●Q「えっ」 「おいおいなんだよ全く……梅雨はもう晴れたってのに」 吐き捨てるような口調なのは、レインコートに身を包んだ男性。梅雨などもうそんな時期通り過ぎたが、ここ数日付近の天候は雨、雨、雨――だ。さほど強く無い雨ではあるが、 ……本当に梅雨は明けたのか? そう疑いたくもなる天気に嫌気を示しながらも、彼は散歩の真っ最中。河川敷の上流向きへの散歩コースをゆっくりと歩き続けていた。 「……ん、な、なんだありゃあ……!?」 と、そこへだ。目の前から何か迫ってくる影がある。 大きな球体だ。真っ黒、いや正確に言えば茶色い色の混ざっている黒の球体がこちらに向かって回転しながら迫ってきている。 「う、うわああぁぁああ!?」 本能で危険を感じ、逃げだそうとした時にはもう遅い。 黒茶色の球体は一瞬にして男性を呑みこみ、そしてそのまま下流へと駆けて行った。 ●A「1に決まってんだろ」 かのエジソンは幼少期、教師に対して、 「1+1はどうして1に成らないの? っていう問いかけを投げかけた事があるらしいよ。1個の粘土と1個の粘土を合わせれば大きな1個になるだけ――そういう思考を彼は行ったみたいでね」 「……で、それがどうかしたのか?」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の感情の無い言葉にリベリスタが返事を返せば、彼女はモニターに視線を移して言葉を綴る。 「今回の敵は、そういう敵でね……泥の塊で構成されたE・エレメント3体。ある河川敷の上流から下流へと移動してるみたいで、道中に存在する泥や土、果ては河川敷の設置物とか人間とかを呑みこみながら移動してる。それも、段々巨大化しながら」 「ハタ迷惑な奴だな。で、それを退治すればいいのか?」 うん、まぁそうなんだけど……と、言葉を少しばかり濁すイヴ。 リベリスタ達は首を傾げる。あまり表情を表さないイヴにしては珍しいな、とそんな事を思っていれば、 「ええと、実はいくつか問題があるの。まず一つ目に、既にこの泥玉達に取り込まれた一般人が居ると言う事。出来れば彼らに傷を付けないように泥玉を倒してほしい」 「了解した。けど、その様子だとなんか他にも問題があるみたいだな?」 「…………うん。なんて言えばいいのかよく分かんないんだけど、その……」 イヴの視線は未だ映像が流れ続けているモニターに。 ……何かあるのか? そう思ったリベリスタ達が注意深くモニターを観察していれば。 「……んんっ?」 何か妙だ。先程一瞬、イヴの説明に集中する為にモニターから目線を離したのだが、その時の映像と今の映像は少し違う。 気のせいだとは思うが、泥玉にまるで人の手足の様な物が付いている風に見えて―― 「いや、気のせいじゃねぇよアレ! おいなんだアレ! 泥玉に手足ついてんぞ!」 一人のリベリスタがとうとうツッコミを入れた。 そう、現在泥玉は回転しておらず、何故か人の手足の様な物が生えている上に――壮絶な女走りをもって下流へと向かっている。なんだこれはシュールすぎる。 「……原理は不明なんだけどね、なんか今回の敵は人の手足が生えて二足歩行が可能な敵みたい。なんで手足が生えるのか分からないけど、球体形態の時よりもユニークな動きが増えるから気を付けてね」 「いやいやいやいやユニークって!?」 言葉通りの意味だ。人間形態の時の泥玉は、ジャンプしたりバク転したり、スキップしたりして下流方面へと移動している。その動きに一体何の意味があるか分からないが……球体形態の時よりも確かに行動にバリエーションが出ているのは間違い無い。 「と、言う訳で皆。この奇怪な存在をさっさと倒してきてね。大丈夫大丈夫、やればできるやればできる」 相も変わらず無表情な様子で、イヴはリベリスタ達の背中を後押しした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月06日(火)23:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●小雨の日に 地が濡れる。 