●海から来た機械蛇 それは、海の中でうねる巨大な機械の蛇であった。それは何かを探るようにして太平洋中を周り、時より浜に近付いては人を処理していた。ここでいう処理とは、殺害という意味である。 その方法は、口を開けてそこからレーザーを放つといった直接的なものから、巨体を使って体当たりをするというより直接的なもの、更に尻尾からウォーターカッターとなっている水流を発射して切り刻むといったものまであった。 しかし、この海蛇――アークによってヨルムンガンドと名付けられた機械生命体は、今までに見た機械生命体のアザーバイドとは違い、人を殺すことよりも、人のデータを集めることの方を優先していた。 それ故に、大都市圏の近くに現れることが多く、近い将来に大きな人的被害が予想される。危険な敵である。 相変わらず明確な敵意を人類全体に向けているアザーバイドであるが、今回の型は特殊で、単体行動しているという。何か特殊な任務に当たるタイプなのだろうか。 その目的も、D・ホールもまだ掴めてはいないが、まずはこの差し向けられたヨルムンガンドを倒すことが、リベリスタの当面の課題といえよう。 ●機械海蛇 モニターの中に映る巨大な機械の海蛇を背に、リベリスタたちは自分たちをこの会議室に呼び出した『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉を待った。 「機械のアザーバイドが攻めてくるのはこれで三度目。三度目の正直という言葉もあるけど、今回はデータを集めてきたみたい」 巨大な意思のもとで動いている集団なのかもしれないけど、と真白イヴはここで言葉を止める。そこから先は推測だから、解説を止めたのだ。 「ともかく、今ならまだデータを集め始めたばかり。それに、浜辺に近づいた時に、叩くチャンスがある」 そこで叩けば、人類や神秘に関するデータを取られずに済む。と、真白イヴは補足する。 だけど油断はできない。今までの機械生命体なアザーバイドと同じように、厄介な能力もあるらしい。 「まずは、モニターで見てもらった通り、多様な攻撃方法を持っている」 レーザー光線は破壊力、ウォーターカッターは範囲攻撃、体当たりは吹き飛ばしの力を持っているとか。 「それに、水陸両用。水中に逃げられたら、こちらも水中戦を挑むしかない」 何らかの工夫は必要かもしれないという。 「他にも、白銀の装甲は厄介な力を持っている。気をつけてね」 砂浜であるけど、遊べる余裕は……ないかもしれない。 がっくりとしながら、リベリスタたちは戦いという荒波に向けて準備を始めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月18日(日)23:30 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
●海の向こうから 海に臨みつつ、リベリスタたちはそれぞれ準備体操をしていた。とはいっても、海に入って泳ごうというつもりではない。戦いのために準備をしているのである。準備体操はその一環だ。 「囮役の静が奴を釣り出して引っ張ってくるのを堤防で待つ。それから二組に分かれて挟撃をする」 両腕を腰に当てて、背を反らせながら廬原 碧衣(BNE002820)が作戦の確認をした。というような作戦内容なので、必然的に動きまわらなければならないのだ。 だから、準備体操である。 「さて、と」 碧衣はそう言いながら反り終えて、凛とした顔を海に向ける。 準備体操で広がってしまった髪を両手ですくって、ばさぁと広げた。 「20Mもある海蛇か……手強いんだろうな。巨大な相手に武者震いがしてきたぜ。久々の大物だ。倒しきって見せる!」 屈伸を終えて、『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)は手を合わせて気合を入れる。気合を入れてとはいえ、愛嬌のある静の顔は、まるで海に向かう犬のようであった。 「いくぜっ、大帝!」 屈伸の際に落ちそうになっていた帽子をかぶり直してから、静は愛用のハルバードを懐から取り出す。日差しに金属部分が反射して、少し眩しい。しかし、そんな眩しさにも負けないぐらい、静の顔は明るかった。 「ヨルムンガンドか、相手に取って不足は無い」 いつものように、戦いに向けてテンションを上げる『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)。 