●丸くて大きくておいしそうな 目の前にはたわわに実った『それ』があった。 大きくて弾力のある『それ』を指で押す。 そのまま食らい付きたくなるが、それを我慢して手を引っ込めた。 小さいときから丹精込めて育て、今ようやく収穫のときだ。 大量に並ぶ『それ』を身ながら、その男は満足げに頷く。 「今年もたくさんできたなぁ」 「悪いけど、あなたが育てた『それ』はすべて頂くわ」 「へっ?」 間抜けな声を上げて振り向けば、見知らぬ人が立っていた。 それがフィクサードと呼ばれる存在であることなど、男は知りようがない。だがこれだけはいえる。コイツは悪人だ。なぜなら拳を振りかぶり今まさに殴ろうと―― 「ど、泥棒……! 折角育てたブドウを……」 殴られて暗転する意識の中、男は手を伸ばし泥棒の胸倉を掴んだ。そのまま意識を失う。彼が最後に感じた感覚は、 ぽよん。 ●ふはははは。だまされたな! 「ニイイチサンマル。ブリーフィングを――」 「たわわに実った、ってブドウの事かよ!」 「はいぃ? ど、どうされたんですか皆さん!?」 「タイトルに騙されたよ、こんちくしょう!」 謎の怒声をあげて、男性リベリスタの大半がブリーフィングルームから出て行った。 「……えーと、とにかくブリーフィングを開始します」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。一部帰ったけど、まあいいや。気を取り直して和泉は口を開く。録音機のスイッチを入れた。 「討伐対象はフィクサード六人。ビニールハウスで栽培しているブドウの窃盗です」 「フィクサードの窃盗団か」 フィクサードとは、覚醒した能力を使い悪事を行なうものの総称である。そして悪事にもピンキリある。人の人生を狂わせるほどの悪事もあれば、取るに足らないセコイ悪事まで。 しかし、覚醒者に対抗できるのは覚醒者だけである。普通の警察では、フィクサードを捕らえることなどできよう筈もない。結果、リベリスタたちが奮闘する羽目になるのである。 「時刻は昼間。一人が『気配遮断』を使って近づいて従業員を気絶。その間にビニールハウス内のブドウを全部奪います」 「単純な手口だな。だが従業員が一人のところを狙い、気絶後は六人でブドウを運ぶ。十五分で済ませば『時給』にして一人頭こんなものか」 口を挟んだのはスキンヘッドに作務衣を着た男だった。名前を九条・徹(nBNE000200)。元フィクサードという犯罪の『専門家』だった男である。電卓を弾いて出した数字に、リベリスタたちは色めき立つ。 普段の稼ぎと桁が違う。窃盗団に転向しようかしらん。黒い囁きに頷きそうになる。それを振り切るように頭を振るリベリスタたち。 「今からいけば、フィクサードグループ到着より少し早く現場にたどり着くことができるでしょう」 モニターに映し出されるフィクサードの姿。全員キツネのビーストハーフの女性で胸を強調した服を着ている。つやっぽいというよりはワイルドな雰囲気を与える女性たちだ。 「フィクサードのグループ名は『レディフォックス』。構成はデュランダルが三人、スターサジタリが二人。ホーリーメイガスが一人。個人の戦闘力は皆様と同じか少し上です」 「辛いのなら、手ぇぐらい貸すぜ」 和泉の説明を受けて、九条が胸を叩く。 「果実窃盗は農家には大打撃です。皆様、よろしくお願いします」 和泉の言葉を受けて、リベリスタたちは頷きあった |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月17日(土)00:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●道中 今回の依頼はフィクサードによる窃盗団の捕縛。そんな中に元フィクサードの『菊に杯』 九条・徹(nBNE000200)も同席していた。かつては敵対していた相手ゆえ、チームワークを乱す要因になるのでは、と懸念した人もいるが。 