●疾く暴く獣 「素晴らしい、と評価せざるを得ないだろう」 俳優よりも美しいその男は、名優よりも良く通るそのバリトンで、尚も自身に追いすがるリベリスタ達に賞賛の言葉を投げていた。 「定められた終末を覆し得る者が居るのだとすれば、それを人は勇者と云う。 私は神を信じぬが――敢えて人は信じよう。卿等は何を頼みにこの場に立つ?」 バロックナイツ盟主ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマンが『閉じない穴』の制圧に乗り出したという情報は、アークにもたらされた最悪の凶報だった。 程無く始まった猛烈なまでの敵攻勢は、水際の防御を目論んだアーク側の網の目をすり抜ける形でその主力を公園内部各所へと送り込んでいた。 まさに今『穴』付近までやって来たディーテリヒが幾ばくかの驚きと賞賛をアークのリベリスタ達に向けたのは、言葉の額面通り彼等の執念を評価してのものだろう。 「難しい話よりも、お前を行かせない事に意味があるんだろ。 ……最大の問題がお前なのか、そこの魔女なのかは分からないがな」 リベリスタの言葉にディーテリヒの影に隠れるようにしたアシュレイは首を竦め、彼の方はと言えば「ふむ」と合点したかのような顔をしていた。 「勇者達よ。英雄譚は必ずしも幸福な終焉を刻まない」 「分かってるよ」 言われるまでも無く、敵は絶大だ。 先のアルベール、セシリーの足止めでは小細工を弄したアシュレイもここは種切れなのか動く様子を見せないが、敵は二人でも盟主と使徒。アシュレイ辺りならば戦闘的に圧倒する目はあるかも知れないが、ディーテリヒは未知数だ。 「久方振りですねぇ、この構図は」 「卿も変わらぬな」 「蝙蝠はお嫌いか?」 「私は、卿のような男は嫌いではない」 チェネザリ・ボージアはディーテリヒの言葉に苦笑した。 『閉じない穴』に向かうディーテリヒを食い止めるべく編成されたのは『ヴァチカン』、アークの連合精鋭部隊である。アーク最後の隠し玉として放たれた虎の子の部隊は、必然的にこれがディーテリヒを阻む最後の手段である事を意味している。アークのトップ・リベリスタが十人。そしてチェネザリ枢機卿を含む『ヴァチカン』精鋭部隊が二十一人。数では勝る。戦力は……自明だ。 「止める」 「然り」 「止めてみせる」 「叶うならば」 ディーテリヒがゆっくりとその目を開く。 碧く透き通るその視線は邪悪よりも何かの挑戦を思わせた。 「私は聖書の嘘を暴く者。卿等がそれを止められると云うならば――」 盟主の手にした古い、古い預言書が青い炎に包まれた。 彼の言葉とその『暴挙』の双方にチェネザリの眉が動く。 『聖逆戦争』の果てに彼の手元に納まった『ヨハネの黙示録』は今、完全に消え失せた。故にこの先は――預言に無い戦いだ。神ならぬ人域の、まつろわぬ運命を引き寄せる為の聖戦なのだ。 「……いいだろう!」 ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマン。 世界最大のフィクサードの見せた『最高評価』に勇者達は応と吠えた。 魔力を帯びた指輪を輝かせた彼の呼びかけに応じて、美しくも硬質な戦乙女達が戦場を席巻した。 幻想めいたヴァルハラの光景はどの戦士の魂をも揺らしたが―― 不思議と、何処にも恐怖は無かった。 ●塔の魔女 ……始まりますねぇ。 うん、まぁ。簡単に行かせてくれる人達とは思ってませんでしたけど。 しつこいと言うか、周到と言うか、優秀と言えばいいのか…… 貶してるんだか、褒めてるんだか微妙ですけど。まぁ、そういう人達です。 さて、この状況は頂けませんが、チャンスでもありますねぇ。 私はあの場所を手にしなければなりませんが、問題はアークだけではありません。 結局、ディーテリヒ様も何とかしないといけないのですから…… 無理です。私如きには絶対に無理。勝ち目ゼロ。ですから…… ええ、ここは大いに期待しましょう。 私に最大の、最後のチャンスをくれる最良のオトモダチに。 感謝しましょう。心から。 好機を待ちましょう。裏切りは、女のアクセサリですから。 ――『使徒殺し』なんて他の誰にも出来ませんし? あの方をどうにか出来るとしたら、ねぇ。貴方達しか居ませんからね! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NIGHTMARE | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月01日(日)23:14 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●歪夜の中でI 「よう、アシュレイ君久しぶり。