● 「――でね。色々分析した結果、あの『聖杯』っていうのは、対革醒者武装であると同時に、大量殺戮兵器でもある。さらに、『聖杯』は願望機であるとされる。つまり、ペリーシュの望みを叶える為の機構を備えていると考えられるの」 赤毛のフォーチュナ――『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、すでに説明を始めている。 背後のモニターには、新潟の事件の戦闘記録が、ひどいノイズ交じりで再生されている。 「『聖杯』 を使用した後、現れた液体を飲み干したんだって。甘露、アムリタ、アンブロージア、救世主の血、第五元素、神秘存在としての水銀――何とでもいえるけどね。奴のお願いなんて、一つだろ。『もっとしたい放題出来るようになりたいの!』 これだよ。自分だけ好きなんだから、自分を強化したんだよ。『他者の命を根こそぎ奪って、自身の魔力に変換する』 」 それまで、比較的おとなしくしゃべっていたフォーチュナは、机をどんと叩いた。 「俺は、声を大にして言いたい。バカじゃね? と!」 四門はすぐ泣くが、口は時々ひどく悪い。 「新潟であんなことして作り上げたものが半径二キロのくそばかでかい敷地に、複雑怪奇な――お城とか、なんなの。ジャパニメーション・オマージュなの!?」 四門は城と言いたくなかったのだが、それは正しくウィルモフ・ペリーシュが自ら作り上げた、王者の為の宮殿だった。 余談ではあるが、四門の半分母国のフランスでは子供はジャパニメーション漬けで育つらしい。 ウィルモフ・ペリーシュの人格として最低最悪の部類に入るが、ジャパニメーションへの理解がいかほどのものかはまったくリサーチされていない。よって、その点に関する彼の名誉は守られるべきだが、独断と偏見に満ち溢れたフォーチュナの独壇場は続く。 「そうに決まってる。バリヤーとか貼ってるし。バカみたいにでっかい大砲とかくっついてるし。真ん中には高い塔がこれ見よがしに立ってるし! なぎ払いたいに決まってる!」 バキベキと噛み散らかされたスナック菓子のかけらが机の上に降り積もる。 「こんなものの為に、どんだけ死んだんだよ。少なくともこんなものの為に生きてきたんじゃない。あんなのを悦に入らせるための命だったんじゃない!」 フォーチュナは、慣れた手つきで口元にビニール袋を当て、何度か呼吸した。過呼吸症候群気味らしい。 「で、こっちに向かってるんだけど」 さらっとフォーチュナはそう言って、二の句が告げなくなっているリベリスタに気づいているのかいないのかモニターに新潟から静岡までの地図が出てきた。 「このお城の主砲をですね、センタービル目掛けてちゅっどーんとしたいみたいです」 四門は無表情だ。 「そんで、焼け野原になった三高平で世紀末ヒャッハーを配下にさせまくって、それを高みから眺めたい。そんなウィルモフさんを俺はとても許せないと思う」 小学生の感想文並み。 つまり、もっとも芸がなく、誰でも考えつく――普遍的な意見だ。 「だけど、僕に戦闘能力はないので、自分の出来るやり方で精一杯ウィルモフさんに対抗しようと思う――そんな気持ちで作った資料を持ってって下さい」 資料には、「このお城は、『ぼくがかんがえたさいきょうのおしろ(W.P.)』 です」 と書いてある。 「まず、結構な上空に浮いてる」 控えめに言っても、非常に攻めづらい。 「さっきも言ったけど、バリアが張ってあるから、通常兵器は徹らない。カンっ的な」 性格が悪い奴がまず考えそうなことだと、偏見に満ち溢れた意見が述べられる。 「もちろん、ペリーシュナイトと呼ばれる戦闘用自律型アーティファクトがいっぱい詰まってる」 性格の悪い、以下略。 「そりゃもう、気に入るのが出来たんじゃない? 何しろ「究極」 な訳だから。落ち度ないよね。あるわけないよ。そう思ったから、動いたわけでしょ、でしょ?」 けっへっへと、はき捨てるようにフォーチュナは嘲笑した。 嘲笑したのだ。 「やつは、俺らのことをしらな過ぎる。まさか。と思ってたけど、ほんとに知らないっぽい。