●ニュクス。 その≪訪問者≫(アザーバイド)は、ボトムで云う所の感情の様なものを有していた。 寂しかったのかもしれない。 性別を有さないけれど、便宜上、此処では『彼女』と呼ぼう。彼女はその異界の中でも変わった存在だった。 世界には段差が存在する。 最下層に位置するボトムには、上位世界からのリンクが一方的に開く。 彼女はボトムへ下る穴を偶然に見つけた。彼女はボトムへ行こうと思った。 友達を作ろう。そう思った。 ●その夜の訪れ。 呻き声が響いた。 空間には余剰があるから、綺麗に残響した。 「止めろ、止めてくれ、頼むよ、なぁ……!」 一つでは無い。 二つでも無い。 三つ所ではなかった。 其処には大勢の人間が居た。男女。齢。問わず、様々な人間が居た。横たえられていた。 夜に。『夜』の中に。 けれど、ああ、子供の泣き声は余りに悲壮だ。 其処に、本当に友達は居るのか? ――いやしないよ。けれど、定義の問題なんだろう? だから世界には段差が存在する。その段差が境界線となって、互いを分かつ。 冥府より訪れる夜は、昏く甘い。 愛しき友人たち。 全ての根源へと繋がる貴方達に、その存在に、感謝します。 「や、め……ろお!」 包まれた後に見ゆるのは、果てしの無い昼だった。拍子抜けするほどに。 「だから、あんたらは私の『友達』」 ●ブリーフィング。 「心の擦り切れる事案、持って来たぜ。ああ、引き受けるかどうかはお前ら自身の問題だが」 ブリーフィングルームに『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の声が響いた。その顔に浮かぶ感情は、周りのリベリスタにも良く分からなかった。彼はそのまま資料を配り終えると、話を続けた。 「大規模なアザーバイド事件だ。ていうと過日のラトニャ・ル・テップがフラッシュバックするが、まあ、関係は無いだろう。事件現場は、巨大なドームだ。野球とかコンサートに使われるああいうのな。 其処に、多数の一般人が敵性アザーバイドにより拉致されている」 拉致? 話を聞いていたリベリスタの視線が上がった。伸暁はああ、と頷く。しかも、と続けて、 「その人数予測は凡そ150人。だから、大規模だろ?」 ブリーフィングルームに嫌な雰囲気が立ち込め始めた。確かに規模が大きい。 「気になるのはその動機だ。しかし、そこんとこは既に割れてる。いや、簡単だ。『友達』を作りに来てるのさ、奴は。――コード、『ニュクス』は」 「……『友達』というのは、詰まり、その≪アザーバイド≫(ニュクス)は、拉致した一般市民を、アザーバイド化させているということか?」 「その通りだ兄弟。少なくとも『アーク』はそう見てる。そんで、残念な事に時間もねえ。俺が視て、そして『万華鏡』を依頼して精密化した予測は、既にその半数以上が、詰まり約80名以上がアザーバイド化されちまっている。事は急を要する。次の説明に行くが、オーケー?」 ―――被害者80名超。 リベリスタ達の顔にも幾許かの緊張が走るが、冷静に頷く。 「まだ擦り切れてくれるなよ。此処からが本題だ。敵であるアザーバイド、ニュクスは、女性人型を維持した個体になる。極めて人間的だ。その装飾も実に人間らしい。というより、まるで魔女だな。だが、研究部の意見では特に性別を有さないという結論らしい。俺から見りゃ、見てくれは実にタイプの美しい姉さんだが、タチは悪い。 アザーバイド化した人間には、意識がそのまま残っているが、運命に愛されない」 「だから―――」 「だから、殺してきてくれ。『アザーバイド』を」 詰まり気味に発したリベリスタの言葉の続きを、伸暁が言った。 「ニュクスは面倒な相手らしい。が、アザーバイド化された元一般市民は、比較するならフェーズ1の敵性エリューションを超えない程度の能力しか持たない。