● 「ぁぁ……、いやぁ……、産みたくない。死にたくないよぅ。助けて崇ぃ……」 自分の胎内の異変に、縛られた京子は必死に夫である崇の名前を呼ぶ。 ……けれど、 『ごめんよ京子。でも俺さぁ。もう死んじまったんだよ。だからさぁ、頑張って良い子を産んでくれよぉ』 崇の生首を京子の眼前に突き付け、崇の口を手でパクパクと動かしながらフィクサード『血蛭・Q』は腹話術で生前の演じてみせる。 崇と京子、新婚の、そして京子の妊娠が判明したばかりの二人は幸せの只中に在った筈なのに……。 「……もうそろそろですね」 血蛭はショックで意識を失った京子の、異様に膨らんだ腹部を見詰めてそう呟く。 事の起こりはつい先日の朝の事だ。 所属する組織の同僚が在り得ない失態を犯し、起こる筈だった血塗れの戦場が遠のいた。 しかも楽しみにしていた戦場を奪った其の同僚は、組織の粛清を受ける事すらなく既に死んでいた。 せめて粛清役が出来たなら、少しは鬱憤も晴れたと言うのに……。 だが鬱屈としていた血蛭の眼に、テレビに映る一人の外人が……、闇の世界の伝説が飛び込んで来る。 ちっぽけな鬱憤が、下らぬ組織のしがらみが吹き飛んだ気がした。 組織が仕事をくれぬのならば今はオフだ。オフに何をしようとも誰にも責められる筋合いは無い。 ただ、自由に、欲望のまま、狂気に任せて。 「あのジャックさんは馬鹿ですね。とっても素敵なお馬鹿さんです。あぁ、思い出すだけで股座がいきり立つ……。ねぇ、お前もそう思いませんか?」 血蛭は真っ赤に割けた京子の腹から這いずり出る、大きな蛭に語りかけた。 ● 「例の放送に触発されたフィクサードが事件を起こすわ」 一体この手の台詞を何度繰り返したのだろう? 疲労感を声に滲ませ、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)がリベリスタ達に告げる。 「そのフィサード自体は今回は放置しても構わないのだけど、問題は其のフィクサードがデパートの中に放った分類不能の怪物よ」 其の怪物はデパートの一階に現れ、逃げ遅れた人を襲ってサイズと力を増しながら。上階に非難した人々を追うらしい。 「皆が急いで駆けつけても、辿り着けるのは何人もの犠牲者が出た後……、手段は問わないからなんとしてもその化物を排除して」 説明の時間すら惜しむべき事態に、資料を受け取り駆け出すリベリスタ達。 資料 フィクサード:血蛭・Q(ちびる・きゅー) とある組織に所属するフィクサードだが、血に狂ったその性質に組織内でも持て余され気味。しかし厄介な事に実力は一級品。 所持アーティファクトは『ヒルコ』と『妖刀・血吸い蛭』。種族はヴァンパイア。 エネミー:血蛭の落とし子 今回倒すべきターゲット。アーティファクト『ヒルコ』で生み出された化物。 蛭の形をしているが、生物の枠に囚われた存在では無いので何をしてくるかの判断は難しい。攻撃に吸血を重ねてくる事だけは判明している。 血を吸い殺す程に耐久度、攻撃力、サイズを増す。(HPや攻撃力は基礎値+血を吸った人数×?。体長は血を吸った人数×50cm) リベリスタから血を吸った場合(攻撃が命中した場合)与えたダメージの半分のHPを回復する。与えたダメージの1/4だけ基礎攻撃力を増す。 既に10人以上の人間が犠牲となっている。 アーティファクト1:ヒルコ 胎児を材料に化物を作成するアーティファクト。 作成される化物は作成者の影響を強く受ける。 アーティファクト2:妖刀・血吸い蛭 妖刀鍛冶師が血蛭の為に作り上げた攻撃力が高めの刀型アーティファクト。 ヴァンパイアがこの刀を用いて敵に攻撃を命中させた場合、与えたダメージの半分のHPとEPを回復します。 ただし、この武器の所持者は一日に一度、生物を切りつけて刀に血を吸わせなければならない。其れが成されなかった場合、所持者はHPの上限が5点減少する。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 伸ばした感情探査の網に絡み付く数多の恐怖達。