「だが……」 しかし、その目線は一人の仲間に注がれていた。横目で。 「単独行動でデータ収集、ね……。本当に欲しいのは私達に関するデータでしょうね。一般人と私達の区別はまだ出来ないようだけれど」 夏が過ぎたとは言え、まだ残暑が残っているというのにクラシカルなドレスを身に纏いながら、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が愛用の日傘の得を指で弄っていた。その冷たそうな瞳は、しかしどこか品のある顔を作り出している。 (何故よりにもよってあの魔女が一緒なんだ!?) 頭を抱える美散。戦いの時は冷たく見せる鋭い眼光も、今は困惑の色しか見せていない。 「美散」 そんな美散に、氷璃は声をかける。昔は泣き虫で気が弱かったのに、成長して生意気だと言いたげな、だるそうな目を氷璃はしていた。 「は、はいっ!」 それを見て、美散は自分の天敵だと再認識する。戦いたくない相手だ。 「お茶、買ってきなさい。昔みたいに」 「わ、わかりました! ……さり気無く人の過去暴露しないで貰えません? ですから、い、いえ。決して口答えしている訳では――!?」 「冗談よ。よしよし」 上下関係をはっきりさせる必要はそれほどないと思い、氷璃はため息を一つ。それから、子供のように美散の頭を母のような笑みを浮かべながら撫でてやった。その手は小さく華奢で、背伸びもしているところから、どことなくアンバランスな光景である。 「未知の文明、知性との接触は大抵争いに発展する。残念な事ではあるが、意思疎通出来無いなら乱暴にでもお引取り願うしか無いでしょう」 そう、自分とテレビの映像に驚いて戦ったように……と、一人心の中で思うのは、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)だ。スレンダーな体系に、凛とした表情なので、どこか残念なそんな心は外から見えていなかった。 「うむ」 武器を十字に振るい、祈るようにして海をオッドアイが見つめる。まるで騎士のような振る舞いであり、その中性的な美貌と合わせて絵になった。 「神話に名を残せし大蛇の名前を冠する敵。油断せず……十全の力もて御相手します」 着物の袖を振りながら、袖からはみ出る可愛らしい両手を広げているのは、『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)だ。しゃらん、と独自のアクセス・ファンタズムが鳴って、浜辺を包み込むように結界が張り巡らされる。 「神秘は秘匿すべし……ですね」 にこりと笑ってから、地図を懐から取り出し皆に掲示する。地形を把握することで、作戦の憂いを断とうとしているのだ。 「また現れよったんか……機獣め」 さて、シエルとは別に結界を張っているのは『ゆるリスト』九頭龍 神楽(BNE002703)だ。このタイプのアザーバイドとは二度目の戦いということで、符を持つ手にも気合が入っている。 「今回はまた戦いにくい所に来よってからに。昼寝の邪魔すんなっちゅーねんな。しかもシーズンはずれてるから、いいんか悪いんか……。水着美女もおらんやん……秘匿にはええけどやな」 しかし、結構即物的な理由で肩を落としてがっくりとしている。右を見ても、左を見ても、水着の女性は居ない。シエルは着物だし、氷璃はゴスロリドレスだし、碧衣はゴスロリパンクファッションだ。 「責任とってもらおか蛇神さんよ。八つ当たり? なんでもええわ、ええ夢見せてもらうで」 キッ、と海を睨みつけて、神楽は腕を伸ばす。筋肉質な引き締まった体に、どこかゆるゆるとした思考。それが神楽という人間なのだろう。 「これで機械の獣を見るのは、3回目かな。もう、見たくなかったんだけどな……。こんな危険な存在……絶対に、逃がす訳にはいかない」 同じく鋭い眼つきで海を睨んでいるのは、機獣との戦いすべてに参加している『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)だ。猛禽類を思わせるその鋭い視線は、獲物を捉えようとしているようにも見える。 「だけど……。今は、おやすみ……」 とはいえ、ずっと気を張っていたら疲れてしまう。まだ作戦開始前なので、羽音は鋭い目を閉じて少しだけ瞑想とすることにした。 「……ぐう」 半目でゆらゆらと、左右に揺れる。心地のよい浜辺の風に流されるまま、少し夢うつつ。 海で、轟音が鳴り響いた。 「……う?」 目を開いて、羽音は海を見つめる。