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満たされぬ食欲

●ハラヘッタ
 ソレはとても腹が減っていた。腹が減って腹が減ってそれ以外のことが考えられないくらいに。
 何時から空腹だったのかは覚えていない。いや、それより空腹でなかったことがあっただろうか?
 早く、早く、何でもいいから食わせてくれ。
 ソレは狂ってしまいそうな程に訴えかけてくる食欲をどうにかする為に動き始める。
 明かりと暗闇が交互にソレの体を現しては隠す。異形なるその姿を。
 ソレはまるでヘドロの塊。粘体質のドロドロした体が波打つようにして地面をずるずると進んでいく。
 そしてソレの前に一つの動くものが現れた。野犬だろうか、目の前に現れたソレに向けて威嚇するように吠え立てる。
 だがそれは無意味だった。その犬は己の抱く恐怖に従って一目散に逃げるべきだったのだ。
 例えそれが無駄な行為だと分かっていたとしても。
 突然に犬の周りに現れた複数の小さな何か。犬はそれに気づけただろうか。
 次の瞬間にその小さな何かは一斉に犬へと殺到する。
 キャインと一吠え、そこまでだった。肉は食い破られ、骨は噛み砕かれ、血は啜られる。
 一分も経たないうちにそこに野犬が居た痕跡は無くなって、いや食べつくされていた。
 だがソレは未だに食欲を満たされていない。そればかりか舌が味を覚え余計に飢餓感を誘う。
 また新たな食べ物を探してソレは彷徨いだす。先ほどより大きくなった体を引きずって。

●肥大化する食欲
 アーク本部にあるブリーフィングルーム。そこにいつもの様にリベリスタ達が集められる。
「よく集まってくれたな。それじゃあ時間がないから急いで説明するぞ」
 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がコンソールを操作するとスクリーンに一つの映像が映し出される。
 それは醜悪なヘドロのような塊が道を進む姿。市街地の一角なのか周囲に移りこんだものから推測すると体長は30センチくらいだろう。
 と、すぐに映像が移り変わった。そこに移るのもまた同じヘドロ……と、思ったが若干何か違う気がする。
 その違和感に気づく前にまた画像が移り変わるとその違和感はすぐに明らかになった。
「随分と成長してるね」
 今映し出されているソレは軽く見積もっても1メートルはある。
 伸暁はそれに正解だとばかりに一つ頷くと、また画像を入れ替えた。
 そこに移るのはあまりにも大きすぎる黒い塊。比較のためか移っている自動車が丸々飲み込まれてく。
「この通りこのエリューションは急激に成長しているわけだ。
 万華鏡を使った予知だと一週間も放っておけば一軒家くらいになる」
 そうなれば被害も広がると同時に、秘匿の上でも色々と問題が出てしまう。
 今回はその前に早急に片付けて欲しいという注文だ。
「それで結局これはなんな訳?」
 一人のリベリスタが問う。見た目はそのままヘドロなのだがそれ故にこれが何なのか想像がつかない。
 するとリベリスタ達それぞれの正面にホログラムウィンドウが開きこのエリューションについての情報が表示されていく。
「こいつはエリューション・フォースだ。その元となったのは食欲、より正確に言えば空腹だ」
 人や獣が持つ食欲。それだけをもって半実体化したのがこのヘドロのような姿だと言う。
 只管に食べられるものなら何でも食べ、しかし元になったのが空腹という概念の為に満たされることはない。
 そして幾多にも捕食を繰り返し少しずつ大きくなる。
 伸暁がコンソールを操作するとその捕食シーンの映像が映し出された。
「……グロいな」
「この飛んでるの、口か?」
 生きている犬がそのまま食い尽くされていく。だがそれはヘドロが襲い掛かっているのではなく、小さな何か――よく見れば人や獣のものと思わしき口が獲物目掛けて食いついている。
 そして跡形も無く犬が食い尽くされるとそれはヘドロへと溶け込むようにして消えていった。
「そこまで強いエリューションではない。だが、油断をしてると取り返しのつかないミスを生む。
 まあ、お前達ならバッチリ決めてきてくれるよな?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:たくと  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月13日(火)21:46
【依頼内容】
・エリューションの撃破

