●最高傑作(■■) 「あんたは“殺人機械”――らしいわよ。依頼主がそんな安直な名前にするらしいわ」 人を殺す筈だった。 その為に私は作られて。その為に死ぬ。 そんな生の、初めて私の視界に映った世界は――貴方の顔でした。 「ん・で・も・ね! 力に物を言わせて私を脅した罪は重いわ! 渡すもんですか私の“最高傑作”を……あんな連中なんかに! いくわよ、表の連中を薙ぎ払いなさい! あ! でも殺してはだめだかんね!? 遺恨が残る! めんどい!」 『ハイ、マスター。了解です』 貴方は言ってくれました。 私の事を“最高傑作”だと。 「うわあああ! 組織の連中が追って来たあああ! くそ、逃げるわよ! 数だけは多いんだから!」 『ハイ、マスター。了解デス』 組織の追撃。逃げる私達。そうはいくかと捻くれたマスター 私はこの世に作られた。 「ゲホッ、ゴホッ……! うう、ちょっと体が寒いわね…… まぁいいわ! 連中、まだ追ってくるみたいだし……今日はもうちょっと進むわよ!」 『ハイ、マスター。了解デス』 一年ほど経っただろうか。 「ゲフッ! ゴホッ、ゴホッ! ……ぜぇ……ぜぇ……ッ、今日はちょっとお休み! 体調悪いわ!」 『ハイ、マスター。了解デス』 マスターがやけに咳き込み始めた。生まれつき病を持っているとは聞いたが、悪化したのか。 フィクサード組織の追撃も途絶える気配は見せず。それほどまでマスターを粛清したいのか。 事ここに至っては。と、どこかのリベリスタに頼る事も提案したが、どうせまた利用されるだけだと却下された。私が生み出される前はどんな生き方をしてきたのだマスターは? 分かる事は只一つ。 マスターは、誰も信用していない。 「ぅ……!」 咳と同時に血を吐いた。日に日に口数が少なくなっていく。 「あー……やば、吐いちゃった」 食べた粥を吐き出した。マスターを背負って歩く。 「…………」 背負う重さが分からない。 「一緒に生きれなくてごめん」 ある日言った。 「生きて。私の、最初で最後の“最高傑作”……」 最後に私に生きろと言った。 何故です。 命じて頂ければ私は…… 如何なる場所にも、お供しました。 例えあの世の果てまでも。 マスター。 『ハイ、マスター。了解デス』 貴方の声が、聞こえません。 お言葉を、 もう一度。 お聞かせください。 『ハイ、マスター。了解デス』 貴方のお傍以外で。 生きる意味などどこにもない。 ●ブリーフィング 「ならば壊れてもらおうか。諸君、この国にやってきた自立型のAFを破壊してくれ」 『ただの詐欺師』睦蔵・八雲(nBNE000203)は笑みを崩さず。集まったリベリスタ達へと言葉を掛ける。 「元々は海外で作られたAFだったようだがな。制御していたマスターが死に、日本にやってきたようだ」 「日本に……て、何故だ?」 「さて。万華鏡が得た情報では、主が元々日本生まれだったようでな。 亡骸を故郷に埋めに来たようだ。意思を持つ辺り、疑似感情でもあるのかな。 ……ともあれ、奴の事情よりも、奴の力について説明したほうが良いだろう」 奴の能力は言うなれば“武器のコピー”だ。敵対する者が持つ武器特性をコピーし、その武器に応じた熟練成る動きを取得出来る。 剣を見れば剣の動きを。槍を見れば槍を。杖なら杖を。銃なら銃を。 数多の武器を己が体より顕現させ、相手に“対抗”する能力だ。殺人機械という名前の割には相手次第で能力が変わるなど随分防御的である。一体どういうコンセプトなのだ。 「今の所このAFは大人しいが……何をきっかけにどのような行動に出るか分からん。いつ暴走すると知れない代物は放置出来んのだよ。どこぞのフィクサードやリベリスタが奴に接触しないとも限らないしな。まぁ、なんだ。率直に言うとだね――」 一息。 「アレがいては困るのだよ。害しかない。確実にぶっ壊してくれたまえ」 不確定要素すぎる。 アレ自体は特に崩界を促進させる訳では無い。誰かの命を奪う訳でもない。 しかしそれが永遠である保証はどこにもない。ある日唐突に狂うかもしれない。誰かの命が奪われるかもしれない。生きていて何か益があるのか? 未来に巣食う不利益だけがアレにはある。故に破壊だ芽は摘むべきだ。 何かが起こって、しまう前に。 「アレは今、主の墓標の前にいる。