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<Baroque Night Eclipse>捨てられる前に、世界を捨てよう。


「三ツ池公園でアシュレイがろくでもないもの呼び出すのはわかってた」
 赤毛のフォーチュナ、『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、げっそりやせ落ちている。
「で、ディーテリッヒ、アシュレイに殺されちゃった。と言うか、殺されてあげたが正しいかな。理由は――美しい決勝戦のために」
 以前にも、某フィクサードの心情をスポーツトーナメントにたとえたフォーチュナは、今回はぁと、死線をさまよわせる。
「今まで練習時代にも出てこなかった第一シード校の幻のエースが、あっちこっちの強豪校を渡り歩いてきて、最終的に第一シード校にきた野望の投手がグローブにかみそり仕込むのを見逃すみたいな感じ?」
 まじめに言えば。と、フォーチュナは言う。
「世の中には、ありとあらゆるものが駒に見える者がいる。ただし、自分も盤上に上げて、いらなければ捨てられるのはそんなにいない」
「常軌を逸した化け物の思索なんて、俺には憶測は出来てもその深淵なんて覘きたくないね」
 さて。と、薄ぼんやりとしていたフォーチュナは、更に言葉を続ける。
「欧州に行っていたリベリスタ達の報告によればあの『塔の魔女』アシュレイの目的は単純にこの世界全ての破滅であるらしい。――女は、「もういい」って言った後、躊躇なくちゃぶ台を返すんだ」
 ええ~い。と返す仕草に力がない。
「極個人的事情からこの世界の存続、この世界の存在自体が許せなくなった彼女は『閉じない穴』を利用して『魔王の座』と呼ばれる究極の召喚陣を生み出す心算――個人的事情なら、てめえ一人が世界から脱落しろよ! って、理屈は、この手のタイプには通用しない。だって、彼女の思うようになってくれなかった世界そのものが許せないんだもん。自分を幸せにしてくれなかったのに、他の圧倒的大多数をほとんど無償で幸せにしてくれる世界の不平等が許せないんだもん。アシュレイはいっぱいいっぱい、常人の数十倍の努力を数十世代分かけて、更にたくさんの人を犠牲にした業を払いに払って、それでも、世界はアシュレイに優しくしてくれなかったんだもん。もう、あんたなんかぶっ壊れてるからなくなっちゃえって言っていいよね?」
 炎天下、脱水症状を起こしている震える指で自動販売機にコインを入れても入れてもジュースが出てこない。
 極寒の中、凍えている満足に動かない、自動販売機にコインを入れても入れてもあったかいお汁粉が出てこない。
 もう、助けてと言える力はないのだ。
 言ったって、誰も助けられないところにきてしまった。
「馬鹿げた程の魔力を要求する召喚陣は彼女と言わず、人間には通常到底制御出来る代物ではないのだが、そこに彼女がアークと結んでいた理由があった。バロックナイツの持つ神器級アーティファクトを蒐集した彼女の目的は、ウィルモフ・ペリーシュの持っていた魔力抽出技術を利用して召喚陣の燃料を得る事だったのだ。つまり、彼女のバロックナイツ打倒の理由は『邪魔者を消す事』、『神器を奪う事』、『ペリーシュの技術を掠め取る事』の三つがあったと言える。アークは幾つかの神器の奪取を阻止したが、それは召喚陣稼働の時間を遅らせる事までにしか作用していない。どういう事情かディーテリヒがアシュレイに与えたと見られる魔力で彼女の必要数値は確保されてしまったからだ」

 ディーテリヒ。黙示録の獣。巨大な魔力の譲渡。
 死んでしまったから、すでに不可侵。
 それゆえ、もう彼の思惑を誰も止められない。
 彼の願いは唯一つ。
 終末にいたるよりよき攻防。
 なにが「よりよき」なのかは、ディーテリヒのみぞ知る。
 だが、彼は、踊るべきは、自分ではない。と、預言書を読む。

