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リベリスタなら出来ると託すそれなりの仕事。


 誰にでも出来る簡単なお仕事ではありません。
「仕事としては、簡単ではない。でも、一部のリベリスタなら溜飲が下がる気持ちのいい仕事」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、しばらく目を閉じていた。
 これからリベリスタが受ける喜びを、わずかでもわが身に受けようと天に祈るかのように。
 やがて、ゆっくり目を開けると、ぺこりと頭を下げた。
「だから、お願い。あなた達にしか頼めない」
 にっこり微笑む幼女、マジエンジェル。 
 だが、断る。なんて、言えるわけがなかった。

●お仕事内容は、以下のとおりです。
「アーティファクトの回収。それに付随するフィクサードの処理」
 モニターに工場が映し出される。
 どうやらお菓子工場。
 とある機械に「ここがきけん」とイヴが手書きでキャプションをつける。
「アークが本格始動してからここ数ヶ月、散発的に発生していた工場生産のものが大量にエリューションかする事件。今まで無関係だと思われていたんだけど、線がつながった」
 別のモニターに映し出される、着せ替え人形。TCGカード。アイスキャンディー。
 やめて。なんか思い出したくないことがこみ上げてくるから、それ消して。
「主に子供が手に取るものが大量にエリューション化する。三回続けば、そこに何ものかの意図がある。システムが尻尾をつかんだ」
 更に別のモニター。
 おもちゃの時限爆弾に見える。手でタイマーをひねり、時間が来るとバーンと飛び出すタイプの。
「アーティファクト『悪意戯ボム』。仕掛けて3分。どっかんとしたとき出た粉を浴びた機械から生産されたものはろくでもないものになる。調べたところ、過去三件の製作現場から同じ人物の遺留物が回収された」
 モニターに、これといった特徴のない中年男。
「フィクサード『置き去り屋』。その名の通り、どこにでも侵入し、依頼に応じて物を置いてくるのを生業にしている」
 それで食べていけるんですか?
「主な収入源は盗撮カメラや盗聴器の設置。これがアイドル宅とか銀行の金庫室だったら……」
 色々しゃれになりませんな。
「そういうスキルに特化してるから、攻撃能力はさほど強くはないけど、倒すのは難しい。避ける。すぐ逃げる。やたらと手数が多い」
 めんどくさっ!
「今回は、そいつよりアーティファクトの回収が優先。このアーティファクト、文字通りふざけたつくりで解除するのにミニゲームをクリアしなくちゃならない。命中度が試される。九桁の番号を指定されたとおり、スロットをそろえる。スロットは、徐々に加速していく。制限時間は三分」
 さらに、めんどくさっ!
「ちなみに、今回仕掛けられるのが、ぺろぺろキャンディに砂糖をまぶす機械。このアーティファクトが作動した場合、1000個のぺろぺろキャンディが出来るまで、この機械は絶対に止まらない。とまった後は正常化するから、ぺろぺろキャンディを始末しなくちゃいけない。今までの傾向から推察すると、食べるしか方法がない。極力回避してほしい」
 イヴは、そこまで一気に言うと、一息ついた。
「大人の事情で、操業後の工場に潜伏させてもらえるようにした。すぐ飛び出すと『置き去り屋』がすぐアーティファクト抱えて逃走するから、奴が設置して十分離れたところを御用して。出来れば情報を得たいから生かしておいてほしいけど、みんなの生命に危険が生じた場合は、その限りではない」
 イヴの無表情に闘志がみなぎっているのを、リベリスタは見て取った。
「今までの借りを返すチャンス。子供に危害を加えようという輩の尻尾をつかんできて」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月14日(水)21:52
 田奈です。
「簡単な仕事」じゃないよ! ノーマルだよ!
 更にきな臭い話になってまいりました。
 ぺろぺろキャンディー製造機械を作るアーティファクトをみんなで阻止するお仕事です。

