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悪辣は二度死んだ

●小悪党
「あーあ。結局お前達は邪魔をするんだな」
 溜息を吐いた男の顔の左半分は冷たく艶やかなセラミックの仮面に隠されていた。強制的に笑みを形作ったその仮面の表情は、うんざりしたような声を出した彼の様子と相反している。
「人様が折角……注意に注意を重ねて。
 細心に細心を払って。細々と『小市民的幸せ』で我慢しようって努力しているのに。お前達は結局邪魔をするんだよな」
「台詞と行動がまるで一致していないな。阿呆か、お前は」
『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の一刀両断は彼女にしても珍しい位の本気の呆れを多分に含んでいた。
 居直り強盗という言葉があるが、男は全くその字面の通りであった。男は特に何の罪も無い『幸せな一家』を今夜のターゲットに定めていた。言葉にすれば簡単な――単なる強盗団の一味な訳だが、そこに先の台詞は噛み合うまい。
「本気で言っているのだとすれば、悪い意味で驚きます」
 社会には存外に多くの『サイコパス』が紛れているとは言うが、積極的実行に及ぶ存在は潜在的脅威ならぬ唯の怪物である。少なくとも『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)に理解出来る存在では無い。
「念の為、確認しますが……投降する心算は?」
「ちっとも。まったく」
『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)の言葉にヘラヘラとした笑みを見せた男は、嫌という程典型的な悪党だ。
 超常の能力を身につけた人間がその力を悪事に使えば、神秘世界ではフィクサードと分類される。その力に限らず、フィクサードをフィクサードたらしめるその所以が心根にあるとだとすれば、この男は――摩垣修一郎は極めてその才能に恵まれて生まれてきた男だと言える。
 世の中には実に沢山の醜悪が転がっている。
 例えばそれは品性下劣な人物の当然の論理であったり、人間が筆舌尽くし難い苦境に追い込まれた時に生じる性そのものであったり。
 此の世を見事泳ぎ切ろうというならば、綺麗事だけで上手くいく筈も無い事はここに居る誰もが知っていた。
 善良も一度裏返れば悪辣に。悪辣な存在の見せるちょっとした善良だって否定出来るものではない。表裏一体のこの世界は『美しい程に常に醜い』。然るにそれをいちいち責め立てる努力は非常な無駄と断じざるを得まい。
 あくまで――理屈の上では。
「……それを許すかどうかは『労力の問題』だ」
「費用対効果の問題でもありますね」
「……と同時に気分の問題でもある」
『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)の言葉に『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が応じた。リズムの良い、皮肉に洒落たやり取りだが、強い義憤もそこにある。フィクサードが望むのが『身勝手なる弱肉強食の世界』ならば、リベリスタが彼等を見逃す道理はあるまい。
 此の世から醜悪が消え去る事は無かったとしても、目の前に落ちているゴミを拾うのは、部屋(にほん)を掃除するのはそこに住む者の自由なのだから。
 戦いは不可避だ。しかし、快はふと違和感に気が付いた。
「……恵梨香ちゃん?」
「……っ、……、……!」
 快は傍らの少女が――『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の様子が酷くおかしい事に遅ればせながら気付いていた。彼女は多くの場数を踏んだリベリスタだ。この程度の現場で気負うようなタイプでも無い。
(これは……)
 だが、顔色を失い、目を見開いて。浅く早く呼吸をする恵梨香の様子が尋常ではないのは彼の目に明白だった。
 フィクサード摩垣修一郎は凡庸な悪党だ。バロックナイツのような特別でも何でもない悪党に唯の悪党に過ぎない。だが、そんな彼をほんの少しだけ――『特別』たらしめる理由があるのだとすれば、それは。
「……あ? 何処かで見た顔だと思ったら……」
 アークにはプロト・アークの頃に生じた彼との交戦記録が残されている。
 彼がかつてプロト・アークに撃退された事件のファイルには『高原一家殺人強盗事件』の題がつけられていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:NORMAL ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年01月31日(土)23:12
 YAMIDEITEIっす。
 リクエストです。
 シチュエーション詳細は下記。

