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ゆびきりげんまん、うそついたら


「良い? お母さんはこれからちょっと出かけてくるけど、絶対にお外に出ちゃ駄目よ?」
 何時かの日、何時かの話。何処かで見られる常風景。
 戸口に立つ母と、幼い少女。買い物鞄一つを提げた母親は、穏やかな瞳で少女に言う。
「お外は怖い人がいっぱい居るの。もし「開けて」って言われても、絶対に開けちゃ駄目。解った?」
「……うん。でも、早く帰ってきてね?」
「ええ。日が暮れるまでには戻ってくるから」
 それじゃあ。そう言って外へ出ようとする母を、しかし、少女は裾を引っ張り、止める。
 困った顔で、怯える娘を見る母親。けれど、其処に苛立ちや怒りは一切、介在しておらず。
 父親と別れて、未だ四半年も経っていない。身勝手な親の都合に振り回される娘の気持ちを鑑みれば、多少の我が儘とて許してしまうと言う甘さは、親ならば自然と生まれてくることだろう。
「……本当に、寂しん坊さんなんだから」
 苦笑いして、抱きしめる。
 ほう、とため息をついて、少女はその暖かさに身を任せる。それが一時の安らぎと知っては居ても。
 母親は、それを嬉しそうに見やりながら、娘へと片手を差し出す。
「なら、指切りをしましょう」
「指切り?」
「ええ。お母さんと、貴方の小指を結んでね。ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのます、って言うの。約束を破る悪い子は、針を千本飲まされるの」
「ほ、本当?」
 びくびくと怯える娘に、だから、と母親は言う。
「お母さん、絶対に日暮れまでに帰ってくるわ。だからそれまで待ってて?
 もし帰ってこなかったら、本当に針千本、飲んじゃったって良いんだから」
「……じゃあ、約束」
 そうして、母娘の小指が交わされる。
 朗々とした母の声が、訥々とした娘の声が、何気ない民家の玄関から、静かに響いた。

 ――ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。


「……その日、彼女の母親が向かった先は、局地的大地震にあった。公的発表の扱いで言うならば、ね」
「……」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉は、暗い話にもかかわらず、珍しく洒落っ気を含んだものとなっている。
 其処に潜んだ意思が何か。リベリスタらには問うことも出来ない。リベリスタらと同様にして、更にリベリスタ以上の――幾千もの地獄をその目で直接『視』てきた彼女に、彼らが向ける同情の言葉など、無い。
「当然、ナイトメア・ダウンの影響にあった母親は、生きては戻らなかった。そしてその子供も――言いつけ通りに外界との接触を永遠に拒み続け、やがては餓死した」
「……敵は、ソイツか?」
「正確には、もう一体。その子自身と、その子による増殖性革醒現象に会った、家そのもの」
「……おいおい」
 思わず両手を挙げるリベリスタである。
 ステータスは兎も角として、流石に家一つをたたき壊す行為というのは、リスクも低くはない上、目立つ可能性が多分に高い。少なくともこの人数で当たるには些か頼りないところだ。
 が、対するイヴは、それに対して淡々と言葉を返す。
「家の破壊については、問題はない。その家のエリューション属性は、あくまで少女の存在によって付与されているものだから。必然、少女を倒せば、家の状態も――エリューション属性そのものを失う、なんてことはないけど、かなり沈静化される。其処からはアークの人員が後始末をするから」
 言って、少女はリベリスタらに紙束を渡す。依頼の詳細について書かれた資料である。
「私には、この子の気持ちが分からない。私にとっての親は智親だけで、母親についての記憶は、本当に微かにしか無いから」
「……」
「けど、もし今、智親が居なくなったら。二度と会えなくなったら、私は凄く悲しむと、思う」
 普段なら口にしないような言葉。少女の、少女らしい大切な気持ち。
「あの子は、十二年前からそれをずっと味わわされ続けている。もうこれ以上苦しみを重ねさせる必要はないんだと、そう思う」
 言って、イヴは彼らを見やり、切なる声で、願った。
「母親との再会を、手伝ってきて」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月12日(月)23:19
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

目的:
E・アンデッドの討伐

場所:
三高平に近い、某街の住宅街からかなり離れた建物。周囲に人気はないものの、余り派手な事をすると見つかるレベル。
時間帯は夜になります。

敵:
『少女』
タイプはE・アンデッド。フェーズは2。
ぼろきれのような服を辛うじでひっかけた、木乃伊のような死体です。
使う能力は千本から成る針の投射能力。針一本にはダメージ十点か命中値一点の効果が含まれており、一本ずつにそのどちらかを選択しながら針を撃つことが出来ます。
対象は遠距離単体。一定数針を消費することで、対象数を増やすことが可能となります。

