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ラスト・フェブラリー

●去り行く二月
「二月はとても大切な月なのだよ」
 やぶからぼうにそう言った『戦略司令室長』時村 沙織 (nBNE000500) に、リベリスタ達は不思議そうな顔をした。節分、バレンタイン……二月は幾つかのイベントがあるが、特別目立つ月であったか。
「俺が一つ歳を取りました」
「ああ、そういえば」
 沙織の短い言葉でリベリスタは合点した。彼が持って回った言い方をした時には案の定大した話ではない。御多聞に漏れず、今回もその例外にならなかっただけの話である。
「おめでとうって言って欲しいのか。幾つになった?」
 リベリスタは少し意地悪く言った。男は歳を取ればその年輪で魅力が増すとも言うけれど、圧倒的に若い風で居たいような――彼の場合は大変だ。三十代後半にもなれば、色々難しい所は出てくるものだろうから。
「三十七」と短く答えた沙織は頷いた。
 彼にしては珍しく、比較的屈託の無い様子であった。
「二月も、もうすぐ終わり。雪もなくなっちまう。
 酷く忙しかったからな――何も出来ないのも勿体無いじゃないか。
 だからよ、スキーにでも行こうかと思ってる訳。雪解けの時間を遡って、雪のある方向へと進む訳だな。何となくロマンを感じるだろう?」
「そういうものか?」と訝しんだリベリスタに彼は「そういうものだ」と頷いた。
「それによ」
「……?」
 一段とトーンを落とした沙織の調子が少し変わっていた。
 その声色に何処と無い真剣なものを感じ取ったリベリスタは彼の顔を見た。
「何か――『最後』な気がするんだよな」
「縁起でもねぇ」
「ああ、悪い」
 沙織は言われてみれば――と苦笑した。
 彼が抱いたそのイメージの正体は知れない。漠然とした不安がそうさせたのか、それとも別の理由があったのか。気の迷いだったのか――
 だが、何れにしても。
「時間は無限じゃないし、過ぎた日は戻らない。
 まぁ、今年の冬も同じでな。気が向いたら遊びに来てよ」
 リベリスタの肩をポン、と叩いた沙織は何時も通りの軽い調子に戻っていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年03月18日(水)22:36
 YAMIDEITEIっす。
 ラスト誕生日。
 プレイングのルールが設定されていますので確認して下さいね。

●任務達成条件
・適当に緩くお楽しみ下さい。

●シナリオの備考
 時村家の所有する雪山に遊びに行きます。
 大型のロッジに皆で宿泊する形式で、現地は現代的なアミューズメント施設というよりは隠れ家的な別荘です。
 沙織はお祝いと言っていますが、言っているだけで余り気にしていません。
 何をしなければならないという事はないのでご自由に行動をどうぞ。
 尚、相部屋は希望すれば叶えて貰えます。

●プレイングの書式について
【雪遊び】:雪遊び。スキー、ソリや雪合戦も。
【パーティ】:ロッジの食堂や居間で暖炉に当たりながらゆっくりとした時間を楽しみます。昔話に花を咲かせるのもいいでしょう。
【その他】:趣旨の範囲で自由にどうぞ。

 上記の三点からプレイング内容に近しいもの(【】部分)を選択し、プレイングの一行目にコピー&ペーストするようにして下さい。
 プレイングは下記の書式に従って記述をお願いします。
【】も含めて必須でお願いします(執筆上の都合です)

(書式)
一行目:ロケーション選択
二行目:絡みたいキャラクターの指定、グループタグ(プレイング内に【】でくくってグループを作成した場合、同様のタグのついたキャラクター同士は個別の記述を行わなくてOKです)の指定等
三行目以降:自由記入

(記入例)
【パーティ】
Aさん(BNEXXXXXX)※NPCの場合はIDは不要です。
むかしむかしある所におじいさんとボディコンのギャルが……

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。←重要!
・獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。

●参加NPC
・時村沙織
・時村貴樹
・桃子・エインズワース
・真白智親
・真白イヴ
・将門伸暁
・天原和泉
・クラリス・ラ・ファイエット
・エウリス・ファーレ


 これも一つの最後という事で。
 以上、宜しければご参加下さいませませ。
参加NPC
時村 沙織 (nBNE000500)
 
