体を支える何かではなく、目に見えない何か。
 けれど『それ』はその時の零六には応えない。
「零六さん!」
 重い何かが床を叩く音が響いて、仲間の陥落を知らしめる。
 唇を噛み踵を返して、エリスは零六のために展開していた魔力を他の仲間へ投げた。

 それでもリベリスタたちには諦めない理由がある。
 零六の穴を埋めるように四女に身を寄せ、行く手を阻んだのは万が一をも想定していた朱子だ。
「貴方はどこにも行かせません!」
 ともすればそのまま他の仲間へ――下手すればエリスへと突撃しかねなかった彼女がまたもや動きを封じられて言葉にならない怒号を上げる。

 憤る灰の少女の足止めは続き、その視界の向こうで死は繰り返される。

 次女が縋れる相手は己の魔力しか無く、それによってもたらされる癒しさえ封じられれば取れる手段は実に少ない。
 徐々にではあるが彼女も黒き妹と同じ道を辿り、リベリスタに囲まれた『同じ体』には似たような傷が刻まれていった。
「姉さま、見てて、くださいね……私頑張りますから――」
 癒えぬ傷から足下へと赤き血を落とし、もつれる足でそれでも娘は必死に踊り、戦場を彷徨って歌い続ける。
 それは己の為ではなく、姉と妹の生命を少しでも長らえさせるため。せめてもう一度、と大きく息をすいこみ、
「もう、頑張らなくていい」
「……あ、」
 その喉をウルザの気糸に貫かれて歌の代わりに血を吐いた。
「死を甘受したいのなら、大人しく倒れていなさい」
 大和の言葉に押されるように全身を斑に染めた少女は倒れ、もう二度と息を吸わなかった。


 そしてそれらを、『彼女』は遠くから見ていた。

 吹き飛ばされ己の手の届かぬ範囲となった場所で、彼女の妹たちが既に二人床に伏している。
 彼女とかの場の間にはリベリスタが一人、全霊を賭して立ちはだかっていた。
 時折ウルザの放つ光に目を眩まされ、――もう随分とそうしている気がした。
 妹たちを屠った刃が、次に向いたのは彼女だ。既に視線が向いている。脚は踏み出されている。きっと次に息を吸う頃には囲まれる。

 『だから』美女はうっすら笑み、改めて目を細めた。
 末の妹程の火力は持たない彼女がこしらえた『普通』の傷では、彼自身の再生力とエリスの集中回復で殆どが意味をなさなくなる。
 この場に集ったリベリスタの中でも上位を争う耐久度の竜一を落としきるには並大抵の攻撃では難しかったのだ。
「『でも他の皆様はどうだったかしら』……?」
 ほう、と呟く穏やかな口調とは裏腹に、長女が恐ろしい程の速さで手首をスナップさせる。
「! あんたの相手は俺だ! 俺だけを見てくれよ!」
 その意図に気づいて、竜一が必死で呼びかけ立ちふさがり続けるも、『それで魔力の弾丸は止まらない』。
 手を軸にしてショットガンが一回転する。遠心力とスナップの勢いで銃身が跳ね、トリガー部分が引き出され、再装填。
「なあ、おねーさん――!」
 竜一の叫びは爆音に埋もれた。

 音と衝撃が叩きつけられるのはほぼ同時。光の蜂の軍勢に喰われ、銀髪の女性に対峙しようと集ったリベリスタの多くが体勢を崩す。
 その中にはたった一人戦況を見渡し続け、時に怪我を負いながらも、直接攻撃を仕掛ける味方をひたすら癒して回ったエリスもいる。
 既に赤に沈んだ白き妹同様、何よりも癒しを選んだ彼女に猛威に対抗する術は薄く、
「……う」
 そんな彼女を護る壁は――何も無かった。
 エリスの視線の先には、霞の向こうに並ぶ二つの黒く暗い穴。