『幼生』みたいなもん、つーのは研究部の解析結果だが、少なくとも単体じゃお前らの相手にすら成らないだろう。不幸中の幸いってやつだ」 饒舌な舌、軽薄な相貌。 それなのに、敢えて『一番辛い所』は的確に避けたブリーフィング。 「放っておきゃ、アザーバイドが跋扈することになる。用意が出来たら現場に急行して、アザーバイドを撃破してきてくれ」 「―――どうしようもないのか?」 耐え切れず、一人のリベリスタが追い縋った。もう『救えないのか』? 部屋を立ち去ろうとしていた伸暁はぴたりと足を止めた。 「既にDホールは閉じた。運命に愛されない限り、そして何より人間に仇名す以上、『アザーバイド』には居場所は無え。……気持ちは分かるぜ、俺だって歌うのは何時だって『love & peace』。ロックってそーいうもんだろ? だからよ。 歌おうぜ、声高に謳歌しようぜ世界平和。 ストリングスで指を切ってさ、叫ぼうぜ世界平和。 切ないスタッカート掻き鳴らして、このクソッタレな夜によ―――」 だから俺は、何時だって不吉を運ぶ黒い猫。 殺す理由は、十分にある。≪大義≫(世界平和)の為に。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:いかるが | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月11日(木)22:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「さて、『人でなし』の皆さん今晩は。 この素敵な夜を、お互いに存分に楽しもうじゃないですか。 ―――どうせ、これが最期の夜なんですから」 依頼の成否に関わらず何人死ぬ事になるんでしょうね? それも楽しみ。くふふふ。 ● 「私達が人殺し? 化け物?」 馬鹿を言うな、と『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)の嘲笑入り混じる平坦な侮慢が、男の胸を殴った。男の容姿はまだ若く、結唯の宣告を受けた彼の顔は、無理解と絶望に美しく染められていた。『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)改め那由他・エカテリーナが見ていたならばその相貌を魅力的だと評価しただろう。 「既に『人在らざる身』でありながら、私達を『化け物』と呼称するか」 「何を、言ってんだ。……訳分かんねえ。さっさとそこ、退いてくれよ。 早く逃げねえと、アイツにやれちまうぞ……、おい、分かってんのか! なんで……、なんで『俺』に銃を向けるんだよ……っ!」 しかしこの男はまだマシな感覚を有していたのかもしれない。何故なら、彼は薄々と気が付いていた稀有な存在だったからだ。その出口まで駆ける中で、彼は自分がニュクスによって『生かされた』その意味を知ったのかもしれない。 だから、眼前の銃口に彼は心当たりが在った。 「―――ああ、そうだ。私達は、私は、『化け物』だ。しかし、それがどうした。 生憎、自分が化け物である事に、なんら疑問はない。 お前とは違って、な」 「ま、待ってくれ!」 その男は、溢れだす体液を憚らず結唯に懇願した。 「俺は、死にたくない……俺は、あの怪物に連れてこられただけなんだ! なあ、助けてくれよぉ……!!」 男の論理は尤もだ。結唯も彼の結論を理解する。 そして彼の額に銃口を突きつけた。 「ならばお望み通り、助けてやろう」 酷く乾いた発砲音。 続け様に飛沫音。まるで西瓜を叩き潰した様な。 結唯の白い頬には罪色の斑点。 ● それが確かに唯一の『救済』だと受け入れた所で、『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の心中は決して晴れなかった。 