●夜に紛れて 月すら出ていない、新月の真夜中。街の光は空を強く照らすが、それでも届かぬ闇がある。 成層圏にも近い上空。そこを舞う一体のアザーバイドが居た。 その形は空を飛ぶトカゲといった感じで、幻想に謳われるワイヴァーンとよく似ていた。その為、ここからはワイヴァーンと称している。 ワイヴァーンは夜空を我が物顔で飛び回りながら、眼下に広がる街の光を睨みつけるようにしていた。その目には殺意といったものはなく、むしろ焦りがあった。探しものが見つからない、そう形容できる眼差しだ。 実際、ワイヴァーンは何かを探してここに来たのだろう。何度も街の上空を旋回しながら、街を隅々まで見て回っている。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が見た未来によれば、このワイヴァーンは結局探しものが見つからないことに苛立ち、街に降りて破壊を始めるらしい。その時には怒りに任せて街を破壊し尽くすという。 しかし、その時がリベリスタにとって最大のチャンスでもある。降りてきた翼竜を討つことができるのだから。 夜に紛れて飛ぶ翼竜。その姿は雄々しく、しかし不安を煽る光景であった。 そんなものを、リベリスタたちが許せるはずもない。 それにしても、このワイヴァーンは何を探しているのだろうか。 秘宝であろうか? それとも、なにか大切なものがあるのだろうか? それは誰にもわからないが、ここまで必死に探しているのだから、このワイヴァーンにとっては大したものなのだろう。 必死に何かを探すその形相には、鬼が宿っているようにも見えた。 そんな相手だから、恐らく……強い。 何かを必死に求める者は、強いのだ。 ●ワイヴァーンを迎撃せよ モニターに映る翼竜を眺めながら、リベリスタたちは疑問に思う。何を探しているのだろう、と。 「それは、わからない」 真白イヴはリベリスタたちの目をまっすぐに見て、断言する。 「だけど、放っておけば被害をもたらすのは確か。迎撃しないと、街が大変」 万華鏡システムによって見た光景は、確かに放っては置けないもののようだ。化物が街で暴れるだけでも、街は、この世界は大変なことになる。 これにリベリスタたちも頷いた。ならば、リベリスタとしてやることはひとつだろう。この翼竜を倒すのみだ。 「地上に降りてくるのは、新月の真夜中。街のビルに登って、それを迎撃して」 リベリスタたちは疑問を胸に閉まって、真白イヴの言葉に応える。 やることが決まっているのならば、あとはそれをやるだけだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月15日(木)21:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●想う 街を見下ろすこともできるビルの屋上。夜中故に人の目にもつかないそこで、リベリスタたちは異界からの訪問者を迎撃するための準備を整えていた。 とはいえ、迎撃するのは何か訳ありそうなワイヴァーンである。その為に、リベリスタたちの心情は様々であった。 「戦わずにお帰り頂けるのであれば、それに越した事はありません」 結界を張りながら、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は真面目にその存在を考えていた。もしも、もしも敵意を収めることができたら、もしも戦わずに済むのなら、それはとてもよいことだ。 「ですが、それが叶わぬときは……。この世界を護る為にも上位チャンネルよりの来訪者には相応の対応を。それが、私達の存在意義ですから……」 祈るように手を合わせて、天を仰ぐ。見えるのは光も届かぬ星々だけ。まだ戦いの時は来ていないが、戦わなければいけないだろう。何故ならば、リベリスタたちはワイヴァーンの探すものを見つけられなかったのだ。 「せめて、最後の救いを」 カルナの長い髪が強い風に煽られて、夜空に揺れる。 