参加NPC
桃子・エインズワース (nBNE000014)
参加NPC
真白・智親 (nBNE000501)
参加NPC
クラリス・ラ・ファイエット (nBNE000018)


■メイン参加者 24人■
アークエンジェインヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ハイジーニアスクロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ハイジーニアスマグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ジーニアスソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ハイジーニアスマグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
フライダークマグメイガス
シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)
ハイジーニアス覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ハイジーニアスソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
ハイジーニアスホーリーメイガス
桜咲・珠緒(BNE002928)
ハイジーニアスミステラン
風宮 紫月(BNE003411)
ハイジーニアスダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ハイジーニアススターサジタリー
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)
アウトサイドインヤンマスター
伊呂波 壱和(BNE003773)
ジーニアススターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
アークエンジェスターサジタリー
鴻上 聖(BNE004512)
アウトサイドアークリベリオン
水守 せおり(BNE004984)
ハイジーニアスアークリベリオン
奥州 倫護(BNE005117)

●二月の最後
 生きてさえいれば明日もまた頭上に太陽は昇るだろう。
 誰かの誕生日というのは毎日あって――数えるのが馬鹿馬鹿しくなる人間の数を三百六十五で割った所で、酷い渋滞は必至である。ましてや、その当日を過ぎ去ってしまえば――そういう緩さも許容するならそれはもう理由ではない。
 それを理解しながら気の置けない友人達を一時の休日に誘った沙織は要するに幾らか感傷的だったのかも知れない。
「――ま、何はともあれ集まってくれてありがとう」
 二月も終わりに差し掛かる頃、リベリスタ達に向けられた招待はシーズンラストを迎える雪山でのパーティだった。何かと絢爛豪華を好むこの沙織は『カジュアル』を口にしながら比較的大きいパーティを開きたがる傾向があるのだが、今年の彼の誘いはロッジで過ごす比較的静かな――アットホームな集まりだった。望めば現職の総理大臣や有名芸能人が足繁くやって来そうなパーティを開けそうな派手好きな男の選択としては珍しいと言えるだろうか。
「いいや、気にしなくていいよ」
「いやいや、嬉しいもんだろ。こういうのは」
「そう? ならいいけどね」
 翔護は沙織の肩をポン、と叩いた。
 何だかんだで付き合いが良く、ノリが良い彼はこういう場には欠かせない人物であるのだが――
「オレSHOGO! 今日は金持ちの誕生日だからいつものアレをやりにきたのさ。
 つまり開会のキャッパニと締めのキャッパニをやったらあとはもう飲んだくれて頭からゴミ箱に納まるだけの簡単なお仕事。あ、折角だから四捨五入して不惑オメデトー! 金持ち、オメデトー」
「……もう半分出来上がってやがるのか、お前」
 苦笑した沙織の視線は翔護がぶら下げた瓶の方を向いていた。
「最近は戦ってばっかりだったし――ゆっくりするにはいい機会かも知れないねっ!」
「ああ。まぁ、この辺りは雪もいいが――お前さんは骨休めをした方がいいかもね」
「大人しくそうしとく……」
 暖炉傍のラグでゴロゴロとしてみせたせおりはどちらかと言わずともアウトドア派だ。スノーボードも試してみようとは思っていたのだが、いざ暖かいロッジの中に籠ってしまえば外にも出難い気候である。
「兎に角、好きに楽しめればそれでいいよ」
 沙織の結論は実に緩い。
 何かと理由をつけてリベリスタを連れ出したがる彼の目的はこの場にある事で大半が達成されているからだろう。
 大きな木製のテーブルには既に料理や飲み物が配膳されていた。
 広過ぎる位に広いリビングダイニングが即席のパーティの会場だが、その向こうには今回の為に設えられたちょっとしたステージが準備されていた。
「うちの担当は普段通りギターと、あとこっそりバックコーラスやね。
 わかってんねんで、今日は誰の見せ場かなんてな」
「……『皆の』ですよ?」
 珠緒の言葉に恵梨香がコホンと咳払いをした。
「サイッコーのプレゼントを渡してくれれば、下支えとしては大成功やね。
 ああ、うちの方なんてちーっとも気にしなくてええから。じっと『前』だけ見ててな」
「……………」
 白い肌を紅潮させた恵梨香が何とも言えない顔をした。
 そんな彼女に上手い助け船を出した(?)のは、先の事件で親しくなった舞姫だ。
「このバンド、名前はあるのかしら? いえ、いいの。
 このMAI†HIMEがヴォーカルなら、わたしの中ではこう呼ばせてもらうわ……
『熱海プラス』――変わらない、たった一つだけの真実」
 顔を寄せ合ってアンプを弄り、本番へ向けたあれやこれやと打ち合わせに余念が無いのは珠緒に恵梨香、そして舞姫――異色のコラボが実現した『三高平学園音楽愛好会』、その出張版である。
「おい、酔っ払い」
「何だい、金持ち」
「やるんだろ――アレ」
「モチのロン。そんじゃいってみよっか。
 それじゃ皆さん御一緒に。キャッシュからの――」

