● 「生きてる間には聞きたくない最悪のニュースをお伝えします」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、表情が抜け落ちたような顔をしている。 『「バロックナイツ盟主『疾く暴く獣』ディーテリヒ・ハインツ・フォン・ティーレマンが動き出しました。もちろん、白黒が突いてくるのも言うまでもありませんし、アシュレイも動きます。おかげさまで、魂抜け落ちるほど胃液吐きました」 もう何もでない。と、フォーチュナはいう。 たしかに、最悪だ。 四門のいう白黒とは、第二位『黒騎士』アルベール・ベルレアンと第六位『白騎士』セシリー・バウスフィールドを指す。 唯一人でも未知数な『盟主』に二人の『使徒』、そして行動を共にするアシュレイが加わればこの脅威は絶大では済まない。 「バロックナイツ本隊の狙いは三ツ池公園の制圧と見られるけど、その狙いは不明。ディーテリヒは、非常にニュートラルだ。驕りもなく、欲もなく、怒りもなく、ただ破壊をもたらす。それがディーテリヒに何か意味があるのかも、まったくわからない」 四門は、首をかしげる。 「しかし『閉じない穴』を作り出したアシュレイがこの期に及んでその場所を欲っしている以上は、これまでのバロックナイツのような研究的利用の目的というよりは、もう少し明確かつ危険な意図、必然性があると推測される――てのが、フォーチュナの共通見解です」 アシュレイには具体的な目的がある。 彼女にとって、穴は目的ではなく、捨てられない手段だ。 「神秘世界のトップニュースとして報じられたこの事件に対して各国のリベリスタ組織もアーク救援を申し出ていただいてます」 日本の崩界進行度は危険水域(レッド・ゾーン)に突入しており、これは日本だけの問題ではないからだ。 「で~す~が~、先の『黒い太陽』の大暴れで、それぞれ苦しい台所事情。宿敵ディーテリヒの打倒に燃える『ヴァチカン』だけは意気軒昂だけどね? うちが最も重要になるのは言うまでもない。自分ちだしね」 がんばろう。と、フォーチュナは呟いた。 「敵の主力はディーテリヒやアシュレイによって魔術的に召喚されたとみられるエリューションやアザーバイドの類。これが物量要員ね。わくよわくよどんどこわくよ。圧倒的大多数になるそれ等はバックアップ組織やアークの一般戦力で可能な限り抑え込むけど――」 赤い目が、リベリスタを見据える。 「残念ながら実力的な主力と見られる精鋭部隊を水際で食い止める事は不可能だ。公園を舞台に迎撃態勢を取り、その失陥を防がなければならない」 逆に言うならば、あえて強力な敵は隔離された公園で片をつける。 数々の死闘を繰り広げたそこは、アークに地の利がないとはいえない。 「非常に厳しい戦線になるのは間違いない。これまでにもラトニャ・ル・テップやウィルモフ・ペリーシュ等、どうしようもない敵は居たが彼等は隙だらけだった」 新興組織であるアークを舐めきってくれていた。 「ディーテリヒがなに考えているかはわからないけど、今回について言うならば、敵は圧倒的な物量と、圧倒的な精鋭を集め、周到なる用意をして動いた事は間違いない」 油断はないということだ。 「敵にアシュレイが居る以上、万華鏡による一方的なアドバンテージは得られない。敵にアシュレイが居る以上、彼等は間違ってもアークを侮る事は無い」 アシュレイが敵に回ったときから、わかっていたことだ。 いや、三高平に招き入れる前から覚悟していたことだ。 「最上は公園防衛、最悪でも敵の戦力をそぎ落とし、情報を収集し、反攻作戦の足掛かりを作らなければならない」 フォーチュナは、勝てとは言わなかった。 「無論、リベリスタ側が無事に戻る事は特に強く要請する。手足千切れようが、はらわたはみだそうが、生きている限りは帰って来い」 ● 「というわけで、みんなにしてもらいたいのは、ダムの穴ふさぎ」 赤毛のフォーチュナは時々わかりにくい比喩を使う。 