● 輝く太陽。 中央の噴水で跳ねる水飛沫。 青で統一されたセールの旗やPOPがそこかしこで踊り、道に面したウィンドウで鮮やかな色合の服が競う様にファッションショーを繰り広げている。 まだ夏は終わらないとばかりにテントとランプ、バーベキューセットが並ぶウィンドウを通り過ぎれば、陽光に煌くビジュー付きのサンダルがワゴンに鎮座。 時折吹く風に舞う軽やかなワンピースの隣では、サーファーをイメージした男性向けのTシャツが明るく奇抜なデザインを誇示していた。 サンキャッチャーで拡散された光が降り注ぐ店内に踏み込むと、スワロフスキーのクマがちょこんと座ってお出迎え。本物の輝きも美しいが、雑貨屋に並ぶ子供用の赤青緑に透き通った大きな宝石飾りの指輪も懐かしい。 歩き疲れたら交差路の中心に構えるワゴンで売っている冷たいソーダがきっと身に染みる。 大きなパラソルの下で季節限定のマンゴーやパイナップルのジェラートも捨てがたい。 しっかり食べたければ専門店。皆で喋りながら簡単な食事をしたいのならば、フードコートを利用してもいいかも知れない。 変り種の輸入雑貨を冷やかして、まだまだ使えるサングラスや帽子を物色。 大体の気が済んだら少しだけ気の早い秋物のラインナップをのんびり眺め、涼しさを含み始めた風が明かりの灯る通りを吹く頃になったら、お土産や戦利品を抱えて帰路に着くのだ――。 ● 「三高平の隣の市にアウトレットができた」 時間があったらちょっと来て、と呼ばれて集まったリベリスタに、開口一番『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げたのはそんな言葉。 「隣の市と三高平市の住人向けにだけチラシとかハガキを配って、今度プレオープン。ガラガラではないだろうけど、グランドオープンよりは空いてると思う」 近くにいるリベリスタ数名にぴらぴらとチラシを手渡し、少女は説明を続ける。 「入り口で厳格なチェックがある訳でもない。ほぼフリーパス。住所が三高平にないとか、そもそも戸籍が微妙とかいう人も気にしないで行ってくればいい」 チラシを見れば、踊る70%、80%オフの文字。 プレオープン専用の福袋に先着順の限定商品なども存在するようだ。 畳まれたB4のチラシには多種多様な店の名が、所狭しと載っている。 で、ここで何をすればいいのか、とリベリスタが問えばイヴは首を傾げた。 「何でも。買い物でも食事でも。好きに」 互いに顔を見合わせ、沈黙。 「……ああ」 ぽふ、と少女は両手を合わせた。相互の認識の差に気付いたように。 「これは依頼じゃない。『こういうのがあるよ』って話だけ。だから時間がある人だけでいいの」 曰く。 地域活性化を狙って建てられたというアウトレットモールはそれなりの規模。 観覧車や遊園地などテーマパーク的な場所はないが、結構な数の店舗が入っている。 特に目的はなくとも、ふらつくだけでも楽しいかも知れない。 「人気ブランドのセールに行きたい人は、専用のインビテーションカードもあげるよ」 あげる。 招待『される』側というより『する』側の言葉にリベリスタが首を捻れば、イヴは一言。 「ここの運営会社、時村グループの系列。宣伝しといて、って沙織さんが」 なるほど。何人かのリベリスタが納得が行ったように頷いた。 ならばイヴが唐突にこんな話をしだしたのもおかしくはない。 勿論、言わずと知れたアークの実質司令官、時村沙織の事だ。 わざわざ身内であるアーク職員に宣伝しなくても充分な利益は見込めているのだろうが、危険の多い『非日常』へ出向くリベリスタへの『日常』の提供、というのも兼ねているのだろう。 福利厚生の名目で色々と労わりを用意している彼だが、日々の息抜きに関しても気を回すらしい。 「一応言っておくけど、当日は一般の人も沢山来る。幻視以外のスキルとかは使わないで」 余った一枚を近くのリベリスタに渡して、イヴは、ね、と念を押した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月11日(日)00:06 |
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■メイン参加者 0人■ |
