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劇団、来日

●間奏
 ――――醒めるだけが夢の役割と、認めたくはないから

●目覚めの時間
 ――――英国。とある廃教会の一室。
「さて皆様、準備は出来ましたか」
 まるで遠足の随伴教員の様な事を口にして振り返る少女。
 眼前には4人の人物が、これまた揃いの袋を手元に置いて好き勝手に座っている。
「はいはーい、脚本家さん僕は準備OKー」
「ヤー、あノ国に行クのも久シブりだネ。何だカ愉しクなっテ来たヨ」
 金色髪、性別不詳の四枚羽の『天使』と、顔半分を仮面で覆った長身の『道化師』
 見た所大道芸人の様に見えなくも無い2人が楽しげに語り合う傍ら、
 老人視線を逸らした老人と、逆に視線を向けた美丈夫が揃って嘆息を吐く。
「つーかよ。俺、関係無くね?」
「何を仰るんですか『猟犬』様。例え先じて聖櫃の皆様を上廻ったとして、
 彼の地で勝利しなくては未だ敗け越している事に変わりは無いではないですか」
 そも。そういう問題でも無い気がしなくも無いものの、
 どうにもこうにも無知故の強さ。或いは恐い物知らずが故の強情さとでも言おうか。
 栗毛の少女の勢いに押し負けて、何故か国境まで越える事になってしまった『猟犬』一匹。
「そも、わしは態々現地に行く必要はまるで無いのじゃが」
「老師様一人で置いていく何て出来ません。“観客”としての役割を果たして頂かなくては」
 『猟犬』と『老師』がもう一度、揃って呼気を吐く。

 教会の外には時代遅れのセスナ182Pが止まっている。
 『ロンドンの蜘蛛の巣』の情報網と、商業ルートを駆使して仕入れた骨董品だ。
 操縦を行うのは正規軍人であり軍用ヘリ操縦のエキスパートでもある『猟犬』。
 無論軍用ヘリの操縦と、小型飛行機の操縦を同列に並べて良い筈はない。
「事故って全滅とか勘弁しろよ……」
 例え革醒者であっても、上空3,000mから落下すれば、それはもうどうしようが死ぬだろう。
 悪辣さでは歪夜の使徒に匹敵するとさえ言われるフィクサード組織の末路がそれでは、
 その犠牲になった人間達が余りにも報われない。
「……つーかマスタードライブ位誰か持ってねえのかよ」
「神秘の手段は一切用いないで入国しなきゃ、万華鏡に補足されて、迎撃されて、お察し?」
 『天使』が掌をぱー、と開いているのを見て、思わず殴りたくなる衝動に襲われる『猟犬』
「なので、ここは主のご加護に全てを委ねる事にしましょう」
 両目を閉じてにこりと微笑む少女が、何故『女神』等と大層な名前で呼ばれているのか。
 そんな事は『猟犬』の知る所ではないが――或いは。
「墜ちても文句言うなよ」
「ハ、ハ、ハ、そレは勘弁願イたいネエ」
 この有無を言わさぬ空気を創り上げる才能を指して、指導者の資質と呼ぶのかもしれない。


「ところで脚本家さん。観客さんじゃないけれど、何で態々現地へ飛ぶの?」
「お話をするのならこちらから出向くのが彼の国の礼儀、と聞きましたので」
 ――かくて、災いは空から訪れる。

●微睡の終わり
“ごきげんよう、聖櫃の皆様。良い夜をお過ごしでしょうか”
 そのビデオレターがアーク本部に届いたのは、丁度一週間後に聖夜を控えた夜の事だった。
“私、救世劇団脚本家――オリヴィア・エリザベス・クロムウェルと申します”
 栗色の髪、閉ざされた瞳。一見した感じ海を越えれば何所に居てもおかしくはない。
 絶世とは言えない程度に程々整った風貌の少女。それが、モニターに映し出されている。
“この良き日に、皆様とお話をさせて頂きたく遠く英国より参りました次第です”
 その語り口には澱む所がなく、そして同時に全く悪びれた気配も無い。
 映像の少女は恐らく、欠片の、小指の先の疑いすらも無く――
 自らの行為が、間違った事だとは思っていないのだろう。
“皆様、お茶でも御一緒しながらお話しませんか”
 望む未来、望む結末、挫折と喪失と絶望からの成長と成功と希望を約束された夢を描く。
 架空の現実を通して全人類を救済すると言う――その、理想を果たす為ならば。
 如何様に犠牲が出ようとも、60億人を救う為に必要なコストだと割り切っている用に見える。
 それを一概に、悪とは呼べないだろう。
 けれど同時に、それを善と呼んで良い筈もない。
 望まぬ者にまで『救済』を押し付けるのであれば、彼らは紛れも無くフィクサードだ。
 或いは『救済』を望む者の方が多ければ、その所業はリベリスタ的とも映ろうが。
 少なくともそれによって、現行社会が半ば以上の確率で崩壊する事は間違い無いのだから。

