●第二楽章 ――――悲劇(セカイ)に理由は無い。これが喜劇(マチガイ)でなくて何だと言うのか。 ●楽園失墜(フォールン・トリック) 「事件が起こった。現在進行形で状況が進行中。至急現地にとんで欲しい」 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)からの連絡はその様に始まった。 幻想纏いを通して紡がれた言葉を、疑う者は誰一人居なかった。 これまでも何度か発生した状況だ。必ずブリーフィングルームに集まれた案件ばかりではない。 何故この人選なのかと思う事はあれ、偶々連絡が付いた順と言われればそれまでだ。 そしてこういった流れで向かわされた案件で、容易な物は決して多く無い。 此度も同上だ。そうした依頼は受けると決めた時点で、覚悟をする必要がある。 即ち、状況はあくまで“最悪よりは僅かにマシ”と言う所まで追い詰められていると言う事を。 「現場に到着したら、付近に明らかに不審な屋敷がある。そこに向かって。 作戦成功条件は、屋敷内に居る凶悪なフィクサード2名の討伐」 追って資料は送付すると、それだけを伝えて連絡は途切れた。 事実として。送られて来た資料にはフィクサード2名の名称と経歴。 そして曖昧にも程が有る推定能力等の記載がされていた。 何時も通り。困難な仕事は先ず情報が十全でない所から始まる。時間的猶予も無い様だ。 厄介な事になったと――けれど、まさかそれが″全て罠である″とは誰も気付かなかった。 ――――これが、先に突入した8名の置かれた状況の全てである。 ●運命幻想鏡(アナザー・カレイド) 「――さて。哀れな仔羊達の悲劇を物語ろう」 灰色のコートを羽織った少女は声を上げる。 蝋燭で照らされた位相空間。即ち、破界器“閉鎖幻想鏡”によって造られた異世界。 その中央に少女は座す。対面に座るのは灰色髪の女。 「そうですね、必要な供物はあと10人。極上の魂でこの世界は終わる」 片や、『人形遣い』。悪名高き“その手で最も多くを殺した”魔女を象る“破界器”。 「然り。ここで終曲とするのも味気ない物ですがね。 私と君に関してはその方が心安い。私達の目的に手段は関係が無い」 片や、『千貌』。人語に昇らぬ“その手で最も多くを絶望させた”他人を象る“破界器使い”。 「奇妙な縁では有りましたけど、貴方は嫌いでは有りませんでしたよ。ラトウィッジ卿」 悪戯っぽい笑みを口元に湛え、魔女は詠う。 「その名前を持つ男は死にました。世界中に知れ渡り立派な珍獣と化した芸術家被れの童話作家は。 故に、私は君がどうしてそこまで人間に拘るのかが理解出来ない。ねえ『ピノッキオ』」 片目を閉じて、名前らしき名前を棄てた老人は少女の声で問い。 「この美しい世界は、優しくは有りませんから。努力、研鑽、妄執が報われる何て御伽噺。 人生を賭けた傑作に宿ったのは出来損ないの繰り糸の化け物。そんな物でも願い位有るのです」 灰色の女。その化身たる破界器の望みは叶わない。世界その物が変わりでもしない限りは。 無貌の男。その経歴を消し去る事など出来はしない。世界その物が終わりでもしない限りは。 「滑稽な話です。まるで戯曲、絵空事だ。自分の為に世界の方を変えようだなんて」 「あら、そうでしょうか。私達が見て来た人間は皆その様な物でしたよ?」 酷く人間的に、少女は嗤い、酷く人形的に、女は笑った。 「自分だけの。ただ自分の後悔の。ただ自分の羨望の。ただ自分の我侭の為だけに」 ――ただそれだけの為に、世界を今も終わらせ続けているのが、人間でしょう? そう言って口元を歪める両者はどこまでも、どこまでも、紛う事無きフィクサードであり。 そして現行世界の秩序を守る、総てのリベリスタ達の『敵』に過ぎない。 「万華鏡は?」 「勿論、ここに」 部屋の中央に据えられた水鏡。そこに映し出されるのは、未来。 10人の。即ち、彼女ら2人と招かれた8人の。その到るとされる結末。 かつて少女が告げた言葉を、少女を象った『千貌』が、映したその力で以って繰り返す。 「今宵、私達は運命すら支配する」 屋敷の入口は位相空間と直接繋がっている。逃げ場は無い。 