正直、途中で道間違うんじゃねえかなとひそかに心配してるくらい知らない」 やっぱりあいつ、どっかおかしいんだって。と、偏見に満ち溢れた見解が述べられる。 「うちにもばかでっかい大砲があるのをまったくご存じないときた。八月は、きっと研究が佳境でそれどころじゃなかったんだろうね、きっと!」 プークスクス。と、わざわざ付け加えるフォーチュナは、本当にウィルモフ・ペリーシュが嫌いらしい。 「前撃ってから、四ヶ月弱。正直、メンテナンスとかの面からいくと万全の体制で撃てるかっていうと難しい」 神秘工学を志しているフォーチュナは、そこらへんは語りたいけど脇においとく。と言った。 「でも、一発は保証する。クソ忌々しいあれのどてっぱらに風穴ぶち開けるくらい出来るはずだ。ほつれた完璧がもろいのは、神秘界隈に詳しいみんなもご存知の通り」 フォーチュナは、新たなスナック菓子を口にくわえた。 「神と戦い損なったってご機嫌斜めなら、食らわしてやんよ。『R‐TYPE』 も押し戻した『神威』 をな」 虎の威だろうが、神の威だろうが、借りれるものは何でも借りる。 『ヴァチカン』をはじめとする世界ビッグ4、『オルクス・パラスト』、『ガンダーラ』、『梁山泊』 はもとより、『スコットランド・ヤード』をはじめとする今までアークが救援を果たした有力組織も協力を申し出てきている。 呉越同舟どころか、船を山に登らせて、空を飛んでくる城を落とすのだ。 「一撃必殺。アークのアドバンテージは、『敵を知ること』であることを、思い知らせてやる!」 ● 「――という訳で、みんなにはお空の彼方までがんばって行ってもらいたいと思います」 で、どん。 「みんなの仕事は、奴の造った迷路をぐっちゃぐちゃにすること。さもないと、後続の部隊がここでつっかえる。そこに弾幕とか目も当てられないからね。責任重大だよ」 フォーチュナは、眠り姫は知ってるかな。と、前置きした。 「城壁からお城までビッチリ広がる迷宮は茨で出来てます。もちろん茨を切りつつ強行突破も出来なくはないけど、時間掛かるし、毒はあるし、再生するし、非効率的。とはいえ、迷宮を攻略しつつ行くのも時間掛かる。となると、それを作ってる基をぶっ壊すのが一番だよね」 金色の巻き毛、きらきらした青い目、そばかすに麦藁帽子。明るく快活な印象。白いシャツにつりズボン。手にはじょうろと剪定ばさみを持っている――かかしだ。 「『園丁』 これがこの迷宮『つるばら』 のコアだ。折角壊しても、直しちゃうから。こいつの機能を停止させなければ、迷宮の増殖と再生は止まらない」 重要。と、四門は念を押した。 「園丁は迷宮の壊されたところにじょうろで水かけて再生させます。迷宮を壊しておびき出して下さい。もう一回言うけど、毒があって絡みついてくるから気をつけてね。空飛んでても、茨、伸びるから」 この迷宮自体が巨大なアーティファクトなのだ。 「動けなくなったと見ると、園丁に剪定されるから気をつけてね。口に鋏を仕込まれた、機械仕掛けのペリカン型ペリーシュナイトも飛んでる。こう、喉の膨らんだところに首ナイナイされたくなかったら、気をつけて。でも、園丁に刈られるのもお勧めしない。こう、三角錐とか、うさぎさんとかくまさんの形に。フライエンジェなら天使とかに刈られるかも」 つまりは、地雷原を迅速に潰しつつ、地雷を埋めてる奴をやっつけて、それ以上機能させないようにしろってことか。しかも、時間制限付き。 「首刈りペリカンの駆除もつくよ。ウィルモフのお庭を焼け野原にしてきてよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月22日(月)22:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● フランス式庭園は、平坦で広大な敷地に左右対称かつ幾何学的配置の植栽が特徴である。 美しいつるばらで形成されて先が見えない3メートルの生垣を俯瞰すれば、きっと左右対称の美しい迷宮なのだろう。 