【敵情報】
・ハンガー
 E・フォース、フェーズ2。
 空腹の概念が思念体化したエリューション。
 現在の全長は2メートルほどで未だに徐々に成長している。
 その姿は完全に黒いヘドロそのもの。特に悪臭を放っているなどはない。
 移動はその体を地面に引き摺るようにする為に非常に遅い。
 攻撃方法は自分の体の一部を生物の口を模した物に変えそれを飛ばして獲物を捕食する。
 またその本体が丸ごと獲物を取り込むパターンも確認されている。

【戦域情報】
 時刻は日が沈んでからすぐ。天候は晴れ。
 場所は町の中心からは離れた住宅地の一角。
 エリューションの詳しい場所は判明していないがこの一角にいるのは確か。



 夏ももう終わりですが残暑が憎い。たくとです。
 今回は夏バテも物ともしない大食らいなエリューションです。
 特に梃子摺るほどの敵では無いでしょうが努々油断はなさらぬように。
 では、宜しければご参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
日下禰・真名(BNE000050)
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
★MVP
クロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
クリミナルスタア
幸村・真歩路(BNE002821)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
インヤンマスター
駒井・淳(BNE002912)

●飢えは腹の底から
 夜の街を歩く影が八つ。
 平穏であるはずの住宅街に現れた怪異を討ち滅ぼすべくリベリスタ達はこの場に訪れていた。
「見つからないわね。どこかに隠れてるのかしら」
 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(ID:BNE000589)は熱を視る為に力を発動させていた片目を押さえる。
 ちらほらと見えたものもあったがどれも犬や猫などハズレばかりであった。
「近くにいるのは確実なんだがな」
 ミュゼーヌと同じように感情を探っていた『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(ID:BNE000062)は胸の十字架を弄りながら呟く。
 一度はその強烈な飢餓感を感じ取りその場へと向かったのだが姿をみることは出来なかった。
 鈍足であるはずなのに感知圏内からこちらより早く消えた。それが大きな疑念となっている。
「うーん、やっぱり捜索の手を増やすしかないのかな」
「そうですね。あまり時間をかけすぎると新たな犠牲がでないとも限りません」
 顎下に人差し指を当て首を捻って提案する『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(ID:BNE001581)の言葉に、神谷 要(ID:BNE002861)も賛同する。
 食べれば食べるほど大きくなるエリューション、ハンガー。時間はあちらに味方している以上早く見つけ出さなければならない。
「うふふ、なら私達はこちらに向かいましょうか」
 妖しい笑みを浮かべる『夢幻の住人』日下禰・真名(ID:BNE000050)は丁度いいT字路に差し掛かったところでふらふらと左の道へと進んでいく。
 勝手に先行していく真名を見失わないようミュゼーヌと要は黙ってその後を追う。
「それじゃあ連絡はこれで」
「了解だ。見つけたらすぐに連絡する」
 携帯を取り出して軽く振って見せた智夫に杏樹は親指を立てて応える。
 真名達の背中が夜の闇に消えていくのを見届けて残ったメンバーももう一つの道へと向き直る。
「けど食べても食べてもお腹ペコペコかぁ」
 『現役受験生』幸村・真歩路(ID:BNE002821)は自分のお腹に両手を当ててずっと空腹ならどんなものだろうと想像する。
 それはきっととても辛いことなのだろう。ならば、エリューションと言えども早く解放してやりたいと思った。
「空腹の感情が具現したエリューションか。あまりいい思い出が無い」
 『侠気の盾』祭 義弘(ID:BNE000763)はそう漏らす。
 過去にあった出来事を思い出すのか自分の左腕を一瞥し、その手で自分の頭を掻いた。
「逆にソイツはどういう味がするか気になるな」
 黒いローブで顔を隠す『背任者』駒井・淳(ID:BNE002912)は曲がり角に差し掛かったところで手にしていた白い餅を投げ様子を伺う。
 十秒ほど待っても変化なし。その場にはハンガーは居る様子はない。
「この程度の餌ではやはり釣れないようだな」
 義弘は餅を拾い上げ淳へと手渡す。
「もっとおっきい食べ物があればいいのかな?」
「どうだろうな。目も鼻もあるかも分からん相手だからな」
 そも、ハンガーがどうやって獲物を探しているかも分からない。やはり地道に足で探すしかないようだ。
 リベリスタ達は周囲へ意識を向けながら街灯に照らされる道を進んでいく。

