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<太陽を墜とす者達>神の狗と虚神の像

●一節
 羽虫を潰すのは容易い
 だが羽虫を消す方がより容易い

 何せ、手加減という無駄が省けるのだから
 
                     ――――『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュ

●虚言の王は天に挑み
「『ヴァチカン』より推挙を得て参りました。
 『キプロス騎士団』第三騎士隊、東方の勇者殿と共に戦える事を光栄に思います」
 澄んだ声音は、まるで冗談の様に軽やかに響く。
 周囲で剣を構えるのは時代外れも甚だしい全身甲冑の騎士。
 利き手には剣を。そして逆手には十字を象った盾を携える。
 聖堂騎士団が筆頭――異端審判の地上代行者。ヴァチカン主流派の携える神罰の剣。
 即ち――『キプロス騎士団』の正装はかつての“十字軍“の装いを模す。
 しかしてその先頭に立つ青年はと言えば、好青年然としたふわふわの金髪と良い。
 鎧の類を胸元にしか纏っていない事と良い、一見場違いにも程が有る。
 手にしているのは細く長い白銀の剣と、黄金の盾。
 『キプロス騎士団』のNo4――『聖鉄』アルフォンソ・ボージアは、
 他の面々と比しても明らかな異質を帯びて三高平センタービルのホールに佇んでいた。
 それを確認し、『リンク・カレイド』真白 イヴが歓迎の言葉らしき物を返礼する。

「ようこそ、三高平へ。歓迎の会でも開きたい所だけど今は時間が惜しい。
 言うまでも無い事だと思うけど、私達は『黒い太陽』を墜とさないといけない」
場所は、何時ものブリーフィングルームに移り変わる。
 付いて来たのは任務に参加するアークの面々と、それにアルフォンソ唯一人。
 モニターに表示されているのは今作戦の攻略対象である「城砦」――その威容である。
「まず、推測が入り混じるけど現在の状況を説明するよ」
 続いて、テーブルの上に並べられた資料。
 その1つを手にとると、それを待っていた様にイヴが口火を切る。
「ウィルモフ・ペリーシュの『聖杯』は、2つの性質を持つ。
 1つは条件の達成。2つに目的の成就。『願望器』って言うのはそう言う物」
 これらは同一の物ではない。例えば魔力の充足を求めたのならば、
 条件の達成とは魔力の抽出を意味する。これを補給して始めて目的が成就される事となる。
「性質が悪いのは、聖杯の効果範囲の広さ。1つの街を丸ごと呑み込んで、
 根こそぎにしても余りある。迎撃、対抗不可能な神秘的大量殺戮兵器」

 人の生命を魔力に変換する。これは魔術に於ける基礎の基礎に位置する概念だ。
 例えば生贄を捧げ発動させる儀式魔術など、その筆頭と言えるだろう。
 ウィルモフの『聖杯』とはそれらを準備の必要無く、瞬時に、
 不特定多数を対象に発動させられる破界器である。というのが大凡の目測である。
 そんな物の存在を許せば、世界は瞬く間に『黒い太陽』の供物と成り果てる。
「……なるほど。実に異端(まじゅつし)らしい思想の産物ですね」
 そう返すのは異端狩りの専門家である『聖盾』だ。
 彼らにとって、魔術師が独善主義である事は自明の理である。
 何ら不思議なことは無いと告げる『ヴァチカン』もまた、
 端から見れば似た様な物であると内側に居る人間ではこれほどまでに気付けない物らしい。
「新潟で蒐集した魔力は、お得意の“創造”の魔術に使ったみたい。その結果がこれ」
 指差されたモニター。映っている物を形容するならば“飛行する巨城”だ。
 その規模半径2kmにも及ぶ。物理法則を無視した様に浮かぶそれは、勿論ただの城砦ではない。
 外壁には凶悪な魔術障壁が張り巡らされており平常の兵器では傷一つ付けられず、
 例え一線級のリベリスタが取り付こうとも本来ならば侵入すら困難である。
 
「でも、私達だけは例外」
 そう。アークにとって対象が巨大であると言う事は、それだけで福音だ。
 元々対R-TYPE用に設立されたアークには、これに対する切り札がある。

