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10月のモヒカンマシーン

●類が友を呼ぶとは限らない
「鬱だ……」
 その男は、見た目にそぐわぬことを呟いた。
「死んでしまいたいほどに鬱だ……」
 男。大男だ。高身長で、筋肉質。レスラーか何かだと言われても信じてしまうかもしれない。全身を覆う金属質のそれらを除けばの話だが。
 体中から伸びる幾本もの太いチューブは、奇妙で不規則な脈を打ちながら体内で何かを循環させている。顔の右半分は機械的なマスクで覆われ、何かの計測器が慌ただしく針を動かしている。身体のそこかしこが肉と鉄で融合しており、その機会部からは大小の歯車が回り、時に溢れ落ち、そして生成されている。足に巻かれたチェーン。何のものかは明白だ。右腕の全体を埋め尽くす、六枚刃の大鋸を見れば。
 チェーンソー。エンジン音をがなり立て、切断するというよりは根刮ぎにするという表現が似合うマシン。歪で無骨。それを工業用だなどとは誰も信じないであろう機械鋸。男の身体は、まさにそれと人間とが融合したような姿をしていた。
「死んでしまいたい。嗚呼、死んでしまいたい。だというのに、お前達はいつもそうだ」
 大男は寝転がったそれを見下ろすと、不満気に腹部へと足をおろした。鈍い音がなり、悲鳴が上がる。これで逃げられない。ようやっと落ち着いて会話ができる。そんな感想をぽつりと漏らすが、はじめからその行為に意味は無い。踏みつけられた某はとうに両脚を失っているのだから。
「死んでいく。こんなにも死にたいはずの俺を殺しに来たというのに。どうしてお前たちのほうが死んでいくのだ。なあ、なあ、もっと何かないのか? 秘密兵器は? 裏技じみた必殺技は? 大物殺しを達成させるような策は練っていないのか?」
 みしみしと、骨が鳴る。内蔵を突き破り、腰骨まで砕こうと踏み足を強めている。さあ、死にそうだぞ。さっさと何か出したらどうだ、と。
「何かあるだろう? 多勢だからと侮っては居ないはずだ。数の利が絶対ではないと知っているだろう。ならば用意している筈だ。それを俺の心臓に突き立てろ。それで俺の脳を破壊しろ。それで俺の精神をこそぎ落として見ろ。それで俺の―――」
「これがそうだ、くたばれよ化け物」
 大男の胸に、西洋刀が突き刺さっていた。目下の某が最後の力を振り絞り、腕だけの力で貫いたのだ。化け物。大男。サイボーグ。この奇妙な死にたがりもようやっと―――嗚呼、そうではないようだ。
「……たまたま、いや、またこれに生かされたなんてことはわかっている」
 男は崩れない。自分の胸に突き刺さったそれをなんなく抜き取ると、刃を放る。研ぎ澄まされた刺突剣が、アスファルトと小さな音を立てた。
「俺の心臓に刺さった刃は都合良くも重要血管を避け、隙間を通すようにして身体の反対側に到達した。このようなことが偶然であっていいはずがない。故に、俺はまた生かされたのだろう。嗚呼、なんてことだ。本当に、なんてことだ。死ぬかと思えたのに。死ぬかと思ったじゃあないか。なあ、なあ。生きる気力が湧いてきたじゃあないか。なあ、なあ。楽しくなってきたじゃあないか!」
 機械音が喧しい。上がっていくエンジン音に合わせ、男のテンションも急上昇していく。
「おいおい何寝てんだよ、死んでる場合じゃねえぞ! ほら、生きてることを喜べよ! この世界を何かよくわからんものに感謝しろよ! ありがとう! 謝謝! Thanks!! ハァレルゥヤ!! ははは、笑えよ。ほら、どてっぱらに穴空いた程度で人間死なねえだろうがよなあ!?」
 無茶苦茶を言ってとうに絶命した彼を片手で掴み上げると、適当に投げ捨てる。ベチャリと音を立て、他の死体と重なった。
「そういや殺しに来たんだっけか! じゃあ死んでもいいやな! ンなに気ィ晴れてんのは久々だなあオイ! 生きてることは素晴らしい! んじゃもっと殺すか! 生きるためによ! ははは。ぎゃはは。げらげらげらげらげらげら!!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年10月19日(日)22:22
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

