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<噂話>かごめかごめ


 あたしの家は、はっきり言って薄暗いです。
 古い日本家屋なので縁側とかはあるけど、小窓みたいなものはひとっつもありません。そんな造りでいて、玄関を除くと廊下の全ては部屋に繋がり、窓どころか外壁に触れるところすら無いのだ。
 はっきり言って、異常ですね。うん。
 そんな我が家は、さらにおかしなことに、いたるところに御札とか、注連縄とか、そんなものがあったりします。そういうものがあるのは、決まって家と外を繋ぐ場所。
 はっきり言って、気持ち悪いですね、ええ。
 そんな我が家なのに、不思議ですね。とってもお金持ちです。
 いえ、自慢じゃありませんよ。
 すごく迷惑してますもの。
 だって、うちの爺さま婆さまとか、お母さんとかは、うちの繁栄は『座敷童子を閉じ込めてる』からだなんて言うものですから。お金はありますけど、化け物屋敷だなんてご近所さんから陰口言われてるの、あたしは知ってますから。
 それでも何とか生きてきました。
 薄暗くてかび臭くて湿っぽい我が家のことなんて、知ったこっちゃないですし。
 子供っていうのは残酷なことにそういう噂話が好きですから、あたしも何年か人並みにいじめられたりしましたけど。
 でも、子供ってのは素直なんですよ。仲間にはやさしいんです。
 みんなと一緒にうちの悪口沢山言ってたら、何時の間にか、あたしはあの薄暗い家の“外”にいました。
 そんなものですよ。
 人生なんてそんなもの。
 でも、だったら、あたしが今こんな目に遭ってるのも、因果応報ですね。
 そんなものです、人生なんて。
 がたがたと襖の扉が鳴らされました。押入れであたしと友達は、もうこれで終わりだ、なんて身を寄せ合って震えてるんですけど、なぜか音は素通りしちゃうんですね。
 説明? あ、必要ですよね。ごめんなさい。
 えっと、あたしは神木 珠美です。14歳です。中学生やってます。
 ま、発端はささいなもんでした。
 いつものようにあたしは、自分の居場所を確保する為に、実家の悪口を友達と話してたんです。
 やれ、薄気味悪い、気持ち悪い、と、まぁそんな感じのかわいいもんですね。
 そしたらですね、友達の1人が、今日に限って何を思ったのか、こんなことを言ったんですよ。
『タマちゃん。私、あなたのおうち、見てみたいな』
 なんて。
 あ、タマちゃんってあたしのあだ名です。たまみなので。なんか、アザラシみたいですね。どうでもいいですか、ごめんなさい。
 ま、話を戻しますが。中学生の日常なんて案外退屈なもんです。些細なスパイスを求めるもんでしょう。
 あたしもそうでした。
 どうせ何も起きやしないだろう、なんて、そうたかを括ってましたし。
 でもね、あたしはですね、今告白しますけど。昔、見たんです。
 え?
 勿論、座敷童子ですよ。
 ちっちゃいころ、あれは5歳くらいでしたか。誰も居ないうちで遊んでたら、押入れを自分で開けてきてね。覗いてるんですよ。かわいいおべべの、黒いおかっぱの、ふくふくとしたほっぺの可愛い女の子。あたしはまぁ、そんな分別もなかったですし。お手玉して、おままごとして、また遊ぼうね、なんてお互いに言い合って別れたんです。全然怖いなんて気もしなかったし、まぁ、あの子なら許してくれるだろうなんて思ってたんですね。
 甘かったんですかね。
 やっぱり興味本位で見物なんてしたら、気を悪くしちゃいますよね。
 あたしと友達2人でね。うちの人がいない隙に、ぐるっと回ってですね。さあ、じゃあ帰ろうかなんて具合にしてたらですね。友達が、焦った声で叫ぶんです。
『玄関、開かない!!』
 ってね。何を馬鹿なと、あたしともう1人の友達がね、家中開いて回ろうとするんですけど、やっぱり外に出られるところだけ、どうしても開かないんです。
 ひやっと、背筋にいやな感じが走りました。
 外からね。扉の向こうから、歌が聞こえるんです。
 かーごめ、かごめ、って。
 有名な童謡ですよね。
 オンナノヒトの声が、2つも3つも、かーごめかごめ、って、それが段々増えて、4つか5つくらい、かーごめかごめ。
 あたしはもう、友達の手を引っ張ってあっちこっち走るんですけど、どこに行っても、オンナノヒトの影が見えるんですね。手には多分、包丁だか、鉈みたいなの、あと着物は紙っぽくて、縄とか、持ってたんじゃないかなぁ。外の御札とか、注連縄を触るように歩いてるんで、半狂乱のあたしは、友達の手をひっぱって、押入れに隠れました。
 あの子の出てきた、押入れです。
 3人でお互いに抱きしめあって、がくがく震えてるとですね。歌声は家の中に入ってきまして。だんだん、だんだんと輪を狭めて行くんです。家を順繰りに、周りを回りながら。あたし達がいるのは家の中心にある部屋なんですけど。
 それで、今、この有様です。
 かーごめ、かごめ。歌はもう、あたし達の居る押入れの周りで、ぐるぐる回ってます。なのに、何でですかね。入ってこないんです。
 でもね、多分、時間の問題。
 なんとなくわかるんです。
 だんだん、押入れが、がたがた鳴るのが長くなってますしね。
 あたしは思うんです。
 これはきっと、座敷童子が怒ってるんだって。面白半分で家に友達を連れてきたからだって。
 友達だと、思ってたのに。あの子のこと。居場所を作るダシにしましたね。
 だから、因果応報ですね。
 仕方ない、仕方ないんです。
 人生なんて、そんなもの。
 そんなもの。


