●つまり 「走れ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月31日(土)23:08 |
||
|
||||
|
||||
| ||||
| ||||
|
■メイン参加者 12人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●三高平マラソン大会I 思えば学生時代、最も暗黒なイヴェントはそのマラソン大会とかいうものだった。 毎年その時期が近付くにつれ、憂鬱な溜息は増え、生活する事が嫌になる。 何とかずる休みをしてやろうと企図するも、欠席者は後日十キロ走れ等と通達が出た日には、どうしてこいつ等はそこまで俺を走らせたいのかと憤懣やるかたない感情が津波のように押し寄せて…… 「そうよ!」 イーゼリットが叫ぶ。 「イヤ。私ぜったい走らないから。絶対いや。無理」 そうだ! そうだろ! なんで走らないといけねぇんだよ!!! ……失敬。ともあれ、素晴らしい冬晴れの或る日。 リベリスタ達は唐突に始まった『健康増進月間』なるイベントで本部前の広場に集められていた。 「えー、最近は特に激戦が続いています。心も、身体も痛めた人も多いと思います。 アークとしてはこの由々しき事態に一石を投じるべく、健全な精神を肉体に宿らせるナイス企画を思い付きました!」 思い付いた、なる単語が非常に場当たり的な意味合いを持つ事は明白である。 しかし、ニコニコと笑う桃子・エインズワースはそういった人々の機微を余り気にする方では無かった。 乗りかかった船だ、と付き合う事を了承した参加者達はそれなりに多い。一線に立つリベリスタ達の姿も見えるし、アークの職員やら、時村の関係者やら……非戦闘員達の顔もそこにはある。 相変わらず何処から生じたか定かではない政治力を発揮した桃子は済し崩し的にぶら下げたお題目の『アーク健康増進月間』を何となくの形にする事に成功した様子である。 「まぁ……走るのは嫌いじゃないけど。本格的なのは部活引退して以来だから久々だな」 「うむ。運動が得意というわけではないが、一度は普通の学生みたいに、走ってみたかったのだ」 自前のラグビージャージに身を包んだ快にホイッスルを首から下げた雷音が頷いた。 「快の学生時代は、ラグビー部というのは聞いたけれど走る事は多かったのかな?」 「俺は中学までは野球部で、高校ではラグビー部だったから、なんというか走ってばっかりだったなあ」 そこまで言った快はウィンクを一つして続ける。 「でも、一つだけ違う事がある」 「……?」 「ラグビー部に女子マネなんて居なかったからね。 ごっつい男連中で隊列を組んでランニングしてたよ。だからある意味、こういうのは新鮮かな」 桃子がピピーッと笛を吹いた。 「はーい、そこ。青春は程々に! 温厚な桃子さんでも久々にキレて屋上に呼び出したくなりますからね!」 肩を竦めた桃子は冗句か本気か分からないが……取り敢えず心身共に疲れたリベリスタを追い込まない程度の理性は現状働いているらしかった。当たり障りの無い開会の言葉を発し、当たり障り無くスポンサーの貴樹に挨拶をさせた彼女は参加者達にマラソン・コースの説明を始めていた。 和やかコースは三高平市内のロードコース。 ファイトコースはもう少し距離の長い外周コース。 ブレイブと名付けられた問題のコースは…… 「はーい、勇者さん達は此方ですよー」 バラバラとローター音を響かせながら広場の向こうに着地した大型ヘリに桃子が合図を出している。 「限界突破型訓練か。全て尽き果てて倒れてからが本番ですね、わかります。 死んでも走れですね、古い記憶を思い出しますね」 何故か楽しそうなアラストールが頻りにうんうんと頷いていた。 「よーっし! 走るぞー! 鍛練鍛練! 強きブレイブ! バモラムーチョ!!!」 素晴らしくヤル気と気合に満ち満ちたせおりに到っては楽しそうを通り越して嬉しそうである。 彼女の場合、意中の男のハードルが恐らく『世界一強い事』なのだから、苦難も通過点という事か。 「あ、桃子教官! よろしくお願いします。 ボク、この前初めて任務に出たんですけど怖くて震えちゃって。 