動かぬ動かぬ石の様に」 墓は作った。目的は成した。 それでもその場を離れぬ理由は、ただ一つ。 「愚かな、しかし捨てれぬ……呪いの様な希望を抱いてな」 ●遠い希望の、果てであろうと 「ねぇ、輪廻転生って知ってる?」 『ハイ、マスター。知ッタコッチャアリマセン』 「どこで覚えたそんな言葉。まぁいいわ。輪廻転生ってのはね、生まれ変わるってことよ単純に言えばね。私が生まれた国、日本ていうんだけど……そこだと結構聞く言葉なのよ? 命は回っているなんて、想像すると素敵じゃない? ロマンチックゥ!」 『ハイハイ、マスター。ロマンチックロマンチック。プッ』 「おいぶっ壊すぞポンコツ――!!」 過去に一度、マスターが語った夢物語。 意味無き意味無き縋りなれど。 マスターは言った。私に生きろと。 ならば生きよう。貴方の生まれた地に築いた墓標の前で。 再び会える、その日まで。 十年待とう。百年待とう。 千で駄目なら万年待とう。 永久の彼方にまた会う日まで。 私はただの、殺人機械。 たった一人。最初で最後の貴方の家族(最高傑作)。 この地は誰にも汚させない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月07日(日)22:21 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●破壊 「貴方を、破壊しに来た」 短く、しかしこの上なくハッキリと。己らが目的を述べたのはリリウム・フェレンディア(BNE004970)である。 恨みは無く。嫌悪たる感情も無く。関わりすら無い。 それでもこのモノを破壊せねばならぬ“理由”がある。だから、 『――放ッテ置イテハ、頂ケマセンカ?』 「残念ながら、心を持とうと貴方の存在は捨て置けません。終わらせねば、ならぬのです」 “壊す”のだ。心があろうとも、その事実だけは変わらない。 呼吸一つ。『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)の構える武器は、細身の剣だ。目に見えぬ、心宿りし存在を前にして思う所が無い訳では無いが――それはまだ、口にも出さない。 なぜならば目の前。既に戦闘態勢に入っている殺人機械を相手に気を抜く暇など無いなれば。 「うーん、放っておいて良かったならそれでも良かったんだけど、そうもいかなくて、ね!」 往く。刻む時の音。それは殺人機械が動くよりも速く。 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の踏み出しである。両の手に持つ短刀が、殺人機械の空間ごと抉り取らんと。それは時とすれば味方諸元巻き込みかねない技だが、開口一番の攻撃ならば距離に余裕はある。 剣閃が走った。見えぬ程に。直後に鳴るは布を切り裂く音―― 「おろっ?」 ではなく。 “衝突音”だ。殺人機械が顕現させし二振りの剣に、身体に直接顕現させている、盾。それらが終の攻撃を防いでいた。肉を切る音でも、布を裂く音でもない。物と物が相反し、刀が斬り通せなかったが故に生じる音である。 返す剣。攻撃の終わり目を狙い、殺人機械が剣撃を放てば。 「させねぇよ!」 重なる衝突音。『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)である。 コピー元、という訳か。殺人機械の盾は彼の装備する盾を見て得られたモノだ。剣を防ぎ、剣を防がれた。その一撃、重、くはない。どちらかと言うと精密さの方を感じる一撃だ。 「構成展開、型式、冷夜の針撃――composition」 反応が遅れた。その一瞬、盾の顕現瞬間を縫って直撃する。 「少しだけ、似てる……ね。私と貴方は」 『姿形。類似点。御座イマセンガ?』 「存在が――だよ」 『トライアル・ウィッチ』シエナ・ローリエ(BNE004839)の漏らした一言は、果たして相手に聞こえたのかどうか。創られた。作られた。目的違えどその視点において両者の存在は似ているのだ。 しかし――同時に感じる事もある。どこか決定的に違うと。 何か、は分からない。分からないが、頭の片隅に引っかかるのだ。それがしこりとなってシエナの思考を乱している。