そうするには、殺人鬼ペリカン型アーティファクトと空中戦を繰り広げる必要があるが。 「天空の城に美しい庭園。蔓バラで出来た迷宮をくぐってお城まで……ってまるで童話のお姫様の気分ですわね」 氷の城のお姫様といったら、さもありなん。 ナターリャ・ヴェジェルニコフ(BNE003972)の嘆息。 「出来ればロマンチックなデートかモデルの撮影で来たかったですわ」 わがまま娘から出る分には、最高の賛辞である。 「飛行高度は皆様ベテランですから気をつけて下さりますわね」 仮初の翼が仲間全員に付与される。 「ったく、草刈りなんて退職後の仕事だと思ってたがね」 道を開くだけの簡単なお仕事、ってな。と、続ける『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)は、15年ぶりの現場復帰であるが、昨今の崩界現象阻止のための、ニッチなお仕事の存在もご存知である。 「――」 そんなニッチなお仕事で鍛え抜かれた『全ての試練を乗り越えし者』内薙・智夫(BNE001581)が無言で目をそらした。 「Q.生きてる迷宮はお好きですか。 A.出来れば帰りたいです、ううう」 涙目だ。いつものことなので、まったく気にする必要はない。 「首を刎ねられるのは嫌だあああ!」 取り乱して見せるのも、仕様だ。 「敵は確実に強い、さらに時間との勝負。気を引き締めていきましょうっ」 離宮院 三郎太(BNE003381)は、きりりと表情を引き締めた。 柔らかな印象だが、沈着冷静だ。 智夫のコミカルな動きが止まった。 「――たとえ死の危険があっても、道を切り開く事がミラクルナイチンゲールの努めです!」 唐突なきゃるるん状態にひきつけを起こさなかった三郎太はほめられていい。 「最優先は成功条件を満たす事で……そこまで仲間が倒れない事を優先にして行動します」 ね? と唇をすぼめ小首をかしげる智夫。 反射的に智夫の頭部を殴打しなかった三郎太はほめられていい。 「案山子が世話をする薔薇の園なら牧歌的にも感じられるのですがね。人を害する茨の迷宮とは……いや、ある意味、悪い魔法使いらしいですか」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が、遥平の脇に立つ。 アラストールの仕事は、最前線で雷の竜を御する遥平をかばいきることだ。 悪い魔法使い――塔の上で高みの見物をしているのは、この世で一番その言葉が似合う男だ。 「この迷宮を撃破することで、ペリーシュ撃破の仕込みが完了するわけです。わたしたちが勝たないとペリーシュを弱らせる事は出来ない以上……」 『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)二してみれば、これは世界最大級の『悪名』を狩るための布石だ。 「勝利しましょう! そしてここの超うっとうしいつるばらを刈り取りましょう」 その上で、悪名持ちを狩りましょう。 「日本の神秘戦士、その探し出す力をとくと御覧じろ」 背中の悪一文字を翻しながら、にこっと笑った。 ● 「前に出すぎたりはしないけどね!」 『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)葉、それは楽しそうに歯をむき出して笑った。 そんな表情に永遠の少年を見てしまうと、人生棒に振りかねない。 「やることは決まってる――ひさびさに脳筋デュランダルとして振舞おう!」 破壊神の寵愛を一身に浴びながら、両手の二刀がギラリと光る。 「さて派手に喧嘩を売りに行こうか?」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は、穏やかに微笑む。 (殺人鬼・死霊術師・ナチス・魔神王・モリアーティ・異世界の神。で、次のバロックナイツは何だ……それこそ新世界の神とでもぬかすつもりか?) 冷静な嗜虐者は、45口径の大型拳銃を握り締め、蒼い処女神に情けを乞う。 「馬鹿馬鹿しいことこの上ないな。