『家』
タイプはE・ゴーレム。フェーズは2です。
此方は能動行動を行うことはありませんが、一ターンにつき一度だけ、ダメージを肩代わりする能力と、ターン開始時、ランダムで戦場全体(『少女』を除く)にバッドステータスを与える判定を行います。
家に対しては一定数のダメージを与えることで、数ターン行動不能となります。



それでは、参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
鈴懸 躑躅子(BNE000133)
ナイトクリーク
金原・文(BNE000833)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
ホーリーメイガス
襲 ティト(BNE001913)
プロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
ソードミラージュ
神嗚・九狼(BNE002667)
クリミナルスタア
関 狄龍(BNE002760)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)


 夕日は既に地平線に落ち、時は夜。
 件のエリューションが居るという家の前に立ち、八人のリベリスタ達は装備を携え、今正に『彼女』の元へと赴こうとしていた。
「ナイトメア・ダウンの被害者か……」
 沈黙を破ったのは、『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)の、誰とも無い呟き。
 多くのリベリスタを巻き込み、日本というこの地に於いて甚大な災害をもたらした、リベリスタらにとっては忌まわしき事件の一つ。
「十数年たってもまだそこかしこに傷が残ってるってか、笑えねぇな。……約束を守って餓死ってのは、母親が望んだ事じゃねぇだろうに」
 『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)の声は憎々しさに満ちている。
 極大の悲劇(ナイトメア・ダウン)に比べれば微細であろうと、悲劇は悲劇。
 正義に在らずともそうしたバッド・エンドを好まぬ彼としては、此度の依頼に抱く想いは、感情という名のカタチ無き力を呼び寄せるには十分であろう。
 他の面々も、抱く想いは恐らく、モノマ達と同様であろう。
 訪れるはずだった『普通』。過ごされる筈だった安穏たる日常。それを崩され、噛み合うはずだった幸福の車輪はもう二度と動かない。
「女の子、ずっとお母さんを待ってたんだね……。せめて、天国で、会えるといいね……」
「ここで留まり続けてもお母さんに会う事は叶いません。既にその命も喪われてしまっているのであれば、私達が成すべきは……止まってしまった刻から開放し、あちらでお母さんに会えるようにする事、ですね」
 ともすれば同様の運命を辿りかねなかった『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)の堪えるような言葉と、それに応じる神谷 要(BNE002861)の言葉。それは、正しく少女にとっての唯一の救い。
「少女は可哀想な境遇だお。でも、同情するけど任務は任務。討伐には手を抜かないよん」
 対し、『ライアーディーヴァ』襲 ティト(BNE001913)の言葉は、内奥に確たる決意――リベリスタとしての本懐を遂げる想いが込められている。
 少女の不幸は既に完成されきっており、故に其処に無辜の人間が近づけば、その不幸に喰われることは必至。ならば彼等が出来ることはせめてそれを食い止めることのみ。
 理解しているがこそ、悪戯好きの童女はこの時ばかり、いつもの自分を切り替える。
「そりゃあ母ちゃんは恋しいよな。なんたって母ちゃんだ。俺に欠片も母性が無いのが申し訳ねぇが……」
 『男たちのバンカーバスター』関 狄龍(BNE002760)の言葉は苦笑混じり。
 撃てれば良い。当たれば尚良いを自身に貫く、正しくトリガーハッピーにとっては、向ける銃口が鈍るこの依頼はある種の鬼門に近い。
 近い、が……その一発が、唯一の幸福への導になると言うのなら、少しは得物を嵌めた感触も重さが取れるというもの。
「母を待つ少女にとって我々は悪役ですよ。感謝されようなんておこがましいですよね」
 『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)が自嘲気味に笑う。
 討伐を救いと言って、撓みそうになる心を奮い立たせる彼等を眩しそうに見ながら、そう言って、笑う。
 ――でも気が重いです。
 零しかけた弱音を飲んで、彼女は担ったメイスをぶんと振った。
 迷いを、断つように。
「……行くぞ」
 全員の様子を見て、合図を掛けたのは『機鋼剣士』神嗚・九狼(BNE002667)。
 夜に於いて尚失われぬ紅い眼光はしかと『敵』を見据え、得物――蓮ノ露姫を握りしめる。
 既に家全体をぐるりと見て回ったティトの透視を介して、少女の居場所は彼等に割れていた。
 そうして、後は。
「フン――――――!」
 振り下ろされる打刀。同時に、響く轟音。
 それと共に、他の仲間達も一斉に行動を開始する。
 エリューション化した家にダメージを与える意味でも、少女への接近方法を簡略化する意味でも効果を為すための作戦。家の壁窓を砕いての侵入という荒技。
 彼等が予想していたよりも、あっさりと砕けた壁の向こうに、居たのは。
「……お外から、来た」
 人としての原型を辛うじで保った、細枝で組んだような一体の木乃伊。
 落ち窪んだ眼窩は何処を見ているのかも解らず、無声音にすら劣るかすれた声音は、リベリスタ達の戦気を僅かにでも挫くには十分と言えるだろう。
「怖い、人たち……」
 再度、囁くような声が聞こえる。
 同時に、しゃらん、と綺麗な音が鳴った瞬間、少女の背後には千本の針が等間隔で浮かんでいた。
 悲痛と言って未だ足りぬであろう彼女に怯みそうになる彼等ではあるが――だが、其処で彼等は、決して折れなかった。
「お母さんの代理で来ました。針千本は私たちに向けてください」
 静かに語る、躑躅子。
「う、そ」
 ふらふらと佇みながら、返す少女。
 言い返そうとして、口をつぐむ躑躅子。
 仕方もない。心は、既に死の段階に於いて、帰ってこない母に対しての絶望に浸っている。唯綺麗な言葉だけでは、少女を救うことは出来ない。
 だから、
「お前の母ちゃんは嘘なんか吐いてねぇ。……そうだ、俺たちがお外の怖い人だ」
 届くのは、狄龍がかけたその言葉。
「すぐに――母ちゃんの所に送ってやる!」
「ぁ、ぁ……!!」
 最も、それはある種、起爆剤としての意味も果たしていた。
 爆発する少女の感情と、うなりを上げる針の群れ、軋みを響かせる戦場の室内。
 静かな夜から一点、怒濤となった室内にて、それぞれが交わる。


