●ただいま調整中 「今日は皆にお願いがあるの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の声に、 集められたリベリスタ達がきょとんとした表情を返す。 モニターは付いておらず、資料の提示も無い。 カレイドシステムが予知した未来も教えられていない。その上この一声である。 何か変わった案件か、けれどイヴの方には緊張感の欠片も無い。 本当に、近所で買い物をして来て、程度の気安さで言葉を紡ぐ。 「以前、VTS。ヴァーチャル・トレーニング・システムって言うのの 稼動実験に協力して貰ったの、知ってる?」 それは遡ること半年余り前。現アーク発足当初の話。 『研究開発室長』真白智親(ID:nBNE000501)から一つの依頼が行われた。 とある機械の稼動実験に協力して欲しいと言うのである。 それが、ヴァーチャル・トレーニング・システム。 リベリスタ達の能力をシステム的に数値化し、仮想空間に投影する事を目的とした装置。 天才、真白智親の血と汗と苦難の結晶。通称VTSである。 これが実用化されればアークの戦力を底上げするサポートツールとしての貢献が見込める。 危険を最小限に抑え戦闘経験を積む事が出来る様になるのである。 『多分』『恐らく』『きっと』『リベリスタ達なら大丈夫』 不安を煽る事前説明とは裏腹に、実験は恙無く幕を閉じた……筈である。 「VTSの稼動実験は大体成功に終わった。けど、それからも問題が目白押し。 特に実働データが足りないらしいの」 実験。問題。実働データ。不穏な単語がここまで目白押しなのも珍しい。 だが、これ以上は説明する必要も無いだろう。つまり、イヴの今回の御願いとは―― 「下層で智親が待ってる。皆に、VTSの試運転に協力して欲しい」 ●リベリスタVSリベリスタ 「おー。良く来てくれた。流石俺が見込んだだけの事はあるぜ」 別に見込まれた覚えは全く欠片も無い物の、歓迎の意を示す智親である。 彼の居城、ラボでは今も人間サイズのカプセル機体が謎の唸り声を上げている。 「今回お前達にして貰いたいのは、投影データ同士によるリアルタイムでの入出力。 別に難しい話じゃない、要するに、お前達にはVTSを用いて本気で戦って貰いたい訳だ」 お互いに、戦い合え。仮想空間での架空戦闘であるとは言え、 リベリスタ達の能力が正確に投影されるのであればそれは真剣勝負に他ならない。 現実と異なるのは何所までやっても決して傷を負わないと言う点。 そして、運命の加護によるリカバリは期待出来ないと言う2点である。 「こいつはVTSにかかる負荷を測る為のストレステストだ。 スキルや武器、シードなんかの情報も多ければ多いほど良い。 余り一方的な展開でもテストにならないからな、その辺りはお前達で調整してくれ」 ぽりぽりと髪をかき上げながら、智親はカプセル型の機械のコンソールを開く。 「ああ、それとこちらからの注文が1つ。 VTSの処理速度が見たいんでな。1対1と、3対3。必ずこの割合で分かれてくれ。 個人戦と集団戦でどれだけ容量を食うか確認しておきたい。 俺が付いてるんだ、事故の心配はしなくて良い。ま、大船にのった心算でな」 言って自ら豪快に笑う智親に、リベリスタ達の眼差しは何所となく冷たい。 イヴに態々頼まれたので無ければ、誰がこんな40過ぎのおっさんに協力何かする物か。 等と思ったか思わないかはさて置くとして。こんな機会はそうはない。 敵は戦友。VSリベリスタ。正真正銘の死闘の始まりである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月28日(日)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●続・ただいま調整中 「よぉーし、お前ら良いか、稼動させるぞ」 『研究開発室長』真白智親(nBNE000501)の声と共に、 カプセル型の謎機械のハッチが閉じられる。