「でさあ」
 自分の今までの公爵を一切無視する俗物的発音で、四門は話を切り替えた。
 観念世界で遊ぶのは、全てが終わってからでいい。
「この世界を『無かった事』にするレベルで消し飛ばそうとしているアシュレイが、年単位かけての――バロックナイトに推挙されるあたり、いや、その前か? そんな周到な準備しなくちゃならなくて、それも危うくぽしゃるとこだったっていうんだから、『R-type』どころじゃないってのはわかるけど、規模は――もう、訳わかんない。と言うか、俺にはわかりませんでしたが、我らがイヴちゃんが全部消し飛ぶって言ってる。全部ってことは、存在どころか、存在していた事実までぶっ飛ぶかもね。今まで積み重ねてきたもの、何もかも。因果律の喪失だ。個人レベルに落とし込めば、死ぬのはもちろん、生まれたことさえなかったことにされる。死んだ人間も言わずもがな」
 フォーチュナが何を見ているかは、誰にもわからない。
「それを反証する事象が一切観測できませんでしたので、俺はイヴちゃんを支持します」
 たとえ、観測が圧倒的にずれてたとしてもだ。と、前置きして、、フォーチュナはしれっと言った。
「つうか、普通に日本壊滅するから」

 そして。
「非常に不確定要素の大きい情報なんだけど――ディーテリヒの持ち物だったと推測されるんだけど――戦乙女の一がアーク本部に捩れた白い槍を置き逃げしてった。本物の『ロンギヌスの槍』っぽい。少なくとも、それにそん色ない神秘現象を引き起こすことは出来る。控えめに見ても。詳しい経緯もわかんない。取り説もついてない」
 ホスピタリティがなってない。と唸るフォーチュナはモンスターユーザーのようだ。
「研究開発室の分析結果では、総ゆる神性と神秘を殺す因果律の槍はこの世界の末期病巣――つまり、『閉じない穴』を殺す性能を秘めている可能性が高い、という話です。つまり、ゆがんだ「魔法陣」の方をなかったことに出来るわけだ」
 ロンギヌス――それは、絶対的奇跡を殺すモノ。
「アシュレイの計画を阻止し、『閉じない穴』を奪還すれば破滅に楔を打てるチャンスは必ずあると、アークのフォーチュナは観ました」
 だから、がんばれ。
 熱に浮かされたようにしゃべっていたフォーチュナは、そう言って、ようやく、つかの間黙った。


「と言うわけで、みんなの持ち場です」
 三ツ池公園、いこいの広場。
「ここに、『世界なんか滅んじゃえばいいんだ』 な、ノーフェイスが大量になだれ込んできます。アシュレイと面識あったんだかどうなんだかはわかんないけどね」
 それは、いつか見たどんちゃん騒ぎ。
「フィクサード集団『ささやかな悪意』の残存勢力。化け物になった子供が暴れ回るよ。目的なんかない。暴れたいから暴れるんだ。説得なんかは無駄だから。だって、ノーフェイスだから」
 『ささやかな悪意』とアークの交戦は、二線級のリベリスタによってずっと続いていた。
 彼らをあっという間に殲滅するだろう一線級が世界の機器で飛び回っている間、刺激しない程度の規模でちまちまと世界を蝕んでいたのだ。
「彼らは恩寵を得たリベリスタを本能的に憎んでる。ここは、行軍の要所。池を突っ切るにも、箸を使うにも、ここを確保するのが肝要。排除して、アシュレイへの活路を開いて――世界を救って」
 生きて帰って来いとは、言わなかった。


 首ははねられた。
 手は窓ガラスに突っ込み、足は暖炉に放り込まれた。
 ぐちゃぐちゃに踏み潰された部屋の中、少年と少女の残骸が転がっている。

「誰も彼もが、死ぬ気でいるわ」
 ひじと膝で這い、折れたテーブルの足を破れたテーブルクロスで膝だった部分に固定すると、少年の生首に話しかけた。
「世界の終わりがそこで口開けているからね。誰も彼も、終末にはばか騒ぎしていいと思っているのさ。まだどう転ぶかわからないのにね」
 生首は器用にしゃべる。声帯もないのに。
「また、僕と君だけだね、メアリ」
 そうねと、少女は言う。
「世界が滅びるならそれでも構わないし、それでも夜が明けるというのなら、また愉快な仲間を集めるだけよ。あの面倒な連中と小競り合いしなくちゃならないのは面倒だけど」
 しばらくは動けそうもない。と、少女は、大きなあくびをする。
「僕たちの願いはいつの時代もささやかだ」