目を閉じる前は、穏やかだった海。 その海を割るようにして、何かがやって来ていた。 ●大帝招来 海の中から現れ出たのは、どこか機能的に感じるデザインの巨大な機械の蛇である。 その機械の蛇――ヨルムンガンドが出現してまず始めたのは、首を振って、人の気配を探ったことだ。 「殺したいんだろ? 殺れるものならやってみろ!」 そこに待ち受けていたのは、囮役を買って出た静だ。それを見て、ヨルムンガンドは口を開いて、光を発射口に貯め込んだ。攻撃の準備だろう。 「……早いなっ! それ!」 その間、静は全力移動で後方に下がる。それを追いかけるように、ヨルムンガンドも砂浜を削り取りながら近寄った。 そして、次の瞬間。ヨルムンガンドの口に付けられた発射口から強い光が放たれ、静の体をレーザーが焼いた。正しく光速の一撃であり、一瞬の出来事である。 「マジかッ!?」 その一撃で、静は一気に瀕死まで追い込まれた。それでも、釣り出す作戦は順調なのだ、静は足を止めずに仲間が待つ場所まで走るのを止めない。 その静を追いかけるようにして、ヨルムンガンドも速度を上げて体当たりを仕掛けてくる。それを脊中で受けて、静は吹き飛び、一度倒れてしまう。 「……っ。だぁー! ここでやられたら、俺のお姫様に顔向けできないぜ!」 しかし、フェイトを使って静は復活して立ち上がり。ヨルムンガンドに向けて、不敵に笑ってみせた。 静が吹き飛ばされたそこは合流ポイント。心配で飛び出てきた羽音たちを背にしながら、静は空を見上げる。そこには、翼を持った仲間たち。 「君達の懸念事項は私が全て排除する。さぁ、全力で戦いたまえ」 翼の正体は、『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)の翼の加護。 飛んできたリベリスタたちに驚いたヨルムンガンドは、迎撃をしようと尻尾から放たれるウォーターカッターを使って攻撃し始める。水による横薙ぎの一閃は、飛んでいたリベリスタたちにダメージを与えていく。 「うっかりなんてしてないわっ」 それに対応して、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は天使の歌を使って仲間の傷を癒していく。 「文字通り背水の陣か。せいぜい気合を入れないとな」 碧衣が声をかけたそこに、追撃にとヨルムンガンドが再びウォーターカッターを使って攻撃を仕掛けようと尻尾を振り上げた。しかしそれは、氷璃のマジックミサイルによって発車直前に動きを止める。 「鬼さんこちら。と、言ったところかしら」 そう言った氷璃は涼しい表情である。 「ありがとうございます。……今ならば。魔力の円環……練気……持ちうる全ての力もて……癒します」 控えめな胸に力を込めて、シエルは袖から山海経の写本を取り出し、呪文を唱えるように天使の息を使って深手になった静の体を癒した。 「これで、もう少しは戦えましょう。ですが戦闘後は、養生することをお勧めします……」 にこりと微笑んでから、その傷の深さを見る。とはいえ、戦う気力が衰えていない静を見て、シエルは言葉を紡ぐ。 「後顧の憂いを断つのは後衛の務め……幾度でも癒しましょう……」 なので、頼ってくださいね。と、暗に言う。 「それにしても、本当に大きな蛇……。流石に機械だし、ソソられないや」 んにゅ、と少し寂しそうに口元を締めながら、羽音は大剣を振り上げる。ミミズや蛇は鷲のターゲットだが、流石に機械や20mの大きさは守備範囲外だ。 「……これが終わったら……海に連れていってもらおう……かな」 想い人への言葉を呟きながら、ヨルムンガンドの目の前に立って羽音はギガクラッシュを放つ。巨体は吹き飛び、海の方から引き離されていく。 「行きましょう」 更にもう一人、正面から行くのはアラストールだ。バックラーを構えて、ダメージに対応して暴れるヨルムンガンドの体を弾き、冷静に、静かにブロードソードを掲げる。 「不当な監視はお断る……言葉は要らんか」 ヨルムンガンドの頭を叩き落すようにヘビースマッシュを使い、頭を地面に叩きつけてダメージを与えた。 「さあ、借りを返すぜ!」 そこに静が続く。海を背負い、海から流れてきた潮風を纏い、振りかぶったハルバードに力を込める。 「リベリスタを……人間を、舐めるなよ!」 そして放たれるのは、自身の体ごと相手を吹き飛ばすギガクラッシュ。 「海蛇大帝、巨大な身体、白銀の装甲……格好いいじゃねーか。嫌いじゃないぜ。