城に神威が通じている以上、まだ奴は馬鹿高い魔力を持っているだけの人間だ」 神秘のベールは、不可侵を以って貴しと為す。 そのベールに手がかけられる時点で、文字通り「同じ土俵の上に立った」状態なのだ。 「なら徹底的に冷静さを失うまで駆り立ててやればいい。まずは敵のテリトリーを引っ掻き回す所から始めるとしよう」 櫻霞は、人を責めさいなむことに長けている。 高慢極まりない男の弱みは、その高慢さなのだ。 高慢は、何ゆえ罪か。 そこに弱さが発する端緒となりうるからである。 「徹底して荒らしてやる。スターサジタリーの弾幕を舐めるなよ」 ● そして、蹂躙が始まる。 「微力ながら、我が身のなせる最善を尽くそう」 アラストールは宣言した。 これが最終戦争であると。 武勲を挙げよ、敵をすりつぶせ。 全てを封滅し、地上への援軍を阻止せよ。 自らは、魔術師に沿うてその雷を浴びながら、それにあだ名すものを防ぎきる覚悟。 アラストールの覚悟に共鳴した英霊が、その柔肌を守る鎧と化す。 「うりゃー。道なき道をいざすすみましょう~」 麗香の業炎をまとった刀が、自分の周囲に竜巻を起こし、つるばらの小路を見るも無残な状態にする。 できた穴をくぐり、新たな破壊にいそしむ。 そこに迷宮があったとして、素直に踏破するのが目的ではない。 というか、相談時点で誰も迷路を攻略しようなんてちらとも考えていなかった。 つるばらは、切り刻まれ、焼き払われ、無残に踏み潰されるべき存在なのだ。 遥平は、先に詫びを入れた。 「すまないなエース共! ちょっと痛いが耐えてくれよ!」 「え、覚悟の行動!?」 竜一は自分の生存フラグの樹立に決死だ。 破壊神の加護が、対味方で役立つとは思わなかった。 いや、あるいは、そんなことを気にしないで戦闘に没頭することを神は望んでおられるのかもしれない。 「今は警察官じゃないんでね。盲撃ちさせてもらうぜ!」 遥平の放つ雷は竜体を為し、地のつるばら、空の怪鳥を巻き込んで暴れ狂う。 鋼の羽根が不協和音を立てるのに、リベリスタは奥歯が落ち着かなくて仕方がない。 敵味方の見境なく暴れまわるそれの間合いに入れば、容赦なく苛まれることになる。 それから逃れるためにも、それなりに自分の避難領域は確保しないと危ない。 注意深い竜一は、後ろを振り返って、後衛に陣取る回復陣の位置を確認したのち、敵に対して暴君と化す。 脳筋に徹しきることができないからこそ、竜一は生き残っている。 生き残ったデュランダルがよいデュランダルだ。 「シモンがげきおこだからね」 友情に篤い竜一は戦闘能力のなさに涙するフォーチュナの気持ちを汲んでいた。 「代わりに俺がシモンの怒りをぶつけてきてやろう」 ぶっとぶつるばら。切り飛ばされるつるばら。 塔の上からなら、整然とした幾何学的美がフラクタル的に残骸と化す過程を眺めることができただろう。 「これがシモンの分! これもシモンの分!」 高らかに、名前を連呼しながら進軍していく竜一。 「任せろ! お前の怒りは、俺が表現してきてやる!」 小館・シモン・四門にとっての幸いは、二つある。 竜一という友情に篤い友を得られたこと。 この天空の城にいるのが、ペリーシュナイト――人ならぬアーティファクト――のみであり、四門の庭荒らし煽動と断罪する崇拝者がいなかった点にある。 ペリーシュ本人はそんなことは歯牙にもかけまい。 庭を荒らす雀の名前など、まさしくどうでもいいことなのだから。 「行動不能にならない以上、ちょっとやそっとの攻撃ではボクは止まりません」 ふんわりした金髪、柔和な顔立ちにはわずか場から意そばかすが地理、丸眼鏡が鼻先にちょこんと乗っている。 三郎太は、その優しげな風貌に似合わぬ笑みを浮かべた。 すでに、脳内活性化刺激シークエンスは完了。 その異常興奮させた精神波を物理変換させ、エリューション存在の根幹を支配せんと尖った精神の手爪でかきむしる。 ぎょぱええええええええええっ!! くちばしの下の袋をバグパイプのように振動させながら、金属製のペリカンが悲鳴を上げ、空中をのた打ち回る。 