アーティファクト『悪戯ボム』
 *三分経つと爆発します。
 *爆発を阻止するには、九つのスロットを的確に押さなくてはなりません。
  一回につき、最低1ターンを費やします。
  失敗は三回までです。三回失敗すると、三分経つ前に爆発します。
  命中判定を使います。
 *爆発の煙が収まると、復活します。 

フィクサード『置き去り屋』
 *こうもりのビーストハーフでクリミナルスタアです。
 *不戦スキル「機器遮断」、「ピッキングマン」、「物質透過」、「落下制御」、「闇の世界」、「暗視」を    持ってます。
 *DA重視の回避型です。
  自分が強くないことを自覚しています。
  接触すると、アーティファクトを回収して逃げようとします。
  アーティファクトが回収できないと見切りをつければ、即逃走します。

場所:製菓工場
 *大人の事情で、工場で待ち伏せが可能ですよ。
 *戦闘可能な範囲は、10メートル四方。工場の機械で足場不安定、見通し不十分扱いですよ。
  不戦スキルで無効化、限定は可能です。
 *操業終了後ですから、当然明かりは落ちてますよ。

成功条件
 *爆発阻止の結果に関わらず、アーティファクトを回収できれば成功です。
 *『置き去り屋』を確保できれば、なおいいです。
 *ちなみに、爆発阻止が出来なかった場合は『簡単なお仕事』が発生しますが、あまり関係のないことです。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
スターサジタリー
立花・英美(BNE002207)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
ホーリーメイガス
月杜・とら(BNE002285)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
クリミナルスタア
坂本 瀬恋(BNE002749)
■サポート参加者 2人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)


 戦闘経験一切不問。
 リベリスタの頑強な肉体と精神力のみが必要とされる種類の仕事がある。
 エリューションと直接接することになるため、別働隊には任せられない、ただ延々と続く単純作業。
 時として不眠不休、夏の暑さにも局地冷凍にも毒ガス満ち溢れる環境でも。
 戦闘もなく、命の危険もない。
 だが、すごく何かが磨り減る類の仕事。
 それは『簡単な仕事』と呼ばれている。
 ふーんと思うのは新米リベリスタ。
 苦笑するのは、普通のリベリスタ。
 特に表情も動かさず、ブリーフィングルームに入っていくのが、訓練されたリベリスタである。
 
 そして今回の案件は、その『簡単な仕事』の何件かの原因を押さえるのが目的だった。

「簡単なお仕事もこれが上手くいけば終わる……んだよね。もう山ほどカレー食べたり、鬼のような量の検品もしなくても済むんだね……! 頑張るよー、超頑張るよー!」
 最近目のハイライトを消すのが上手になった『病んだ目つきの妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は拳を握り締める。
「『簡単な仕事』を運んでくるおっちゃん……マジもう興奮のるつぼ!!」
『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285) は、きゃっほうと声を上げる。
 補足するが、アークの依頼は志願制である。
 そもそも受けなければ『しなくてすむ』のだ。
 が、なぜかまるでそれに従事するのがマイデューティとばかりにいつもいるリベリスタが存在するのも事実である。
 虎美ととらは、そんな訓練されたリベリスタの一人に数えられていた。


リベリスタ達は、用意周到だった。
 大人の事情で、事前に工場に潜伏できたことを最大限に活用した。
『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)、虎美は、前もってブレーカーの位置、戦闘予定地の足場の確認、視界調査をすませた。
『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の最初の仕事は、まず工場内に人が残っていないかの見回り。
 更に隠れる場所を探した。
 暗視もちのフィクサード「置き去り屋」に対抗するべく潜伏に使うダンボールの用意も忘れない。
 足場が悪いことも、どこからどこが死角になるのかも確認した。
(後で、暗闇の中、飛びかかることになるからな)
 他の者は、工場内の電灯のスイッチを全てオンにして、ブレーカーを切った。
 動作確認もして、ブレーカー一つで全体の伝統をコントロールすることが出来ることを確認。
 ブレーカーの入電は、『中身はアレな』羽柴 壱也(BNE002639)が担当することになっていた。