稼動しているのは計8台。 それぞれにリベリスタ達が詰められている。 それぞれに合わせて微調整を終え、智親は軽妙なタッチでコンソールを叩く。 「よしよし委細順調、流石俺」 ブリーフィングルームのそれを小型化した様なモニターに緑のグリッド線で描かれた、 独特のフィールドが表示される。それらに即席のテクスチャーを乗せ、VTSの演算結果を表示。 するとフィールドに突然出現するリベリスタ達8人。その彼らに話しかける。 「お前ら良いか、これから実験を開始するが――」 カプセルは静かに稼動音と立てながら、その様子を淡々と演算し続け、 2人と6人。異なるフィールドに飛ばされたリベリスタ達が、己の敵と相対する。 「お前ら良いか、これから実験を開始するが――」 空より聞こえたその声に、『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は自分の手を握り直す。 「……へえ」 漏れた声は感心のそれ。手に返る実感。自分の身体をそのまま持って来た様な仮想現実。 それらを演算する為にどれ程のマシンスペックが必要であり、 幾つの技術的ブレイクスルーが必要であるか、亘には想像もつかない。 「……普段、出来ない体験です」 『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)もまた、 自分の周囲を見回してはぱちぱちと数度瞬きする。 虚ろな瞳にも僅かに驚きの色が見られる辺り、本当に驚いているのだろう。 少し考えて手にバスタードソードを現出させると準備運動とばかりに振って見せる。 「これは、凄いですね」 一方亘達から見ればアップダウン地帯を幾つか挟んだ彼岸でも、似た様な驚きの声が漏れていた。 『鉄腕メイド』三島・五月(BNE002662)は軽くはねて見た上で、 再現された警備用侍女服の質感に満足していた。これだけ現実ままであるなら普段通り戦える。 五月は男の娘ではあるものの、ともあれ警備メイドである。機械には特別明るくは無い。 けれどこれが凄い事位は流石に分かる。留まった大気の中手を動かすと、空気を切る感覚をが返る。 その当たり前を当たり前に再現する技術に、確かに開発室長は天才なのだろうと認識を改める。 「あの、皆さん、真白室長が何か……」 困った様に笑う『蛇巫の血統』三輪 大和を余所に、それぞれがウォーミングアップなり、 周囲の地形確認などを始めるリベリスタ達。室長の威厳などそっちのけである。 「おーい、お前ら聞けよ! 聞いてくれよ! しまいには泣くぞこの野郎!」 40男の真摯な嘆きに漸く彼らの動きが止まる。 もうそれで確認は良いと思ったのか、智親が厳かそうな声を作る。勿論色々と手遅れである。 「あー、おほん。これよりVTSの稼動実験を開始する。 まあ危険な事は特に無いと思うが、あくまでこちらが取りたいのはデータだ。 多少の無茶はして構わんがあくまで正々堂々とスポーツマンシップに則り後腐れなくだなあ」 「室長、話が長いです。干からびさせますよ?……すいません取り乱しました」 「ああ、うん。もう好きにしてくれれば良いと思うんだぜ」 『ぜんまい仕掛けの盾』ヘクス・ピヨン(BNE002689)が呟いた声に、智親の声が引っ繰り返る。 後から取り繕われても何だか今更感である。ともあれ、これにて説明は終わり。 ――となればやるべき事など1つしかない。 「なら、準備は良いな?」 「……敢えてするほどの準備は、ない。何時でも始められる」 『悪手』泰和・黒狼(BNE002746)が静かに頷き、纏った蛇咬手の感触を確かめる。 50m程はなれた向こう側、視線を向けてきている敵チームへ意識を向ければ始まりは間近。 「よし……実験開始!」 智親の声を合図として、それぞれの3人は不安定な傾斜の続く地形へと走り出す。 VSリベリスタ――スタート。 ●VSリベリスタ~3on3~ 「居ました、仕掛けます」 先手を取ったの大和が駆け、それに黒狼、五月がタイミングを合わせて追従する。 