 いこいの広場。
「世界が死ねって言うのなら、その前に世界を殺してやる!」
 おとなしくリベリスタに殺されてなんかやらない。
 震えながら、消滅を待つなんて真っ平だ。
 幾多の戦いを経て、それでも生える芝を細い大人になれなかった足が踏みにじる。 
 彼らに明日はない。
 ライナスが毛布を捨てる時。
 それは、終わりを確信する時。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年03月31日(火)22:08
 田奈です。
 アークの邪魔をひっそりとする、そんな『ささやかな悪意』 
 「ささやかな悪意」についての詳細は、依頼検索で「リベリスタならできると託す~」「リベリスタならできると信じる~」をご参照下さい。
 ご存じなくても参加に支障はありませんが、モチベーションが上がることは保証いたします。
 もう、何もかも壊してしまえと言う点だけはアシュレイと一致する、明日がない子供達のスペックはこちら。

 ハードですので、嘘は書いていませんが、あいまいにしている部分はあります


E・アンデッド『パレード改』×16
 *かわいらしい子供に擬態しています。
 *バルネラビリティ・彼らを見ているとイライラします。
   かわいいのに、イライラします。
   神近範・「怒り」付与。ダメージ0.彼らはこの能力に手番を消費しません。 
 *タフです。仲間をかばいます。
 *噛み付き:物近単 「麻痺」付与
 *ひっかきまくり:物近範 「毒」付与   
 *精神無効

ノーフェイス「ライナス」×8
 *中学生くらいです。
 *戦闘となったら、『パレード』を盾にし、遠距離から攻撃してきます。
 *デュランダル、覇界闘士、ホーリーメイガスの専職です。
   中級レベルまでの技を使います。
 *精神無効 
 *傍観を決め込む首魁を襲って、ばらばらにした挙句出奔しました。
  非常に戦闘能力は高いです。

 ノーフェイス「ハッグ・契約発動」×4
 *癒し系マグメイガス覇界闘士風味
 *精神無効

場所:三ツ池公園・いこいの広場
 *地面は、はげかけた芝生です。

●<Baroque Night Eclipse>の冠を持つシナリオの成功数は、同決戦シナリオの成功率を引き上げます。
 失敗は成功率を引き下げませんが、成功する事で決戦シナリオの実質難易度が低下します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスクロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
メタルイヴプロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ジーニアスクロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
ハイジーニアススターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
フライダークホーリーメイガス
リサリサ・J・丸田(BNE002558)
ハイジーニアスクリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)