振り払うも容易くない、その違和感の正体とは…… 「なぁに。壊してから考えればいいさ」 瞬間。戦場に降り注ぐは、隕石と称するべきか。 マレウス・ステルラ。本来ならば長大の詠唱が必要なそれを、超速の一手にて実現させたのはリューン・フィレール(BNE005101)の手腕によるものである。 『ムッ――!』 瞬間火力にて最高峰。されど、その一撃は彼女にとっては全力の一撃、とは言えない。なぜならば彼女は本来の己の武器を身に着けていないからだ。それはコピーに対する策である。敵の攻撃特性を物理に絞る為。自らの得物を捨ててでも、そうなるように優先したのだ。しかし、 「勘違いされては困るな。私は別に、素手で殴りかかる訳では無いし――」 一息。 「これでも十分、威力は出せるのでね」 指鳴り一つ。次なる隕石群を召喚せんと、行動を移す。 雨降らす雲。その隙間を突き破って、 更なる一撃が敵を圧殺せんと着弾した。 ●負けられぬ闘争 『ォォォオオ……!』 殺人機械は感じていた。強い、と。 今まで払って来た有象無象とは違う。真なる強さが眼前の敵にある。 それでも。顕現させし二振りの剣を駆使。人型なれど人で無い構造から繰り出される技量ならば、負けはせぬ。 「防御的能力、というよりは、学習能力に近い物でしょうか。 真相はよく分かりませんが――技量による対抗、となれば」 殺人機械の振るう剣閃。上段から斜めに振るわれたそれを、メリッサは凌ぐ。 身体を低く。地に這う程に低く、それでいて恐れず――躱す。 瞬時。懐に潜り込めば、跳躍するように体を起こし、その脇腹に細剣の連撃を叩き込んで。 「本当は……壊さなくていいなら、そうしてあげたいんだけどね」 同時。殺人機械の後方に回る終の姿が―― 消えた。 それはまるで転移の如く。視界から消え失せ、次に現れた時にはもはや視界の外であり、 短剣のダメージが、その時に届く。 いつ切られたのか。いつ切ったのか。分かりもせぬ。盾を身に直接顕現させてようやく防げている。 攻めの勢いは滞らせない。それは彼なりの慈悲と言えるか。壊さなくて良いのなら、殺さなくても良いのなら、永劫そっとしておいてやりたい。しかし許さぬ。アークはそれを許しはせぬ。 ならば壊そう。せめて名前の通りにならぬように。 “殺人機械”には決してしない。 『ナンノ……ッ!』 剣を凌がれても盾でも攻撃可能だ。 背。作り出した小型の盾で、殴りかかる様に勢いよく。近場のリベリスタの一人を捉えて―― 「無駄だ。その一撃は、私に通らない」 リリウムだ。馬鹿な。確かに直撃したはずだというのに――どういうことだ。 ダメージが通っていない。これは、まさか。 「話し合いで済むのならそうするのが最善だ、が。 この世に害を為す可能性がある以上は余地なし。壊すしかない、というのが、まあ残念か」 エル・ユートピア。それは物理にのみ制限された殺人機械にとって、相性が悪すぎる。 遥か遠く。エクスィスより得た加護は物理による衝撃を一切通さないのだ。 ブレイクでもあれば話は別だったのだろうが、生憎と殺人機械にそのような手段は無く。 「殺人機械、というらしいな? お前の名は」 と、その時。後衛側より放たれる声があった。リューンだ。 「まあ機械を相手に、殺すなら殺される覚悟云々と語るのは野暮だろうが。どこそこの人様を傷つけようとするのに、自分の手を血に染めずに機械にやらせる。その制作者の根性が気に入らない。だから、ああ――」 ――機械を壊そう。 指鳴り一つ。英語名フィンガースナップ。同時に落ちる、再びなる隕石。 先に述べたのは半ば本心。半ば適当の戯言だ。 「ハッ――成程な。これは確かに最高傑作って訳だ」 エルヴィンが言う。が、それは実力・性能云々の事ではない。 心だ。殺人機械は今、死力を尽くして戦っている。それを肌に彼は感じていた。 人を殺さず。人を愛した殺人機械―― 「それを一方的にこちらの都合で壊そうとする。俺たちの方がよっぽど酷い存在なのかもな……」 自虐とも。なんとも言えぬ表情で彼は呟く。 帰らぬ主人を待ち続けると言えば、思い浮かぶのはとある忠犬の話だ。違いがあるとすれば寿命による終わりがあるかないか。無いが故に万年すら待とうとする。待ててしまうから待ってしまう。故の――呪い。 幸か、不幸か。