●任務達成条件
 ・摩垣修一郎の拘束ないしは殺害
 ・強盗団の制圧
 ・強盗殺人事件を未然に防ぐ事

●住宅地
 現場は広めの道路です。
 深夜ですが住宅地圏である為、時間を掛けたり、派手な騒ぎを起こせば不測の事態が生じる可能性があります。

●シチュエーション
 別の任務から帰投中の貴方達は、万華鏡が追加観測した本件強盗事件の現場に急行する事になりました。しかし、事件を担当したのは新入りの名も無きフォーチュナです。彼はプロト・アーク時代の情報に疎く、同時に『高原恵梨香』がその事件当事者である事を知りませんでした。なので、不意打ち気味に仇と会敵した状況となります。
 高原恵梨香さんは、以下の選択肢を選んでも構いません。

・戦闘開始直後、トラウマがフラッシュバックして動けなくなる等、感情的に暴走して不利になる

 選ばなくても構いません。
 但し相談では『何か起きるか起きないか』以外は仲間に伝えないようにして下さい。
 尚、選択はプレイング内容から判断します。

●摩垣修一郎
 強盗フィクサード。ソードミラージュ。
 プロト・アークとの戦いで顔に重傷を負いました。
 顔の左半分をセラミックのマスクで隠しています。
 戦闘力はそれなりですが、どうという事も無い悪党。
 つまらない悪党ですが、そのつまらない悪党にどれ程の破壊が出来るのかをリベリスタ達は知っているでしょう。

●強盗団
 雑多なフィクサード達。数は十二。
 戦闘力はそれなりですが、アーク精鋭には当然及びません。


 必ず色々と煽られますのでお楽しみ(?)に。
 以上、宜しくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ハイジーニアスマグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ジーニアスソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ハイジーニアスホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)

