● 塾って、大変よね。やんなっちゃう。 「ばいばーい!」 「それじゃね、せんせ!」 「はいはい。遅いんだから気をつけろよ?」 私は、友達と2人で手を振る。苦笑しながら先生は手を振った。 携帯をぱかっと開いて時間を見る。 「やだ、もう9時過ぎてるー!」 「ええぇぇ……見たいテレビあったのになぁ」 友達と顔を見合わせて、はぁっと溜息。ちりん、と鈴が鳴った。あれは確か、お兄ちゃんに貰ったんだって。神社で売ってる携帯ストラップ。何かあったらすぐわかるようにって。いいなぁ。お兄ちゃん。私もほしい。 でも、今は、お兄ちゃんより、塾に行かせないママがほしい。 小学生だって楽じゃないのだ。 何て考えながらお友達と歩いて歩いて、駅の前。 明るい所に出たので、そこでちょっと買い食いなんてしちゃった。明るい所に出たので、ふたりぶんの影法師が長ーく伸びる。 たいやき買って、駅の前を通り過ぎて、帰り道を早足で歩く。 「それでね、しーちゃんが……あっ」 「どしたの?」 友達が急に言葉詰ったので、私も足を止めて振り返った。急に止まったものだから、ちりん、と鈴が鳴った。 「あのさ……あのお話、知ってる?」 「あのお話? ……あっ、最近噂の」 「そう、のっぺりさん」 自分で言うのも何だけど、小4なんてまだまだこどもなのだ。 あれを見た、これを見たなんて、不思議な話をして、そういう話が本当かどうかは関係ない。 何せ、私達は刺激を求める。 一夜のヒーローになる為に、だれかのもっともらしい話に便乗する人がいたっておかしくないのだ。 みんなも覚えがあるよね? へんなひと見たー、とか、ゲームの裏技見つけたぜ! とか。 それから、おばけを見た、とか。 小学生に本当か嘘かの判断なんて出来ないもん。 ただ信じるだけ。 そういう意味では、私達小学生が一番神秘に近い存在なのかも知れない。 嘘がほんとに流転する。 ほんとが嘘に埋没する。 そんな世界に私達はいる。 そんな中に、のっぺりさんの話はあるのだ。 「怖いよねぇ。影に隠れて後をついて来て、少しずつ弱らせられるんでしょ? それで、疲れたところを……がぶって」 「うん、怖いね。逢いたくないね」 嘘だけど。 あ、逢くないってのが嘘じゃないよ? 怖いっていうのが、嘘。 だって、のっぺりさんのお話を作ったの、私でもん。 はじめに噂を流した。どこから流したかわからないように、教えられた通りに流したの。そしたら、面白いように広まっていった。 次第に次第に広まって、上級生まで怖がるようになっちゃって。 あぁ、なんて面白いんだろう! この気持ちはきっと私にしか感じられない。私が作ったおばけを、存在しないものをみんなが怖がるの。 次はどんなお話を作ろう。次はどんな噂を流そう。 うきうきと足を躍らせていたら。 ちりん、と鈴が鳴った。 私は振り返った。 振り返っちゃった。(影に半分埋まって) 振り返らなければよかったのに。(手も足もべきべきに折れて) 振り返らなければ。(首からぱっくり赤い肉が見えて) 少なくとも、少なくとも私は。(呆然とした顔のまま、もう動かない友達の――) らくにしぬことができたのに。 ● 「敵の名前は――のっぺりさん、だって」 真白イヴ(nBNE000001)はそう呟く。このエリューションをどう言い表したものか、と考えた挙句、少女の名付けた名前を取ったのだろう。 「E・フォース。フェーズ1、数は4体。全身影のように真っ黒で、ある程度形を変えることが出来るわ。剣だの爪だの、伸縮は自在だけど近接射程の攻撃しか出来ないわ。で、問題はそこじゃなくて……」 イヴが改めて映像を巻き戻す。