「さっきも言ったとおり、公園周辺は基本的にうちの非常勤の人とか海外からの応援の皆さんとかによって封鎖する予定なんだけどもさ」 その縄張り作りもなかなか大変なのだ。 革醒者のみんながみんな手に手をとってがんばろう。な感じでもないわけだし、その間に言語の壁があったりして。 「今しがた、公園のこの部分の封鎖が各組織の遠慮とか慢心とか複数要因が絡み合った結果、手薄になり、敵の増援に突破される可能性が現実味を帯びるのがほぼ確定的となりました」 そうならないようにするというのは非常に難しい。だったら、現場で対処したほうが楽らしい。 「それでなくても、内部ではぎりぎりのバランスで各チームが戦闘してるわけだから、そこに敵の増援なんかいっちゃったら、勝敗の天秤がズドーンとなっちゃうのはわかるよね!? 逆にみんなががんばれば周囲の士気が上がるから! 立派な旗印になってよ!」」 無理やりテンションを上げたらしい。 「外的要因はことごとく排除。縁の下の力持ちとして状況の下支えをお願いします。基本雑魚敵だから、ちぎっては投げちぎっては投げの無双が出来るよ。要は、この金網に開いた大穴を突破されなければいいだけ。簡単だね!」 ぽぴっと音がして、モニターに薄気味悪い小人が二種類映し出された。 「緑帽子がグレムリン! 装備の神秘を無効化するから気をつけてね!」 幸い、壊せはしないらしい。 「赤帽子がレッドキャップ! 力強いから気をつけてね!」 人体を壊すのは得意らしい。 「た~だ~し~、おっそろしく数がいるから息切れ、燃料切れにご注意下さい! あと、でっかいのがボス格だから! そいつらは頭いいからね!」 ● 「やめてぇ、やめてくれぇ」 誰かが俺の脚をかじっている。 「こんな、世界の端っこで死にたくないぃ」 言葉も通じぬ誰かがすすり泣いている。 緑色の帽子をかぶった小人が、俺の友達の脳みそをすすっている。 小さい奴らが何体も何体も飛びついてきて、気がついたら、こんなことになっていた。 赤い帽子をかぶった小人が、俺の恋人の生首でサッカーしている。 向こうでは、牛みたいなデブが人を跳ね飛ばし、馬みたいなのっぽが人の首をはねている。 ああ、地獄だ。 ここは、地獄だ。 「殺してくれよぉ」 もう、俺の脚はない。 俺の脚を食った小人が赤い小人なのか緑の小人なのか。 俺の血で真っ赤になってて、もう、俺にはわからない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年03月01日(日)22:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● すぐそこにある日常。飛び込む戦場。 そこは、ほんの数年前までは気持ちのいい公園だったのだ。 結界で取り囲まれ、厳重に隔離されている。 そこに、ほんの少しのほころびが出来た。 金網フェンスがはじけた。 フォーチュナは言う。 そこから、天秤が動くと。 幼稚園児くらいの小人達が人をかじっている。 メタルフレームの生体金属を緑色の帽子をかぶった小人達がべりべりと引き剥がしている。 第二次世界大戦中、アルプスで戦闘機を襲っていたアザーバイドは、数十年を経て、極東でフェンスに穴を開けようとしている。 なんで。 世界を救いに来たはずなのに、何でこんな所で、くずみたいな小鬼にたかられて死にそうになっているのだろう。 予備役、あるいは、神秘案件の少なさから来る経験不足。 絶望が人を殺す。 ならば、希望という名の賦活薬を。 ● 全力で現場に駆け込む。 拙速をもってとおとしとなすのは、兵法だけではない。 (旗印ねえ。柄じゃないんだけど、まあ一つやってみますか) 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は、一介の公務員である。 出動がない限り、市役所の相談窓口で日々ごみ捨ての巡回頻度やら、ご近所トラブルの仲裁やらを担当しているのである。 だがしかし、今はリベリスタの希望にならなくてはならない。 「須賀義衛郎、状況を開始する」 出来うる限りの大音声。 