● 「世界は公平じゃないよねー。残念ながら」 セーラー服の上に羽織った白衣がどんどん変な色になっていく『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、うあははは。と、不穏な笑い声を上げた。 妙齢なリベリスタさんが、つり橋効果の真偽を見定め、共に歩いていく伴侶をたしかに定めるには十分な時間が経過した。 そんな中、『結婚式で花嫁が行方不明になる』という事件があちこちで勃発。 行方不明になった花嫁は、行方不明直後、実家に現れるので、『突発性マリッジブルーによる花嫁脱走」ということになっているが、ウェディングドレス姿で移動する花嫁を誰も目撃していない。 この国民総パパラッチの世の中でそれはありえない。 要は、超常の出来事である。 「お察しのことと思うけど、花嫁さん、みんな、知名度がかなりあるリベリスタさんだったんだわぁ」 御仕事楽しくていい感じに頭に脳汁が回ったフォーチュナがかぎつけたインターネットサイトには、『結婚するのは祝福するけど、結婚式は挙げないで!』というなんとも言えない複雑なファン心理がどろっどろだ。 犯人が捕まるまでは結婚式を控えた方が良いのでは……。 自粛ムードが漂いはじめた三高平。 その中にあって、夫婦の誓いを立てる一組のカップルがいた。 カルラさん壱和さん、挙式遂行。 「――E・フォース『オヨメタンゴーホーム』の出現が確定です。おめでとう、ドンドンドンパフパフ」 挙げると決めたとたんに、予知されるそんな未来確定。 そんな祝福の仕方されても嬉しくない。 心なしか不安げな新婦・壱和。 お尻尾が巻いてしまう。 『今日から君は奴のものっ! それはいいけど、人前で愛を誓ったり指輪交換したり、ベールめく足り、公開でチュウするとか、そんなのだめだよ!』 そんなこっぱずかしいこと、するもんだと決まってる結婚式でやらなかったらいつするんだ、バカヤロウ。 やったらやったで、リア充爆発しろとか言うんだろ、バカバカバカバカ。 ふわふわベールも、踏んだら足の項を骨折させるでっかい底厚靴も、キラキラティアラも、裾を長く引くウェディングドレスも、一度は着たい女の子達の一生一度のエクスキューズなんだ。 「結構出現はしてるの。ほぼ無害なんだけどさ。E・フォースに恐れをなして逃げるような旦那からは強制回収。おまえなんかに任せちゃおけねえって。ま、実際、新郎のあまりに卑怯な立ち回りっぷりに、入籍取りやめになったケースもあってね」 君らの場合は、そういうことなさそうだけど。と、フォーチュナは笑う。 「『オヨメタンゴーホーム』は、花嫁さんを実家に連れてっちゃう透明な梱包財といおうか、でっかいくらげといおうか――バブルサッカーのかぶる奴のおっきい奴みたいなもんですけどね。そんなの、招待客という名のリベリスタ様ご一行がいれば何の問題もないでしょ」 集まった仲間や大切な人がいれば、不安は払拭される筈。 さあ、不逞の輩を退けて素敵な式を挙げましょう。 「透明なロケット風船がいっぱい積層してるような外見ですから、割るといいです。中から、花とかライスシャワーとかツンデレな祝福メッセージカードとか出てきますから、ちょっと楽しいかもしれない」 だから、祝福してるって言ってるじゃないか! ただ、教会から出てくる君を見たらきっと泣いてしまう。 ずっと、ファンだったんだもん。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年08月25日(火)23:04 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● オルガンの音が賛美歌を奏で、ヴァージンロードを静々と花嫁は祭壇にむかって歩いていく。 待ち受ける神父、『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)は、柄にもなく感慨に浸っていた。 (壱和さんとカルラさん…とうとう、二人も結婚するんですね) 新婦『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)を今か今かと待ち構える新郎『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は、さすがに緊張気味だ。 エリューションが降ってくるとなればなおのこと。 