「こうして一緒に戦えるようになるなんて、ね。仁蝮組の人達にも会ったけれどアークに大分馴染めてきたみたい」 よろしくお願いします、と一礼する『ナーサリィ・テイル』斬風 糾華(BNE000390)を始め、 「喧嘩始めでございます。お勤めよろしくお願い致します」 新たなる戦友を迎え入れるように礼節を尽くす『永御前』一条・永(BNE000821)等、むしろ徹は好意的に受け入れられていた。 「こっちこそだ。何せ俺は新人リベリスタ。ご教授よろしく願います、ってな」 笑みを浮かべて拳を突き出す。その拳にリベリスタたちは次々と拳を会わせていった。 「九条とも矢ん時以来だなあ」 徹と拳をあわせ、強く押しながら『全段渾身業炎撃』宮部乃宮 火車(BNE001845)が言う。リベリスタとフィクサードが肩を並べたあの依頼。そのときを思い出しながら拳を強く押す。徹も対抗するように拳を押し返した。 しばらく拳の押し合いが続き、二人同時に獰猛な笑みを浮かべて、拳を離した。共に「別に負けてねーぞ」と表情でそう語る。 「敵じゃなくて味方として一緒なんて、おもしれー世の中だぜ」 「全くだ。俺が日の元でリベリスタとはね。奇妙な縁か運命か」 フォーチュナならざる徹にとって、数ヶ月前からでは想像も付かなかった未来である。これまで激動の人生を送ってきたが、これは人生の三大ニュースの一つであろう。 「九条よ、久しぶりじゃのぅ。 この手の依頼で肩を並べる事になるとは思わなんだが、おぬしは誰のが好みかぇ?」 何かをやわらかく掴むような手つきで問いかけてくるのは、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)だ。元フィクサードとしての徹と渡り合ったリベリスタの一人でもあり、 「おぬし、たわわに実った胸は嫌いかぇ?」 男女問わずセクハラ好きなロリババアでもある。 「そりゃ嫌いじゃねぇぜ。ただ満月には満月の。新月には新月の趣があるもんだ」 「なんとオールオッケーとは。おぬしもイケル口じゃのぅ」 そんな話で道中盛り上がったりもしつつ、目的地に近づいていく。 ブドウ栽培のビニールハウス。リベリスタたちは役割を確認しあいながら、ビニールハウスに駆けていった。 ●準備 「今年も沢山できたなぁ」 鼻歌を歌いながらブドウの具合を見る従業員。 「のぅ。そこの若いの」 声は従業員の目線より下から聞こえた。見下ろせばそこにいるのはぶかぶかのパーカーを被った少女。どう見ても従業員より年下に見えるが、御年76歳である。 「わ、わしといいことせんかの? 向こうで」 「や、俺はそういう趣味はな……」 ないです、と言い切ろうとしてその言葉が澱む。少女の目を見ると、意識がゆらゆらと揺らぐ。まるで自分の身体ではないような……よく見ればロリ巨乳。あれ、これっていけるんじゃね? 「じゃあ服脱いでこのハウスの外にでて遠くで待っておるんじゃ」 「わかりましたっ!」 妙に元気よく作業服を脱ぐ作業員。わざわざ折りたたんで地面に置き、半裸の状態でビニールハウスの外に駆け出していく作業員。 「服を脱がせて……なんかえっちいのうこれ」 パーカーを脱ぎ、ウサギ耳をさらけ出す『雪暮れ兎』卜部 冬路(BNE000992)。折りたたんだ服を火車に渡し、そのままビニールハウスの外に出て行く。 火車は作業服に袖を通し、帽子を目深に被る。フェイトの有無は誤魔化しきれないが、それでも農園の作業員に見えるだろう。 「じゃあ私たちは近くで隠れてますね」 『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)は火車にそういって、隠れそうな場所を探す。人一人隠れれる場所などそう多くもない。おいてある機械の後ろに隠れるが、 「おい、足でてるぞ」 「ひゃあああ!?」 慌てて足を引っ込めるきなこ。 永と徹も各自隠れる場所に身を潜め、幻想纏いに手をかけながらフィクサードを待っていた。 ●『レディフォックス』 ビニールハウスの外。秋風が吹く中、ビニールハウスからでてきた冬路を含め、五人のリベリスタは茂みに身を隠していた。 「フィクサードが泥棒っていうのもなんだか変な気分だけど……」 神代 凪(BNE001401)はこれからくるであろう『レディフォックス』の悪行を思う。正直、未覚醒者でもできそうな手口と犯罪である。しかし悪事は悪事、と気合を入れなおす。捕まえることには変わりない。 「さって。お仕事お仕――こいつ等私を仲間にしてくんねえかな……」 『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)は徹の説明した窃盗団の『時給』を思い出し、思わず失言をしてしまう。他のリベリスタたちに睨まれるのを、手を振って誤魔化す。 「いや、冗談だ。当然冗談だぜ。多分きっと」 どんどん自信がなくなってくる。しかし魅力的だぜ……いや、いけないいけない。 「ところで全員捕まえたらボーナスとか出るよな。そんな気がするんだ」 徐々に下がっていく空気の温度と美峰への信頼度。上がっていく美峰の言い訳の速度。 それら全てを払拭したのは、ビニールハウスにやってきた車。古ぼけた軽トラックの荷台の上に四人の女性。『万華鏡』で見た女性のキツネビーストハーフ。その胸が実にたわわに実っていた。 (巨乳死すべし。……悔しいとかではないのよ?) 糾華は心の中でこっそり何かを燃やしつつ、胸に手を当てた。さくっ、と生まれるこの感情。そうか、これって殺意なのね。 「ふむ、専門家達は判断を誤ったか。人の話は最後まで聞くものなのじゃ」 瑠琵は『レディフォックス』のワイルドでたわわに実ったお胸様を見て立派なものじゃ、と呟いた。専門家というのはOPで帰っていった男性リベリスタたち。つまりおっぱい専門家である。 トラックの運転席にいた二人のビーストハーフも出てきて、合計で六人。彼女達は全員ビニールハウスの中に入っていく。 「よし、全員入ったな。作戦通りにいこう」 「待ってくれ。車のタイヤを……」 美峰は『レディフォックス』が乗ってきたトラックのタイヤを潰し、走行不能にする。その後で皆と合流し、ビニールハウスの中に入っていった。 ●開戦 (情報どおり、従業員は一人。……でもフェイト持ってるんだよなぁ) 気配を絶って『レディフォックス』の一人が火車に近づく。正確には『作業員に変装している火車』にである 行動は迅速に。危ないと思ったら逃げる。彼女達の鉄則である。迷ってる時間は惜しい。気配を立ったままゆっくりと近づき、拳を握り締めた。 「おりゃぁ!」 「そうは問屋は卸さねぇんだよ!」 いかな達人とはいえ、気配を断ったままの攻撃はできない。攻撃の瞬間、どうしても気配が生じてしまう。戦い慣れしていない素人ならともかく、火車はそういうに経験をつんだリベリスタだ。フィクサードの振るった拳を受けながら、お返しに炎に包まれた拳を叩き込む。頬を押さえながら、後ろに下がるフィクサード。 「やべぇよリーダー。ばれてる!」 「構うことはないよ、一人なら全員で一気に押さえ込めば――」 「リーダー、後ろにも!」 ビーストハーフ特有の野性的な察知能力が背後から来るリベリスタたちの存在を気付かせる。もちろん先ほどまでビニールハウスの外にいたリベリスタたちだ。 「古来より、火付けと盗賊は重罪なれば。磔柱を背負う覚悟はありや?」 「真っ平ごめんだね!」 ビニールハウス内に隠れていた永が問いかける。幻想纏いの銅鏡が小さく光ると、静型の薙刀がその手に握られていた。円を描くような動きで切っ先をフィクサードに向ける。 前に永、きなこ、火車、徹。後ろに瑠琵、糾華、冬路、凪、美峰。挟み撃ちにされた『レディフォックス』の判断は迅速だった。 「皆、逃げるよ!」 それぞれの武器を構え、『レディフォックス』は動き出す。最初に動いたのは大剣を持ったデュランダル。剣の向きはリベリスタの方ではなく、真横。