「調べに行って欲しい家が“あった”の」
 真白イヴ(nBNE000001)が、映像を止めながら言う。あった? とリベリスタ達が首を傾げた。
「うん。その家に、ザシキワラシがいるらしいって、すごく噂になってたから」
 うさぎをもふもふと抱きしめながら呟く。噂、ともう一言かみ締めるように呟いた。
「すっごく、ね。聞くと、それまでそういう噂は、ご近所さんなら誰でも知ってるし、隣町なら知ってる人もいる。そんなレベルだったの。その程度のウワサが、たった数日で、その家のある市全体にまで広まったの。これって、異常じゃない?」
 この辺りにD・ホールの反応もあったし。だから、調査して欲しかったのだと、イヴは言う。ただし、最早綿密な調査は必要ない。
「カレイド・システムで、こんなのが出たら。まずはこれの対処が先でしょ。四の五の言ってられない。ただ、問題があるの。家を襲う化け物の正体が、わからない。多分、この家を取り囲んでる注連縄や御札が、何かのアーティファクトで、その影響だと思う」
 ただし、何も判らないわけではない。イヴは続けた。
「似たような方式のアーティファクトは、アークにも記録がある。ものごとの認識をぼかして曖昧にして、あるのかないのか判らない状態にするもの。まずは、貴方たちが正体不明の敵の実体を認識しなきゃいけない。何かのスキルを使う手もあるけど、察しのいい人なら、それに頼らず看破出来るかもね。必ずしも姿を見なきゃいけないわけじゃない。それが何であるか、頭に思えばいい。だけど、気をつけて。このアーティファクトは、あるとないの認識を曖昧にする。もし間違った正体を認識すれば、取り返しのつかないことになるかもしれない」
 それじゃ、気をつけてね、とイヴは手を振った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕陽 紅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月28日(日)22:42
●目的
正体不明の敵の撃破
数は5体。容姿についてはOPの通り。というところまでは判明している。