さほど強く無い雨が河川敷周辺に降り注げば、土は柔くなり、川の水は増水の様子。 何の事は無い普通の光景である。もっともそれは“今は”の話であるが―― 「皆さんー! 今すぐここから逃げて下さーい! 上流のダムが放水しますー!」 周囲を散策していた一般人に、拡声器を片手に声を張り上げるのはアゼル ランカード(BNE001806)だ。 ――ダムの放流。巻き込まれてしまえば危険な事案であるソレは、人々の恐怖感を煽る口実として実に的確だ。意識的に人はここから離れなければ、という焦燥感に駆られる為でもある。 まぁ実際にはダムが放流する事は無く、唯の嘘なのだが……それでも効果は間違いなくある。 「ダ、ダムだって? 本当なのかいそりゃあ?」 「ああ、その上に連日の雨のせいで土砂まで流れて来てやがるんだ! 早く逃げてくれ!」 訝しむ一般の男性に畳みかける形で言葉を繋ぐ『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)。 さらに、怒鳴りつける言葉と同時に結界を展開。内部にいる一般人に言い様の知れない圧迫感を与えようと試みる。少しでもここから離れる効果を助長させようと言う訳だ。 「分かった、けどなんでアンタらはそんな事を知って?」 「いやー実は、テレビ見てたら速報で流れましてー。川付近に人を見かけたのでこれは伝えないといけないなーと思った次第ですー。一日一善なのですよー」 一般人の疑問にアゼルが返答を。この説明ならば一応エルヴィンの説明とも食い違いは無い筈だ。少なくとも怪しまれるようなことは無いだろう。 「そうか……んじゃあアンタらも早く離れなよ?」 「はいーあたい達もすぐに帰りますから大丈夫ですよー♪」 この場を離れる男性の言葉に、アゼルが陽気な言葉を返しながらその姿を見送る。 これで良い。結界も展開しているので、一度ここから離れれば余程の事が無い限り戻ってくる事は無いだろう。 「周囲の一般人は全員遠ざける事が出来たみたいだな」 レインコートに身を包む『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)が、武器を片手に準備を始めた。――戦闘の、準備だ。 「それじゃあ、このまま河川敷を川沿いに上流へ向かいましょうか。そうすれば接敵も早いでしょうし」 そう言って視線を上流方面へと向ける『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)。 泥玉がやってくるのはそちらからだ。いつやってくると知れないそのふざけた存在に、自然と警戒を強めていた――その時。 「……来た」 『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)の目に、ソレが映った。 球体の形を伴ってこちらへと向かって来ている泥玉の姿がだ。それらは皆一様に手足が生えていて――壮絶な女走りを行っていた。 ●女走り、襲来 「…………何がどうなったらあんな事に成るんだ……」 龍治は思わず頭を抱えそうになる光景に色んな意味で戸惑いを隠せない。 何なのだろうかアレは。泥のエリューションと言う事自体はともかく、なぜ女走りしているのだ。一体何があった世界の神秘。 「でもあんなのでも一般人取り込んでる時点で厄介だしね……気を付けて行こう」 敵の姿を確認した『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)が自身の能力を底上げしつつ言葉を紡ぐ。 「泥玉の動きは俺が押さえるから――その後は頼んだぞ、淳」 「ああ、任せてくれ。私は私に出来る事をやるよ」 結城・宗一(BNE002873)の言葉に頷きを返す『背任者』駒井・淳(BNE002912)。 この依頼における最大のポイントは“取り込まれている一般人をどうするか”だ。被害者を助けるにはどうするか、考え抜いた末に出した結論の一つが“取り付いて助ける”事に収まった。後はそれが上手くいくかどうかだ。 