●神威の光は愚者を射抜く
「神威……ね」
 アルフォンソが見上げた天空の魔城へ、合わせられる照準。
 かつて過去世界に於いて彼の“神”を境界の向こうへ追い返した最新鋭の神器級破界器。
 荷電粒子砲――『神威』の烈光。視界を染め上げる程の明滅が天空の魔城に風穴を開ける。
“皆には、城への突入を担当して欲しい”
 幻想纏いから響くイヴの声に、『ヴァチカン』と『アーク』の連合部隊が行動を開始する。
 神威の光に貫かれ、一部機能に支障を来たした城砦への突入は予定通りに果たされた。
 『キプロス騎士団』に囲まれながらの行軍は数と錬度の所為も有り呆気ない程順調に進む。
 そしてその順調さが“独尊”を地で行く『黒い太陽』にとって、
 極め付けに目障りだったのだろう事は、今となっては想像に難く無い。
 突然開けたガラス張りの部屋。眼前に立ち並んだ“3体の神像”その全長は3m程か。
 如何にも神を模したと見えるその多腕多貌の巨像達は、物も言わずリベリスタ達の行く手を阻む。
「ふむ……今迄の相手とは、毛色が違う様ですね」
 アルフォンソがそんな風に呟く暇も有ればこそ。
 ヴェーダ神話に於ける破壊の神――シヴァを模したそれが腕を一閃させたその瞬間。
 隊列を組んでいた『キプロス騎士団』。その一角が“焼け消えた”
 防御などまるで意味を持たず、避ける暇すらも有りはしない。
 完全に埒外と言って良い火力で以って、数名の騎士達は末期の言葉すら残さず消え失せた。

「――散開!!」
 その判断は、正しいと言えたろう。
 即座に散開を命じたアルフォンソの言に応じる事で、何名かの騎士達が命を救われた。
 無論アークのリベリスタ達もまた、その危険性を察して大きく距離を取っている。
 けれどそうでない者。ほんの僅か、反応に遅れた者は唯の一撃でその命を終わらせる事となる。
 それは冗談の様な、悪夢の様な、けれど確かに其処に在る、脅威。
 天空城内に配備された破界器は数限り無い程に多い。
 だが、彼らが対した物はその中でも最悪の一つだ。
 ペリーシュナイト『虚神の像』
 黒い太陽の“条件達成能力”の試作品として造られたその3体の像は、
 彼の黒い太陽に言わせれば『情緒の入る余地の無い、単純極まるが故に退屈な失敗作』である。
 けれど間違いの無い事は、これらが賢者の石捜索に用いられ無かったのはただ1つ。
 あまりの火力故に、“賢者の石すらも消滅させてしまい兼ねないが故”に他ならない。
 蝋の翼を持て太陽に挑む者よ、死を覚悟せよ。
 歪夜の使徒の第一位。世界最高峰の破界器製作者にして最悪の大魔導。
 自尊心の塊である彼をして“詰まらない物を作った”と言わせしめた“神の写し身”
 その威容を超えられずして、灼熱の如く今なお燃え続ける黒き太陽。

 “究極に挑む者”と相対する資格など――――得られる筈も無いのだから。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:VERY HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年12月22日(月)22:35
 108度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 難易度相当の消耗戦につき勇者歓迎。以下詳細です。

●成功条件
 ・アークから死者を出さない。
 ・3体の「虚神の像」を撃破する。

●ペリーシュナイト「虚神の像」
 シヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマーの3体。
 全長3m程の黒鋼の像。状態異常無効。耐久力も決して低くは無い。
 命中はほどほどながら、火力が異常を通り越して文字通りの埒外。
 全リソースをHPに割いている革醒者でもまず2発は耐えられない。
 計3体が存在し、内1体は必ず通路を塞ぐ様にフロアの中央に立っている。
 射程距離は30m。攻撃範囲は範囲相当。
 攻撃属性は毎ターン最初に神秘か物理かを切り替え可能。
 攻撃対象は最も自身に与えたダメージが多い者を優先する。

 神性不在(EX):EXP。虚神の像が戦場に3体存在する場合、
 各像の半径30m以内に存在する全対象はHP、EPを回復する事が出来ない。

●聖堂騎士団『キプロスの狗』
・『聖鉄』アルフォンソ・ボージア
 初出シナリオ:『<アーク傭兵隊>全葬事件』
 主流派所属。聖堂騎士団筆頭『キプロス騎士団』のNo4。
 チェネザリ・ボージア枢機卿の遠戚に当たる世界トップクラスのクロスイージス。
 特殊な効果を持つ破界器『ウリエルの聖盾』を所有する。
 速い、硬い、タフと言う防戦に特化した性質の持ち主。

・キプロス騎士団第三騎士隊
 モブと侮れない平均Lv45程度のリベリスタ×7。
 最初は12人居たが5名が消滅している。
 内約はホーリーメイガス4、クロスイージス1、デュランダル2。
 ランク3までのスキルを任意に使用可能。
 ある程度の指示は可能ながら、優先命令権はアルフォンソに有る。

●作戦予定地点
 ウィルモフ・ペリーシュの天空城砦。その内部。
 ガラス張りの温室の様な部屋で、室内には無数の樹木が生えている。
 視界は悪く、足場も悪いが光源は不要。室内全体は100m四方程度の広さ。
 侵入口は2つ。その内城の奥に近い側に虚神の像が陣取っている。

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。ご注意下さい。

●重要な備考
<太陽を墜とす者達>のシナリオ成否状況により、
 『ウィルモフ・ペリーシュ』の戦闘力が変化する可能性があります。
 基本的には成功する程精神的に乱れた彼は隙が大きくなります。
 予めご了承の上御参加下さい。