其の中でも一際大きな一つが、まるで弾ける様に膨らみ消える。 其れが指し示すのは即ち、また一人の人間が落とし子の犠牲になったと言う事。 唇を噛み締めた七布施・三千(BNE000346)は、更に探索の網を広げる。 死の苦痛、理不尽への怒り、未知への恐怖、それらの綯い交ぜになった死そのものを感情として感じてしまう事は耐えがたい経験だろう。 それでも三千は折れる事無く、恐怖とは異質の感情の在り処、……そう、この事件を引き起こした張本人である血蛭・Qを探す。 やがて集中の末にに見つけた血蛭の感情は……。 血蛭と言う名のフィクサードは、狂う過程に、そして末に、快楽があると信じている。 愛に狂い、肉欲に狂い、血に狂い、自分に狂う。 狂おしい程に泣けば涙を流す事さえ快感だ。 快楽が伴うからこそ過去の戦士達は死に狂う事が出来た。 狂って快楽を得る為に一番大事なのは、正気を併せ持つ事。狂気に蹂躙される為の正気を保ち続ける事だ。 狂った同類にしか理解の出来ない矛盾。愛は哀。哀しすぎる程に脆く弱い人間が、上辺に過ぎずとも愛おしい。だから虐殺する。哀しい事が、愛しい事が、破壊に溺れる事が、気持ち良い。 他人の愛情や、信頼を踏み躙り、快楽の糧とする。 そんな矛盾した、彼の薄汚い感情を一言で表す事は難しい。 目を背けたくなる様な汚水を手で掬い取ってしまったかの様に、血蛭の感情に触れた不快感がじくじくと三千の心を侵す。 胸の奥から競りあがってくる吐き気に顔を顰める三千。だが彼の献身で、落とし子と血蛭、2つの敵の所在は知れた。 ヘッドセットから流れる三千の声に導かれてバラバラに探索していたリベリスタ達が駆け出す。けれど彼等がこれから目の当りにするのは、地獄であった。 ● 恐怖に蹲り、逃げ遅れてしまった女が落とし子の体内にぬるりと飲み込まれる。 其の体の殆どが血で構成された血蛭の落とし子には、凡そ消化器官と呼べるものは存在しない。だが、それ故に体内に取り込まれた女の末路はより悲惨であった。 「やめろ! やめんか!」 駆け付けたリベリスタの一人、『鬼神(自称)』鬼琉 馨(BNE001277)が目の当りにした光景に叫びを上げ、何とか落とし子の注意を惹こうと試みる。だが……。 自らの身体をぎゅっと縮ませ、体内の圧を上げる落とし子。まるで人間が果実を絞りジュースを作る様に、ぐしゃりと女は悲鳴を上げる事も出来ずに潰れて液体と化す。 「命をなんだと思っておるんじゃ……許せぬ!」 呻く様に漏れた馨の怒りの矛先は、人を喰らう落とし子か、命を弄んだ血蛭か、それとも助け切れなかった自分の無力さに対してか。 威風と呼ぶべき風格を纏った馨の勧告に従い、此処に来るまでに出会った一般人達は速やかな避難を行えた。一般人が戦闘に巻き込まれる可能性を減らし、戦場を整えた事は大きな働きだ。 けれどそれは馨にとって慰めにはならない。何故なら、例え100人が救えたとしても、失われた1人の命が戻る訳ではないから。 全てを零さずに受け止め救う事が不可能な事は理解している。 でも、それでも……。理性と感情は別物だ。強過ぎる怒りのままに落とし子を睨みつけ、静かに構えを取る馨。 そんな彼女の肩に、ポンと軽く誰かが触れる。 「落ち着くんだ。怒りに飲まれると道を見失う。深い夜道を照らすは手にした明かりと心の希望。そうだろう?」 君は1人じゃないと、軍服とコートを合わせたような戦闘服を身に纏った女、『闇夜灯火』夜逝 無明(BNE002781)の凛とした声に辺りを見回せば、何時の間にか現れていた仲間達が、落とし子を包囲する様に配置についていた。 回避能力が高く、落とし子による吸血を避け易い『月刃』架凪 殊子(BNE002468)、『死を呼ぶ踊り手』リル・リトル・リトル(BNE001146)を前衛に配し、火力重視の『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)は少し下がって二人の間に開く隙間を埋める。