モヒカンマシーンと名乗るフィクサードが現れました。目的は不明ですが、既に一般人を何十人も殺害している非常に危険な人物です。一刻も早く、彼を討伐してください。

【エネミーデータ】
●モヒカンマシーン
 アフロ姿の筋肉質な大男。寄生型アーティファクト『寸々獄』と融合しており、その全身の大半がチェーンソーのパーツでできたフィクサードです。エンジンの回転数に精神状態を大きく左右されており、ギアチェンジすることでテンションが変貌します。
 非常にタフかつ、攻撃力の高い相手であり。戦闘中、生命の危機に陥ることで寸々獄の回転数が上がり、それに応じて戦闘能力が上昇します。
 アーティファクトとは強く結びついており、例え殺害して解体したとしてもそれらを引き剥がすことは不可能です。
 ある程度のフェイトを所持しています。

・EX右斜め45度から叩いたらまだ動くポンコツ
 ドラマ判定失敗に陥った際に任意発動。そのドラマ判定をフェイトを消費せずに成功したことにします。1戦闘3回まで。
 

●アーティファクト『寸々獄』
 モヒカンマシーンと融合したアーティファクト。巨大で歪なチェーンソーの形をしており、様々なパーツを生成しては余分品を配下として外に排出します。
 使用者が生命の危機に陥る度に、その戦闘下において永続的に能力を向上させます。

※常時発動:ギアメイク
 3ターンに1度、ターン開始時に追加行動として配下『リトルギア』を生産します。生産された時点では革醒したばかりのリベリスタでも難なく倒せるものですが、毎ターン自己強化し、後から生まれた『リトルギア』ともこれを共有します。大きさは子犬程度。
 ・リトルギア
  毎ターン物攻+10、他のリトルギアとこれを共有する。重ねがけ有り

※使用者がドラマ判定に成功することで発動:ギアチェンジ
 最大HP、最大EP以外の全能力向上、行動回数上昇、重ねがけ有り、発動する度に攻撃が単→範→全に変化
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ハイジーニアススターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
ハイジーニアスデュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
アウトサイドレイザータクト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ハイフュリエミステラン
シィン・アーパーウィル(BNE004479)
アウトサイドマグメイガス
月草・文佳(BNE005014)

●類が複数を示すとは限らない
 絶望を感じている二面性。
 希望を見出せない一年生。

 暑いのか。寒いのか。そんな四季の移り変わりさえ曖昧なこの季節。異常気象などという言葉を聞かなかったのはもう何年前のことなのだろう。
 そう考えれば、これが正常なようにも思えてくる。混沌とした気象。それしか知らない世代。変わらざるを得ないのか。それともとうに変わってしまっていて、追いつけていないだけなのか。
 どちらにせよ、どのような世界であるにせよ、しかしこれを看過するわけにはいかない。大量殺人鬼。どんなに風が流れても、どんなに星が巡っても、これが求められる世界は来ない。来ないのだ。
「生きる為殺す、これも真理―――」
 とは言うものの、衣食住や文化的な概念の枠を外れた所業を生存活動と主張しても認められるものではない。それは『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)も理解している。別に、自分たちだって必要最低限のみを得ているだなんて傲慢を口にするわけではない。文化を持っているとはそういうことだ。ただソサイエティが存在しているからこそ、生きるという言葉が広義であるほど、それはあってはならないものだ。
「貴方に話が通じるか、ですが―――罪には罰を。さあ、『お祈り』を始めましょう」
「これはまた、素敵にイカれた変態さんのようですね」
 にべもなく、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)。だが、それで構わない。理解できないものを紐解いてやる必要などないのだ。重要なのは立場。立ち位置。関係性。それさえわかっていれば、お互いに良好な関係を築けるというものだろう。それが例え、殺しあう敵対のそれであってもだ。
「元から躁鬱なのか、アーティファクトの影響なのかは知りませんが。こんなノリと勢いで人を殺されては困りますので。速やかに、排除させていただきましょう」
「いや、ホントに右斜め45度からズドンと行くんだわ、これが」
 興奮気味に、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が身振り手振りで仲間へと状況を説明する。彼は件のモヒカンマシーンとは面識がある。無論、敵味方の関係ではあったし、こうしてまた現れたということは、前回のそれは苦渋を舐めるものであったということなのだが。
「さて、リベンジマッチをさせて貰おうか。しかしまぁ、モヒカンマシーンなんだからいい加減アフロやめたら良いのに。あれから一年以上経ってるというのに、何で頭頂部からチェンソー生えて無いの? ちょっと努力不足なんじゃないですかねぇ」
「ふーむ、今回はなんともしぶとい相手ですねぇ。まぁ持久戦は自分の得手とするところですから、なんとかしてみせましょうか」
『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)の言うように、件のフィクサードは非常に持久力に優れた相手である。高い体力。倒れても復活する能力。復活する度に性能を上げるアーティファクト。理にかなっていると言えば聞こえはいいが、相対する側からすると面倒なことこの上はない。
「これより此処を、自分の領域と定めます。故に安息せよ、仲間には生の、敵には死のそれを与えん」
「背後関係なし、容赦の必要なし、未確認情報なし。フィクサード潰せば解決、単純明快でいいわね」
 分かりやすくていいことだと、『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)。確かに、倒せばいいという点だけを見ればシンプルな仕事だと言えるだろう。正直、こんなやつを尖兵にぽんぽん繰り出してくるような組織などあってはたまらない。しかし、シンプルであるが故かその単体は非常に強力である。奇妙な現象や、制限を矯正するような能力ではなく、ただ戦うほどに強くなる。それ故に最適解を探すのは難解である。中身も同じくらい、分かりやすければ良いのだが。
 そして風向きが変わる。目線の先に、アフロヘアーの大男。シルエットは人間でも、見た目は殆どハリウッドに出てくるような殺戮兵器と大差ない。おまけに、前作で仲間になった奴は登場しないときたもんだ。
 件のフィクサードであると見て、間違いはないだろう。これでもしただコスプレをして一般道を歩きたいがだけのお兄さんだとしたら。なんだ、どの道色々と危ないやつに変わりはない。
「アークのリベリスタ、楠神風斗だ。モヒカン詐欺のアフロ男、お前を殺しにきた」
『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)が睨みつける。大男はそちらをちらりと一瞥し。
 大きな大きな、ため息をついた。

