●拳禅一如 街の片隅にある小さな道場。和道系の道場なのだろう、道着がやや薄めな処を見ると打撃系の武道なのかも知れない。 道場の片隅で、少女はゆっくりと体を起こした。 そして、落ちていた服を無造作に拾って着る。長い髪をシュシュで纏めたポニーテールが揺れる。 少女は此処の門下生だった。体が弱く、休みがちなのを親が心配して入門させたのだと言う。 少女には弱い体と反比例してたぐいまれない才能があった。 いつしか少女は道場の中でも抜群の技のキレを持っていた。 だから、悲劇は起きた。 人間とは元来嫉妬深いイキモノである。自分より下だと思っていた者に上に立たれただけで簡単に負の感情を抱く。 多勢に無勢とはこういった事を言うのだろう。 体の弱い少女にはなす術もなかった。 幸運か……それとも不幸か、彼女は力に目覚めた。 いや、もしかしたらすでに目覚めていたのかも知れない。だが、少女はフェイトを得ることは無かった。 少女は道場に転がる肉塊を一瞥すると、服をひっかけ外に足を運んだ。 ●壊す為の力と守る為の力 「集まった? なら話を始めるわ」 見えたビジョンを頭の中で纏めながら、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタ達を振り返る。 「相手は一体。エリューション、フェーズ2ね」 一体? 集まったリベリスタの一人が首を傾げるがイヴはそれを一瞬視界に入れ、また語りだす。 「そう、一体。見かけは15、6歳くらいの女性ね、線は細く、見た目はとてもか弱そうね。他に外見的な変化は……手足が鉄のように硬質化しているわね」 イヴの説明によれば、今回のエリューションは素手による打撃と、投げや関節技などを使ってくるらしい。攻撃力はそこまで高くないが、特筆すべきは反撃の巧みさ。下手な攻撃は捌いてすぐさま反撃が飛んで来るだろう。また、掴まれてもそれに合わせて間接を極めたまま投げたりと、多彩な技を操るらしい。 「一体とは言え強力な相手。しかも、見た目が可憐な少女だから戦い難いとは思う。だけど……」 そう言ってリベリスタ達を見渡すと。 「大丈夫、貴方たちならきっと上手く行くと思うから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:タカノ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月22日(金)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●守主攻従 夕方からや夜にさしかかろうとしている茜色の空模様。空と大地を紅く染め上げた中、8人のリベリスタ達が片隅の道場へ向かおうとしていた。 「体は弱いけど才能は天才的か、俺とは正反対のタイプだな」 ぐっと深めに帽子を被り直し、誰に語るわけでもなく『灼焉の紅嵐』神狩 煌(BNE001300)が呟けば一向の足がピタリと止まる。 「同じ武道家として……わたくしも思うことはありますわ」 可愛らしい少女ながら凛とした通る声。それは『高嶺の鋼鉄令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)の一言だった。 熱心な武道家であっただろう彼女が、武道の道から外れた者によって破滅に追いやられた。それは武道家である彩花にとって許せることではなく、また、それに報いることも自分の使命だと思っている。 「しかし、だ」 煌や彩花のような若い二人を見つめながら、『不迷の白』八幡 雪(BNE002098)は語る。 「武芸の道に足を踏み入れた以上、多少の不幸はあれど極みに達した一つの形と言える」 「そんな! ……彼女は被害者なのですよ!」 彩花の真っ直ぐな視線と想い。それを懐かしげに見つめ、右目周辺を軽く押さえる。過去の自分の若さを振り返るかのように。 武道と武術。 が似て異なるこの二つの認識の差なのかも知れない。追い求めるのは『術』なのか『道』なのか。 