 工場の該当の機械がある部屋は、闇に包まれている。
 生産ラインの終盤。
 残るは梱包作業を残すのみ。
 搬出口に近い部分にあった。
 でこぼこした機械の陰にそれぞれ工夫を凝らしてリベリスタたちが身を潜めていた。
『悪夢の残滓』ランディ・益母(BNE001403) は厳しい表情で闇に同化している。
(しかししょーもなさそうに見えて実害を受けるのはガキ共だ。作為的だと言う事を考えると随分とえげつないじゃねぇか、気に入らねぇ)
 本来なら『置き去り屋』の戦闘能力ではランディの興味を惹くことは出来ない小物だ。
 しかも、今回彼が担当するのは、爆弾解除。
 リベリスタとして戦うほど酷薄になっていっていると自分で自覚できるほど。
 それでも、爆弾が爆発した後で起こることが彼にとっては『気にいらねえ』ことだった。
 動く理由には十分だった。
『ミス・パーフェクト』立花・英美(BNE002207)は、懐中時計の秒針の音を聞いていた。
(悪戯……ですか。ここにあるのは悪意……このアーティファクト、必ず回収せねばなりません)
『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)はいたって単純明快だ。
(これ以上舐めた真似する前にぶっ潰す)
 堅気の衆、ましてや年端も行かぬ子供を標的にする輩にかける情けは持ち合わせていなかった。
『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、暗闇でもすぐ『置き去り屋』にタックルをかませるよう、どこをどう移動すれば最短距離かずっと頭の中で反芻している。
 その背後。肩口のフードのなかにこじりが顔をうずめている。
「貴方、洗ったばかりの犬の匂いがするわよ。ゴールデンミクリバー」
「嗅ぐな?! こじりさん!」
 小声で抗議。いやん、恥ずかしい。
「だが断る。製菓工場の甘い匂いで頭痛くなって来るのよね」
『皆さん、八時の方向から来てます。後はお任せします』
 英美のどこかうつろな声がAFから聞こえてくる。
 壁や塀を越えた向こうを見通すことに集中しているのだ。
 きっかけは、フツが握っている。
 フツが飛び掛ったところで、ブレーカーが上がり、銃弾がぶち込まれ、爆弾解除に入る。
 フツは闇を見通そうとはしていなかった。
 闇の中にうごめく熱を追っていた。
 
 闇は件の機械に近づくと、ぬっと二本の腕が現れた。
 ぱっと見プラスチック製のおもちゃを平らな部分に載せて、これ見よがしの起動スイッチを押した。
 チャカプラチャカプラと軽快な電子音を立てながら、デジタル時計が03:00から02:59,02:58とカウントダウンを始める。
 闇の中に腕が消える。
 イヴの予見では、三分後このふざけたアーティファクトは爆散し、機械には奇妙な呪いがかかる。
 その後完全な姿で復活したアーティファクトを回収して、工場を後にすれば、『置き去り屋』は任務完了だ。
 デジタル時計が2:55を表示した時点で、フツは影に向かって飛び掛った。
 それが戦いの狼煙だった。


 フツが飛び掛る音を合図に、ブレーカーを上げるのが壱也の役目だ。
 AF越しに聞こえる音と共に、ブレーカーを押し上げた。
 ぱぱぱっと急に明るくなる構内。
 その中に黒々と半径10メートルの闇がわだかまっていた。
 AFのむこうから壱也。
「あたしもそっち行くね!」
 壱也は叫び、配電板から離れて現場に走る。

 天井の熱量が増加したことに気づいたフツは、闇の中で最大光量で発光した。
「床下に逃げられたら、たまらん」
 呟きながら『置き去り屋』に組み付こうとした。
 その手を、『置き去り屋』が蹴り飛ばす。
 間髪おかずに銃弾がフツの頬の肉をそぎ落としていく。
「ついてねえな。アークのお歴々が勢ぞろいじゃねえかよ。けちな不法侵入野郎のせこいシノギに雁首そろえやがって……暇なのかよ、ぼっちゃんじょうちゃんら」 
『置き去り屋』は舌打ちをする。
 ダメージを与えることは念頭においていなかった。
 フツはただひたすら捕獲することに専念していた。
 