いずれであるか、見る者によって変わるのであろうが、 「どっちでもいいな。俺たちはお前に――終わりを押し付けるだけだ」 前衛の数は十分だ。ならばと少し下がり、位置的には中衛と言える場所か。 そこまで下がり、支援に徹する。彼の祈りが導くは大いなる癒しで――受けた傷を瞬く間に。 癒す。癒す。癒す。 『クッ……シカシ、コンナ程度デ!』 与えるダメージを癒され続けてはまずい。焦る殺人機械の放つ一閃は、掌底。 高速、腕を射出する。とも言える速度で叩き込んだ一撃――は、 「悪いけど、自慢の技術、受け切らせてもらう……ね」 それすらも、受け流される。彼女の周囲に、幾重の魔法陣が並んでいる。これが物理の衝撃を吸収したのか。リリウムの使ったエル・ユートピアとは違うまた別の物理遮断方法。 ルーン・シールド。これもまた、殺人機械にとって致命的と言える技だった。 『オノレ……!』 だが退けぬ。退けない。退く場所はもうない。 強い敵がいるのならば退けば良かった。マスターの安全だけが重要なのだから。しかし、そのマスターがもういないのならば……もう退けないのだ。こここそが、ここだけが、 マスターより命じられた、私の最後に“生きる”場所だ―― 「本当に、そうなのか?」 「アンタの主人は、本当にそんな事を言ったのか?」 ●生きるという事 エルヴィンの言葉に、僅かに硬直を見せる。 言った? 言ったとも。今更何を言うのだ。 マスターは確かに“生きろ”と―― 「それは、ここで永遠に待ち続けろって意味なのか? そうじゃねえだろ」 違うのだと、彼は言う。 それは。その言葉は。決して“呪い”の如き意味ではない。 もっと純粋なのだ。もっと、ただ只管に。その言葉は―― 「貴方の」 一息。 「“幸せ”を願った言葉ですよ。それは」 メリッサも続けて言う。 家族に向けて言った言葉。それは幸せを願っての事。まかり間違っても永劫なる時を重ねて待て、という言葉では無い。“幸せに生きろ”という事なのだ。 それは、殺人機械と名付けられた存在に殺人をさせなかったマスターの、最後の思いやりなのだから。 『幸セ……? ソンナモノハ、マスタート共デナケレバ、存在シナイ』 しかし、分からぬ。殺人機械にはそれが分からぬ。 かの者にとってはマスターと共に在る事こそが至上。それしか知らぬのだ。 故にこそ、シエナは気付いた。 造られたモノ同士と思っていた。間違いではないだろう。しかし違いが今分かった。 殺人機械はマスターに強烈なまでの愛情を抱いている。マスターからの愛に応える“生”を持っている。その為に取った手段は多少歪んでいたのかもしれないが、それでも生きる意思を選び取っていて――ああ、 “それ”こそが、 「私には無いから……羨ましかったんだ。 またマスターに逢うために、千年でも待つと決めた貴方の“生き様”が」 求めていた。生きる意味を。 欲していた。生きる目的を。 探していた。この世に生まれた、己の生き様を。 殺人機械の生き方は己の見つけたいソレとはきっと違うだろう。されど、同種と思ったモノが持っていたその“生き様”に。 彼女は何か、感じる物があったのかもしれない。 『私ハ――生キル。モウ一度マスターニ会ウ事ガ、私ノ幸セダ!』 「そうか。ならば……真偽までは知らないが、死後の世界がある、という説はあるな」 宗教によって異なれど、天国。地獄。あの世。黄泉の世界。 言い方は様々。同一の存在とも分からない。 しかし、もし同じ場所に行けるならばとリリウムは。 「一緒に居たい故人が居るというなら、同じ場所に行き、再会することぐらいは祈ろう。それが――」 それが罪滅ぼしとはなるまいが。 たった少しでも救いがあるのならば、そうである方が良い。 殺人機械をブロックし、攻撃を防ぎ、なお言う。 「そうだね……もし輪廻転生が存在するなら、天国もきっとあるよねぇ?」 終が言う。輪廻転生。天国。そんな場所が真実あるかはともかくとすれど、もしあるのならば。 いずれ再会できる筈だ。ならばそこにて、 「だから――向こうで会えたら、名前を貰いなよ」 『名前……ダト……?』 「そ。殺人機械なんて呼び名は君に似合わないし。君は――彼女の最高傑作で」 家族なんだから。 役目の名前ではない。仮初の名前などではない。もっとしっかりとした名前を付けてもらえばいい。 