リベリスタ達は見た。2人の被害者の足取りが、だんだんと緩慢になっていることを。 「彼らは、影に潜んでいる間、継続的に体力を奪って行く。追い出すには止めを刺す瞬間を狙うか、憑かれた人間にダメージを与えること。今のところわかるのはそれだけ」 どんなやり方でもいいけど、神秘の隠匿や一般人の保護はちゃんと考えてね、とイブは言う。 「戦闘中でも、隙さえあれば、闇の世界で視覚を遮った瞬間に誰かの影に潜むなんて連携もするみたいだから、けっこう難敵よ……それにしても」 気になることがある、とイヴは言う。映像の中、今回の案件に果たして関係があるのかはわからないけれども。 「噂……すごく、広まったのね」 不自然なほどに、自然だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕陽 紅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月28日(水)22:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 次はどんなお話を作ろう。次はどんな噂を流そう。少女はうきうきと跳ねるように歩を進ませる。その影に潜んでいるカゲに気付かないまま。 無知は罪だ。知らぬままに、引き寄せるのだ。悪意と暴力、そして怪異を。 うきうきと足を躍らせていたら。 ちりん、と鈴が鳴った。 彼女は振り返った。 ふっと風が舞った。 「……あれ?」 「どしたの?」 友達に問われて、首を傾げる。確かに今、首筋の辺りを風が撫でた気がしたのだ。何かがいたような……そう思って前に向き直ると、そこに居たのは黒衣の少女だった。ふわりと風が舞う。立ちはだかる『普通の少女』ユーヌ・プロメース(ID:BNE001086)の刺すような視線に、少女達は僅かに鼻白んだ。 「え、っと、だれ?」 「……やはり憔悴しているか。まずは安全圏に避難させるのが先決。神秘の秘匿もあるし、チョロチョロされても迷惑だ」 勇気を振り絞った少女の片割れの問いかけに、1人呟く彼女は答えない。やば、変な人だ。そんな感じに少女の顔が僅か怯える。 「あ、気にしないで。ボクらは怪しい者じゃないから……うう、怖い。いや怖くない」 いつの間に現れたのか。少女達が横合いからかけられた声に慌てて首をめぐらすと、『臆病強靭』設楽 悠里(ID:BNE001610)がぽりぽりと鼻の頭を掻いて、ぶるりと背を振るわせる。怖くない、怖くない、相手はエリューション、よく聞くとそんな風に呟いているのだ。やっぱり変な人じゃないのか。少女達は係わり合いになるのを恐れた。そんな彼女達を観察し、リベリスタ達はひとつの判断を下す。 やはり、衰弱はしている。表情でわかる。しかし、少女達はそれに気付けない。少しずつ、少しずつ、吸っている。と、リベリスタ達が怯える少女達を少しずつ取り囲み始めたところで、急にがくんと少女の膝が落ちた。 「あ……ぁ?」 「まずい!」 『臆病ワンコ』金原・文(ID:BNE000833)、『消えない火』 鳳 朱子(ID:BNE000136)、『バーンドアウト行者』一任 想重(ID:BNE002516)、それにユ-ヌ。光源を持った人が2人の少女を取り囲む。更に『勇者を目指す少女』真雁 光(ID BNE002532)が光を放った。眩い光に影が揺れ――しかし、懐中電灯の光量では消すことは適わなかった。 「ならば、こうしましょう」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(ID:BNE000189)が子供の1人を小脇に抱え、走る。