「ちょこまか鬱陶しいんだよ」
 瀬恋は、狙いを済ませて『置き去り屋』の足を執拗に狙う。
「あー、気にいらない。イタズラたぁ言うけど、アークが見つけなかったら大惨事になってた事件ばっかだ。悪ふざけで済むレベルじゃねぇんだよ」
 瀬恋は依頼を受けた後、このアーティファクトによってどんな事件が起きようとしていたのか資料に目を通してきていた。
 着せ替え人形やTCGがそのまま出荷されていれば、鼠算式に革醒現象が起こり、遅かれ早かれ目も当てられない状況になっていただろう。
 アイスキャンディだって、リベリスタだからちょっと痛いですんだのだ。
 放置していれば、大量の死傷者。そしてその原因はわからないままなのだ。
「死ぬかもしれねえ仕事の方が、死なせる仕事よりはましだね。ま、俺は言われたものを言われたとこにおいてくるだけさ。罪のねえ、いいシノギだとはおもわねえか」
 けけけっと、闇の中から笑い声がする。
 こちらの頭に血を上らせて、無駄弾を撃たせようとしているのがミエミエだった。


「ああ、立花さん、益母くん? 護るのは構わないのだけれど――アレを倒してしまっても、構わないのでしょう?」
 二人の背を守るために立つこじりはそう言って唇を吊り上げ、闇の中に貫き通す一撃をくれる。
 こじりからフードを取り戻した夏栖斗は、その脇をすり抜け闇の中に突っ込んでいって鎧を無効にする重たい一撃をくりだした。
「げぶっ」
 闇の向こう。『置き去り屋』の蛙を潰したような声がする。

 時間を稼いでくれている仲間のためにも、まごまごしている時間はない。
 カウントダウンの上部、九つのリールとボタンが英美とランディを待っていた。
 既に星のきらめきを身にまとった英美は、手元を懐中電灯で照らした。 
「それじゃ、仕事はスマートに終わらせるか」
 体に闘気をまとったランディが、最初のリールに向き直る。
 ボタンには「STOP・9」のデジタル表示。
 リールを9で止めればいいらしい。
 ゆっくり回るリール。
 子供だましだ。
 ランディがボタンを押すと、たっぷりもったいをつけて9でとまった。
 音を立ててリールがとまる。
 リールの速度が上がった。
 ランディがボタンを押す間、秀美は肩越しに見ていた。
 見えるところに父の形見の懐中時計を置き、時が刻まれる音に耳を澄ませる。
 絶好のタイミングでスイッチを押した。
 小憎らしいくらいにぐるぐる回り、ようやくとまった。
 狙い、ぴったり。
 数字は8。
「この音は父の鼓動。見守ってくれている父の前で無様な失敗は出来ません……ミス・パーフェクトの名にかけて!」
してやったりと思う間もなく、リールが加速をつけて回りだす。
「今度は7を出せとよ」
 やってやろうじゃねえか。とランディは、口の端をあげた。