●買い物は既に始まっている 弾ける太陽。 踊る『Sale』の旗。 期待するものも向ける思いも異なれど、舞台が整えば気合も入ろうというもの。 一人で買い物を楽しむ者もいれば、さながらデート気分で楽しもう、と淡い期待を胸に訪れる者だって少なくはない。 ただし斜め上に突っ走る場合も存在する。 「おはようございます、アウラさん」 「おはよエイミ……って弓胴着!?」 現れたエイミーこと英美に、通常天然路線のアウラールが思わず突っ込んだ。 これしか持ってなくて、と少しばかり目を逸らす英美の言葉は事実でもあるのだが、別の意味も含んでいる。 服を見立てて貰えば、彼の好みも分かるんじゃないか。 普段はパンクやゴシックの混じった服を愛用しているアウラールだが、女子の好みとなればまた別だろう。少しでも彼好みに、と願う乙女には正に一石二鳥。イエスパーフェクト。 「服なんて着られたらそれで良いと思うのですけれど……」 「最近の流行? 何それ?」 デジャヴュ。呟きながらきょろきょろと周囲を見回す夢乃はジャージだ。紛う事なきジャージだ。隣の彩歌は制服なのでまだ問題ない。 ちなみに斜め横には胴着姿のエイミーがいる。何だ君たち午前中から部活帰りか。彩歌の様にアウトレットに制服姿の女子高生というのは結構見かけるが、ジャージと胴着は難易度が高い。私服が面倒臭いとか言っている場合じゃない。が、考えれば夢乃は普段の着物姿でもきっと大差なかった。 彩歌はとりあえず手近な店に並べられていたチュニックを手にし、夢乃の目はあっという間にチョコレート専門店に釘付けになった。この辺りが差の出るところである。 「このTシャツも70%オフ!このブラウスも80%オフ! おまけにサンダルが90%オフ! 水道水は飲み放題だ!! いやっはーーーー!! なんなのだ、ここは! 円高か!」 円高関係ねえ。というか円高が何かそもそも理解してねえ。 服装と頭の中身が軽やかなイセリアがるんたるんたと歩き出す。 そんな彼女(ナイスバディ)に視線を向ける一般客もいないではなかったのだが――先の叫びで引いていった。残念。 「お買い物にレッツゴーなの」 (新しくできたところだって言うから楽しみだね) 心の中で姉と会話しながら、とあが通りを行く。 傍から見れば一人だが、いつだって彼女は(脳内の)姉と一緒だ。 一人で二人、二人で一人。わくわくしながら、並ぶ店へと思いを馳せる。 「ゾンビと言えばモール、モールと言えばゾンビだよね」 「立て篭りたくなる品揃えだな!」 アンデッタの言葉に頷く狄龍だが、二人の間には本気の者とフィクションの前提である者との大きな隔たりがある。確かにモールとかアンデッドフラグだが、今日はそういう依頼ではないので安心して欲しい。 あれ、カタコンベがないよ? とか言っているアンデッタには肩透かしだろうが安心して欲しい。つうかモールにゾンビは出てもカタコンベは普通存在しない。なければないであっさりとDVDショップに気分を切り替えるアンデッタは常識と非常識の狭間を生きていた。 アンデッタが向かう一角、本屋の片隅で本を眺めるのは三千。 お気に入りのジャンルはTRPG、高い所にあるルールブックに手を出そうと背伸びをした所で、後ろから声が聞こえる。 「……あ~、空から美少女が降ってこないかなぁ~?」 本棚の角を曲がりながら嘆息したのは守夜。 ふと顔を上げて三千の視線に気付き少し照れくさそうに笑うと、同郷の誼ならぬ同好の誼で彼が届かなかった場所の本を取って差し出した。これでどちらかが女子だったなら、それこそ守夜の言うギャルゲーの如きベタな出会いになる所であったが、現実はなかなかそうはいかない様子である。 それでも手にしたルールブックが人気の新作である事に気付けば、これ出たんですね、あっちにボードゲームのショップもありましたよ、などと会話に花が咲く。 少し離れた場所で、エリスは次々と本を細い腕に重ねていく。買いたい本は多くて重い。取り寄せも含め、後で送って貰わねばと考えながら、並ぶタイトルを見逃さぬように余念がない。 何しろこの後は秋物の服も眺めなければならないのだ、買い忘れのロスは避けたいのである。 