更にはアクセス・ファンタズムから取り出したスクーターに跨り、アクセルを全開に急発進すると、少女影が、ずるりと隆起する。 面倒を厭うたのか、速度についていけなくなったのか。ともあれ、その影から生まれ出たようにも見えるその異形は四つんばいになって歯をガチガチ言わせると、ぐるりと後ろに向き直った。狙う先は、もう1人の少女。未だリベリスタ達に囲まれて手こそ出しあぐねているが、明らかにその怪異は衰弱した少女に食欲を感じていた。 「ひ、の、のっぺりさ……!」 がくがくと囲まれた少女が震える。膝をぺたんとつく。明らかに良くない。うさぎが戻ってくるのを待つ間もない。朱子が腕を引く。 「ちょっと、ごめんね」 身体にダメージを与えなければ、その身からバケモノは引き離せない。最低限身体に残るダメージで、かつ少女に万一もないよう注意を払い、鋼の腕を少女の水月に打ち込んだ。ひっぐ、と短い悲鳴を残して意識を失い、それに連動するように身体を折って影からはじき出されるもう1匹ののっぺりさん。少女を担いだ朱子を睨みつけて、唸った。意識を失った子供に、再び飛びかかろうとする。 「避難させます、道を空けて!」 子供を受け止めた朱子が叫ぶ。その無防備な姿に飛び掛る黒い影、それを銀色の光が防いだ。敵の動向に集中していた『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(ID:BNE000659)はまるでそこが床か何かのように座って潜んでいた電柱から飛び降り、両手の短剣でゴムのような人型の手首を捌き、突き出した腕を潜りながら両腿の内側を切り裂き、流れるように横蹴りを繰り出した。不意打ちに吹き飛び、思うように動けず蠢く怪異。その感触はゴムのようにぐにゃりとして、その感触にリュミエールは顔を歪める。 「Слово не воробей, вылетит―непоймаешь」 言葉はスズメじゃない、いったん飛び立ったら捕まらない。ロシアの諺は含蓄に富む。子供の無邪気な流言が、飛び立ったが最後このようなものを生み出したのか。 ともかく、まずは彼女達の身の安全が第一だ。もう一体、うさぎが助けた子に憑いていたのっぺりさんは、先程飛ばされた1体と入れ替わるように立ちふさがろうとしている。行く手が遮られそうになる朱子の横を、一陣の風が駆け抜けた。悠里と言う名の怖がりの風は怖い怖いと言いながら、しかし逃げずに迎え撃つ。両手を錐のように変えて伸縮する突きを、左右の手で滑るように流して極低温の両の拳を叩き込む。 「凍れぇ!」 びき、と氷がゴム質の身体を這い、侵食する。ぎぃ、ぎちぎち、と動きが鈍った。その横を通り抜けようとした朱子が、不意に嫌な気配を感じて足を止める。その鼻先をびっと鞭のような何かが通り過ぎた。横合いのブロック塀の影から生えたそれは、奇襲が失敗したと見るやずるりと身体を出す。3匹目が姿を見せた、その身を間髪入れずに、幾枚もの護符が囲む。ユーヌの呪印封縛だ。指で印を結び、呪文を小さく唱えると、ぎぃぃ。のっぺりさんが悲鳴を上げた。 「先ずは行け! チョロチョロされても迷惑だ」 声に答える様に朱子が足を踏み出す。更に横から迫り出す鋭い鎌のような影。避けるか。無理だ。避けたら子供に当たる位置からの一撃。だすん、と衝撃を受けて前によろめく。後ろから勢いを付けて突っ込んだ文が突き飛ばしたのだ。代わりに鎖鎌の如き一撃が文に直撃する。身体に巻きつき、鋭利な影が急所を庇った腕に突き刺さる。 「怖い……けど、行って! 早く!」 おばけはこわい。