その、特にあの伯爵は……」 「大丈夫ですよ、ブレイブコースを踏破すれば伯爵だろうと男爵だろうと一発です!」 「そ、そうですよね!」 無責任な桃子が期待の新人――倫護を驚く程適当に騙くらかしている。 碌な結果にならぬその選択肢を敢えて選びたがるのは彼等がリベリスタが故になのだろう。 そんな挑戦者な人々はさて置いて。 「ま、たまにはこんなのもね」 「そうですね……運動は。考えてばかりでは息が詰まりますし」 夏栖斗にせよ、それに相槌を打った紫月にせよ大半の人間はマラソンを程々に楽しむ構えである。 適度な運動はストレスを発散するに効果的という事は良く知られた事実であろう。 「マジで走るのかよ……」 「走るの」 ……中には娘に叱られ、げんなりした表情で心底嫌そうにしている不健康中年(ましろともちか)等も居るが、多くは取り敢えずこの機会を楽しもうという風情である。 その彼も…… 「走らないなら、私は竜一と走るから」 「イヴたんイヴたん! お兄ちゃんと一緒に走ろうね!」 「ああ!?」 ……実に浅はかなイヴの釣りに引っ掛かっている辺りは実に平和な話である。 「OK! 任せとけ! イヴたんが俺と一緒に仲良くいちゃいちゃ走ってれば大丈夫さ! むしろあれだよ! 仲良すぎるぐらいを見せつけるべきかな! ああ、楽しいな! マラソン最高!」 「走るに決まってんだろうが、テメェ殴るぞ!?」 ……智親を走らせたいと協力を願ったイヴに二つ返事で頷いた竜一が素なのか作為的なものなのかは誰にも分からないが。ジト目をもみ合う男達に向けて「バカばっか」とでも言いたげな彼女はアンニュイな溜息を吐く。 「走る前にバテない程度にしとけよ、お前等」 スーツを脱ぎ、珍しく活動的な格好をした沙織が苦笑した。 彼の傍には体操服を着た恵梨香が居る。「くれぐれも身の安全に気を配って下さいね」等と説教をしている少女の考えている事は、分かり易すぎる程に分かり易く、いっそ清々しいばかりであった。 「えー、あー。取り留めも纏まりも無いので、そろそろ始めますよ。位置についてー」 心底適当な桃子がわいのわいのと騒がしい一同をスタート地点を促した。 「わわ、注目集めてるよ!」 「恐縮です。歴戦の皆さんと御一緒出来て!」 「こちらこそ、宜しく頼みます。いや、うむ。昔を思い出す。大変、晴れやかだ」 せおりに倫護、そしてアラストール。 ヘリに乗り込んだ僅か三人のリベリスタが笑顔で人々に手を振っている。 「泣いたり笑ったり出来なくしてやる……」 禍々しいスターター・マグナムを手にした桃子が残した不穏な呟きを周囲全員聞いて聞かない振りをした。 ●三高平マラソン大会II 「ほっほっほ」 「ほら、頑張るのだ」 「まだまだ。いい天気だから気持ち良いね」 ピッピっとホイッスルを鳴らす雷音に快が笑いかける。 こんなイベントがあれば真っ先に碌でもない場所へ赴いた事もある彼が和やかに楽しんでいる姿を見るのは、全く隔世の感がある。これが大人になるという事なのだろう。 「ごめんね、付き合ってもらって」 彼等と同じく夏栖斗と紫月も見慣れた三高平市内をのんびりと走っていた。 「いろいろあって、ちょっと走りたくなってさ」 夏栖斗の走りとその歩幅は自然と紫月に合わせたものである。白い息を弾ませながら、二人は二人きりでコースを走る。本部前から市街地、それから川沿い。空には雲一つ無く、時間には一つの邪魔も無い。 「体動かしたら少しは気持ちが晴れるかなって」 夏栖斗は傍らの紫月に言う。 「一人でいるより、紫月と一緒に居たくて。まあ、ありていにいえば君に甘えてる」 「ちょっと格好悪いけどね」と苦笑した少年に紫月はその表情を緩めていた。 「御厨さん」 「なあに?」 「泣く事はしましたか? 甘えていると言いながらも強がっていませんか」 もしそうならば、私は貴方を怒らないといけません――言外の言葉が意味するのは一つだ。 夏栖斗が戦う程に傷付いているのを知っている。彼の理想がどれだけの鎖かを彼女は理解している。同時にどれだけ傷付けられようとも、その重荷を彼が手放せない事も知っていた。 「一人にしないと言いました」 「ごめん」 「私の一番はあなたなのですから、甘えても良いんです」 「……じゃなくて、ありがと」 金属バットを持った智親が遥か先を行く竜一(とイヴ)を追いかけている。 