●彼女の異常な愛情 「……分かるか? 分からないだろう。分かってたまるものか」 長い黒髪の小柄な少女が、目の前の八人にやぶからぼうに投げかけた言葉は全く相手側の如何なる反応をも待つようなものでは無かった。余りにも明確に姿勢が定まり過ぎている。言葉を発した時には既に結論が出ているのだから、それは会話と呼ぶよりは宣告と称した方が似合いであろう。 「意味が分からないな、実際。世の中は理不尽なものだけれど、近付きたいと思う人間程近付けないのに、離れたいと思う人間程近付くなんていうのは乙女心でなくても客観的に腹が立つ」 立て板に水を流すが如き早口は、全くもってマイペースのままに続けられていた。彼女に相対する八人のリベリスタ達は何処で口を挟んだものかタイミングさえ計りかねていた。 「詰まる所、気に入らないのだ。君達の殆ど全てが――アンダースタンド?」 分からないでか――あんまりと言えばあんまりな一言で長舌を締めくくった彼女の名は月蝕睦(つきはみ・むつみ)。有体に言えば非常に危険なフィクサードである。分類上は国内主流七派『六道』に属しているとされるが、アーク本部では彼女をそのように看做していない。その理由は……『月蝕睦の探求のテーマが黄泉ヶ辻京介を振り向かせる事』だからである。 傍迷惑な難題に身も心も捧げた自称乙女は、悪辣な試行を繰り返す危険人物だ。その対象は一般人であり、アザーバイドであり、リベリスタであり、フィクサードですらある。理由の矮小さと結末の醜悪さにバランスを求めれば、この方程式は最悪を極めている。京介と競うように『ゲイム』じみた悪事を働く彼女は、しかし中々尻尾を掴ませない問題児だった。少なくともこれまでは。 ……当然の事ながら、リベリスタ達が彼女と相対しているのは彼女が『好き放題を語り続けるだけの存在』に留まらない事を意味しているのだけは間違いが無い。 「……ったーく、これっだけ僕が色々頑張ってるのにさ。 肝心のキョースケは君達に夢中な訳だ。 女子が混ざっているのも嫌だけど、男ならいいってモンでもない。 そりゃ、僕だってね。同人誌のひとつも書いた事はあるよ。 でも、だからと言ってだな。乙女に忸怩たる想いが無いとは到底」 実に雄大に頭の痛くなる事を言う睦は、リベリスタ達の苦笑の雰囲気に何ら頓着していない。好き勝手を好きなだけ言うその様は、成る程。彼女の愛しの王子様と同じである。 「だからだな、僕は君達を殺す事にしたんだ」 世界的にもその名を轟かせる名うてのリベリスタ達を前にしての傲然たる発言は彼女の自信を示しているのだろう。表情をコロコロと変える彼女の周りには人間の残骸が転がっている。それは――アークに所属するリベリスタ達の成れの果て。 所属リベリスタの危機を察知した万華鏡は一線の戦力をその救援へと向かわせた。だが結果は芳しくなかったという事だ。 「やれやれだ」 相変わらず好き勝手を述べる睦は構えを取ったリベリスタ達に拗ねたような一言を付け足していた。 「好きの反対は嫌いじゃなくて、無関心。 嫌われるなら嫌われるでもいいんだ、僕は。 君達が貰う筈だった『最大のゲイム』をそっくりそのまま僕が頂く。 分かるか、諸君。これはマジで結構最高(オトメ・リヴェンジ)な感じだろう!?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月02日(金)22:07 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●小さな恋の物語I 恋とはドラマに満ちたものである。 恋は時に儚く、時に美しく、時に激しく、時に傍迷惑なものである。人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて何とやら。放っておくべきだ。火傷をしたくないのなら。放っておくべきなのだ。恋ははしかのようなものだから。しかしてそれは、その恋とやらの顛末が多くの迷惑にならないケースに限られる。 「――むっちゃん、ゴキゲンなとこ悪いけど、ゲイム・オーバーだ」 少女を――目の前の月蝕睦を睥睨した『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が強い語調でそう言ったのは、彼女が足を踏み外し過ぎたからに他ならない。 