参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
アークエンジェインヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ジーニアスナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ノワールオルールスターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアススターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ハイジーニアスソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
ジーニアススターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)

●硝子の剣
 事実として、『キプロスの狗』は強かった。
 立ち塞がるペリーシュナイトに対し全く無駄の無い行動と連携。
 過剰と言えるほどの回復の厚さと堅牢な防御力で、これらを瞬く間に処理して行った。
 こと戦いには一家言有る『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ)』星川・天乃(BNE000016)
 彼女をして、「味方なら、心強い」と言わせしめた実力は伊達ではない。
 何より騎士隊の長である『聖鉄』アルフォンソの指揮能力は卓抜していた。
 アークでも有数の戦闘指揮者である『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)に迫る程に。
「聖歌隊の件は、すまなかった」
 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)から声が毀れたのは、
 危なげなく勝ち進んでいた、そんな道中の事だ。
「どうしたんですか、突然に」
 どう切り出すか悩んだ末なのだろう。視線を落とす様にして杏樹が訥々と紡ぐ。
「いや、あれは連携不足と、力を過信した私達のミスだ」
「……いえ。仕方の無い事でしょう。誰にも、あの様な事態は想定出来なかった」
 沈痛と言う他無い面持ちで顔を俯け、アルフォンソの声が落ち込む。
 やはり、自分が居た場所での犠牲となればそうそう忘れる事は出来ないと言うことか。
「確かに貴方方の所為だと押し付ける事は容易い。けれど、それでは誰も救われない」 
 落ち込んだ色の見える杏樹が視線を上げる。分かっている。だからこそ――
「これ以上奪わせない」
 深く、沈み込む様に告げた言葉に『聖鉄』が瞬き、微笑む。
「ええ、その意気ですシスター。主の御加護の在らん事を」
 
 そうして到った大きな扉。ガラス張りの部屋は何所か異質を感じさせる。
 足を止めた騎士団、漸く話す機会が得られたと歩幅の小さい雷音が駆け寄る。
「思いのほか早い共同戦線だな。協力感謝する」
「百獣の姫君が戦場に出ると聞き、騎士が剣を磨いている訳にはいきませんよ」
 涼しげな笑顔を返され、全精神力を注ぎ込み表情から動揺を殺す。
 それでも内心“姫君”呼びがどこか恥ずかしいのは避け難い。
 殺し合い、鬩ぎ合い、戦場指揮は上手くなった。
 けれど特に異性関係の丁々発止は、どうもやはり荷が重い。
 助けを求める様な視線が『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)へ泳ぐ。
「そろそろ厳しくなって来る頃かな」
「悪名高きバロックナイツ、その第一位がこれで終わりはしないでしょう」
 話が横にそれたのを良い事に、雷音がほっと息を吐く。
 傍ら、『てるてる坊主』焦燥院“Buddha”フツ(BNE001054)
 『はみ出るぞ!』結城“Dragon”竜一(BNE000210)、『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)
 の3人は、黙ったまま隊列を組み続ける騎士団の面々を眺めて呟く。
「ヴァチカンか……異教徒には苛烈と聞いてるけどなァ」
「聖歌隊には可愛い子が居た。つまり騎士団にも美少女が居るに違いない」
「そんな事より、ここ寒いしセンドーシャしようぜ」
 まるで噛み合ってない3人だが、フツの周囲に集まっている事には理由がある。
 フツ以外の2人は『ヴァチカン』を盲目的に信じていない。警戒心を抱いている。
 漠然と。或いは、これまで死線を潜ってきた経験からか。だからこそ――

「今日こそが怒りの日。勝利と栄光はいと高き所に――主と共にお祈りを捧げましょう!」
 騎士達に積極的に混ざり、十字架を掲げる『茨の涙』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
 彼女の言に、至極自然な仕草で従事を切り、剣を掲げる『キプロス騎士団』そして。
「ええ、傲慢なる者には須らく報いが下されるでしょう。土は土に、灰は灰に、塵は塵に――」
「「「「「「父と子と聖霊の御名において――A-men!」」」」」」
 白銀の長剣をそれに合わせる『聖盾』アルフォンソ・ボージア。
 その光景が、酷く“嘘っぽく”見えるのだ。リリが素直に感動している所からすれば、
 もしかすると教会組織と言う物に縁の無い日本人だからこその感覚なのかもれないが……
「別に混ざってきても良いと思うが」
「いえ、家族は親ヴァチカン系とも言い難かったので……」
 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の言に、
 その光景を見ていた『柳燕』リセリア・フォルン(BNE002511)が応じる。
 それでも、西欧に於いて剣の高みを志すならば聖堂騎士は一つの終着点だ。
 日本の子供達が正義の味方(ヒーロー)に憧れる様に、西欧の子供達は騎士に憧れる。
 それは彼らが、象徴であるからだろうが――
 けれど、人は何時までも子供である事は出来ない。
 そして世界はそれ程に、甘い幻想を赦してはくれない。
 硝子の大扉が、開かれる。