ちゃんとご飯食ってるかい」 禍々しい月が見下ろす大劇場の舞台には余りにも不似合いな言葉が宙に浮かんだ。 バロックナイツ『本隊』による三ツ池公園襲撃は、臨界的危機を迎える日本の神秘情勢と合わせれば――此の世の終末さえ予感させる大事の中心だと言えように。 「――お蔭様で。少し痩せたように見えたなら、それは喜ぶべき所なのかしら」 「どうかな。おじさんは気の利いた事は言えないからなぁ」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)の言葉に淡い笑みを浮かべ、あざとく小首を傾げて見せたのはアークとは因縁浅からぬ諸悪の根源――『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアその人である。 幾つもの偶然と、幾つもの必然が寄り合わされた糸の先に今日という日は存在していた。かつて万能の計算機『モリアーティの行動計画書<モリアーティ・プラン>』が語ったその通り、当のアークの人間がそう確信していた通りにアシュレイという災厄の種は最悪のタイミングでその芽を吹いた。 それは誰にも予想通りの出来事に過ぎなかったが、かといって誰にとっても何ら思う所が無い訳ではない。 「あなたってアレでしょ。分かってるんだけど――つくづく、唯のバカって事でいいのよね」 「あはは、否定出来ませんね」 複雑に見せかけてその構造は単純だと『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)は確信していた。灰色の頭脳頼るまでも無く、たかだか数年関わり合った彼女は、彼女の思惑は、彼女の行動は彩歌に或る強いイメージを与えていた。 「この自分勝手な喜劇の幕を引いて貰いたいんだけど?」 「お断りします」 彩歌の抱く感情が辛辣な言葉とは裏腹なものである事を理解しながら、アシュレイはにっこりと笑った。 「……」 濁った湖のようなアシュレイの奥底を覗き込む事は難しい。 唇を引き結び、そんな彼女をじっと見つめる『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)はこれまでの彼女、これからの彼女に想いを馳せていた。その来歴から悪を、取り分けフィクサードを憎悪する自分がどうしてこれ程までに彼女に同情的イメージを禁じ得ないかを、恵梨香は明確な論理で解決出来ていなかった。 「……盟主は、私達が倒すわ。貴女は……投降なさい」 恵梨香はその言葉を掛けた理由を『アシュレイの利用価値の為』と語る。しかして自身の中で割り切れない想いが強くなる自覚を出来ない彼女では無かった。彼女が「盟主を倒す」と言った理由は『約束だから』。もっと言ってしまえば『友人(アシュレイ)との約束だから』に他ならない。一方的で手酷い裏切りを働いた魔女を憎み切れない彼女は――唯、感情の天秤に揺れている。 (アシュレイの心の底はわからない。 けれどアタシも愛する者のためなら全てを敵に回しても構わない――だから、なのかしら) 改心等する筈が無いのに、諦める筈が無いのに。 先の害にしかならぬと分かっていても、この酷い女をどうしても殺したくない、と考えてしまうのは。 「僕には何もわからないよ」 『境界線』設楽 悠里(BNE001610)が力無く微笑(わら)って零した。 「僕には分からない。盟主の考える事も、アシュレイちゃんの目的も。 その願い自体はそう邪悪なものじゃない気はするけど……それって全部を踏み躙ってしないといけない事なのかな」 諸悪の根源と、世界最高のフィクサードに向ける言葉としては余りにも的外れにも聞こえる言葉であった。しかして、悠里には彼等が決して噛み合わなかった――ペリーシュやラトニャ、裏野部一二三や黄泉ヶ辻京介のような『怪物(フリークス)』には思えなかった。 「この場所だけは譲れないんだ。花子さんが、創太くんが命をかけて守ったこの場所だけは」 「……」 アシュレイがお喋りな舌を引っ込めたのは『花子さん』も『創太くん』も知っているからだろう。 「どうしても止めますか?」 「止めるさ」 悠里の言葉は素直に響く。 「アシュレイ。僕は今でも君を友達だと思ってるよ。 だから、間違ったことをしようとしてるなら殴ってでも止める。それが友達ってものでしょ」 「――――」 この魔女は何処までも加害者の癖に、時折その猫の瞳に憂いを覗かせるから――尚更最悪なのだ。