「何だ。僕に怒っているのか、君は」 嘲るでも無く、驚くでも無く。事実を観察するように言った睦の唇には場違いに華やかな微笑が浮かんでいる。 「『神の目』と名高い万華鏡なのだから、当然僕の持ち札はある程度推測されているものと考えられるのだが。 君が怒りを見せる程に、深い感情を抱く程に――君達自身が不利になる、それは理解しているのだよな?」 「勿論」 夏栖斗は頷いた。リベリスタ達はブリーフィングで予め月蝕睦なるフィクサードの持つアーティファクト<観想憧憬(エキセントリック・ラヴ)>の性質を知っていた。自身に向けられる感情、自身の向ける感情を増幅させる事で戦力に変換するW・P製の作品は睦なるフィクサードを特級の危険人物へと引き上げる鍵である。 「この場でクールに、無関心でいることがクレバーなことくらいはわかってる。だけどな、自分達の仲間が遊び半分で殺されてるのみて、怒らない程僕は器用じゃない。それが京介の模倣犯(フォロワー)だって言うなら、尚更だ」 嫌気が差す程に鼻につく強い鉄分の臭いは黴臭い一帯の隅々にまでこびり付いているかのようだった。使われなくなって久しい廃ホテルは如何にも廃墟といった趣で、元よりある程度の陰鬱さを感じさせるものだったが……動かない人間のパーツが幾つもデコレーションされていれば、それは陰鬱を通り過ぎて凄惨に変わっている。 滅多な事では尻尾を掴ませない睦が敢えて垂れ流した自身の情報はリベリスタを呼び寄せる為の罠めいていた。八人のエース・リベリスタがやって来るより先にアーク側の第一陣は全滅の憂き目にあっている。 「黄泉ヶ辻京介に興味津々なんだって? 大変だな」 「ふむ」と思案顔をする睦に 『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が声を掛けた。 「あいつのことを振り向かせたいならば、そこのパンツカブルにでも方法を聞くといい。 そいつがどれだけ京介からのラブコールを受けてるか知ってるだろ? その『パンツカブル』の首でも取れば、間違いなく京介の激情は君に向くと思うけどね!」 自分とは対照的な夏栖斗の様子を睦はしげしげと眺めた。「成る程!」と手を打った彼女の引き起こした数々の事件の大半が『あの黄泉ヶ辻京介へ向けられたラヴ・レター』だという事実は、全くアークのリベリスタ達にとって釈然と出来ない、許し難い暴挙である。 「あの人はやめておけば、って言われても。実りそうにないよ、って言われても…… どうにもならないのが、恋と言うもの……だよね。 『好きだから』全てがその人基準になっちゃうんだ」 「好きな相手に振り返ってもらいたいから…… んー……まぁ、対象考えたらそう間違ったやり方や無いんやろか?」 『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)に 『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)が頬を掻く。 「いいぞ、乙女達。流石に朴念仁(おとこ)共と違って、女子力が高い感じじゃないか!」 「……でも、全てを許せるかどうかとは別問題だよね。 『好きだから』と言う気持ちは、免罪符にはならない事――私達が教えてあげるから」 「……せやなぁ。この場合は対象自体を間違っとるか」 苦笑混じりのアリステア、椿に睦は唇を尖らせた。 「人を好きになること自体は悪いことじゃないけど…… それがこんな行動に出る元になるなら、許す事なんて出来ないよね」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の顔には怒りとも単純な悲しみとも違う感情が張り付いている。 (あぁ、そうか――僕はこんな見当違いの行動に人が殺されたことが、いっそ虚しいんだ) 誰も居ない無人島で二人が死ぬまで(或いは殺し合うまで)乳繰り合うというのなら賛成するが、彼等はそう謙虚ではない。 場の緊迫感にはややそぐわない間の抜けた会話の一方で、互いに油断無く『その時』を探り合う。状況は鉄火場におけるコン・ゲームめいている。 