「落とし物ものを探し来たのか、落としてことらに迷い込んだのか。どちらにしても困った訪問者だな」 ふぅむ、と眼鏡をかけ直してから、『素兎』天月・光(BNE000490)は給水塔の上からぴょんと飛び降りる。その素性も正体も分からないが、アザーバイドである以上、この世界にあってはならないものだ。 「一緒に帰れるといいんだけどね」 だから、D・ホールも探した。ワイヴァーンが帰れるように説得するつもりでもある。 残念ながらD・ホールの方は見つからずじまいであったが、光はまだ希望を捨ててはいない。 「無事探し物を見つけて、返してあげられればいいけれど、それはとっても難しそうだわ。そして、その存在を受け入れるには翼竜は強すぎて、わたしたちの世界は脆すぎる」 纏められた資料を改めて読みながら、『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)は自身のピアスをそっと撫でる。沙由理の可愛らしい顔が、夜闇の中では冷めているように見えるのは、理知的に考えようとした結果なのだろうか。 「求めているのは翼竜だけじゃない。わたしたちも平和な日常を希求しているのよ」 ブレスに対抗するため、仲間たちからバラけるように、沙由理は一歩一歩ビルの屋上を進んで行く。甲高い靴音が、屋上に響いた。 「それを侵そうという相手がいるならば、必死に守ろうとするわ。負けるわけには、いかないから」 論理的に、自身の戦う意味を確認する。据えられた目には、戦う覚悟が載っていた。 「探し物は大変よね。それが大事なものであるならあるほど、他の事が見えなくなったり、手に付かなくなったりするわよね。分かるわその気持ち。でもね、私たちもこのままだと問題が起こることを知っているから、はいそうですかなんて見過ごす訳にも行かないの」 でも、できるだけ穏便に済ませたいわね。と、心の中でつぶやくのは、安西 篠(BNE002807)だ。歩く時に弾むすいかな胸を抑えるように腕を組んで、ビルの屋上を歩き回っている。彼女なりに思うところもあるし、救いたいとも思っているようだ。 「ワイバーンが必死に探すものとなると、卵か子供か。だが、どんな事情があろうともこのまま暴れさせるワケにはいかない。倒させて貰うぞ」 ぴこぴこ、とアホ毛をレーダーのように動かしながら、ビルのフェンスの上に立っているのは『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)だ。それは危険な行為だが、風を感じられるとかなんとか。 そんな風に、少し天然なところはあるが、基本的には冷静で沈着なクリスだ。ワイヴァーンの説得が無理と分かれば、即座に戦いを始めるつもりだろう。 そんなクリスの覚悟に対応するように、クリスの影はゆらりと揺れた。ちなみに、胸は揺れられないほど貧しい。 「怒れる竜退治とか、英雄譚でもあるまいし。きっと、昔から世界の裏側ではこんなことが繰り返されてきたのでしょうけど。まあ、流石にこんなところで好き勝手に暴れさせる訳にはいかないわね」 懐中電灯を腕に巻きつけて、ビルの屋上を探る『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)。彩歌もビルの周辺は既に探索したが、探しものらしきものは見つからなかった。だから、屋上付近に何かないかと、探っているのだ。 「おとぎ話だね、全ク」 彩歌と似たような感想をつぶやき、『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)は口元でタバコを摘む。口元が寂しくなってきたので、というレベルの反射的な行動であったが、周りに未成年者が何人かいることに気付いてポケットに仕舞う。それから、楓はダルそうに肩を落とした。 「誰もが平穏で、安らかであって欲しい……カ」 自分自身の戦う意味を想いながら、屋上のフェンスに背中を預けてぼーっとする。ぼーっとするついでに、自分なりの平和の作り方を確認して、戦う気力を沸き上げる。 