奇しくも互いに取った戦術はほぼ同じ。密集陣形での総力戦であった。 本来であれば――そう。これがシンプルなフィールドであれば。 恐らく先手を取ったのは俊敏さに長ける亘だっただろう。 しかしアップダウンと言う地形による視界の悪さと足場の不安定さが此処で意味を持つ。 飛行した亘を、索敵に長ける大和の方が補足した。 片や行動を必要とし、片や自動で発動し続けるスキルと言う性質の違いにより生まれた差。 これは少なくないアドバンテージである。大和がへクスの動きを封じ込め、 黒狼が亘、五月がリンシードへと張り付くことで移動を阻害する。 亘、リンシード、へクスが其々数m程しか離れてなかった為に、実質乱戦の体である。 ただ1つだけ乱戦と異なる所は、これが大和達3人の目論見通り、と言う点であろうか。 彼女らの狙いは移動を束縛しての各個撃破。最初に狙われたのは亘であった。 「ふふっ。さぁ、全力で行きます!」 「……悪く思うな」 「負けをよしとする心算はありませんので」 五月の脚りから放たれた真空の刃が体躯を掠め、大和の手からは道化のカードが放たれる。 向上した能力を掻き消し不吉を告げる嘘吐き道化の一閃に身が揺れたのも束の間、 続く黒狼が毒蛇の手で亘の首を狙う。が―― 「――っ! あ、っぶな……!」 間一髪、これをかわす。そもそもそれほど守りに長けている方でない以上、 今の一撃は問答無用で致命傷である。それを凌いだ。これは、大きい。 そう、先手を奪われたことを抜きにすれば、 この状態は亘達にとっても特に問題の無い展開なのである。 此方の3人に共通している言える欠点は遠距離攻撃の不在。 であれば距離を取られて攻められる事こそ悪手。相手から詰めてくれるなら異論は無い。 「本気で行きますよ、勝つのは俺達です」 「ああ……こい」 踏み込んだ亘の音速の刃が黒狼の蛇咬手と交差する。しかし、これが好手となる。 リンシード、へクス達と異なり、亘はハイスピードを用いていない。 その代わりを集中する事に当てたのである。徹底した攻めの姿勢。これが功を奏す。 「くっ、これは……!」 叩き込まれた一撃は綺麗な形で黒狼の身を抉る。そして憶える身体の痺れ。 麻痺により動きを封じられた黒狼が、止まる。続いて動くリンシード。 彼ら、彼女らに確かに遠距離攻撃の手段は無い。代わりに、類稀なる技巧と速度が有る。 「存分に、楽しませて下さい」 「ええ、どこからでもどうぞ」 しかし、リンシードの対峙する五月はこの場に於いてへクスに匹敵する頑丈さを誇る。 その上回避率も維持していると有っては少々相手が悪いだろう。 仕掛けたソニックエッジがその体力の一部を掠め取るも、火力が足りない。 「調子が悪そうですね、消しておきましょう」 そうしてへクスが放った神々しい光が亘の不吉を癒す。一進一退、けれど1名。 黒狼の行動を縛ったチームが有利。一見そう見える展開。 だが――そうは甘くないのが対人戦である。 「これで、どうだっ!」 「まだまだ……!」 亘が最後放ったソニックエッジ。しかし、黒狼は倒れない。 力任せを旨とする黒狼、速度を攻撃に転化する亘。 好対照な2人ではあるが、その性質上黒狼は素地からして頑丈である。 恐らくは後一手あれば削り切れるだろう状況、だが、その一手が、届かない。 「なかなか、やりますね……」 一方、リンシードはと言えばこちらは五月にほぼ完封されている。 と言うのも、リンシードの火力が足りない訳ではない。ただ純粋に、五月が堅いので有る。 これはへクスにも言える事であるが、頑丈であると言う事はただそれだけで足止めになる。 脆い者から攻める。例え手番を余計に消費したとしても。これは戦いの鉄則である。 それを地道に守った点、これは大和達の利であったと言うべきだろう。 「それではお返し、です――!」 「く――そ――」 再び大和の手から放たれるライアークラウン。突き刺さったそれが亘の体力を削り切る。 