「……ん」
『リンクカレイド』真白 イヴが黙って眉を寄せる。
 万華鏡の示す未来。この任務の危険度は、限り無く0に近い。
 何もしなければ誰も傷付かず、犠牲も出ず、ただ会話するだけで終わる。
 と、神の眼の演算結果は示している。場所は日本国内――関西国際空港。
 国内の神秘事件で有るならば、余程の事が無い限り万華鏡の姫はその予知を外さない。
 であれば。本当にビデオレターの少女が言う通り「お茶でも飲みながらお話がしたい」のだろう。
 そういう例は、過去主流七派との関連で幾度か存在している。
 ある一線を越えたフィクサードと言うのは、自分が対する相手を見極めたがる物なのか。
 まさか本当に、アークが対話で以って彼女ら『救世劇団』の活動を
 黙認すると思っている訳ではないだろうが……それすらも、否定出来ない部分が、有る。
「これに応対しても良いし、しなくても良い」
 食事代位は経費で出す。と、イヴが薄い封筒を差し出す。
 フィクサードらと。それも、決定的に思想が断絶しているそれら交流を深めて、
 良い事が有るとは到底思えない。奇しくも間もなくクリスマスだ。
 仲間内で縁を深めるため忘年会なども悪くは無いだろう。少なくとも、その方が益は大きそうだ。
「どうするも、皆の自由」

 今更に何をどう足掻いた所で、変えられる物などないのかもしれない。
 それでも、誰かに伝えない言葉が有るのなら。





■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年12月25日(木)23:32
 109度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 怪我しません。死にません。本当です。前夜祭をお楽しみ下さい。以下詳細。

●作戦成功条件
 24時間の任務時間を自由に過ごす。

例:24時間とか働き過ぎだわマジっべーわーと言いながら
 三高平のファーストフード店で珈琲をお変わりしまくる。(類例:ファミレスでドリンクバー)

●行き先
・三高平市内各所
 三高平内で交流を深めます。
 大抵の施設は存在しますが、勝手に観光地とか作ってはいけません。
 (遊戯施設やショッピングモール等は有るが、古代遺跡や温泉街は無い)

・関西国際空港内、和風レストラン
 人払い効果の有る神秘でレストラン1店舗丸々貸しきっています。
 店員は催眠暗示で働かされている為、余り騒ぐと神秘が露見する可能性有り。
 『救世劇団』ご一行がアークの皆の来店をお待ちしています。スルーOK。
 出されるメニューは釜飯を中心としたランチセット。

・それ以外
 墓参りなど、特別やりたい事が有る場合はどうぞ。
 過去作で生存しているリベリスタ系のNPCであれば召喚可能。
 但し物理的、神秘的に到達不可能な場所へは辿り付くことが出来ません。

●フィクサード組織『救世劇団』
・『神託(オラクル)』オリヴィア・エリザベス・クロムウェル
 初出:『<アーク傭兵隊>全葬事件』
 救世劇団、脚本家。組織の象徴的存在であり、首領でもある。
 遠い未来の歴史の節目を見通す「神託」と言う異能を持つフォーチュナ。
 約束された「世界の終わり」を回避する為、
 「全人類の主観世界の持続と精神的成長」を目的とした「救世」を目論む。

・『バッドダンサー』シャッフル・ハッピーエンド
 初出:『罪ト罰』
 救世劇団、前座。顔半分にピエロの仮面を着けた長身の男。
 複数の自動発動型破界器を操る強力なナイトクリーク。
 「英雄の存在は世界にとって害悪である」と語る英雄絶滅主義者。