でも、今は子供を救う為にと。横を抜けた朱子を追う最後ののっぺりさん。4匹の出現を確認したうさぎがアクセルを再び全開にこの場から走り去った。光もまた、その場を支援するべく、詠唱によって体内のマナを活性化させ機を伺う。のっぺりさんは人型でありながら異様な動きで、逃げ去ろうとする子供を追う。金棒のようににゅるにゅると伸ばした腕の一本を、朱子の背中に振り下ろす。重量のある一撃を受け止めたのは、逃げる背中ではなく大錫杖だ。遊環のしゃんと鳴る音を聞きながら、立ち塞がった少年は鋭い目で異形を見据え、空いた手の剣指で早九字を結ぶ。周囲一帯に人払いの結界を張るとぶるんと錫杖を振るい化け物を弾き飛ばす。 「稚児等を悩ますあやしの噂、夜半に轟く声音に散らす。弥猛心を切っ先に、川面に映る男伊達。一任入道想重冠者、黒子退治の裏通り、いざ、敬って参る!」 想重の口上を背に受けながら包囲を抜ける少女、都度に4人。捕食を邪魔する超越者達に原始的な怒りを向け、噂のバケモノが牙を剥いた。 ● 2体の化け物が、力に任せて体に纏わりつく氷を振り払い、呪符を打ち払った。怒りのままに吼える。既に視界の外に走り去った当初の獲物も意識の外。ソレ等の害意は、リベリスタ達に向いている。ぶるり、と氷の破片を振り払うのっぺりさんの上空から、電信柱を蹴って空に舞ったリュミエールが襲い掛かる。必殺のスピードに、しかし化け物は光を当てられた影絵のようにぐにゃりと曲がって避ける。戦端が切られ、ぐるる、と最後に現れた一体が喉を鳴らした。 「やだやだ、怖いよこっち来ないでーっ!」 その様を目にし、文はぶんぶんと首を振る。絡みついた腕をブレードナックルで切り払い、気糸を空中に一瞬舞わせると、来ないで! と叫びながらそれを一斉に飛ばす。が、やはり前情報通りに速い。恐慌状態の一撃は空しく空を切り、ひっと怯えた子犬のように少女が息を漏らした。落ち着け、と言いながらユーヌが印を結ぶと、手から離れた呪符が仲間の下へと舞い、守護結界を生成する。 「これで多少は楽になるだろう」 先んじて仲間が結界を張るのを見て、想重はならばと無銘の大太刀を抜く。垂直に立てて構え真言を唱えると、道力を纏った剣がひとつふたつみっつと浮かぶ、展開された刀儀陣に、しかし正対していた1体は向かうことなく逆方向に走る。体を球状に丸めると、爆発的に拡散した。未だ体が麻痺する1体を除いた2体ののっぺりさんと、文、悠里、ユーヌがその球に取り込まれる。発光する光は後方にて待機している為に、咄嗟にその中に入ることが出来ない。 闇の世界。 再び球が収縮し1体ののっぺりさんに戻った時、2体の姿は何処かへ消えていた。 ――同時刻。 スクーターがぎゃりぎゃりと音を立てて轍を刻み、うさぎはひとつ息を吐く。小脇に抱えられたままの少女は、あまりの自体に声も出ないようだ。やや遅れて朱子が砂煙を立てて隣に降り立つと、当て身によって気を失ったままの少女をうさぎに預けた。 「2人は任せます、うさぎさん。私は加勢に」 そう言うと、朱子は地を蹴って元来た道を駆け出す。その姿を見送るうさぎは、不意にきょろりとした無表情を、一瞬よそに向けた。が、気のせいかと言う様に少女2人を下に下ろすと、気を失ったままの子の頭を膝に乗せて安静にする。 「あ、あ、の」 「大丈夫、貴女達は私が守りますし、のっぺりさん達は仲間達が退治します」 きりり、と背筋を伸ばすと、うさぎは優しげに怯えた少女に話しかけ、背中を撫でる。荷物から魔法瓶を取り出すと、お茶を飲ませる。熱いお茶に顔を顰めながら、しかし次第に落ち着く少女は、不幸中の幸いか。噂を広めた当人の少女だった。 