●ネメシスの熾火I
「……たな」
「……恵梨香さん?」
『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の震える唇が何かを呟いた時。
 その傍らに居た『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は咄嗟に彼女の様子を伺い直していた。
 青い瞳の舞姫にコントラストを描くように、恵梨香の瞳は赤い。革醒の時を以って少女に宿った赤色は、彼女の傷みそのものだ。大粒の瞳の奥で燃え盛る『ネメシスの熾火』はまさに彼女を彼女として形成してきた基幹であり、呪いそのものに他ならない。
「恵梨香さん、どうし――」
「――よくも父さん兄さんを! 玄関の前で殺したな!」
 明らかに様子を激変させた恵梨香を慮った舞姫の声が一声に塗り潰された。地の底から響く、振り絞るような少女の憤怒を聞いた時、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)も又、少なからず驚いていた。
「よくも母さんを! アタシを庇ってくれた母さんを目の前で殺したな……!」
 恵梨香の脳裏には、まさに今呪わしい過去――当時の記憶がフラッシュバックしているに違いない。その怒りは事情を深く知らないものにとってすら正当だ。断片的に得られる情報をしてすら、殺しても飽き足らない憎悪を抱かせるに十分だと言えるだろう。
(成る程、な)
 とはいえ、酷く不器用に、酷く感情的に思いの丈を吐露する恵梨香の姿に内心だけでそう呟いた快は多少の驚きを禁じ得なかった。彼女との付き合いはそれなりに長い。
 恐らくは『その』過去から内向的で自罰的、そして抑圧的な恵梨香は進んで他人に心を開くタイプでは無いが――これまでの決して短くは無い付き合いから、快にはアークでは何番目かに彼女の事を知っている人間である、多少の支えになってきた程度の自負はある。その大いなる一位は言わずもがなだ。対抗する気も意味も無いし、するだけ馬鹿馬鹿しい話にもなるのだが――それは余談。
「本当に、こんな偶然ってあるもんなんだなあ!」
 喜色満面、事情を合点したのは敵方も同じだったのか。六人のリベリスタ達に相対する今夜の標的(ターゲット)も又、恵梨香の顔と己の過去を結びつけるように成功したようだった。
「フィクサード、摩垣修一郎。やっている事は居間も昔も大差なしって訳だ」
 明らかに平静を失した恵梨香に一瞬だけ視線を向けた『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が静かに言った。日頃から役所勤務をする彼は勤勉な性質で、プロト・アークから現在のアークの活動に到るまでの数ある経緯と報告書を時間の許す範囲で読み進めている。そんな彼だから、二者の関係に気付いたのは当然と言えた。フィクサードの強盗殺人犯と唯一の生き残り。データベース上の記録は『高原一家強盗殺人事件』。
 否、それを知っていたかどうかは大きな問題では無い。元よりその人生に影の色濃い自罰的な少女が冒頭の台詞を吐いたならば――これは想像力を働かせる余地すら残らない酷く単純な結論を出す以外の意味が無いだろう。
「行きずりとはいえこれから起こるであろう悲劇を阻止できるのならと思いましたが……
 なにやら因縁めいた事になったようですね」
『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)がレンズ越しにその切れ長の目を細めた。
 彼女は全ての端的事実を理解している訳では無かったが、当然概ねの事情は察知している。
「妙な巡り合わせがあるものだな? 小市民の小悪党、狡っ辛い性悪か」
「そうそう、勤勉に真面目に生きていれば――こういう『イイ事』もある。人生は塞翁が馬、良く出来てるってモンだろう!?」
「小市民な所は自称通りか。快感に流されやすい脳タリン。
 通らぬ理屈をオウム並みに繰り返す――いいや、オウムにも失礼な害獣が」
『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)による、到底普通の少女らしからぬ強烈な痛罵(じんぶつひょう)にも修一郎はへらへらとした笑みを見せるばかりであった。何より彼は、瘧のように全身を震わせる恵梨香が『まとも』ではない反応を示す程に狂喜の色を隠せない。何が『イイ事』なのかを下衆(フィクサード)ならぬリベリスタ達は到底理解出来なかったが、恵梨香の精神状況が任務に不測の事態をもたらす悪影響である事は明白だ。元々自制的な少女が『そんな状態』に陥ったそれ事態が今夜の意味を告げている。
「まるで、裏野部の縮刷版だな」
 快は吐き捨てた。悪も、スケールも。但し何れにせよ許し難い事には変わらない。
 つまらない男だからこそ、尚更に恵梨香が気の毒にすら思えてくる。
 嗜虐的な加害者は、長い時を越えて再び目の前に現れた果実を今一度貪る構えなのだった。
「よくも、よくもアタシを――」
「――何だ、そんなに良かったかい。あの夜が、俺が忘れられなかったかい」
 口角を意地悪く持ち上げて。
「俺以外のどんな男より」
「――――」
 修一郎が下卑た笑みを浮かべた時、恵梨香は全ての意識を真っ白にして弾かれたように動き出す。
 それは平素理知的な彼女らしからぬ――仲間との連携や周囲への視野を失った根源的な衝動であった。
「恵梨香ちゃん、落ち着くんだ。ここは過去じゃない、現在だ!」
「恵梨香さん、落ち着いて! 
 痛いほど気持ちはわかる……けど、そんな異常者の言葉に耳を貸す必要なんか無い!」
 恵梨香には快の、舞姫の――仲間達の声が届いていない。
 煽るだけ煽って距離を下げた修一郎に釣られるように彼女は前へと駆け出した。
 リベリスタ達に比すれば雑多とはいえ、敵の数は多い。守りに優れない恵梨香が衝動的な戦闘を展開する事は、当然大きな危険を伴う。アークの強さは万華鏡に裏打ちされた完璧な連携と、それを下支えする運命の強さによるものだ。その両輪の一を失えば相手がつまらない悪党でたったとしても不測の事態は起きないとは限らない。
 彼女を今この瞬間に止める事が出来ないならば。
「……無駄に囀る馬鹿の始末が先だな」
 やや低い声で姿に似合わぬ皮肉で獰猛な結論を述べたユーヌに仲間達が頷いた。
 修一郎は今夜を幸運と呼んだが、それは果たしてどうか。
 この夜に集ったリベリスタ達は――恵梨香程ではないにせよ、その理不尽に怒っているのだから。