・『天使』 
 初出:『<アーク傭兵隊>隠神事件』
 救世劇団、広報。4枚の光翼を生やし頭に光輪を浮かべた金髪の子供。
 少年とも少女とも知れない中世的な風貌をしている。
 自称「フェイトを持ったE・フォース」であり空から雷を落とせる。

・『老師』
 初出:『<アーク傭兵隊>全葬事件』
 救世劇団、観客。詳細不明。
 世界最高峰のクロスイージスと真っ向から打ち合える程度の防御能力を持つ。

・『極緻猟犬』ヘルムート・フォン・ヴィルヘルム
 初出:『<Verzweifelt>Sturm wind』
 フィクサード組織『親衛隊』の残党。
 現在の職業は傭兵。狙撃手ではなく“極めて命中に長けた”ただのスターサジタリー。
 普通の事を、普通を遥か通り越して上手く出来ると言う類の天才。
 『救世劇団』に雇われてセスナの運転をして来た。墜落はしなかった模様。
 空港内には居るがレストランには居ない。

・『千貌』トート
 初出:『ローレライはもう歌えない』
 救世劇団、音響監督。
 他人に化けるという神秘を所有しており、極めて高い隠蔽魔術を修める。
 化けた人間の記憶も一時的に投影するらしく、幻想殺し以外での看破は困難。
 日本側からの出迎え役。空港内には居るがレストランには居ない。

●重要な備考
 当STの運営シナリオにて日常的な物語が綴れるのは、
 恐らくこれが最後になります。どうか自由な時間を十分にご満喫下さい。
 また、相談期間は『4日』です。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ハイジーニアススターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
ハイジーニアスマグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
ギガントフレームクロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)

●救世会談
「ご機嫌麗しゅう、はじめましてだね、オリヴィエちゃん。僕は――」
「“不滅の幻想”御厨夏栖斗さん」
 隣に座った『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)に、
 『神託』が笑って応じる。筒抜け、と言うより“知られ尽くしている”のだろう。
 続いて入店した『茨の涙』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)、
 『現の月』風宮 悠月(BNE001450)、『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)。
 順繰りに見遣り、最後に入口を潜った『桐鳳凰』ツァイン・ウォーレス(BNE001520)。
 5名の姿を確認して小さく頷く。
「“異端執行者”リリ・シュヴァイヤーさん。“月堕しの魔女”風宮悠月さん。
 “境界の氷拳”設楽悠里さん。――それに“騎士の末裔”ツァイン・ウォーレスさん
 ……以前の顔合わせぶりですね、ようこそ私のお茶会へ」
 楽しげに微笑む少女の背には、薄く笑む道化師、瞳を細める老人、満面笑顔の天使。
 異様、とでも言うべき面々が立ち並ぶ。これが敵地であれば、死闘以外に道は無いが。
「面白い催しにお招き、ありがとうございます」
「……貴女の事が知りたくて、来ました」
 悠月の言葉を継ぐ様に、躊躇いがちにリリが言葉を手繰る。
 対するオリヴィアは両手を合わせ、花が綻ぶ様に声を弾ませた。
「はい、何でも聞いて下さい。私達に、貴方達を教えて下さい」
 それは何所までも毒が無く、無垢であるが故に救いも無い。
「ですが、先ずは食事を運ばせましょう」
 手を叩く少女の仕草は、まるでそれが当たり前であるかの様な自然さで――――