「求めても決して満たされず、満たされないからまた求めて。いっそ哀れさすら憶えるわね」
 周囲の熱源を探りながら道を歩くミュゼーヌがそう零す。
 それが『そう言う』存在なのだとしてもやはり思うところはある。
「そうですね。でも、まずは神秘とは関わりの無い方の日常を守るために頑張りましょう」
 今はまだ人は襲われた報告はないが、それも時間の問題であろう。
 未来に待つのは確実に悲惨な現実である以上、ここで誰かが解決しなくてはならないのだ。
「うーん、近くに公園や廃墟みたいなのはないみたいだね」
 そんな中で一番最後尾で智夫は地図と睨めっこしながらハンガーが居そうな場所に目星をつけようとする。
 しかし予知された範囲にはそれらしい場所は見つからない。
「ふふっ、早く出てこないかしらね。喉が渇いてしょうがないわ」
 ふらりふらりと左右に揺れながら真名はぽつりぽつりと零しながら、その口元に秘めた牙を自分の指でなぞった。

●食欲の宴
 探し始めて数十分。真名が先導する呼称A班はまだ家の立つ前の空き地の横を通りかかる。
「これは……皆さん、宜しいですか?」
 何かを見つけた要は仲間の三人を呼び止める。
 要が指したそこには不整地故か雑草が生えているのだが、その一部だけが不自然に無くなっている。
 何かが通った跡なのは確実で、そして雑草は踏み潰されるのでなく綺麗になくなっているのを見ると……。
「当たりのようね。ここでディナーがあったみたいだわ」
 その雑草の無くなった道の先をライトで照らすと茶けた地面に僅かだが黒い斑点が染み付いている。
 しっかりと見るまでもなく血液であろう。その周辺だけ僅かに何かが暴れたような形跡もある。
「あら、けどこの近くには何も居ないわよ」
 真名は僅かに目を凝らし周囲を伺うがそれらしき存在は見当たらない。
 確かにここに居たのならと智夫はその痕跡を追い空き地からまた道路へと出る。しかしアスファルトの地面は流石に食わないのかそこで痕跡は途絶える。
 何度か空き地と道路を視線を往復させて、その中間で視線が止まった。
「……排水溝かぁ」
 まさかと思いつつもその疑念を振り払うことは出来なかった。

