● 「プロテインが革醒しました」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)が咳払いした。 その場にいた、「アークのチーム・ガチムチ」は、事態の深刻さに思わず空を仰いだ。 プロテイン。 筋肉を育て続ける人々にとっては、必須アイテム。 いうなれば、日本人なら米と味噌、英国人なら紅茶、ドイツ人ならジャガイモ、アメリカ人ならピザとハンバーガーが革醒したようなもんだ。 明日から、何を食って生きたらいいの。普通にご飯じゃだめなのかな。 彼らの阿鼻叫喚振りに、水筋肉のフォーチュナは先を続ける。 「ただマイナーな製品だったから、生産ロットもきわめて極小。 ある程度以上がぶがぶ飲まなければ、現象は発生しない。と、予知されてたから、優先順位を後ろに回してたんだけどさ。在庫処分セールとかで、偶然店頭販売の試供品となり、がぶがぶ飲んじゃった人たちが――」 フォーチュナもびっくりの確率だったらしい。 「筋骨隆々の大巨人に巨大化させる効果がね」 わぁい、縦にも伸びたよ。 「すでに別動班により、該当製品の買占めに成功。これ以上の事態の拡散はない。飲んじゃった人も二人は胃洗浄に成功。効果が発動する前にどうにかなったんだけどさ。最後の一人がなかなか見つからなくて――おじいちゃん、車の中で昼寝とかやめてよ、もう!」 フォーチュナは遠い目をした。 「だめだ、もう間に合わない。おじいちゃんは巨人化する」 うわごとのようにしゃべりだした。 ● 先頃定年、悠々自適半年目の新藤氏(65)は、軽自動車でお昼寝なのだ。 濡れ落ち葉というなかれ。奥さんの心の平安のため、午後の外出は家庭円満の秘訣だ。 ハンドルの上に足を乗っけて、いい感じに夢を見ている。 特撮ヒーロー第一世代の足がフロントガラスに触れ、突き破った。スラックスがバリバリと破ける。 はげかけたごま塩頭がリアウィンドウを突き破る。 フレームを肩が通り、胸が通り、腹がつかえた。車外にネルシャツと化繊のセーター、格安ダウンジャケットの中身が飛び散る。 青い軽自動車が海水パンツのようだ。 ぐんにゃりと変形したフレームががっちりと食い込んでいる。 それが、なんとなく寄った近所のつぶれかけドラッグストアの在庫一掃セールでおかわりしちゃったイチゴ味の「若いときに戻れるサプリメント」のせいとは、つゆしらず。 目覚めた新藤氏(65)は、辺りを見回す。 千切れたボタンのような、黒タイヤ四本があたりに散らばっている。 『うん、これ、夢とわかってる夢。俺、ストレスたまってんだなー』 そう思った新藤氏、悪くない。 ただ、世界は壊れかけているので、夢みたいなことが起こるだけなのだ。 『じゃ、マチでも壊してみよっかな! 様式美的に!』 ● 「このままでは、神秘秘匿どころか、リアルさナッシングのまま大量死傷者が出ます」 みんな、現実見よう。 「ある程度の時間が過ぎて、消化できれば効果はなくなります。みんなには新藤氏(65)を人目に触れさせないで、夕方にはおうちに帰ってもらうように尽力してもらいます。幸い、現場は山の中で、人はめったに来ないとこです――で」 ブリーフィングルームに満ちる男臭さに、顔を青くしながらフォーチュナが切り出す。 「ここに、件のプロテインがございます。飲んだら巨人化するのは、さっき言ったとおり」 巨人と戦うには、巨人になったほうが楽なのは火を見るより明らか。 「後は、人のいる方に行こうとする新藤氏(65)を羽交い絞めにするなり、すがりつくなり、どうにかして押しとどめて」 ガチムチリベリスタ達は、しばしの沈黙後質問した。 「服は」 「破れる。破けてもいいジャージと下着はアークから支給しますし、帰りの服も用意し解きます」 「装備は」 「吹っ飛ぶ。巨人化するなら始めからもっていかないように。紛失したら大変だから」 「――いろいろ大変じゃないか」 「今まで数々の巨人案件やお洋服が破けちゃう案件が発生しております。こんなこともあろうかと――」 モニターに、象がはけそうなステテコ各種が積み上げられて、別動班の移動車に詰め込まれている。 「ビキニとかは意味がねーから作ってないから。みんなステテコはけばいいんじゃないかな!?」 提供は、アーク・ラボ。被服部。