隣接したゲームショップで、アンナは新作のラインナップを眺める。残念ながら、最新でも当日が発売日のものしか並んでいない。当たり前といえば当たり前なのだが、少しだけ早く置いてくれる店に対する高揚感が湧かずに残念ではある。 通りすがりに多少気の惹かれる福袋はあったが、彼女は手を出さない。それが賢い選択だと思っているからだ。……良い物が出ないと思っているからの負け惜しみではない。本当だ。 様々な店舗が入ってはいるが、やはり目当てにする者が多いのは服。 手を繋いできゃっきゃと店を眺めていくのは、そあらとニニギア。 愛しい眼鏡の彼とのデートも想像すれば心弾むが、やはり服を買うならば気の置けない女の子の友人とが一番。 「そあらちゃん、いちごのアクセサリあるよ、かわいいっ」 「ニニさん、あっちは福袋があるです!」 あちらにこちらに視線が指先が踊り、楽しげな声は止む事がない。 二人共買った福袋を外のベンチで確認すれば、これは色がいい、これは秋にも使えるなどと話が弾む。 「見て見て、このミニ丈ワンピ、かわいいわ。そあらちゃんに似合う!」 「あ、このフェミニンなカットソーはニニさんの方が似合いそうなのです」 お互いの中身を相手に見立て、即席の交換会。 手に入れたものを着る姿を、見せてくれたものを相手が着る姿を想像してお互いににっこり。 けれどまだまだ、女の子の買い物は終わらないのだ。 「ほらほらお姉ちゃんっ、こんなのどうですかー?」 「リズはこんなのは、どう?」 裾と襟にレースの付いた洋服を手にリゼットが問えば、銀杏の色したチェックワンピースをかるたが彼女の肩に当てる。 「"Alles Gute zum Geburtstag"ですよ!」 リゼットの言葉に、近い誕生日を祝いあう二人は病室ではなく初めて外で祝える事に改めて喜びを感じる。 二人の時間を邪魔はしないよ、と一人食品をチェックしに行った達哉の誕生日も祝いたい、と思いながら、かるたはそっと微笑んだ。 拓真が見立てるのは悠月の服。 アウトレットは勿論、誰かと買い物に行くのも初めてだという悠月に似合う服を真剣に選んでいく。 普段は長い服を纏う悠月を考えると、ゆったりしたものが良いだろうと彼が選んだのはチュニックとロングスカート。 ふわりと広がる水色と落ち着いたグレーを着た彼女が少し恥ずかしげに試着室のカーテンを開けば、拓真は笑って似合っていると告げた。 「それは俺からプレゼントしておこう。記念だから」 「……ありがとうございます、拓真さん」 彼が綺麗と言った笑顔で、悠月は心からの礼を述べた。 そんな中、買い物は一人で熟考する性質であるミカサはシューズショップで深い光沢のあるタッセルローファーを見定めていた。 灰地の襟に白黒チェックが入ったシャツ、円が連なり重なるハットピン。柔らかい感触が肌を包むシルク・カシミヤ混紡糸のストールに、レジメンタル・ストライプの剣先に小さなマークをあしらったネクタイ。 (靴はまだ考えるとして、後はベルトと……それと……) 既に買った物は多いが、変わり行く季節に対応する服を考えればキリがない。少しずつ重くなる荷物だが、今はまだそれに気付く段階ではなかった。 彼と同じく張り切って店を回る螢衣は、在庫処分になった夏物を大量にゲットしてふふふ、と笑みを浮かべていた。 だがやはり、こちらもまだまだ飽き足りない。 お気に入りのブランドで着回せる定番を買ったなら、今から着られるワンピースやチュニックを確認し、安くなっているかもしれない高級ブランドも眺めなければ。 女の子としてはコスメも忘れてはならない。既に秋色ラインナップがお目見えしているアイシャドウやルージュをチェックしたら、まだ続く日差しの対策としてUVカットのファンデーションも。 あれもそれもと求める心を原動力に、乙女は走るのだ。 シューズショップでは他にもレイチェルと智夫が、それぞれの探し物を求めて品物を眺めている。 「あたしはスニーカー探すんだ」 「どんなデザイン?」 「んー、シンプルで可愛いの……白地にピンクのラインとか、そういうの」 レイチェルが両手にそれぞれ持って重さやサイドのデザインを確かめる。