どよめいたのは、国内のソードミラージュたちが多かった。 「全体から見れば小さな戦いかも知れませんが、この戦いもまた重要なものです」 蜂須賀の苛烈な水で磨かれた『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)は、正しく薬だ。 「英雄や勇者と呼ばれるには未熟な存在ですが、必要とあれば旗印となるも否定はありません」 鬼の首魁を切り殺すにふさわしい号を背負った刀を負って、まっすぐに前を見据えて敵陣に駆け込む姿は、死に掛けたリベリスタの魂に火をつける。 「戦争は数だっけ!?」 その後に続く『NonStarter』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)は誰にたずねるともなく口にする。 そのとおり。 一騎当千という賛辞があるほど、数は重要だ。 「なんか、こういうの見せられると凄く納得しちゃうね。まぁそんな呑気な事言ってる場合じゃないか……!」 『ミスティックランチャー』鯨塚 ナユタ(BNE004485)は、わずかに浮かび上がると、猛禽類の目で戦場を見渡す。 「うわー、うじゃうじゃと……こんなにたくさんの敵が入ってきたら中が大混乱になっちゃうよ」 ナユタの周りを飛ぶ鮮やかな青。 フィアキィ・フィーは、今や遅しと友の号令を待っている。 「なにがなんでもここで食い止めてみせるもん!」 見渡す限りに見える小人全てが標的だ。 弾丸のごとく飛び出していった異界の妖精の麟粉が、火炎弾となって小人の上に降り注ぐ。 それは、革醒者は焼かず、アザーバイドだけを焼き、弾き飛ばした。 「だいじょーぶっ!」 驕りの塔の刑罰を雪いだ言葉が、全ての人の耳に届く。 『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)は、自滅を遠ざけるための声を上げる。 それこそが、そうあれとアークが望んで結実させた呪文。 圧倒的な緊張と絶望と紙一重の戦いの中、そういう風に戦いたいと、戦う仲間がほしいと願い、つかんだ物。 目に映る味方全てに、微笑みと安心と自分の体力を分け与える奇跡。 「落ち着いて立て直そ。しっかり周りをみて、それぞれが自分の役割を果たせば絶対負けないよ!」 だから、今、旭はここに立つのだ。 絶望をなぎ払い、突破し、戦場のど真ん中で『大丈夫だ』と勝どきを上げる鳥になるために。 ● 絶望は、人の心を急速に腐敗させ、闇を呼び込む。 それを払うには、ちょっとした毒も必要だ。 「弱ぇトコ狙われんのは当たり前だってな、てこたぁソコ潰しに行く……ってのも当然ってこったな」 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は、パーカーのポケットに手をつっ込んだまま、死地に足を踏み入れる。 「しかし要求がおもしれえなあ。手足千切れてたりはらわたはみ出てりゃ無事じゃねえぞ」 半べそだったフォーチュナの顔を思い出すと、笑いがこみ上げる。 生えてきそうにない部分は、拾って帰ってくればどうにかくっつけることは可能だ。そうできる元気があれば。 「ま、生きてりゃ安ぃとは良く言ったもんだとは思うし。何も死ぬ事ぁねぇわな」 火車に視線が集中する。 無造作この上ない。 視線は言っている。 後から来やがって。どうせお前もこうなるんだ。 「さぁ始めっぞぉ~」 それは、ひどく無造作に『崩壊の危機』という大多数の革醒者にとっての『非日常』をアークでは割りによくある『日常』に書き換えた。 悠然堂々歩く男のポケットに隠された拳は燃えている。 新たな餌を求めて、小人が火車の鼻先に飛び掛った。 下から突き上げられる拳に、背中からはらわたぶちまけながら火柱になった。 まさしく、手当たりしだい。間合いに入ったものから赤も緑の区別なく、次々と小鬼が燃え上がる。 「一匹残らず虱っ潰しだぁ」 歯をむき出して笑う火車が、鬼の狂乱を呼んだ。 火車の鼻先に、圧縮された闘気が投げ込まれる。 