「ち……!」
 ごぼん、と鳴った内壁が音を立て、壁紙から障気を吐き出す。
 あからさまに毒と言えるガスを、しかし防ぐ術もないリベリスタ達は吸ってしまい、軽く咽せる。
「やってくれるじゃねえか……!」
「微細な障害であろうとも、これが続くと厄介か」
 叫ぶモノマ、冷静に判断する九狼。
 やはり策は此に在りと判断したリベリスタ達が先ず攻撃したのは、バッドステータスと少女のダメージフォローを行う家自体。
 潜入前に自己強化を掛けたこともあり、向かう攻撃はそのどれもが十分以上の衝撃をもたらす。
 壁は見る間に穴だらけとなり、家具は元の形状も解らぬほどに破壊され、戦場を拡大させる意味でも次々と破壊を続けるリベリスタ達。
「フォローは私とティトさんが行います、皆さんはそれぞれの行動を続けてください!」
 要が言うとおり、光を宿したブロードソードを薙ぐ事によって散った光の淡雪は、障気にふらつく彼等の身体を瞬く間に浄化していく。
「なんにせよ、邪魔をさせる訳にはいかん……」
 言いながらも、雷慈慟がバラ撒く銃弾が残った内壁を蜂の巣にしたと同時に、それまでぐらぐらと揺れていた家が、ぴたりと収まる。
 総体力は兎も角として、一時的な行動停止に持ち込むのは容易。家の活動停止を理解したリベリスタらがそれを確信する――が。
 ――ゆーびきーり、げーんまーん……
「……!!」
 受け手を倒したとしても、残る攻め手を放置した以上、隙を見せた彼等に攻撃が放たれるのは自然。
 一度に百本近くの針を投射されたのは、狄龍。
 『怖い人』を堂々と宣言した彼にその攻撃が集中したのは当然とも言える。比較的攻撃範囲を絞ったそれらは、或いは避けることも可能だったかもしれないが……この時ばかりは、それは適わなかった。
「か――――――!」
 声にならぬ苦悶。噴き出した血の量が怪我の深さを語り、あと僅かにでも針を受ければ倒れていたかもしれないと言うほどのそれだが――だが、それは間一髪で免れた。
「ティト、頼む……!」
「了解だお!」
 玉串を振って起こした涼風が即座に彼の傷を溶かし、元の綺麗な肌を作るが、それとて急所を僅かに癒したのみ。
 無意識か否かは兎も角、出し惜しみの一切無いという姿勢は、この戦いに於いて確実に厄介と言えるやり方だ。
 人によってはスキルを介してまでの攻撃を入れ、漸く十秒程度で止まったこの家である。仮に彼等がそれを撃つほどの力を失すれば、自然と形勢はあちらの側に傾く。
 だが、リベリスタらが抱く想いは、それだけではない。
「短期決戦ですか……。望むところです」
「うん、私もできるだけ、早く戦いを終えたいんだ……。だって、こんなに可哀想な女の子を攻撃するの、わたしはものすごく辛い……」
 躑躅子が、文が言って。重撃と縛糸をそれぞれ、少女へと向けた。
 渇いた矮躯が絡め取られ、メイスがその胴をぶち当てる。血も出ず、苦悶すら零さず、唯身体を床に叩きつけられた少女を、しかし彼等はそのままで終わらせたりはしない。
 狄龍が動いた。雷慈慟が動いた。モノマも、九狼も、再度動き、或いは彼女の身を焼き、撃ち抜き、切り伏せ、行われる暴力の数々は世辞にも救済とは言えぬ惨憺たるもの。
「もう、お前は……待たなくていいんだよっ!!」
 苦々しさを言動に込めるモノマ。的確に対象を穿ちながらも震える拳と、僅かにその無惨な姿から目を背けかけるのを見れば、彼がこんな終わり方を望んでいないことは解ろうというもの。
 それでも、少女がそれを理解するはずも、ない。
「……、おかあさん」
 気糸の拘束を断った少女が再び立ち上がり、何処を見てるともしれない瞳で、誰に語りかけるともない言葉を吐く。
「怖い人が来たよ、お母さん。私、外に出なかったのに、何でかな」
「……っ」
「なんで、かな」
 しゃらん、しゃらん、しゃらん――――――。
 再度、針が擦れ鳴る。その音を楽しむかのように、繰り返し繰り返し、少女は中空の針を鳴らし続ける。
「……貴方のお母さんは、もう此処にはいません」
 それに応えるように、要が少女に向けて言い放つ。
「待っても、待ち続けても、もう会えないんです。……だから、私たちは、貴方をお母さんのいるところに送り届けるために――」
「……嘘」
 返された言葉は、やはり拒絶。
 それを――『嘘つき(じぶん)』に攻撃を向けさせるための策であるとしつつも――悲しげな顔で見る要に、少女は何度も、くり返した。
「嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘つき、嘘つき、嘘つき。嘘つきは、針を千本、飲まなきゃいけないんだよ」
「……っ」
「……ゆーびきーり、げーんまーん」
 くるんと手が弧を描いて、幾百もの針が、再び舞い踊った。