●類が対策を得るとは限らない
 何故人を殺すのかと尋ねられたなら、何故人を殺さないのかと尋ねている。
 何故人は殺すのかと尋ねられたなら、何故人を殺せるのかと尋ねている。

 男はため息をつくと、リベリスタらの存在などどこ吹く風と独白を始めた。
「死にたい……」
 その声は、物言いは、何かのついでに口を出たものではない。真に迫っている。今にも高所から飛び降りそうな、今にもロープを使って首を吊りそうな、今にも手首をずたずたに切り裂いてしまいそうな、そんな空気を纏っていた。
「何度考えただろう。何度考えたのだろう。その度に生かされている。これで幾度、何度、生かされている」
 少しだけ、戸惑いの空気がリベリスタの中に流れた。この男は何なのだろう。いや、わかっている。これが敵であり、フィクサードであり、大量殺人者であることはわかっているのだ。それでも、疑問に感じてしまう。健康体でありながら、見るからにポテンシャルを保持していながら、それでも今にも死にそうなこの男が、本当に。本当に。
「お前たちは―――」
 俯いていた男が顔を上げる。その顔には相変わらず、覇気など見えない。
「俺を殺しに来たのだろう。初めてじゃないんだ。何度も、あったんだ。その度に生かされてきた。生かされてきた。なあ、なあ。お前たちは、お前たちは殺してくれるのか。なあ、死なせてくれるのか。だったら、殺し合おう。殺し合おう。なあ、殺しに来たんだろう。俺を殺しに来たんだろう。今度こそ、今度こそ殺しに来たんだろう」
 始動するエンジン。男の足に絡みついたチェーンが噛み合い、腕の鋸刃が回転を始める。
 リベリスタにももう迷いはない。この男は異常者だ。それだけわかればそれでいい。死にたいというのなら、送ってやろう。地獄に突き落としてやろう。生命の重みを自身のそれでもって理解させてやろう。
「なあ、なあ」
 陰鬱な空気のまま、回転する機械の音だけが喧しく、殺し合いが始まる。