「でも、つよくなったのは、確かだね」 あくまで無表情に。それは素なのか意識してか。もしくは感情と言うモノが少しずれているのか。『グリムタービロン』ジーン・カーティス(BNE002217)がそのやり取りの合間に入る。無表情なだけでなく、その中性的な容姿からは彼の真意は測れない。だが、その答えが間違いで無いのだけは確かであろう。 「結界は張りましたわ」 彩花と同い年ながら、やや大人びた少女。『魔眼』門真 螢衣(BNE001036)の一言で場の空気が変わる。 押し問答はここまでであろう。そう言った意味でも螢衣の行動は実にタイミングが良かった。 術師である螢衣には武の事など解らない。ただ、彼女にも一つだけ言える事はある。 (これ以上望まない罪を犯さないためにも……今の内に封じなくては) 目の前での問答を退屈そうに聞いていた紅涙・りりす(BNE001018)が乱雑にドアを開ける。 ガランとした道場。そこに転がるは無数のヒトであったモノと、一人の少女。 元々は真っ白な道着であったのだろうが、今は半分以上赤黒く変色している。それは、鋼鉄に変化した彼女の手足も同じであった。 少女は虚ろな瞳をリベリスタ達に向けると、一瞬逡巡するがゆっくりと重心を落し、左半身の構えを取る。左手を腰の付近で開いて構える、反撃に適した構えだ。 少女は何も語らない。語るべき言葉が無いのか、それとも言葉を忘れたのか。ただ、言えるのは彼女の瞳は虚ろではあるが、悲しそうにも見える。 まるで、助けてくれと語っているかのように。もしかしたら一目で男性だと解る人間がいれば反応がまた違ったのかも知れない。だが、此処にいるメンバーは女性か、女性的な顔立ちをしているか、はたまた性別不詳の者だけだ。 「ふう……さっさと片付けて、死体を持ち帰って研究と行こう」 微塵も憐れみの情をかけずに、淡々と遊部 甘露(BNE002250)が構えれば、彩花や煌、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が驚いて振り返る。 そんな仲間の反応にも意を介さず、甘露は続ける。 「だって、君は敵だろ? エリューション」 ●剛柔一体 「俺は神狩煌。いざ、尋常に勝負だ!」 元気の良い名乗りに続いて煌が前に踏み込むが、その横を二陣の風が通り抜ける。 ハイスピードを使用したりりすと雪がそれぞれの武器を手に一気に間合いを詰める。 「言葉で語る場面じゃなさそうだし。此処は暴力で騙るとしようか。嘘吐きらしくね」 間合いは詰めるが、けしてクロスレンジには踏み込まない。それは、こちらの武器がバスタードソードといった長物なのに対し、相手は素手。リーチの差を活かし相手に反撃させない作戦だった。 スピードと勢いを利用し、そのまま上段から振り下ろす。その一撃に対し、なんと相手は自分から前に踏み込んで来た。 「ちっ!」 正確には左半身のまま左斜め前に踏み込み、左腕一本で上段の攻撃を受け止めようとする。 「舐めるなっ!」 いくら腕が鋼鉄化しているとは言え、この勢いの一撃を片手で受け止められるわけがない。そう思いそのまま振り下ろすが、相手の行動はその先を行っていた。 斜めに開いた左腕で、その攻撃を受け流したのだ。 そのまま足を入れ替え、右足で踏み込み右の突きが腹部を襲う。その一撃を思いっきり受け、たたらを踏んだところに上段に残っていた左腕の掌底が顎を狙う。だが、その顎を狙った一撃は隣りから襲う剣閃に邪魔され、捉えきれず間合いを離す。 「勿体無い。道を踏み外さなければ健やかな武になったのに」 振るった刀を構え直し、再び対峙する。今の一撃が当たらないとなると、相手が相当な実力を持っている事が解る。 それでも雪は刀を構える。此処から後ろには行かせないとばかりに。 「術式を開始します」 他の前衛が前に出きる前に、螢衣の言葉が道場に響く。そして道場内に螢衣の真言の声が響き渡る。真言と共に両手が複雑な印を切る。すると、守りの力が全員を覆ったような感覚が起きる。 「アリガトね、ケイ!」 