 戦闘は時と共に苛烈さを増す。
 リベリスタ達の全体方針は悪くはない。悪くはないが――それでも、此処に於いて未だ少女が立っているという事実は、ともすれば自身らの劣勢ではないかと錯覚させる程度に、戦闘時間は経過していた。
 大まかな与ダメージをコントロール出来る少女の能力は実に厄介である。交戦の果てに最早九狼、狄龍、要は倒れ、残る面々も傷を負っていない者はティトのみ。人によってはフェイトを消費した者もいる。
「……何を持ってしても、許容するわけにはいかんのだ」
 ぼたぼたと血が垂れる。
 垂れた血に混じる、銀色の細長い輝き。それを視界に収めた雷慈慟は、少女の背後にある残りの針に視線をやる。
 残数は百と数十。今までの犠牲に応じて失われたにしては、その量は残る五人には十分な脅威である。
 何よりも。
「……三度目、だお……!」
 吐いたティトの言葉の意味こそが、この場に於ける絶望の意味。
 時間経過と共に復元される家への対処。それが彼等にとってリソースと攻め手を削る足かせとなっていた。
 少女の攻撃によって余力と人員自体の消耗は激しく、何より家がもたらすバッドステータスを躑躅子が回復させるように動く必要があるため、全体の火力は既に半分を下回りかけている。
「……っ!」
 絶息にも似た、文の声なき声。
 家が復活する寸前、幾本も飛ばした麻痺の束縛が、再度少女を絡め取る。それとて完全ではなく、直ぐに解けてしまう危ういものではあったが、それでもリベリスタにこの好機は有り難い。
「ぶちぬけぇぇぇぇ!!」
 叫んだモノマが、家を砕く。
 運命は気まぐれだ。覇気と意志を込めた一撃は今までで一番の威力を発揮しながらも、それが向かった先は本来狙うべき敵とは違う。
 八人全員が行動して漸く砕いた家である。彼一人の能力では当然、破壊しきるには足りない。
 十秒、二十秒、時間と共に徐々に少女の拘束が弾けていく。迫る最悪、焦るリベリスタ。
 息の上がった躑躅子が再度のブレイクフィアーを展開すれば、雷慈慟と文が畳みかけるように家へと攻撃を放つ。
「あと、ちょっと……!」
 文が言って、手甲を叩きつける。突き出ている刃は終ぞ、家の活動を三度の停止に追い込んだが――
「――――――、あ」
 それと同時。復活した少女が残る針を全て文に突き刺した。
 傾いだ身体が、埃まみれのカーペットに落ち、血溜まりを作っていく。深くはない傷にしても、最早この後の戦闘は難しい。
 けれど、しかし、それは。
「……もう、留守番も疲れただろう?」
 苦笑いしたモノマが、ゆっくりと少女に近づいた。
 彼女が担う針は、もうない。母親への怒りは、運命への怒りの証は、全てリベリスタらに、使い果たした。
 だから、もう――この機を、最期とすべきだ。
「神の使いの積もりは無いが 葬送して差し上げよう 想い人の待つ所へ 我々の手で」
 雷慈慟が言い、その胸に向けて銃口を向けた。
 少女は何も、喋らない。唯、枯れ木のような腕を振るい、だだっ子のように、近くにいた者へ脆い脆い攻撃を当て続けるのみ。
 一撃ごとの痛みは確かにある。あるが――それとて、先に比べれば威力も速さもない攻撃である。受けようともティトが回復すれば、それらは瞬時に癒された。
「もう君の待つ時間は終わったんだぉ」
 それを、なだめるようなティトの言葉。
 だから、と誰もが胸中で告げ。
「……いってらっしゃい。そして、おやすみなさい」
 躑躅子が言って、メイスを構える。
 それぞれが為した、最期の攻撃。
 偶然か、意図的か。全て避ける事が出来なかった少女は、大した音も立てることなく、ぱたりと床に倒れ伏した。