彼女は「悲劇のヒロインぶる心算は無い」と言うだろうが、魔神アスタロトに「拗らせた処女」とまで嘲笑された女は湿っぽ過ぎるし、情熱的に女が過ぎる。 「アシュレイちゃんが、何をしたいのか聞かせてほしい、乙女心的に見当は付いてるけどね……」 『非消滅系マーメイド』水守 せおり(BNE004984)が呟く。 「誰にも、等しく事情はある。人並みの生を送るものにも、尋常ならざる修羅を望むものにも」 恐ろしく良く通るバリトンが僅かに困った顔を見せたアシュレイを『救援』した。 声の持ち主は言わずと知れた今夜の主役の一人である。かつて世界最強の名を欲しいままにしたバロックナイツの盟主にして世界最高と賞賛されるフィクサード――『疾く暴く獣』ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマン。 「其方さんは――これは初めまして、と言えばいいのかい」 「それとも――改めまして、と言った方がいいのかな、盟主殿」と努めて気楽とも言える調子で言った烏の視線の先に微塵も隠されない、隠せよう筈も無い圧倒的な存在感が蟠っていた。 「どちらでも。但し私も卿等の事は良く知っている心算だ」 「両騎士殿の忠勤か」と烏は合点した。 闇の中に蒼い光をたなびかせる盟主を中心に十二からなる戦乙女達が戦いの編成を済ませていた。 幻想を描く絵画のように――神話的なその光景は敵味方を関係なく見る者を魅了するかのようだ。 「神秘史に刻まれる名優達との共奏。重畳、重畳。まさに時は甘露だ。 成る程、『良く似ている』と言うべきか……塔の魔女、そして歪夜の主。卿らは実に面白い。大変結構」 虚ろの瞳が世界を映す。『本人に大して関わりがある訳では無いが』訳知り顔の『原罪の仔』フェイスレス・ディ・クライスト(BNE005122)がカラカラと意味深な快哉を上げていた。 「神秘探求者フェイスレス。卿らと友誼を結びに来た。好敵(とも)とお呼びして構わぬかな?」 「不思議な男だな、卿は」 アークとバロックナイツの付き合いは深く、それなりに長い。長い歴史の中では刹那の瞬きに過ぎずとも、余りにも濃密な『殺し合い』を演じてきた相手の首魁と思えば不思議に初めて会った気もせぬのは事実だ。 「そんなにも、戦乙女を従えてのご登場とは。既にギャルの角笛は鳴り響いたのかねぇ」 ディーテリヒの切れ長の瞳が再び軽口を叩く鳥の方に向けられた。 おどろおどろしいという意味で――彼より猛々しい存在は幾らでも居ただろう。 彼はあくまで静やかで、彼はあくまで硬質だった。上等に磨き上げられた宝石のような青い瞳は粛々と目の前に広がる光景を映すばかりで、そこには感情の色が薄い。無感動という訳では無いのだろうが、まるで此の世で起きる全ての事を見通しているかのように今夜という最高峰の舞台にも揺らいでいない。 「異界とはいえ、世界が壊れ行く様を見た事があります。 神――ミラーミスが侵され、狂う様も見ました。 この崩界が臨界点を迎えた時――この世界はどうなるのでしょうね?」 「さて、それは私にも分からない」 『現の月』風宮 悠月(BNE001450)の問い掛けにディーテリヒは首を振る。 「聖書の嘘を暴くと貴方は言う。 ロストコードの果てに至る完全なる崩界、貴方はその先に何を求めるのか。求めているのか」 「唯、果てない――保証(うそ)の無い可能性を」 「それが、貴方の黙示録――」 「然り」。短く答えたディーテリヒを悠月は凝視した。 単純な力の多寡で言うならば――確かに彼より強力な存在はあっただろう。 例えば『R-type』は人智の及ぶ次元には無いし、同じフィクサードとして見てもラトニャ・ル・テップに比肩する存在等、この世界(ボトム)にあろう筈も無い。『黒い太陽』と比してもどうかという話である。だが、どうしてか――気のせいなのか。リベリスタ達が目の前の彼に抱いたイメージはそれ等何とも違う別の――異質の怖気にも似た予感であった。 名優が一挙手一投足で舞台の上を支配するのと同じく――歪夜はディーテリヒのものであるのかも知れない。 酷く芝居がかった男は全く一つの世界を抱いていた。それを人は時に魔性以上の神性と表現するのだろう。 古来から芸術家達が究極のモチーフに神性を選んだのは全く道理としか言えまい。 「ゆめ、油断めされるな」 唯一、ディーテリヒとの会敵経験を持つチェネザリが低く呟いた。 「彼は『強い』とかそういう次元ではありませんからね。それは『聖逆戦争』の時も同じだった。 一度彼に呑まれれば、まともな戦いにもなりませんよ」 何という魔界か。 