携えた切り札の名は「運命幻想鏡(アナザー・カレイド)」 『リンク・カレイド』真白 イヴを象り、その記憶と、その存在と、 その「天性の異能」を模倣して成る――一夜限り、鏡写しの“運命支配”。 灼熱の如く燃える赤い月夜。世界はまるで脈絡も、前置きも、始まりすら無く。 夏の夜の夢の如く――唐突に終わろうとしていた。 ●万華鏡(カレイド・システム) 「事件が起こった。現在進行形で状況が進行中。至急現地にとんで欲しい」 同じ言葉で有りながら、それは真実切羽詰った者の必死の声音で紡がれる。 その声を聞いたのはたったの2人。現場に突入可能な範囲に、偶々居た。 条件として合致する人間がそれだけしか居なかった。 いや、日本と言う国は狭い様で広い。2人も見つかっただけ奇跡とすら言えたろう。 「このままだと、8人死ぬ」 続いた言葉は、切迫を通り越していっそ笑い飛ばせる様な内容だ。 アークの任務は概ね8人1チーム。8人死ぬとはつまり全滅である。 今だかつてそんな例は1度もない。組織戦で大敗を喫した時ですら……だ。 けれど、イヴは同じ言葉を繰り返す。 「万華鏡が、8人死ぬって演算結果を出してる。現状ままだとこの未来が確定する」 過去、万華鏡その物を″ハッキング″して見せた『犯罪ナポレオン』。 それと比較すれば、個人が持つ幻想纏いの通信機能のみに不正アクセスする等然程困難ではない。 ただ、それが効果的だと断定出来るほど誰もアークを知ろう、と等しなかっただけだ。 誰も彼も、最強最悪を誇る歪夜の使徒すらが彼らを侮って敗れ去っていった。 「まだ、間に合う」 神の眼の見た未来には揺らぎがある。それでも予測演算の結果は正確だ。 現時点で“8人が死ぬ未来が見えている”のであれば、 万華鏡による演算結果を知った上で、それを覆そうとしない限り死ぬ。 「現場に到着したら、付近に明らかに不審な屋敷がある。そこに向かって。 作戦成功条件は、屋敷内に居るアークのリベリスタ、全員の生還」 言葉と共にすぐ様送られて来た資料。そしてそこに添付されていた追記。 提示されている情報の筆頭に、フィクサード組織『救世劇団』の文字が躍る。 恐らくは。主流七派がアークを「敵」と見定める以前から、 或いは天才、真白智親が”神の眼”の開発に成功し、本格的活動を始める更に前から。 彼ら方舟を「運命的天敵」と定め、調べ続けて来た「フィクサード組織」 「楽団」の協力者を、「蜘蛛の巣」の残党を、「親衛隊」の生き残りを、 アークの戦果の裏側で敗残者達を取り込み、纏め上げ勢力を拡大し続けた西の"災厄" で、あるならば――これは”真実侮りの無い敵が周到に仕掛けた”一つの解答だ。 敵は組織の幹部クラスが2人。それに、付随する護衛が……果たして、どれだけか。 伏魔殿、であるならばまだマシだと言えたろうか。 イヴの言を受け踏み入れたその先は紛れも無い魔窟。 綿密に編まれた蜘蛛の巣は、霧の都のそれと比しても決して遜色有る物ではない。 生還。たったそれだけが遠い戦場。人は、これを死地と呼ぶ。 与えられた情報のいずれもを確認し、2人は屋敷の様に見える建築物への門を潜る。 待ち構える物も並でなければ、状況は最悪を上回って余りある。 彼らに対して牙を剥いているのは他でも無い、“運命”その物だ。 “以前、皆が回収してくれた『アルラウネ』 智親が今分析中……でも、一応今から使用可能。使えるのは1度きり” 打てる手は全て打つ。その想いが込められた追記からも状況の厳しさは知れる。 『ヴァチカン』より掠め取った貴重な札(カード)を切ってでも全員で生還して欲しい。 それが例え、万華鏡の姫の本音であったとしても。 今それを選ぶのは。そして、この先の未来を勝ち取り得るのは現場のリベリスタ達だけだ。 賽は、投げられた。 ――――これが、後から突入する2名の置かれた状況。 そして、この狂気の歌劇の全てである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月24日(土)22:46 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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