三高平から、ニュクスに占拠されたそのドームへと向かった八名のリベリスタは、基本的な出入り口とされている五か所を其々一名ずつが貼り付いて友達の流出を防ぎ。残る三名でニュクスを叩く事にした。 阿鼻叫喚。と云えば生易しいか。 『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)が見たのは実に巫山戯た光景だった。 悲鳴と怒号が飛び交う。人々の恐怖が充満してむせ返る様だった。そしてその根源にはニュクスが居た。『アザーバイド』は彼女から逃げ出そうと出口に走り、これから選択される人々は泣き叫び、彼女に気に居られなかった人々は只の肉塊になっていた。 「さて、お仕事ですねぇ」 シュスタイナの顔が無表情ながら険しいのとは対照的に、『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)が腕を鳴らした。そして、『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)がその細肩に黒い剣を携えながらシィンの言葉に頷いた。 「やれやれ、こんな別の世界に来てまで友達なんか作らなくてもいいじゃない。 こっちからしたらとんだ迷惑だわ。 ……まあ、もう帰れないみたいだし、その友達共々ざっくりと片してあげましょうかね」 「ええ。身内にも敵にもなれないその他なんて、どうでもいい」 「物騒な会話ですねえ。 ……けれど、うん、大切ですよね『世界平和』。 これを守るためなら―――、殺害も止む無しですよね?」 「……油断はしない様にね。どうもあのニュクスは、一筋縄にはいかないようだから」 シィンとフランシスカの会話に那由多がけらけらと茶々を入れた所で、シュスタイナが言った。 「十分承知の上ですよ!」 シィンが何処か楽しげに答えると、フランシスカ、那由多を含めた三名は、シュスタイナを残してニュクスへと向かった。シュスタイナは、彼女らが侵入した出入り口に割り当てられている。 例えば『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)が危惧した様に、この基本出入り口以外からの友達の逃走は、確かに注意すべきかもしれない。セレアが辺りを見渡せば、ぱらぱらと彼女の立つ出入り口を目指して駆け寄る影が見受けられた。 ……運命に『愛される、愛されない』。 (それでも『私』は運命に寵愛されて) それはシュスイタイナがうんざりするほど聞いてきたとても『便利な言葉』。 (それでも『貴方達』は運命に厭われた) ―――この残酷な世界で、私達は生きている。 そして今からやる事は、『世界』の為の馬鹿みたいなお仕事。 シュスタイナが銃を構えた。必死の形相でチカチカと点滅する場内を逃げ狂う彼等に、その銃口を捧げて。 「おい! アンタも突っ立ってないで、さっさと逃げろ!」 ふと傍らで声が響いた。初老の男性だった。 「あの『化け物』にまた捕まえられちまうぞ! 幸運な事に、わしらは何故か解放されたが……」 その男の横には、彼の妻らしき女性が居た。二人はシュスタイナを、彼等と同じく捕えらた『人間』だと思っているらしい。しかし其処に二つの誤解がある事を彼女は理解している。 「……」 一つ。貴方達は解放された訳じゃない。アザーバイドになっただけ。 「……」 二つ。だからそれは幸運などでも無く、貴方達は人間でも無く。 「おい、嬢ちゃん―――」 「ごめんなさい」 ―――ああ、だからそれは結唯の下した『救済』と全く同じ結末だ。 「ごめんなさい」 真横で夫を撃ち抜かれた女は声を喪って、シュスタイナを見た。彼女は再度謝罪して、トリガーを引いた。女は簡単に死んだ。思っていた通り、簡単に死んだ。 「恨んでくれていいわ。 