リベリスタ達がその家に着いた時点では、外からは異変はわからない。
まずは、敵の正体を認識することで中と外が『ある』ものとして繋がり、介入出来るようになる。

尚、注連縄と御札を物理的な手段で破壊すれば、少女達は永遠に『ない』ものとなってしまう。
また、実体化するのは敵だけとは限らない。


●時間制限
短くて5分から長くて15分ほど。実体化までの時間がそれを過ぎると、少女達は少なくとも生きて家を出ることは出来ない。
間違った推理の如何によっては制限時間が短縮される(最短5分)ので、注意すること。


●STより
おはようございます。夕陽 紅です。
戦闘自体は、きちんと正体を看破出来ればちょろいです。
大事なのは正体看破ですが、それ以外にも小道は用意してあります。小道具と本文を照らし合わせて、如何様にもお遊びください。

子供にとっては、周りはみんなトモダチ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
本条 沙由理(BNE000078)
ナイトクリーク
倶利伽羅 おろち(BNE000382)
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
★MVP
ナイトクリーク
大吟醸 鬼崩(BNE001865)
プロアデプト
天霧 紗姫(BNE002837)
ホーリーメイガス
雛月 雪菜(BNE002865)
マグメイガス
クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)


 その家は、リベリスタ達の目からも、明らかに異様に移った。
 家に廻らされた注連縄に御札。そして、黒々とくすんで淀んだ空気。噂になるのも、何となくわかる。理由はわからないけど、一刻も早くここから離れたくなる類の病んだ色をしていた。
 す、と注連縄に手をかける。乾いた草の手触り。乱れや破損の異変は、見られない。
「壊れていなかっただけマシなのかしら……それにしても、聖別されたはずの内側が危険に満ちているなんて」
 理不尽もいいところだ、そう呟いたのは『プラグマティック』
本条 沙由理(ID:BNE000078)だ。同じように『素兎』天月・光(ID:BNE000490)も、注連縄や御札の位置や形を押さえて行く。出入り口の数をひいふうみい、と数えると、玄関、それと縁側がひとつ、ふたつ。それだけ。
「様式美に通じてるなら、形に意味があるってね」
 ふんふんと地図を覗き込む。北に向いた玄関を頂点に、御札が5つ、等間隔に並べられている。その間を埋めるように繋がれる注連縄の結界。地図を以って見ると、五芒の刻印のようにも見えた。
 神道で結界とされる注連縄、五芒の星は道教から転じて陰陽道の五克。如何様な流れによって構成された魔具なのか。そう考えながら彼女は、ある一つの存在に頭を傾けた。
 座敷童子。
 珠美の言う通りに、この現象はソレの怒りなのだろうか。その疑問に対し、彼女は、否、彼女のみならずリベリスタ達は、ある一つの共通見解に達している。
「くそ、ブリーフィングだけで頭が割れそうだった……」
 頭をがしがしと掻くと、ツァイン・ウォーレス(ID:BNE001520)は家を見上げる。家の防衛装置みたいなものか? 式神使役? 分かんねぇ、でも何とか助けてやりてぇなあ。呟くと、ある一つの存在を想う。
 座敷童子。
 かの者は敵なのか?
(……否)
 『不視刀』大吟醸 鬼崩(ID:BNE001865)は思う。ミーティングの段階で、最初にその可能性を提示したのが彼女だった。
 座敷童子は少女達を襲っているのか。
(まるで、守っているようでは、ありませんか……)
 カレイド・システムに映し出されたその映像を思い出し、鬼崩は閉じられた目を撫ぜる。
 座敷童子は敵ではない。全員の達した共通の認識である。
 ふっと、何かの気配が横を通り過ぎた気がした。
「座敷童子は、在る」
 珠美さんは友達、座敷童子は味方。『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(ID:BNE002878)は、ひとつひとつ、その認識を脳裏に刻み込むように言霊を発する。有る、が無いに変わる事も、
無い、が有るに変わる事も有るのがこのアーティファクト。ならば、あると思え。善きものの存在を。悪しきものの正体を。全員の認識が、閉じられ、より合わされ、そして――
 はじめにソレを認識したのは、『優しき白』雛月 雪菜(ID:BNE002865)だ。彼女が手に持っていた鏡に、何かが映った。ふっと黒い影が横切る。
「古くから、鏡は別世界へと繋がっているという話もありますし、もしかしたら……」
 ぱたぱた、と足音がする。その足音は、まるでリベリスタ達を誘うようだ。
 リベリスタは思った。やはり、と。そして、ならばでは、と。一体何が彼女らを襲っているのだろう。『蒼き闇のディアスポラ』天霧 紗姫(ID:BNE002837)が顎に指を当て、考える。
(……敵の正体……)
 思いを馳せる。妬み、恨み、負の感情。それらの凝ったもの?
 空気が粘ついて、どろりと揺らいだような気がした。それが端緒になったように、途端に厭な空気が濃密になる。どろどろと、見えない風船が膨れるように。
 ぱたり、ぱたり、足音が家の玄関で立ち止まった。まるで、こここそが一方通行の入り口であると示すかのように。生暖かい空気がそこから吹き込み、そして家の中で循環する。
「注連縄、御札……家や住人に与えられる力を、増幅する?」
 『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(ID:BNE000382)は、呟く。ならば。そして、では。
「この家に害意のある侵入者を閉じ込める――」
 その言葉を口に乗せた、その瞬間。
 ぱきん、と硝子にひびの入るような音がした。