見開かれたガラス玉のはまった眼窩から、どす黒いオイルがこぼれ出た。 「ペリカンめ。反対にその首たたっ切ってやる!」 非常に好戦的な麗香の刀から炎交じりの風が放たれる。 袋から喉笛をかっ切られたペリカンは、ぷひーぷひーと間抜けな音を出すより他はない。 敵味方入り乱れての乱戦の中、リベリスタは決して無傷ではいられなかった。 三メートルの高い壁はそれ自体がリベリスタを傷つけ、リベリスタの動きを制限し、それゆえ互いの攻撃を完全に回避することはできなかった。 ナターリャの詠唱に智夫の詠唱が重なり、時には三郎太との三重唱さえも必要にした。 しかも、視界が通らなければ魔法はかからない。 神秘の第一原則が、立ちふさがる。 迷宮は、直進しないから迷宮なのだ。 先は見通しきれず、癒しの御技も通らない。 そのたびに智夫が前線に走り、前線の強度を維持した。 蹂躙、伐採。 蜂の巣どころか、子供が通って遊べるくらいの大穴が開いている。 「徹底して荒らしてやる。スターサジタリーの弾幕を舐めるなよ」 茨による傷で体を朱に染めた櫻霞の連射で、つるばらはすっかり透けて見えるようになっていた。 何かが動いた。 あちこちで炸裂する戦闘音の中にまぎれて、規則的な作動音が聞こえる。 バシャバシャとブラインドを揉みしだくような金属音を立てながら頭上を行きかうペリカンの群れ。 引きちぎられかけた蔓を伸ばして、リベリスタにからみつかんと生きている壁が動く。 開いた穴から必死に仲間を探してその傷を癒す。 「みんな、どんどん前に出ていきますね」 前衛を回復範囲内に収め、なおかつ後衛のナターリャをかばえる距離。 巨大な攻撃域を保ちつつ、移動する暴君と竜使いは間合いぎりぎりのハリネズミのジレンマだ。 近づいて癒したいが、近寄りすぎては傷つけられる。けれど、見えなければ癒せないのだ。 「ゆるーく生きていくつもりですのにこんなに神経を尖らせないといけないなんて」 最後尾で目を皿のようにして傷ついた仲間を探しているナターリャは、ごきげんななめだ。 「――人生これで最後にしてほしいですわね」 「ほんとですね」 ミラクルナイチンゲールは、いつだって、これが最後の戦いになることを祈っている。 それでも、リベリスタは蹂躙をやめない。 おびき寄せ、叩き潰さなくては早晩この庭園はよみがえり、後続に禍根を残すことになるのだから。 ● びょうん、びょうん。 特徴的な駆動音。 「びびんときたぞ」 あらゆるフラグを感知する竜一の血走った目が、真打登場フラグをかぎつける。 時間と周囲を敵に囲まれ、味方の強烈な攻撃に巻き込まれて吹き飛ぶのが先か、つるばらに八つ裂きにされるのが先かの緊張感が、文字通り竜一を死に物狂いにさせた。 「警戒するなら損傷度が高い所でしょうか」 アラストールの白い頬も、自らの血とすすで汚れている。 びょうん、びょうん。 音はどんどん近くなる。 「くるぞ!」 それは、一本足のばね仕掛け。 戯れの十字に架けられた哀れなでくの坊。 大きく裂けた口はわらに見立てた黄金糸がはみ出ないようにジグザグに縫われ、ボタンの目は黒水晶。 麦藁帽子は黄銅で、擦り切れたように見えるシャツもズボンも絹なのだ。 粗末な見た目に反して、恐ろしく上等な材料を悪趣味に浪費して作られた「園丁」 指なし手袋のような手にはじょうろと巨大な鋤。 待ちに待っていた庭園の核の到来にリベリスタの意識がそちらに向く。 首の後ろに冷たいものを感じたナターリャはとっさに首を引っ込めた。 瞬間息が詰まった。 自分の体が宙を舞い、どこかに跳ね飛ばされたのがわかった。 首の後ろが冷たい。背中がぐっしょりぬれている。まだ繋がっていることに心の底から安堵を感じる。 「私、生首コレクションになるつもりはありませんもの!」 リベリスタがへまをしたら、首を持って帰ろう。 ペリカンが集まり始める。 おこぼれの死肉に群がるコンドルのように。 気まぐれに落ちてくる干からびた首。 「皆様! 頭上にもご注意なさいませ!」 戦闘指揮に長けた少女の声に浮き足立ったリベリスタは落ち着きを取り戻す。 