●ネメシスの熾火II
 復讐は燎原の火の如く?
 本当に止まらぬ者は――絶対勝利者は『復讐』しない。

                                ――――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ



 暴発的に始まった戦闘は当初より乱戦の様相を呈する事となっていた。
 リベリスタ達はそれぞれが精強だが数に劣り、平静を失った恵梨香が突出した状況だ。
 一方のフィクサード陣営は個別の戦闘力は出色のものが無いが数が多く、恵梨香を的に弄る構え。何よりリベリスタ側の『任務』は彼等全体の制圧なのだから、逃がしても事である。
「悪党の悪足掻きは――このわたしが引き受ける!」
 相応に難しいこの局面で誰にも先んじて電光石火の反応を見せたのは凛と勇ましく一声を発した舞姫だった。
 戦闘力の差と状況を考えればリベリスタ側のディス・アドバンテージはまさにこの初動に集約されていると言える。彼女が時間を稼いでいる内に頭数を減らせれば良し、恵梨香が平静に戻れば尚良しという事だ。
 持ち前の勘を働かせた分も奏功したか、舞姫の動きは実にスムーズなものだった。
「お願いします!」
 何を、とは言わずとも仲間にその意図は伝わっていた。敵の的にされている恵梨香を庇うように瞬間の超加速を見せた舞姫はその姿を掻き消し、即座に修一郎の前へと出現した。
「貴方等、斬れば刃が汚れる。だが、この場で斬らぬ理由は無い――!」
 繰り出された一撃が硬質の音を跳ね上げる。凛とした少女の剣を見舞われた修一郎はと言えば、これに舌を打ち、まず自らの手で弄る予定だった恵梨香を手下に譲らねばならぬ事に不満げな様子を見せている。
「いちいち考えが甘いようだな」
 鼻で笑ったユーヌが二番手で敵一群を引き付けにかかった。
 少女のなりに秘められたその力は極上と称する他は無い技巧(テクニック)だ。
「さて遊ぼうか? 押し入りは出来ても娘の一人も追いかけ回せぬ意気地なしか?
 ああ、その様なら尻を追っても振り向くものなどいないのだろうが――」
 確実に敵を引き付け、縫い止め、その猛攻を捌き切るだけの自信がユーヌには存在する。
(俗物で低劣低脳、つまらない事を狙われても面倒だ)
 最速で敵に肉薄する事に長けた舞姫と合わせ、二重の抑え役はまずパーティの考えた通りの展開を見せた。
 例え、重要な一ピース(えりか)を欠いたとしても澱み無い連携は健在と言えるだろうか。
「ああ、いいぜ! 胸糞悪くて余計ヤル気になるってもんだ!」
 舞姫と打ち合いながら声を上げた修一郎に応え、敵陣がリベリスタ側を迎撃する。
 ユーヌのアッパーユアハートに『釣られた』連中は彼女を集中攻撃するが、これは殆ど意味を成していない。
 義衛郎はすかさず残る半数程度の敵に対して回り込むように移動し、美しく華麗な刃の軌跡を無明の夜に刻み込む。
「三徳を、鍛え直して――三徳極皇帝騎とす。人間なら『徳』の何たるかを学ぶべきだった」
 リベリスタ側の強さは筋金入りだが、敵陣は数の多さもあり、意気軒昂である。
 揃いも揃って修一郎に似たのか、それとも類は友を呼ぶと言うべきか……
 何とも品行下劣なるフィクサード共は狂乱の怒りを隠さず、憎悪ばかりを叫ぶ恵梨香を標的にとっていた。
「アタシを――何時までも弱いままの子供と思うな!」
