● 人が並んでいる。 老若男女。 微動だにせず、一定間隔をあけて整然と並んでいる。 まばたきもしない。 最後尾では、手に小学校の教室で使う巨大な持ち手の付いた三角定規を持った男女が人を並べているのだ。 「ピッチは75センチ!」 いちいち定規を当てながら、人を並ばせていく。 「いきます!」 駐車場から脇の道路。 周囲が人で埋め尽くされた頃合で、三角定規を持った男は目の前の子供をつき飛ばした。 倒れる後ろに立っていた女が倒れ、男が倒れ子供が倒れ老人が倒れサラリーマンが横の女を突き飛ばしつつ倒れ、突き飛ばされた女は別のベクトルで倒れ――。 ドミノ倒し。将棋倒し。 着ている服に合わせて並ばされた人の群れが倒れると、地面に美しい虹がかかる。 その下に、赤い水がとうとうと流れてまるで天上の眺めのようだ。 誰も彼もが声一つ出さないで絶命する。 一枚のドミノ碑になる喜び。 絵の具の喜び。 「――スイッチ!」 「オン!」 最後の男が倒れると、近隣ビルの窓ガラスが中にいる人間によって全部叩き割割られた。 広場に倒れ付している老若男女の上に、ガラスの雨が降り注ぐ。 その上に、更にガラスを割った人間が降り注ぐ。 赤い水の上に浮かぶ虹を、真っ赤な東京タワー展望台からパノラマ写真を撮ってちょうだい。 ● 「ヤッホー! リベリスタちゃん達、エブリバデイ! 毎日が日曜日、ハッピー、ラッキー、ヨミガツジー。京ちゃんゲイムはっじまるよー」 まあ、まずこれを見ろ。と、言葉少なに再生ボタンを押した『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)ががっくりとコンソールに崩れ落ちた。 やめて、京ちゃん。四門のHPはもうゼロよ。 「強い強いアーク御一行様じゃ、ただ暴れてもつまんないよねぇ? だから俺様ちゃん、色々考えました。考えて、考えて、考えて、考えて……あれ、何回考えたっけ。兎に角考えましたYO!」 考えんなよ。と、うめきのような四門のツッコミが入る。いや、呪いかもしれない。 「――アークちゃん達は俺様ちゃんが大嫌い。アークちゃん達は一般ピーポーの皆を守りたい。守りたい一般ピーポーが俺様ちゃんみたいになったら、義務と嫌悪、果たしてどっちが勝つのかなーって……」 うええええええ。と、フォーチュナが嗚咽をあげ始めているが、とりあえずビデオを見るのが先だ。 「……まぁ、説明が面倒だから細かい話は同封の資料を見てNE! 週間黄泉ヶ辻、創刊号は三百八十円! 書店にて!」 壊す勢いで、フォーチュナがコンソールを叩いた。 停止ボタンを押したのだ。ちょっと念入りに。 ● 「ペリーシュの傭兵なんて様子がおかしいと思ってたら、京ちゃん、お駄賃が目当てだったのーみたいな」 四門が壊れた――振りでもしなければ、黄泉ヶ辻関連の予知は負荷がかかりやすいらしい。 「そのお駄賃でなにがしたいのかとゆーと、『東京23区みんな京ちゃんウィルスばら撒きゲーム!』 ドンドンドンパフパフ」 モニターに東京23区が映し出される。 「件のアーティファクト、このアーティファクトはドナスィヤン・アルフォンス・フランソワ・ド・サド――つまり、マルキ・ド・サドという人物が著した『悪徳の栄え』と呼ばれる作品の原典。日本語版も出てるけど、読んだ事ある人ー? って言って、とっさに手を上げていいものかしら。と、躊躇する程度に冒涜的且つ先鋭な内容はともかくそれをアーティファクトにしちゃったペリーシュさんは、サドさんにごめんなさいすればいいと思います。あの世で」 酔っ払ったように事態を説明するフォーチュナの口は止まらない。 「『悪徳の栄え』は使用者の狂気を他者へと拡散する。ウィルスのように空気感染させます」 狂気が感染する。心に化け物が住み着いて、上書きしていくのだ。 まさしく「京介ウィルス」だ。 「ゾンビや吸血鬼は血液あるいは接触感染なので、更にたちが悪いです」 さぁらぁに~。と、フォーチュナは盛大な泣き笑いを浮かべた。 こいつこそ感染してんじゃないかと、リベリスタの一部に疑念が浮かぶ。 「通常の使用者ならば希薄化した狂気は殆ど影響を与えまいが京介ならば話は別。