うん、これ! と掲げて見せれば、智夫が可愛いねと頷いた。 次はトレッキングシューズを探すという彼に、レイチェルが付き合う番だ。 「実用品だし、じっくり選ばないと」 「うん、足に合わないと靴擦れになるしね」 色々並べて、お試しの時間。 香水のショップでは、ミュゼーヌがいつもの香水に手を伸ばしかけ、ふとそれを止める。 花では百合の香りを好む彼女ではあるが、傍らのムエットからほのかに甘く香る薔薇。 「……男の子は、こういう香りの方が好きかしら」 透き通ったピンクのボトルに映ったのは、気になる彼の顔。 手にとって吸い込んだ香りに、その笑顔を想像しミュゼーヌは微笑み、番号札を手に取った。 「愛華ちゃんの目当てはここでいいのかな?」 「うん、いい香りとかさせたいのぉ♪」 疾風さんの為に、と言外に込めて愛華は握った手にきゅっと力を入れる。 フルーティな感じの香りが好きなんだよねぇ、と悩む愛華はムエットを手に取り疾風に差し出す。 「ねぇねぇ疾風さん、これとこれだと疾風さんはどっちが好きぃ?」 「うーん、そうだね……」 彼の腕に肩を乗せて、愛華は幸せ満面の笑顔で答えを待った。 次は疾風さんのお買い物にお付き合いするからね、と囁いて。 ●買い物は戦闘である 店頭で新作フレーバーの試飲。ある程度中身の見える福袋。 紅茶や珈琲を取り扱う一角はなかなかの盛況である。 虎鐵の手を引いて雷音が茶葉を見定めに来たのも、そんな中の一店。 経営する喫茶に並べる新しい味を探す雷音の目に、いや鼻に甘い香りが漂ってきた。 乾燥林檎を交えたそれに興味を惹かれ、頭上のそれにうっかり羽ばたこうとした少女を彼女の養父は優しく持ち上げる。 「ああ、ありがとう、虎鐵。普通にしないと驚かれてしまうな」 「次からは高い所は拙者に任せるでござるよ。羽はダメでござる」 ダメ、と言いつつ虎鐵の声は咎めるものではない。無事に手に入れた茶葉のサンプルと別の一つを見比べながら、二人は吟味を始めた。 「あら、そっちは豆じゃないわよ?」 「……いいのよ、あいつ用なんて、コレで」 一度見た珈琲の袋をぎゅっと棚に戻し、ほんのり珈琲の様に香るフレーバードティーを手にした翠華にアシュリーが問えば、彼女は少し気恥ずかしそうに目を逸らして答えた。 翠華はオータムセットと銘打たれた葡萄の紅茶とダージリンの袋、そして先程のフレーバードティーを手にレジに向かう。素直ではないけれど、ささやかに込めた感謝の気持ちは伝わるだろうか。 そんな翠華に少し首を傾げながら、アシュリーは自分の為に豆を選び出した。 回転率の良さそうな廉価品か、中々手が出ない故に逆の可能性がある高級品か。新規開店だから、売れ残りという事はないにしても少し悩む。悩むが、悩むなら両方買ってしまえばいい。 キリマンジャロやモカなど人気のブレンドをメインにした福袋も手に、ご満悦。 傍らの喫茶店では、既に買い物を終えた孝平が、立ち上る紅茶の香りを楽しんでいた。 気付けば夏も駆けて行き、湯気の立つ飲み物が活躍する時期が近い。 日頃から殺伐とした依頼を生きる身には、一時の休息が大事なのだ。 手に入れたシンプルだが馴染みの良い茶器を自宅で使う事を考えながら、彼は紅茶を口に含んだ。 窓からは、出店の一つとして出展していた空音のテントが窺える。 多様な占いを掲げる彼女のテントに、また一人客が入っていった。 一足先に昼食へと入ったのはアナスタシアと鷲祐の二人。だって鷲祐が速いから。アークトップスピードの男は伊達じゃない。思わずステータスも二度見する。 「鷲祐は何にす……わあ! もう食べてるよぅ!?」 それは例え食事とは言え例外ではない。チキンバーガーとポテトを手に振り返ったアナスタシアの視線の先で、既に鷲祐はチャーシューを齧っていた。 「食うか?」 銀のネイルリングで指し示す先には、海鮮丼と豚丼も並んでいる。混雑時手前とは言え、店員にもブーストが掛かったのかの如き速さであった。 「玲、美味そうなクレープが売ってる! 味見しよーぜ!」 フルーツの乗ったアイスクレープを玲に差し出しながら、静は自分のクレープに齧り付いた。 躊躇いなく玲のクレープも口にした静は、美味いと笑って自分の分を彼の前に。 