 三ツ池公園・いこいの広場の土は、異形の血を吸いすぎている。
『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は、毒に当てられたのかもしれない。
「泣きも笑いも喜びもすまい。どれほど悪意にまみれても、かつては人だった。終わらなければ始まらない、介錯をしよう、それが救いになるかは判らないが」
 アラストールの背に仮初の翼を付与した『全ての試練を乗り越えし者』内薙・智夫(BNE001581)の背は、滝のような汗でぐっしょり濡れている。
「捨てられる前に世界を捨てる、かぁ……やけになっているっていう事なんだろうけど、もう少し落ち着いて考えて欲しい気がする」
 くちゅん。で終わるくしゃみが、その女子力を現しているが、防御用マントの下に性能重視で女物の浴衣を着ているのは男気だ。
「結局、そこなんだよねぇ」
『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は、弾丸でずっしり重くなっている二挺拳銃の引鉄の具合を確かめる。
「何がしたかったのか、疑問に思わないでもないけれど……とりあえずは止めるのが先」
 その鉄もとろけそうな熱視線の先には、『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)がいる。
「お兄ちゃんとの世界を簡単に壊させない……!!」
 ダイヤモンドもとろけそうな熱い吐息と共に吐き出される呟きをうっかり耳にしてしまった不幸な智夫の汗が更に背中を滑り落ちていく。
「何時本拠地殴りこみかけてもいいように心の準備はしておいたんだけど」
『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)と『ならず』
曳馬野・涼子(BNE003471)は、エリューション集団『ささやかな悪意』掃討作戦に何度も従事していた。
 本拠地に潜入したこともある。
 言葉少なに頷く涼子は前を見据え、彩歌の前に陣取る。
 痛々しいまでに幼かった女の子は、幾多の痛みを抱えたまま少女を経て娘になろうとしている。
「この状況といい、想定外が続くわね……」
 もっと早く壊滅させることは出来るはずだった。
 世界の危機が立て続けに押し寄せていた、この壱千日足らず。
 アークとて、「ささやかに」毒を撒き散らし続ける連中を放置していた訳ではない。
 ただ、彩歌や涼子達のような『一線級』のリベリスタを派遣するだけの優先順位がつかなかった。
 あるいは、頭を低くしていたのだろう。
 狡猾に。
 同じ年頃の娘を持つ「父」として、忸怩たる思いだった。
『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・丸田(BNE002558)は、魔力の泉を想起させて、仲間の守護を心に誓う。
(皆さんを護ることに全力を注ぎましょう。ここで守りきることが出来たならきっと、天国の母も笑ってくれるはずです……)
 長らく三高平に居を置くもので、温かな彼女の母を知らぬものはいない。
 『死亡ルート』と書かれた旗は、全力でへし折る竜一は、熱源を探った。
 死体の子供に熱源はない。
 小生意気なローティーンはまだ生きている――といって言いのだろうか。
 それは、すでに人としての原形をかろうじてとどめているに過ぎなかった。
 ある者は金属に侵され、ある者は半ば以上をケダモノとなっていた。
 眼窩から翼を生やした娘の頬は、柔らかな羽毛が休むことなくこすっているから、赤く腫れ上がってしまっている。
 関節がばねの軽業芸人、何本も生えた自分の腕をワンド代わりにジャグリングする曲芸師。
 自分の体から生えた楽器を吹き鳴らすスウィングバンドが、アークの新兵の初陣の相手と言うのがここ一二年の定番だ。

「相も変わらず玩具のようだな。不出来で不揃い不細工な、空虚な妄念振りかざす」
『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の舌に悪魔が住んでいないというのなら、『悪意なき普通』とは、「異端者」になんと辛辣なことか。
「追われ終われ。明日がないなら今この場さっさと砕けて消えろ」
 その目どころか、全ての五感を鋭敏に研ぎ澄まし、目の前の雑多な集団をモニタリングしている抜け目なさは、まさしく悪魔の所業だ。
 
 虎美は、毒舌の代わりに、銃弾をお見舞いする。
 蓄積された戦闘経験と、兄に危害を加えるものは最優先で排除する本能の賜物。
 こいつらと戦う時、虎美の銃口からあふれ出す弾丸に最初に貫かれるのは、いつだって死んでいる子供だ。
(同情すべき相手っていうのは……特にパレード辺りはそうなんだけど)
 それは、さらわれた子供の成れの果て。
 この子供の親は、今もこの子を探しているのだろうか。
 腐れた血肉は、虎美の銃弾の嵐に蹂躙されて、四散する。
 三ツ池公園の芝生は、また不浄の血を吸い込むことになる。
(やっぱりお兄ちゃんが一番だから)
「容赦なく潰すよ」
 
 途切れない鋼の咆哮を耳にしながら、ユーヌは微笑んだ。
(竜一と虎美と一緒は面白い。流れ弾が飛んできそうな辺りが)
 実際、その弾丸の有効範囲は広い。
(まぁ、当たらなければどうということはないが)
 どんな標的もぶち抜く妹と、どんな弾丸も避ける恋人に愛されている竜一は、三国一の幸せ者である。代りたい者は極小だろうが。
 ユーヌの手袋からあふれ出す符が連なり、青龍の鱗の一枚一枚を模し、その拠り代として機能する。 
 方位は東。季は春。
 守護する五行は、木。
 その身から、植物の蔓と小枝の矢と大樹の槍衾が、『ささやかな悪意』の上に降り注ぐ。
「まずは、パレードからだ。お前らが逃げ隠れする様は見ていて不快だからな」
 