「マ、相手にとって不足はないよ、幻想たたき落とそうカ!」 よっ、と勢いをつけて背を離し、背伸びする。楓は楓なりに、覚悟を決めたようだ。 その時のことだ。空から、風を切り裂くような音と、怒りの咆哮が聞こえてきたのは。上空に居たワイヴァーンが街に向けて降下を開始したのだろう。 「ワイバーンすっか。やっぱり本物はカッコいいっすねー。って、そんな事言ってる場合じゃないっすね。お引き取り願わないとっす」 単純に、その翼竜との戦いを楽しみにしながら、『新米倉庫管理人』ジェスター・ラスール(BNE000355)は笑う。とはいえ、ジェスターも無駄に戦うことがないなら、戦わないことに賛成している。 問題は、話が通じる相手なのかどうかだ。 ●戦う 結論から言えば、考えを読み取ることはできても、激しい怒りしか感じ取れなかった。すべてのものを許さず、すべてのものを破壊したいという激しい怒り。 だから、マントをはためかせながら光は声をかける。 「そこのでっこい飛行物体聞こえるか~い?」 しかし、話は通じなかった。帰ってくるのは咆哮と、地上を目指す狩人の眼。 「仕方がないわね……」 範囲攻撃を一気に食らわないように散開しつつ、彩歌はピンポイントをワイヴァーンの翼に向けて放った。すると、ワイヴァーンはそれを空中で旋回して回避。そのまま目線を地上から屋上のリベリスタ達へと変えた。 「竜というより蝿に見えるわ、そんなにひらひらと避けられると」 ギロリとした、爬虫類のような眼がリベリスタたちに突き刺さる。 「こっちっす!」 それに動揺することなく、立ち向かうのはジェスターだ。屋上にある手すりを踏み台にしながら、ジェスターはソードエリアルを飛んでいるワイヴァーンへと向けて放つ。 放たれた剣閃はワイヴァーンの体に刺さり、血を噴出させた。 「大人しく帰っていれば良いものを……!」 更に、篠が構えたライフルからバウンティショットを放って翼を貫く。 「よしっ」 それを見て、腕を挙げて胸を張って揺らす篠であったが、それでも痛みに耐えながら飛ぶワイヴァーンを見て、警戒を緩めることはまずいと思い直した。 それらの攻撃に怒ったワイヴァーンは、上体を反らしてから、屋上を包みこむような火のブレスを放った。燃え盛る吐息によって、ビルの屋上は地獄絵図のようにもなる。 しかし、散開していたのが効いた。リベリスタたちのうち何人かは、その攻撃を避けることができたのである。 「……ふう。なんとか、避けられました」 後衛で低空飛行しながら、カルナは傷ついた味方に向けて天使の歌を使っていく。 「小生は真っ向勝負しかできないからネ、正々堂々、切って落とすョ!」 炎と噴煙を切り裂くようにしながら、颯は素早く飛び込んでいき、ソードエリアルを使ってワイヴァーンの体にダメージを与える。翼竜の叫び声が聞こえて、戦いが更なる激しさを帯びることを予感させた。 その予感を表すように、ワイヴァーンは滑空するように屋上へ飛び込み、その爪を使って颯の体を切り裂いた。 「んっ……ぐっ……」 切り裂かれた体に、毒が回り、颯は膝を付いて倒れる。 「全ク……全クだョ。平和を作る……には、負けてられないネ」 震える体を腕で抑えつけてながら、それでも楓はもう一度立ち上がる。フェイトの力を使ったのだ。 「止められなかった……。この、寝てろ!」 その爪による攻撃に合わせて、光が幻影剣を使って邪魔しようとしていたが、それはワイヴァーンにダメージを与えるだけに終わった。とはいえ、その攻撃で大きなダメージは蓄積され、ワイヴァーンも怒り狂ったように咆哮した。本番は、ここからだ。 「あら、放っておくなんてひどくわ。お相手してくださる」 そこでダンスをするように、ピンポイントを使って左翼を切り裂き、屋上に叩き落とすのは沙由理だ。 「……こんなところかしら?」 かかった前髪を指でかき上げて、沙由理はワイヴァーンの様子を覗き込む。そこには、怒りの目があった。 「このままでは、暴れる。