というか、アタマオカシイ革醒者部門でぶっちぎりトップ間違いない。咳するように京ちゃん的行動。くしゃみするように京ちゃん的行動。まさしく京ちゃんフィーバー――ふざけんじゃねえぞ、あんにゃろう」 口の中に、極太ペッキを四五本突っ込んだフォーチュナは力任せにバキボキ噛み砕いた。 「ゲームしたいんだとさ。神秘の効果を上げるには、たった一つの弱点を作るのが手っ取り早い。それ以外には無敵ってことにしちゃうのさ。『悪徳の栄え』にもそれが設定されている。『美徳の不幸』 こっちもサド作ね。読んだ人――以下同文な内容だから。効果としては、『悪徳の栄え』製ウィルスを無効化するワクチンを出してくれます」 で、だ。と、フォーチュナは、我々の使命だが。と言った。 「ウィルスをばら撒く黄泉が辻のフィクサードをどうにかして、連中が持ってるらしい『美徳の不幸』製ワクチンを強奪する」 東京23区に、アイコンが次々表示された。 フォーチュナが見た未来ヶ、確定され始めたのだ。 「もちろん、信用出来るかどうかは微妙だが……面白がりの性格に賭けるしかないだろう。遊びは、本気でやらなきゃ楽しくない。ずるしちゃだめだろ、まじめにやんなきゃ……」 だから、京介は狂っているのだ。 こんな遊びを本気でするから。 ● 「以上を念頭に置きつつ、俺の話を聞いてね。みんなには、港区は芝。東京タワーに行ってもらいます。 みんながつく頃には、下は人でびっしりです。有明の祭典スタッフもびっくりの整然。人間モザイク画のピースにされた感染者が大量に死にます」 整然さと動かないことが狂気の発露。 「フィクサードもおかしい芸術家気取りなんで、『絵』が完成するまでは人は死なない。だから、絵を破壊しつつ、攻撃して、フィクサードを倒して下さい。ただし、彼らは製作現場を離れない。複数対象の技を使うと感染者も巻き込まれるから。感染者は動かないから、確実にあたる。そんで、連中は逃げ隠れするから。見通しは、最悪」 肉の楯の用意は十分と言うことだ。 「だから、こっそり殺してよ。向こうからも見えにくいってことだからね。こそこそと列に紛れ込んで忍び寄るといい。いっそ感染者の振りしてもいいかもね。どれだけ騙せるかは、やりようによると思うけど」 暗殺とか、そういう方向で。 「相手はデュランダルとソードミラージュ。もちろん、連中は躊躇しない。壊れたパーツはいくらでも供給される」 ウィルスをばら撒けばいいんだから。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月21日(土)22:36 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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● 虹は美しいね。 きっと、何処かで誰かが淫らな恋をしている。 空が青を忘れて、七色に染まるなら。 それは、世界のねじが吹っ飛んだってことだろう? 頭のねじが吹っ飛んだ奴らが嬉々として、おしくら饅頭みたいに並んでいる。 実際潰されて、吐瀉物を吐き散らしながらも密集しようとしているのを、定規とコンパスで調整しながら黄泉が辻のフィクサードが調整していく。 狂気とは、無秩序にあらず。 その秩序が「正気」 からずれているだけだ。 電車から次々と人が吐き出されてきて、新たなピースが供給されていく。 ああなんていいお日和なんでしょう。 ● いまだ、混沌の虹の領域にあらず。 「ふぅ……」 愁いを帯びたため息が、知らず漏れた。 耳元だったら、そのまま倒れこむご婦人がいてもおかしくはない。 『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276) 「次から次へと厄介な事だね。一つの終わりが近づいているからなのかもしれないね」 残念ながら、応えはない。 『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は、荒ぶる神の加護は身の内に押し込めて、人込みの中ではなく、セッツァーの足元――影の海の中を泳ぐ。 