「恋をするなとは言わないが、それに他人を巻き込んでんじゃねーよ!」 夏栖斗と同じように分かり易く暴虐への憤りを隠せない『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)、『目の前の惨劇』でもない限りは感情が動き難くなっていると自覚する椿の一方で、 「……焦らないで。自分を見失ってはいけませんよう。 感情を意思に変えて、目的とする――それが『本当に許さない』という事になりますから」 今の全ての感情は「厄介な女にそのままぶつけるべきものではない」と諭す『カインド・オブ・マジック』鳳 黎子(BNE003921)が居る。 「まったく粘着質で面倒な。油汚れより性質が悪い」 断罪と言うよりは唾棄するように言う『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)も居る。 「まぁ、年末の大掃除。一年の汚れを落とすのも、自称乙女の妄念を落とすのも大差ないか。 溜まり積もったゴミの山、ゴミ屋敷並みの脳タリン――所詮は何番煎じかには観られる価値も無いだろうがな」 「紋切り型の罵倒をありがとう。奇遇だな、僕も君達に価値は感じないからお互い様だ」 敵を軽んじるその言葉とは裏腹に油断無く鋭敏な感覚を張り巡らせ、周囲の状況に捨て目を配るユーヌと、余裕綽々ながらその自信に実力という根拠を持ち合わせる睦。痛烈な応酬は徐々に煮詰まっていく。 リベリスタ達は戦いの準備と呼吸を整え、睦の周囲を舞う戦闘ビットはそんな彼等を油断無く迎撃する構えを見せる。 永遠に交わる事が無い平行線同士は、言葉より雄弁に主張を語る手段を有していた。 「では、覚悟して貰う事にしよう」 ――こちらの台詞だ、とリベリスタ達は言わずに床を蹴る。 ●小さな恋の物語II かくて始まったアークと睦の対決は頭数だけを見るならば八対一だ。 しかして当然ながら状況は素直な多勢に無勢を許す程に甘くは無い。睦自身はW・P謹製のアーティファクトで強化されており、彼女の操る自律型戦闘アーティファクトは十二に及ぶ。一線の戦力を集めたアークとはいえ、純戦力で勝っているかどうかは微妙な情勢であった。 「さて、年の瀬の害虫駆除だな」 「まずは――僕が行く!」 場で最速の反応を見せたユーヌがその動きを意図的に遅らせる。 彼女に代わり、戦場に先鞭をつけ、戦場の鏑矢となったのは悠里である。 戦意と気力を充実させた彼は予め与えられたアリステアの翼を武器に真っ直ぐに敵へと間合いを詰めた。 「邪魔はさせない」 悠里の、リベリスタ達の目標はあくまで月蝕睦である。 意志を持たず、それ自体に善悪等無い道具(ビット)は唯の障害物に過ぎない。 鋭く繰り出された白銀の篭手に冷えた悠里の心を写したかのような氷の蔦が纏わりついた。床と言わず、壁と言わず、天井と言わず――這い出した凍気の触手は精密な精度でビットの数体を氷中の牢獄へと縫い止めた。 「……気をつけて、あいつ等性能が色々だッ!」 だが、捉えた悉くの動きを封印しきれなかった事実は彼に幾つかの情報を与えていた。事実の把握は良しではあるが、結果の方はそうとばかりは言えない。彼の得手――氷鎖の拳が敵を縛り切れなかったのは、敵側に一定の備えがある事を意味している。 (流石に、纏めて縛って睦に向かえる程は甘くないか) 然り。悠里の技量は簡単に敵を逃さないが、護衛ビットの過半数は纏わる氷気を弾き飛ばし、リベリスタ側へと敵意の光を向けていた。 「やはり、戦闘力は相応か」 然したる感慨も無く悠里の先制攻撃を賞賛した睦を、 「言った通り――『それなり』じゃ済まさせ無いよ!」 悠里の一撃をブラインドに回り込んだ夏栖斗が強襲せんとする。 彼の動きは素早かったが、健在のビットが直前で彼の動きを寸断する。 邪魔は想定していた夏栖斗の武技は止まらない。繰り出された零式羅刹が、瞬きの間にも無数の技を迸らせ、連続する徒手空拳をマシンガンのように目の前の障害へと叩き込んだ。 硬質の音が鋭く鳴り、ビットの破片が宙を舞う。浮遊するそれを挟んで、夏栖斗と睦の目があった。 リベリスタ側が少数なら、邪魔な護衛ビットを何とかするのが重要なのは明らかだった。