「ありがとうございます! 声も聞こえりゃ超直観で上空警戒を怠ってはおらんのです!」 麗香がすごくいい笑顔でナターリャに告げる。 「――少しはお役に立てるかしら」 小さく咳払いして、少女は新たな詠唱に入った。 ● 麗香は、これでもかこれでもかとつるばらを滅多打ちにする。 再生不能にすればするほどそこに手をかけずにはいられない園丁の思考ルーティンはすでにフォーチュナによって看過済みだ。 狙い通り、執拗に叩き潰されたつるばらの修復にはせ参じる園丁に集中する麗香の口元に笑みさえ浮かぶ。 動きは、園丁のほうが早かった。 振り下ろされる鋤が麗香の肩から二の腕の肉を羽織ごと刺し貫く。 足元が揺らいでいれば、そのまま地面に縫いとめられていたであろう衝撃。 だが、麗香は踏みとどまった。 「逃がしはしません!」 悪名狩りの二つ名に恥じぬ貪欲さ。 ささったままの鋤ごと園丁を抱え込み、カウンター気味に刃で刺し貫く。 「ライジング斬! 見的必殺じゃあ~~!!」 仮初だろうが、偽りだろうが、自ら動くものよ。 麗香の刀が、生死を問うぞ! 園丁の腹からわさわさと黄金のわらが零れ落ちた。 「盾役の仕事は不倒の守りである事、守らぬ盾には意味がない」 アラストールは、どてっぱらに大穴を明けられてなお眼前を跳ね回る園丁に、視線を集中させる。 「ただ、攻撃が最大の防御である場合もある」 それまで、アラストールは遥平の守りを固めていた。 そのため、敵中にいて遥平の傷は最前線に立つ魔術師としては恐ろしく健やかなな状態だ。 しかし、アラストールが攻撃に転じればその限りではない。 いまだうごめくつるばらは遥平に容赦なく襲い掛かり、見方のとばっちりも十分予測できる。 「時間までに草刈りを終わらせないと、シルバー人材センターから次の仕事をもらえなくなっちまうからな!」 その物言いに、アラストールはうなずき、白光ほとばしらせる武器を掲げて園丁に突貫していく。 「照覧あれ! これがわが身の為せる最善だ!」 切っ先は、ばねの心棒を捕らえ、その平衡を失わせた。 「弱っている相手から潰すのは戦闘の定石だ、悪く思うな」 回復陣から遠く離れても、つるばらの循環液をすすって自らを保ってきた櫻霞のライフリングで物理を凌駕した特大の実弾が練り上げられる。 豪放一発。 園丁のふざけたニヤニヤ笑いを吹き飛ばした一撃だった。 ● 度重なる詠唱に喉は枯れ、舌はもつれ、捧げる魔力も底が見える。 粘つく喉を舌で湿そうとしても、引っかかって立て続けに咳が出た。 「――回復メインの私が倒れてはいけませんわ」 そばにいてくれた智夫は、園丁をほふった後、回復の術を失ったつるばらを文字通り根こそぎにするため散開した前衛の回復に走っている 「――回復を途切れさせるわけにはいきませんっ」 三郎太が飛行ぎりぎりの高さを確保して、その場にいる味方全員の魔力を賦活する。 再び体内をめぐりだす泉の気配にナターリャは、地面を踏みしめなおす。 この足の下に、三高平がある。 手足を犠牲にして急所をかばい、この正念場をしのぐ。 「皆様と共に無事三高平へ帰れるようにがんばりますわ」 それを果たすために、ここにいるのだ。 ● 「皆が楽しめないユメのお城なんて、存在してはいけないのです」 庭というより、焼け野原。 ぎりぎりまで粘ったが、ごくわずかな一角が崩しきれずに残ってしまった。 やけに見通しがよくなった元迷宮に立ち、三郎太は言う。 「間に合ったか。老後の再就職も安泰だな」 防御を捨てての全力攻撃のためたっているのもつらいが、ヘビースモーカーの意地で深々と肺に煙を吸い込む。 三高平のとある秘密結社は、83歳の老人を最前線に送り続ける実績がある。 とりあえず勤労意欲がある限り、平均寿命あたりまで年齢を理由にして職にあぶれることはない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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