 一方で呼称B班。
 十字路の中央で腕を組み仁王立ちになった義弘は四方を伺いながら憮然とした顔をする。
「影も形もないな」
 分かれてから小一時間。随分と捜し歩いているが痕跡は見つかるもその姿は一度も確認できていない。
「探し方が悪いのかもな」
 淳は餅を片手で遊ばせながら肩を竦める。これだけ探して見つからないというのもおかしな話だ。
 何かを捕食した形跡はいくつも見つけたが、鈍足であるはずのハンガーにしては随分と範囲が広い。
 重要な何かを見落としている気がする。それは一同共に感じているがソレが何なのか分からない。
 と、そこで杏樹の持つ携帯が着信を告げる。相手がA班の智夫であることを確認すると通話ボタンを押して耳に当てる。
「見つかったか?」
『ううん、ただちょっと気になる事があって……』
 通話を始めた杏樹を眺めつつ少し休憩かなと真歩路は電柱に背を凭れ一息つく。
 その時ちょっとお尻に違和感を感じてポケットを探るとそこには小さな小瓶。ラベルにはバニラエッセンスとある。
 今日の学校帰りに偶然持ち合わせていた物なのだが、何かの役に立つかもとそのまま持ってきたのだ。
「この香りで寄って来たりしないかな?」
 蓋を開けて手に少しだけ振り掛けると、甘いバニラの香りが仄かに回りに広がる。
 視線を一度上げると杏樹はまだ通話中。義弘と淳は絶えず周囲に視線を配ってハンガーの姿を探す。
「よし、休憩おしまいっ」
 電柱から離れ自分も捜索に戻ろうとしたところで、真歩路は足元で僅かな振動を感じた。
 ふと視線を落とすとその足元にはマンホールがあった。
「真歩路! そこから離れろ!」
 杏樹が突然に叫ぶ。齎された情報はハンガーはもしかすると足元の下水道の流れを使っているのではという推論だった。
 その言葉を聴き改めて周囲の感情を読み取ろうとした杏樹の感覚はすぐ傍まで迫っている飢餓の念を捉える。
 それが、真歩路のすぐ足元だったのだ。
「きゃっ!?」
 バカンッと音を立てマンホールが弾け飛ぶ。足元を掬われる形になった真歩路は転倒して背中を強く打つ。
 真歩路が痛みを堪え目を開けるとそこには、黒いぶよぶよとしたナニかが闇の底から這い上がってくるところだった。
「ちっ、まさか足元に居たとはな!」
 義弘は腕時計型のアクセス・ファンタズムに手を添えると浮かび上がる光を掴み一気に引き抜く。そこには黒塗りの無骨な鎚矛。
 それを迷わずにヘドロの塊へと向けると気合と共に前へと突き出す。放たれるのは聖なる十字。それはヘドロの上半分を綺麗に抉り取る。
 飛び散るヘドロの一部が真歩路へと降りかかろうとするが、それは突然に現れた光の幕で遮断される。
「幸村君、早く下がるんだ」
 両手で印を結んだ格好の淳が真歩路へそう声をかけると、すぐさま数枚の符を投げつけ黒い鴉の式としてハンガーへと襲い掛からせる。
 真歩路は後ろ回りをするように距離を取って立ち上がるとキッとハンガーを睨み付ける。
「あたし達なら噛み応えじゅーぶんかもだけど。摘み食いは許さないからね!」
 同時に突きつけた拳。そこに装着された銃口が光を放ちヘドロ状の身体に穴を開ける。
 三人の攻撃は確かにハンガーの身を削る。しかし、飛び散らされ穴を開けられてもヘドロの身体は元の形へと戻る。
「こいつは厄介だな。一度退いて合流を待つか?」
「いや、それは駄目だ。その間にまた下水に戻る可能性がある」
 義弘の言葉を杏樹は即座に否定する。その言葉が正しいかと言う様にハンガーはあのマンホールのある場所から完全に這い出してこない。
 このままこの場を離れても着いて来る可能性は低そうに見えた。
「なぁに、他の奴らもすぐに駆けつけるだろう」
 手にしていた携帯を閉じロザリオに当てるとそれは溶けるようにして消え、代わりに抱えるほどの大型のボウガンが姿を現す。
 杏樹はそれを片手で持ちヘドロの塊へと照準を合わせると、もう片方の手で胸元で十字を切る。
「全ての子羊と狩人に安らぎと安寧を。Amen」
 引き金が引かれ、放たれた鋼鉄の矢は一際大きな穴を穿った。