だけど一番好きなのは……、強大な敵を打ち砕くことなんだ!」 少年のようなコロコロした笑みを浮かべながら、ヨルムンガンドと共に堤防に叩きつけられる静。静の反動ダメージもあったが、それ以上にヨルムンガンドにダメージを与えた。その機械の巨体から幾つか噴煙が上がっているのだ。 「気をつけたまえ。手負いの獣は強敵だ」 卯月がインスタントチャージを使って仲間を助けながら、警告を促す。どこか楽しそうなのは、機械仕掛けを前に子どもっぽい性分が出ているからだろう。 「傷ついたら私が癒すわ。私も回復役ですもの」 ウェーブの髪を潮風に揺らしながら、ニニギアも声をかけていく。 その警告通り、ヨルムンガンドは再び口を開けて、最大の威力を持つレーザー攻撃の準備をする。開かれた発射口に光が集まっていく。 「さて、と。私は搦め手で行こうか」 それを待っていたというかのように、その発射口に向けて、碧衣はピンポイントを発射する。その一撃では、その攻撃を止めることはできなかったが、確実にそこにダメージを与えた。 「その頭、貫かせてもらうでぇ」 更にレーザーの発射に合わせて神楽は符を放ち、式符・鴉と変えて発射口を破壊する。レーザー自体はその攻撃を行った神楽に反撃するように放たれてしまったが、これでレーザー攻撃を防いだことになる。 「うぐっ……! でもな、わしかて気張る時はあるんやで……」 フェイトを使い、レーザーの一撃から神楽は立ち上がった。その体はボロボロになっているが、糸目に込められた決意は重い。安心して昼寝ができるまでは、負けられないのだ。 「わたし……鳥、だよ?」 レーザー発射口が破壊された小爆発をする頭。そこに羽音は飛び乗り、大剣を突き立てた。 「この世界は……何が何でも、あたし達が守る」 顎までぶち抜いた大剣に力を込めて、ヨルムンガンドの頭を羽音は叩き折る。 しかし、ヨルムンガンドはまだ健在であり、生者を倒すべく体当たりを仕掛けてきた。 「単純な攻撃です。……ですから、仲間をやらせませんよ」 その攻撃から仲間を庇うのは、アラストールだ。バックラーを構えて、インパクトの瞬間の衝撃を受け流し、地に足を付けて耐えてみせる。スレンダーな体系からは想像できないほどのタフさであった。 「聞こえているか? 来訪者よ、私達の世界は略奪者には容赦しない、交渉の意思が無いならば、速やかにこのチャンネルから去る事を勧める」 そして、その満身創痍なヨルムンガンドに向かって、啖呵を切ってみせる。自分たちが何度でも立ち向かう、という警告でもある。 「ヨルムンガンドはミョルニルにより打ち倒される運命」 謳うように、踊るように氷璃は魔曲・四重奏を奏で、ヨルムンガンドの体を撫でるようにして攻撃の奔流に巻き込んでいく。 「――美散、成長した貴方の力、私に見せて頂戴」 その言葉に応じて、鋭い眼光に強い意志を載せ、美散は飛び込んでいく。 「承知。ヨルムンガンドよ、運が無かったな――」 構えた鉄槌を二度連続で叩きつけ、更には飛び上がりながら振り上げて、 「ヨルムンガンドはミョルミルを3度受けて倒される。……これで、おしまいだ」 渾身の力を込めたギガクラッシュが、ヨルムンガンドの体を完全に砕いた。 戦闘後。激しい戦闘の跡が残る浜辺で、機械の部品を碧衣は拾い集めていた。 「情報収集をしていたという事は、集めていた情報を貯める部分が残っている筈だ」 ということで、それらしいものを探しては、鞄の中に入れている。中にはハードディスクのようなものもあったので、丁寧に保管しておいた。後でアークに渡すためである。 「今回ばっかりは……着替えぐらいは洋服でもよかったかなぁ」 たはぁー、と大きなため息と一緒に、タオルで顔を拭く神楽。汗の量が、激戦を物語っていた。 「対話の余地は……無いのでしょうか」 残骸に向けたシエルの言葉だ。その言葉は、どこか諦めと虚しさが載っており、シエルの表情も暗い。 「……それにしても、この機械の獣達……どんどん、強くなってる?」 機械のアザーバイドと何度も戦ってきた羽音は首を傾げて考える。あの手この手を使って、この世界を侵略しようとしているのは分る。バリエーションがあるのも分かる。ただ、相手についてはまだ考えても分からないので、羽音は首を傾げすぎて砂浜に倒れた。ぽとん。 夏が去っていく。だが、これからも戦いは続くだろう。 それでも、リベリスタたちは護るために戦いを止めない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|