●動物と植物 この世の生物は二種類に分ける事が出来る。 動物と植物の二種類だ。さて、それではこの二つの決定的な違いは何か分かるだろうか? ――動くか動かないか、だ。 動物はその足で動き、植物は地に根を張りそこから動かない。 ある程度その“動き”の活発性には動物の中でも種族差はあるが、基本はその考えで間違ってはいない。動物は動いて獲物を求め、植物は動かずに養分を求める。 まぁもっと細かい点で違いはあるのだが、そこは置いておこう。ともあれ、先に述べたように動物と植物は動くか動かないかによって獲物、あるいは養分の求め方が違う。 それは一種の絶対性を持っている。動物と植物の境目はそこであるのだから。 しかし、ああしかし――だ。 もしその境目が崩れるような生物が生まれたとしたらどうだろうか? ●食人植物 「皆さんお集まり頂き有難うございます。――ではまず、こちらの映像をご覧ください」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はそんな一言から会話を切り出した。 そして彼女の声と共に、ブリーフィングルームに置かれているモニターから映像が流れ始める。そこに映っていたのは、 「なんだこれ……もしかして、ハエトリグサか?」 ハエトリグサ。食虫植物としてはかなり有名な方と言えるだろう。口の様な葉を持ち、訪れる小さな昆虫を捕食、もとい栄養分を吸収する植物だ。そのハエトリグサの映像がモニターに映っている。 「ええこれはハエトリグサです。もしかしたら皆さんの中で持っている人も居るんじゃないですか? と言っても――」 和泉がリモコンの様な物を操作し、映像を操作する。 「このサイズを持っている人はいないでしょうけど、ね」 ハエトリグサの映像がズームアウトし、その全容が露わとなった。 改めて映し出されたハエトリグサ。和泉の言った“サイズ”の意味とは、 「……お、おいおいなんだこれは……2メートルぐらいあるだろコイツ!?」 誰が叫んだか。一般的なハエトリグサにあるまじきサイズを持つ巨大なソレが映像の中で鎮座していた。 大きさにして2メートル強。突然変異だとしても実にあり得ない大きさだ。普通ならば3~5センチ程度が関の山。ハエトリグサ全体の大きさにしても13センチ程度が限界の筈だ。 それなのに、罠となる葉の大きさがあまりにも異常すぎる。 「もう分かっているとは思いますが、これはE・ビーストです。大きさが異常発達し、このようなサイズに成ったようで、これほど大きいと……人すら捕まえる事が可能な危険な植物となりました」 さらに、と和泉は続ける。 「数も異常でしてね。確認された数は、全部で15体です」 「な、なんだと……?」 「まぁこのハエトリグサに関しては捕食射程圏内に入らなければ問題ありません。……問題なのは、こっちです」 再び手元のリモコンを操作し、新たな映像を映し出す和泉。 今度の映像はハエトリグサでは無い。全く新しい物で葉が壺状となっている植物が映っていた。これは、 「これ、なんだか分かりますか?」 「ウツボカズラだろ? ハエトリグサと同じぐらい有名な食虫植物……で……」 リベリスタの言葉が途中で止まった。 彼は視たからだ。モニターに映るウツボカズラ。それが―― 「ち、ちょっと待て……俺の気のせいだったら悪いんだが……ウツボカズラ、動いてない?」 動いている様に見えたからだ。いや、気の所為だとは思うのだが、さっきから根だか枝だかを脚の様に見たて、動いている様に見える。そのスピードは非常にゆっくりとした物なのだが。 「本当に残念な事に、現実です。このウツボカズラもE・ビースト。そしてどこがどうなったのか……枝を支柱にして動く事が可能になった事実上“歩く食虫植物”です。……いえ、この大きさでは歩く“食人植物”と言った方が正しいかもしれませんね」 「――」 言葉も出ない。これまた2メートル程の壺状の葉を持つウツボカズラが、たくましい枝を脚に、歩いている。脚の長さを含めれば全長は3メートルに達するだろうか。 「さらにこれらの植物は、獲物を引き寄せる為に特殊な臭いを発しているみたいです。臭いを嗅いでしまうと無意識にこれらの植物に近寄ってしまうみたいなので、気を付けてください。