「さ、それじゃあ楽しく愉快な泥遊びの時間だな……」 向かってくる泥玉。エルヴィンはその距離が段々と詰まってきているのを見据えながら、 「……絶対に、負けてたまるかよっ……!」 皆と共に駆けだす。 泥玉を下流にまで逃がす訳にはいかない。早急に被害者を救出し、片を付ける必要がある。 「皆さん、ひとまず援護しますー!」 アゼルの声だ。彼はまず、皆に小さな翼を与える行動に出た。 泥玉に取りついた際に素早く脱出出来る可能性を広げるためである。翼で脱出できるかどうかはその時の状況によるだろうが、無いよりはあった方が断然良いには違いない。 そして、 「人を取りこんでいる泥玉は……!?」 国子が絶対音感を利用し、中に取り込まれている被害者が居ないかの確認を開始した。とはいえ、絶対音感はあくまでドレミの音を完全に聞き分ける事が出来るだけ。雨の音や泥玉が走る音の方が鮮明に聞こえる為、中に被害者がどれだけいるか完全に確認するのは困難だった。それでも、 「――この泥玉には取り込まれている人が、いるっ!」 一つの泥玉だけだが、妙な音を発しているのを捉える事だけは出来た。中に何人いるのか、それは確認できなかったがそれでも確信のある答えを得た国子は、泥玉の泥を削り取る為にリボルバーの一撃を加える。 「皆聞けっ! 真ん中の奴からは二つ音が聞こえる! 他のからは一つだけだっ!」 龍治の指示が飛ぶ。集音装置を持つ彼の耳は国子よりも正確に音を捉える事に成功。泥玉の中に一体どれだけの人数が居るのか把握する事が出来た。 さりとて、判明した事実は非常に面倒。全ての泥玉に最低一人はいるのだから。 「しかし泣き事言ってる暇は無いな……ひとまず俺は二番目に早い奴を止める!」 「なら俺は右の方を止めるとしようかっ!」 そして、ほぼ同時に動いた影が二つある。宗一とエルヴィンだ。 宗一は二番目に早い、左に展開していた泥玉を。エルヴィンはリベリスタ達から見て右側を突っ走る泥玉のブロックに取り掛かる。これ以上先に行かせる訳にはいかないのだから。 「私は遠慮なく行くわよ。泥団子相手に時間を掛けるつもりは無いわ」 後方。泥玉をブロックする前衛を援護する形でアンナは攻撃性を伴った聖なる光を放つ。 戦場を呑みこむ勢いで全体に広がる光は、三体の泥玉いずれにもその影響を与え、纏う泥を削り飛ばした。 「ふん、純回復手の魔力――舐めるんじゃないわよ」 不殺を伴った攻撃だ。攻撃である為、下手すれば中に居る一般人にも被害が及ぶ可能性はあるだろうが、しかし不殺である為に死ぬことは無い。 もとより完全無傷での救出は難しい以上、この攻撃方法は非常に有効であると言える。 「これが……戦いか……!」 守護結界を張った後、宗一が押さえる泥玉に向かう淳は初陣の雰囲気に少しばかり呑まれていた。証拠に、僅かだが膝が震えている。黒のローブで隠しているとはいえ、自分自身には隠せない。 ……我ながら情けないな。自分の子供と変わらない年代の同僚が、英雄のように頼もしく見えるとは。 内心でそう思いながら、彼は駆ける。今はとにかく自分に出来る事を果たす為に、 「被害者は必ず助けて見せるっ!」 取り付いた。直後、己が右腕を泥の中に突き込んだ。 被害者を救出する為に泥をかき出し、暴れる泥玉を宗一と共に押さえつけて彼は泥の中を付き進める。自分が呑みこまれようと構わない、そんな勢いで。 「全く、柄じゃないわ汚れ仕事なんて」 次いで、クリスティーナも泥玉に突撃する。狙いは国子が押さえている、被害者が最も取り込まれている泥玉。 「柄じゃないけれど、ね。偶には良いかしら――泥塗れなのも」 淳と同様、クリスティーナは泥の塊の中にその手を埋め込ませる。 すると直ぐに手応えはあった。二人分取り込んでいる為だろう、接触が早かったのは。 確かな感触を得つつ、クリスティーナがソレを引っ張り上げる。泥の抵抗が強いが、逃しはしない。全力を行使して引き寄せた。 「まずは一人、ですねー!」 アゼルが歓喜の声を出す。 状況は一歩進んだ。この調子で行く事が出来れば全員救出する事も出来るだろう……と思ったその時。敵の周辺でブロックしていた者達の視界をある物が覆った。 ――泥だ。 ●泥ビーム 「あれはっ――!」 アンナは視た。泥玉から、まるで吐きだされる様な動作でリベリスタ達に泥がぶちまけられたのを。これは、抵抗だ。 泥玉達が邪魔をするなと言わんばかりにリベリスタ達に抵抗の意思を示しているのだ。 「ホント、どこがユニークなんだか……! 充分厄介じゃないか――ぐっ!」 国子がくぐもった声を洩らす。何故か? それは人間形態の泥玉が、国子の首筋に強烈なチョップを叩き込んだが故だった。急所に叩き込まれたその一撃のダメージが、全身へと重くのしかかる。 「向こうがまずいか……だがこっちは掴んだ! 引っ張ってくれ!」 「了解ですー!」 しかし泥玉の攻勢に押されてばかりでは無い。被害者救出に当たっていた淳が、その手にとうとう感触を得た。空に式神の鴉を撃ち上げ、味方に連絡を入れれば、事前に腰に装備していたロープをアゼルに託す。そしてそのまま援護を頼み、 「引きずり出せたかっ! よしっ、二人とも離れてろ――!」 タイミングを見計らった宗一がブロックを解除。武器を手に、激しい電撃をその身に纏えば。 「このまま、砕け散れえぇぇ――!」 横打ちでその剣を振り抜いた。 激突と共に、敵の血肉たる泥の塊が幾重にも弾け飛べばソレは唯の泥と成り果てる。 「一つは片付いたか……なら俺も、踏ん張るとするかっ!」 泥玉と相対するエルヴィン。 敵が一つ潰れたのだ。ならば多少攻勢に出ても問題は無かろう。それに、敵もどうやらやる気の様だ。球体状になっている泥玉、それが目の前で回転速度を高めているのだから。 恐らくはこちらを取りこむ為に突撃しようと言うのだろう。望むところだ、ならばこちらは逆に中に居る人質を救出するのみ。 「っ、ォォォオオ――!!」 泥と人が激突した。 片方は救うために土を抉り、もう片方は取り込むために土を抉らせていく。 押さえ、踏ん張り、それでも掘り進めてそしてその手は―― 「――取ったっ!」 遂に内部の者へと届かせる。しかし、その身は既に半身が泥に埋もれて、自由に動かす事が中々叶わない。 このままではまずい。手が届いても脱出出来ないのでは意味がない。 この状況、如何にして突破すべきか―― 「やれやれ、無茶をするわね……!」 そんな時だった。アンナの声が後方より飛んで来た。 同時に輝く光。先程も使用した神気閃光の光が再び戦場を包みこめば、泥玉達の勢いを削いだ。 「援護するぞ! その後すぐに脱出しろっ!」 直後、龍治の狙撃がエルヴィンを取り込もうとする泥玉の体を穿つ。 エルヴィン自身と被害者がいるであろう地点を僅かに避けて直撃した弾丸は、泥玉に空白の円を作り、彼に動けるスペースを与える。 そして間髪入れずエルヴィンが被害者を連れて泥玉から脱出を果たせば、 「じゃあな泥玉。さっさと元の土に帰るこった……!」 龍治が魔力を込めた第二射の引き金を絞り上げた。 貫通力を高めたその一撃は真っすぐと泥玉の中心点に向かい、疲弊した泥の体を完全に崩壊させる。 ――ここまで来た。 一番の難解だった被害者救出は成功し続けている。残った泥玉も後一体。中々に順調な成果だ。 しかし忘れてはならない。リベリスタ達の目的は泥玉の殲滅だが、泥玉達の目的はリベリスタを倒す事では無い。そう彼らの目標は―― 「ここを……突破する事っ……!」 首筋という急所に一撃を叩き込まれた国子は、意識が若干朦朧としながらも未だに健在。最後の泥玉を必死に留めつつあった。しかし、国子を突破しようとする泥玉の勢いは凄まじい。 「でもまだよ。まだ突破させないわ――ここまでやって来たんだから」 クリスティーナもまた、国子と共に泥玉の突破を押さえていた。 だが、攻勢に中々出る事が出来ない。泥玉の中に、最後の被害者がもう一人居るからだ。直ぐにでもまだ泥玉の中に突入すれば良いのだが、先程からこの人間形態の泥玉が回避に専念して自分達を突破する事に集中しているので中々取り付く事が出来ない。 その上一見無駄なんじゃないかと思うようなトリッキーな動きも多用している為、行動も予測しづらい。本当になんなんだこの泥玉。 