其の更に後ろには、未だ精神探査で被った不調から回復しきれて居ない三千が、それでも懸命に癒し手としての勤めを果たさんと控えていた。 此処に逆側から無明を前衛に、馨を中衛に加えれば、落とし子の包囲は完成する。 馨を諌めはすれど、仲間達とてこの惨状には怒りを覚えぬ筈がない。強い意思を秘めたリベリスタ達の瞳が落とし子を貫く。 そんなリベリスタ達の視線に何かを感じ取ったのか、はたまた単にしゃぶり飽きただけか、ペッと体内に取り込んでいた犠牲者の圧縮された肉体を吐き出し、臨戦態勢に移行する落とし子。 「さあ、生まれる命の道を奪って産まれた穢れの子。その命道を退いて貰おうか。それは産まれる事の出来なかった子の為の道だ」 無明がビシリと手に持つ電光刃を落とし子に向け、リベリスタ達と落とし子の戦いの火蓋が切って落とされる。 ● 一方、血蛭・Qをターゲットと定めた『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)とツァイン・ウォーレス(BNE001520)の二人は、血蛭の目的地である配電室の前で彼と相対していた。 血蛭が逃げた一般人を追わずに配電室を目指したのには理由がある。それは、血蛭が落とし子を成長させる事でこの国のパニックの助長を目的としていたからだ。 配電室を破壊すれば、昼間でも照明に頼るデパート内部の混乱は加速し、元より目を持たず、視覚に頼らない落とし子の人狩りはより容易になるだろう。 デパート内の人間を喰らい尽くし、育ち切った落とし子を今度は街中に解き放てばこの国は更に恐怖と混乱に包まれる。 血蛭にとってそれは想像するだけで絶頂してしまいそうな最高の娯楽……。 「あんたが血蛭さんか? あの化け物出したのあん……「はっ、見つけたぜ。……手前が血蛭だな。その首――貰い受ける!!」 怯えた小者のフィクサードを演じて話しかけたツァインの隣を、放たれた矢の様に一直線に、ハイスピード状態の凍夜が駆け抜け血蛭に迫る。 「ただろ? すげぇよな~……、っておい! 待て雪白!!!」 絶叫にも似たツァインの制止も、今の凍夜には追いつけない。 血蛭に叩き込む自らの最高の一撃をイメージし、集中を維持していた凍夜は限界まで引き絞られた弓と同じだ。 張り詰め、張り詰め、極限を迎えていた凍夜には、恐らくツァインの「フィクサードのふりをして血蛭を煽ててヒルコを出させる」と言う言葉も耳には入れど脳には届いていなかったのだろう。 だが仮にツァインが演技を続けれて居たとしても、それが血蛭に通用したかは非常に怪しい。 何故なら、血蛭は所属する組織よりアークの中では名前の売れた方であるウォーレスや凍夜を知っていたからだ。特に凍夜に至っては、失態を犯した彼の同僚の最期に直接ではないにせよ立ち会ったと言う情報すらある。 それにもし仮に現れた2人が本当にフィクサードであったとしても、卑屈に下手に出る様な小物であったなら、アーティファクトを自慢するより血蛭の戯れで切られる可能性の方が遥かに高い。 切り返しに一切の淀みの見られない流れる様な連続攻撃、ソニックエッジは、凍夜のイメージ通りの軌跡を描き、身を捩った血蛭の左肩と、同じく左の二の腕を貫く。 だが、凍夜の刃に傷を負わされながらも血蛭の唇が笑みの形に歪み……、裂帛の気合と共に爆発した闘気が、妖刀・血吸い蛭が、凍夜の胸を貫き通す。 「……デッドオアアライブって奴ですよ。麻痺、してたら万に一つも負けたかも知れませんが、死ぬのは貴方、生きるは私。まぁまだ息はあるみたいですけど、しぶといですね。あぁそれと、……ご馳走様でした」 自身の肉体の制限を外すリミットオフを併せて放たれた、見た目にも明らかな『必殺』の一撃は凍夜から闘う力を奪い、そして血を啜って血蛭の傷を癒す。 そして次に血吸い蛭の刃が血を求めるのは、……守るべき剣を失った盾、ツァイン。 其の身をぶるりと震わしたツァインは、けれど、 「雪白、邪魔してくれて感謝する。たった一言なのに口が腐るかと思ったぜ……」 そう、嘯き、 「胎児を化物の材料にしたんだってな。