 ――ハラ……ヘッタ……

 それは声と言えるのだろうか。しかし確かにその場に居た四人はその言葉を感じ取った。
 大穴を開けたハンガーはそのまま一度ぶるりと震えるとそのヘドロの表面に黒以外の色が現れだす。
 それは口だった。人や獣、そして良く分からぬ生き物の口が次々とヘドロ状の身体の表面に浮かび上がってくる。
「来るっ」
 淳は己の刀剣を周囲に浮かせ迎え撃つ構えを取る。
 それとほぼ同時にハンガーの身体から弾けるようにして無数の口がリベリスタ達へと襲い掛かった。
「うおおおぉぉぉ!」
 無数に迫る口を義弘は鎚矛を振るい叩き落す。しかし、あまりも数が多すぎる。
 抜けた一つが義弘を脇腹へと噛み付き、また一つ抜け肩口へと食らいつく。
「舐めるなぁ!」
 気合と共に義弘の体から噴出すオーラ。噛み付いていた口は呆気なく弾き飛ばされる。
「うわっ、ちょっと数が多すぎてっ」
「しょうがない。ここは任せな」
 迫る口を殴りまた撃ち落とす真歩路だが完全に手が足りない。
 そこで杏樹は飛び交う口を避けながら空へとボウガンを向ける。
「しかし、本当に減らず口を叩く日が来るとは思わなかったな」
 ニヤリと皮肉気に笑みを浮かべた杏樹は引き金を引く。そこで放たれるのは鋼鉄の矢ではなく一条の光。
 それは頭上数メートルで停止すると、弾けるようにして無数の小さな矢となり周囲へと降り注いだ。
「星乙女の祝福だ。安心して逝きな」
 大小問わず一矢によって全ての口を射抜き落とす。
 しかし、減った分はまた増やせばいい。そう言わんばかりにハンガーは新たな口を生み出していく。
 このままではジリ貧か。そう思ったところで背後から声がかかる。
「ああ、なんて品が無い。……とても美しく無いわアナタ」
 酷くつまらなそうな言葉、それでいて待ちわびたような声。
 その主は白い着物を棚引かせて駆けると他には目もくれずハンガーの本体をその爪で薙いだ。
「遅れて申し訳ありません。ご無事でしたか?」
 要は淳の前に躍り出ると集っていた数個の口を払い落とし盾で突撃する口を防ぐ。
「見ての通り命はあるな」
「それは何よりです」
 小さく笑みを見せると要はハンガーの正面に立ちふさがる
 その少し後方にて長大なリボルバーを構えるミュゼーヌは蠢くハンガーの姿を一瞥して吐き捨てる。
「欲望が姿形を得た、そのおぞましい姿……撃ち貫いてあげる!」
 放たれる弾丸は黒い魔力を纏い一つ、二つと銃声が鳴ると共にヘドロの体を弾き飛ばす。
 リベリスタ達は一気に攻勢にでる。飛び交う口ももはや多すぎるということはない。
 しかし、ヘドロの体故か一向に消耗の様子が見えないハンガーに焦燥する心もある。
「このまま削り落とすしかないか?」
「それ以外に方法がないんじゃ仕方が無いんじゃないかなっ」
 再び向かってきた口を叩き落す義弘の言葉に真歩路も両手から銃弾を飛ばして牽制する。
「とりあえず、これでどうかな?」
 その時周囲を眩い光が包み込む。神聖な光は飛び交う口を外側へと弾き飛ばし、それに包まれたハンガーの体はぶくぶくと泡立つようにして焼け焦げる。
 と、その瞬間にハンガーは大きく体を揺らしてマンホールの中から噴出すようにして飛び出してきた。
「なっ、これは……情報より随分と大きいわね」
 まさに見上げるが如し。縦に長く伸びてる所為もあるだろうがその高さは4メートルには達しているだろうか。
 今までマンホールから出てたのはホンの一部であったことをリベリスタ達は気づかされた。
「ちまちま削ってたんじゃあ夜が明けそうだな」
 前言撤回とばかりに義弘はハンガーの巨体を睨み付ける。
 ならばどうするか。決まっている、高火力で瞬時に滅ぼす以外に手はないだろう。
「つまりいちにのさんでぼっこぼこね!」
「持てる技を全力で……分かりやすくていいわね」
 ハンガーを囲う位置にて真歩路とミュゼーヌも銃口を向ける。
 まずは後衛からの集中砲火。銃弾と魔力による弾幕にハンガーの体が削り取られてゆく。
 勿論ハンガーも黙っているはずもなく、無数に飛び交う口がリベリスタ達を襲う。
「それはやらせないけどね」
