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【七罪】妬心

●哀の変ずる土地、愛の転ずる時
 苦痛と苦悶と苦闘と苦行の末に生れ落ちる。命を得て憶えたのは根源的な欲求
 愛して欲しかった、抱いて欲しかった、触れて欲しかった、呼んで欲しかった
 けれど、適わない。叶わない。敵わない。
 冷たくて寒くて辛くて悲しくて自分の身体を自分で抱きしめた。
 苦しくて苦しくて繰り返し繰り返し誰かを呼んだ。自分を生み出した世界を詠んだ。
 けれど誰も応えない。答えない。コタエナイ。こんな傷みじゃ、堪えない。
 憧憬は盲目と代わり、希望は妄念と代わる
 まだまだ足りないのだ、愛されるには。まだまだ足りないのだ、求められるには。
 だからもっともっともっと痛んで、壊れて、異端で、毀れて。
 欲しがって欲しい。求めて欲しい。認めて欲しい。必要として欲しい。
 ねえ、誰か、愛して。どうか、この痛みを受け止めて。

 求めて、求め続けて、奪われた。
 何も持たずに生まれて来た、与えられず死に続けた。
 愛を、もっと愛を。身体が焼き切れて、魂が消し飛んでも。変わらぬ愛を。
 けれど誰も応えない。答えない、コタエナイ。
 痛んでいく。傷んでいく。包丁、ぬいぐるみ、食器、家具、模造品。
 それは唯の一度も求められる事無く。ずっとそうであったように。
 壊れては元に戻される、死に続ける玩具でしかなく。
 もう愛を信じることもできず、目を逸らす事もできず。
 ならばいっそ、いっそ全てが同じになれば良いと。誰も彼も諸共に壊れれば良いと。
 降り晒した雨に打たれ、雫が落ちる。

 愛される為生まれ愛されぬ玩具、愛を知るが故に、其は妬むより他に無く。
 
●到った愛は故に傷み、厭み合うが故に痛む愛を悼む
「また出た」
 アーク本部内、ブリーフィングルーム。
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、静謐な眼差しをモニターへ向ける。
 其処に映し出されているのは何時かの写しの様な2つの像。
 片やマネキン、片や玩具。
 空中に浮き上がるままごと用具とぬいぐるみ、それとは別に闊歩する女の形代。
「2体のエリューションが、以前似た事例が起きた全く同じ場所で、
 やっぱり同時に発生してる。2回続けば偶然じゃない。多分何か原因が有ると思う」
 原因。となれば調査の必要が有る。しかし前回の仕事は未達成のままである。
 『貪欲』と『暴食』と名付けられたそれらが何所へ消えたかは不明ながら、
 その後カレイドシステムはこの2体を感知していない。
 そこに来て更に2体。至急対処し、現地での調査を進める必要が有る。
「今回の敵は、どちらも凄く面倒。どちらも自分と相手を一緒にする。
 って点に特化してる。相変わらず異常にタフで、代わりにスロースターター」
 しかし今度は吸収能力等は無い。放って置いても互いに喰い合ったりはしない。

 ではこれ以上状況が悪化する事は無いのか――勿論、そんな事は無い。、
「この2体は、お互いがお互いを補填し合う関係。
 片方は、寂しがりの玩具。もう片方は、自分以外しか愛せない人形」
 2つが出会えば協力関係を結ぶ事は免れない。
 其れは共依存にも等しい歪んではいても強固な絆であるらしい。
「この2体は互いが互いの欠損を埋める物である事を本能的に理解して、
 互いに接近しつつある。遭遇させるのは危険。1体ずつ各個撃破しておきたい」
 これに合わせ、今回も2チームが召集されている。
 いつかの鏡写しの様なシチュエーション。しかし今回は明確な目的が有る。
「これらを撃破出来れば、このエリューションの連続発生の原因に
 少し近付けるかもしれない。これが最後とも限らない、何か凄く嫌な感じがする」
 リベリスタ達を見回し、イヴの告げる直感。
 余人ならともかく万華鏡の申し子の“嫌な感じ”である。
「気をつけて。多分、ここが正念場」





■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月23日(金)02:35
 34度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 本件はyakigoteSTとの連動依頼となっております。
 こちらの相手は嫉心のエリューション。以下詳細です。