理不尽に命を奪われるなんて……、 誰だって嫌に決まってる」 唇を噛んで耐え凌ぐだけ。全く釣り合わない。あちらは命を差し出したというのに。私を罰する痛みは、この唇から流れ出る一滴の血液だけだ。 それでもシュスタイナが無表情を貫くのはこれが『仕事』だと割り切っているからだ。 周りで悲鳴が響いた。逃げ始めた友達たちも、リベリスタが別種の存在である事を徐々に認識し始めていた。 ● 「『何で殺されるのかわかんない』って顔だね。 貴方達は、あの化物のせいで自分も化物にされちゃったんだ。だから、この世界の為に殺さなくちゃいけない。 ……うーん、そうだね、もしかしたらアイツを殺せば元に戻るかもしれないね。 どうせだし、やってみたら?」 「み、見逃してくれるの?」 「仕様が無いなあ」 女は神を敬うかの様な表情で真咲を見て、次いでニュクスを睨みつけそちらへと向かっていった。『疾く在りし漆黒』中山 真咲(BNE004687)の笑顔が、彼女の背を見送った。 「……一箇所に集まってくれたら、殺しやすくて有り難いからね」 その無邪気さが、鋭利な刃物の様に冷たい。その冷たさに、友達に成り果てた女は気づいて居なかった。 (別の世界から、わざわざお友達を作りにやってきた。 本当にそれだけだったら、平和で何も問題はなかったんだけど。 やってることは、たくさんの人間を化物に変えて。 自分の思い通りに従う存在を生み出しているだけ。 ものすごく迷惑だね! ) 真咲のスキュラが乾く暇など無い。取り零しの無いように適宜ブラフを撒きながら一体、二体と友達を切り裂いていく手腕に戸惑いなどは一切無く、この仕事に対しての疑問などは皆無だった。 「お仲間もろとも、みーんなバラバラにしてあげる。 イタダキマス!」 「―――ひ」 息を飲む音。 真咲の笑顔。 少年の引き攣った顔。 頂きますの宣告。 風を斬る音。 転がった球体。 血溜まりに浮かぶ。 真咲の、靴。 三体、四体、五体六体七体八体…………。 歪な微笑みは、まるで不安定な振り子の様に。 ● 「パン屋だからパンを作る、農家だから畑を耕す、ってのと同じで。 この世界をぶっ壊す存在は居て欲しくないから滅ぼす、ってのも別に普通のことでしょ?」 殺す、じゃなくて滅ぼす、なのよ。そう言ったセレアを見て、少女は酷く傷ついた顔をした。 「そんな―――」 「『感情や人格がある人を殺しちゃいけない』という命題の裏は『植物状態の人間なら殺してもいい』になるけど、そんな単純な話じゃないでしょ? って。 そうは思わない?」 少なくともやってる側からすれば、ね。 ―――ま、あたしは『それでいい』と思ってるから仕事としてやるけど。 「でも、私……何にも、何にも悪いことしてない。 怪物に無理やり連れて来られて……私も、化け物? なっちゃったって、言うの?」 「屠殺業者が家畜に同情してたらやってられないしねぇ?」 ほら、命は大切でしょ。平等に。 其れ故。 平等に無価値でしょ? 「助けてよ……」 力なく少女は笑った。あまりにその状況が滑稽だったのだろう。少女は、泣きながら笑っていた。 「私を、助けてよ……お願いだから……!」 「殺さずに滅ぼす方法があればそれでもいいんだけど難しいのよね。 ―――ああ、勘違いしないで。あたしだって殺したくてそうする訳じゃない。そういう趣味じゃないの」 美しき魔術師は、そうして指を鳴らす。 「やめて……」 懇願は無意味。 「殺さないで……」 セレアの前で少女の命は極めて≪重い≫(無価値)。 「私は……まだ、にん」 深夜に降り頻る鉄槌の星々。 「いいえ」 屠られた少女にセレアは首を振った。 「貴方はもう、人間ではない」 ● 「ふむ、報酬も提示されている。オレの『理由』としては十分だ」 殺せと頼まれれば『何』だって殺すさ。 そう続けて独り言ちたクリスの口元からは紫煙が揺れていた。