 連絡後、やって来たアークからの迎えと、家への対策班に対して、モノマは少女の遺体を母親と一緒の墓に入れてやって欲しいと言った。
 アークはこれを快諾し、少女の遺体を別動班に頼み、搬送することにした。
「女性に恥をかかせる訳には いかんだろう……」
 その際、雷慈慟が不器用な手つきで、ぼろきれ姿の少女に上着を被せ、
「お腹、空いてたんだよね。天国へ行ったら、美味しいお菓子、いっぱい食べてね。お母さんがきっと、作ってくれるよ」
 応急処置によってどうにか立ちあがった文が、干涸らび、小さくなった手に、持たせられる限りのマドレーヌを握らせる。
(……わたしも、死んじゃったお母さんに会いたいな……)
 微笑みの中に微かな悲しみを滲ませる文だが、最後に対面する少女に、その感情だけは見せないよう、精一杯の笑顔を作り続けた。
 そして、それらを見守っていた者が、二人。
「……飛ばしてくる針が母を待つ涙に見えました」
 感傷ですかね。そう言って苦笑いする躑躅子。
 ティトはそれに笑顔を浮かべて、小さく首を振った後――すっと、小さな手で空を指さした。
 僅かに首を傾げ、空を見上げる躑躅子の頬に……冷たい水滴が、当たる。
「……雨」
 ああ、そうか。
 これが、あの子の本当の涙か。
 躑躅子は笑みを浮かべる。先ほどとは違う、柔らかな、安堵したような笑みを。
「これで、安らかに眠れるね」
 家と、少女を乗せている搬送車を見て、ティトがにこりと笑う。
 降り始めた雨は、音すら無いほど静かに、そして、どこか温かさを感じさせた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
田辺です。相談お疲れ様でした。
皆さんのプレイングが凄い格好良くてリプレイに纏めるのが大変でした。本気で。
次回以降、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難う御座いました。