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月10日(火)22:13 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 新藤氏(65)は、昔からイチゴミルク味が大好きだった。 しかし、大人になってからイチゴミルク味を口にできるのは子供がアイスを残したときくらいであり、その子供とアイスを共に食べる機会も巣立っていった頃に失われた。 もちろん、帰省した子供や孫と食べる機会はあるが、孫が差し出す抹茶味をどうして拒むことが、孫が楽しみにしているイチゴミルク味を自分のものにすることが出来ようか。 それゆえに、ふらりと入った薬屋の閉店セールで差し出された試供品のプロテインのイチゴミルク味をうれしく思った新藤氏(65)は何にも悪くない。 ましてや、おかわりいかがですかといわれて、否と言えなかった氏をどうして責められよう。 たとえそれによって、軽自動車を腰みのというか、往年のロボットアニメ的腰部を有した、巨大なおっさんが爆誕したとしてもだ。 してもだ。 ● 「ほほー」 『縁側で微睡む猫』岩月 虎吾郎(BNE000686)は、老眼鏡を掛けなおしつつ、歓声を上げた。 「おー、色々とでっかぁなっとるなぁ~。眼福ぜよ」 『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)は、にひーと笑う。 視線が不穏だ。 新藤氏(65)の腰周りが非常に心配になる。 「おっほー、すげえプロテインだぜ♪ どんな奴だろうと筋骨隆々の大巨人! たまらねえ……!」 『人狼』武蔵・吾郎(BNE002461)の語尾の感嘆符も不穏だ。 「無自覚に大・虐・殺はアレだし殺すのも何だから無事に帰す」 頭が、ちょっとおっかない狼さんだからって偏見の目で見てはいけません。リベリスタですからね。 「それ以外は楽しませてもらうけどな♪」 無事には、貞操とか精神的及び社会的フェイトも含まれますので、作戦要綱をご確認ください! 「巨体化とは言い得て妙なり、然し事実は小説よりも奇なりと言うなれば、心を広く持ち受け止めねばならぬ」 『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)が文語体でいいことを言ったので、みな板書するように。 「故に後の笑い話で済む様に事を成すばかり」 新藤氏(65)が笑えない事態になったら、アーク本部は責任を持って、該当リベリスタを泣いたり笑ったり出来ないようにします。 「どうせ大きくなるのなら、ふわもこアニマルが大きくなってくれればよかったのに!?」 音声をお伝えできなくて残念です。 この台詞、52歳・男性の口から出てるんだぜ。 ああ、全体を貫き通すピュア感と半疑問系。 『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)、天使と書いてエンジェルと読む。 ぜひとも40年前あたりにお会いしたかった。 (ステテコでよかった……ビキニとか誰が得するんだ) 片足にアーサーがすっぽり入って余りあるステテコを小脇に抱えるおっさん天使の脳裏に浮かぶ素朴な疑問。 そうだなー。わかりやすくいうと、狐男とか、狼男じゃないかな。 「なかなかの筋肉じゃのう。わしらも負けるわけにはいかんぞ」 虎吾郎じいちゃんの声からも、うきうきは隠せない。 イケナイおじさん達の中、実は十代のベオウルフ・ハイウインド(BNE004938)は色々考えていた。 十代だ。 世の中には革醒時に若返っちゃう人もいるけど、お年を召しちゃう人もいるのだ。 (問題は新藤氏に、如何に夢だと勘違いさせるかだな。ただ戻った場合、意識はあるから気づいちゃうかもしれないし――) あいにく、ベオウルフは、穏やかにどうこうするスキルを持ち合わせていない。 (その辺りは他のものに任せるしかなさそうか……) 面子を見る。 「まぁ、なんとかなるだろう……多分」 ほんとだな。信じていいんだな。 いや、信じてほしければ、信じなければ。 頼んだぞ、チーム・ガチムチ! ● 「必見!巨大筋肉男達が童心に返って怪獣ごっこ!」 虎吾郎がほえた。 「――が、テーマじゃ!」 すでに、リベリスタは小豆ジャージ(支給品)を着込んでいる。 無駄な情報だが、パンツは紙製だ。 「あちらさんが様式美を語るのならこちらも迎え撃つのが礼儀。