 ど ろ り


 とてもとても濃密で黒々しくて、色々なものが一緒くたに溶かして混ぜて煮詰めて、家から黒い風が流れてきた。今まで何故気付かなかったのだろうと思うほど自然にそこにあったのは、視覚に映りそうなほど凝った淀みだった。
 それは感情の澱で環状の檻。暗い玄関がぽっかりと口を開けて、リベリスタ達を待ち構えていた。
 それぞれが部屋に入る。腥い臓腑を捌くように息苦しい室内は、なるほど、映像にあったようにとても暗くて、異常で、気持ち悪い。
 全員が示し合わせたように辿り着いた中心の部屋。間取りを理解していたわけではない。リベリスタ達を導いたのは、足音だ。ぺたぺたぺた、という足音の途切れた所は、いわゆる奥座敷と呼ばれる場所。壁やふすまをすぅすぅ、と抜けては出て、周りをぐるぐると回る。手に鉈、縄を持ち、紙の着物。
 ばりぃっとふすまごと蹴り抜きながら、光が突撃する。身体のギアを最大限に上げるトップスピード。神速の突撃が、その勢いもそのままににんじんソードで化け物をなぎ払う。上半身と下半身がべしゃりと分断され、壁に当たった下半身の方は雲散霧消した。
「神木くんたちを助けに来た!」
 押入れに向かって声を投げる。がたり、と竦むような音がした。
「おじゃましまーすっ」
 続いて飛び込むなり、おろちはその一体に飛びついてその懐にオーラの爆弾を突っ込んだ。ハイアンドロウ。自らもその爆発に巻き込まれながらも、その一撃は1体の左胸ごと片腕を吹き飛ばす。のろのろとリベリスタ達に向き直りながら、しかし、2体の断面から血が流れることはなかった。
 かぁごめ、かごめ。掠れた声の歌がリベリスタ達を取り囲もうとするかのように動く。
 かごのなかのとりぃはぁ……その歌に、リベリスタ達が感じたものは妄執だった。
 出してやるものか、出してやるものかと、声が言っていた。出てはならぬ、出してはならぬ。
 注連縄と御札と家で出来た、偏執的なまでの籠の目。籠の女。力は何一つ逃がさぬとする家の妄執、E・フォース。それこそが、この怪異の正体だった。
 籠女。カゴメ。籠の女が、またしも押入れに手をかけた。がちゃがちゃと音を立てるが、開かない。
「させるかっ!」
 ツァインが逆側の襖ごと籠女を蹴り倒す。振り下ろすブロードソードはすり抜けるように避けられるが、その隙に押入れの前に立ちふさがり行く手を阻んだ。
「大丈夫。きっと座敷童子様が守ってく ます」
 消え入りそうな声で、鬼崩が微笑む。視覚のない彼女だからこそ判る。押入れからは、暖かい気配がした。ツァインに並び立つと懐刀を抜き放ち、薙ぐ。ブラックジャック。黒いオーラが上半身だけの籠女の頭を包み込み、ぐしゃりと潰す。風船から空気が抜けるように力を失った。