聖堂は、そこにいるのが当たり前になった『揺蕩う想い』 シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)が、『静謐な祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)と何日もかけて飾り付けた。 結婚式にふさわしい華やかな花や蜜色のキャンドル、たっぷりとドレープをとった白い布は、やわらかな陰影を聖堂にもたらし、前途ある二人を祝福している。 (結婚式。これから一緒に歩んでいきますって誓いの儀式) アリステア・ショーゼットは、ある日ふらっと三高平から姿を消し、戻ってくるまで数年を要した。 何があったか、彼女は語らない。 だから、誰も何も聞かない。 高校に復学し、今は短大を休学している。 判読不能なラブレターを書いて、読んでもらえなかったと泣いていた少女も成長するのである。 「なのにどうしてこう無粋な出来事が起こるかなー」 ぶわんぶわんとおっこちて来るのは、ロケット風船を束ねたような、祝福はするが結婚式はいやんという屈折したファン心理が練りあわされたものだ。 同じ場所で注ぎ込まれる大量の想念は個を失い絡み合って、E・フォースになることがある。 電脳世界で肥大したそれは、時々現世に影響を及ぼす。 今回が、手ひどい祝福になるか、花嫁の前で花婿の不貞や本性が露呈するかは、神のみぞしる。だ。 もちろん、今回の花婿に限っては露呈されて困るようなことはない。 「宣誓か誓いのキスあたりかと思っていたのに、こらえ性のない――」 式次第に集中し、よい結婚式を。と、決意していた聖がぼそりと漏らした。 新郎新婦の前に立ちふさがるために、祭壇を降りる。 「此処は今、神聖な誓いの場なんですよ。気持ちは分からないこともありませんが……」 赦しは共感から始まる。 「自分勝手な都合で邪魔しに来てんじゃねーよ」 だが、きちんとお仕置きはする。 (壊れ物はみんな取り除きましたけど、この聖堂自体は大丈夫でしょうね) 神父にしてこの建物の管理者である聖が気になっているのは、この建物で起こる戦闘で崩落や崩壊が起きないかという一点のみだった。 聖が来たときは、廃墟と紙一重だったのだから。 あの春に心配していたのは、世界そのものの崩界だったのに、世はそれなりの乱れもするけどおおむね問題なし。 それが世界中のリベリスタが死力を尽くして勝ち取った結果だ。 だから、と、参列者は考える。 幸せになって何が悪い。 ハッピーエンドのラストは、『いつまでもいつまでもしあわせにくらしましたとさ」なのだ。 「二人の為に、あと三高平の皆の為に。困ったさんは速やかに退場して貰わなきゃね」 ね。と、アリステアは晴れやかに笑った。 シュスタイナは、当たり前でしょ。と頷いた。 「(結婚式だーっ)」 高校生活も二周目、強くてニューゲームのシーヴ・ビルト(BNE004713)は、声の音量を抑えて感嘆する技術を習得していた。フロム女子高生。 後五回は高校生してもいいというエターナルハイスクールスチューデント志願者。 長きを生きるフュリエにはそれもよかろうな進路選択だ。 おそらく見た目も変わるまい。 (赤い布、ゴロゴロしたの楽しかった) 静々と花嫁が進むバージンロードに赤じゅうたんを引いたのは、シーヴだ。 (あっ、壱和さん綺麗なのですっ幸せそうでにまにましちゃうっ) 壱和がブーケの下から小さくシーヴに手を振った。 念積体がおいたをする前に新郎に駆け寄るドレスの裾がひらひら揺れるのにうっとりする。 (はっ、これが世に言う愉悦っ えへへ、幸せになーれっ) だから、これは祝砲。 引き抜いた二挺拳銃、蹴り捌くバトルドレスの裾。 「さあ、一緒に祝いまくるのです!」 号砲一発。 銃弾を喰らった念積体は破裂し、祝福の紙ふぶきが降ってくる。 「聖堂……」 アリステアは天井を仰ぎ見る。 大丈夫。聖堂、まだぴかぴかだよ。 「壊れたら後が大変だし、お片づけも嫌だから通常攻撃で倒すよ」 二人を見守りつつ、 Eフォースが現れてもいいように周囲に気を配っていた。 ため息混じりに握る杖。 神秘攻撃という杖アタックは、謎の力場が生じているので物理より痛い――というより余剰ダメージである。 消し飛ぶ念積体。飛び散る紙ふぶきに花吹雪。 「人生できっと一番幸せな時を邪魔しないでよね」 シュスタイナは、もう少し大事にしているものが違った。 「二人の衣装はなるべく汚したくないじゃない? それにこういう手合いは気に入らないわ」 新郎新婦をかばえる位置に進み出てきて、聖に並ぶ。 「折角のお祝い事の邪魔をする奴なんて、塵となって消えてしまえばいい」 にこやかにそういうシュスタイナは、聖に微笑みかけた。 