●太陽に挑む者
「散開――――!」
 初めて、僅かに焦った気配の混じる『聖鉄』の声にその一撃の重さを思い知る。
 即時後退指示を出した雷音の眼前で、人間が複数名消し炭になった。
 油を焼く不快な香りが周囲に満ちる。そんな光景を、木陰に隠れたまま見送った。
「呆れた火力なのだ。見たところ敵は3体……先ず、1体倒すのが最優先事項か」
「その様ですね。流石は聖戦対象、一筋縄では行きませんか」
 奇しくも、対面の木陰に隠れたアルフォンソと意見が一致する。
 三位一体の神像はそれ単体なら脅威ではあれ、手段を選べばどうにでもなる。
 むしろ問題は、それだけの火力の出力点が3つに分散していると言う事だ。
「まるでチェスだな。一手違えれば此方が詰み、だ」
 詰み。即ち、死。快の言に、天乃が僅かに笑む。
 途端濃度を増した死地の気配。視界を遮る樹木も彼女にとっては福音だ。不足は無い。
「まともに戦って攻撃を受ける訳には、行かないようですね」
 考える様に呟いたリセリアの言葉を受け、雷音がアルフォンソを見上げて問う。
「君のその破界器とか、状況打開策はないのかな?」
 指摘され、視線が集まるのは黄金の盾だ。
 『聖鉄』の名の由縁。『ヴァチカン』の保有する“神具”の1つ『聖盾』
 けれどアルフォンソは頭を振る。あらゆる神秘には相性と言う物がある。
 そして『聖盾』は本質として、背にした者を守る為の神具。攻めに使うには適さない。
 その説明が、果たして何所まで信用出来るかはともかくとして――
「となると、相殺でもするしか無い訳か」
 ユーヌの呟きに、フツだけが合点が行った様に頷いた。

 部屋の中央に佇む虚神の像。その後ろから動き出したブラフマーとヴィシュヌ。
 リベリスタ達がそれらの射程圏に入るまで、きっかり20秒の時間が有った。
 その時間の最中、真っ先に斬り込んだのはリセリアである。
「此方で一体を抑え続けます。本隊はもう片側を!」
 剣と共に在り続けた『柳燕』の刃は速く、鋭く、多角的な軌跡を描いてブラフマーを切り裂く。 
 だが仮にも『黒い太陽』の作りし神の似姿。そうそう容易に崩れる様な代物ではない。
 響いた硬質な音色は、嫌が応にも長期戦を覚悟させる。
 対する神像もやられてばかりではない。振り上げられた掌が翳される。
 放たれた光は正確にリセリアの居た地点へと向けられ、
 大地から突然立ち昇った熱線がその小さな影を灼熱で焼き尽くす。
 かつて犠牲者となった騎士達同様に、骨の一片、髪の一筋すら残さない極大火力。
「太陽、ね……確かに、こりゃァ大したもんだ」
 それを離れて見ていたフツすらも感心させる程の威容。
 確かに、直撃すれば誰であれ瀕死は免れない。のだろう、恐らくは。
 けれど、熱線が消え去った後に佇むのは傷一つの無いリセリアの姿。
「よし、次! 良いか、『リセリアをかばえ』だ。分かるな」
 何と言う事は無い。西欧に於いては滅多に見る事が無い。
 故に、意識される事の少ない“東方の魔術”インヤンマスターの秘儀、陰陽・影人。
 即席で擬似生命を生み出す彼の術の使い手はアークでも決して多くは無い。
 だが、この日、この時、稀有な。そして最上級の幸運として。
 影人の遣い手が2人も揃っていたと言う奇跡を以って、リベリスタ達は『黒い太陽』に抗う。
 上がった声と銃声は、故に宣戦の狼煙。

「遅い――私は、ここだ!」
 杏樹の手元で黒い兎が踊る。銃口が跳ねる度に放たれる死神の魔弾には、
 極め付けにまで研ぎ澄まされた運命その物とすら呼べる加護が込められている。
 曰く、終焉黙示録。拳銃とは到底思えない大火力がヴィシュヌの腕の一本を抉り貫く。
 想いは静かに。篝火の如く燃えている。例えそれが異教の神の似姿であろうとも。
 この“悪あがき”だけは否定させない。
 研ぎ澄ませた想い。それこそがたった一つ。神に対する資格であると信じて。
「泣かずとも良かった人々が彼の業で涙した。私は、それを見無かった事には出来ない」
 神像が逆の腕を振るよりも、その糾弾は尚速く、鋭く、高らかに放たれる。
 リリは知っている。究極に至る過程でどれだけの人間が彼の『作品』に狂わされたか。
 嗚呼、例え同じヒトゴロシで有ろうとも。命を奪う事に、貴賎など無かったのだとしても。
 許せる物か。人の尊厳を嘲笑い、他人の希望を踏み躙り、理不尽な悪意を振り撒く者など。
 その祈りは静謐なまでの真摯さを伴った誓いの魔槍。
「その傲慢、許すべからず――A――men!」
 誓約を守り誓約に縛られたが故に死した勇士の愛槍が、女神の体躯を撃ち抜くと
 それを支援する様にキプロスの騎士達が剣を抜刀して続く。
「デュランダルにはこういう戦い方もあるんだって所を見せてやる!
 タイミングを合わせろ、この戦いが終わったら金髪美少女か絶対確かめるからな――!」
「!?」
 竜一の号令に合わせて放たれる極威の魔弾、アルティメットキャノン。
 正に砲撃と呼ぶに相応しい衝撃が木々の間から響く。モチベーションは十分だ。
 勿論、騎士達の合意など取っている訳は無く。一部の小柄な騎士達に微妙な戦慄が奔る。