 ――運ばれて来た“箸”に悪戦苦闘する西洋人の姿が其処には在った。
「まさか、こんなに難しい物だった何て……」
 耳年増な少女が現実に直面したかの様に、肩を落としたオリヴィアが釜飯にフォークを立てる。
 その様に思わず困惑しながらも、先ず口火を切ったのは悠月。
「1つ、聞いても宜しいですか」
 “神秘の探求者”である悠月は、古典的な魔術師の家系である。
 元より好奇心旺盛な性質なのだろう。個人的な興味と前振りながら問いを投げる。
「貴方方は『祝福』無きエリューションに特に友好的な様ですね」
 過去、彼らがエリューションを“行使”していた例は数多い。
 その中にはまるで人間の様な自由意志を保っていた個体すら居た。
 『祝福』無き“異物”はいずれ獣に成り果てる。世界の異物は自我を保てない。
 けれど、『救世劇団』のアプローチはそれに波紋を投じようとしている様に見える。
「エリューションが壊れず在る方法。貴方達はそこに何かの結論を見ている様に思えます」
 ならば、それは如何なる物か。その問に、答えたのは道化師――『バッドダンサー』
「ソウだネ。君達『英雄』二は縁の無イ悩みダケド、この不平等ハ問題ダ」
 祝福の有無。それは運命的に決められる。善悪を問わず、得られるか否かは偶然でしかない。
 それを不平等だと、“道化師”は告げる。そして同時に、それを諦める心算も無いと。
「ケれド、時間ガ止まレバエリューション化は進マなイ」
 時間を止める。言うは易いが行うは難い。神の奇跡の域だ。けれど事も無げに彼は語る。
 主観的時間と現実時間は異なる。主観的時間を永遠に等しい程引き伸ばす“救世”が成れば、
 エリューションがこれ以上生まれる事がそもそも無い。現実時間は全く動かないのだから。

「世界の終わりってヨハネ黙示録のアレ?」
 夏栖斗が割り込む。彼にとって『劇団』の“救世”は違和感しかない。
 世界の終わり、もしそんな物が在るとして。どうしてそれに抗おうとしないのか。
 問いには、強い怪訝の色が滲む。
「はい。死者は蘇り審判者は来たる。黙示録の獣が目覚め、世界は終焉を迎える。
 されど主は選ばれし者達を救い、千年郷へと招くだろう――これらは、偽りでは有りません」
 彼女の『神託』が示した物をそのまま見せる事は出来ない。
 けれど其が端的に真実ならば。聖ヨハネもまた『神託』の異能を宿していた。と、想定出来る。
「世界の終わりから目を逸らして夢の中で“人の心だけ”を救済をした気になる。
 そんな優しい嘘なんて、茶番じゃないか。そんなクソ脚本じゃ世界は救えない」
 “救世”を真っ向から否定する夏栖斗を眺め、『神託』の焦点の無い瞳が開く。
 眼差しは何所か遠くを見ている様で、或いは、夢を見ている様と――言うべきか。
「『神託』による予知はフォーチュナが持つ『未来観測』を大きく凌駕する絶対性を持ちます。
 少なくとも……私には止められませんでした」
 語った言葉は“過ぎ去った時”を示す物。かつて、1つの国をすら巻き込んで。
 歴史の節目を切り換える為に全力で抗い――そして結局“世界”に敗れた。
「だから私は選んだのです。“現実”を切り捨て、“人の世界”を救う事を。
 優しい嘘です。茶番でしょう。けれど茶番が許される幸福を、無意味とは言わせません」
 多くを切り捨てて来た。手を血で濡らしてきた。殺して、殺し続けて来た。
 夏栖斗はけれど頭を振る。それは、違うと。
「君自身が救済の外にいる。自分すら救えない、偽物の救世主に世界は救えない」
 その瞬間。オリヴィアが浮かべや表情は喜びだと。夏栖斗には分かってしまった。

 同時に、理解する。つまりこの昂る感情は“同属嫌悪”か。
「――愛する人から託された想い。その想いに殉ずる事でしか、私は救われません」
 けれど、死だけが救済だなんて、認めたくはないから。

●『閃剣』と『誠剣』
 東京都内某所――〆芽神社。境内は片付いており、人払いも済んでいる。
 腕を組み佇む『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)の背に、音も無く木枯らしが吹いた。
「――来ないかと、心配していた。随分と色気のない恋文だったからな」
 振り返れば、拓真と対になる様に白い法服を纏った剣士が一人。
 一回りは年上だろう。その眼差しは鋭く、だが口元には笑いが滲む。
「挑戦状を断っては剣士の恥。引いては我が師の恥だ。何より」
 腰に帯びた刃は互いに二振り。言葉は不要とばかりに抜いて構える。
「弟子が師を超えようと言うんだ。袖を振る訳には行くまい?」
 『二代閃剣』常盤 総司郎。彼の経歴は拓真が知るそれとは異なる。
 矛盾した交差点、その改竄により、男は愚直なまでに剣の道を究め続けた。
 故に、その業はかつてと比較にならない。ある一線を越えた者のみが放てる静の威圧感。
「一人の男として、武人として。あなたの前に立ちたかった」
 それを、拓真は知っている。彼の愛した祖父の本気の戦いを眼にして来たのだから。
 同時に思い知る。武の頂き。その高さに挑む事の歓びを。剣士の本懐は、常に剣と共に。
「新城拓真――推して参る」
「常盤総司郎――受けて立つ」
 二刀と、二刀が、交差する。