あなたを、地上に落とすわけにはいかないから」 そこで彩歌は集中をかけたピンポイントをもう片方の翼に使い、そちらも傷つけ、怒りを分散させていく。 しかし、そこで反撃の様相をワイヴァーンは呈した。痛みに耐えながら、動き始めたのだ。 「ここはまず、体力を回復させる必要がある」 クリスは天使の歌を使い、楓の体力を回復させていく。 そのままクリスは飛行の高度を上げて飛び上がり、ワイヴァーンの退路を断つように立った。 「ここなら……」 そんなクリスの心配は、杞憂に終わった。ワイヴァーンは退路は気にせず攻撃に移ったからである。 それは体当たりによる吹き飛ばし攻撃。この屋上で使われるそれは、場所的にも危険なものであった。 攻撃の対象は、沙由理。 「それは、読んでいた」 沙由理はそれに対応し、全力防御で攻撃を防ぎ、吹き飛ばし効果は踏ん張ることで耐え切る。とはいえ、すべて防ぎきれるわけではなく、ダメージは受けてしまう。 「……っ」 「これぐらいでリベリスタが終わるはずはないっすよ!」 その体当たりの勢いが止まった時に、ジェスターの幻影剣が突き刺さる。何度も振り下ろされたカタールが、ワイヴァーンの鱗をはぎ取るように、剣閃を浴びせたのだ。 「仲間をやらせない! 羽の生えたトカゲに!」 そこに、光がソニックエッジを重ねて、ワイヴァーンの体に刃を叩きつけていく。 「おとなしく、しなさい!」 篠の糸目に力が篭もり、ライフルを持つ手にも汗が握られる。しかし、ワイヴァーンは体を無茶苦茶に動かして暴れまわっている。 「……おとなしく、できないなら!」 ライフルからバウンティショットが放たれて、ワイヴァーンの体を貫通した。貫かれた場所から血が噴出し、苦しそうにワイヴァーンは悶える。 闇色の空に、ワイヴァーンは絶叫し、無茶苦茶に火のブレスを吹き出した。戦いを止めるつもりはないようだ。 「生け捕りは……難しそうっすね」 「ならば……救いを」 カルナはそれをしゃがんでガードしつつ、天使の歌を使って火のブレスを浴びた仲間たちの傷を癒していく。それによって、戦闘不能になる者が出ることはなかった。ギリギリの一線で耐え切ったのである。 「残念だけど。この一撃で仕留める!」 クリスはクリスの影がワイヴァーンを挟んで、刃を構える。 そして、勢いをつけて一気に交差。自身と影でバツの字を描くライアークラウンを放った。 これによってワイヴァーンは大ダメージを受け、この世全てを恨むような叫び声を放ちながら絶命した。 「これで……おしまい」 月の光もない闇の中で、クリスの目に涙が浮かんだ。 ●探す ワイヴァーンの後始末をアークに任せながら、リベリスタたちはワイヴァーンが探していたものを探すために動き出していた。 しかし、見つかったのは近くでやっていたぬいぐるみ博ぐらいである。ここにはあのワイヴァーンに似たぬいぐるみが幾つか存在したが、それがこの街を襲った理由になったのだろうか? 「うーん、地道に探すしかないっすねー」 色々と、謎の多い事件であった。だけど、リベリスタたちは懸命に探し続けている。 そして、懸命の捜索の結果、Dホールを見つけることはできた。しかしそれはとても小さくなっており、今にも消えそうな様子であった。 「……」 それをブレイクゲートで破壊しつつ、沙由理はつぶやいた。 「不思議が不思議のままだなんて」 納得が行かない。そんな風であった。 とはいえ、街を守ったのは確かだ。ワイヴァーンの気持ちを考えてみれば、分からないことも多いが、街という世界を守ったという達成感がリベリスタたちにはあった。 大っぴらに祝うことはできないが、心に確かなものを感じて、リベリスタたちは凱旋していく。 「朝日が登ってきたネ」 どんなに闇が世界を包んでも、太陽は昇る。 それは確実な、世の理だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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