「世界を殺したければ、先にわたしを殺すことね」
 涼子の手足が大蛇の鎌首のように異形の群れに絡みつき、次々と暴力の中に飲み込んでいく。
 黙示録の暴君が、業圧の帝国を築き上げんとしていた頃。
 じわじわと、ひずみが姿を見せてきていた。
 アラストールの動きが、明らかに精細を欠く。
 いつもよりごくわずか踏み込みが足りない。腕が上がらない。
 そうかと思うと、突っ込みすぎる。
 前線での位置取りがあやふやなのだ。
 突出し過ぎないように留意している竜一、狙いをそろえようとしている涼子との足並みがそろわない。
 始めは後衛にいた彩歌が、アラストールの不調を見とめ、ブロック役として上がってこなければ、奇妙な行列は後衛を飲み込んでいたかもしれない。
 竜一と涼子の蹂躙を裂けた者達が、アラストールに向けてなだれ込んだ。
「楽しかった遠足、楽しかった運動会を忘れません!」
「みんなでした、鬼ごっこ! みんなでした、かくれんぼ! アークのみんなと殺しあったことも、ずっとずっと忘れません!」
 明日を望まない子供達が唱和する。
「今日、僕達、私達は、なくなってしまうこの世界と一緒に、この世界から卒業シマス!」 
 確実に死に至る饗宴に自ら身を投じておいて、死に物狂いの化け物の目が生を謳歌しているから。
 この世界を彼らなりに愛しているから。
 パパ、ママ、僕らはもうすぐ死んでしまうから、死んでしまうなら、一緒に死のう。
 自分の記憶、姿、何もかもが、生来の自分ではなく、借り物であることに気がついてしまったアラストールには理解しがたい境地だ。
「そも、世界は何かを捨てたりしない。ただ勝手に貴方が外れて捨てられたと泣き喚いただけだ」
 アラストールの振り絞る声に、母に殺されかけて覚醒した少女の口が、吊り上がった。
 返り討ちにした母の肉を胃の腑に収めて生き残った少年の目が見開かれた。

 それは、世界と革醒者とノーフェイスの有り様を端的に言ったに過ぎない。
 正論だ。まさしくその通り。

 世界は、選びはしない。

 では、誰が選んでいるのだ?

 ひひひ。
 けけけ。
 きゃはは。
 聞き取れたのは、そのくらいだった。
 その後は、割れ鐘を128ビートで叩くような轟音が、腐れた肉から、まだ生きている声帯から、さび果てた鋼から、まだピカピカの真鍮から、世界の命数を賭けた場所にぶちまけられた。
 人を殺せる笑い声。
 この先、この笑い声を忘れられることはないだろう、呪いに満ち溢れた雑音。
 
「そぉうとも。世界は、オレ達を見捨てたりはしなぁい」
 声にエンジンの排気音が混じる少年が応える。
「世界は、私達と一緒に崩れても是としているわ」
 一緒にはらはらと散りましょうね。と、体中から花を咲かせた少女が、自ら花びらをむしりとり、世界を弔うように地面に撒く。
「ただぁ、あんた達が死にたくないからぁ、あたし達を殺しに来るだけぇ」
 げたげたげたげた。
「死にたくないのはあんた達でしょぉ、リベリスタ」
 ばさばさと、捨てられる黒猫のぬいぐるみ。
 ライナスの正気と、心身の崩壊を食い止めていたもの。
「その毛布が何の何だか知らないけど、それを捨てたってことは、少しは大人になったってことでしょう」
 涼子の呼びかけにこたえるのは、嘲笑。
「ばかね」
「もう死ぬから、いらなくなっただけよ」
 カタチがゆがむ。
 もう、ヒトみたいな形を保ってもいられない。
 だって、もうとっくに、心はヒトではなくなっていたのだもの。

 彼らは、ずっと戦っていた。アークと。
 アークは、ノーフェイスを許さない。
 だから、世界の危機を守るリベリスタ――一線級とは別の、日常を守るリベリスタ――二戦級の名もなきリベリスタを動員して、必死に戦ってきたのだ。
 参考資料として、『2014年度版、『ささやかな悪意』交戦記録』が結構な分量添付されていた。
 それは継続的な泥沼の戦線。
 ほぼ毎日新たな戦闘員がゴーストタウンに投入され、負傷者をの添えて帰ってくる。
 全ての、アークの作戦行動が開示されている訳ではない。
 適材適所。
 ただ、研鑽を積んだチームに詳細が知らされていなかっただけだ。