……では、健闘を祈ります」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月15日(木)21:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●甘い臭い 動く。 森の中を複数の人影が動く。それ以外に移動する存在はまだ見当たらない。 ――いや、一つだけあるか。 「……御苦労様。後は風向きを報告しなさい――なるべく早く」 式神だ。 マスクを付けた『下策士』門真 螢衣(BNE001036)の飛ばしたソレは、主の命を受けて再び宙を舞う。羽のついたぬいぐるみを使い、彼女が調べさせたのは敵である“植物”の配置。 流石に全ての植物の位置を把握することは難しかったようだが、いくつかの植物の位置を確認する事は出来た様で、 「うーんあちこちに結構いるね。これは気をつけないと……」 「まぁハエトリグサは動けないですし。強いて言えば問題は――」 空中を浮遊しながら『オブラートってなんですか?』紫野崎・結名(BNE002720)が周辺の食人植物を警戒し、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)が木の上を慎重に移動する。 共に行うは、罠の如く各所に存在するハエトリグサの索敵。動けない相手である以上は注意さえしていれば大丈夫だろうが、調べられるなら予め調べておくに越したことは無い。 「――この甘ったるい臭いですかね」 鼻を押さえた珍粘が言葉を繋げる。 ハエトリグサの出す特殊な臭いだ。ある種、フェロモンに近いかもしれない。彼らを避けて通っているので臭いはそこまで強くないが、あまり嗅ぎ続けるのも危険だろう。 「はよう風上に行かんといけんなぁ……ま、ついでに潰しながら行こか」 言葉と同時、『へたれ』坂東・仁太(BNE002354)が視界に映るハエトリグサに射撃を加える。 食人植物の“本命”は未だ見つかっていない。ならばこそ、本格的な戦闘に入る前に出来る限りの邪魔は潰すべきだろう。無論、出来る範囲での話だが―― 「……皆さん。止まってください、居ます」 その時だった。『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)が皆に停止の動きを促す。 視線は前方、一本の木に注がれていた。見ればその木の根元にはハエトリグサが一匹居て。 「……アレか。よし、とりあえずアレにも我がカラーボールを投げつけて……」 「あぁいえいえ。失敬、そちらではありません……木の奥ですよ」 目印を付ける為に先程からカラーボールを投げていた戊 シンゲン(BNE002848)をイスカリオテが制した。 彼の言う木の奥。もう一度注意深く観察すれば、気付く。 “自然が動いて”いる。 「皆気を付けて! ウツボカズラだよ――近付いてきてるっ!」 咄嗟に叫んだ結名。それとほぼ同時、 イスカリオテの示した木の奥から――本命、巨大なウツボカズラが、その姿を現した。 ●ウツボカズラ出現 「でかいな」 現れたウツボカズラを目前に、言葉を紡ぐは『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)。 武器を構え、彼は敵を見据えた。 「だが、鍛錬がてらには丁度良い相手だろう……行かせてもらおうか」 「ま、私は邪魔なハエトリグサを先に攻めようかしら――ね」 炎が走る。『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)の放ったその一撃は、ウツボカズラ周辺に展開しているハエトリグサが目標。瞬く間にリベリスタにとって戦場の邪魔となるそれらを呑みこんで行く。 「……おん・きりきり・ばさら・ばさり・ぶりつ・まんだまんだ・うんぱった……」 続く言葉の羅列。それは、螢衣の口から流れ出でる物だ。 味方全てを覆う結界。防の意を持つ力が、先程の炎とは別の意味で周囲を呑みこんで行けば、 「うぉお――! 全部纏めて倒したるでぇ――!」 仁太だ。目に付く食人植物に対し、彼は蜂の如き連撃を加える。 ウツボカズラを始めとしたその狙いは、炎が纏わりついているハエトリグサも同様。穿ち、炸裂し、轟音と共に傷付いた植物を吹き飛ばして行く。 「植物の癖に動くなんてホント凄いよねー」 でも、と結名は詠唱を唱える動きを行い、 「人に迷惑かけるならちゃんと退治しないとねっ!」 