このクソ下種野郎が、ぶち殺してやる!」 魂の底からの咆哮を上げる。勿論、自分の実力が其の言葉に足りない事も、剣を失い盾のみが残ったこの状況では其れが不可能な事も、ツァインは判っていた。 でも下種の好きには絶対にさせない。最期まで喰らい付いてやる。そんな彼の折れぬ心の象徴の様に、ツァインの体はハイディフェンサーの光り輝く防御のオーラに覆われて行く。 ● 落とし子の背がぶるりと震え、爆発的な勢いで無数の触手が槍として四方八方に放たれる。 けれど殊子はまるでシューティングゲームの弾幕を避けるかの如くギリギリの隙間を、服一枚、皮一枚をこそぎ取られながらも尋常ではない速度で潜りぬけて其の手に握った刃を落とし子に振るい、更に殊子の影から湧き出す様に、……実際には殊子の背後にぴったり張り付き、彼女と同じルートを走り抜けて来たのだが、飛び出したリルが破壊の意思を込めた黒のオーラを放つ。 二人の攻撃は落とし子の身体の一部を削り取って単なる血液へと戻すが、誰もが彼女達と同じ真似が出来る訳では無い。回避や速度、……特に速度に関しては殊子が異常過ぎるのだ。 攻撃を避け得るだけの回避能力を持たぬ者にも、特に未だに好調とは言いがたい体調の三千に対しても触手の槍は容赦なく迫る。 体に食い込んだ触手はリベリスタ達から容赦なく血を啜り、落とし子のサイズ、能力を成長させていく。 少しずつ攻撃力を増していく落とし子との我慢比べに最初に根負けしたのは、他の者に比べて回避能力、そして戦いに望む覚悟の双方が僅かに劣った馨だった。血を失い、体中を貫かれた馨がゆっくりと地面に倒れ伏した。 「おおおおおっ!」 だが人数の減少による不利を吹き飛ばすかの様に爆砕戦気による闘気と雄叫びを上げたディートリッヒが脇に構えた巨大なグレートソードを居あい抜き、真空の刃で触手の群れを切り飛ばす。 更に無明のブレイクフィアーが仲間達の体力を削る出血状態を癒し、続いて三千の放った天使の歌、清らかなる者の回復の福音が仲間達にもう一度活力を取り戻させる。 仲間の、馨の犠牲がリベリスタ達に気付かせた事が一つ在る。それは単純な削り合いでは落とし子を倒しきるのは不可能だろうと言う厳しい事実。だがリベリスタ達も無策にこの戦いに挑んる訳では決して無い。 馨が倒れた後、ディートリッヒを除いたリベリスタ達の攻撃は、何故か消極的になっていた。 闘気を漲らせて巨剣を振るい続けるディートリッヒと、何故か攻撃を手控え始めた彼の仲間達。必然的に目立つのは前者となり、落とし子からの攻撃もディートリッヒへの物が増えて行く。 三千からの天使の息による回復支援が在るとは言え、ディートリッヒが負う傷には致命的な物も混ざり始めていた。 けれども、彼は倒れない。重い剣を落とす事もせず、まるで命を燃やすかの如く、更に闘気を増すディートリッヒ。 勿論彼とて化物ならぬ人の身。運命と意志の力で限界を踏み越えると言っても限度はある。だが彼がその限度を迎える前に、彼の頼もしい仲間達は準備を終えて動き始めた。 ● 落とし子に駆け寄った無明が、聖なる力を秘めた一撃、集中を重ねた魔落の鉄槌の一撃を大上段から振り下ろし、その強力な衝撃は、落とし子にショック状態を引き起こした。 勿論リベリスタ達の攻撃が其の一撃だけ終わる筈もない。 果たして何時の間にそこに居たのか。まるで空間から湧き出たかと錯覚しかねない速度で現れた殊子が、やはり残光を捉える事すら困難な速度で刃を二度振るう。勿論この攻撃も、無明のそれと同じく集中を重ねて確実に真芯を捕らえることを狙った物で、その相手に動く隙を与えない高速連撃は落とし子の動きを縛って封じる。 そして彼等の攻撃の最期を飾るのは、血生臭い戦場を忘れさせる、軽やかで華のある動きを見せたリルの、やはり集中を重ねた渾身の一撃。落とし子のど真ん中をぶち抜く漆黒のオーラ、ブラックジャックだ。 リベリスタ達の波状攻撃が終った後、攻撃を受けた落とし子は受けたダメージ以上に引き起こされた状態異常、バッドステータスにより、其の力を大幅に減じられていた。 