何という現場であろうか。 壊れかけた世界の壊れかけた夜だから――最高潮に立つキャストは何れも等しく魔人であろう。 力無き者の全てを拒むこの空間は、凡百の存在を許さない究極の一幕だ。 緩慢にも思える時間の流れはその実吐き気にも似た重圧を伴っている。 表面だけ平静に取り繕ったその場は、誰もがそう確信している通り仮初の姿でしか無いだろう。 冷たい風に吹かれた暗い木立がざわざわ揺れる。 心臓を締め付けるかのような圧迫感と喉の奥からせり上がってくるような不安感が一秒毎にリベリスタ達を苛んだ。厳かに佇むディーテリヒには微塵も殺気が見えないのに、これならばジャックの――抜き身の殺意を喉下に突き付けられている方が十倍もマシだとさえ思えた位だった。 「分かってるわよ」 「『ヨハネの黙示録』を簡単に焼いちゃうなんて――ハレルヤ!」。そう応じた『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)に友軍の『ヴァチカン』二十余名がややざわついた。ついでに言えば彼女の傍らに居た『暴君』レオンハルト・キルヒナー(BNE005129)の眉も吊り上がり、その口元はピクピクと引き攣っているがそれは余談。 「枢機卿、これは大変な失言を」 「……いえ」 「ああ、『ジーザス』の方が良かったかしら」 悪びれない海依音は大事の前の小事に頓着していない。 「神様の言葉は嘘ばかり! わざわざ暴かなくてもその程度のことは、既に知ってるわ。 とは言え例えイケメンでも駄目なものは駄目よ。世界が滅茶苦茶になるのは気持ちいいものじゃないわ。 あの日、ナイトメアダウンのあの恐怖は今もなおワタシを苛むのだから」 「黒覇さんとの幸せな結婚生活もあるんだから」と続けた彼女は実に彼女らしく宣戦布告をした。 重要なのは、この場に居る戦士達が『有資格者』である事実の方である。 「聖書に嘘があると? 寝言を言う」 「私は聖書より祝詞や神楽で育ったので、あまり実感はないですけど……」 「ならば、これを機に聖書に学ぶべきだな。それが人のありようだ。 この――くだらん『掃除』が終わったらば、すぐさまにそうするべきだ。任せておけ」 「え? え、ええ……は、はあ……」 神職にある清らかな巫女はレオンハルトの至上に原理主義的な言葉に咄嗟にお茶を濁していた。 レオンハルトは盟主の言葉にも、海依音の言葉にも大いなる不満を隠してはいなかったが……『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)の言葉は結果的に彼の矛先を上手く逸らす方向に機能していた。何時も通りのリベリスタ達のやり取りに、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだのは事実だった。リベリスタ達はそれぞれにリベリスタ達のペースを取り戻し、ある種『呑まれていた』空間は雲散霧消に何処かへ去っていた。 のんびりとお喋りを楽しむような局面では無いし、暇も無いが――その意味は十分ある。 目を細めた盟主は戦いの前に与えられた僅かな猶予をいちいち咎め立てるような小物ではない。 それは――小夜がたった今施した翼の加護を見ても同じ事である。 「貴方がやろうとしてることは、貴方を含むこの世界より大切なのですか?」 「私はこの世界が無価値だとは思わない。 人間も、文明も、卿等も――私も。本質的には違うものだとは思っていない。 だが、優先順位の問題だ。卿等は『保持』を目的に動き、私はたゆまぬ『革新』を望んでいる。 この平行線は遠く星の先まで届いても交わるまい。生命の本質を善悪の二元論で語るは、余りにも稚拙だ」 小夜はディーテリヒの言葉に唇を噛んだ。抽象的な問いを投げた彼女は彼を全く話しの通じない相手とは思っていない。言い換えれば、どうしようもない邪悪であるというイメージを持っていなかった。だが、アークを含めた全てを肯定するディーテリヒの言葉は裏を返せば彼が誰にも否定されざる存在である事を意味している。 無駄、なのだ。絶望的なまでに。数百年の時を生きたこの男を翻意させようとする事は。 「――時間だ。卿等、勇者達よ。その力と刃を以ってこの魔王(セイタン)を打倒せよ!」 666の数字を持つ聖書の獣は空より堕ちた魔王の暗示だ。 ディーテリヒの言葉が冗句なのか本気なのかを判別する術をリベリスタは持っていなかったが―― 「――まぁ、そうだよね」 頷いたせおりの青い瞳はこの場に最も相応しかった。 灰色を夜に揺らし、美しい目に強敵に相対する喜びを宿らせた彼女は――彼女の想い人と同じく何処までもシンプルだ。 