この地にて待たせてあげられなくてごめんねと、心のどこかで謝りながら、それでも。 彼は、役目を果たすために短刀を振るう。殺人機械を、会わす為に。 『ヌウウウウウウオオオオオオ!』 瞬間。殺人機械が咆哮すると同時に行ったのは――分裂。 防御のままで勝てぬならば、後はリスクを承知でも攻めるしかないとマスターが残したスキルである。純粋に手数が二倍になればそれは驚異の一言だ。逆転用の、攻めの切り札。そして万一片方が砕けようとも、もう片方が生き残っているのならば…… 私は死ねない。死ぬわけにはいかない。命削ろうとも奮い立つ。勝利を得るのだ! 「大した執念だ。しかし、こちらも余り長引かせるつもりは無くてな」 どこぞの漫画かアニメで見た動きをリューンは再現する。 指を突き出し鳴らして攻撃。出現させるマレウスを叩き込んで―― 「悪いが終わらせてもらうぞ。殺人機械よ、ここで終われ」 双方一斉への攻撃と成す。得物無くともなお殺傷力に優れる一撃は、殺人機械の余力をすさまじい勢いで削っていく。 趨勢は変わらぬのだ。物理攻撃にのみ限定され、そして物理無効出来る者がブロックを担当するならば。手数を増やし、攻めの姿勢に転じても――どこかで、限界が必ず来る。 攻撃は通じず、ある程度のダメージはエルヴインが回復させ。後方からは強力なマレウスが。技量ならば負けはせぬが、ここまで来ると技量云々でどうにかなる範囲を超えている。攻撃の通じる終やメリッサを狙おうにも、倒しきるには時間が無かった。 振るう剣が鈍ってくる。顕現させし盾には亀裂が走り、拳の威力ももはや無い。 ああここまでか。ここまでなのか。足掻いて足掻いて、それでもダメか。 「生まれ巡り、また出会う。そんな運命を、貴方は信じますか?」 剣で薙ぐ。メリッサは一撃をいれながら、殺人機械に問うた。 ――運命を、信じるのか、だと? 『ソンナ馬鹿ナ事ヲ信ジルノハ、馬鹿ダケデスヨ』 「ほう、つまり?」 『――私も馬鹿という事です』 馬鹿なマスターに作られたのだ。私も馬鹿だ。仕方ない。 待てぬ事に悔いはある。が、こうしたことに後悔は無い。自らがやろうと思った事なのだから。 『マスター……』 またお会いできるでしょうか。私は…… 「……さようなら。貴方のその“生”は……きっと、本物だったよ」 シエナの生糸が殺人機械の胸を穿つ。 彼女は敬意を示していた。己と似た存在に。最後まで、己が生き様を貫き通した存在に。 殺人機械は見つけた。彼女もまた、見つける事が出来るだろうか。 この世に生まれた意味を。 『――』 沈黙。同時に。停止。 殺人機械はもう動かぬ。マスターの墓前にて、彼は逝ったのだ。 己が最愛の者の下へと。 ●墓は…… 「貴方の娘さん、そちらに送らせてもらいました――どうか安らかに」 終の言葉は製作者に当てられたモノだ。 事前に持ってきていた花を彼は添えて、手を合わせて黙祷と成す。謝罪の言葉はおこがましく、直接口にはしなかったが……きっと、その意思は彼女たちに伝わっただろう。 「共にありたいと願うなら……この国では、物には魂が宿る。そんな話がありましたね」 魂とは生物のみではない。八百万の神という概念がある様に、物にも宿る事がある。 なれば殺人機械に魂が、意思があるのならば。いずれ果てにて、どこかにまた魂が宿るやもしれぬ。 生まれ変わりはロマンチストな物言いだとメリッサは思う。が、殺人機械は最後の問答でそれを信じていた。ならば、 いずれどこかで、また彼らの魂は宿り――会う事もあるかもしれない。 「……墓も、作り終わったし、そろそろ行こうか」 「ああ、じゃあなー。今度は、置いて行かれんなよ」 シエナとエルヴィンが一言ずつ。墓を作り終え、その場にて述べた。 最後は少しでも近くに、二人の魂が近くに在る事を祈って。 墓は戦闘終了後、もう一つ立てられた。製作者の横に、小さな墓を、もう一つ。 二つ並べて存在している。もう誰も二人を、邪魔する者はいないだろう。彼らは平穏に、眠り続けるのだ。 永久の彼方に、また会う日まで―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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