「所で、最近の噂話について出来るだけ教えてくれませんか」 「え……」 びくり、と少女の肩が跳ねる。うさぎはその様子に、あるひとつの推測を立てた。即ち、薄々ながら気付いたのだと。この事態を引き起こしたのは、誰であるかを。 「『おばけを作らせてる奴』がいるかも知れないんです。何も知らない人を騙して、噂を流させる事で」 慎重に言葉を選ぶ。罪悪感を抱かせぬよう、しかし原因は明らかにするよう。悪意がない以上、二度と同じ轍は踏むまい。 「止めないとまた同じ事が起きますし、…騙した相手に更に何かするかもしれない。少しでも手がかりが欲しいんです」 きょとりとした相変わらずのうさぎの無表情。しかし、その真剣な声色に、しばし顔を俯かせてから、少女はぽつり、ぽつり、と話し出した。 ――再び所は戻り。 消えた2体ののっぺりさん。原因は明らかだ。影潜み、そしてエナジードレイン。今のこの瞬間にも、誰かの影に何者かが潜んでいる。その判断は付かない。 「なら、まずは数を減らすしかないよね……!」 やっぱり怖いよ、この敵。声を震わせながら、悠里はそれでも足を踏み出す。挙動を読ませない動きで足を踏み出すと、未だ体が動かない1体に向かってするりと飛び込み、足から伝わる振動を力に変えて、氷を纏わせた拳を体の中心に叩き込む。避ける事も適わず真芯に食らった一撃がのっぺりさんの全身を氷と共に食んだ。機を逃さず、眩く輝いたままの光が地を蹴ると、氷に取り込まれつつある怪人の前で大きく体を捻り、必殺の構えを取る。 「邪悪なる闇を打ち消す輝く剣閃!! S・フィニッシャー!!」 下から斬り上げ、上から叩き落し、大きなヒビと共に跳ね上がった、その一点。拳の打ち込まれた点に渾身の突き。緩やかだった亀裂が蜘蛛の巣のように全身に広がり、芯まで凍結した身体ごと粉々に砕け散った。仲間の死に怒ったのか、身の危険を感じたのか。闇の世界を使った1体がけたたましくぎしゃぎしゃと叫ぶ。両手を長剣のように変えると、飛び掛ろうとする。 「私ヲワスレンナヨ」 その後ろから銀色の煌き。咄嗟に後ろに剣を打ち振るう、頭をぐっと下げ、防御用短剣で捌き、リュミエールが鼻先に顔を突き出す。もう一本の黒い剣も捌き、腕をずしゃずしゃと切り開き、首を掻っ捌いて後ろに飛び退った。びくり、と動きが止まる。その隙に、覚悟を決めた、あるいは泣きそうな顔で文、悠里、ユーヌの3人が頷いた。 光の発光を利用した影の位置を誘導する作戦は一定の効果を上げているものの、懐中電灯は焼け石に水。で、あれば、道はひとつ。 「う、うわぁーん! 出て行って出て行ってよ出て行ってったらぁー!!」 「隠れてばかりが能か、噂の段階からやり直せ!」 「うぅ、もうだめだぁ……」 文が思い切り自分の頭をぽかぽかと殴り、ユーヌは自在護符を自らの身体に押し付け力を流し込む。悠里は死んだフリで炙り出そうとする。文の影からのっぺりさんの1体が飛び出て、自分の力に痛い痛いとのたうち回る文と同じ動きでのた打ち回った。が、ユーヌは苦痛に肩で息をするばかり。と、すれば後は…… 「悠里くん」 「……やっぱこれじゃだめだよね?」 想重と悠里、2人の青年が互いに顔を見合わせ。 「相済まぬ!」 錫杖の物打ちが、どすりと悠里の腹を突く。うげ、と息を詰まらせ崩れ落ちる悠里の影から、のっぺりさんの1体が弾き出された。最も敵に近い文に、光が天使の息を唱え治癒を施す。光を後ろに控えさせたまま、想重、文、ユーヌが立ち上がり、反対側にはリュミエールと想重が陣取り、2体ののっぺりさんを挟み込んだ。 