 ――パニッシュ!!!

 翔護の掛け声に合わせて一同。慣れた調子で『何時もの』が炸裂する。
 それが丁度開会を告げる合図の代わりとなり、面々はそれぞれにパーティの時間を始めていた。
 その中でも沙織の周りはパーティの主役(?)らしく中々の賑わいを見せていた。
「室長、誕生日おめでとうございます!」
「とりあえずは……おめでとうございます」
「おう、ありがとよ」
 一番槍とばかりに出足鋭くやって来たのはリセリアを連れた猛である。
「公園の件は残念でしたけど……ま、見といて下さい。次はかるくやってやりますよ」
「そうですね、そうなれば……」
 どんな状況でもお祝いはされるに越した事は無い――リセリアを心から気楽にさせてくれない事情は、サムズアップした猛が言う程軽いものではないが、それは「期待してるぜ」と言った沙織にしても当の猛にしても分かっていての話になろう。
(ゆくゆくは――ドイツへ、か)
 猛と話した事をリセリアは反駁した。
『これが片付いたら』猛は自分の家へ来たいと言った。
 自分達だけではない。色々なものが少しずつ変わろうとしているのは確かなのだ。
(良い方向へ進むか、それとも悪い方向へ進むか――きっと大きな節目になる。
 ――どちらにしても、今までのままでは、居られないのかもしれないですね)
 世界にとっても、自分達にとってもアークは義務猶予(モラトリアム)のようなものだったのかも知れないと考えた。
「誕生日おめでとう、沙織」
「見違えたな。随分、大人になったじゃん」
 声に応えた沙織の視界の中にはカクテルドレスで着飾った雷音の姿がある。
「失敗したなぁ。声掛けとけば良かった」
「そうでしょう?」
 わざとらしい遊び人の言葉に動揺せず、ニッと笑って切り返したのは彼女をエスコートする快である。此方もフォーマルにドレスシャツを選んだ快は『人生経験』の分だけ以前より大人びた雰囲気を纏っている。
「君の今年が、良いものであることを祈って……最後などと縁起の悪いことを言うな。来年も祝うのだ」
「そうですよ。それにしても、変な事言いましたね」
「あん?」
「もしかして、次が結婚披露宴だからラストなんですか?」
 成長したのは雷音だけではなく快も同じ。
 四年も付き合えば見えてくる風景は少しずつ変化していくという事か。
「嫌な奴になったな、お前」と苦笑した沙織の声色は言葉とは裏腹の調子である。「そうですか? 専務」と嘯いた快は澄ました顔の中に『上司』への十分な親しみを隠している――隠れてはいないけど、隠している。
「相部屋で良かったんだよな」
「勿論」
 肩を竦めた沙織の一方で雷音は少しだけ頬を染めている。
 それなりにムードのある場所である。恋人同士で過ごすにもいい時間になるだろう。
 ましてや――今はもう居ない『彼女(あまの)』の事も含めて、感傷ばかりが募るリベリスタ達ならば。
「やれやれだ」
 会釈をして場を辞した二人の背中を見送った沙織は無意識の内に呟いていた。
 年の離れた弟が――不本意ながら――息子か娘のような年齢の連中が巣立っていく様は何とも感慨深いものだ。感慨が深いだけならば害は無いのだが、それをそうと感じる事即ち自分が歳を食ったという意味だと沙織は心得ている。
「感謝してるのは本当だぜ。多分アイツも他の奴等も――オレも」
 沙織の肩を意味深にポン、と叩いたイヴにそう言った竜一がついてきた。
 沙織を挟んで熾烈な攻防を繰り広げる智親、イヴ、竜一のやり取りも毎度の話だ。
「いきなり改まるなよ」