「やぁボーちゃん。協力ありがとね。いや、ゴネられたらどうしようかと思ったよ」
「流石に、それ程余裕の有る相手では無さそうですからね」
 身構えたSHOGOの傍ら、隣に並んだアルフォンソが苦笑いの様な物を象る。
 それは、つまり場合によってはゴネられたと言う事か。
 頭の片隅で冷静な翔護がその言葉を記憶する。何かが、どこかで、引っ掛かっている。
 けれど、今はとりあえずそんなわだかまりは置いておくべきなのだろう。
 囮が倒れた場合の交代要員であるアルフォンソは、木陰で盾を構え佇んでいる。
 それに、まるで無防備に見える様に背中を晒しながら彼は愛銃のトリガーを引く。
「よく見えないからAF越しにいっちゃうぜ、キャッシュからの――パニッシュ☆」
「SHOGO……うる、さい」
 折角天井に張り付いているのに、居場所が把握されたら台無しだと。
 天乃からの苦情が上から振ってくるも、そこで気を使ったらもう翔護ではない。
「……それじゃあ、踊って……くれる?」
 そしてそれは、天乃にも言える事だ。自らの命運。祝福。
 それらが枯れ掛かっている事を彼女は漠然と理解している。それでも、変わらない。
 戦場に、死線に、命懸けの戦いに身を置くと決めたその日から。
 天を、樹を、地を、そして神像その物を足場として。
 曲芸の様に跳ねながら、5人の天乃がヴィシュヌに拳を振り――下ろそうと。
 したその時だ。幻想纏いごしに聞こえたのは呼気。
“駄目なのだ、そこは、中央像の――!”
 ――その声と、全く同時。

 何故その様な行動に出たのか、実の所当の翔護ですら理解してはいない。
 ただ条件反射でトリガーを引いていた。ああ、そうだ。強いて言うならば。
 吐き気を催す程の嫌な予感。何故、眼前の彼は自らの盾を持ち上げようとしたのか。
 そう。“まるで天乃を狙い済ますかの様に”
「危ないではないですか」
 言葉程に危なげ無く。翔護の銃弾はアルフォンソに避けられている。
 けれど、理解を超越した危機感は収まっていた。それが何かは、分からぬままに。
「……カード以外でもバウンスが得意技かい?」
 誰も気付いてはいない。誰も、警戒していなかったからこそ。
 その問いに、薄笑いを浮かべた青年は小さく、彼に聞こえる様に応える。
「どちらかと言えば――ロックを掛ける方が好みですが、ね」
 それはカードの。カードゲームの話なのだろう。
 けれどその底冷えする気配と共に。唯一人。
 常に道化た仕草を絶やさない翔護だけが気付く。ああ、そう言えば。
 彼は常に笑顔を絶やさず、柔和で、仕草も語りも温厚そうではあるけれど。
「……ねえボーちゃん。俺達味方同士だよね?」
「ええ、勿論。“今は味方同士”ですよ」
 その眼差しが笑っていたことは、ただの一度も無かったのではないだろうか。
 そう、同じテーブルで、カードを並べあっていたあの時ですら。
 脳裏に、意識の外で痛いほどに警鐘が鳴り響く。
 これは果たして――“戯れを根に持つ”のは、本当に自分だけか。