「アークリベリオン、セオリ・ミナカミ! 今後、世界最硬のイイ女になる予定! 皆さんお見知りおきをー!」 ディーテリヒの薄い唇が微笑を刻んだのはそれを愚かと謗ってのものでは無かった。 ●歪夜の中でII 「魔術師たる者、頂を目指すは当然の理。 さあ、行こうか漣、黒き太陽の娘よ。これを喰い損ねれば悔いしか残らぬ!」 謳うように高らかにフェイスレスが声を張れば、途端に穏やかな夜は戦場へと姿を変えた。 彼我、ほぼ同時に動き出す。戦いの編成を組んだ敵陣に相対して、リベリスタ達も己が戦闘プランに適した陣形を作り出していた。 リベリスタ側の戦力はアークリベリスタ十名、そしてチェネザリ枢機卿を含む『ヴァチカン』精鋭二十一名。 一方で敵側の戦力は『疾く暴く獣』ディーテリヒ、彼がアーティファクト『ヴァルハラ』で呼び出した戦乙女(ヴァルキリー)が十二に、『塔の魔女』アシュレイを加えたものだ。 「あれは異教の天使(ハエ)、まず、罰すべき対象です。審判の露払いは我々が」 「……その方便に、まずは乗っておきましょう」 レオンハルトの言葉にチェネザリが頷いた。 賢しい彼は海依音に告げられた魔女の裏切りの可能性を十分に理解していた。 (先ずは、戦乙女を処理しなければ始まらない。それだけは動きようもないか) 悠月の考え、リベリスタ陣営が組んだ計画はディーテリヒを守護する戦乙女達を素早く撃滅せしめるというものだ。 『御代わり』の可能性も否めないが、戦乙女を減らす、ないしは抑える事が出来たならば敵はフィクサードが二人きりだ。その内の一人が背後から味方を撃つというならば、これは絶望を穿つ勝機に成り得るだろう。 (しかし、それだけとも思えませんが…… もしも神殺しを目論むなら相応しい品、神殺しの神器は幾つか思い浮かぶけれど) 戦乙女も所詮は露払いに過ぎまい。 ディーテリヒの得物が軍勢を繰る『ヴァルハラ』だけとは思えない、それが悠月の予測だ。 数的にはリベリスタ側が勝るが、これを優位と考えている者は皆無であった。だが、数字が額面通りではないのは敵側も同じであり、アシュレイがディーテリヒに忠実ではない事をリベリスタ側も又確信していたのだ。 (つまり、何処まで『乱せるか』だ) 不測の事態に不測の事態を重ねればその先に奇跡の道が見えてくる事もある。 アークはそうして多くの絶望を覆してきた。不敗が無い事を誰よりも良く知っていた。 (彼はひょっとしたらあの時のウィルモフ以上かも知れない。でも、それでも――退けない!) スピードには相当の自信を持つ悠里がアスファルトを蹴り上げ、急激に加速した。 戦乙女共の機先を制し、ディーテリヒに喰らい付くのが彼の請け負った役目であった。 この世界を護るために。見知らぬ誰かの希望を未来に繋げる為に。 両手の誓いを強く握りしめ、心を奮い立たせる―― 「――僕が、僕達が! 境界線だッ! 相手になって貰うよ、ディーテリヒ!」 『貴様を主には触れさせぬ』 ――鬼気迫る気合と共に繰り出された境界線の篭手、渾身の豪打をしかし瞬時に現れた青い影が阻んだ。 「……ッ!?」 目を見開いた悠里の目前には純白の羽根を広げた美しい女の戦士。 『卑下する事は無い。貴様は最高の戦士の一人だ』 戦乙女にそう評されたならば、これは至上の評価に他なるまい。しかし。 最高の気合と、最高の技と、最高の力――武術家としての練達の粋とも呼べる悠里の一撃を硬質の音で弾き上げ、彼の体を二メートル後方へ押し戻した彼女は己が主張を譲る心算は無いようだ。 (速い――ッ!) 緒戦の攻防で悠里が理解したのは敵陣が自陣を上回るスピードを持っているという事だった。 一歩も動かぬ盟主は冷たい視線を至上の攻防へ向けるのみ。リベリスタ陣営で最も速い悠里が阻まれたという事は、陣営が否が応無く先制攻撃に晒されているという事でもあった。 「この――、っ、無茶苦茶な――!」 思わず声を上げた彩歌に同じく――リベリスタ達は一瞬で今回の敵の脅威を理解していた。 先制攻撃は容赦無く闇に光芒を刻み込んだ。ディーテリヒの守りに残った悠里と相対する戦乙女を除いた十一体が縦横無尽に空を駆け、急降下爆撃の如くリベリスタ陣営で暴れ回ったのだ。 「同じリベリスタ、連携を計るなら誰かが侍る必要が有りましょう?」 涼しい顔でそう言ったフェイスレスは辛うじて戦乙女に対空の迎撃を放ち、同時にチェネザリを盾にする位置に滑り込む事に成功したが、一部極めて素早い者を除く大半のリベリスタは敵の反応についていけていない。 特に防御面で劣る火力型のリベリスタを多く備えたアーク陣営のダメージは甚大なものとなった。 