クリスは那由多の様にこの状況を楽しむでもなく、真咲の様に特に何も感じない訳でもなく、シュスタイナの様にある種の理不尽さを感じる事も無く、そしてセレアの様に理性的に状況を分析していた訳でもない。 依頼があり、報酬がある。其れが全てだ。 烈火が巻き起こる。出入り口を中心に友達を焼き尽くす業火は一層と大きな悲鳴を齎すが、クリスの顔色は変わらない。『昔』からこういうコトをしてきたのが、彼女だったからだ。。 (……ただ、今回ほどの規模は流石に始めての経験だな) ニュクスと交戦に入った三名を覗いて単純計算すると、五名で一人あたり二十体以上の友達を処理しなくてはならない。 「まぁ今日はタバコがラッキーアイテムだそうだ。きっと何とかなるさ。 では『世界平和』の為にお仕事、しようか」 焼け死んで残骸と成っていくそのアザーバイドを尻目にクリスは注意深く辺りに耳を澄ます。確認して彼女は、次第にニュクスへの距離を詰めていった。 ● 「こちらも対抗して、友情パワーによる回復……なんてね」 緑色のオーラがリベリスタらを包み込んだ。フランシスカも地面に突き立てていた黒剣を再度、ニュクスへと突き刺す。 「あれを友情って言うの?」 「定義次第ですけど、一般的には言わないでしょうねえ。どうですか。ニュクスさん?」 シィンが口の端を歪めてニュクスへと振り返った。 「私はそっちの定義を知らないからさ、分かんないけど。 個人的にはね、大事な友達だよ、全員」 「何を思ってわざわざボトムくんだりまで来て友達を作ろうと思ったのかは知らないけどさ、わたしと遭ったのが運の尽きよ。叩き潰してあげる」 撃退なんて手緩い事等で済ます気はない。きっちり撃破してやるわ。 「そこまで言って貰えると嬉しいね」 そうは言ったものの、ニュクスは内心で舌を打った。リベリスタらの攻撃は予想外に熾烈で、彼女は逃走も視野に入れ始めていた。しかし、その目の前のフランシスカが、膝を地につけようともそれを許しはしなかったからだ。 打ち合い。フランシスカがこの世全ての憂いを籠めた幾重もの苦痛を太刀筋に乗せれば、ニュクスはそれを腕で受ける。構築された謂わば魔術回路は堅牢にニュクスを覆うから腕が飛ぶことは無いが、派手な音が散る。 「盲いて惑うか、魅せられ狂うか、好きな方をお選びくださいな」 「ふん。どっちも素敵じゃない――!」 フランシスカが振り払われて、続けざまにシィンの攻撃。邪魔なタナトスも纏めて排除する。 起動したのは、基本的なミステランの技術体系からは外れた神秘。ならば前者。盲いて惑わせる、風と炎の神の再臨。 「―――っ!」 ニュクスは特に対神秘での堅牢性は高い。しかし、これは効いた。 「この……!」 反撃。ニュクスの指がシィンを指し、彼女は魔弾を放つ。それは、 「楽しんでますか、ニュクスさん。私はとっても楽しいです! 」 シィンをカバーする様に立ち回った那由多に直撃した。しかし、それを受けた筈の彼女の顔は喜々としていた。 「あんたは『こっち側』に近いな。そんなに、楽しいか?」 「ええ。苦悩、断末魔、絶望……、たっくさんの素敵な表情を見れましたからね。 こうやって一緒に遊べるなら、今だけは私達はもう友達かもしれませんねー? 」 「そうだな、けど」 「大丈夫、私、殺し合いも大好きですから、仲良くしましょう」 「……そんなのは、私の欲しかった友達じゃないね!」 不定形の斬撃。封殺殺しの連続槍技。それはニュクスに群がる友達も含めて叩き斬る。 「げに友情は麗しきかな、是非それに殉じてください」 畳み掛けて、散る存在。哀悼……否、もっと無感情にシィンは彼らを断罪して、 「背景如きが、出しゃばらないでくださいな」 ―――蹴散らす。嘆くなら、己の不運を呪え。 ヒトで無くなった瞬間から。貴様らは世界に仇名す害悪でしかないのだから。 ● 戦いは終盤へと縺れこんだ。広大なドームは既に赤く塗りつぶされていた。 「貴女を元居た世界に返してあげたい」 率直な思い。 「貴女が友達が欲しいと思う気持ちを否定したくない」 これも本当。 (……だけど。私にはどうする事も出来なくて。 私に出来るのは、リベリスタとしてそんな貴女や貴女の友達を消す事だけ) 「優しいな。あんた」 ニュクスが苦しげに、けれど嬉しそうに呻いた。 リベリスタらが歩いてきた道程には、ただ只管に血塗られただけの残酷な道が出来上がっている。 そうして出来た道を往き、彼女らはニュクスへと対峙した。 ―――八体一。既に友達個体タナトスも彼女らの前に散っている。 「優しく何て、ない」 「いいや、十分に優しいよ。矛盾だらけの優しさだ。見ていて愛おしいほどにね」 那由多が楽しそうに穿ち込むのと同時に、シュスタイナの放つ魔力風がニュクスらを襲う。 同時に、神速の純弾も。 それは結唯の無慈悲な弾丸だった。 「滅ぼしてやる。身も心も」 ニュクス。ギリシャ神話に出てくる原初の神にして夜の神か。 ……人は神を造り、神は人を育む。人は祈り。神を成す。 片方だけではありえない。 その神が我らに牙をむくと言うのなら、神を殺そう。 「生きているなら神とて、殺してやる」 ニュクスから放たれる強力な瘴気がリベリスタらに纏わり付く。高位の神秘を操る彼女は、確かに一筋縄にはいかなかった。負けじとフランシスカが斬り込む。―――良いね、簡単に死んでくれないところ、歯ごたえあるわ! だがそれも時間の問題か。クリスには勝ち目が十分に見えている。何しろ今日は、今日だって、彼女のラッキーデイだから。 「効かない、等と云ってくれるなよ。特注の高い弾なんだ」 ニュクスの振り撒く魔術攻撃をすり抜けてクリスの放った一発の弾丸がその魔女の胸に突き刺さる。 「……なに」 彼女の顔が歪む。優位に進めてきた戦闘の中で、ニュクスは突如として動きを鈍らせた。 ―――まずい。そう思った時には、撤退の経路さえ残っていなかった。周りはリベリスタに囲まれていた。 頭上には、ああ、元居た世界と同様に美しい星々。ただ違うのはそれがセレアの最大魔術だということだけ。こんな夜に、折角の友達は全て無に帰した。 其処に忍び寄る艶麗な影。 ……だから、真咲の一撃は違え様も無く、ニュクスに狙いを定めて、 「残念だけど、君はこの世界の友達にはなれないんだ」 「……馬鹿な。人間如きですら」 私の傍に居てくれないと云うのか? ―――ゴチソウサマ。 「化け物らめ」 ニュクスが最後に呟いた言葉は、今宵のリベリスタ達を最も端的に表現していた。 そして、 「……いいえ? 良くも悪くも。これがヒトなのよ」 セレアの呟きが小さく、ニュクスの倒れる音と重なった。 ●エピローグ (それにしても上位世界か。 毎回思うが、ボトムとそう大差はないな。黄泉ヶ辻なんかもその異常性で有名だ。 他所の世界を。とやかく言えたもんじゃないだろう) 結唯の感覚は正しい。 この世界もあの世界も。 皆、何処かで歯車が狂っていた。 そしてその狂った歯車の中で、自分達は生きていた。 仕事が終わって自宅へと帰ったシュスタイナは、すぐにシャワーを浴びて、ベッドに倒れこんだ。 ……この世界には、神様など居ない。居るものか。居るならこんな矛盾だらけの世界を許す物か。 シュスタイナは仰向けに暗い天井を見つめて、すん、と匂いを嗅いだ。 「取れないわね」 眠ろう。 何があろうと、こうして日々を生きていくしかないのだから。 今はただ。眠ろう。 「―――血の匂い」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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