●観測者
「老師って覇界闘士なの?」
 食事に戻ったオリヴィアと、黙ってそれに合わせる夏栖斗。
 両名の言葉が切れたのを切っ掛けとして、声を上げたのは悠里。
 視線の先には老人が器用に箸を操り釜飯を食んでいる。それを見て、ツァインが瞳を細める。
「そういや、爺さん。キプロスの狗と討ち合った時、抜いてただろ」
 老人は剣士ではなく拳士。その上相手が“キプロスの狗”の騎士隊長格となれば、
 何を抜く余地が有ろうか。いいや。しかし実際に現場を見ていた彼の眼は騙せはしない。
 ああ、そうだ。この老人は明らかに――世界最高峰のクロスイージスを相手に“手を抜いていた”
 その事実に、ある種の興奮を憶えるのは戦いに生きる人の性とでも呼ぶべきか。
「……ふむ。厳密に言えば、わしは既に“覇界闘士”とは言えぬじゃろう」
 応じる老翁は笑みを帯びた表情でゆっくりと温かい茶を啜り、続ける。
「が、闘う者であるかと問うならば然り。あくまで、結末を見守る端役に過ぎぬがの」
 その言は、ツァインの憶測を裏付ける。彼の翁は聖女の“守護者”だ。
 唯それだけの、本来ならば敵と位置付ける事すら難しい相手。けれど――
「何時か、手合わせして貰えるかな」
 思わず、悠里からそんな言葉が洩れる。それ程に、はっきりと感じる。
「――――張三豊」
 ツァイン、悠里、両者を一瞥し、名乗った老人は――
「人に挑まれるのは、さて何世紀ぶりかの」
 間違い無く、強い。この場の誰よりも。格が1桁程違っている化物だ。
 そしてもしも彼らが武力で以って『劇団』を打破する事を望むならば。
 いつかは封殺しなければならない。恐らくは――最強にして最大の、壁であると。

「えっと、その……」
 オリヴィアとの対話が一端の決裂を見て、小間。
 視線を迷わせながらも声を上げたリリに、閉じた瞳が向けられる。
 彼女は、誰よりこの場を望んでいた。望んで、やって来た。
 けれど聞きたかった事は酷く個人的な事で。リリはどうにも機を逸していた。
「どうしましたか。お口に合いませんでしたでしょうか」
 けれど僅か首を傾げる『神託』の問いに、意を決して問いかける。
「貴女が愛した方は、どんな方でしたか?」
 ……、。その時、確かに奇妙な間が空いた。瞬く栗毛の少女は、表情に迷う様に。
 嬉しそうに、寂しそうに、哀しそうに。大切な本をゆっくり捲る様に、呟いた。
「優しい人、でしたよ」
 泣き出すのでは無いかと、想った。
 囁きの様な声は、けれど確かな質量を持って響く。
「優しくて、一途で、子供の様な人でした。
 遠征で、食事をする時間すら満足に取れないのに、欠かさず手紙を送って来て」
 毀れる言葉に耳を傾ける。その度に、リリには分からなくなる。
 それは、何でも無い。共感する事などまるで難しく無い。恋の話で。
『どんなに辛くとも心は捨てない』――と。そう、彼に誓った自分と。
 痛みながら、泣きながら、足掻く自分と一体何所が違うのかが、分からない。
「……けれど、私は彼を救えなかった」
 ふつりと途切れる。瞳を伏せたオリヴィアに、それは違うと言いたかった。
 誰かを愛すると言う事は、それだけで救いなのだと。
 愛する人と共になら。例えどんな終わりが来ても、リリはそれを恨みはしない。