「泣き所を……」 「……ついて、きますよね……っ…!」… 恵梨香にしろ、小夜にしろ――他リベリスタ達にせよ。編成的な脆さは如何ともし難い部分だ。素早い前衛を中心に緒戦で戦力をカバーに回したならばこの直撃は避けられただろうが、単純に『敵を抑える』とだけ考えた陣営の若干の甘さは否めない。 「チッ」とチェネザリ枢機卿が舌を打った。 自己配下によるアーク防御を優先するべきだったという咄嗟の彼の考えは無論アークの為を思ってのものではない。アークを利用してこの戦いを制したいという彼の思惑を反映したものに過ぎないだろう。 先に動かれれば『抑える』という基本の形は絵に描いた餅でしかない。 リベリスタ達が軸に頼んだ戦力の数も速さのみを頼る先制攻撃には関係が無いのだ。 「ああ、もう! 玉の肌に何してくれるの!?」 臍を噛んだ海依音こそ、高い独立戦闘能力により猛襲を何とか耐えたが…… 戦乙女の嵐が吹き抜けた後には、運命に縋らざるを得なかった戦士達が複数残された。 流石に脱落したのはチェネザリ機関の二人位のものだが、部隊の小破は否めない。 「ブンブンと耳障りな。異教の天使(ハエ)共め――!」 受けた深手に目を血走らせたレオンハルトが痛みに一層の闘志を燃やす。 「制圧せよ! 圧倒せよ! 我こそが神の魔弾なり!」 熱狂の言葉が己が戦いに聖なるかな、祝福を与えんとするかのようだ。 屈辱は必ず返さんと――セブンス・アポカリプスを振り上げた彼は戦乙女目掛けて斬りかかる。銃としての機能を封印・喪失した弾丸(いのり)の銃剣は、揺るぎ無い信仰に支えられた単純暴力を神への敵へと叩き付けた。 「高き山は身を低く。悔い改め、神の前に頭を垂れよ! 我こそが黙示を告げる者なり――Amen!」 強烈な暴君の一撃が降臨し、戦乙女達を場から散らす。 「ちょこまかと」と毒吐いた彼に続き、リベリスタ達は猛烈な反撃へと撃って出た。 「――まず、押し返す以外に方法は無い、ですね!」 悠月の形良い唇が闇の中に闇よりも尚昏(くら)い呪葬の歌を紡ぎ出した。 激しい乱戦は望んだ展開では無いが、こうなれば止むを得ない。考えてみればアークの陣営は圧倒的に攻撃寄りだ。『ヴァチカン』の援護も多少は期待出来るとはいえ、陣営の脆さは確実だ。戦乙女の数を減らすという基本のプランと編成の齟齬、編成の弱点をカバーする部分の詰めが甘かった部分、それぞれの要素が複合的にこの状況を作り出した以上は、このまま立て直すか、押し切るか以外の術は無い。立て直すにせよ、押し切るにせよ、戦いのゲージを中央まで戻さない事にはモメンタリーがモノを言う。 (元より、幾度の曲芸もこなせねば歪夜の主に届くまい。 何より、彼の魔女は不利でも計算に入れて動く。余は己が記憶を信ずる。アレは結局『裏切りの』魔女だ) 己が目的に忠実かつ貪欲なエゴイストは魔女だけではない。このフェイスレスも同じ事なのだが。 「アークは――私達は。悪夢の崩落を越え、此処に居るのです!」 銀の円環の護符、月の光の剣、月影の魔道衣――即ち悠月の全身に漲った魔力が彼女の見据えた戦乙女達を次々と撃った。 「故にこそ、あのような事を繰り返させなどしない。 ――例え『変わらぬ永遠』がそうなったように。黙示録に語られるような終末の果てに新生が在るとしても!」 抗い、足掻き、その力を尽くすのは悠月だけでは無い。 「願いは、たった一つ。例え、何が相手だろうと、ね」 サングラスを放り投げた彩歌の瞳が高速で回避行動を取る戦乙女を睥睨する。パターン化不可能な程に精密かつ緻密な機動を彼女の頭脳が猛追する。ゼロコンマの間に導き出された論理戦闘が彼女のオルガノンに更なる力を与えていた。 (私は主を信じるけれど、人の為に運命を曲げたりするとは思っていない) 彩歌は信仰と無信仰の争いには興味が無い。だが、彼女は欲張りだから。 「動けるときに動かないと、きっと後悔する――それは確実!」 彩歌の強烈な意志に応え、強烈無比な意志の波が戦場を波打たせた。 宙空を滑る戦乙女達が彩歌の迎撃に晒されて一瞬だけその動きを鈍くした。 『ヴァチカン』を含めたリベリスタ達はめいめいに反撃に出るが、ここでも出色はアークのリベリスタ達だ。 「当てるだけじゃなく如何に攻撃を通すか、だ。射撃の名手達から学び盗んだ成果を披露と行こうか!」 守勢に回れば脆さは出るが、攻めている限りは晦烏程頼りになる男もそう多くは無い。 高速で動く戦乙女すら『的』とする彼は二五式・真改から連射を吐き出し、弾幕でこれを抑え付けんとする。 「三高平で何名も『厳かなる歪夜十三使徒』が死んだ。