●類が体型を取るとは限らない
 生きたいと思う感情に、理由を求めるほうが狂っている。それは科学なのか文学なのか、どちらにせよ知識探求とは狂人の所業である。

「悔い改めますか?」
「改めるつもりはない。死んでお終い。なあ、それでいいだろう? なあ」
 リリの言葉にも、フィクサードは自分の死を訴えるだけだ。これで孤独死を選んではくれないのだから、やはりどこか思考回路の出来が違うのだろう。恐ろしく、螺子曲がった方向で。
 モヒカンマシーンの振りかぶる大上段の一撃を、交差させた双銃で受け止める。真近で劈く駆動音。火花が散り、夜闇を反転させるフラッシュが飛ぶ。
 止められる。今時点でのこの男には、さほどの脅威を感じない。反撃に転じた銃弾にも怯みを見せないタフネスは眼を見張るものが有るが、その程度だ。純粋な前衛職とは言えない自分でも十分に壁役を演じきれている。
 当然、ここからギアを上げていくのだろうが。それでも意味を為す間はせめて、与えられた旗印を守るとしよう。
「なあ、うん、いいな。実にいい。俺を殺しに来たのだから、それくらいはしてくれないと期待を外してしまう。さあ、もっとだ。俺を殺すのだから。次はなんだ。次は何だ」
 テンションの低い男に蹴りを入れて、少しの距離を取る。ついでだ、年下の青年に、格好でもつけさせてもらうとしよう。
「私も頼って下さい、楠神さん。二人で抑えきりましょう」

「わかりました、二人で支えましょう。頼りにしてますよ、リリさん」
 再び踏み込んできた大男の電気鋸を風斗が弾き返す。弱くはない、しかし強くもない。余裕のあるうちに、出来ることは行っておく。
「モヒカンを名乗りながら剃り込みも入れられないとは、とんだ日和男だな。アフロマシーンとでも改名したらどうだ?」
 挑発。煽り。それで注意を縛り付けられるほど単細胞だとは思っていないが、やる意味くらいはあるだろう。
 振り回される大腕。乱雑な連撃。そして見出す好機。
 瞬間、風斗が巨大化する。鍛えあげられた肉体が、限界を超え、臨界突破し、己自身を苛みながらもなお力を求め相応しい姿へと成長させる。一撃は無比。一撃は絶死。放たれた極烈はフィクサード斜めに断ち、膝をつかせた。
「どうした、もっと笑えよアフロ野郎。俺の一撃はお前に死を感じさせるんじゃないか?」
「…………………ヒャハ」
 血を吹いて、内臓を露出させていたはずの男が立ち上がる。エンジン音が喧しい。鼓動が、脈打ちが、ギア回転数が加速していく。存在感が増していく。
「死にたいのなら殺してやる。生きたいと言っても殺す。俺は戦いも殺しも好きなわけじゃないが、お前を殺すことには何の躊躇いも抱かないな!」

 モヒカンマシーンと融合したアーティファクト、寸々獄。そこから時折、溢れるように歯車が落ちる。壊れたのではない。落ちた歯車は組み合わさり、子犬ほどの大きさにもなると、瞬時発生した爆裂に押しつぶされただの金属塊と化した。
 レイチェルの放った気発破により、即時抹殺されたのである。
 リトルギア。一体では相手をするほどでもないのだが、複数体発生すれば驚異的にもなりうると聞いている。早い内から逐次破壊を行うに越したことはなかった。
「ヒャハハハハハハハ、げらげらげらげらげら! ィ生きる気力が湧いてきたァ!!」
 耳鳴りするほど喧しい声に目を向ける。先ほどまであんなにもテンションの低かった男が、大笑いを見せていた。
「なんだっけ。お前ら俺を殺しに来たんだっけ、なあ。なあ。じゃあ殺しとこうか。生きるためによ! ひゃははははんごげっ!?」
 男の下が突然もつれ、困惑の表情を見せる。レイチェルの視線に貫かれた作用である。氷点下。明確な意志を持ち、込められたそれは復活したばかりのフィクサードを脆弱さで拘束する。十数秒前までとはまるで逆のことを言う男に、仲間達が躍りかかる。
「すいませんが、徹底的に潰させていただきましょう」

 烏は機会を待っている。
 モヒカンマシーンの生存性に特化したスキル。加えて、そのスキルを利用したアーティファクトの補助は絶大だ。ならばできるだけその段階を省かなくてはならない。故に、待っている。
 男を観察する。一挙手一挙動。振り回されるチェーンソー。がなりたてるエンジン音。男の足が、ぐら、ついた。
 合図を行う。徹底砲火。何時見てもそのぴったり45度で最後の攻撃を受ける才能は素晴らしい。だが、一芸だけのタレントは忘れられるのも早いもの。いい加減、それにも飽きた。
「運命の女神に愛想を突かされてたからこその悪運だったんだろうがね」
 起き上がったばかりのフィクサードに容赦なく襲いかかる剣山鉄火。あがる土煙。やったか、なんて馬鹿なことは言わない。まだ起き上がる。そんなことはわかっている。
「げらげらげらげらげら!! 素晴らしいな! 素晴らしいなおい! なあ、もっと見せろ! 次は何だ。必殺技か! 最強の隠し球か! なあ、なあ!」
 これで3度。あと2回。ここからが本番。正念どころ。
「右斜め45度どころか540度、いや900度ぐらいの角度をつける勢いで撃ち込ませて貰おうか。とっととくたばれ、このアフロ。いい加減むしるぞ」