「次に言えるか、わからないしね。さおりんに、貴じーちゃん、今までありがとう。
 アークに拾われていなければ、どうなっていたことか……智親にも感謝してるよ」
 鷹揚に頷く貴樹の一方で、不意にそんな風に言われた智親は罰が悪そうな顔をしている。
「だから、俺も、それに報いるような何かをしなきゃあな。すべきことは見えている。やるべきことも。だが、今は――」
 今は。
「――イヴたんすりすり!」
「……やれやれ、だ」
 再び騒がしさを増した場から少し避難した沙織は先程の台詞をもう少し実感を込めて繰り返した。
 付き合いの長い沙織はあの智親が何だかんだでこういうやり取りを楽しそうにやっているものと思っているが――実際の所は定かではない。唯、結城竜一のバイタリティには呆れを通り越して尊敬すら覚えるのは事実である。
「兎にも角にも乾杯、ですよ」
「ああ。色々見なかった事にしておこうぜ」
 智親の繰り出したバットとか。
 背後からの声に振り返った沙織はスマートな所作で義衛郎からシャンパン・グラスを受け取った。
 カチン、と涼しい音を立ててグラスが鳴る。
「まぁ、でも実際――その歳になると、周りから色々せっつかれません? 
 まあでも室長は選り取り見取りと言うか、引く手数多と言うか、その点は正直羨ましいですけどね」
 冗談めかしてからかった義衛郎の視線の先には真剣な顔でバースデーライヴの成功を祈念する恵梨香の姿がある。成る程、付き合いが無くてもハッキリと分かる位なのだ。多少なりとも訳知りならば彼女程分かり易いタイプも無い。
「何処ぞのフィクサードじゃないが、結構バランスが大変なんだよ。そういうのも」
「仕事と恋愛の、ですか。ううん、オレもそろそろ実感する頃ですかね」
「三十路過ぎりゃ、な。まぁ、お前は革醒者だからどうか分からないけどな」
「……オレ、そもそも相手いませんからね」
 リベリスタの職業柄、何も知らない相手と付き合うのは難しい――必然的に増えるのはオフィスラブや同業者とのカップリングなのだが、義衛郎が頭に思い浮かべた三高平市の女性達は実に一筋縄でいかないタイプが多い。
「……という訳で室長、誰か良い人居たら、紹介してくださいね」
「お前も酔っ払いか」
「いぇーい! 金持ち、飲んでるゥ?(↑)」
「ああ、まあ割と良い感じに酔ってますね!」
 ここぞとばかりにカメラ目線を投げた翔護も真面目な義衛郎も実にパーティを謳歌している。
 二重窓の外の世界は一面の銀世界だ。標高の高い場所にあるこの辺りの雪は誰に踏み荒らされる事も無く、まだまだ溶ける様子も無く――外で雪と戯れるリベリスタ達を喜ばせていた。
 雪山に来たのだから、当然外で遊んでいる面々もいるのだ。
「桃子教官! 一緒に滑りませんか?」
「お誘い――ですか?」
 倫護の言葉に桃子が美少女面で小首を傾げる。
(教官に彼氏がいないことはこの前のバレンタインで分かってるんだ。
 六つも年下だけど、もしかしてもしかしたら……)
「上級コースがいいですよ」
「そうですね!」
 倫護としては願ってもない提案であった。
(真っ白なパウダースノーを巻きあげながら大海原のような白銀の世界に飛び込んでいく開放感と、林の中を切り裂く疾走感!カッコよく滑ってみせてポイントを稼ぐんだ。そうしたら、そうしたら――)
 甘い夢を覚ましたのは続く女の声である。
「上級コースがいいですよ。そこの崖とか!」
「……え、あ、その……崖?」
「大丈夫ですよ」
「九十度っていうか」
「射角マイナスですね」
「えっと……」
「『私は』羽がありますし」