イスカリオテに向けて癒しの力を伴った微風を向けた。 それは回復が目的では無い。狙いはその副産物、攻撃力の強化にあるのだ。イスカリオテに向けたのは、彼が仲間内で最も高い攻撃力を持っているからに他ならない。次いで螢衣、クリスティーナの順に微風を吹かせて行く。 ――が、 「ウツボカズラが……!」 前衛としてウツボカズラをブロックしていた珍粘が、見た。 人の腕の様に動かしている異常成長した枝――それを、振りあげ、 「っぅ、あ!」 凄まじい勢いで、叩き落としてきたのを。 咄嗟に腕を交差させ、全力で防御した事が幸いとなりダメージは少ないが、巨体から繰り出される攻撃は酷く――重い。 「珍粘、無事か?」 冷静に状況を判断し、鉅はウツボカズラの行動を阻害する為に全身から気糸を放つ。そしてそのまま視線を珍粘へと傾ければ。 「私の名前は那由他です、お間違え無い様にっ……!」 「……そいつは結構。まだまだ大丈夫そうだな」 那由他……もとい、珍粘は健在だ。振り下ろされた枝を必死に押さえてはいる物の、軽口を叩くだけの余裕は健在。 「しっかりするのだ。まだまだ戦いは始まったばかりなのだから」 そして後方ではシンゲンが全ての味方に対し、光を放つ。 邪気を振り払う力を持った光だ。いくつかのハエトリグサは潰したものの、未だにどこからか甘い臭いが漂ってくる。ウツボカズラの発する無臭の臭いも含めれば、この一帯はやはり危険だろう。 リベリスタ達の脳髄を麻痺させる事の無いように、彼は光を放ち続けるのだ。 「しかし……あぁどうして彼らは人を食うのでしょうかねぇ?」 声の主はイスカリオテ。ランプを灯し、ゆったりとした口調で柔和な表情を保ちながら、 「実に不可思議。人を食う結論に至った彼らの知は、一体どこにある? 何のためにその点に到達した? 真に興味深い」 構える。 それは彼の性。未知を既知へと超越させるために。 彼は放つ。先程の光とは真逆の性質を持った――対象を焼き払う為の光を。 「では――神秘探求を始めよう」 ――光が満ちる。 ●ハエトリグサ「うぉ、眩しっ」 準備に準備を重ねたその一撃は、必中と言える程の光となって食人植物達を包んでいった。 把握出来ている限りのハエトリグサは逃さず捉え、そしてウツボカズラは言わずもがな。全て、包まれたのだ。されど、 「流石に……一回だけでは倒れないみたいですね」 螢衣の視線の先。そこには、多少傷付きはしたものの、全く倒れる様子の無いウツボカズラが居た。彼女の言う様に、準備を重ねたとはいえ一撃だけでアレを撃破するのは流石に無理があったようだ。 さらにはハエトリグサもまだまだだ。神気閃光の弊害――と言う程の物ではないが、あの光は不殺の光。倒す、という観点で言えば向かぬ攻撃だろう。 「とは言え、ダメージは結構与えたみたいね。ならこの機会に一掃しましょうか」 言うクリスティーナは、残ったハエトリグサ達を中心に炎を発現。纏めて炎に呑みこませる。 ダメージの残っていた連中だ。先程よりも比較的容易に始末する事が出来れば、道が拓く。 「よっしゃあ! 障害物が無ければこっちのもんや!」 仁太がアームキャノンを片手に、その照準をウツボカズラへと合わせる。 「この距離なら……逃さへんでぇ!」 「待て仁太、それ以上奴に“近寄るなっ”!」 鉅の声が、狙いを定めた仁太に飛ぶ。 ……近寄るな、やって? どういう事だろうか。自分は今、ウツボカズラを狙いに収めてはいるが、奴に近付いている訳では―― 「あ、こ、こいつはいかんっ!」 気付く。自分の足が、“勝手”にウツボカズラに近付いていた事に。 それは臭い。無臭ではあるが、確かにそこにある臭い。 ――ウツボカズラが獲物を引き寄せているのだ。嗅覚から侵入し、脳に無意識レベルで“近付く様”に命令して。 「風上がいつの間にかちょっと変わってるっ……!? 皆、向こうから吹いて来てるよ!」 すぐさま結名が全員に警告を。 風上が変わるのは、不味い。引き寄せられるだけならまだしも、あの臭いには混乱と魅了と言う、要らぬ付属品が付いている。それが掛るのは、非常に不味い。 「くっ、我が援護する! その内におぬしらは風上に――うぉお!?」 シンゲンが何度目かとなる回復の光を放つ――が、それと同時。