● 竹林。 緑の竹の中に、大きな卵が三つ。 黄色の地に黒い縞。 やがてそれは見えなくなる。 ころころころ。 音だけが竹林に響く。 ころころころ。 ● 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、テーブルの上にバターケーキ。 黄色いカステラに濃い茶色の焦げ目が食欲をそそる。 「虎バターケーキ。頂き物だけど、よかったらどうぞ」 ご馳走様ですと、リベリスタ達が手を伸ばす。 「今度の敵もそんな感じ」 ケーキに触れる前に、ぴたりと手が止まった。 「敵は、アザーバイドの卵。正確には卵の中身が別の階層とつながっている。で、虎縞。卵を割ると中から虎が出る。今回の作戦は、卵の粉砕」 モニターに模式図。 卵の中身はd・ホールだ。 「このまま放置しておけば、虎は出ないけれどアザーバイトを放置しているのと同じ状態になることが確認された。送還するd・ホールは卵の殻の内側。送還は無理。卵を破壊し、出てくる虎型アザーバイドを討伐してもらう」 別のモニターに、虎型アザーバイドの予想図。 「で、この殻が問題。非常に隠密製が高い。今回の出現場所は、とある竹林なんだけど、迷彩状態になっている。更に気配が希薄。十分ひきつけて攻撃することを推奨する」 チーム編成によって、攻撃の仕方も変わると思う。と、イヴは言う。 「相手は卵だけど、割れば割るほど中の虎がむき出しになって、攻撃してくる。その分隠密性は低くなる。倒すのに専念できるよ。ただし、この卵、危険を察知すると逃げる。捜索に費やせるのは精々3ターン。それまでに攻撃を当てられなければ、逃げられるよ」 一拍おいて、イヴは、小首をかしげた。 「みんな、バターケーキ、嫌い? おいしいよ?」 イヴは率先して、一切れとってもぐもぐと食べだした。ぽろぽろと黄色い生地がこぼれた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月16日(金)23:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「私、かくれんぼって好きよ」 『優しい屍食鬼』マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735)は言う。 「隠れている時は、見つからないかドキドキで楽しいし。探している時は、隠れている子を探していると今まで知らなかった新しい発見があったりするし」 「虎バター……昔あった絵本に……載っていた」 エリス・トワイニング(BNE002382)は、少し遠い目をして言った。 「絵本では確か、ホットケーキでした。子供の頃、あの絵本は好きでした」 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)が、わずかに微笑む。 幼い日によりそう記憶は美しい。 エリスや真琴が子供の時には、もう流通していなかった絵本。 人の手から手へ絵本が渡り、子供達が読みつないでいったのだろう。 「ちなみに私はバターケーキ好きよ。無事帰れたらイヴちゃんからもらわないと!」 ブリーフィングの際は、微妙な空気に味わい損ねてしまったのだ。 (誰かに守られて、求められて、必要とされて育まれた命。様々な力に守護された可愛らしい卵) 『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)には、虎の卵の隠避能力が前世代からの贈り物に思える。 愛情の具現のように思われる。 (羨ましいわね。妬ましいわ。そんなの逃がしてなんてあげない) 特殊な形態のD・ホール。 命をはぐくむ形が、”失敗作”であったクリスティーナの心の痛みに触れていた。 ● 「ボクは索敵するよりも隠れる方が得意なんだけどねぇ……」 『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)は耳をそばだてる。 (気配のっといこーる物音。いくら気配を遮断してても物音は消せないからね。物音を立てるのは卵自身じゃなく卵が触れたものだしね) 隠れることに長けている者は、隠れている側の状況が手に取るようにわかる。 (転がって移動。動物たちとは違った移動法) 「土が擦れる音……地に落ちた竹の枝が折れる音……」 耳に入る数多の音の中から、虎の卵が出しているであろう音を抽出し、その方角を探る。 「ボクは大まか位置をつかめればOKかな。あっちだと思うよ」 都斗は、卵が移動している方角と距離、移動速度を仲間に告げた。 「接近してから熱探知や幻想殺しのほうが役に立つだろうから任せる」 その言葉に頷き、そちらの方向に皆で移動。 何しろ時間がない。 『シューティングスター』加奈氏・さりあ(BNE001388)には、なんでそっちだと思うのか、さっぱりわからない。 (今回の依頼は最初探し物みたいなのにゃ……でもさりあは探索に必要な能力もないし……こうなったら、皆が発見した卵をガンガン攻撃するしかないにゃっ。さりあは最後に動くにゃっ) すぐに攻撃できるように手のクロ-の加減を調整する。 最後に飛び出しても問題はない。 竹の葉で傷つきそうなところに水着で現れたさりあ。 アークにおいては、戦場で見てくれ以前に、スピードを重視するものである証でもあった。 マリアムは、目をつぶって大きな声で「もういいかい」と問いかけた。 (返事がなかったらかくれんぼの準備オッケーということよね?) 「よーし、お婆ちゃん張り切って卵ちゃんを探しちゃうぞー」 周囲から苦笑がもれる。 わかってはいるが、マリアムはどう見ても年相応には見えないのだ。 しかし、今の口調は孫とのかくれんぼの鬼を務めるおばあちゃんそのものだった。 (不謹慎かもしれないけれど何だかワクワクしてきちゃうのよね。どんな時でも遊び心って大切じゃない?) 楽しそうに細められていた目が、次の瞬間かっと見開かれた。 その目は嘘偽りを許さない。 影のように見える縞、下ばえに同化する黄色。 「……いるわ。巧妙に隠れているみたいだけど」 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が低く呟いた。 得物を追い詰める狩人の風情だ。 生き物ではない卵自体は熱を持たない。 しかし、熱を持たないものが移動していく様は見て取れる。 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は、周囲をぐるりとその脳に収めた。 影の揺らぎや不自然な草木の揺れ。 高速演算が不自然さを計測、検証していく。 更に、映像追加。 数秒前の記憶と照合、比較。両者の違いを超直観で索定。 違いのあった場所を意識して観察する。 「あの辺りに何かが居るようです。幻想殺しによる確認をお願いします」 「うんうん、ボクもそっちだと思うよ!」 『ものまね大好きっ娘』ティオ・ココナ(BNE002829)の勘もそっちだと言っていた。 聞こえるはずもないかそけき空気の振動を追われ、存在する限りつきまとう熱量を追われ、時の経過の不自然さを看破され、幻想の鎧を剥ぎ取られ、経験則に照らし合わされ矛盾を暴きたてられる。 どうして、身を潜め続けていられるだろう。 追跡者達は顔を見交わす。それぞれが得心を得ていた。 「みいつけた!」 マリアムの声にあわせて指差す場所は一点。 その声を聞いて、解き放たれた猟犬の様に駆り出す者たちが得物を手に草むらに走った。 ● 真琴は身に不可視の鎧をまとい、卵の殻をいかに割るかを想起しながら備えていた。 走り込んだ先、マリアムが指差す一点、真琴の目にはただの竹林に見える。 が、自信満々に指差すマリアムを信じ、膂力を一転に叩き込む。 「何もない所」にひびが入るのを初めて見た。 黄色い地に黒い縞。 