「まずワクチンの発見が最重要。そしてあとはワタシの遠距離からの攻撃、か」 誰に聞かせる訳でもない。 東京タワーに向かう人の群れは、そんなことに頓着しない。 誰も彼もが、何もかもを投げ出して、東京タワーに向かって歩いていく。 まるで、死出の海に向かうレミングのようだ。 地面が埋め尽くされたら、東京タワーによじ登り出すかもしれない。 そんな馬鹿なと切り捨てることは出来なかった。 何しろ、『京介の狂気』が際限なく広がっているのだから。 『どうして、みんな、おれのことがきらいなの?』 『おまえといっしょになりたくないからさ』 物語の吸血鬼が恐ろしいのは、生ける屍が恐ろしいのは、エリューション現象が恐ろしいのは、それが伝染するからだ。 自分が化け物になるからだ。 化け物になるのは恐ろしい。 体が変わるのも恐ろしいが、心が化け物になるのが恐ろしい。 ● 「一般の人に被害が出ないようにしたいなぁ」 『全ての試練を乗り越えし者』内薙・智夫(BNE001581)は、呟く。 京介ウィルスに感染したものは、一般人か否か。 「狂気を伝染させるアーティファクトとか、絶対に許せない」 『パラドクス・コンプレックス』織戸 離為(BNE005075)は幼い口調で憤慨している。 (触れられたくない部分はあるけど、それを含めて私なんだから) ベビーフェイスの智夫より、更に幼げな容貌。 彼女は27歳だ。15年前の悪夢は、離為の有り様の時間軸をゆがめた。 今日の二人はバディだ。 ヘキトの方には、竜一とセッツァー。 もしもの時の結界要員として、『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)が何処かに身を潜めているはずだ。 お互いがどこにいるのか現時点ではわからない。 わかるようなら、フィクサードにも悟られる。 「ステルスあっても事前付与したら気付かれちゃうよね……?」 「ステルスが効いてる間にたどり着けるかどうかが不安だね」 離為の問いに、智夫が答える。 「ここからは、音や声を出さないよう、合図はハンドサインで行うよ」 こうしたら、こういう意味。と、必要最低限の確認をした後、二人は口を閉ざした。 二人が探すのは、ベニコ。 三角定規を持った、赤い服の女だ。 (ヘキトにも見つからぬよう注意しなくちゃ……) 標的の動向を気にしすぎて、もう片方に見つかるなんてまねをするわけにはいかなかった。 智夫の――歴戦の脱走王の今までの経験が遺憾なく発揮された。 今まで、一度たりとも自分を逃がしたことのないアーク別動班に、深い感謝の念が起こった。 今までの全てが無駄じゃなかった。 ● これも京介の狂気の一表現。 みんな、俺と同じになってよ。 みんな、同じになれば、@@@@@@@@でしょ。 俺だけが@@@@@@こともないでしょ。 だめな時は、みんないっしょに@@@でしょ? それとも。 どうして、俺だけをそんなに@@@の。 「きれいね、きれいね」 点は美しい。大きいのも小さいのも、くすんだのも鮮やかなのも。 少しづつ違うそれらが交じり合って、一つのものを構成していくのだ。それはとてもとてもキレイなもので、ベニコとヘキトもずっとそれに耽溺している。 きれいに並べ終わった点描画。 記念の写真を撮りましょう。 取り終えたら、崩しましょうね。 今度は、赤い花が咲く。 ● (30mから狙える――から、奇襲するタイミングはあなたに合わせるのが無難だよねー?) 身振り手振り。 あまり動かしすぎて、目立ってもいけない。 小鳥のように繊細に、相手の死角を突きながらの移動は慎重に。 全力で走ればあっという間に入る間合いをじりじりと詰めていくもどかしさ。 囁く声さえ辺りに響きそうな静寂。 子供さえ、ぴたりと口を閉ざし、多幸感めいた薄ら笑いを浮かべつつ棒のように立っている。 「――!!」 AFに着信。 誰も動いていない中、振動する通信装置。 離為の背中に汗が一筋伝った。 音自体は、あちこちでしている。 東京のあちこちで騒ぎは起こっている。 