●依頼成功条件
 E・ゴーレム『妬心』の討伐

●妬心
 世界に愛される人々を羨ましく妬ましいと思う感情が結晶化したE・ゴーレム。
 自らで自らを傷付け、その災厄を周囲にばら撒く災厄の玩具。
 形状はままごとセットと複数のぬいぐるみで構成されますが、群体でありながら一体です。
 非常識な程の耐久力を持つ反面、初期時点では大した能力は持ちません。
 但し傷付けば傷付く程攻撃は苛烈になり、任務達成に失敗すれば
 もう片側のエリューションと融合することで次の段階へ進化します。

・痛みの檻:P・特殊。
 状態異常が無い対象からの被ダメージを10~90%軽減します。
 軽減割合は『妬心』の被ダメージ割合に比例します。

・壊れゆく世界:P・特殊。
 毎ターン開始時、自分に[猛毒][出血][流血][業炎][致命]のいずれかを付与します

・針鼠のジレンマ:P・追加効果[反]

・EX七罪・妬心:自身に付与された状態異常と全く同じ物を周囲にばら撒きます。
 神遠全、命中大【状態異常】[自分に付与されている物]【追加効果】[呪殺][ダメージ0]

●戦闘予定地点
 三高平市郊外の廃墟。時刻は夕方。人目は無く、光源も無し。視界は一定通ります。
 足場は若干不安定ながらぺナルティが発生するほどではありません。
 障害物は老朽化して割れ落ちたコンクリート壁等、多数。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)
ソードミラージュ
神嗚・九狼(BNE002667)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
クリミナルスタア
桐生 武臣(BNE002824)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)

●深淵に溺れる者
「……居たな」
「ああ。確かにガキの玩具だ」
 『機鋼剣士』神嗚・九狼(BNE002667)と桐生 武臣(BNE002824)が頷き合う
 物陰から暗視によって通った視線。その先でくるくると、重力を無視して面白い様に回るのは、
 人形、熊、フライパンに兎、食器に猫。くるくる、狂々、回っては彷徨うあどけない狂気。
「妬みの結晶……なんだか悲しい塊ですね」
「互いに互いを補填し合う関係……か。これが人なら、良いものなんだろうがな」
 捜索に協力していた『億千万の棘茨荊』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の呟きに、
 集音装置を用いて彼らを導いた、『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)の返した答。
 けれどそれはやはり、何処か虚しい。欲は何所までも欲でしかない。
 例え互いを補完しあった所で、その先にはきっと、何も無いのだ。
 視線の先で楽しげに踊る玩具は誰に用いられる事も無く、誰に愛される事も無い。
 其処に何らかの感傷を覚えるのは、詮無き事だろうか。
「前回は俺達の失敗でフェーズ3の誕生を許してしまった。同じ失敗は、絶対に繰り返さない」
 声を殺し、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が呟く。
 彼は先の討伐の参加者である。今回のE・ゴーレム『妬心』と、過去に対峙した影絵の魔物。
 性質は異なれ共通項は多い。本来であれば、苦味を、恐怖を、喚起されても何らおかしくは無い。
 けれど、彼が胸に抱くのは篝火の様な澄んだ戦意。これは、雪辱戦なのである。

「誰にも愛されない。運命にも愛されない理不尽。不条理ね……今日も現実(せかい)は素敵」
 呟き、意識を集中する。身体のギアを一段上げ、彼女は自分だけの速度に乗る。
 『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は、
 不条理な世界を愛している。理不尽な現実をこそ好む。故に『妬心』とは決して相容れない。
 人形達は恨む。世界全てを憎む。世界に愛された人々を、狂おしい程に渇望し、
 渇望が満たされないが故に妬む。嫉む。羨望は時に――憎悪へと容易く反転する。
「夏栖斗によると、相手の逃走方向はこっち側だ。逃がさず、仕留める」
 互いに連絡を取り合う事でより強固に固めた戦術を示して快が頷く。
「……命がけの御遊戯になりそうだな」
 応じる武臣に、興味無さげに愛用の刀、蓮ノ露姫を引き抜く九狼。
「――行くよ」
 鉄槌を持ち直したルカルカが、駆け出す。それに続く前衛は3名。快、武臣、そして九狼。
 その後ろから眩い光が周囲を照らす。ここに来て漸く、狂気の玩具が彼らに気付く。
「……どうでもいいけど後光っぽいわね」
 発光により彼らを照らす来栖・小夜香(BNE000038)の呟きはさて置き、
 これにより、視界の暗さによる影響はほぼ無くなったと言って良い。
 となれば後は――攻めるしか、無い。
「羨ましい気持ち妬けるほどの熱情、それをルカが終わらせるの」
「斬れば死ぬというのなら、それで十分だ」
 叩き込まれる鉄槌が、熊のぬいぐるみの頭部を陥没させ、
 浮かんだ玩具の包丁が、九狼の刃を受け止める。
 跳ね飛ばされた包丁が別のぬいぐるみの身体に刺さる。ずぶりと、沈み込む。