「まぁ、問題はコイツよりコイツに頼んだやつだけどね」
 瀬恋は唸る。
 その事件の片棒を担いだのは、この男なのだ。
 殺しても飽き足らないが、死んだやつは口を割らない。
 瀬恋が義憤なら、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は私情だ。
「貴様か!  貴様のせいで、わたしのぽんぽんはっ!」
 物陰に身を潜めてじっと集中して待ち構えていたのはこのときのためである。
「簡単な仕事」の過酷さを体で味わい、幾度か苦渋の涙を流した舞姫のぽんぽんに何が起こったかなんてここで改めて公表する無体な真似は出来ない。
「乙女心を踏みにじった報い、受けて貰います!」
 速度を上乗せして鋭さを増した刃は振るわれる。
「とどめはささないでおいて差し上げます」
(しゃべってもらいたいことがありますからね)
「姿を現したね、小悪党! 貴方は完全に包囲されてるわ! 観念しなさい!」
 走ってきた壱也が『置き去り屋』めがけて、出会いがしらにかまいたちを放った。
「簡単な仕事だって、すごく大変なんだからー! 思い知るがいい!!」
 これはとらちゃんの分! と付け足す。
 万一、『置き去り屋』が床を透過して逃げようとしたときのため、ちょうど真下にある部屋でとらが待機している。
 気糸で縛り上げ、身から放つ光で弱体化させながら、一人で『置き去り屋』と相対する役目を負った。
 手数を一つ減らしてでも、『置き去り屋』を逃がさないというリベリスタの執念が見え隠れする作戦だった。
「四の五の言うなよ。いやなら首突っ込まなければいいだけじゃねえかよ」
 『置き去り屋』がそう言って、メリケンサックを握り締める。
 メリケンサック?
 違う。
 あれは、フィンガーバレット。飛び道具だ。
 ちゅんと音立てて飛んでいく銃弾。
 あさっての方向。
 違う。
 アーティファクトの方向、英美とランディのいる方に向けてだった。


 5を求められる頃には、リールの速度は常人の目には留まらない速度になっている。
 集中していた英美の髪を一房、銃弾がちぎっていた。
 かっと火花が飛んで、ランディの指先がわずかにタイミングを逸する。
 止まったリールが示す数字は「4」
 ぶっぶー、ぶっぶー、ぶっぶー。と、イライラ感を募らせるふざけた電子音と合成音声でのけたたましい嘲笑が辺りに鳴り響く。
「外しやがったな!? とっとともう二回はずしてくれや。そしたら、ここからおさらばだ!」
 合成音声に勝るとも劣らぬふざけた笑い声が闇の底から響いた。
「時間はまだあります。最大限集中していきましょう」
「おう。後、半分か。時間は……二分はあるな、楽勝だ」
「はい。絶対止めます。風穴開けられても大丈夫です」
 英美はそう言ってボタンに指をかけた。

「射撃はクールに行かないとねっ」
 虎美の精密射撃が、『置き去り屋』の足をうがつ。
 手傷は負わせている。
 それでも『置き去り屋』の足は止まらない。
 回避を得意とする『置き去り屋』を逃がさないため、交互に集中ををはさむ。
「手前らみてえなドンくさいのに捕まったんじゃ、この後のシノギがやべえんだっつの」
 だが、その足は確実に鈍ってきている。
 夏栖斗は、英美とランディを背に隠すように動き、アーティファクトを守る。
 瀬恋はその対角に、壱也と虎美がその隙間を埋めるように。
 外陣からはこじりが。
 闇の世界を逆に『置き去り屋』の牢とするように。
 そして、フツは闇の中で『置き去り屋』を捉えにかかっていた。
 手数が多い『置き去り屋』に何発かいいのをもらっていた。
 口の中はずたずたに切れている。
(床下に逃げられたらたまらん)
 ここで押さえてしまえば、リベリスタの勝ちだ。
「全力で……っ!!」
 まさしく、全力。
 全員が人事を尽くした結果の天命だった。
 確かに、フツの両腕は『置き去り屋』の肩と腕を捕らえ、地面に転がすことに成功した。 
「お前さんには聞きたいことが山ほどあるんだ。絶対に逃さねえ……!」
 ギリギリと背中に向けて腕をひねり上げる。
 ふっと闇が消え、後には特徴もない中年男が転がっていた。


 5を押さえ、4を押さえ。3を押さえ。一つはずし、2を押さえ。
 既に、リベリスタの目をもってしても、リールの動きを追うには至難。
 時間ぎりぎりいっぱいまでかけて、英美はボタンにて指をかけたまま深呼吸を繰り返した。
 もう、これ以上、時間がない。
 デジタル表示は「00:11」を切った。
 吸い込まれるように、指がボタンを押す。
 くぴんと、音を立てて、リールがとまる。
 数字は、『1』、カウント「00:00」だった。
「パーフェクトです」
 それまで視線でアーティファクトを貫きそうな目をしていた英美は、目を閉じ細く息を吐くと、晴れやかな笑顔を浮かべた。