「ともかく、それなら脚を先に止めてみようか!」 国子の狙った先、それは泥玉の脚部だった。 機動力を削ぐ意味でもある上、ここならば被害者も居ない。唯一安心して攻勢にでれる攻撃ポイントであったそこを狙い、銃弾が飛ぶ。 「っ、今がチャンスね……」 一息遅れさせて、クリスティーナが泥玉に二度目の突撃を敢行する。 銃弾の直撃、それとタイミングを合わせるためだ。一瞬ふらついた泥玉の隙を狙い、再び接敵する事に成功する。 ……のだが、 「なっ――この泥玉……!」 国子の表情が驚愕に変わる。 彼女の攻撃によってバランスを崩した泥玉だったが、転んでもただでは起きなかった。 いや正確に言えば“起きた”のではなく“転がった”のだ。つまり、 「人間形態からそのまま球体に……!? これは、まずいですー!」 増援として向かっていたアゼルが声を飛ばした。あのままでは、まずい。泥玉はあの状態のまま転がろうとしている。ならば、取り付いているクリスティーナが危ない。 「……大丈夫よ」 されど、彼女の声は冷静だった。 「協力し合う事も知らない泥玉に、負けるなんて――絶対に無いからっ」 彼女は泥の中に手を伸ばす。 回転する泥玉に引きずられて、徐々に中に取り込まれながらも彼女は探す。最後の被害者を。目が回る感覚を得ながらも、まだ大丈夫だと言い聞かせて。そして、 「――っぅ!」 目標を掴み取り、そして遠心力そのものも利用しながら強引に自身の体を泥玉から引き離す。 河川敷の草むらに体が打ち棄てられる形となるが、そんな事は意に介さず彼女は体勢をすぐさま立て直し、武器を構える。巨大な、魔道砲を。 「力を合わせるってどういう事か、思い知らせてあげる……わ!」 言葉と共に、泥玉がいる地点を中心に炎を発生させる。噴き上がる炎が泥玉を捉え、その体を焼く。たまらず泥玉は回転しながらその場を逃れるが、 「さっきのチョップの、お返しだよっ!」 そこには短剣を構えた国子が居た。待っていたと言わんばかりに連続攻撃を泥玉に叩き込めば、見る見るうちに泥の容量が減っていく。 「さぁ泥野郎――こいつで、終わりだ!」 削られる泥玉を射程圏内に捉えた龍治が銃口より火を吹かせる。 正確な狙いを伴ったその一撃は、先程同様泥玉の中心点を抉り取った。もっとも、先の攻撃と違い貫通力はそこまで高くなかったが――攻撃を受け続け、小さくなっているのならそんな事はもはや関係無い。 最後の泥の塊が、今完全に崩れ落ちる音がした。 ●泥は流れて 「終わったか……」 初陣を無事に終えた淳が、誰へと告げる訳でも無く、口から言葉を自然に洩らしていた。 膝の震えはもう無い。事態の収束と同時に、それは収まっていた。 「救出した一般人達は――どうやら、皆無事みたいだな」 「ああ、だがまぁ流石に病院に連れて行く必要はありそうだが……」 エルヴィンが気絶している一般人達の様子を見、宗一が言葉を紡ぐ。 宗一の言う通り、無事ではあるものの流石に泥玉のエリューションに巻き込まれて完全に無事と言う訳ではない。とはいえ重大な外傷は無いので焦る必要は無いのが幸いか。 「……いずれにしても、一旦ここから離れましょうか。あまり長く居る理由も無いし」 「そうだね。……ううっ、ちょっと首が痛い」 アンナの言葉に賛成しつつ、国子は首元を押さえながらその場を立ち去って行く。チョップが叩き込まれたのが急所だった為か、ダメージが残っているようだ。とはいえ重い傷では無いので安静にしていれば直ぐに治るだろう。 「……1+1は1なのかもしれないけれど――」 最後に一度、クリスティーナが武器を仕舞いながら河川敷に振り返り、言葉を紡ぐ。 「――幾つ集まっても1人は、寂しいじゃない?」 それは彼女なりの勝利宣言。いくつ集まっても1つである泥玉達に対する皮肉でもあるかもしれない。 何にせよ全ては終わった。 エリューション、泥玉。残存数――0。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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