 けれど、そう簡単な事では無い事も、分かる。
 痛いほどに分かる。躊躇いも、後悔も、数え切れない程踏みしめて来た。
 理屈ではないのだ。心は。愛情は。本当に愛すればこそ、己自身への失望は深く。
「―――例えば、どうしたら。私は救われると思いますか」
 思わず、そう尋ねていた。私は、私達は。どうすれば救われるのだろう。
「……不器用なかたですね、貴女も」
 困った様に笑ったオリヴィアに、リリもまた、鏡映しの様に眉を寄せる。
「傷付けば良い。泣けば良い。渇けば良い。痛み苦しみ嘆き、残った物だけが本当です。
 私はあの人が愛してくれた自分らしく、我侭に世界を救うと決めました」
 それを我侭だと。したい事をしているのだと断言出来るようになるまで。
 『神託』はどれだけ後悔して来たのだろうか。
「例えば、究極的に誰も争わず平和に暮らす世界が夢の中に描けたとして」
 けれど、それは我侭に過ぎないから。ツァインはそれを認める訳にはいかない。
「その世界を受け入れない異端が出た場合、どうするんだ?」
 人間に絶対はない。オリヴィアの描く“脚本”が解れる可能性。
 それは間違いなく存在する。彼女の“救世”は夢物語だ。
 例え、縦しんば全てが上手く行ったとして。では、万が一解れた場合どうする。
 その問いに、けれど『神託』は平然と応える。まるで当然の様に。
「何も。やり直せば良いのです無限回に。全てが調和し、万人が万人を思いやれるまで。
 失敗と絶望、希望と成功。安らぎと平穏。唯の日常、その大切さを思い知るまで」

 主観時間を限り無く永遠にまで引き伸ばせば、それは可能だ。
 そして下手に1人1人調整するより大雑把で有るが故に確実でも有る。
 “万人が救われるまで繰り返す”世界。けれど、それは――――

●途上の終わり
 一合、二合、三合。
 鍔迫り合いは四合に達したか。拓真は一瞬の油断も無く、実に良く捌いた。
 剣戟は無数。切り上げ、袈裟、胴払い、小手打ち、切り落とし。
 細かい傷は枚挙に暇が無い。間隙を縫っての反撃も決め手には至らない。
 強い。息を吐く間が惜しい。圧倒的なまでの手数。人はここまで剣と化せるのか。
 閃光の如く放たれる連撃に、一撃の重さと確実さで拓真が応える。
「……はっ」
 思いがけず。笑いが毀れる。嗚呼、そうだ。それでも、置いて行かれてはいない。
 ギリギリで喰らい付いていけている。それが、嬉しい。刃が届く。ならば、もっと先へ。
 もっと、もっとこの時間を引き延ばしたい。
 その一心で、限界を超えて放った一撃が『閃剣』を捉える。血飛沫が舞い、けれど。
「その若さで、良くもここまで研いだ」
 一瞬。刹那の半分程赤で染まった視界。交差し続けた双剣が離れ――
 しまったと。思って飛び退いた頃には遅きに過ぎる。
 剣戟一閃。双条、散華、死線、剣舞の如く放たれる閃刃は無数を跳び越え無限に到る。
 かつてのそれとは精度も威力も段違いだが、ならばこそ、その刃の結界へ拓真は一歩を踏む。
 曰く――銀閃・無想天。無想閃空と呼ばれた業の到る終端。
 その“必殺”を潜り抜け、剣を振り上げ――
 ″――――「次」は、一本奪って見せろよ、拓真”