 瞬間、迸るのはハリネズミの様な血飛沫の槍。防御を無視して放たれた、
 細い細い繊維の様な血の糸がルカルカに、九狼に突き刺さる。
 こんな物が有っては抱きしめる事すら出来はしない。
 触れれば血衾にされるぬいぐるみでなど、果たして誰が遊ぶと言うのか。
「てめぇを苛む痛みの全てを知ってるわけじゃねぇ」
 けれどその光景を目の当たりして尚、彼は一歩前へと足を踏み込む。
 瞬間的な加速。掻き消えた様な残像を残してぬいぐるみの首を絶つ。再度噴き出す血飛沫。
 妬みで染め上げられた痛みは、自身を傷付ける者へ等しく痛みを返す。
「……」
 思いがけず、視線を伏せる。 
 その戦いを見ていた七布施・三千(BNE000346)にとって、けれどその心中はやや厳しい。
 彼は落ちこぼれと言われ続けて来たリベリスタだ。
 故に少なからず、『妬心』の気持ちが分かる。在り方が分かる。
 素直な彼はこれを、他の人々への憧れと言う形で昇華している。けれど、そう。
 けれど、もし自分がもっと何でも出来たなら。もっと親族や仲間達の期待に応えられたなら。
 そんな痛みは知らずに済んだのでは無いだろうかと。考える部分が0である筈も無い。
 憧憬は、羨望と紙一重。彼にとって、その打ち捨てられ汚れたぬいぐるみ達は、余りに近い。
「誰にだって役割はあるはず……ですよね」
 自分の在処を自分で断定出来ない。だからこそ、人は誰かに縁を求めるのだ。
 己の内に隠した傷を抱いたまま、三千は癒しの唄を奏でる。

●愛を喰らう者
「戦場把握、この塊はつかえそうだね」
 背を物陰に隠して烏頭森が頷く。その背の彼方、戦況はどんどん苛烈化している。
 三千が『妬心』を対象に放ったブレイクフィアーは、当然ではあるが無効化されていた。
 彼の浄化の光はあくまで味方と認識している者にしか効果が無い。
 その上で、仲間達が既に攻撃を仕掛けている状況でそれを目の当たりにして、
 これを味方と認識する事は極めて困難である。一方で妬心は己を傷付ける事に一切の躊躇が無い。
 一度はルカルカの一撃により動きを停止させられた物の、
 再び動き出しては自身を傷付け、その異質を撒き散らす。
「また来る――! 回避出来る人は急いで!」
 それを既に2度受けた、快が声を上げる。足元に零れ落ちた血液がぽこぽこと沸き立つ。
 それは彼らが攻撃して零れ落ちた物。拒絶の証。人形達の痛みの象徴。
 其処から迸る無数の血色の針。それらが物陰に射線の通る全ての対象へと突き刺さる。
 直接的な傷は生まれ無い、しかし一方で身を苛むのは激しい苦痛である。
 体表の皮膚が裂け血が流れ出す。些細な出血と出血が混ざり合い流血を為し、
 それらにはじわりと毒が混じり熱を持つ。所々焼けた様な傷みをすら感じる。
 その全てが、人形達を苛んだ物。彼らもまた痛み、傷んでいる。
 自らを傷つけ、傷付いただけ傷付ける。嫉妬とは文字通り、負の連鎖その物である。
「自分を自分で痛め付けてる癖に……それを周囲にばら撒く何て、理不尽」
「フン、自分で自分をどうこうする気が無いから八つ当たりをしているだけだ。馬鹿馬鹿しい」
 全身を血で染め上げながら、ルカルカと九狼。
 2人による高速斬撃の二重奏がぬいぐるみ達へ叩き込まれる。
 夥しい流血は既に大地を染め上げるほどで、其処へ更に銃声が上がる。
「「種子島」の威力、舐めんなよ」
「ターゲットロック、フルバースト、ファイア!」
 一発、二発、更に三発。
 その度に反射して突き刺さる血の針に、顔を顰めながらも銃口は揺るがず。
 烏頭森のバウンティショットと龍治のピアッシングシュートが、
 兎のぬいぐるみの瞳を打ち砕く。