 泣くだけだった、無力な子供ではない――そう主張する恵梨香は皮肉な事にこれまでのどんな戦いに臨んだ時の彼女よりも脆弱でひ弱に見えた。修一郎の合図でめいめいに彼女に襲い掛かったフィクサード達は直接戦闘に優れない彼女を嘲り、その言葉に唾を吐き掛けるように――実に簡単に彼女の身体を、誇りを傷付けた。
「弱いじゃねぇか」
 ゲラゲラと笑うその声が、恵梨香の吐き気を強くした。
 深く肩口を貫いた敵の鉄爪に息が詰まる。運命に縋り、辛うじて猛攻に倒れる事は避けたが……
 信じられない位にアッサリと己が追い込まれた事実に恵梨香は更なる怒りを禁じ得ない。
「アタシは一度死んで蘇った! もう、『お前達』には――」
 叫びと共に放たれた銀の弾丸のその閃光が強烈に暗闇を引き裂いた。
 修一郎だけを的にしたその魔術は後背から舞姫をも貫いている。だが、その強烈な一撃にも唇を噛み締めた彼女は声さえ上げない。誰が悪いかと言えば決まっている。目の前の奴が悪いに決まっているのだから。
「……ッ……!」
 血塗れた少女は、鋭い視線を宿敵に注いだ。
 弄る心算だという彼は加減等する心算は無いらしく、敵は更に彼女に襲い掛かったが――
「――それ以上、させるかよ」
 片膝を突いた恵梨香を抱きかかえるようにしてその背に庇ったのは鉄壁なる守護神――快だった。恵梨香を容易の傷付けた敵の刃が、攻勢がこの快にはまるで通用していない。文字通り敵を寄せ付けず弾いた守護者は、至近距離の恵梨香の目を見て言う。
「今君と一緒に居る俺達は、君を護る力があり、そして意志がある」
 静かにゆっくりとした調子で紡がれた言葉に恵梨香の瞳の炎が揺れた。
「君は一人じゃない。この状況に、一緒に立ち向かう仲間がいる」
「そうですよ」
 快の言葉に敢えて行動を遅らせていた凛子が応じた。
「この世はとかく残酷です。それでも人は――人を救う為に動くのです」
「賦活せよ」と世界に命じた彼女の放った癒しの息吹が傷んだ自陣を、恵梨香を優しく包んだ。
「高原さんの怒りを私は共有する事が出来ません。復讐に意味は無いと言う事それ自体も、意味が無いでしょう。
 しかし、私達には今夜の貴方と添い遂げる覚悟がある。
 アークの仲間として、同じリベリスタとして……ここまで来たら行ける所まで行きましょう」
 極技心謀に強力な回復能力を備える凛子の存在はフィクサード側の勝機を殆ど潰すそれである。
 否、厳密に言えば――それはリベリスタ側の全てであるとも言えるのだが。
 舞姫のスピードに敵はついていけまい。ユーヌの技量を捉え得る等、幻想だ。義衛郎のバランスを崩し得る存在は敵には無いし、新田快の防御を突破出来よう筈も無い。そして当の恵梨香とてそれは同じ。冷静のままに彼女が『砲撃』したならば敵に残るのは無残な敗北ばかりだという事。
「わ、たしは……」
「黄金勲章受章のエース、守護神が付いてるんだ。
 あの時村室長のお墨付きの、ね。少しは頼ってくれよな」
 最後に恵梨香の頭にポンと手を置いた快は「茶番かよ」とからかいの声を投げる敵陣へと向き直った。
「これ以上俺を怒らせないで貰えるかな――可愛い後輩が苛められて、結構頭来てるんだよね」
「同感だ」
 首を鳴らした義衛郎が頷いて構えを取り直した。
「元々、加減してやる心算は無いけどね」
 復讐なる行為を止めはしない――止めはしないが、それが何かを産むと考えぬ彼ですら嫌気が差す。如何な悪党ぶりを発揮するのも本人の自由だが、そんなものを殺して――恵梨香が己を責める結末ばかりは、義衛郎には受け入れ難い。
 お仕置きに力が入り過ぎても、御愛嬌というものだろう。