身内の安否を確認するための電話は、点描と化した人間から途切れることなく不協和音を奏でている。 (この状況でリーディングとか使われたら、は考えたくない) だが、その音で感情を動かすのは、同調の狂気に取り付かれたこの場では、『異物』――リベリスタに他ならない。 ゆるりとベニコが首をもたげた。 大きく伸びをしながら、ぐるりと辺りを見る。 思ったより、距離が稼げない。 時間は、刻々と過ぎ去っていく。 ● ゆがみはないか、いびつはないか、美しいグラデーション、わずかなノイズが全体に奥行きを与える点描、全ての点が均一ではないから美しい。 智夫が横目で数えている。 方針変更するまで、あと10人。 ● コール音も途切れた。 (連絡取りつつ――と、思ったんだけどな) 何をどういう風に連絡をとるのか。 とっさに打ち合わせすることは出来なかった。 単独行動になったセレアの動きは流動的にならざるをえない。 フィクサード二人に迫る仲間の動向を把握できないのだ。 セレア自体路傍の石のごとく気配を断っているし、そもそもなるべくフィクサードの死角にいようと細心の注意を払っている。 AFで連絡を密にするには、それに集中することが出来る余裕、回線を開きっぱなしにしてフリーハンドで叫んでも構わない状況のいずれか一方が必要だ。 (誰か、出てよ) AFに着信ランプ。 「ヘキトはワクチン持ってる」 影の中から――ちょっとした異空間に沈んだ竜一からの待ちに待った通信だった。 通信が入ったと言うことは、すでに隠れる必要がなくなったということ。 つまり。 目標は、すでに二刀流の間合いに入ったと言うことだ。 ● 点描の下には影の海が広がっている。 全身青緑でコーディネイトしているヘキトが振り返ると、破壊神の使徒と化した竜一が、ばたばたと毛穴から供儀の血を滴らせながら剣を真横に薙いだ。 この寒いのに腹ちらだったので、そこにはポケットはない――ひいてはワクチンはないと判断したのだ。 「なんてことをしてくれるんだ」 上半身を吹き飛ばされながら、ヘキトは激高した。 「ここは青のゾーンだぞ! 何でそんなところに赤を撒くんだ。まだ早い! 赤を撒くのは、上から写真を撮った後だ! 最後の最後だ! もう、仕方ないな、とんでもな――っ!」 べらべらしゃべる上半身の視界がふっと黒くなる。 東京タワーの影に入ったのではない。 漆黒の死神の鎌が忍び寄っただけだ。 神秘の鎌に音はない。 「君がやっている事は芸術などでは無い。力に溺れし者のただの殺戮だ」 セッツァーの美声は、ヘキトの耳に届いただろうか。 死神の鎌は首をはねると相場が決まっている。 地面に落ち、そのままごろごろ転がって、事切れた。 いかにリベリスタが頑丈で、恩寵を少なからず持っていたとしても、両断された胴体と首がくっつく訳ではない。 下半身のポケットを抜け目なく探り、いかにもそれっぽいガラスの小瓶を見つけた竜一は、再び影にもぐる。 音もなく、声もなく。 誰にも聞こえない影の海の中で呟かれるそれは、あくまで独り言だ。 人の都合など構っていられない。 いわんや、フィクサードをや。 「最少労力で、最大効率を! それが俺の人生哲学だ! 文句あっかー!」 それゆえ、竜一は生き残っているのだ。 リベリスタにとって幸いだったのは、点描たちが狂気に犯され、人が一人死んだくらいでは微動だにしないこと。 不幸だったのは、相棒の死に気づいたベニコを狙い撃ちにするにはあまりにも人が密集していたことだった。 ● 狂気は、混沌ではない。 大多数が理解できない秩序だ。 いや、京介はこの大多数の天秤を入れ替えようとしている。 ベニコとヘキトはその尖兵だ。 智夫が定めた、作戦変更ラインに到達してしまった。 すでにリベリスタが紛れ込んでいるのがわかっているのだ。 もう、いささかの猶予もない。 「一般の人も射程に入ります! セッツァーさん!」 神威の光がベニコのうえに降り注ぐ。 猛烈な痛みとショックに、通常状態の一般人なら瀕死レベルのトラウマだ。 狂気に浸されている今、多少の苦痛は麻痺しているようにも見えるが、負荷が恐ろしい。 