「な、何、何! 何が起こってるの?!」
 押入れの中で女の子がわめく。困惑するのは、神木 珠美も同じだが、もう少し落ち着いている。もう1人は泣いてばかりでお話にならない。外から声をかけられたけど、味方なのだろうか。慌てる3人の頭に、声が響いた。
(大丈夫。あなた達は護りますから――もう少し、そこで我慢していてください)
 3人がびくん、と顔を上げる。
 回復に専念する為に待機する雪菜が、ハイテレパスで中の3人に語りかけたのだ。今そこにある怪異よりも、温かみに満ちた神秘。泣き声が、少しだけ止んだ。
 しかし、化け物達も黙ってやられるわけは無かった。2体がふわりと風に導かれるように泳ぐと、ツァインと鬼崩を挟み込むように動き、手に手に縄を持ち、かごめ、かごめ。謡うなり、結界のようなものが捉えようとする。回避する先に、残った2体が斬りかかった。鬼崩は躱しツァインはバックラーで受け、しかしその押入れに再び、先の2体が手をかけようと――
「宣言するわ。貴方達は弱い。この場に力持つ物なんか、私達以外には“無い”」
 炎が、座敷を舐めた。室内だろうとおかまいなしの魔炎が2体の籠女を包み、ばちばちと炎が移り、その体が燃え上がる。アーティファクトの法則に則った言葉を紬ぎながら放った殲滅砲台の名に恥じないクリスティーナのフレアバーストは、しかしともすれば押入れすら燃やし尽くしていたかも知れない。ただし、それにすら、耐え切った。ほんの少しだけ、視界の端に、肩で息をつく幼い子供が映った気がした。ごめん、と呟きながら、クリスティーナは押入れの前に立って死守する体勢を見せる。
「やはり、押入れを開けさせるつもりだったのか……? 奴らは」
 ぴっと煌めきが走る。
 先程片腕を吹き飛ばされた籠女が、尚も襲いかかろうとする。その背後から、気糸が走り頭を貫いたのだ。引き抜くと、ぱしゅん、と粉々になった何かが飛び散り、幽体が消失した。紗姫のピンポイントだ。集中攻撃で手負いの1体を手早く始末する。
 その様子を見ながら、得心行ったように沙由理がグリモワールを手繰り呪文を唱える。神気閃光が3体の敵を灼くが、辛うじて急所を庇ったらしく1体は活動は停止していない。
「E・フォースでありながら、性質的にはアーティファクトの人形ってところだったのかしらね。最初の予想とは、当たらずとも遠からず」
 まじないとは切り離せないものだし。あなたたちも、楽しく遊べる存在だったら良かったのにね、と自らの事前の推論に事実を加えた考察とちょっとした感傷を、知的好奇心のままに呟いた。
 かごめ、かごめ。未だ歌は掠れ途切れつ長く長く。しかし、このエリューション達の性質は本来戦闘にはない。自らの領域に踏み込まれては、リベリスタ達にかなうべくもなく。指の一本すら動かすことも出来ない速度の差のままに、光の斬撃が、怪異を吹き散らした。