 しかし、それは智夫の放つ神聖の光で焼かれ。弱りきった噛み付きでは淳の纏わせた守りの結界を破る事は敵わなかった。
 瞬く間に三分の一ほどを吹き飛ばされたハンガーは怒りを現すかのように大暴れを始める。
 だがそれを気にも留めず、真名は波打つヘドロに接近するとエネルギーを溜め込み発光する鉄爪を粘質なそれに突き立て、爆発させる。
「これでどう!」
 さらに超スピードでハンガーの頭上を取った真歩路は両の拳をあわせ鉄槌の如く振り下ろし、ヘドロの一部を四散させる。
 るハンガーをさらに鎚矛、剣が差し込まれ――。
「おおぉぉ!」
「はあっ!」
 最後の追撃。義弘と要により鎚矛と剣が刺し込まれ、同時に放った聖なる光がぶつかり合いヘドロの内側を浄化する。
 一瞬の静寂。上半分を消し飛ばされ残りも焼け爛れたハンガーはぴくりとも動かなくなった。
「安心はできないな。どうせなら欠片も残さないほうがいい」
 躊躇わず杏樹がボウガンを向けた引き金を引いた。と、鋼鉄の矢が突き刺さった瞬間にハンガーの体が残らず弾け飛んだ。
 それは拡散すると薄い膜となって広がり周囲に撒き散らされる。
「っ……なんでも、ないのか?」
 体に付着したそれは時に何をするわけでもなく、淳がそれに触れるとべたりと手に張り付くだけだった。
 そう皆が思い、気を抜いた瞬間だった。
「しま――」
「っ、きゃあ――」
 僅かな悲鳴が掻き消える。そちらを見れば義弘と要が黒いヘドロに飲み込まれる瞬間だった。
 そのハンガーの体は1メートルにも満たない。
「くっ、飛び散ったのは目晦ましだったのね!」
 ミュヌーゼがハンガーに銃口を向けて引き金を引く。だが、突然現れた口がその弾丸を身代わりの如く受ける。
 最後のあがきだと言うのか。時間を稼ぎ取り込んだ二人を捕食しようとしている。
 だが、所詮足掻きは足掻きである。
「往生際が悪いな」
 杏樹の放った光の弾丸が叩き込まれ、それが表面の一部を弾き飛ばす。
「そんなにお腹が空いてるならおかわり追加してあげる!」
 そこに肉薄した真歩路が両の手をハンガーのヘドロの体に突きいれる。そして、確かにヘドロでない何かをしっかりと掴む。
 その真歩路を後ろから智夫が掴み、渾身の力で引っ張り抜く。するとずるりという抵抗感と共に二人の体がヘドロ中から姿を現す。
「アナタはさっさと乾いて餓えて朽ちて逝きなさいな」
 真名は軽い溜息と共に、二人の体が抜けだした瞬間に渾身の一撃を振り下ろした。
 今度は飛び散らず、地面へと完全に叩き潰される。
 今度こそ完全に滅しただろうか。そう思っているところで淳は潰れたハンガーの傍へ歩み寄ると何やら転がりだしたヘドロとは違う丸い球を見つける。
 それを摘み上げた淳は、皆が見ている前で徐にそれに牙を立てた。
「いただきます」
 ぐにゅりというゴムでも噛んだような感触。だが、それは段々と柔らかくなると最後は風船が割れるようにパンッと弾けてしまった。
 同時に溢れた黒い液体が淳の口から零れ落ちる。
「あんまり美味くないな」
 その一言にリベリスタ達は今度こそ安堵の息を零した。

 かくして、ハンガーは最後には捕食され食われる結果となった。
 食欲の、空腹の塊であったエリューションはまたそれより強き存在に食われる。
 そしてそれはまた相手を満足させるには至らなかった。
 こうしてこの事件は非常に皮肉めいた幕切れと相成ったのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様お疲れ様でした。今回は成功となります。
食い意地のはったエリューションは無事に退治されました。
異様なタフさを見せましたがそれこそが三大欲求の一つにも数えられる食欲故のことでしょう。

今回はMVPに内薙・智夫様を選出させて頂きました。
ハンガーを探す為に色々と策を練ったこともありますが。
一番は強結界にて人を寄せ付けなくしたことでしょう。日が暮れてすぐの住宅街でもありますし不意に人が現れ犠牲になる可能性もありましたがそれは防がれました。

では、今宵の舞台はこれにて閉幕です。
もし縁がありましたらまた別の舞台でお会いしましょう。