「オレのチョコバナナクレープも美味いぜ!」 「うん、ありがとう静さん」 クレープを片手に微笑みあう二人に、最早照れはない。 「あのね、ねーちょん。ウーニャ、ルカの大事な親友なの」 「よかろう! この魔王、ルカの友と成り得るものかどうか見極めてよし合格」 「初めまして、ウーニャで……ひゃああああ!?」 ごめん、おっぱいじゃなくておしりだった。 挨拶の間もなくセクハラをかますノアノアに、妹が冷静にズレた謝罪を述べた。 驚きつつも、ルカルカに親友と呼ばれて少しこそばゆいような気持ちを覚えたウーニャは笑う。私もルカちゃんが大好きよ、と。 ぴぴぴっと耳を震わせたルカルカがクレープを指し示し、三人仲良く並んで食んだ。 「ウーニャくんはインド人なら甘い物より、ナマステとかの方が良かったんじゃないか?」 「ナマステって何、ねーちょん」 「生ステーキとかそんな感じかな」 喋る際にルカルカの口からぽろりと零れたパイ生地を極自然な仕草で拭って自らの口に運んだノアノアは、その行為と同じくなんか間違ってる知識を披露。 ストロベリーカスタードとチョコミルフィーユを交換する二人を見ながら、非日常の中の日常は大切なんだぜ、とノアノアは目を細めた。 そんなフードコートを、コーポの取材だという雅が歩いていく。 「ご覧下さい、プレオープンにも関わらず大変な賑わいです」 ぐるりと片手のカメラを向けた先には、立ち並ぶ店舗と賑やかに食事を楽しむ人々。 テーブルの一角では九十九がたまにはカレー以外も、とオムライスを食べていたのだが、いつもの大魔道状態ではなく普通の格好をしていたので誰にも気付かれていなかったりした。オムライスカレーはもうやってしまったが、トッピングの参考を探しに。 「どこから来たって!? ワターシ! ドイツジンネ! ダイジョブ、オカネモモッテルヨー!」 そんでアイスクリームショップの前では、イセリアがまた飛ばしていた。 そろそろ別のドイツの方からクレームが来ないか心配である。 「今日はどういったものをお探しですか?」 「胸が小さいのが……悩みで……」 ぐっと涙を堪えて言った空は、薦められたパット入りのブラを試して凄い! と感動したりしている。これならゆっさゆっさする! 素敵! 例え偽乳だろうが見た目は大事。後は心理的に。 後から来たきなこが大きな胸を揺らし、少しきつくなっちゃって……とか店員に言ってるのを聞いてギリッっとなったりしたのは秘密だ。 そんなきなこはちょっとだけ大人の階段を登ってみるべくセクシーな下着に手を伸ばしたりしている。黒の細いレースのやつ。 買う訳じゃないバイトの市場調査だから、とかそんな必要のない言い訳をしつつ挙動不審気味に試着したり。 そんな女性の比率が格段に高い中で、若干浮いているのは浜辺のチンピラの如く鮮やかなアロハシャツを着た竜一だ。趣味で訪れた訳ではなく、妹の虎美の付き添いである。嘘じゃない。本当本当。 「ねね、どれがいい?」 「セクシーなのはまだ早い」 先程きなこが手に取ったのと似たものを手に虎美が問えば、縞パンでいいと健全なのかある意味不健全なのかよく分からない返答を竜一が返す。 ちなみに何で仕込んでたのかよく分からないサングラスのビデオカメラはアークからのバス送迎の際に職員さんに見付かって回収されました。本部に戻ったら返して貰えるよ! ビデオカメラといえば家電。 家電コーナーに用があるリベリスタも無論存在する。 「とりあえず電子レンジだな……」 そう呟くのは義弘。家にあるにはあるのだが、若干壊れ気味なのである。 それに気付いた切欠はさて置き、壊れたままでは不便だ。値段と性能を見比べて、良さそうなものを吟味する。 ノートパソコンのコーナーでは、やはり仲睦まじいままで疾風と愛華が品物を眺めていた。 仲睦まじいのは恋人達だけではなく、家族でも。 縁と一緒に訪れた菊之助は、不得手な家事の最中割ってしまった皿を探しに日用雑貨を眺めていた。 父さんは台所に立ったらダメなんですよ、と愚痴る縁を横に、菊之助は皿選びに余念がない。 「縁くん、お皿はこのくらいの大きさがいいんじゃ……ウゲェ! 高ッ!」 