運命の加護による復活は見込めない仮想現実。消失した彼は一足早く現実へ戻っている事だろう。 これにより、戦いのバランスが大きく崩れる。 「遅い、です……」 「ああ、流石に当たりませんか」 拳に焔を点し放った一撃を完全に外され、五月がぺろっと唇を舐める。 心底状況を楽しんでいる笑いに、リンシードの無表情が好対照。 しかしそれは同時に余裕の現われであるとも言える。状況は明らかに一方優位。 「干からびて下さい」 「お断りします!」 へクスに噛み付かれた大和が多少の傷を負うも、しかしリンシードの攻撃は五月に阻まれ続ける。 「……よし、動く」 そうして黒狼が動きの自由を取り戻すと、半ば残りの展開は一方的ですらあった。 集中を施した五月の拳がリンシードからクリーンヒットを奪い、 大和の道化が突き刺さっては嗤う。足場の不安定さによる負担も有ったとは言え、 回避に長けるリンシードはそれでも良く保ち、良く戦った。だが、五月の壁は余りに厚く。 「あ……」 一声残し、その姿が消失する。残ったへクスを取り囲む、3人。 「倒れるまでだ……付き合ってもらおう」 「余り、気は進みませんね」 極めて頑丈であるへクスを倒すのに大凡一分を使い切り、途中黒狼が脱落した物の抵抗は其処まで。 「覚えたばかり、初めて使う技です。どうぞ受け取って下さい」 堅牢な防御を貫く五月の土砕掌が決め手となり、かくして勝敗は大和、五月、黒狼チームに決する。 ●VSリベリスタ~1on1~ 一方そんな戦いの趨勢など露知らず、こちらは隆起も無く視界も広い平面の大地。 異なるフィールドに立つのは僅かに2人。 「出し惜しみは無し……ガチンコ勝負、全力で挑ませてもらいますね」 普段の執事服を着替え、戦闘服にダガーを潜ませる源 カイ(BNE000446) 「何でも良いさ、一対一で戦れんだろ? 大歓迎だぜ」 にっと凄絶な笑いを浮かべる『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845) 合間見えるのは静と動。如かして胸に点す意志は互いに同じ。熱く、静かに、燃え盛る。 「それでは宜しくお願いします」 カイがそう言った瞬間、既に火車は駆け出している。最初からトップスピード。 全力で距離を詰めにかかる。――しかし、その踏み込みを見越してか先手はカイ。 放った気糸の網は、けれど火車の業焔に完全に阻まれる。 「生憎 様子見なんかはガラじゃなくてなぁ!」 一方、これにカウンターで放つは火車の十八番、業炎撃。 咄嗟に避けるも完全には避け切れず、業火を纏った拳がカイの体力を削り取る。 そうして互いに僅か距離を取る。近接戦に特化した徹底的なインファイト。 気糸を防がれたカイの影がゆらりと蠢くのを確認し、更に火車が一歩踏み込む。 「色々試さなきゃ損なんでなあ! こいつを強くする為にもよぉ!」 振り抜かれたのは守りを無視する破壊的な掌打。 掠っただけの筈の体躯が爆ぜた様な痛みを憶え、カイが一歩退く。 見た感じから憶える火車の印象とは反し、1発1発の当たりは浅い。 けれど確実に当てに来ていると言う感じである。 総合的なバランスに優れるカイにとって、この流れは余り良くない。 「僕もやっぱり男ですね……やられっ放しは、性に合わないみたいです」 此処で初めて、カイが明確に攻めに出る。距離を詰め放つブラックジャック。 影から伸びた黒いオーラが火車を頭部を狙い打つ。が―― 「痛く、ねえっ!」 ガッ、と。オーラに叩き込まれる頭突き。 血が流れ出しダメージを被っているのは明らかながら、浅い。否。浅く、したのだろう。 握り締めた拳に再び火が灯る。しかしこの一撃は空振り、互いに距離を取れば既に四合。 「なるほど、見た目での判断は無意味みてえだなぁ」 「それは、お互い様ではないでしょうか」 目線が交わり、笑い合う。互いに一級線で戦い続けたリベリスタ同士。 そうそう容易く決着がつく筈も無い。長くなりそうな気配に、けれど戦意は滾る。 