「なにがしたいかって!? ばっかじゃないの。もう、明日死ぬか、あさって死ぬかなんておびえるのはたくさんなの! 明日世界が壊れるって言うなら、ほんとにそうでなくちゃ困るの。やっぱりあさってもその次もありますとかじゃ困るのよ!」
 滅びるなら、キレイに滅びて。
 そうでないなら、引導を渡してやる。 
「あたしは、あたしのままで死にたい」
「お前達が、アークが、リベリスタが、世界中のまだ世界に執行猶予されてる奴らが、俺たちを切り捨てて、世界を生かすって言うんならぁ」
 ぴたりと、笑い声がやんだ。静寂が鼓膜をきしませる。
「その邪魔をして何が悪いの。どうせ死ぬんだから、みんな一緒にいなくなろうよ」
 
 遠くで、剣戟と銃誓。
 爆発音。
 誰かの悲鳴と歓声。

 誰も彼もが戦っている。
 今宵、一切の例外もなく、この世界の全ての命が、天秤に掛けられている。

 強烈な技は、仲間を傷つける。
 だから、連携が切れやすい。
 気をつけていたはずなのに。
 それはあまりにも唐突で、アラストールが異形の雪崩に飲み込まれるのをとめるには、一歩足りなかった。


 四対も異形も巨大な肉と鋼の塊に。
 それがどぶりどぶりと波打っている。
 巨大なアメーバ。
 竜一と涼子は視線を交わした。
 止めることは出来なくても、助けるために飛び込むことは出来る。
 
 前衛が、敵の体内に突入。
 前線が消滅した。

 自分と他人の区別がつかない。
 みんな一緒になろうよ生きているものも死んでいるものも傷ついたものも元気なものもみんな一緒になろうよそれが完全それが完璧だからもっと大きくなろうよ二度とはなれないように手をつなごう同じものになろう私とあなたは同じものになればみんな同じになれば誰もけんかしないし戦わないしとても平和平和平和平和はいいものいいものでショおおおおおお?

 「だれにだって、ささやかな願いぐらいはある。それは多分、わたしにさえ」
 握り締める武器の名は、「少女の残骸」
 涼子の、自らの未熟さを楯にする季節は過ぎてしまった。
「アンタのそれが世界を殺すなら、わたしはわたしの願いのために。この世界に生きるひととして、戦ってやるわ」
 誰かの利益は、誰かの不利益。
 同じテーブルにつけないのなら、戦って収める。
 それは、公平故に残酷なこの世界のシステムだ。
 夜が開けたら、大人になる朝が来る。
 永遠の夜を遊ぶ子供達を置いてきぼりにしなくてはならない朝を勝ち取らなくてはならない。
 
「飲み込まれるな、アラストール!」
 仲間たちは口々に叫ぶ。腹の底から叫ぶ。
「あんたは、飲み込む方だろう、大喰らい!」
 アークにいる者は誰でも知っている。
 その凛とした美しさを裏切る、無限の胃袋。
「立て! 生きろ! 」
 先陣に立ちはだかるその戦士を知っている。

「合体・融合・個としての自分を捨てたみたいだね。敵の数を単体と確認。防御力はかなり増しているけど、さっきまでの攻撃分が直った訳じゃないし、自分で自分をかばうことは出来ない」
 智夫の敵の分析はきわめて迅速に行われた。
「リサリサさんに回復、彩歌さんは魔力付与に専念。僕も攻撃する。よ!」
 辛苦を共にした手投げ槍の穂先から、神の威光が投擲される。
「回復はお任せを……少々の攻撃ではワタシは倒れません……ご安心ください。皆様は目の前の敵に集中を……っ」
 リサリサの詠唱は、機械仕掛けの神々への複雑な手続きを次々とクリアさせていく。
 「諦めるな。魔力の循環を意識して。活性化させるから同調して」
 彩歌の戦闘計算は、仲間の魔力回路を活性化させ、使用可能領域を賦活させる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、私がいる所でおにいちゃんがピンチなんてありえないよ私はおにいちゃんのためにいるんだよ」 
 銃弾の一撃一撃が、アメーバを引きちぎる。
 見えるのが幸いだ。
 兄は戦っている。時々息継ぎをするように、外気を顔をさらしては肉の中から荒らしている。
「見苦しい駄肉の塊だな。五月蝿い声も聞き飽きた。精々恨んで滅べ。喚くだけなら只同然、何処にも響きはしないのだから」
 連なる符が肉の塊を十重二十重に縛り上げる。
「何も出来ないでくの坊にしてやってる隙に、とっとと出て来い」
 ユーヌの舌に住んでいる悪魔は、味方にも厳しい。