ジーンはそれだけ言うと、真正面からガントレットに炎を宿しそれを叩きつける。 「たのしもう、天才のたたかい、俺にみせて」 上から振り下ろすような上段への攻撃。だが、それにも彼女は反応する。右の振り下ろしに対し、拳より外側……彼女から見て左側に踏み込み、左手で拳の軌道を逸らす。あ。っと思った時にはすでに彼女の右の突きが腹部にめり込んでいた。 そんな中、甘露は冷静に相手の特性をチェックしていた。 (外見上の変化は手足の硬質化のみ。後は身体能力の向上……ならば弱点は人間の体部分) だが、それゆえに思う事もある。 (相手はフェーズ2、しかも1体だ……だが、此処まで苦戦するとは思いもしなかった。相性もあるかも知れないが、フェーズはあくまで目安。個人の技量や特性によって差が出るといったところかな) そこで、深く入りそうな思考を一時止め、乾いた笑いを浮かべる。 「はは、面白いね。君の全て見させてもらうよ」 悠月は思う。もし、彼女がフェイトを得て私たちと同胞になっていればどれだけ心強く……そして、こんな思いをしないで済んだのではないかと。 しかし、目の前の現実は無常だった。 「だからこそ……」 知らずと口から呟きが漏れる。それは誰に聞かせるのでもなく、自分自身を納得させるかのように。 「申し訳ありませんが……今以上の歪みとなる前に、あなたを討ちます」 それは覚悟であり、決意。 手に持ったマジックシンボルを掲げ、念じる。其処から生まれた魔力の弾丸は、彩花の攻撃に反撃を加えようとしていた少女を的確に捉え、撃ちつける。 その好機を逃す彩花ではない。通常の蹴りの間合いから半歩後ろ。だが、此処からでも十分に届く。通常の回し蹴りは脛を使う事が多いが、彩花は脛によるキックボクシング式の蹴り方に加え、つま先で蹴る動きも修練している。怯んだ彼女は反撃態勢が取れず、その蹴りを辛うじて両腕を十字のようにクロスさせ受け止める。だが、それは次に繋ぐ事ができない、その場凌ぎの防御だ。 「彩花、代わるぜ!」 そこで彩花と煌が入れ変わる。炎を宿した前蹴りが的確に彼女の胸を打ちつける。後ずさりながらも姿勢を整える彼女だが、ダメージは確かにあるだろう。 煌は続けざまに打撃を繰り返しながら……彼女に語りかける。 「アンタは何の為に武術を学んだんだ……人を傷つけ殺す為なのかよ!」 ぴくりと、彼女の体が動く。だが、返事はない。 「俺はアンタみたいに天才じゃねぇし不器用だけど……」 続く回し蹴りは右手で外側に払われ、体勢を崩す。だが、煌は強引に体勢を立て直し上段へ肘打ちを試みる。 「大切なモノは二度と失わないように守りたいから……強くなりたいんだ!」 煌の肘と彼女の左の突きが同時にヒットする。その後、何かを振り払うかのように彼女が膝を上げ、横向きに押し込むような蹴りで煌を蹴り飛ばし間合いを離す。それは、まるで見たくない現実から目を背けるかのように。 ●自己確立 もちろん、他も黙っているわけではない。りりすの上段の振り下ろしに合わせて、雪の真横からの一閃が走る。りりすの攻撃を受け流すが、その後の雪の一撃を防がないといけない為反撃に移れない。さらに、踏み込み距離を変えたり、ステップに緩急をつける事によって、より反撃のタイミングがずらされているのも確かだった。 「悪いけど、僕は格好よく勝とうなんて思っちゃいない。セコくヤらせてもらうよ。相応にね」 少女の顔に若干の焦りの表情が浮かぶ。それでもここまで攻撃をしっかり捌いているのは流石だが、完全には防ぎきれない。後方からの螢衣、悠月、甘露の援護射撃も効いているのだろう。鴉を弾き、魔力の弾をステップで捌くが最後のトラップネストが避けきれない。その一撃と共に、少女の足が止まる。 反応は迅速だった。ジーンの蹴り足からの風の一撃が胸元にクリーヒットしたと思えば、煌の炎を宿したローキックが彼女の左足を刈り取るかの如く打ちつける。それでも……彼女は倒れない。生来の彼女の事を考えれば、けして打たれ強いわけではないだろう。回避や反撃に特化している分、耐久力も高くは無いはずだ。 