小鬼が木っ端のように吹っ飛んだ。 「別にかまわねーけどよぉ」 わずかばかり首を傾けただけで被害被らなかったということは、それなりに考慮はされたのだろうと。と、火車は当たりをつける。 「まおは、小人さんを散らすにはこれが一番だと思ったのです」 地面を埋め尽くす小鬼をよけるため、まおはずっとフェンスの上を走ってきたのだ。 「味方の皆様を巻き込まないように注意しつつです」 とはいえ、敵の中で味方がおぼれているのだ。そうそう投げられるものではない。 と思ったら、小鬼にたかられている火車がちょうどいい感じに空白地帯を作ってくれていたのだ。 まおとしてはありがたくそこを狙わせてもらったのだ。 「お待たせしました。まおです」 精一杯声を張り上げる。 「こんな酷い事になっても皆様が守り続けてくれたおかげです!」 聞き様によっては、不遜な物言いだ。 俺達は、お前達の露払いじゃない。 報われない恐怖と壊れかけた自尊心は、容易に怨嗟の声に変わる。 爆発しないのは、まおから発散されている沈静と興奮を収束させる物質のため。 死に直面して煮えたぎった脳みその表面に、人の言葉を染みとおらせるためのやわらかい霧雨だ。 「だからまお達はココに来て、敵様をやっつけるチャンスをもらえました」 ありがとうございますと、フェンスの上で90度以上バラのタトゥーを施された頭を下げるまお。 まだ、言葉の遣い方もよくわからない、幼い子供なのだ。 「だからもう少しだけ、まお達とお手伝いをしたりされたりして下さい」 よどんだ心に、火車は鼻で笑う。 「同じ様なクソみてぇな思いを 他の誰かに味あわせたけりゃあ――」 きれいごとでは奮い立たない地獄を見た者のコールタールのような情念に火種を放り込むために来たのだ。 「わかんだろ?」 剥き出される歯。不敵な笑い。 「わかんねえ奴ぁ、メソメソ泣いて、優しく慰めて貰って、甘えたまま無責任に何処へでもいってくれよ」 邪魔でまともにぶち上げられやしねえ。と、舌の上に乗せる。 「オレぁぜってぇ御免被るがよぉおッ!」 答えはいつも、答える者の中に内在している。 「「此処は死に場じゃない。此処は墓場じゃない。単なる通過点で、終るなんて許さない!!」 戦線が崩壊しかけた場所に飛んでくる女がいる。 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の骨の尾が、亡者のごとき風体になったリベリスタを叱咤する。 「諦めるな! 泣くな! 喚くな! んな時間ありゃあ生にしがみ付いて、運命に抗え!!」 ここに到着するのが若干遅れたのは、穴ならふさぐと設置用トラックという名の金属直方体を設置してみたら、かえって小人の足場として重宝がられそうという本末転倒の始末をしていたからである。 別に、実際置いてないもん。ちょっと出すのとしまうのに2ターンくらい遣っちゃっただけだもん。 「私の大切な仲間達をこうまで壊したのは、オマエラ?」 緑の帽子をかぶった巨人に向けて、投擲される神の御子さえ殺す槍。 「ひゃっほー!!感じさせてくれるよね、エクスタシー☆」 味方に当てないように注意を払う。 1メートルの群れの中から飛び出た巨大な固体の頭を半分吹き飛ばし、黒い穂先は彼方で霧散する。 ● 臣の気合が戦場を切り裂く。 「チェストォォォオオオ!」 業刀一閃。 手始めに、アスファルトに赤い血だまり。 赤い帽子はこれ以上赤く染まりようがない。 中学一年生。まだ、学生服の袖が余っている年頃だ。 それは、反撃の声。 雄牛のように肩の筋肉を膨れ上がったレッドキャップ・ブルドーザーが、その声に寄せられ、小人を踏み潰しながら臣に迫ってくる。 上半身に比べて、小さく見える下半身。 足捌きは以外に軽快で、手に持った棍棒が頭にちょこんと乗せられているバイキングの角突き兜よりなお赤い。 あれで突かれたら、多分、はらわたが金網で裏ごし状態になる。 「これは正義の戦いだ」 骨の髄までしみこんだ、正義への渇望。 「敵はこの世界の崩壊を招く、悪の頂点、バロックナイツの盟主。