これも予定通りなんだろ?」 銃口から立ち上る煙の向こうを眺め、烏が言う。 「その為の使徒だってのはおじさん薄々感じてたがね。流石に目的まではさっぱりだ」 黙したまま答えないディーテリヒが烏を見つめる。 「どんな花火をぶち上げる気だい、盟主殿はさ。聞きたく無いが、興味はある。困ったモンだ」 「――邪を祓って方舟を護る波、アークの切り札! とくと喰らって驚きやがれっ!」 戦乙女達にせおりの放った清かな激流が襲い掛かった。理想を抱き、困難を前に怯まない――アークにのみ存在し得る、運命を覆す存在。アークリベリオンが示す意味の通りにせおりが更なる奮闘を見せていた。 「ここに来た以上は――ヴァルキリーだろうと何だろうと食い止めるっ!」 見栄を切る彼女の意気は軒昂。 「そうそう」 海依音が敵を見据えた。 「世界を崩界なんてさせない。英雄的な願いじゃない。私は全部私の為に。 だって、この先に続く黒覇さんとの時間をあんな駄々っ子みたいな魔女に邪魔されたくないのだもの!」 強烈な審判の光が彼我の視界を焼き尽くす。リベリスタ達の攻撃は何れも精強で、何れも練達で、何れも執拗だった。並みの敵ならばすぐさまにも倒せよう猛攻が戦乙女達に吸い込まれていく。 盟主は一歩も動かず戦況を見つめ、減らす筈だった彼女等はリベリスタ達の期待を裏切って墜ちはしない。 「でもっ、それでも――」 諦めればそれまでだ。 世界の守護者たるリベリスタ達は、この小夜にはその選択肢は許されない。選ぶ心算も無い。 どれ程に戦況が悪かったとしても、今があるのはどうしてか。先人はあの絶望(R-type)を諦念で迎えたか。答えは否である。彼等に比べれば、ディーテリヒも。この戦場もまだ始まりにしか過ぎないではないか! 「……どうせ正攻法で勝てる相手じゃないんです! だからこそ私は『いつも通り』を誠心誠意、全力でやるだけです!」 神谷小夜は何故リベリスタになったか。それは―― (例え果たせなかった事があったとしても。 誰も欠けず皆で一緒に帰れるようにするのが、私がリベリスタを続けてきた理由。 信じる人の数を力とするなら盟主の言う『神』には及ばないでしょうが…… 私は八百万の神を信じてますし、神と人とを繋ぐ道を学んできましたから。簡単に枯れたりは、しないですよ?) 小夜の祈りに応えて天が渾身の奇跡を降り注がせた。 奇跡を降らせるという意味では――再生と破壊、そのベクトルこそ違えど恵梨香も又同じである。 「これ以上――崩界を進める事だけは許さない」 呟いた恵梨香の言葉は敢えて『誰を許さないか』を言わなかった。 少女の炎のような瞳の見つめる先は盟主であり――人付き合いの下手な彼女が友人と認めた魔女だった。 「アタシにも守るべきもの、守るべき人がいるから。だから――」 「止まりなさい」と想いの全てを詠唱に込め、大魔術・裁きの星が闇の空を切り裂いた。 揺らがず、澱み無く。唯、意志という武器のみを携えて歪夜に挑む彼女は、戦士達は美しかった。 それは遠い日の伝承(サーガ)のようで。 現代に蘇る幻想(ファンタジー)のようで。 こうまで人は研ぎ澄ます事が出来るのかと――分かる人間は感嘆ばかりを禁じ得ない。 (成る程、ね) 唇を歪めたチェネザリ・ボージアを僅かばかり嫉妬させる程に美しかったのだ。 ●歪夜の中でIII 「方舟は上手く利用すべきです」。 そんなレオンハルトの言は或る意味で最も『主の御心に沿う』ものだったと言えるのかも知れない。 チェネザリの秘毒が戦場全体を蝕んだ。 完璧な防御に守られたディーテリヒを除けばその影響は甚大である。 リベリスタ達は傷付き、戦乙女は多少の消耗を見せるも墜ちず、盟主は平静と、魔女は動いていない。 「しつ、こいっ!」 声を発した彩歌が肩で息をしている。 「或る意味、一番面倒かも知れないねぇ」 「塵芥にしてくれるッ!」 烏が嘯き、レオンハルトが吠える。 「私もリベリオンの端くれ……生命線の二人は落とさせないッ!」 遅れ馳せながら、要の海依音と小夜をカバーするせおりが具現化させた自身の理想をその身に纏い、獅子奮迅に敵の攻撃を食い止めた。 だが、激しさを増す戦場は急速にリベリスタ達を追い込み始めていた。アークのリベリスタ達は『閉じない穴』の影響で普段にも増した異能の力を振るい続けている。彼等の意志は、彼等の肉体を極限まで活性化させていた。しかし、それでも敵は強かった。 ケレン味無く唯強い戦乙女達は小細工を弄せぬ代わりに圧倒的なスペックでそこに居た。アークのリベリスタ達はそれでも健闘を見せたが、『ヴァチカン』が削れ始めればその戦力は自ずとリベリスタ不利に傾かざるを得ない。