「…これで終わりだと思うとちょっとさびしいかな。第二第三のの簡単なお仕事が来ても困ると言えば困るんだけどね」
 虎美は、『置き去り屋』の手からフィンガーバレットをもぎ取って、あさっての方向に投げ捨てると改めて拘束した。
「あめえな、嬢ちゃん。こんなの序の口だ」
 気の毒になぁ。と、『置き去り屋』が笑う。
「んじゃ、アンタにこれを置いて来いって頼んだ奴の事を教えて貰おうか。知らないなら知ってることを全部ね」
 瀬恋はライフルを向けたまま、床に転がった『置き去り屋』を見下ろした。
「子供が犠牲になるとわかっててやってたんだよね。この先どうなるかわかってるよねっ?」
 とらが、待機していた地下から戻ってきた。
『置き去り屋』に体重をかけて取り押さえる。
「最悪の場合ガキがエリューションになる。笑って済ませられる事じゃねぇ、どういうつもりか身体に聞いてやろうか?」
 銃痕生々しい足をぎりりとランディが踏みにじる。
「ああ、いいとも。知ってることは何でも教えてやらぁ。だから俺を大事にしやがれ」
 けけけっと、『置き去り屋』』は耳障りな声で笑った。
「命拾いした。いつまでもあんな薄気味悪いやつらとつるんでたんじゃ、こっちもおかしくなっちまわぁ。ぼやぼやしてたら、俺もおもちゃにされちまうからな。ここらが潮時よ」
 違和感があった。
『置き去り屋』は、この状況を悪くないと思っているのだ。
「あんたらも大変だな、あんな奴らを相手にしなけりゃならないんだから。精々気張りな。俺はお前らがあいつらどうにかしてくれるまで、何ぼでもくさい飯食う覚悟は出来てんだ。なあ、アークのぼっちゃんじょうちゃんよ……」
『置き去り屋』が急に言葉を詰まらせた。
 はぷはぷと浅い呼吸を繰り返す。
 みるみる内に腹が膨らんでいく。
「裏切ったらかえるになぁれってか……まあ、いいさ。あんな奴らとかかわっちまったのが運の尽きよ。お前らも俺みたいにならないようにきをつげこっ!」
 ばん!
 尻の穴から空気を入れられた哀れなカエルのように。
 伸びきった腹の皮の下に下敷きになるようにして、『置き去り屋』はこときれた。
 ランディはちっと舌打ちすると、アーティファクトを手に取った。
「ランディ?」
「なんか追えねえかと思ってな」
 記憶とは電気信号。器物にもかすかな痕跡が残る。
 ランディはそのかそけき記憶を追う。
 アーティファクトの記憶。

 小さな手、つりあがった三日月の口が周囲を取り囲む。
 耳障りなはしゃいだ笑い声。
「いってらっしゃい、『置き去り屋』 ズルしたら、カエルの刑だよ!」
 興奮した子供の声。
 いっそズルしてくれたら面白いのにと期待さえにじんだ声。
 調子はずれのアコーディオン。
 ぶかぶか吹き鳴らされるゆがんだラッパ。
『さあ、遊ぼう。夜に遊ぼう。明けない赤い月の夜に!!』
 風船風船、色とりどりの風船。
 見える限りいっぱいの風船で、もう何も見えない。

「その手の業界同士での妨害って奴じゃねえのか?」
 ランディは小さく呟く。
 まぶたに焼きついた情景の胸糞悪さに、一つ大きくため息をついた。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 田奈、なんにもさせてもらえなかったなぁ。
 せめて、爆弾爆発させて、キャンディ地獄にしてやろうと思ったら、そっちも止められたよ。
 情報まで持っていかれた。
 ええい、もってけ、大成功。お見事でした。

 この先どうなるかはひとまず置いといて。
 ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。