父親の中性脂肪を退治するべく、娘の用意した選択肢は和やかならぬファイトであった。 ぜえぜえと息を切らす智親がそれでもトップリベリスタである竜一に食い下がろうとするのは父の強さか。 「……助かった」 「いえいえ」 事の他軽快に走るイヴを竜一は目を細めて見守っている。 実は気が良く、面倒見のいい男なのだ。色々誤解されがちだが…… 「大丈夫! イヴたんが疲れたらおんぶするから! 大丈夫大丈夫! イヴたんは物言いたげな視線を智親にちらっと向ければいいだけ! さあ、存分にむぎゅむぎゅすりすりしよう! ほら、もっとぎゅってして! あ、智親はそろそろ脱落してもいいよ! どっちみち俺得だから!」 ……多分、誤解されているだけなのだ。多分だけど。 厳しいコースを一人で走るのは拓真である。 日々、自己鍛錬に余念の無い彼の場合は――走る機会もさして珍しいものではない。 アークにやって来て数年。アークは多くの功績を挙げたが、その一助となった拓真も強くなったものだ。 (今にして思えば、何故勝てたか分からない戦いも少なくは無いが……) 犠牲はあった。痛恨の敗北は一度、二度の話ではない。 (この先、俺の力は通じるか) 研鑽し、練磨したのは間違いない。間違いは無いのだが―― 「――いかんな、悪い癖だ」 拓真は呟いて詮無い考えを振り払った。両足に力を込め、スピードを上げる。 練磨が足りぬならば更に研ぎ澄ませば良いだけだ。自分は新城拓真として生きる以外の術を知らないのだから。 だから、今は走るのみ。 ●三高平マラソン大会III 「えーと、鍋はこれでいいですか?」 「オーケー。お手伝いありがとね」 甲斐甲斐しく動く和泉に義衛郎が微笑んだ。 何かイベント事がある時は、裏方の活躍も成否の重要な鍵になる。沢山運動してお腹を空かせた参加者の御褒美になる寒空の下の炊き出しは、戦う公務員・須賀義衛郎に与えられた本日最大のミッションだという事だ。 (鍋で料理しておいて……って大雑把な指示だよなぁ) 何でも器用にこなす義衛郎を買ってだろうか。 (……汁にしたけど大丈夫なんだろうか。後、おにぎりがあればいいかな) 見れば参加者達は次々と己のコースをゴールしている。 徐々に込み始めた義衛郎の周辺におずおずとフュリエの少女がやって来た。 「お疲れ様でした、ファーレさん。初めてのマラソン、如何でしたか?」 「疲れました!」 「はは、それはそうだ」 疲れた、とは言ったが屈託ないエウリスの様子に義衛郎は微笑んだ。 冬山にヘリで向かった面々は戻ってこないが、やがて殆どの参加者は既に休憩に入っていた。 温かい鍋で人心地をつく、至福の瞬間。 だが、約一名――まだ走っている人間が居た。 「あー、確かにそういうキャラだ」 「室長にしては女の子に冷たいですね」 「だって、そういうキャラだもん」 恵梨香からタオルを渡された沙織が悪びれず言った。 彼の視線の先にはようやく近付いてきたゴールを目指し、虚ろな目で小鹿ちゃんするイーゼリットの姿があった。 (心臓はバクバク、喉は痛くて咳は出るし、顔は冷たいし) 「がんばれ、がんばれ」 (指先も冷たいし、足も痛いし、膝は震えてるし、最悪……) 「がんばれ、がんばれ!」 (やめ、てよ、もう、死にそう、なんだけど……) 「がんばれ! がんばれ!」 (死にたい程の屈辱だわ……) 倒れ込むようにゴールしたイーゼリット(ダントツ最下位)に万雷の拍手が降り注ぐ。 「いやあ、感動ですね!」 おにぎりを頬張った桃子がタオルを目元に当ててしみじみと言った。 「そう言えば、お前」 「はい?」 「ブレイブの連中、どうした」 「ああ」 桃子は問うた沙織に笑顔を向けた。 「アラストールさんは高笑いしてて、せおりさんは何か叫んでて、倫護さんは『助けて、一悟兄ちゃん……も、桃が…モモが怖い……』とか何とか泣いてましたけどね!」 遥か雄大なる冬の富士の中腹辺りを指差して。 「多分、今あの辺なんじゃないですか?」 ※冬の山には許可や装備無く入ってはいけません。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|