「……割ってもいいようなシンプルなのにしましょう」 息子の言葉にこくこく頷き、次いで菊之助はソファーカバーを選びに掛かった。 どうしてもピンクが良い、という菊之助に戸惑いながら、縁はそれを確認する。 「ぴ、ピンクにするんですか? 安かったらいいですけど……高ッ!」 叫びが流石に親子だった。 けれど可愛いから少し高くても買う! と告げる父に笑って溜息一つ。どちらが親か分からない様子で縁が頷いた。鞄に隠したくまのぬいぐるみは、いつ渡そうか、と思いながら。 三時過ぎに遅刻遅刻ーとかベタ過ぎる入りでやってきたのはイスタルテ。幻視忘れた? 大丈夫、三高平出る前に誰かが気付いて注意してくれるから。アーク職員さんは優秀です。それより何でパンをくわえているかが問題だ。 諸問題(主に店内飲食禁止の面で)を片付けた彼女は、きらきら輝くスワロフスキーのくまをうっとり突く。 輝きの向こうを見れば、幸せそうな顔の人ばかりで嬉しくなるというものだ。 少しくらい遅れたとかそんなのも吹き飛んで、イスタルテは微笑んだ。 煌く輝きの先には、アクセサリーショップも並んでいる。 エスコートさせて貰うよ、と手を差し出したスケキヨに微笑んで、ルアは二人のペアリングを選ぶ。 ルアくんに任せる、というスケキヨに、彼女は考えブラックシルバーの指輪を示した。 自身の分は、ピンクシルバー。 黒に輝く赤、淡いピンクに輝く青。 誕生石を入れた指輪に"Ti amo"の言葉を入れ、互いの指に輪を通す。 「スケキヨさん、大好きだよ!」 躊躇いなく口にする少女に、スケキヨはボクも大好きだよ、と頭を撫でながら耳元で囁いた。 幸せそうな二人を視界に入れながら、七海はアクセサリーショップに吊り下げられた革紐を眺める。 今は幻視で普通に見えてはいるが、彼の手は羽。 それを保護する為に色々と巻いているのだが、新しいものを探しに来たのだ。 目に叶ったのは、細い革紐が何本も編み込まれたブレスレット用の革。 よく伸びて、厚さも申し分なし。聞けば普段の半額以下の値段だというそれを腕に(羽に)巻き、彼は少しだけ満足そうに頷いた。 「ちょ、レナーテさん買い過ぎじゃない? これ本当に全部必要なの?」 「ええ。これから涼しくなるし、秋物色々買わないと。もう無理?」 「や、男に二言はないから」 乗せられてぐらぐら揺れる荷物を何とかバランスを取って積み上げながら快は首を振った。軽い気持ちで言った荷物持ちだが、とんだバランスゲームになってしまった。 大丈夫、彼は守護神だからきっと荷物も守ってくれる――とかそんな事は思っていないが、崩れるとも考えずレテーナは買い物を続ける。テキパキと動き回る彼女に付いて歩く快は、やれやれという顔を浮かべながらも目は優しげに微笑んでいた。 ●時には休憩も必要だ 広告にも記載されていた甘味処は、実に盛況。 その一席に座るのは、虎吾郎と源一郎という大柄な男性二人。特に目的なく覗きに訪れた源一郎を虎吾郎が誘い、彼らには少々小さくみえる椅子に腰掛けている。 揃って頼んだあんみつを口にして、ほうと息を吐いた。 舌鼓を打つ虎吾郎の前、一瞬だけ逡巡した源一郎がお替りを頼んだ。 本人はしっかり食べているつもりなのだろうが、夢中になり過ぎて口の周りに蜜が付いている。 「ほれほれ、汚れとるぞ」 「……あ、ま、待て岩月、此の程度我が自分で」 すっかり良い年齢の源一郎でも、齢八十を迎えた虎吾郎にとっては子も同然なのか微笑ましい目で以って見られている様子だ。 「岩月。良き誘いに、感謝を」 気付けば源一郎の顔にも笑みが浮かんでいた。 そんな源一郎とは対照的に、強張った顔をしていたのは、下調べの上で有名であったこの甘味処を選んだ優希である。 心配し雪菜が体調を問えば、はっと気付いてそれを正す。 名物であるという黒糖のパフェを口に運ぶ雪菜を見ながら、珈琲を手に優希は尋ねた。 「雛月は任務以外では、どういった息抜きをしているのだ?」 「私ですか? ……んー、静かな場所で本を読んだり……お散歩、でしょうか」 風景や文章から何かを感じ取るのが好きだ、と述べる少女に、少年は彼女らしい、と微笑んだ。 「そういえば、焔さんのご趣味は?」 