「……終わらせますわ」 痛々しい彼女の姿を見、僅かにトンファーを握る手に力が入る。 そんな想いを振り払うかのように、踏み込み右のトンファーの横殴りの一撃。それを彼女は左腕で外に押し払うように受け止め、右足で踏み込み右の掌底で顎を狙う。 「その動き……何度も見させていただきましたわ!」 相手の打撃技に対して受け流し、踏み込んで反撃を加える。恐らくはそれが彼女の流派の特色なのだろう。しかし、何度も見せられればおのずと対策もできる。踏み込みに合わせ左膝を上げれば、ガンっと鈍い音と共にお互いの体が後方に飛ぶが、彼女の方がダメージが大きい。 「もう……終わりにしましょう」 体をくの字に曲げて苦しむ彼女に螢衣の式が飛ぶ。直撃を受け、ふらりと彼女の体が揺れる。そこに悠月の作りだした魔力の弾がすでに空に浮かんでいた。 「残念です……あなたは此方側に来てはいけなかった」 若干の後悔を抑え込む決意。悠月が腕を振り下ろせば魔力の弾が彼女の体を撃ちつける。吹き飛び、一度は倒れるが、彼女はゆっくりと起き上がる。何が彼女をそこまでさせるのか。復讐なのか、それとも生きたいと言う思いか。それは誰にも解らない。ハッキリしているのは、ボロボロの体になりながらも彼女は其処に立っていた。 「敵ながら……いい気迫だ」 雪が刀を振り上げ、袈裟に振り下ろす。彼女もそれに反応し刀を受け流そうとするが、刀身に触れたとたん、刀の姿がかき消える。 「!」 幻を織り交ぜ本体を解り難くする幻影剣。りりすもこの戦闘中に使っていたが、雪がこの戦闘で使うのは初めてだった。だからこそ、少女の反応が遅れた。すれ違いざまへの横胴。ふらりと後方に体が泳ぎそうになったが、それでも彼女は持ち堪える。 「俺は……」 ふらつく彼女に、弾丸のような勢いで煌が踏み込む。 「お前を倒して乗り越えてみせる!」 炎を宿した上段の回し蹴り。彼女も反応しとっさにガードをするが。ガードした腕ごと彼女の頭を振りきる。 彼女の胴を中心に体がぐるりと一回転し、やがて道場の床に落ちる。 それ以降、彼女が起き上がる事はなかった。 ●不殺活人 かちん、と鞘と鍔がぶつかる音がする。それは雪が刀を納めた音だった。 そして深々と倒れたままの彼女に礼をし、ゆっくりと道場を後にする。黙って出て行こうとする雪に何人かが声をかけるが、雪はそれに答えずただ一言、彼女に向けて。 「もし輪廻を巡り再び合間見える時は、気兼ね無く競えればいい」 そう、言い残して出て行ってしまった。 「さて、実に興味深い対象だったね。どうやって回収したものか」 甘露が考えにふければ。 「まあ、もしかしたらどうにかなる可能性があるかも知れないしな」 と、りりすが肩をすくめる。僕は自分の無力さを思い知らされるのが嫌いでね。と呟きながら。 「9分32秒敵生体沈黙」 ジーンは宣言してから気がつく。彼女の名前すら知らなかった事に。 (……なんて名前してたのかな、あの子。ききたかったな……バイバイ) 「これで……良かったのですよね?」 「ええ……仕方なかったと思います」 螢衣の呟きに答えたのは死体の検分をしていた悠月だった。 「さようなら……せめて、あたなという人が居た事、憶えておきましょう」 そしてゆっくりと立ち上がる。リベリスタとして此処に立っている以上、止まる訳にはいかないのだから。 「わたくしたちの想い、届いていたのならいいのですけど……」 同じ武道家として、自分の気持ちは全部出したはず。でも、それは自己満足だったのではないだろうか? そんな葛藤を抱え不安だった彩花に煌は笑顔で答える。 「大丈夫だよ!」 疑いの余地など無い。そんな断言した言葉に彩花は思わず顔を上げる。それを見て煌はニッコリと笑って。 「だって、彼女。最後に笑ってたから」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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