「建物に被害は与えたくないけれど……」 おねだりするように言った。 「聖さん。壊した部分はちゃんと直すから」 ここで、いいえ。と言えるだろうか。 「ふむ」 一発ぶっ放して、どうやら聖堂は大丈夫。と、確信を持った神父は、ふわふわと舞い降りてくる「オヨメタンゴーホーム」を蜂の巣にした。 「はい、シュスカさん。ご存分に」 ● 「新郎新婦の初めての出会いは、オフィス街のビルの狭間に救う大こうもり型エリューションの討ば……っ!」 音声が自動再生されるカードがしゃべりだした。 友人代表スピーチの押し売りらしい。 今はインヤンマスターだが、当時の壱和は、最初期のレイザータクト。 新しいジョブにみなが手探りで連携を模索していた頃だ。 その作戦参加者の半分はレベル1のレイザータクト。 壱和はその中の一人だった。 そのしばらく前に初陣を飾っていたカルラは、自分が教わったことを壱和たちにも教えたのだ。 (その時は、想像もつかなかったよな……) 神のみぞ知るとはこのことだ。 (あの時は、気負い気味に見えて少々心配だったが友人になって、段々と距離が近づいて、誰よりも傍にいるようになって。 とうとう結婚か……感慨深いな) バージンロードを歩み終えた壱和が涙ぐんでいた。 その手を介添え人から渡され、ぎゅっと握る。 (右も左も分からないで大変でしたけど、色々教わって、こうして。不思議な縁ですこの服も。もう胸いっぱいで) ウェディングドレスの肩にケープのようにかけられた長ランは、ずっと壱和の防具としてだけでなく、その心を支えていたものだ。 カルラと壱和の交友は、大事なところがうやむやのまま始まった。 今でこそ娘盛りの壱和だが、出会った頃はまだローティーンだったし、男だか女だか隠していたので、風貌も明らかに体にあっていないバンカラ長ランを着ていた。 華奢に見えるのは女子だからか、服がでかいからかあいまいだったし、当然ボディラインは見えないし、さらしでそもそも寂しい胸を潰してたし、カルラは壱和が好ましく思えれば思えるほど、忌まわしい四足歩行生物が近づいてくるのを感じていたのだ。 三高平には稀によくいる。 「えへへ、結婚式万歳♪ 結婚式万歳♪ もう一個おまけにばんざーいっ♪」 シーヴは、協会の十字架さんのリクエストに答え、どこも壊れない辺りをめがけ、大きい一撃を御見舞いする。 シーヴを拘束しようとする念積体は、ぱちんぱちんと破裂して、そのたび花やライスシャワーや天使のARエフェクト、挙句の果てには花嫁のスライド映写まで飛び出してくる。 「どれだけ愛してるかって?」 念積体に取り囲まれた新郎の拳が、赤く光る。 カルラの拳が光って、唸る。、 「男女どちらか分からなかった時でも、『こいつとならやっていける』って思うくらいだよ!――男同士でもと思いつつ、最終的にノーマルで安堵した部分は否めないですが」 最後なんて言ったの、小声なうえ早口で爆音にかき消されてよく聞こえなかった! 「わかるか? 俺の安らぎは、俺のもんだ。まとめて吹っ飛んで、派手に祝いやがれっ! ストォム! スタンピィィト!」 全ての念積体に降り注ぐ赤い閃光、かわいらしい破裂音。 万が一にもお嫁さんや参列者に死傷者でてはいけない、絶対。 「どっちでも構うものか、壱和は俺の唯一無二だぁ!!」 大聖堂の高い天井に、カルラの叫びがこだまする。 『その言葉を待ってたぜ――!』 新郎の確かな愛を確かめたい。 ファンの願いはそれだけだ。 今、憂いの晴れた、ファンたちの念積体は浄化され、祝福一色に彩られた。 神父に降り注ぐ光の粒、色とりどりの花びら。 きれいだよ、壱和。 今、この瞬間、世界で一番きれいだよ! 「しっかり録画して、ドイツの養父に送ってやらんと――」 念積体・男気見せろや部隊、昇華! 「カルラさんは料理も上手ですし、膝枕もしてくれたり優しくて、たまに、ボクから膝枕する時もあるんですが、カルラさんの寝顔はとっても可愛いんです」 参列者から冷やかしの口笛が聞こえる。 深化で外見の中性化が進んだカルラは赤面するしかない。 「シュスカさんの寝顔も可愛かったですけど、カルラさんに感じる可愛さは違うんです。ぎゅっとしたくなったり、ちゅうしたくなるような、ずっとそのまま、一緒に居たいって思うんです」 オヨメタンゴーホーム・リア充爆発しろ嘘するな代わりに俺が爆発する部隊がゴチソウサマと爆発した。 「他の誰でもなくて、カルラさんだから、ボクはボクの全部を、カルラさんにあげたいって思います」 どっかーん! 花嫁が引き起こした爆発が、聖堂を最も揺らした。 