「俺の? ……実は辛いものを探すのが、好きなんだ」 少しだけ目を逸らして告げた優希に、では、機会があればそれも一緒に、と雪菜は頷く。 午後を回り、休憩や寛ぎの時間を求めて人が増えてきたフードコート。 買い物袋を手にした少年と、黒髪の少女が席に着く。 「ショッピングは済ませたけれど、他にしたい事は? 例えば、頼んだらパンツ脱いでくれねーかな、とか。 ああ、後は僕の事椅子にしてくれねーかな、とかかしら? この変態」 「何で椅子に座った途端に罵られてるの僕? って、あ」 こじりに突き出されたクレープに反射的に口を開きかけた夏栖斗は、頬に触れた冷たい感触に瞬いた。世界、じゃなくてこじりの選択はアイスクリームホイップ。当然頬にクリームが付く。 自分で招いた事態に対し、子供みたいね、と呟いたこじりは指先で拭い、夏栖斗の前に。 ――舐めなさい。 無表情で涼やかに難題を突き付ける愛しい人に、今度こそ少年は固まった。 その隣を、少しだけ顔を赤らめた智夫の手を引いたレイチェルが歩いていく。 「智夫は甘いのって平気?」 「うん、平気だよ。イチゴのクレープがいいかな。レイチェルさんは何がいい?」 「あたしはクレープもソフトクリームも、大体なんでも好き♪」 「じゃ、アイスの入ったクレープにする?」 笑いながらメニューを選んで行く二人を、少し羨ましそうに空が眺める。正確には彼らはカップルではないのだが、そんな事は知らない空は未だ見ぬ王子様に思いを馳せた。 イベントが行われる広場から、楓の歌声が微かに聞こえてくる。 彼を含めた路上パーフォーマー達は、行きかう人の耳や目を楽しませていた。 日頃静かな場所を好む妙信にとっては、人の多いこの場所は『日常』ではなく『非日常』に属するものである。そんな彼の性格を知っている尾子は、共に訪れてくれた事実ににこにこと笑っている。 だが、彼がベンチで待っていると言えば膨れて雑貨屋まで引き摺って行った。 「わあっ、かわいい!」 ぬいぐるみのクッションが並ぶ棚の前、目を輝かせて尾子は一緒に帰る相手を探し始める。 さかなはしっかりと腕に抱いて、折角安いのだからもう一つくらいと視線が彷徨う。 決めかねてううんと唸れば、骨ばった手が明るい色のひよこを掴んだ。 「……たえくん、それ欲しいの?」 「……ころが来た時に使うんじゃろ」 尾子が疑問を浮かべれば、嘆息と共に言葉が一つ降ってきた。 会計を済まし歩き出す妙信に向けてありがと、と言った尾子に、こっちこそ、と幼馴染が呟いたのは、彼女には聞こえなかったか。 荷物を抱いた映弥と共に雑貨屋に姿を見せた那雪は、やはりぬいぐるみに似た形の枕をじーっと見詰める。 掌で触れば、もふもふと感触が返る。 「……私と一緒に、帰りたい、の……? そう……なら、いらっしゃい」 もふもふもふ。 もふ。 ぴい。 実際は鳴きはしなかったが。 「好い相手でも見付かりましたかぃ」 無言の会話。何か通じ合うものがあったらしく、ぎゅーと抱きしめる那雪に映弥はくすくすと笑った。 色々忙しく立ち回っていたエナーシアがふと見付けて入った店は、確かにぬいぐるみが並んでいたが、先程までのとは質が少々違っていた。 「ナゾベーム……だと……」 どんな店だ。 品揃えに多少の疑問は感じつつ、縫製はしっかりしているのを確認してエナーシアはそれを買い求める。 「次来る時は鼻行類だけでなくバージェス動物群とかも入荷してると嬉しいわね」 アイシュアイアとかウィワクシアとか作って売れるのか疑問です。 あと、次来た時にこの店に辿り着けるのかも疑問です。 一夏の幻でない事をお祈りしております。 ●夕闇に 新しく買ったアークのエンブレム入りのジッポで火を点けて、時代の流れか狭い喫煙コーナーから狄龍は通りを眺める。 視線の先にはカップル。目に毒だね、と狄龍は毒を含んだ煙を吸い込んで吐き出した。 「足は大丈夫か?」 「は、はい……!」 アウラールは来た時とは打って変わって夏らしく涼しげな格好で歩く英美の手を取り、一緒に歩く。 服はプレゼント、というアウラールに、英美はお礼だと買った懐中時計を差し出した。 彼女の父の形見が、同じく懐中時計である事を知る彼は、己の身を心配してくれた少女に礼を言う。 君が願うなら、俺は死んだりしない、と。 