狙いはビニールハウスの支柱とビニールそのもの。袈裟懸けの一閃が、一人ぐらいは通れそうな穴を作る。 「逃がす気はねーぞ……! しっかり仕事しねーとなあ? お互い!」 「や、ほら! 女を殴るとか男としてどうよ!?」 「男女差別は良くねーだろ。世間に則ってちゃんと平等に殴りつけてやれば良いんだよ」 火車は自分を殴ってきたフィクサードを捕まえ、炎の拳を叩きつける。息をつく間も与えない拳の連打。体重を移動させながら放たれる炎拳の嵐。 「いっくよー!」 凪は踊るように前に出る。そのまま回転して足を振りぬき、カマイタチを放った。ダンスのような軽やかなステップ。歌のように優雅な蹴り。しかし放たれるカマイタチは優しくない。グリモワールを持つフィクサードの頬を裂き、出血を促した。 「九条様は、あの斧を持ったフィクサードを。 さあ、お仕置きと参りましょうか」 「おうよ。悪いがしばらく付き合ってもらうぜ、ねぇちゃん」 体内に気を漲らせながらの永の指示に従い、フィクサードの一人を抑える徹。 「運がなかったのぅ。わしらに見つかったのが運のつきじゃ」 冬路は持っていた銃剣でグリモワールを持つフィクサードを攻め立てる。鋭い剣先に意識を集中させて、殴りつけるように銃座で押さえ込む。そのまま剣先で引っ掛けて糾華のほうに投げ飛ばした。 「ごきげんよう。貴女が何かする前に倒させてもらうわ」 糾華の指先から糸が伸びる。まるで人形を操るように細かな動き。糸はフィクサードの身体に絡みつき、その動きを拘束する。 「順調じゃな。ならわらわはこっちじゃ」 瑠琵は札を持ち、印をきる。縦に二回、横に一回。札が一匹の鴉に変化し、銃を持ったフィクサードを貫いた。とっさにフィクサードは銃で弾くが、浅い傷が残ってしまう。 「むぅ、うまく決まらなんだか」 相手が感情的になってくれれば逃亡防止にもなったのだが、仕方ない。 「あっちもこっちもたわわで大変ですねぇ」 見れば戦場はいろいろ揺れていた。なにが、とは言わぬが華。その揺れる要員の一人であるきなこは、皆を守るための結界を張り守備力を上昇させる。怪我を防ぐための鎧と、神秘から身を守る膜。不可視だが、その効果はリベリスタたちを守護している。 「さぁ、ボーナスの為にがんばるぜ!」 美峰はフィクサードが空けた穴のほうに移動しながら、印をきる。五行の一つが水。それが美峰の術に従い、一つの方向性を示す。冷たく鋭い刃となり敵を貫き針となり降り注ぐ。グリモワールを持ったフィクサードがそれで沈黙した。 ●リベリスタ もちろんフィクサードとて、呆然とその場に立っていたわけではない。武器を構えながらも、しかし意識は逃亡のほうにむいていた。 挟撃に成功したが、フィクサードを抑えているのは火車、永、冬路、徹の四人。フィクサードは現在五人。つまりフィクサードの一人がフリーになっていた。 銃を構えていたフィクサードが空いた穴から逃亡を図る。リベリスタたちがホーリーメイガスに集中している隙をついた逃亡。穴まで後もうすこし。 「あそこの銃を持った人がにげますぅ!」 戦場を注視していたきなこがそれに気付く。そして五感以外の感覚で察知した瑠琵が逃亡先に回りこんで構える。 「いい感してるぜ、チビガキ! だが後衛職がでばってるんじゃねぇ!」 「察するにお主も後衛じゃがな。そんな豆鉄砲でわらわを突破できるかぇ?」 互いに睨み合い、そして銃と符術の応戦が始まる。フィきサードの弾丸を瑠琵の札と結界が阻み、生み出された鴉を身を捻ってかわすフィクサード。 「燃えちゃえ!」 凪が大剣をもつフィクサードに迫る。ブドウの木を蹴って移動し、着地と同時に地面すれすれまで伏せて駆ける。接近と同時に振るわれた拳は業火の拳。下から突き上げるアッパーの勢いを殺さぬままに回転し、フックを放つ。近づけばはなれ、離れれば近づく。自分のペースを乱さず、攻め続ける。 永は薙刀を構えてまっすぐ立ち、相手を見据える。