睦は『敵側がどんな状況を困難とするか』を読むにも優れている。攻撃能力に比して防御能力とスピードを重視した護衛ビット達は簡単に抜け難い壁としての機能を期待されているのは確実か。 「うんうん。確かに一人パンツマイスター君が言う通りだ。 キョースケが夢中なのは君だっけ、パンツカブル君」 不必要な位に下着認識が乱舞した睦の言葉は、竜一から夏栖斗に向いていた。竜一の先の言葉は睦の注意を防御的に優れる夏栖斗に引き付ける為の策の一だ。残るビットは彼女への積極攻勢を邪魔するようにリベリスタ達のブロックへと動き出した。まずは敵側を受け止める姿勢を見せた睦が『夏栖斗狩り』に頼む第一はまず己という事か。 「信頼って美しい! 友情ってすばらしい!」 「言いたい事は山程あるけどね!」 白々しい竜一に夏栖斗が声を上げる。 「僕は君達に興味は無いが、君達が『どんな戦跡の持ち主なのか』は熟知している」 「……ッ!?」 睦の放った魔性の一撃が、夏栖斗の上半身を仰け反らせる。 「――そして、それは君達が『連携』を軸に戦うという事実も然りという事だ」 睦の片眼鏡がキラリと光れば、背負ったマジックハンドが彼女の体を器用に高く持ち上げた。戦場を見下ろした彼女が見定めたのはルーラータイムで制圧した敵の尖兵に非ず、その存在自体がパーティの生命線になるアリステアであった。 「――ちょっと――」 アリステアの抗議の声にも構わず、少女の周囲に気糸の檻(トリック・バインド)が展開された。刹那の後に彼女をきつく縛り上げた罠籠は、パーティ側にとっては痛打――になるかと思われたのだが。 「――本当に興味が無いみたいだね……ッ!」 「おや」 柳眉を少し吊り上げたアリステアは自身を絡め取る敵が罠をいとも簡単に突破した。 「私は、それじゃ止まらないよ」 敵の妨害に絶対的な強さを発揮する彼女を食い止めるには倒す以外の手段が無い。睦は数に劣る敵の前衛を己が手中に落とし、敵の回復役を食い止めるという『定石』を踏んだだけで、リベリスタに合わせた戦術を組んだ訳では無いという事だろう。 「これ以上、好きにはさせないから――!」 護衛ビット達が次々とリベリスタ側への攻撃を仕掛けてくる。 アリステアの放った聖神の救済が即座に夏栖斗を睦の魔手から救い出す。 一方のリベリスタ達も睦陣営に向けて更なる猛攻を繰り出し始めていた。 「こんだけ強いだったら……京介に戦いでも挑みゃよかっただろ!」 福々しいその顔に何時に無く強い感情を張り付けるフツの朱槍が間合いに陰陽の大印を描き斬る。 彼の呪力に応じた偽法・占事略决が壮絶な程の存在感の頭をもたげた。 (オレは怒っている。怒っているが、オレよりもっと熱く怒り、深く悲しんでいる仲間がここにはいる。 だからオレは研ぎ澄ます。怒りよりも、悲しみよりも、殺意を――) ならば。 「――喰らえ、深緋!」 放たれた呪式が叫び声と共に敵陣を食む。 成る程、彼の放った大技は完璧なコンピュータさえも狂わせるグレムリンの如しである。 「……だが、まだや……!」 しかし、椿の視線は鋭く睦を見据えていた。 彼女は護衛ビットの一を自身の庇い役に残していた。『戦闘力に比して異常に頑健なビット』は簡単に倒れるものではない。致命的失敗(ファンブル)を占うフツの呪いも、睦への防御だけは止められない。 「……流石に、面倒な相手やな!」 早晩敵味方入り乱れ、乱戦めいたこの場で大技(やまたのおろち)は放てない。 断罪の魔弾をRetribution(いんがおうほう)より撃ち出した椿の一撃がビットを強かに叩く。 (あっちの性格からして……こりゃ、考えておかんとあかんな) 同時にアリステアの姿を横目で確認した彼女はいざという時の彼女への守りの算段もその脳裏に置いていた。 「兎に角、俺は俺の仕事をするまでだ――」 猛烈な威力はデュランダルの十八番。暴君の一撃が竜一を阻んだビットを今度こそ破壊した。 一目瞭然に敵は手強い。状況は混沌としていて、一筋縄で行く道理は無い。 (考えるのです。目的を果たす為、完全無欠の鳳黎子はこんな時どうするか――) カジノロワイヤルで己が運命を増幅した黎子の唇に不敵な笑みが浮かんでいた。 華やかなるウィンクを一つ投げた彼女はまるで戦慄を従えて戦場を舞う蝶のようだ。 