●と も だ ち
 がたん、と押入れが鳴った。
 リベリスタ達がそちらに目を向けると、3人の少女がおそるおそる出てくる。
「た、助かったの……?」
 そのまま、押入れから出ることもなく、2人の少女はわんわんと泣き出してしまった。
「……何者、ですか?」
 ほけっと、頬に涙の痕こそ残っているものの、しかしただ1人、珠美だけは小さく冷静に聞いた。
「ぼくは、因幡様のお遣いってやつかな?」
 ちっちゃくウィンクと共に、光が答える。君たちの未来に幸運を、と3人に四葉のクローバーをあげる。
「この結界になぞらえて言えば、正義の味方は、“居る”。そして正義に敗北は――“無い”。そんなとこかな」
 クリスティーナが、少しだけ胸をそらして言った。自分達は敵ではないという、彼女なりの諧謔だ。
「やっぱり、あたしのせいで、座敷童子ちゃん、怒っちゃいましたかね。ともだち、殺しちゃいましたか。私のせいですね」
「そのことですけど……」
 自虐的に笑う珠美に、雪菜はちょっと得意げな笑みと共に手鏡を取り出す。鏡は異界の出入り口。差し出されたそれを珠美が覗き込むと、後ろに何か映った。かわいいおべべの、黒いおかっぱの、ふくふくとしたほっぺの。はっとした顔で、振り返る。
「大 夫。座敷童子様は、守ってく ました」
 その手におままごとのお茶碗を握らせ、凍り付いている少女達の手に手に和菓子やめんこを渡し、鬼崩は儚げに微笑んだ。
「皆、友達」
 にこっと笑う和服のおさない子供。あそぼ、と唇が動く。静かな涙しか流さなかった珠美が、大泣きして、ありがとう、ありがとう、とその裾にすがりついていた。そこから流れる暖かい、でも微量な力を目にして、おろちは何となく気付いた。多分、この特殊で、しかしアザーバイドという基準からすればちいさなこの存在からもたらされる力の流れを維持するための、この仕掛けだったのであないか、と。
 それからしばらく、幼い頃のように彼女達は遊んだ。ともだちと遊んで、童女は笑って異界への穴をくぐり、その穴はリベリスタ達によって閉ざされた。
 押入れに隠された三面鏡は、もうただの鏡だ。

「諦めが良すぎるのも、考え物よ? 若いんだから」
「もう、そうも行きません」
 去り際、アーティファクトをくるくると回収しながら、沙由理が珠美を諌めた。笑って返される。ほんのちょっとの付き合いだったのに、助けてくれたあの子。もう命を無駄にするわけには行かなかった。
「でも、これからやーですね。憂鬱ですね。あの人達に、どう説明しましょうか」
「……なぁ、確かに変わった家かもしれないけど、変えていけるものもあるんじゃないかな?」
 相も変わらず、家族を他人のように言う少女に、ツァインはそう声をかけた。
「それが出来るのは、やっぱ家族の一員だと思うぜ?」
「……かもですね」
 ちょっと晴れやかに、珠美は答えた。そんな少女を見ながら、紗姫は背を向けて、呟く。
「さて……座敷童子が居なくなると、居るうちに得た富は失う事が多いが……この家はどうかな?」
 得るために失いすぎた富だった。それを失って後、どうするか。
 それでも珠美は答えた。
「まぁ、因果応報ですよ。しょうがないっ」
 何とかなりますよ、生きてますしね。
 人生なんて、そんなもの。
 そんなもの。

 さいごにひとつ、語り残したことがある。
 リベリスタ達が気にして、しかし最後まで判らなかったひとつの不思議。
 広まった噂。どこから広まった?
 それについて語るのは、まだ少し早いかも知れない。
 不思議な噂は今も、どこかの誰かと広がっている。
 ともあれ今日のところは、リベリスタ達の手により開かれた環と閉じられた物語。しばしのお開きでございます。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
ご参加ありがとう御座いました。夕陽 紅です。

今回はミスリードや贅肉など色々仕掛けさせていただきましたが、見事に完全突破でした。
嬉しく思う反面、もっと難しくしたくなるなど、げふげふ。

最大要因は座敷童子の存在。ここを突破出来るかどうかが難易度の要点でした。
珠美に関しては、今後も出番があるかもしれません。

では、再び出会える機会がありましたら宜しくお願いします。