「回復は任せたまえ、君たちは目の前の敵の撃破に注力を」 セッツァーの回復請願詠唱に聞きほれない高位存在があろうか。 幾分望みうる最大限の恵みがその場に降り注いだ。 注意深く、赤い女だけを除いて。 風に乗る血の匂い。あるいは、何某かの精神感応。 「ヘキト、ヘキト、まだ角度を修正してないよ」 古代中国の神祖は、定規とコンパスを持って顕現したらしい。 憤怒の表情を浮かべ、口から泡を吹いたベニコが、人と人の隙間をついて離為を見据える。 「ああああああああああああああああああああああああくうううううううううううううう」 叫びすぎて、口から吐瀉物を撒き散らしながら叫ぶ女。 三角定規のエッジは、十分人が両断できる。 血風が辺りを赤く染めた。 狂っていても、仲間が死ぬことに、怒りを覚えるのか。悲し実を覚えるのか。 だったら、何でよその人を死なせるような真似をするのだろう。 「言っておくけど、はらわたが煮えくり返ってるんだから。手加減はできそうにないよ」 離為は、低く言い放った。 音を立てて練成される憎悪の鎖は、離為の血肉で出来ている。 支点、力点、作用点。 力点は、離為の憤怒。 作用点はベニコの首。 支点は、地上333メートル。 東京タワーの頂点。 「今の内。今しかない」 智夫は、図形の完成を阻むため、ベニコが計った場所を早々に崩しにかかっていた。 将棋倒しにならないよう、列の進行方向とは垂直に、手加減しつつ、押して転ばせ続ける。 完璧な図式になることが、近隣のウィルス感染者飛び降りのトリガーになっているなら、そうでなくせばいいのだ。 「セレアさん、聞こえます!? さっきは、出れなくて、ごめんなさい。人をですね、ごちゃごちゃにしてください」 「それは、派手にマレウスを叩き込んでいい状況?」 東京タワーめがけてお星様が降ってくる。 智夫の脳裏にひどくメルヘンチックに浮かんだ。 みんな、仲良く吹っ飛びましたとさ。 「――」 メテオ落しは勘弁してください。死んでしまいます。 「冗談よ?」 「もちろん、わかってますよ」 ● 離為が容赦なく首をへし折ってくれたので、持ち物が破損すると言うことはなかった。入れ物自体もアーティファクトなのかもしれない。 ヘキトのポケットに入っていたビンと、ベニコのポケットに入っていたビン。 東京タワーの周囲をぐるりと囲むウィルス感染者は、フィクサード二人が死んでも微動だにしない。 長時間動かないと、人間血行不良で死ぬ。 少なくとも、エコノミークラス症候群が起こる危険性は上がる。 効率的にばら撒くには――。 全員の視線が上に集まった。 「あそこからばら撒くのが一番かな」 しかし、あそこまで行くのが一苦労だ。 まだワクチンを散布していない以上、感染者がどううごくかまったくわからない。 エレベーターは危険だ。落ちたら、いくらリベリスタでもただではすまない。 「翼の加護で、階段を上らないで上がってく?」 智夫が挙手した。 簡易飛行には、接地面の制約があるのだ。 かなり、時間がロスする。 「――飛んでいこうか?」 離為は、フライダークだ。 その背には、吸熱する炎の翼が革醒者の目も欺く巧妙さで隠されているのだ。 もちろん、羽を持たぬリベリスタは、間髪いれずに頷いた。 ワクチンは、彼女に託され、速やかに散布された。 散布されたワクチンにより、「正気に戻った」大量の人間によるパニックを抑えるのと、巻き添えで負傷した一般人への対応で、アークの非戦闘部隊は忙殺されることになる。 (一般人生かすためにフィクサードに逃げられました、ワクチン回収できませんでした、じゃ本末転倒なので割り切りは必要――と、思ってたけど) セレアは、大きく息をすって、吐いた。 「被害、出したくなかったんだけど」 智夫とセッツァーの声は、時間と持てる魔力の許す限り詠唱したため、かすれてしまった。 リベリスタ戦闘班は、後ろ髪を引かれる思いで、次の戦場に急いだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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