●神との戦い
「大雑把だな。制作者の性質を表すようだ」
 杏樹を視界に収められる様に調整した位置取り。
 ユーヌから見えるのはヴィシュヌのみである。他2体はどうなっているかも知れない。
 一つ間違いの無い事は、どうなっているにせよ崩れるとしたら一瞬だろうと言う事だ。
 相手がリベリスタらの策に嵌まっている限りは、然程懸念は無い。
 自らが放った影人を目の当たりにして、呟く。
「まあ、弱きも強きも平等に塵ならば、誰でもで代用できて楽だな」
 けれど、何か一つ見落としがあれば。どれか1つでも、崩れれば。
 総崩れする可能性すら否定は出来ない。
 そして……その発端は文字通り。予期せぬ所から端を発するのだろう。
「――――ッ!」
 雷音の声に、手を止め、飛び退る。中央、シヴァより放たれる熱線、太陽の如き猛火。
 その威力は人一人を消し炭にして尚、余りある。
 他人よりも一回り鋭い五感。そして、自分が狙われる可能性を想定していた事。
 2つの要因が相俟って――文字通り、髪の数本分前の停止が天乃の生死を分けた。
 会心の精度を持って後方に跳ねた直後、眼前を熱線が通り過ぎる。
 髪の数本がちりちりと焦げ、嫌な匂いが周囲に漂う。
「何、で……」
 杏樹とリリがヒット&アウェイを用いて攻撃を仕掛けた以上は、
 ヴィシュヌは既にシヴァの範囲外に出ている筈。少なくとも天乃はそう認識していた。
 けれど、木々に視界を邪魔され接近戦を挑んでいる者からは分からないが、答えは否。
 飛行して戦場を把握しようと努めている雷音から見れば瞭然だ。
 ヴィシュヌは明らかに、“シヴァの射程圏内に意図的に戻っている”
 
“まさか……”
 故に。本隊が誘き寄せようとしていたヴィシュヌが優先的に掌を翳したのは。
 “彼の神像の攻撃範囲内で最もダメージを与えていた者”
 即ち――
「――ッ! 下がれっ!!」
 キプロスの騎士達を庇う様に手を翳した竜一の体躯を、ヴィシュヌの放つ灼熱が覆う。
「ガァ――――ッ!!」
 言われるままに下がろうとした騎士達が足を止めざるを得ない程に。
 悲鳴を上げそうになる己を押し殺して、全身が炭化する炎に身を晒す。
「竜一!!」
 その声に、思わずと言う様にユーヌが声を漏らす。直撃だ、骨も残らない。
 そう――それが、並のリベリスタであれば。
「……、……、……キツ」
 倒れた“人型の炭”が地に手を付ける。まだ。死ねないとばかりに。
 運命の祝福を削り、命を繋ぐ。
「どういう、事だ……?」
 それを目の当たりにしておかしいと思えないのであれば、
 彼はこれまで生き延びては来れなかったろう。快が想定外の事態に逡巡する。
 何故、ヴィシュヌはシヴァの射程圏へ戻ったのか。誘き出されない為?
 いや。恐らくもっと根本的な見落としをしている。虚神の像の製作者は――誰だったか。
“W.Pの破界器には、知性が有るのだ”
 
 雷音の言に、気付く。見落としはたった1つだ。
 W.Pの作品には須らく意志が宿っている。それは人格と言う程複雑な物ではない。
 より効率的に、最適化された、目的を果たす為の論理。
 では、これら火力に極限まで特化した神像に設定されている“目的”とは何か。
 考えるまでも無い。「侵入者を最大効率で全滅させろ」に決まっている。
 である以上、まさか3体がそれぞれ攻撃出来ない様な位置取りを取る筈が無い。
 攻撃を誘導するにしても――“3体を誘導しなければ必ず計算が狂う”のだ。
「アルフォンソさん!」
「……仕方ありませんね。私が控えます。貴方は彼女を」
 天乃が本隊と共に近接戦を挑み続けるなら庇い手が必要不可欠だ。
 でなければ近接攻撃しか持ち得ない天乃は、シヴァに狙われ続ける。
 そして誰もシヴァから狙われなくなれば、ヴィシュヌはまず確実に“下がる”だろう。
 そうなれば混乱を来たすでは終わらない。
 万が一2体の像の射程圏が重なってしまえば、全滅が現実的に見えて来る。
「楽は、させて貰えないか……いいや、覚悟の上だ」
「黒い太陽を討つ為に、ここで止まっては、いられません」
 杏樹とリリが不退転の意志を固め、己が立ち位置を据える。
 それでも、影人が存在している分唯の泥仕合に比べれば遥かにマシの筈だ。
「キプロスも、ボクたちも――誰ひとりとして死なせない!」
 この地に聖なる者の意志は届かない。ただ痛みと、消耗と、虚ろなる偶像が在るのみだ。
 けれど人は、だからこそ。持てる全てを賭けて偽りの神に挑む。