「げらげら。本当に、本当にお前達は面白い! 殺さないとな! 生きるために! なあ!」
 四連撃。もうここからは距離も壁も身を挺した盾さえも役に立たない。モヒカンマシーンの斬撃は空を切り、真空の、あるいは神秘の刃を纏い縦横無尽に荒れ狂う。
 しかし、そのうちの幾つかはシィンによって食い止められていた。
「幼稚な悪意など、届かせませんよ」
 付与された加護は質量的な悪意を遮断する。展開が間に合わず、膝をつく味方も居たが。それでも彼女の防護は確かにフィクサードの猛攻を防いでいる。
「仲間の誰も、終わらせはしません」
「いいや、終われ。なあ、終われよ。俺が生きるんだからよう! なあ、なあおい!」
 まだ動ける仲間の傷を癒やす。悲鳴をあげる身体を抱え、しかし戦う意志を損なうことはなく。戦いの終わりは見えてきている。消耗は激しい。だがお互いにだ。回復と攻撃の根比べ。ふたつにわけることだけを目的にした切り口は痛い。痛い。それでも、なお。
「命を燃やし、そして尽くしなさい」
 それが4度目。最後、男は立ち上がる。絶大を持って。強靭を持って。歯車は回り、男を急かす。もっともっと殺してしまえ。何もかもを殺してしまえと金切り叫ぶ。
 さあ、暴力が始まるのだ。

 視界が回転を始めたところで、自分が倒れかけていることに気づいた。文佳は慌てて、足を出してバランスを整えると思わず自分の身を抱きしめた。こうせねば、ズレてバラけ落ちるのではないかと思ったからだ。
 5回、チェーンソーで切りつけられるという経験。そんなものをしたくはなかったが、経験してみれば突き抜けてもので。ようは、死ぬほど痛いし死にそうだというくらいのものなのだ。当たり前だが。
 現実逃避をしている場合ではない。ミリ単位で動かす度に軋む己に無理をきかす。喉から零れそうな悲鳴を押し込める。
 痛い。それでも泣き言より呪文を優先せねばならない。
 痛い。それでもそれでも死を排し魔弾を撃ち込まねばならない。
 痛い。それでもこのままでは倒れた仲間に申し訳が立たない。
 詠唱する。召喚する。狙いを定めている。呼びこむは銀の弾丸。どんなフリークスさえも殺してみせる、不可避の絶対死。
「げらげらげら! お終いだ、よくやったぞお前達! なあ! さあ、死んでしまえ! 俺が生きるためにだ!」
 暴力の権化が勝手を言う。そうして振りかぶられるチェーンソー。アーティファクトはけたたましく。そしてその心臓を目掛け、銀は。
「死にたいからって殺すのは別問題でしょうに、迷惑なだけの人ね!」

●類が極刑を下すとは限らない
 僕らは墓を掘る。大事な何かと区切りをつける為に。悲しみを閉じ込めてまた開けるように。
 僕らは墓を暴く。抑えきれぬ欲求を満たすべく為に。感情と人間性を捨ててでも求める為に。

「げらげらげらげら! げらげらげらげら!」
 男は笑っている。フィクサードは笑っている。笑ったまま、血を流して倒れている。
 まるで悪魔のようだと、誰かが思った。この男はこれだけ死を撒き散らせて。これだけ死の直前でありながら。なお笑っている。笑っているのだ。
「これで満足ですかね?」
 声をかけた。最後には生きたいと言っていた男への皮肉じみたものであったが。どうやら通じたらしい。
「ああそうだ! げらげら! こうでなくては! こうでなくては! なあ、行くぞリベリスタ! 今度は邪魔をするなよレイディ! そうだ、ほら―――」
 そこで男は止まる。同時に、あれだけ煩かった駆動音も止まっていた。落差に耳が痛む。なあ、ほら。
「―――鬱だ、生きたかったなあ」
 それはどちらの彼であったのか。
 了。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
あと6人も出てきません。