「見返りを求めるようでは、まだまだ少女の青い恋ですねえ。 大人がする恋というのは、暗く深く分かり難いものなのです――」 蜂の一刺し(クリティカル)は実に痛烈。 「――ええ、とっても!」 実際に自分はどうなのか――分からないからこそ、黎子の一撃にはこの上ない実感が込められていた。 感情表現の下手な妹も、人付き合いが出来ない自分も、不機嫌面の青年も、この世に転がる『どうって事の無いドラマ』は何時だって他人事にしたい位の波乱に満ちている。 「ですから、おままごとはここで御終いにして貰いましょう!」 ●小さな恋の物語III 「有り触れた狂人は、演目(でおち)が過ぎたならとっとと退場すればいいものを」 ユーヌの作り出した影人が睦の放った精神波に脆くも崩れ去る。 しかし、負けじと対抗した彼女の紡いだ大呪封の触手が彼女とビット達に襲い掛かる。 悠里の氷の呪縛をスピードで振り切り、復帰するそれ等を潰すにはこの手段は冴えていた。 だが、睦はあくまで厄介な敵である。彼女のビット達は追い込まれるなり、周囲の敵目掛けて自爆の連鎖に打って出た。それ等を破壊せねば睦には到達しないが、リベリスタ側を纏めて爆破範囲に巻き込むこの攻撃の威力は彼等を中々に苦しめた。 自爆で敵の数は減っているが、リベリスタ側の余力もそれは同じくである。 「今まで捕捉されなかった君があえて、杜撰なやり方をしてくるって、いよいよ後がない感じ?」 「どうも、彼は君達にプロポーズでもしそうな勢いのようだからね」 減らない軽口を叩き合い、夏栖斗と睦が攻防を繰り広げる。 「京介の真似をしてアイツの興味が引けると本気で思ってるの?」 冷たくせせら笑う悠里は、自分の今の顔を鏡で見ないで済む事を感謝した。 そんな顔を見せたくない誰かがここに居ない事を感謝した。 「――それじゃあアイツの気なんて引けない。あの、黄泉ヶ辻糾未みたいにね!」 『不出来(まとも)』な妹に言及した悠里に睦の機嫌が少しだけ悪くなった。 悠里は「アイツが好きなのは正義の味方だ」と内心で自嘲気味に付け足している。 「おや? 顔色が変わったな? 浅薄に痛い所でも突かれたか?」 「一生に一度の恋を邪魔されて、大人しくしている乙女は居ないよ」 ユーヌはすかさず煽り、睦は舌を打つ。 睦の感情の揺らぎは黄泉ヶ辻京介と誰より濃密に関わってきたアークへの深い嫉妬。 「だが、ラブ・ストーリーはこれからだ!」 「――お生憎様やな!」 「ありがとう!」 椿がアリステアへの攻撃を食い止め、そのアリステアが尽力をもってこれに対抗するが――リベリスタ側の消耗は否めない。 「だが――進んではいるだろ」 竜一の刃が幾度目か敵の陣形を崩した。 「当然だぜ」 フツは如何な試練にも怯んでいる暇は無い。 「想定外だ」 「そうでしょう、ね……!」 爆炎の中、青い運命を燃やした黎子の視線が残ったビットと背のマジックハンドで距離を取った睦を睨む。 アークは何時でも想定外の塊だった。詭計のモリアーティさえ、読み切れなかったのだ。睦が計り切れる器かと言えばそうではなかったのだろう。 だが、彼女は――首筋を掠める危険に準じる程、潔い女では無かった。 「出直す事にしよう」 あっさりと言った彼女は残るビットをブロックに回し、リベリスタ達の追撃を避けた。 「逃げるんかい!」 呆れ半ば、挑発半ばに声を上げた椿に睦は「うん!」と元気良く頷いた。 月蝕睦はリベリスタ達を『殺す』心算だったが、リベリスタ達の粘り強い戦いに難しい情勢になってきた。『逸脱』した彼女は死を恐れるような性質では無い。もし死が恐ろしいならば、濃密に狂気と死を体現する京介には焦がれまいが、彼女は同時に『どんな手段を以ってしても恋を成就させたい』執念の人でもあった。 身勝手な主張を覆すだけの術がリベリスタに足りない。 彼女を押し込む所までは出来ても、勝ち切るだけの術がこの場に足りているとは言えなかった。 「私は、死ぬ時は好きな人の腕の中と決めている――ずっと前から!」 何とも傍迷惑な恋物語が終わらない。 耳を劈く爆音の中、リベリスタ達はそれを理解せずにはいられなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|