ただそれだけなのに、フィクサードは呼吸すら阻害されるほどの威圧感を感じていた。物理的な薙刀のリーチもあるが、ああも自然に構えられると攻める隙がない。数十年同じことを繰り返してきた訓練の果ての姿。覚醒者はそれすら凌駕するが――覚醒者がそこに至れば? 悩んでる暇はない。時間がたてば逃亡は困難になるのだ。フィクサードはガントレットを握り締め、大きく振りかぶった。 黒いセーラー服が舞う。まるで散歩するように永が数歩進んだ。そんな動き。 たったそれだけの動きの間に、三撃。払い、斬り、叩き。自らの身体を視点に薙刀「桜」が回転する。諸行無常、咲いて散る桜の如く。一瞬割いた武の花を、伏したフィクサードは見ただろうか。 逃げられぬと判断したフィクサードは攻勢にでる。しかし始めから全員捕らえる意気込みで挑んだリベリスタと、逃亡を念頭に行動するフィクサードでは戦意に違いがある。多少の傷をつけるものの、きなこや美峰が皆の傷を癒していく為、致命傷には至らない。 「一般人相手にするよかおもしれえだろ? なあ!」 「うるさいこの戦闘狂が! ……ぐぅ!」 火車が一人を倒したのを皮切りに、次々と力尽きていくフィクサードたち。数が減っていけば一人あたりに対する攻撃数が増し、、討伐速度も加速する。 「これでおしまいだよ!」 凪が赤々と燃える拳を真上から振り下ろす。ハンマーのように振り降ろされる一撃が、フィクサードを地面に叩きつける。その一撃で『レディフォックス』の六人全ては沈黙した。 ●日常と絆と 「人の努力を結晶を盗み取る果物はさぞや美味しかったのでしょうね」 縛り上げた『レディフォックス』に向けて、糾華が冷ややかに告げる。いい大人が情けない、と言外に告げていた。 「けっ! 楽してお金が手に入るならそれにこしたことはないだろうが!」 縛られながらも気丈に言い返す『レディフォックス』のリーダー。しかし口以外で反抗することができない。仮に拘束が解けていたとしても動く体力も残っていないことは、誰の目にも明らかだった。 「引き渡したらブドウ狩り……はちょっと無理かな?」 凪は戦闘で荒れたビニールハウス内を見ながら、頬をかいた。『レディフォックス』が空けたハウスの穴のほかにも、戦闘で暴れまわった靴跡や戦闘の余波が残っている。幸いにしてブドウそのものの被害は皆無だが、それでもブドウ狩りを行う雰囲気ではない。 「何もなかったんじゃよ、何も……ええい、全部忘れてくれんかのう」 冬路は従業員を探し出し、改めて魔眼で命令する。今日のことは何もなかったのだ、と。あとわしの言ったことを早く忘れろ。 「ボーナスっ、ボーナスっ」 フィクサード全員捕獲に浮かれる美峰だが、数時間後「追加報酬はまずビニールハウスの補填に当ててからになります」……といわれ、すずめの涙ほどしかでないことになる。それを知るのはもう少し先。 「大したもんだね。さすがはアークのリベリスタだ」 徹は皆のチームワークに舌を巻く。即効で相手の逃亡を封じ、逃亡の要であるホーリーメイガスを真っ先に潰した手腕は見事といえよう。 「何を言っているのですか、九条様。あなたもアークのリベリスタなのですよ」 「そうですよぅ。他人事のように言わないでください」 「うむ。九条もなかなかの働きじゃったぞ」 永、きなこ、瑠琵が徹の健闘をたたえる。徹は一本取られた、とばかりに笑う。気の知れた仲間に見せる豪快な笑顔。 程なくアークの局員がやってきてフィクサードを連行していく。 得たものは農家の日常と、仲間との絆。それを確かめながら、リベリスタたちもアークの車に乗って、ビニールハウスを後にした。 「オレな。胸より尻派なんだよ」 「俺はふとももだ」 ――火車と徹は、男同士の別の絆が結ばれたとか結ばれなかったとか。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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