 ――全て、見なかった事にして。

「ゆっきうさぎー! かわいくでーきた!」
 手を叩いて歓声を上げた魅零が――
「――どこに飾っておこ、ぎゃああ!!!」
 幾らも経たない内に面白い声を上げている。
「命が儚い! 生後数十秒! 余命幾ばくの命ではあったものの!!
 一日として生きられず此の世を去ったあああ!!!」
「えー、こうやったらもっと可愛いかと思ったのに」
 恨みがましく向けられた魅零の視線の先には、小首を傾げる葬識が居る。
 何時もの通り雪ウサギの首をハサミでチョキン、した彼には何の悪気も無い。前衛的な芸術が時に時代に理解されないのと同じように――彼のアーティスティックな部分は少女の感性にフィットしないのだ。そりゃそうだ。
「命ってホント儚いものだよねぇ。だから大事にしないといけない。この世の真理で、この世の真実だ。
 でもさ、ぶっちゃけ、それってただの雪を固めたものだよね? 命はそこに宿ってないことない?」
「命無くとも、黄桜の子供一号の兎ちゃんで、ばかばかっ! むきいいいい!!!
 先輩いいですか!まず人のもの壊したらダメです!
 ついでに頭切ったからって面白くないです! 思いやりを持ちましょ!」
 尻尾でべしべしと叩きながら消極的な抗議をする魅零に葬識は「えー?」とダルそうな理解を隠していない。彼女の更生努力が実を結ぶか否かはきっと遠い未来に積み残した宿題なのだろう。
「あぁ、そうだ。雪だるまでも作りましょうか」
「雪だるま? いいよ、二つ作ろう」
 一方で比較的平和にカップルをしているのは紫月と夏栖斗の二人だった。
 普通のものを二つ、小さいのも二つ。雪だるまを並べた紫月に夏栖斗は言った。
「なんか、家族みたいじゃん。大家族とか憧れてるの?」
「憧れと言うよりも諦めた、のでしょうか」
 夏栖斗の眉が少し曇った。真っ直ぐに前を見て雪だるまを弄る紫月は風宮の生まれだ。夏栖斗のようなイレギュラーな革醒者とは異なる魔術師の家の規律と宿命は想像するだに難くない。
「やはり、親が居ないというのは寂しい物ですから」
 結果として言うならば夏栖斗も近しい境遇になったとは言えなくないが、『諦め』という言葉は彼女だからこそ出るものなのだろう。
「諦めなくていいよ。僕がなんとかしてやるから――もう寂しいとか、言わせないから」
 夏栖斗は紫月を抱きしめて言った。
「だから、もう諦めるなんていう、さみしいこと言うなよ」
「僕が、ずっとお前の傍にいるから」。「必ず戦いから帰ってくるから」。守れるかも分からない約束を二つもして。
 そんな窓の外の光景を眺めていた二人が居た。
「夏栖斗と紫月も上手くやっているようで安心した……ふむ、経過は順調と言った所か」
「そうですね」
「最近、他人の事ばかり気になって――老け込んだか?」と尋ねた拓真に悠月はおかしそうに笑った。
 不器用な少年と人付き合いの下手な妹が上手くやっている事は姉にとっては実にめでたい出来事だ。
「……少し距離が近くなっているような雰囲気はありますね」
 干渉するではなく見守る――本人達次第の時間を目を細めて眺める彼女はやはり月のようである。
「そろそろ室長に挨拶でも……拓真さん? どうかなさいました?」
「前から」
「前から?」
「前々から思っていたんだがな、あの屋敷は二人には広すぎる。そう思わないか」
「そうですね」
 悠月は二度頷いた。
「三人でも広すぎたのは確か。拓真さんが住み込みの弟子を取るなり……家族を増やすなり」
 悠月は窓の外の雪だるまを眺めながらそう言った。
 パーティの時間はまどろみのようなものだった。
 誰にも優しく、外の冷たさを室内には持ち込まず。
「……」
 クス、と笑ったカルラは暖炉の前で寝息を立て始めた壱和にそっと毛布を掛けて目を細めていた。
「信じてもらえてんだか、警戒対象ですらないんだか……
『変わらず好き』『嫌じゃなかったら、一緒に居て欲しい』か。
 好きの形が変わっちまってたら、どうすりゃいいんだろうな。
 そのままを望まれてるなら、何も言うべきじゃない、のかねぇ――」
 距離感を少しばかり測り兼ねた男の独白は――独白の『心算』に他ならなかった。
「……変わっても、離れたくないです」
 カルラの袖をぎゅっと掴んだ壱和は言った。
 聞く心算も無く、聞こえてしまった先の言葉は――運命の配剤だ。
 意地悪な神様が見せた珍しく気の利いた采配は、二人の時間を大きく動かしたのだ。
 抱きしめられて、伝わる全部にドキドキして――
「ボクの好きの形はきっと変わってないですよ。
 前よりもたくさん増えたんです――いっぱいカルラさんが好きです。一番、傍に居てください」
 感動的なワン・シーンに遂に始まったバースデーライヴの激音がかぶさった。
(もしこれが最後なら、最後だとしたら、その瞬間は貴方と一緒に居たい。
 貴方と一緒にいられれば、その瞬間も怖くはない――)
 恵梨香はそんな想いを込め、
(一肌脱いでやらんと、な!)
 珠緒はここぞと気合を入れ、
「ラストライヴ、行きます! バースデイに捧げる曲は『三十七歳のブルース』!
 ……と、思ったけどラヴのオーラが凄いので一部演目を先倒しにして――デストローイ!!!」
「何だそれ」と笑った沙織に珠緒がウィンクし、せおりがしみじみ呟いた。
「どっかの偉いひとが気に入ってプロデュースとかしてくれんかなぁ」
「歌、歌いたいなぁ。深化してから得意なのがまたぐっと――」