 しかし、後衛である彼らは適宜物陰に隠れている為か。
 どうも徐々に手応えが薄くなって来ている。それもまた、ある種の必然である。
 妬心に塗れた者は自分と同じ立ち位置に居る人間しか認めない。
 祝福された、健全で、健康で、生きる事を許されている者達全てを拒絶する。
「一気にいくわよ……響け、天使の福音!」
 小夜香の唄声は、けれどその殆どを阻害される。
 彼らに与えられた傷に込められた致命の呪いが、癒しを妨げ、痛みを加速する。
「浄化の、光を!」
「俺の力は、この為にある!」
 待機して機を待った三千が、快が、出血を、流血を、致命を。
 駆けられた呪詛の悉くを退けにかかるも、これも流石に完全とまではいかない。
 なにより、連携のミスが此処で響く。状態異常の解除を最後に持ってくるのであれば、
 本来は回復役もまた機を待つべきであったろう。
 『妬心』の動きは決して早くは無い、しかし一方、そこまで遅くも、無いのである。
「てめぇを苛む痛みの全てを知ってるわけじゃねぇ。見て分かる痛みでもねぇだろう。
 でもな、分からねぇなりに、全力で……てめぇの全てを受けきってやるよ……ッ!」
 赤い花散る鬼の羽織。背負うは魂、纏うは仁義。意気吐く如くに見栄を切り。
 武臣は今一度バールの様な物をを振り被る。踏み込み、一閃。
 吹き上げた血液の残滓が羽織に降りかかり、より赤々と色彩が冴える。
 当然、それによって放たれる血の針は武臣の身にも突き刺さっている。
 けれど、受けた手応えに確信する。そろそろ――だ。

「いまので大体半分? なら、後必要なのはこれくらい」
 ルカルカも感じ取る。手応えが目に見えて悪くなっている。
 原因は恐らく、先程から足元を染め上げる血液だ。
 霧の様になった薄い薄い血液の飛沫が、攻撃の威力を大幅に削り取る。
「チッ、鉛でも殴ってる様だな……」
 待機した三千と快によるブレイクフィアーが状態異常を常時解除していく為、
 動きの速い九狼、ルカルカにとってはこれが大きな壁として立ち塞がる。
「……あ」
「おう、どうした」
「や、精神力が……」
 そしてリベリスタの用いる特殊な力とて、無尽蔵では無いのである。
 精神力が尽きれば普通に殴るしかなくなってしまう。火力はいつまでも横一線ではない。
 先ず最初に、烏頭森のバウンティショットの残弾が尽きる。
 次は武臣。故にそう。必然的に戦いは泥沼の様相を呈してくる。
 再び迸る血色の矢嵐。付与された傷みが、苦痛が、出血と流血とを伴い、
 業炎となって体躯を焼く。妬く。厄。
「させ、ない……!」「ここで、必ず食い止める!」
 これを阻むは三千と快。2人が力を合わせ痛みを、傷みを浄化する。
 けれど。その選択は果たして正しかったのか。そこに正答などはない。
 彼らは痛まぬ事を選んだ。対する『妬心』は痛みを共有することを望んだ。
 互いの答が平行線である以上、互いにその身を苛み合う以外の結末など、あり得ない。 
 
●堕ちたる愛憎劇、墜ちたる人形劇
 棘が刺さる、血矢が爆ぜる。それは羨ましがりの針鼠。
 愛情より生まれた傷が、嘆きと妬みと苦悶を織り交ぜ諸共に災厄を為す。
 果たしてどれだけ武器を振るったろう。果たしてどれだけ血を流したろう。
 されど、彼の者は未だ在る。人形達は踊る。踊る。踊りながら声も無く泣き続ける。
「……運命が、倒れるなって理不尽なこといってるの」
 心身共に尽き果てた、ルカルカが運命を削って立ち上がる。
 されど彼女を傷付けたのは、そのほぼ100%が彼女自身の攻撃に対する反撃である。
 状態異常の回復と、ダメージの回復のタイミングが噛み合わない。
 この歯車のズレは徐々に徐々にリベリスタ達を蝕んでいる。
 そしてそれらは同時に前衛陣へ過剰な負荷をかける事と同義である。
 彼らが一撃を繰り出す度に、その体力が削り取られて行く。
「足掻いてやるよ、オレの最後の最後迄……
 応えてやるよ……てめぇの最後の最後迄な……ッ!」
 血を吐き、大地を握り締め、武臣が身を起こす。自分が苦しい以上、相手も苦しい。
 このエリューションは元より“そう言う物”である。相手とて、既に十分以上に傷付いている。
 壊れていない玩具など唯の1つも無い。けれど、それでも尚、まだ――止まらない。
「これを逃がせばセカイの崩壊が加速する。それだけは、阻止しなきゃいけない!」
 此処に来て、快が攻めに回る。もう一つのターニングポイント。
 相手への攻撃は、既にその8割が削り取られている。一撃一撃は殆ど通っていないに等しい。
 しかし、それはあくまで減衰なのである。小さな雨垂れが石を穿つ事も有る様に。
 針の一念が、岩を通す事も――ある。
「決して諦めねえよ、絶対にな!」
「撃ち――抜けぇ――っ!」
 龍治の銃口が栗鼠のぬいぐるみを正確に射抜き、小夜香のマジックアローがそれを追尾する。
 