更に―― 「悪意をもってこの噂が広まるように仕向けた者ががいるなら……許さない」 身動きの取れない1体に、後ろから踏み込む影がある。無限機関の生み出す魔力の炎を全て衝撃に変え、紅刃剣を袈裟懸けに振り下ろす。防御もままならないのっぺりさんは、切断と言うよりも破砕されたように破片を飛び散らせながら、紅の刃によって微塵にされた。 「まずはこいつらを……倒す。皆さん、遅くなりました」 少女を安全地帯に送り届けた朱子が合流する。残った2体のバケモノがぎしぎしと喚いた。僅かな間も与えぬと言う様にリュミエールが飛び込む。銀光二閃、それを掻い潜ったのっぺりさんが、がくんと動きを止めた。文が怖い怖いと言いながらも2度目のギャロッププレイを成功させ、縛り上げたのだ。続く悠里、氷の拳が貫き手の形を取り喉を腹を貫く。 「人の噂も75日、況してや稚児雀共のおよづれなれば、はや、過ぎた昔と消えさるもまた道理……」 修験者の少年が呟き、その眼前に進み出る。錫杖から抜き放たれた頂戴な刃がぎぎん、と閃き、首と胴に銀色の筋を残した。 「ま、人の言から生まれた物じゃ。言に還してやらねばな」 その言の葉と共に遊環がしゃらんと鳴り、ずるり、とのっぺりさんがばらける。ただ1体残った1体は苦し紛れに闇の世界を展開するが、光の発光により闇が吹き散らされる。ユーヌが印を結び打ち出した鴉の式に身体を打ち抜かれ、朱子の渾身の一撃により千切れ飛ぶ腕。ぴぴっ、と懐に飛び込んだリュミエールの短剣が首と言わず胴と言わず全身を捌き、噂から生まれた怪異は塵と消えた。 ● 「お、皆さん、お疲れ様です」 戦いを終えて体を引き摺って来た面々を出迎えたのは、うさぎのすっとぼけた声だった。2人の少女は互いに身を寄り添い合わせている。 「お疲れのところ申し訳ありませんが、今しがたこの子から全て聞いたところです。お話してもいいですか?」 うさぎは、さりげなく2人の少女を遠ざけると、ひとつひとつ語り始めた。 「てらぁ・てらぁ?」 聞き出せたのはいつ、どこで話しかけられたのか、それと名前。面相はいくらでも取り繕えるようなものだったらしい。具体的につながりそうな名称はと言えば、それしか引き出せなかった。 「子供ニ噂ヲ広ゲテ被害を増ヤシテ、メリット的にはむしろ楽シンデル気ガスル」 リュミエールが呟く。巷で騒ぎを起こす殺人鬼との関連を想像したが、その線も薄いだろう。この話を聞いたのは、殺人鬼が具体的な行動を起こす前だったとのことだった。 「携帯から辿れる所に情報があれば楽なんだが……まぁ、そんな死んだ方が良いレベルの馬鹿ではないか」 鼻を鳴らすユーヌ。どちらにしろ、面白半分のようにも取れるこの黒幕に対し快い感情は抱いていないようだ。その横を通り、文と光が2人の少女に近づく。 「めっ! なの! こわいお化けの話をすると、ほんとにこわいお化けが出てきちゃうの!」 「むやみやたらに噂をひろめるものじゃないですー? 勇者との約束です!」 2人の少女に叱られ、幼子は目に涙を溜めた。ごめんなさい、もうしないから、ごめんなさい。隣の女の子も貰い泣きしてしまって、しばらく大変だった。みんなでなだめすかし、連絡先を貰い、そっと家路に帰した。 人の噂も七拾五日。されど噂は伝播する。力持つ噂に、一体どんな意図があったのか。謎はまだまだ深まれど、2人の少女の命を救ったリベリスタ達。今日の所はめでたしめでたしとして、しばしお開きにて御座います。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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