彼に向かってウツボカズラの枝が伸びる。それの意味する所は、 「これはいけませんね……捕食の段階に入りましたかっ……!」 イスカリオテの危惧はその通り。ウツボカズラがリベリスタ達を捕食せんと、枝を伸ばしてきているのだ。 枝に捕まってしまったシンゲンは瞬く間にウツボカズラの真上へと運ばれ、そして乱暴にその内部へと落とされる。 「シンゲンさん――っ、これは、私の方にも……!?」 シンゲンが落とされた後、枝は次の獲物を捉えんばかりにクリスティーナへとその枝を伸ばし始めた。 「そう簡単に捕まるとでも思って……なっ!?」 退避するクリスティーナ。捕まればウツボカズラの内部行きだ。故にこそ、枝から逃れるように移動する。 ――だが、一つだけ誤算があった。 「あれは……ハエトリグサ! しまった、見落としがありましたか!」 なんとか風上に再び移動した螢衣が言葉を飛ばす。 クリスティーナがハエトリグサに脚を掴まれていたのだ。木の陰に上手く隠れていたのか、そのハエトリグサは見逃してしまっていたのだろう。加えてこの状況、捕まってしまうのは仕方が無い。 「くぅ……このハエトリグサ、力が……!」 そして、足止めされるクリスティーナに伸びる――ウツボカズラの枝。 ――寄こせ。 そう言わんばかりにウツボカズラはハエトリグサから無理やり“獲物”を奪ってゆく。枝を伸縮させ、獲物を運べばまた内部へ落とそうと、 「させぬぞ!」 した所で、内部に居たシンゲンが抵抗を。 「蓋となれば入れれまい……! これ以上は我が防いでみせ――ぐ、おぉ!?」 彼自身が蓋となり、ウツボカズラの内部に人が増えるのを阻止する。 成程、それは確かに有効と言えるだろう。ただ、 「ウ、ウツボカズラが無理やり押し込んでる……! シンゲンさん頑張って――!」 それはあくまでも、ウツボカズラの力に対抗出来ればの話だ。 結名の声援が飛ぶが、現実は非情。数度の抵抗と押し込みのせめぎ合いが行われた結果―― 「む、無念……くぅん……」 「うー……なんで私がこんな羽目にー!」 クリスティーナもろもと、押し込まれてしまった。流石に一人ではエリューションの力には抗えなかったようで。 「だが、時間を稼いではくれたな」 鉅が言葉を紡ぐ。 そう、シンゲンの努力は無駄ではなかったのだ。二名ウツボカズラに取り込まれてしまったが、他のメンバーは代わりに風上側へと布陣しなおす事が出来た。 これで、ウツボカズラの発する臭いを受ける確率は格段に下がったと言えるだろう。 「んじゃあ仕切り直しと行こうかのう。二人とも――! 直ぐに助けるからの――!」 仁太が叫び、再びリベリスタ達はウツボカズラへと攻勢を開始する。恐らく次は無いであろう、最後の攻勢だ。 「とあー!」 先陣を切ったのは珍粘。ウツボカズラへ掛け声と同時に接近し、素早くその体を駆け上れば、恰好良く助け出そうと内部へと手を伸ばす。 「二人とも、助けに来ましたよ――」 ……のだが、それとほぼ同タイミングで珍粘の背中が押された。 「――えっ?」 助けに行ったはずが、拍子抜けた声と共に穴の中へと転がり込む形となった彼女。何があったのか、それを一言で説明すると。 ウツボカズラ、 枝で、 珍粘の背中を、 ポンッ。 ……と言う訳である。 口の近くに獲物が寄って来たので、そのままウツボカズラは呑みこむ動作を行ったのだろう。実に運が無い事となった。具体的に言うと、行動順的な意味で。 「ならば先に動きを封じるとしましょうか」 言うは螢衣。近くに寄った者が呑みこまれる可能性があるのならばと、彼女が展開させたのは不動縛の結界。 ウツボカズラ周辺に呪印の法を用いた結界を敷く。奴の動きを封じるために。 「よし、ウツボカズラの動きを封じた今ならば……」 走る。いつまで封じておけるか分からないのだから、今を全力で鉅は走る。 伸びきっている枝を伝い、駆け上り、そして――彼もまた到達した。 「おいお前ら大丈夫か――?」 声を掛け、口の中を覗き込む。 そこで見えた仲間の現状。それを一言で表すならば、 憔悴、だった。 「意外と……この中はキツイわね……!」 息を切らしながら頭を押さえるクリスティーナ。 ダメージもさることながら、もう一つ問題があった。それは、ウツボカズラの発する臭い。 内部に取り込まれた事によって彼女らは風上の件が関係無くなってしまった。