大きな卵の中から、にゅうっと長いものが……。 とっさに小さな盾を構えた。 衝撃。受け止めた腕がジンジン痺れる。 「貴方の相手は、こちらです」 間合いを計り、異形の卵と対峙した。 「はい、二つ目、みいつけた!」 マリアムの快進撃は続く。 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)とさりあが、それぞれ一撃を叩き込む。 「逃げ隠れ出来ると思った? 一匹たりとも逃さないわよ」 ミュゼーヌの弾幕が卵の殻に蜂の巣状の六角のひびを入れていく。 ぱらぱらと落ちる卵の殻。 時間は残り少ない。後一個と思った矢先。 背後で、赤々と火の手が上がった。 クリスティーナの白い翼が、空を切る。 地上3m付近を飛行しながら透視のオンオフを駆使して索敵していた。 (原則アザーバイドやエリューションは透視出来ず、見えていても正確な像が認識出来ないのが幻影なんだから、オンの時に視界に在って、オフの時に形状が変わるのが卵。って事よね) 透視能力の限界を逆手に取った方法。 案の定、リベリスタの視線をもってしても見抜けない箇所。 躊躇無く召喚される業火。 熱に耐え切れず、びしりと卵にひびが入る。 「虎さんこちら、手の鳴る方へ、なんてね」 ならば、くれてやろう。 3メートル上空。 伸びる虎の爪。 割れた卵の殻の中。 いずことも知れぬ虚空の向こう側から、クリスティーナに襲い掛かる。 白い羽が散り、赤い血がしたしたと流れ落ちて止まらない。 でこぼこと波打つ地面に落ちる。 「そう、赤ん坊の危機だからお父さんとお母さんが助けに来たのかしら? 素敵、家族愛って良いわね」 早口で紡がれる繰言。 そうではない。 卵はあくまでD・ホールの一形態に過ぎない。 虎はそのD・ホールを通過してきたアザーバイドでしかない。 命を育むカタチ。 大事なものを守る殻は、無償の愛の証のように思えた。 「でもごめんなさい。私、そういう綺麗事って大嫌いなのよ」 ● 膨れ上がる闘気が、マリアムの白い髪の先を躍らせる。 赤錆びた巨大な戦斧が雷をまとい、マリアムの身の丈と大して変わらぬ卵に叩きつけられた。 雷に撃たれ裂かれる生木のごとく、ばくりとわれる卵の殻から、虎の爪と牙と尾がばらばらにまろびでて来る。 一体のものなのか、それぞれ別の虎のものなのか。 不器用な糸繰り芝居のように、あらぬ方向からマリアムに襲い掛かる。 軽装甲の隙を突き、がりりと刻まれる傷跡。 可憐な唇からわずかにのぞく犬歯。 もしものときは、異形の虎であろうと牙を突き立て血をすすり、命の足しにしてやろうとマリアムは考えていた。 偽りの神父の体から、断罪の光がほとばしる。 無言。口元にはわずかに笑みに近いものが浮いている。 場所さえ間違えていなければ、信者が随喜の涙を浮かべんばかりの神々しさだ。 全てにきれいに決まらなかったことに、わずかに表情を動かした。 「なるほど、確かにこれは攻撃を当て難い。守りに優れた素晴らしい材質です。が、それだけですね」 隠避能力、耐久性。 知識の探求者にとって、「卵の殻」は既に「未知」から「既知」のものへ変わってしまったのだ。 「そこまでして守り抜かれた卵より生まれた物。その価値を見せて下さい。半端な物であるなら毛皮にしてしまいますよ……?」 そう言って、術の精度をあげるため、史上最大の裏切り者と詐欺師にして錬金術師の名を名乗る男は、しばしの黙考に耽った。 「その強固な殻ごと撃ち貫いてあげるわ」 ミュゼーヌの銃弾が殻をうがち、反対側の殻にも穴を開ける。 ひび割れた卵の中から、卵の中には納まりきれない質量の虎の顎が出現した。 その顎を縦に裂くかまいたち。 不安定な足場に苦慮しながらも、さりあの足がきれいの虚空を切り裂く。 (バチコーンって割れるように、集中したお目目でよぉ~く狙って蹴り出し発射にゃーっ!) 一匹づつ確実に倒すため、舞姫が走り込んできて速度を刃に上乗せして切り裂いた。 ● 最もひびが小さかった卵。 姿を現したのは爪の生えた前足でも、とがった歯がずらりと並ぶ顎でもなかった。 「ビリビリくるにゃ!」 さりあが叫んだ。 卵の割れたところからにょろりと伸びた尾が、ぱりぱりと放電しながら大きく振り回される。 ぶうん、ぶうん、ぶうん! 三つの卵が示し合わせたように、虎の尾を振り回す。 虎の尾を踏むとは、非常な危険を冒すということではなかったか。 三方から叩きつけられる雷を完全に避けられた者はいなかった。 まつげの先で、ぱりぱりとスパークしている。 はく息にまで電気が通っているような。 いや、まだ息を吐くことが出来るのが不思議なほどの衝撃だった。 真琴が、細く息をつないでいた。 「よかった……大丈夫ですね」 かばわれたクリスティーナより、真琴の方がよほど大丈夫ではなかった。 神秘による攻撃に対する耐性は、魔術師であるクリスティーナの方がよほど強い。 それでも真琴は、もしものときはと心に決めて戦場に赴いていた。 「さて……ここからは癒しが必要だよね。ボクに任せておいて」 都斗は福音を召喚する。 あわせて、エリスも呪文を詠唱した。 皆の痺れを打ち消すため、真琴も光を放つ。 クリスティーナは、大きく息をつくと、虎の卵に向けて魔力の矢を撃ち出した。 ● ティオの魔力の矢が決め手となり、一体分の爪と牙と尾が動かなくなる。 舞姫が走り込んできて、念のためと卵の殻にブレイクゲートを施した。 「では、真価を見せて下さい」 イスカリオテの足元の竹の葉、朽ちた竹、竹の皮がさらさらと細かい粒子と変わり、その下の土が巻き上げられる。 一粒一粒が灼熱を帯びた砂。 それがこすれあいながら、更に巨大な熱を吐き出す。 吹き荒れる微細な熱が、三方にわかれ、卵と、虎の細胞の隙間をぬうように焼き尽くしていく。 追い討ちとばかりに、業火が重ねられ、風の刃が、狙い澄ました銃弾が、雷をまとった戦斧が。 己が獲物と見定めた卵と虎の一部に次々とねじり込まれていく。 「それだけ愛されているならもう十分でしょう? 愛されている事を実感しながら、死になさい」 クリスティーナのつぶやきは、仲間の耳に届いただろうか。 「身を守る事に特化した非戦スキルの数々。いや、実に厄介だった。しかし、であるなら恐らく脆いでしょう。私の世界から、逃げ切らせはしない……さあ、神秘探求も大詰めだ」 並の技なら十発は打てるほどの魔力を消耗させる大技を維持しながら、イスカリオテは砂を制御する。 かくして、溺れる程の攻撃の果てに卵は全て粉砕され、虚空より現れた虎は死して爪と牙と尾を残した。 「神秘探求、完了……異世界の素材、と言うのは珍しいですからねえ」 バリバリとアザーバイトの皮をはぐイスカリオテの背後から悲鳴が聞こえた。 「お疲れ様ですぅ! でも、困りますぅ! 検視と腑分けは別働隊のお仕事ですぅ! 特殊素材はラボで申請して下さぁいぃ!」 拡声器で呼びかけられた。 リベリスタが範囲魔法で殲滅作業に出たので、別働隊は念のためかなり離れたところで待機していたのだ。 エリスがこそりと殻を拾っている。 「殻もだめですぅ!!」 双眼鏡で見てる。 「……けち……」 エリスがぼそりと呟く。 別働隊の返して~、戻して~の大合唱。 ごろりと転げた卵の殻。 (それにしても……中がD・ホールの卵。殻の内側部分ってどうなってるんだろう) 都斗が中を覗き込む。 ブレイクゲートされて、今はただの虎縞の殻だ。 大きな卵ではあるが、ここからあの虎が出てきたとは到底思えない。 神秘の底は奥深い。 これだけ火と熱砂が荒れ狂っても、竹やぶは焼け落ちていないのだ。 それでも、隠すことは出来ない。 空気には、焼け焦げた火と砂の臭いがした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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