 そうして双方が回復手を失い、戦況は最早泥沼の様相へと変わっていった。

 交わす弾丸と鋼の応酬が幾度か重なった後、更にウルザと大和の二名が二度その体力を消耗しきった。
 相手側はといえば単純な手数ではリベリスタたちには遙かに及ばないものの、未だ双璧が体力を残し、四女に至っては一度の運命のチャンスを保持したままである。
 今や癇癪を起こしかけている斧使いの行く手を身体を張って阻んでいた朱子も、その身を抱えて膝を折った。
 (「何でもいい、俺の、俺たちの役に立つなら! だから!」)
 開かない状況を変えたくて宗一が心でかける願いに、見えない何かはやはり応えない。
 ただ満ちる空虚に歯を食いしばり、せめてその先が何かに繋がるようにと力を込めて振り割れた大剣が、ドレスの端だけを道連れにただ床を砕く。
 背後から、こちらに駆け寄りつつある斧使いの足音が響いていた。

 その日運命は誰の呼びかけにも答えることはなかった。
 足りなかったものがあったとしてそれは運命からの愛でも奇跡でもなかったし、取り残された彼らが立っていたのは絶対の破滅の中であったわけでもなかったからだ。
 そこは最早殴り合い、削りあうだけの傷だらけの空間だった。

 更に数回の交戦を経て長女が倒れ、直後に四女の一閃で宗一が地面に伏す。
 切れ切れの息が、残った竜一と桐、灰色の娘三方から絶え間なく零れていた。
 けれど、どちらかの勢力が倒れきるまで誰もその沼から脚を引くことはない。
 そしてそこまでに落ちきった戦いでモノを言うのは単純に手数。仲間のためにも勝利を得る為に、二人は剣を、刀を、ふるい続けた。

 ――永遠にも思えた戦いに、漸く一つ、終わりの兆し。

 最後の少女が、一度、崩れ落ちかけたのだ。
「これが、貴方達の幸せなの」
 追撃のように薙ぎ払われ、体中に開いた傷口から色々なものをこぼしながら呟く娘を、未だ立たせているのは妄執か、それとも。
 吐息数回を挟んで態勢を立て直し、振りぬかんとした娘の斧を桐の剣が受け止める。
「貴方達と、私たちは、そう違わないのに」
「何を……」
「そうかね、少なくともオレ達は虐殺NO、だけどな?」
 僅かにも動きを止めた四女の脇を竜一の刃がなぞって飛沫をあげさせた。
 あと少し。
 そう確信して、桐が残った全ての力を振り絞る勢いで身体を前に倒した。
 お、と咆吼を空気の唸りに重ね、体ごと捻って逆袈裟に切り上げる。
 死に汚れた戦場の最後の一太刀は、やはり美しいモノではなかった。

「なあ、シロツメクサの花言葉は……」
 消えゆく生命の最後の数秒、竜一の言葉に、血溜まりの中で苦痛に喘いでいた少女の緑の瞳が瞬いた。
 ごろりと仰向けに身を転がし、手の指を組む。視線は見下ろす竜一を突き抜けて遙か向こうだ。多分もう何も写ってはいないのだろう。
「『そうね』――『私達』を見ようとしてくれたお兄さんにはね、いい事教えてあげるわ」
 今日一日、抑えこまれ続け激昂し続けた少女が初めて笑って目を閉じた。

「知ってる? 今日貴方達がこんなになってまで救った生命はね、貴方達に感謝などしないのよ」


 死をもたらしもたらされる事を望んだ四姉妹の願いは叶った。
 望んだものがその実甘かったどうかは、最早彼女たちしか知りえないだろう。

 血と死の匂いにつつまれ、あちこちに身体の転がる白昼のショッピングモールはおそらく地獄にほど近い。
 精根尽き果てたような深く長い息が連なって暫し、
「……終わったんだな」
「終わりました」
「皆を連れて帰るか」
「そうですね」
 残った二人の声と物音を最後にその地獄には静寂の幕が降りた。


 それがこの物語の結末。

 血に塗れ、それでも勝者と敗者が決した狂乱の終わり。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『何がどう違わないのか』。
成功ではありますが、戦い自体はぎりぎりレベルの辛勝です。
大きな理由は大体リプレイに詰められたかと。
特に致命的だと感じた一つさえなんとかできていればかなり状況は違っていたと思います。
上手いと感じたり、有効だと判断できる部分もあったので、惜しいです。

また、すり合わせが全て正しいとは決していいませんが、
全体で齟齬が生じる場合は個々のプレイングを反映するしかなく、
それ故に狙ったような結果がでない場合もございます。ご注意ください。

この度はご参加ありがとうございました、お疲れ様でした。
ご縁がございましたら、是非また。