「そろそろ――良い加減、死ねっ!」
 振り下ろされる蓮ノ露姫。ガキン、と。恐ろしく硬質的な音を立てて刃が弾かれる。
 しかしそれは護りの堅さから来る物ではない。九狼に両断されたフライパン。
 その向こうに居るのは、頭部の取れた熊のぬいぐるみ。直感的に悟る。
 これが――最初の『妬心』であると。
「うおおおおおおお―――っ!!」
 普段物静かな、正に常識人然とした快が、猛る。護り手が、攻めに出る。
 余りにも幾度も重ねた死闘の経験が彼に告げている。此処で終わりにしなければ、
 かつてない程の被害が出る。それをもう一度許す事は、決して、出来はしないと。
 突き立てられたのは、かつて武を誇ったフィクサードの遺品。
 多くの血を吸った他者を害する為の刃。けれど。
「護り刀は、皆を護れてこそなんだよっ」
 彼はそれを、護り刀と称す。その一撃は過たらず熊のぬいぐるみの胴体を射抜き――
「――……終わり、だね」
 ルカルカが呟く。ころん、ころん、と。落ちていくのは家具を模した玩具達。
 人々に愛される為に生み出されたそれらは、愛される事なく地へを降る。
 けれど、その一つを摘まみ上げ、視線を落とした烏頭森がぽつりと溢す。
「これも、最初は、こんな風に生まれた来た訳じゃなかったんでしょうね」
 さらさらと、壊れて消え逝く玩具達。血塗れの人形劇は此処に幕を下ろす。
 愛し、求められ、必要とされたかった道具達は、その形すら残す事を許されず。
 光の塵となって空気へと、溶けた。

 ――ぞくりと。
  
 けれど、戦いを終えた瞬間に周囲へと視線を巡らせた、武臣は“それ”に気付く。
 気付いてしまう。気付いて――しまった。
 見ている。何かが見ている。1つではない。2つでもない。幾つかすら分からない。
 注意を向ける。気配は曖昧であり、それはあたかも空気の様。
 沈殿する何か。廃墟全体に。いや、むしろ地中だろうか。何かが、埋まっている。
「……おい、何だこれは」
「わ、かりません……けど、何か、凄く――」
 三千の漏らした声にならない声は、喚起された恐怖に掠れる。重圧感。そして忌避感。
 何か。放置され、投棄され、忘れ去られかけた何かが、其処には在る。
 それを、もしかするとブリーフィングルームで告げた万華鏡の少女は、薄々気付いていたのだろうか。
 『暴食』『強欲』『妬心』『姦淫』――そして、
 向けられた目線は、そう。恐らく8つ。逃がした2つは1つへ混ざり、即ち四対。
 それを何と言うか。それを何と称するか。
 彼らの中で多少の神秘を学んだ者であれば、知らぬ者はまず居ない。
 原罪。ではそれを生み出したのは――さて、何であったか。
 足元の下。何かが蠢いている。ゆっくり、ゆっくりと。誰も知らない場所で。
「……よう相棒、生きてるか?」
 もう一つのチームと連絡を取った快の声には、危機感が強く滲む。
 フェーズ3。つい先程まで頭から離れた事の無かったそれが、
 まるで前座でしかなかったかの様な――酷い警鐘が、胸を衝く。
「お疲れ。ただどうも、まだ終わってないらしい」

 戦いを終えて、彼らは帰路を辿る。それは紛れも無い勝利の凱旋。
 けれど踵を返す誰にも確かな予感がした。その血色の大地へと。
 もう一度、嫌が応にも踏み込まざるを得ない――そんな――――予感が。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『【七罪】妬心』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

最悪全員が攻撃を仕掛けると言う選択肢を有していたと言う、
攻めの姿勢が功を奏しての成功となります。
細部詰めが甘かった点等御座いましたが、仔細は文中に込めさせて頂いたつもりです。

この度は御参加ありがとうございました、またの機会にお逢い致しましょう。