こいつらはその尖兵だ」 人の無私の心を信じている。 「臆するな。前を向け。剣を取れ。世界の存亡、この一戦にあると思え」 世界を守るためなら、笑って死ねる者達の心の扉を叩く。 「我ら正義の徒。我ら世界の守護者。我らこそ『リベリスタ』!!」 リベリスタであることを誇りに思うものの士気を高揚させる。 少年は、刀を振るう。 手の甲には限界を超えた血管から汗と一緒にしみ出てくる血が幾筋も滴っている。 ふと、それが乾いた。 誰かが、臣に符を貼っていた。 「征って。私はもう歩けないから」 臣と同じくらいの年頃のインヤンマスターの足は執拗に潰されていた。 「ここで死んだみんなの分と私の分、戦って。出来る限り癒すから――癒すわ! ここに来て! 敵を殺して来て!」 自分にも符を貼っている。きっと、意識を途切れさせたら戦えなくなることをわかっている。 「各々にリベリスタになった理由があるだろう。だが、敢えて言おう。僕達は今日ここで世界を護るためにリベリスタになったのだと!」 臣は前に進む。 その背に、まだ立てるリベリスタが続く。 「絶対に、ここを守りましょう」 義衛郎は、生きているリベリスタが身を寄せ合っている場所に立っていた。 「オレは今日、此処で尽力してくれた全員を故郷に帰す。散っていった人も全て。一人だって残しはしない」 アスファルトは、血を吸い込んではくれない。 「物言わぬ姿となった彼等を連れ帰る為にも、皆さんは死ぬべきじゃない」 共に戦場に来た大事なものを失った悲しみは、人を捨て鉢にする。 ドミノ倒しのような死に意味はあるのか。 否、死体が増えるだけだ。 「だが、もし息絶えた仲間を取り返す為に剣を取る人が居るならば、オレの後に続いてくれ」 死者の尊厳を守るため。何より、それを支えにして生き延びる者の数を増やすため。 失われた命は還ってこないが、まだ生きている命がある。 小人の餌になどさせるものか。 「決して単独では行動するな! 誰でもいいから、チームを組め!」 死体の山の中から立ち上がった者達が徒党を組むまで、雷の鎖が宙を薙ぎ、その身を分かち小人を切りすえた。 「逃げられないよ。他のところで悪さするんでしょう?」 メイの魔力を支配する指に、落ち度はない。おそろしく周到なのだ。 目に映る全ての不浄の小人に、神の裁きを。 吹き上がる業火が小人だけを飲み込む。 「多数の敵に確実に攻撃を当てるのは、ボクが一番得意とするところだしね」 前線から吹き飛ばされてきた小人は、メイの炎の餌食になるのだ。 (どれだけの名台詞で元気付けようとしても、知名度も他の人と比べて明らかに無いボクは、面識がない他の組織の人達からすれば『子供が何言ってる……』とかでしかないんだろから) 今まさに組み伏せられていた者の眼前で小人を燃やす炎。 だが、それはリベリスタは燃やさない。 あちこちで、恐怖から目覚めたように灰になった小人を払い落として立ち上がり、呪文を駆使するメイの幼さに目を見開いた。 (無くなりかけたやる気を出して貰うには、行動で示すしかないんだよね) 数瞬。 見開いた目が、『化け物!』と罵倒する友達を想起させる。 口が開かれる。大きく動く、発音は「あ」段。 「あんた、すげえな!」 「ありがとう! 助かった! 俺達も戦うから!」 「後ろは任せた!」 口々にそう叫んで、前線に駆け出していく。 「――伝わったかな」 メイの口からこぼれた小さな声が聞こえていたなら、きっと彼らは頷いてくれただろう。 「こんな子供でもナニかを護る為に死力を尽くしてる・・・って」 少しづつ小人の数が減り、起き上がり、戦う人間が増えた。 戦場に癒しの歌が響き、高位存在たちの恵みが降り注いだ。 多数の個ではなく、一つの集団として動き出したリベリスタに、小人風情が束になってもかなう訳などありはしない。 アークのリベリスタのするべきことは、敵の旗印――グレムリン・グレートとレッドキャップ・ブルドーザーを屠ること。 小人達が敗走するほど、完膚なきまでに。 ● 「旭さん! 回復足りてる!?」 