つまり、至近距離で脳に食い込んでくる臭いを受け続けているのだ。いつ混乱して味方に攻撃を仕掛けてもおかしく無い――のだが、 「これで……我の力は打ち止めだ……!」 「三人とももう少しだけ頑張って! もうすぐ倒せるからっ!」 ブレイクフィアーを使え、ガスマスクで効果を軽減していたシンゲンと、飛行する事によって回復の手が届く結名のおかげで何とか正気を保てていた。 「そろそろ倒れようや、物騒な食人植物さんはなぁ……!」 仁太が内部に居る仲間の位置を、憶測ではあるが避けて銃弾を放つ。 動きを束縛され、遠距離から攻撃され、如何に巨体を持つウツボカズラと言えどこれだけの攻撃を受けて無事では無い。その体が、揺らぎ始めていた。 「成程、そう言う事でしたか……」 イスカリオテの声が響く。戦いの初め頃に呟いた、あの時のゆったりとした口調で。 「貴方が人を食らうのは、本能的な物に他ならない。理由など無い、そこに居るから食べる――そう言う事だ。貴方は思考なんてしていない……」 最初に狙われたのがシンゲンだった時から彼は疑問だった。近くには珍粘が居た。距離で言えば彼女を狙う方が簡単だろうに、何故彼女ではなかった? 理由は単純、彼は数度に渡って光を放ち続け“目立って”居たからだ。目に付いた者を奴は狙った。近さなど関係無い。目に映った者を狙う短絡的な本能思考。そして遠くに居た者を捕える事が出来た事によって、味を占めた奴が次に狙ったのがクリスティーナと言う訳だ。 「然り然り……確かに、狩りと言う用途に於いて人間を狙うは最適解と言えましょう。人は弱く、数が多く、栄養価が豊富だ。しかしまぁ……そうであるなら私たちは天敵同士と言う事になる」 知恵を食う。彼はそう言った意味での――蛇だ。 意味合いは少々違うが、人を食うと言っても良いかもしれない。で、あるからこそ、同族嫌悪するのは当然ともいえる帰結点。 宜しい、ならば――と、彼は言葉を続ければ、 「貴方を喰らい私は生きよう――Auf Wiedersehen」 もはや限界に近い、体を震わせるウツボカズラに向けて獄炎を纏う熱砂を降り注いだ。 さようなら。と、そう告げて―― ●自然は不滅 「ううっ……も、もう喰われるのは沢山なのだ……」 「大丈夫ですか? 今から呪符で応急処置しますね――まぁ気休めですが」 助け出されたシンゲンが、木を背にして呟く。 一番長くウツボカズラの中に居た彼だ。被害は一番彼が大きいと言っていい程である。だからこそ、螢衣が彼に呪符の傷癒術を用いて応急処置を現在施している。 「もうちょっと格好良く助け出すつもりだったんですが……無念です。なんか変な液体も付いてセクシーな事に成ってますし」 「あ、それ多分時間差の強酸性粘液なので早く取り除いた方が良いですよ?」 ……わおっ。とイスカリオテの言葉に反応して直ぐに粘液を拭きとる珍粘。 彼女にとっては今回、色々運が悪かったと言わざるを得ない。少々タイミングがずれていれば、仲間をちゃんと恰好良く助け出せていただろうに。 「ともあれ、後は討ち洩らしのハエトリグサどもを殲滅して帰るだけか」 撃ち洩らしのハエトリグサ――後、数体ほどこの周囲に居る筈だ。動けないので慎重に行動すれば余裕な殲滅線である事を、鉅は呟きながら思う。 「うーん。これでここも平和になると良いねーあ、ハエトリグサ見っけ」 比較的軽傷の結名は、既に4mの安全圏を飛行しながらハエトリグサの捜索に当たっていた。 エリューションはほぼ討伐し終わったのだから、この森は平和に成る事だろう。また他の化け物が湧きでもしない限り、だが。 「……ほら、私には迷彩で何が何やらなんだから、 眼が良い人達は頑張ってよね! 代わりに処分はこっちで付けるから!」 ギリギリで重傷を免れたクリスティーナが、先程結名が見つけたハエトリグサを集中砲火で狩って行く。大火力は正義である。 何はともあれ数十分後――この森から“食人植物”はその全ての姿を消すことになる。 されど自然は残りて不滅。彼らは今日もたくましく、大地に根を張り生きているのである。 勿論、それらが動く事はないが。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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