(もう、ユーヌたんは心配性だなぁ) 
 竜一は、口の中に入り込んでこようとするものがちょっと飲んでしまった。
 腹の中が焼け付くと思ったとたんに、飲んだより多くの赤黒いものを粘液まみれの地面にぶちまける羽目になった。
 揺らぐ視界。わりとピンチかもしれない。

 後衛からは、粘体の中でおぼれかけている前衛が見えた。
 リサリサは、戦闘不能を無効化する復活の呪文を保持しているが、高位の神々は戦闘遊戯のあからさまな優位を好まれない。
 一度の選択が、戦況を分ける。
「まだアナタに倒れていただく訳には……外に、すこしでいいんです。手を出してください。お願いします……っ!!」
 慎重な選択の結果だ。
「――結城様!」
「私をひとりにする気か」
 ユーヌの符でぎりぎりと肉塊が絞り上げられ――。
「お兄ちゃん、虎美が助けるよ。いつだって、お兄ちゃんを一番に助けるのは私なんだよ!」
 薄くなった部分を虎美の銃弾が吹き飛ばす。
 お嬢さん達の頼みにこの男が応えなかったことがあっただろうか。いや、ない。
 粘液を突き破る宝刀露草。
 掴み取る生存フラグ。
 魔力経路が形成され、気まぐれな神々は、再び剣を振るって楽しませよと仰せになった。

 遠のきかけた世界が、いきなり焦点を合わせる。
「俺も、お前たちも何も変わらない。ただ、引き返せないだけだ、お互いにな。救えなくて、すまない」
 竜一は、剣を振るう。
 アラストールは、救いになるかわからないと言っていたが、救いになるとは思えなかった。

 いつだって、ささやかな悪意は、涼子の怒りを煽り続けてきたのだ。
 おかげで、やっつけるまでは意地でも倒れられない。
 こいつらに引導を渡すのは、自分なのだ。
「受けて立ってあげるから、違いを見せてみなよ。わたしにしてやれるのは、それぐらいだ」
 ぐだぐだに溶けてしまったそれは、涼子を求めて笑うだけでなんの応えも返してくれない。
「何もしないなら、こっちからいくよ」
 それが、破壊と蹂躙だけが、涼子がしてやれることだった。
 
 美しい顔も、髪も、溶けかけている。
 このまま、混ざり合ったものの成れの果てとして肉に飲まれる定めというなら、アラストールは、それに反逆する。
「泣きも笑いも喜びもすまい」
 放った言葉は自分に帰る。
「終わらなければ始まらない」
 悩み、惑うのを終わりにしよう。借り物の見た目も記憶も始めとして生きていこう。
 それが救いになるかわからないが。
 いつかは、折り合いがつく。
 アラストールは敢然なる者だから。
 死中より活を見出す者だから。
「究極の幻想だ」
 エクスカリバー。
 いかなる状況にも勝つ剣ならば、それを振るう者の蒙さえ切り裂け。
 

 いこいの広場の地面は、いろいろなものを吸い込みすぎる。
 異形の群れの血肉と油と脂。
 ばらばらに散った符。
 死線ぎりぎりで踏みとどまった前衛の血肉。
 駆け寄る後衛の涙。
 
 とにかく、リベリスタは生きていた。
 それ以外は、みんなげらげら笑いながら死んでしまった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 どっぷん。
 結構痛い目見せられました。
 
 これが、本編最後と思うと感慨深いです。
 慟哭の削り作業。
 まだ、終わりではありませんね。どうか、御武運を。