歓声的意味で。 カルラが感極まって脳貧血を起こした。 俺のお嫁さん、すごく可愛い。 「カルラさん!? 大丈夫ですか? カルラさんには傷一つつけさせませんから!」 (あぁ、この笑顔だ) カルラを守る、カルラが守る笑顔は世界中で一つだけだ。 (これを見ていられるから、俺は軽々しく死ぬもんかって思える) 「傷一つない。暴れる祝宴が終わったら、きちんと誓いをしないとな」 ● 神父は祭壇に戻り、止まっていた賛美歌が再び聖堂に響く。 「誓おう」 「誓います――今日も明日も、この鼓動が止まるその日まで」「明日も明後日も、この命が燃え尽きるまで」 「今も一緒に緊張してる貴方の顔を、隣でずっと見つめています」 「隣で見つめてくれるお前の笑顔を、守り抜くと」 どうやら、花嫁の方が一枚上手のようだ。 「カルラさん」 友となり、恋人ととなり、今、妻となった、何も変えがたい人がカルラを見つめている。 「愛しています。ボク、今自分でも分かるくらい笑ってるんです」 「震えてる」 「はい」 花嫁は、ベールを上げる新郎の指を感じながら目を閉じる。 「武者震いです」 誓いの口付けを交わす二人の門出に、幸いあれかし ● 式の混乱が収まりかける喧騒の中、するりと抜け出そうとしている真っ白な背中。 「ほんと、馬鹿よね……」 語尾はかすれて、祝福のクラッカーの音にかき消された。 (馬鹿姉に取ってこの街は居づらいの、知ってる) アリステアの喜びも悲しみも負い目も誇りも全てこの町に起因している。 だから、シュスタイナは何も言わずに見送る。 「いつでも帰って来て頂戴」 ここが、あなたの帰る場所。 遠ざかり過ぎない、近寄り過ぎない。 それが双子のありよう。 「アリステアさん、シュスカさん!」 二つのブーケが、白と黒の双子の手元に投げ込まれる。 戦場を把握しつくすレイザータクトの昔取った杵柄をなめていけない。今だって、符は投げるものだ。 「お二人も幸せになってほしいですから――!」 どうか、受け取ってください。 花嫁さんは、結婚式の日は奇跡を起こせるんですよ。 「いぇ~い、みっしょんこんぷりーとっ♪」 参列者みんなではいたっち。 「「「「お幸せに~!」」」」 のユニゾン。 「ね。壱和さん。生活が落ち着いたら、お家に遊びに行ってもいい? シーヴさんも良かったらご一緒に。カルラさんもいて下さると嬉しい」 だって、最初は三人で遊んでいたのだ。 中性的なカルラ、性別不明の壱和、そしてシュスカ。 いつの間にかそれぞれオトナになった。 シュスタイナが壱和に話しかけるのに、聖は目を細めた。 (……シュスカさんにとっても、良い結婚式となっていれば良いんですが) そしていつかはこのバージンロードを自分に向かって歩いてほしい。 そんな聖が、シュスタイナが、自分に白いドレスは似合わないから、結婚式には縁がないとか、聖がそんなこと考えてないだろうとか考えていることが知って必死になったのはまた別の話である。 「さーておわ」 結婚式での忌み言葉は事前に確認しておきましょう。 花嫁からささやかな腹パンを喰らった花婿は、ごふぅ。と、小さくうめいた。 「壱和さん取られたなーってちょっとだけ悔しいけど――これで勘弁しましょ」 大丈夫。シュスカの腹パンなんて、神秘の四分の一強だよ! すごく急所をえぐるけど! 「あ、新郎にこうかなぁ?」 シーヴの腹パン、痛くないけどやっぱり急所に追加ダメージ。 うん、そこレバー。 「ふにゃ、違うの? 赤い涙流した人とかこうするってよく言ってるらしいのに、ふにゃーん」 シーヴはきょろきょろしている。泣きそう。いや、まちがってはいない。 念積体、「オヨメタンゴーホーム」より厳しい三高平在住リベリスタが見てる。 ダウンしていたら、説教である。参列者の目がそう言っている。 「な、ないすぱんち……」 (だが終わらんよ、フェイト使用だ) ダウンしない新郎に参列者から惜しみない拍手と回復が飛ぶ。 結局今すぐにはされないことを悟ったアリステアが、機械仕掛けのご都合主義という名の神を招いていてくれた。 「笑って――」 お開きにしようぜ! この後、三高平で式を挙げるリベリスタは、念積体を避けるため、新婦入場の前に新郎に友人有志が腹パンを食らわせ、その度量を示すという風習が芽生えるのだが、それはまた別のお話。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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