●最後の二月
 聖の部屋を訪れたシュスタイナは彼と今夜の時間を過ごす事を決めていた。
「冬の凛とした空気は好きだけど、夜は流石に冷えるわね」
「これだけ冷えると星が綺麗に見えますね」
「星、ねぇ」
「今から出るの?」と問い掛けたシュスタイナに聖は答える。
「寝転がって見上げたいところですが……今からは難しそうですね」
「そうかしら?」
「……こんなところで……行儀が悪いですよ」
 悪戯な猫のようなシュスタイナはベッドに横になって上目づかいに聖の顔を眺めている。
(こんな所で寝ても、星は見えねぇし――)
 彼を悪戯で困らせるのも、彼女の悪戯で困るのも――どうしてこんなに心地良いのか。
「……ずっと」
「……?」
「傍に、いてくれる?」
 夢と現の間で少女が呟けば、男は首肯する以外の選択肢を持ち合わせない。
 運命の歯車は知らない間に動き始めている。
 錆びた軋み音を上げながら――億劫そうにその重い腰を持ち上げた。
 全てが変わる。
 永遠等無いと、全ての事実が肯定している。
 二月の最後の日に、アークの中で最前線に立ち続けてきた設楽悠里は尋ねた。

 ――沙織さん、今回の事が片付いたらアークってどうするの?
   元々の目的であるR-Typeの撃退は一応叶った。
   押し返しただけだから、まだ解決したとは言えないけど……

 彼は、言ったのだ。

 ――僕は、今回の事が終わったらアークを出ようと思うんだ。

 小を殺し、大を救う組織の在り方は悪では無く――唯『僕では無かった』だけだ。そう言ったのだ。
 小さくなった赤色がちろちろと揺らめいている。
「風邪引くぜ」
「――思えば、私も酒精を交わせる歳になったのですね」
「姿は変わらないけどな」
「幸いな事に、ですか」
「言うようになったな」
 暖炉の残り火を見つめていたアラストールは背後の気配に気付き、軽く冗談めいていた。
「『何か――『最後』な気がするんだよな』ですか」
「ああ」
 頷いた沙織の言葉は不思議とアラストールにも共感出来る響きを秘めていた。
 散りばめられた彼是が収束していく感覚は同じ。寂寥感にも、喪失感にも、達成感にも似たそれを何と表現すれば良いのかを彼女は良く分からなかったが。
「――この世界が、好きなんです――」
 此処では無い何処か、自分では無い誰かの聞いた言葉が何故か少女の脳裏に『思い出された』。
 それは鮮やかで、それは悲しく、それは懐かしいものだった。
「任せて下さい」
「ああ」
「任せて下さい。決して――」
 呟いたアラストールは己を研ぎ澄ませ、一振りの剣になるだろう。
「――決して、悲劇では終わらせません」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

 三月は別れの季節とも言いますね。
 新たな出会いを臨む季節でもありますが。

 シナリオ、お疲れ様でした。