ナユタは、大規模回復を二回フィアキィに頼めるだけの魔力を残して戦っていた。 「体力は足りてるけど、魔力はいきわたってない――かな!? プロアデプトさん、あんまりいないんだよ」 答える旭ののどもかれ気味だ。 だが、表情は明るい。明るく笑うのが旭の戦いだ。 「じゃ、俺、回復するね! ――フィー!」 フィアキイが滑空して作り出す緑のオーラ。 降り注いだ先にいるリベリスタの傷を癒し、魔力の泉を満たす。 「まずは各種回復がきちんと回るようにしなきゃだよね、だいじ!」 「だよな!」 回復手がそれに専念できるだけの状況が作り出せていた。 ● 「此れ以上、仲間に手出しさせるか」 グレムリン・グレートの手にはカーボネイト・ボウが天蓋を覆う流星雨のように降ってくる。 義衛郎は、その眼前に突っ込み、ゆくてを遮る。 「良いぜ来いよ! 来たら来ただけミキサーみてぇに 全部挽き肉にしてやっからよぉ!」 囮まがいの真似をして、小人をたっぷりたからせた上で自分を中心にして有象無象を焼き尽くしていた火車は、化け物を地獄直行のジェットコースターに載せる気満々だ。 下から突き上げる拳が緑色の腹筋をえぐると同時に湧き上がる赤い奔流。 足元に転がっていた小人の頭を器用に蹴り上げ、グレムリン・グレートの鼻先に蹴り飛ばした。 「今度は、まおがお邪魔をします。まだまだ、まおは倒れませんよ」 渾然としていた敵味方の別がはっきりしてきた。 起き上がった者達は、陣形を構築しなおしたためだ。 まおのインパクト・ボールが効力を発することが出来るようになった。 「まおの後ろで大丈夫です。この大穴を守って下さい。それがまお達の、皆様のお仕事ですから」 割り裂かれ、焼かれ、切り裂かれ、爆散され、後方では裁きの炎が小人を舐めている。 すでに趨勢は決まっている。 この場所から、公園内部に侵入することはかなわない。 事態を読むのに成功したグレート・グレムリン最後の一匹は、残存勢力をかき集め、西側の戦線が崩れたところからの突入を図ろうとした。 「さあ、エンドロールが見えて来たね?」 そこに、魅零が降って来た。 ぶん! と、骨の尾が蛇の鎌首のように持ち上げられている。 「駄目よ、一匹として逃がさない。仲間意識はあるのかな? 全員あの世に送れば寂しくないよね。根の国は楽しいとイイネ」 魅零は、ものすごくいい笑顔を浮かべた。 全身からどす黒いものが流れ出し、深々と巨人に刺さったのを皮切りに、全てを消化した。 ● 犠牲は少なくなかった。 まもなく大量の死体袋が運び込まれる。 更なる増員。穴は結界に詳しい者達が強固に修復し直している。 「臣くん、臣くん!」 爆ぜては癒されを繰り返された腕がわずかにしびれている。 指の感触を確かめるよう開閉を繰り返していた臣に、魅零はすすと血で汚れた頬で笑う。 「血ぃついてるよ、ココ!」 どこだと臣が確かめる前に、柔らかく湿った暖かいものが頬を通り過ぎ、その後悲しくなるほどひんやりした。 魅零の舌だ。と、合点するまでの数秒の臣の百面相を堪能しつつ、魅零はイシシーと笑う。 「!? な、何の真似だ! やめろ!」 「お姉様にはお世話になってます……色んな意味で」 声にならない憤りを姉にぶつけてはいけない。多分、絶対。 「それでどうしてこの行動になるのか理解しかねるが、次は殺す」 威嚇する臣の様子に、魅零は目を細める。 「ウッ、寒気がする。蜂須賀って皆怖くてゾクゾクキュンキュンしちゃうの」 ぞくぅ。と、したのは臣の方だった。 魅零の笑顔が恐ろしい。 「次は殺すといったからな!」 「うん、次ね、次」 これから、この金網の向こうは更なる地獄と化す。 この次、また臣にじゃれ付く機会があるといい。 あるに決まっている。そのために戦っている。 その時は、殺されないようにしないといけない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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