●ネメシスの熾火III
「まったくゴキブリ並みにわらわらと……ま、正直それ以下だったがな」
 ユーヌの悪罵にもいざ惨敗すれば返す言葉もあるまい。
 消化試合のような戦いの顛末を語る事に大した意味は無いだろう。
 恵梨香は仲間達の声に平静を取り戻し、リベリスタ達はその実力の示す通りに修一郎達を制圧した。彼等は逃走等の小細工の気配を幾らか見せたが、それを最初から想定していたリベリスタ達に子供騙しは通用しなかったという事だ。
「……どうしますか?」
 捕縛した修一郎を前に凛子は問うた。
 恵梨香が望むならば幾らでも傷付ければいいと彼女は思った。些か残酷な方法だが――医者としては相応しくないのかも知れないが、彼女は『苦痛を与える為に癒す』という方法も持ち合わせている。
(……それでも、敵は敵ですしね)
 ついでにアスタリスクで『碌でもない』もつくし、と凛子は肩を竦める。
「……」
 悪態を吐く修一郎を見下ろした恵梨香は沈思黙考で彼を見た。
 義衛郎は言う。
「摩垣の扱いは、高原さんにこそ決める権利があると、オレは思うよ。
 ただ、復讐という我欲の為に力を揮う。其れはフィクサードの行い、其の物だ。
 もし復讐を遂げたとしても、誰も責めやしないだろうが、きっと君は自分で自分を責め続ける気がする」
 舞姫は言う。
「恵梨香さん……、いえ、恵梨ちゃんって呼んでいい?」
「……」
 恵梨香は無言だ。舞姫は息を呑んで――言い難いその言葉を告げた。
「もし、『恵梨香さん』が辛い過去と決別するために、本当にこの男の死が必要なら止めはしない。
 けど、そうじゃないなら。前に進むために、わたしに出来ることがあるなら――その手を汚して欲しくない」
「……」
 快は沈思黙考する恵梨香を静かに見守った。
 どれ位の時間が過ぎただろうか。それはとても短く、同時に長く感じられるものだった。
「私は……」
 私は。
「『貴方達』に聞くわ。このまま死ぬか、それともアークに拘束されるか」
 搾り出すように言った恵梨香にセラミックの仮面の下の火傷跡を露わにした修一郎は笑った。
「パパとママが、おにいちゃんが何て言うかなあ? 憎い敵を見逃せって言うのかなあ?」
「それでも――アタシは、殺人鬼なんかじゃない」
「覚えとけよ。いつかお前も、お前のお友達も恋人もきっと俺が殺してやる!」
 更生等、間違っても見込めない。彼を生かしておく意味は無いのだろう。だが、それでも。
「恵梨香さん……」
 肩を震わせ、視線を切った恵梨香に舞姫が声を掛けた。
 恵梨香は振り向かず、しっかりとした声でそんな彼女と仲間に言ったのだ。
「恵梨ちゃんでいいわ。それから、ごめんなさい――いえ、ありがとう」

●夜明け
 朝靄の中を少女が歩く。
 愛すべき街に戻り、愛すべき日常に戻り。
 復讐の夜を越えた少女は早朝の本部に――無人の筈のブリーフィングに足を向けた。
 そこで彼女は予想だにせず、待っていた人物から、短い言葉を受ける事になる。

「おかえり」

 唯の四文字が嘘のように胸に染みて、彼女は泣いた。あの日以来――初めて子供のように号泣した。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

 六人は恐ろしく書きやすいなぁ、という話でした。
 リクエストの内容柄、大分ドラマ寄りですが……ハッピーエンドで何より。
 こんな面子にそりゃチンピラは勝てませんよねぇ、という。

 シナリオ、お疲れ様でした。