本当に夢なら街で大立ち回りと行きたいが――」 うん、それ、神秘秘匿的に無理。 「おお、なんと言うことだ、巨人だ!」 音声がお伝えできないことが残念です。 聞くも無残な棒読み台詞であるが、これが源一郎の精一杯。 逃げ惑う一般市民(実は、巨大化系ヒーロー)の役なのだ。 「そこの巨人よこれ以上先に進むつもりならわしらを倒してからにするがいい!」 虎吾郎は、ノリノリなのはすばらしいが句読点を一切無視している。 その立ち居血に吹っ飛んでくる、新藤氏(65)の巨大な拳。 いかにへなちょこでも、ずずーんと地響きがした。 ガチなので、みんな、回避はかなり必死だ。 (仮に無事であろうとも夢とはいえ人を踏みつぶした、叩き潰した等の行いは気を悪くするやも知れぬ故) 新藤氏(65)に夢と思ってもらうとは言っても、後々の精神的安定のことを考えればだからね。悪夢、いくない。 源一郎の細やかな心遣いに、遠くから見守っている別動班の目頭が熱くなった。 「だが、負けはせぬ。負けはせぬぞー」 残念なことに、棒読みだ。 源一郎の演技力のなさに、遠くから見守っている別動班の目頭が熱くなった。 (この段階では巨人に抗う人類、という体を表すべく、恐れは見せぬが畏れは感じている、そうした風体を演ずる) 演技力に若干の問題はあるが、いいのだ。 (新藤氏が夢と感じているならば斯様な設定も善哉) ベオウルフは、符を駆使して、大量のモブを作っていた。 顔がみんなベオウルフなのはご愛嬌だが、これ夢だから。よくあるよくある。 (群がる影人を蹴散らすとかも、町を壊してみるのと同じくらい。想像しやすいもののはず) 巨人にたかる小さい人は、普遍的モチーフです! 「かかれー!」 新藤氏の毛脛を駆け上って、ちぎっては投げされる大量のベオウルフ。 世界は一気に昭和スペクタクルだ。 「はい、どーも、狐怪人ぜよー」 仁太、そのまま突撃。大体むこうずねくらいの高さ。 しかし、質量は兵器だ。 新藤氏(65)の悪気のない土踏まずが、大雪崩落敵脅威で迫る。 ぷぎゅる。 「ギャー死ぬー!」 仁太が悲鳴を右から左へ流しつつ、吾郎はゴッキュゴッキュと喉仏を豪快に動かしながらプロテインを一気飲み。 (どっか良いスポットがあるだろ、絶対に。前も後ろも下から存分に視姦してやんぜ) 65歳、いかに筋骨隆々に一時的になったとはいえ、元はメタボ・体毛処理なにそれおいしいの。な、おっさんの下腹部高密度パッケージのいいところは、逆光でも順光でもなかなか見えにくいっていうか、それってどこなの、教えてくれなくてもいいけど、若干気になる。ちょっとだけなんだから、誤解しないでよねっ! とにかく、超高速で動く狼頭巨人ほど迷惑なものはない。 「本領発揮だ!」 狼が遠吠えしている。 お母さん、お山の方から変な声が聞こえてくるよ。 アーサーも、ここらが潮時とプロテインを呷る。 (天使の翼生やした巨大なオッサンが現れるとか、まさか現実とは思うまい) 「か、体が熱い!?」 かがみこんだ姿勢から、虎吾郎じいちゃんもパンプアップだ。 源一郎も、役をこなすために今こそ飲むとき。巨大化モードに入っている。 そう、新藤氏(65)は、特に気にしちゃいなかったが、仁太は完全にガンミだった。 巨大なステテコに生まれるように足を通したリベリスタのの破れてもぜんぜん惜しくない小豆ジャージ(支給品)がバリバリ破れるのも、巨大化するおっさんがステテコにジャストフィットする大きさに巨大化する課程もみんな凝視していた。 リベリスタは犠牲になったのだ。本人達は気がついていないが。 人数が足りてるっぽいので巨大化しなかったベオウルフのみが難を逃れているというか、大体上半身があらわなので、あんまり珍しくないといっちゃ言える。 「怪人らしく愉し……苦しめてやろうかね、性的に」 仁太が、新藤氏(65)の青い金属製腰みのと化した軽自動車をはがしにかかる。 お、ドアロックされてねえ。 あああ、よして。それ以上は。 新藤氏(65)には、そろそろ金婚式を迎える奥さんが! (服すっ飛んでないしな、性的になってまうんはしゃあない) 憲兵さん、この人です。 「本人意志を最低限度尊重しつつ健全な肉体的交流で締めるぜ! プロテイン最高!ウォォォン!」 吾郎の雄叫びが、山々にこだまする。 お母さん、お山の方から変な声がするよ。 