 ――他方。孤独な戦いは淡々と進んでいた。
「……あちらは、大丈夫でしょうか」
 リセリアと影人。2つの個性は極限とも言える噛み合わせで以って、
 ブラフマーを限り無く完封に近い精度で圧倒していた。
 一撃を入れて以来追撃の1つも加えていない。ただ只管に避け続けるだけだ。
(大丈夫。見切れる……落ち着いてやれば)
 余計な事は一切考えない。完全に最適化された個性で以って、
 リセリアは己の役割を100%全うする。眺めているフツからも、それはまるで舞いの如く。
「後ろ1m、樹の根が有るから気を付けてな!」
 そして回避に専念する『柳燕』の見落としを、フツが目聡くフォローする。
 両名はブラフマーに。いや、虚神の像に対する最適解として作用していた。
 果たして。製作者である『黒い太陽』ですら、
 まさかたった2人が彼の“作品”を抑える事が出来る等とはまず思わなかったに違いない。
「……あ」
 だからこそ。それが訪れた事を不注意だと言う事は出来まい。
 無から有を生み出す事が出来ない事が罪だ何て戯言は、彼の『黒い太陽』に劣らぬ理不尽だ。
 但し、その1点が連携の空白で有った事は言及せざるを得ない。
「どうしました?」
 焦った様なフツの声に、リセリアが不安を覚える。
 しかしそれも、止む無き話だろう。
「やばいな、精神力が尽きそうだ」
 ブラフマーとシヴァ、ヴィシュヌは30m以上離れている。その様に誘導したのだから当然だ。
 間違って中央に陣取る雷音を巻き込まぬ様、リセリアは限り無く室内の壁際ギリギリに居る。

 そしてフツの立ち位置はリセリアを視認し得て、かつ召喚した影人が即庇える距離。
 つまりリセリアの10m圏に居ない訳にはいかない。せめて、雷音と連携が取れていれば。
 されどこの地に神は居ない。聖なる者の意志は届かない。

●祈りは遥かに
 発端は僅かのズレ。解れはほんの少し。
 並の仕事であれば地力の高さで以って押し通る事すら出来たろう。
 この任務に参加したリベリスタで一流と呼べない人間は居ない。だが、対する物が悪過ぎた。
「―――――ッ!!!」
 灼熱に身を晒したリリが、両手を交差してその熱線に耐える。
 だが、彼女は元より余り回避は得てとしていない、純正の射撃手である。
 膝を付いた際に運命を溢す。なるほど、確かにこんな物を2発も受ければ跡形も残らない。
 けれど、躊躇わず手にした双銃を神像へ向ける。命を落とす事は恐くない。
 元より罪深いこの身、劫火に焼かれるのは至極当然。けれど、ここでは死ねない理由がある。
 ならば祈りを。主の戒めと、主の怒りを手に。必中の槍が勝利の女神(ヴィシュヌ)を穿つ。
「リリさんは下がって。後は、私がやる」
「……でも、そんな事をしたら、次は――」
 杏樹の言に、悪癖を自覚しながらも自責の念が抜けないリリが抗弁する。
 けれど彼女に次は無い。何より、杏樹はここで誰一人"喪わせる"心算など欠片も無かった。
「私なら大丈夫……きっと、ここでは退けないから」
 誰が、と口にせずとも。手は首から下げた弾丸は無言で語る。
 背を追いかけるのは止めた。追い越すと決めた。なら、痛みも、苦しみも、その為の手段。
 誰でも無い。杏樹が定めた彼女の戦場。彼女の戦い。これだけは、誰にも譲る心算は無い。
「次は、私が受ける」
 繰り返し放たれた死神の弾丸。ヴィシュヌは見て分かる位に壊れつつ、ある。
“……快、向こうが崩れた。すまない、ボクのミスだ”
 奥歯を噛む様な、悔しげな声。有翼である事を最大限に生かし、各人の立ち位置を動かす。
 雷音の采配が無ければ、酷く視界の通り難いこの戦場は油断の有ったリベリスタらを、
 確実に災ったろう。彼らがヴィシュヌとまともにやり合えているのは彼女の後押しあればこそ。
 
 だが、一方で。唯一戦場を自由に動ける彼女だけが、
 “もう片側”の足止めを磐石にする事が出来た。その見落としは損失として返って来る。
(あと一撃……保つかな)
 連絡を受けた快はと言えば、彼は既にシヴァの攻撃を2度止めている。
 運命的(ドラマ)な復活をも果たし、“守護神”の異名に違わぬ持久力を見せた彼だが、
 流石に。祝福を削ってももう一撃を抑えるのが精一杯だ。
「……新田、行って。私でも……1撃位は、保つ」
 逡巡を見せた快に、彼に庇われ続けた天乃が告げる。
 今は傷付く事を躊躇っている状況ではない。例え、その命運が僅かだとしても。
 全てを護る。平凡な彼が願った身に過ぎた願い。手の届かない遥かの理想。
 そうして足掻く姿を見て、想って、結局、こんな所まで来てしまったのだから。
「……死ぬなよ」
「しない、って……言った」
 少なくとも。自分から死を選びはしない。あの日の約束を、嘘にしない為に。
 快が駆ける。フツもまた、雷音による補給を受けて向かっている筈。
 何より、彼はリセリアの超人的な身のこなしを――いや。仲間達全ての力を、信じている。
「見なよボーちゃん、あれこそ青春だよ。甘酸っぱいねー」
「翔護は、驚く位ブレませんね」
 呆れた様に漏らしたアルフォンソが、けれど止む無しと一歩踏み出す。
 場を離れる瞬間、快が向けた一瞥を例え甘いと思えども。
 彼もまた、少なくとも衆目の上では『ヴァチカン』の騎士である事に変わりはない。