 そこで、彼の意識は途切れている。

●決裂
「「ふざけんなよ」」
 夏栖斗とツァイン。2人の声が唱和する。
 理性ではない。感情がその“救世”を拒絶する。それは人の意思を。尊厳を。
 そして矜持を、限り無く無意味にする行為に他ならない。
 得てきた勝利、敗北。受け継いで来た歴史と想い。その記憶が、頷く事を許さない。
「……やはり理解して頂く事は出来ませんか」
 小さく息を吐くオリヴィアを真っ向から見遣り、2人が揃って席を立つ。
「まあ、世界の半分なんて取引にOKしたらゲームオーバーでしょ。
 Noと言わせにきたんだろ。良く分かった、認めるよ。確かに僕達は――君の敵だ」
 背を向けた夏栖斗に、続こうとしたツァインがそう言えば、と足を止める。
「“アイルランドの領民を虐殺した”のは、アンタの指示か?」
 『護国卿』と呼ばれた人物。その最大の悪行とでも言うべき事件。
 或いは。それは彼女の言う“優しい人”と言う人物像からは掛け離れて聞こえ。
「『ヴァチカン』は、“黙示録”を覆そうとする者を許さない」
 その言葉を確かめ、暖簾を潜る。
「……君達の理想と、僕の理想は正反対だ」
 それを見遣り、けれど悠里は迷う様に言葉を紡ぐ。
 対話は決裂だ。結果は見えていたけれど。ここからは、個人的な話。
「戦うのは嫌いだし傷つくのは痛いから嫌だ。それは、どれだけ強くなっても変わらない」
 だから、彼は彼女の理想を容認出来ない。例え絶望の後に希望が約束されていても。
 弱い人間。強くなれない人間と言うのは、居る。
「だから、オリヴィアさん。賭けをしない?」

 悠里の言葉に、視界の端で『天使』が笑う。声も無く、いかにも楽しげに。
「賭け、ですか?」
 首を傾げる『神託』へ、畳み掛ける。
「そう。僕たちが負けたら、僕はどれだけ不本意でも君に下る。
 だから僕たちが勝ったら、君は僕の理想を手伝って欲しい」
 1対1の、賭け。口約束同然のそれに、瞬いたオリヴィアが両の目を閉じて沈黙する。
「……。全てが終わって、お互いが生きていたら」
 まるで、そんな可能性は無いと言う様に。けれど、少女は確かにそう答える。
 それは、2つの線が交わった瞬間だったのかもしれない。。
 けれど、その想い故に。両者は同じ祈りを抱きながら、決定的に相容れない。
 ――――――――――――――――
 ――――――――
 ―― 
 関西国際空港、第1ターミナルビル2階。
 灰色のコートを羽織った夫人と、金髪碧眼の美丈夫が向き合って酒を飲んでいる。
「それで、まさか歓光って訳でもねえんだろ?」
 そう問うた『極緻猟犬』に、対した『千貌』が意味有り気に瞳を細める。
「ええ、まあ。そうですね、例えばこのワイン」
 からんと、鳴ったワイングラス。注がれた赤い液体は、神の血と呼ばれる事もある。
「歴史とは、このワインの様な物です。醸造され、時を経る事に深みを増す。
 食は芸術と称される様に、歌劇もまた、演ずるに適切な時と言う物が有る」
 そんな話を概ね聞き流しながら、ヘルムートはビールを煽る。
 酒で酔えなくなったのは何時からだろう。理屈っぽく己の美学を語るトートを眺め、
 まるで他人事の様に『猟犬』は今の自分を俯瞰する。

「つまり、そろそろタイムリミットって事だわな」
 人の感情は生き物だ。何時までも留まってなどいられない。
 選ばなければいけないのだ。猟犬として果てるか。或いは――猟犬として、生きるのか。
「で、お前ら何だよあっち行けよ」
 彼の姿を見つければ、まるで旧知の相手を見つけた様に寄って来るバカ共が約2匹。
「よう、天才、戦争屋ってのはめんどくさいね」
「ま、これも何かの縁だ。一杯やろうぜ」
 『方舟』の人間はどうにもこうにも、これだからやり難い。
「お前らホント、バカだなぁ……」
 世界を守る為に、戦う者。世界を救う為に、戦う者。
 似た者同士の、お互い様の、合わせ鏡。だからこそ、両者は戦う以外に無いのだろう。
 かつん、と打ち合わせたグラス。窓の外には、ぱらぱらと雪がちらついていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
怪我しませんと言ったな、ありゃ嘘じゃ。

参加者の皆様、お待たせ致しました。
ノーマルシナリオ『劇団、来日』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

本当に怪我しない筈でした。何でこうなった。
とは言え、無駄を愛せるのが人間の素敵な所と言うことで、
何か1つ2つでも心に残る会談であれば何よりです。

それでは、この度は御参加ありがとうございました。
そろそろクライマックスへ向けて急降下致します。
またの機会にお逢い致しましょう。