「遠慮なく、行きますよ!」 「そいつはこっちの台詞だぁ――!」 射抜く様な黒いオーラ、交差する炎の拳。更に二合。 互いに血塗れになりながら互いの力をぶつけ合う。そして――次に動いたのは火車。 「オッケー……いいぜえ、そうじゃねえと面白くもなんともねえよなあ!」」 打ち合わせる手甲、鬼爆。そうして我武者羅に殴るだけだった火車の動きに、 確たる構えが重ねられる。それは熱く燃え上がりながらも泰然と、あたかも流水の如く。 「こーなってからのオレは……めんどくせーぞ?」 「……その様で」 目に見えて、火車の動きが変わる。カイが初めて先手を取り落とし、其処へ放たれる射抜く様な掌底。 辛うじて直撃こそ避けた物の、その体力を更に削り取る。 だが、そのお返しは苛烈であった。影から迸る黒いオーラ。 それらに目を取られた隙を縫ってカイが駆ける。彼我の距離は殆ど無いに等しい。 これで外す筈も無い。体躯の中央。火車胸部にカイがとん、と手を当てる。 「でも、僕も意外と面倒くさいんですよ」 防御を無視する渾身の一打。零距離より放たれた破滅の影に打ち抜かれ、火車の身体が浮き上がる。 並であれば致命の一撃。しかし当然、火車も到底、並では、無い。 「はっ……良いぜえ、スイッチ入っちまった」 逆境でこそ真価を発揮する。此処からが宮部乃宮火車の本領発揮である。 返しでもう一度土砕掌。そう、距離は零。互いに手が届くなら外す理由も無い。 追い詰められているからこそ、放てる一撃が有る。渾身を極めたその一打がカイの身を抉る。 「――っは」 呼気が漏れる。貫いた衝撃が体の自由を奪う。麻痺して、動けない。 それを、待っていた。火車の両手に炎が揺らめく。そう、その男を追い詰め過ぎた事。 勝因と、敗因はそんな呆れる程に異質な物。 血塗れで泥塗れにならなければ本気を出せない男に、本気を、出させた。 この時点で火車が麻痺していたとしたなら、勝敗は真逆になっていた事だろう。 「倒れる? 知るか! こっちはもう完全にスイッチ入ってんだよ――!」 続け様に叩き込まれる二発の業炎拳。それで、終幕。 カイの姿は霞と消え、残された火車は空を扇ぐ。 「楽しかったぜ、オツカレさん」 ●続々・ただいま調整中 「おおおお、なんじゃこりゃあ!?」 さて。そうして現実世界に戻ったリベリスタ達が目の当たりした物は、 赤ランプと共にアラートを上げるカプセル機械と、悲鳴を上げる智親の二重奏と言う代物であった。 どうも誰かは明らかでは無い物の、現在のVTSが表現出来る処理要領のリミットを 超えた一撃を放った者が居たらしい。幾ら魔法の様に見えた所で、 智親の構築する物は原則としてあくまで精密機器である。 一つの想定外がそれ以上の想定外を呼び、小さなバグがシステムと言う名の秩序を崩壊させる。 大船に乗った心算で、と言う言葉を揶揄して用いられる事も多い表現では有るが、 正しく、大きな船ほど沈み易いと言うべきか。がっくりと項垂れる智親の肩を小さな手がぽんと叩く。 「おお、イヴ、聞いてくれ、俺の苦労の結晶が……!」 言って振り向いた先に居たのは彼を慰めにやってきた愛娘ではなく、 似た様な背丈のリンシード。他のリベリスタ達は御疲れ様―等と言いながら去り行く最中である。 「また、情報が必要であれば、呼んでください……真白さんの実験には興味があるので……」 娘より小さな少女に慰められ、今度こそ本当に智親が轟沈する。 それを扉越しに見ていたイヴはそっと溜息を吐くと、静かに踵を返すのだった。 VTS、ヴァーチャルトレーニングシステム。 危険を最小限に抑え戦闘経験を積む事が出来る様になると言う、この夢の様な機械の黎明は、 けれどどうも、まだ少々遠い未来の話になりそうである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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