無明の与えた『ショック』は落とし子の動きを鈍らせ、殊子から受けた『麻痺』は落とし子から回避以外の行動を封じる。 そして落とし子にとって一番厄介、……致命的だったのは、リルのブラックジャックによる『致命』だ。相手の回復を封じる致命は、落とし子の吸血による上限の無い回復、成長と言う戦術を完全に破壊してしまう。 仲間達の攻撃の成果を見届けたディートリッヒが、遂に限界を迎えて地に倒れる。 更に1人の戦力を欠く事になったとは言え、勝敗は既に決したに等しい。付加されたバッドステータスも、時間が在れば何れは治る。けれどリベリスタ達が其の時間を落とし子に与える筈も無く、また落とし子に時間を稼ぐと言う思考をする力も無い。 ただ混乱のままに身を震わせる落とし子に対し、 「おやすみなさい」 残るリベリスタ達の攻撃が炸裂する。 「……! まさか、あの子が倒された?」 パチンと血塗れた刃を鞘に納めた血蛭が呟く。同時に崩れたのはしぶとく粘り続けていたツァインの身体。 「素材が悪かったんですかね。いえ、寧ろ素直に流石リベリスタと言うべきでしょうか」 倒れたツァインを見やり血蛭は溜息を吐く。 もっと早くにツァインが倒れていれば、配電室が破壊されて照明が落ちていれば、落とし子はもっと違った動きを見せていただろうから。 何にせよ落とし子を失った以上はこの場に長居をする意味もない。 次は素材にするのならリベリスタの妊婦でも探そう等と考えながら踵を返して歩き始めた血蛭の足が、けれどもガシリと伸びた手によって止められる。 「……ここまでやって、逃げられるとは思ってねえよな? なあ、血蛭よぉ――!!」 ごぼりと口から血を溢しながらも握った血蛭の足首に力を込める凍夜。 倒しきった筈の凍夜のまさかの行動に血蛭は、 「煩いですね。思ってますよ。逃げれますよ」 鞘に納まったままの刀を凍夜の頭目掛けて力いっぱい振り下す。一度では無く何度も、何度も。 倒し、見下し、軽視した筈の人間のあってはならない姿に、血蛭は執拗に殴打を繰り返す。 「貴方みたいな背骨の無い薄っぺらな人間が偉そうに囀るんじゃないですよ。貴方みたいなのなら例え何人集まったって……」 けれど、その時血蛭は何かに気付いたように言葉を止め、 「あぁ、でも黄咬君は負けたんですよね。……君達に」 足元の血溜まりを見つめて薄く嗤う。 「なんて、無様な」 近付いて来る複数の足音に、顔を上げた血蛭は歩き出す。 無意味な八つ当たりで潰した時間に舌打ちをし、思ったほどの成果が出せなかった事に僅かな落胆の溜息を吐きながら。 ● 遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえて来る。 殺人鬼ジャック・ザ・リッパーの影響を受けて発生した、数多くの不可思議な猟奇事件の一つとしてしか記録には残らぬであろう今回の一件の裏に、少しでも犠牲を減らさんと戦い抜いた者達が居た事を知る者は少ない。 確かに出てしまった犠牲は少なくなかった。今回の事件が世の中に知られる事で、この国はまた一つ恐怖に震える。 いかなアークとて全ての事件を隠蔽する事などは不可能だ。 けれどもこの事件の犠牲者の数は本来ならばこの何十倍。デパートに居た全ての人間が犠牲者となる筈だった。 殺人者、血蛭・Qは其れを、或いはそれ以上を狙って動いていたのだから。 出る筈だった犠牲の殆どを防ぎ切り、血蛭の狙いを打ち破ったリベリスタ達は、例え噛み締めたその味が苦くとも、確かに彼に勝利したのだ。 そうでなくば、生まれる事の出来なかった胎児や、犠牲となった者達が無念すぎるから。 リベリスタ達の執念は、血蛭から勝利を毟り取った。 何時か完全な形で決着のつく時は必ず来る。消えぬ苦味はその時まで胸の奥に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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