色違いのお揃いのピアスを手にうきうきと歩くアナスタシアが、涼しくなってきたねと愛しい恋人を振り返れば、肩に乗せられたのは緋色の上着。 瞬いた彼女に送られたのは、鷲祐の優しい目線。 「ありがとうな、アナスタシア」 いつも彼女を置いていくのは、嫌いだからではないのだけれど、あくまで鷲祐の求める距離感だ。 だから、それを受け入れてくれる恋人に、心からの感謝を。 驚いた様な顔をしていたアナスタシアは、それを悟って花が綻ぶ様に笑った。 互いを思い合えばこそ、行動も似る。 「さっきこっそり買っておいたんだ。2月の誕生石なんだってさ」 静が玲の首にアメジストのネックレスを掛けると、瞬いた玲は揃いのリストバンドを取り出した。 自分も記念にこっそり買っていたのだと言えば自然に笑い出す。 ずっと一緒に、幸せにいられますように。願う彼らに、優しい風が吹いた。 その隣をちょっとギリギリしながら歩くのは夢乃だ。結局最初から最後までジャージだった。 カップルばかりで普段なら空想に王子様を探しそうになる状況だが、本日ばかりは両手一杯に雑貨とお菓子を手にして満足げだ。服はどうした。後夕飯。 本来の目的にはたと気付いて立ち止まるが、考えたのはほんの一瞬。 「ま、いいか」 良くない。が、生憎近くに突っ込んでくれる人がいなかった。 フードコートでは、まだ夏栖斗が悩んでいた。取るべき選択は一つだと分かっていても、実行するには多大なる覚悟がいる。あの日の告白と同じように。 だが、こじりが手にしたクレープのアイスが溶け始めているのを見て、御厨夏栖斗(16歳)は覚悟を決めた。白いこじりの指先にそっと唇を触れさせて、クリームを取る。 「どどどうだ! これくらいできるんだからな」 精一杯の虚勢を張る年下の恋人に対し、こじりは頷きその指先を自らの唇に触れさせた。 「間接キス。なんてね」 ……一枚上手。『甘いの』が苦手な彼女の行動に、夏栖斗は真っ赤になって椅子から滑り落ちる。 そんな相棒を視界の端にちらりと収めた快の前に、クレープが差し出された。 「久々に思いっきり買い物出来て楽しかったわ、付きあってくれてありがとう」 甘いものが好きかは知らないけど、お礼。 そう呟くレテーナに、快は笑う。 「いや、美人と一緒だし、報酬としては十分以上、かな」 隣で崩れず積み重ねられている荷物の山は、レテーナの戦利品であると同時に快の努力の賜物。 買い物を終え、リゼットが飲み物を取りに行った間。達哉がかるたに、君をもっと知りたいから付き合って頂けないか、と告げれば、彼女は首を横に振る。 自分は病室という狭い世界から外に出たばかりの子供も同然。 だから、その手の話に責任を持った返答はできないのだと、彼女なりの真摯な理由を乗せて。 少し寂しそうに笑った達哉とかるたの元、笑顔でリゼットが三つ飲み物を運んで来た。 「食べて帰って、も……いい?」 アイスを眺め問う那雪に、映弥は笑って頷く。両手に荷物を持った彼に、那雪は買ってきたチョコミントを一匙すくってはい、あーん。 目を開いて恥ずかしそうな顔をした映弥だが、ややして口を開いて受け入れる。 「美味しい?」 「はい、とても。有難うございまさ」 クレープを片手に、ニニギアとそあらが買ったばかりのアクセサリーを付けてみる。 季節限定のアイスを、エリスがドライアイスと一緒にお持ち帰り。 ビーフカレーを食べる守夜の後ろを、フラッペ片手に義弘が歩いていく。 そんな光景を横目に外に出た九十九は、通りのベンチに座りチョコレートサンデーを口に運んだ。 目の前を流れる人々の顔には笑顔。 九十九には見える。その内の何人かは翼を持ち、角を生やし、機械の体を持っているのが。 例え日頃血腥い戦闘に、救えない悲劇に、やりきれない現実に生きているとしても、今この時は『平和』というものなのだろう。 ――こんな日常が、全ての人に等しく訪れると良いのですが。 九十九が空を仰げば、空には少し早い星が見え始めていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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