当初辛うじて拮抗に持ち込んだ戦いが通用しなくなりつつあった。 「退け――そこを、退けェッ!」 緩慢なる破滅を目指した戦闘は、喉も裂けよと裂帛の気を吐いた悠里の一撃で転機を迎えた。 猛烈な戦いで悠里を阻み続けた戦乙女が頭を垂れ、空へ飛び上がる。顔を悠里に向けたディーテリヒの腕の中に、何の装飾も無い――但し奇妙に捩れた――白い槍が握られていた。 「何と素晴らしい戦士だろうか」 ディーテリヒは言う。 「我が人生でこの夜程に心が沸いた出来事が何度あっただろう」 彼は心底の感謝を込めるかのように言った。 「この一時をもって――私は私の目的が間違いでは無い事を確信した」 「……ッ!」 息を呑んだのは誰だったか。 「おお」と狂喜したのはフェイスレスに違いない。 チェネザリを含めた『ヴァチカン』の人間のその顔が確かな憤怒に染まっていた。 ディーテリヒは続けて短く言ったのだ。 ――卿等の戦いに報いよう。この『ロンギヌスの槍』で。 尤もこれの『真価』はこういう用途には相応しくは無いのだが。 と。 悠月の予測した神を殺すその兵装が彼の目的に何の意味を持っているかは分からない。 だが、ディーテリヒが初めて戦闘に出た意味は明白だ。彼我の辛うじての拮抗はディーテリヒをゼロとして初めて成り立つ。彼が額面通りの最高評価をもってアークを『遇した』ならば結末は最早変えられまい。 「……止める」 悠里のその小さな呟きを聞き取れた人間は居なかっただろう。爪先で幾度目かアスファルトを蹴り上げた彼は誇りをその拳に握り込み、アークで培った経験すべてをこの一瞬に注いで飛び込んだ。 (一人でここまで来れた訳じゃない。 何人もの仲間の死を見届けて、何度も挫折しかかって、その度に立ち上がって来たんだ。 みんな、見ていて――そして願わくば力を貸して。僕達が、僕達が――この世界を護れるように!) ――意志すら呑み込む白い光が『平等に』世界を灼く。 戦い等無かったかのように静まり返った現場に立っているのは数える程の人間だけ。 戦乙女はディーテリヒの頭上を旋回し、約束された当然の勝利を祝福するかのようだった。 「――ところで」 アークに積極的に仕掛けられる事も無く、アークに仕掛ける事も、ディーテリヒに仕掛ける事も無く。状況を窺っていたアシュレイにディーテリヒは声を掛けた。背を向けたまま、振り向かず。 「卿は色々と期待されていたようだが――これで良かったのかね?」 感情の篭らない問い掛けはぞっとする程の自信に満ち溢れていた。 アシュレイは動く好機すら持っていなかった。それ程に、彼女は凍り付いていた。 「……気付いて、いて……」 悠月は問う。「何故、その女を」と。 「そうね。そうだわね――貴方は気付かないようなキャストじゃなかった。それなのに、そうしたのよね」 ゆっくりと歩き出した盟主はその背を追う彩歌の言葉に「ああ」と頷いた。 「歴史が数限りなく繰り返して来た『淘汰』と『進化』のプロセスにおいて私は人を行き止まりと認めていない。 聖書は『人間は神に似せて造られ、故に特別な寵愛を受けた』と嘯く。 だがね、私はそれを信仰していないのだ。何故、私は生まれたか。何故、卿等は生まれたか。人の道を外れ、或いは超えて。その意味は何処にあるか。神が一方的に認めたもうた『寵愛』が果たして本当のものなのかどうか――神が『寵愛』を向けるのが人なのか、その次なのか。 純粋に興味があった。世界は『保守』されるべきなのか、それとも『革新』の時を迎えているのか。 聖書の嘘は、人間にとって最も都合のいい揺り籠に過ぎぬ」 ディーテリヒは他の動物がそうであるのと同じように人間にも審判を下すという。 神の愛(アガペー)を備えるべき神の『依怙贔屓』を嘘と断罪し。己自身がそれを試してみせるとさえ言った。 無神論者は或る意味で酷く偏執的に神なるは何かを問い掛けたのだ。 恐らくはペリーシュが魔術を探求したのと同じように、彼も不可能難題を追い求めたのだ。 「『審判』が始まる。方法はどうでも良い――或いは、その勝者さえ」 『審判』の有無が全てだ、は聖書の獣は言う。 彼が饒舌に語ったのは高揚か、それとも褒章の心算か。 何れにせよ、彼は止まらない。彼は静かに告げて――己が目的の為に最後の一歩を踏み出したのだ。 「『ヨハネの黙示録』は、破壊の後の新生を預言した」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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