新藤氏(65)の青い自動車損壊に加担したリベリスタは、一般市民のいろんな意味の財産を侵害したとして、こってり説教喰らった上に、反省文を書かされるのだが、今の彼らの知るところではない。 源一郎が、見せられないよ的ステテコを、狼と狐の前に広げた。 「世には直視せずとも良き行いが少なからず在る、我が身にて押し隠す事も時に肝要」 いや、とめて。 隠さず、とめて!? ● そして、夕暮れ。 人気のない山中での大活劇は延々と続いている。 新藤氏(65)のへなちょこキックやへなちょこパンチは、どうスケールとなったリベリスタにとってはハエが止まるようなもんだ。 「うわー、やられたー。だが、ここはゆずれぬのだー」 台詞は棒読みであるが、アクションは本物だった。 (殴り合いに見せかけながら、自分の力は通さず、時に攻撃を受け吹き飛ぶ) ダメージコントロールは、アーサーとベオウルフの地道な回復術により、新藤氏が気にいる様に心がけられている。 ちなみに、ベオウルフの回復ビジュアルが、小型の狼さんが懸命に癒してくれるというものなのだが、狼に癒しと言ったら、ぺろぺろ舐めるである。 傷を舐める狼さんの舌に、思わずため息を漏らすおっさんリベリスタ。 もふもふを愛するベオウルフとアーサーのピュアな精神が受像するイメージは、どこまでも、「かわいいからときめく」であったのに対し、色々ヤマシイ吾郎と仁太にとっては、違う意味で眼福であったのだった。 幸いなことに、新藤氏(65)に傷が入らないよう、源一郎が最大限努力していたので、狼さんペロペロはされずにすんでいた。 (最終的に肩を並べ、殴りあった男と男として笑いあえれば最上よ) 源一郎の演出プランは完璧だった。 ただ、台詞がどこまでも棒読みであった。 今後のスキルアップを期待したい。 巨大化した体も縮み、ステテコがテントになってしまった頃。 とっすと、源一郎の手刀一発。 「乱暴なことはしたくなかっただがなぁ」 と、アーサーは顔を曇らせる。マジ天使。 「極力威力は抑えた」 源一郎は、マジ紳士だ。 「夢だ。夢です。みんな夢ですよー」 ● 「もしも~し! わかりますか。自分の名前が言えますか~?」 気がつくと、青い軽自動車で昼寝していたはずの新藤氏(65)は、赤いサイレンを高らかに鳴らす白い車に乗せられていたのだ。 「新藤……」 体のあちこちが鈍く痛んだ。 「車の中で昼寝なさってましたか? サイドブレーキが外れて、転落したんですよー」 壊れた車は事故のため、びりびりに破れた服は治療のため。 エリューションにまみれた真相は、闇から闇へ葬り去られるのだ。 「夢を見ていました――」 窓の外にはやけに体格のいいなぜか半裸の男性達。 彼らが通報してくれたという。 「なんだか、とても楽しい夢だったような気がします」 「そうですか。念のために検査しますけど、そんなにひどい怪我じゃないから安心してくださいねー」 実際、怪我はかすり傷だ。痛むのは、おそらく筋肉痛。それも一両日には直るだろう。 今日も、アーク別動班は暗躍している。 ● 時間はやや前後する。 帰りの着替えも、小豆ジャージだった。とりあえずは。 いそいそと差し出されたそれを、興奮冷めやらぬままもそもそ着込む。 「じゃ、今回使わなかった分のプロテイン、出してください」 虎吾郎は、げふんとむせた。 実は、私服のポッケには、プロテインの残りが入ったままになっている。 (戦力アップになりそうだし悪戯で誰かに飲ませても面白そう) 悪意ないリベリスタのいたずら心と戦うのも、アーク・ラボの大事なお仕事だ。 そんなんで、世界が崩壊したらいやでしょう? お仕事自体はそれほど難しくないが、いまや崩界度は、超ぎりぎりタイト状態。砂山の棒は今にもかしぎそうなのだ。 「お持ちですね?」 虎吾郎に、職員から信頼感に満ち溢れた笑顔が向けられる。 ワタシ、アナタガソレヲイマスグダシテクレルッテシンジテル。 信じてほしければ、信じなければ。 いっそ、ある種の宗教にも似た諦観や怒りを乗り越えた境地。 「す、すまんかった」 こうして、今日も世界は崩界から守られた。 ありがとう、チーム・ガチムチ。 エッチな接触はほどほどにして、これからも頼むぞ、チーム・ガチムチ! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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