 痛みの上に、また痛みを積み上げる。まるで塔の如く。
 その最上階に住まうのが傲慢なる王であると言うのは、果たして何の諧謔だろうか。
 皮肉気にそんな事を考えながらも、ユーヌは只管に影人を撒く。
 消耗が激しい。火線の集中によって1体を打破するに当たり、
 壁役が全員出払った場合、等と言う事態を考えていなかったのだから仕方が無いが。
 それでも、雷音の指揮と各人の奮戦によって戦線は瓦解していない。
 其処には当然、ユーヌ自身のダメージコントロールも大きく貢献している。
「竜一、本当に大丈夫なんだろうな?」
“大丈夫大丈夫。あんな色気の欠片も無い陶器にKO取られる俺じゃねえって。
 アルキャぶっ放すのに怪我とかは関係無いしな”
 細かく動く竜一には視界が通らない。木々の陰に潜みながら、小さく息を吐く。
 大丈夫。まだ戦線は崩れていない。ギリギリで、勝ちが拾える状況だ。
「無理は自重しろ非常識人め。私は一般人だから、こういう時は心配するんだ」
 幻想纏い越しに、顔が見れないのを良い事に。
 対する竜一が返事に困るような事を言ってのけるのは『悪魔』の本領か。
 自称普通の少女は灼熱の地獄で手繰り寄せる。生還と、そして勝利を結ぶ赤い糸を。
「あと一押しです。第三騎士隊――――前へ! いまこそ好機!!」
 『聖鉄』の号令の下、遂に騎士達が動き出す。
 過剰な程の癒しの術。そして三位一体の虚ろなる神。
 誰もが理解していた。この戦いは如何に“一体目”を犠牲を出さず仕留めるかだと。
 竜一の号令が聞こえる。放たれる三条のアルティメットキャノン。
 胸に穴を開けたヴィシュヌが翳す腕を、呪いの槍が。五人の戦姫が抑え込み。
「全ての子羊と狩人に安息と安寧を――人間を、舐めるな!」
 不吉の13を刻む死神の魔弾が、神の似姿を討ち滅ぼす。

 致死量の熱線。これをかわす事2回。一度直撃を受けた事で理解したのは、
 この神像の攻撃は時折極端に精度が上がると言う事だ。
 痛恨の一閃とでも言うべき攻撃が、並の神秘より遥かに発生し易い。
 となると、リセリアの反応の良さも絶対ではない。彼女は実に3度、その死線を潜った。
「うお、大丈夫か!?援軍、呼んで来たからなァ!」
「ええ……どうにか、凌ぎましたか」
 対面から上がる歓声。そして辿り着いた影人を、これ程待ち望んだ事はきっと無い。
 フォローの為にやって来た快に場を譲ると、
 安堵と共に一度も声を掛ける余裕がなかった幻想纏いに言葉を紡ぐ。
「ここからが、反撃ですね」
“うん。勝って、帰ろう。誰一人欠ける事無く”
 神謀鬼謀の担い手たる百獣の姫に、リセリアが頷く。
 駆け寄って来た騎士達にボロボロの体躯を癒されて、柳の燕は今一度羽ばたく。
「好き勝手やりやがって、こっちも良い加減頭に来てるんだよ!」
 誰一人、欠ける事無く。神無き虚像の夜は終わり、そして黄昏がやって来る。
 反撃の狼煙となるは究極無比なる唯一つの幻想。
 誰も彼も護り抜く。そう誓った平凡な男の、平凡であるが故の正しき怒り。
「今高らかに勝利を詠え、エクス――」
 ならば、鬨の声を上げよう。その貴き御銘と共に。ただ来るべき未来を信じて。
「カリバァァァァ――――――――――――ッ!!」
 放たれた光芒は、停滞していた歯車を巻き直すが如く。戦いの趨勢はここに決する。
 祈りは遥か――響き渡るは天上の果て。
 足掻きに足掻いた彼らは、限り無い死地の淵で勝利を掴む。

 糸を手繰るは意地か、覚悟か、或いは運命かと問えば否。
 もしも命運を掴んだとすれば、それは誰もがIfに逃げなかったからこそ。
 人事を尽くしたが故の天命なのだろうから。
 虚ろを抱く神は墜ち、そうして人はまた一つ。究極への階を登る。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様、お待たせ致しました。
ベリーハードEXシナリオ『<太陽を墜とす者達>神の狗と虚神の像』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

死者が出なかった要因は3つです。
2体の影人。ステータスの噛み合せ。あとSHOGO。
どれが欠けていても大損害の末、まず確実に失敗していました。
辛勝とは言えこの状態から勝ちに持って行けたのは巡り合わせの産物です。
成功なのに大赤字なのはご愛嬌。
追い詰められた原因は作中に記させて頂いています。影人は出来る子。

それでは、この度は御参加ありがとうございました。
またの機会にお逢い致しましょう。